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DONの落書き部屋

「Muv-Luv 小説」
第一部

はじまり その1

 
 はじまり  かれとかのじょのプロポーズ





 200X年10月5日 19:00

「───結婚しよう」

 たった一言。 されど一言。 この一言を伝えるのにどれだけの時と労力と・・・・・・・覚悟を必要としただろうか?

 彼女と出会ってから5年が経った。 5年しか経って無いと言われればそれまでだが、5年もあれば過ごした日々の分だけ彼女との思い出がある。

 助手席に乗せた初めての人が自分だと分かり喜ぶ顔、二人で旅行に行くと何を見ても喜ぶ顔、料理を作って食べさせると美味しいと喜んでくれる顔、ベットの中でじゃれあって喜ぶ顔、浮気したことがばれて殺されるかと思うぐらい激怒した顔・・・・・・・いや誤解だったけど。

 自分達二人は・・・何処にでもいる普通の恋人同士、共に重ねた思い出は二人の大切な財産。 その思い出をこれからも二人でずっと作って行きたい。


 ───そのためのプロポーズ。


 大学を卒業して4年経ち、漸く仕事にも慣れ地に足が着いたのを自覚して、必死になって貯めた給料三ヶ月分と引き換えに手に入れた指輪。

 ・・・それを彼女にそっと差し出す。 差し出す場所はコース料理で諭吉様が何枚も飛んで行くレストラン。
 そして今日は、彼女と自分が会った記念日。

 ───条件は揃ってるはず。

 プロポーズの言葉と共に指輪を差し出した姿勢のまま、目を瞑って相手の出方を待っていたが・・・・・・反応が無い。
 あれ? 何か間違えたか? やはり知り合いに言われた通り、肩肘張らずに普通に渡せばよかったかなと思い薄目を開け彼女を見ると。


 笑顔を見せながら、泣いて頷いている彼女の顔が見えた。


 うん、どうやら成功したっぽい。


 と、心の中でガッツポーズしながら俺は彼女にそっとハンカチを差し出した。







 200X年10月6日 01:50 <東北自動車道>


「~♪」

 彼女を送った帰り道、カーナビから流れてくる音楽に鼻歌を合わせながら夜の高速をひた走る。

 時計の針が深夜の2時近くを指しているせいか、周りを走る車も大型トラック等しか見えない。
 明日は仕事だが気分が良い、泣いて化粧がぐちゃぐちゃになって、恥ずかしそうにしている彼女の姿を思い出して思わず笑ってしまう。

 (やれやれ、いつもああだともっと可愛げ気があるんだけどな)

 などと内心で嘆息しながら、高速から下りて深夜の国道を走り続ける。
 ほんとはそのままホテルでも・・・・・・と思ったが、生憎と明日はお互い仕事だ。 しかも彼女の仕事先は横浜市内だが、こちとら急な異動で先週から新潟出向と来ている。
 明日は朝からお客様へ挨拶周り、午前中に数件こなして午後から現場に視察に行き、会社へ戻ってから書類と格闘。 帰れるのは結局・・・・・・・今の時間と大して変わらないだろう。

「・・・はぁ」

 軽い溜め息を付きつつ、音楽のボリュームを上げて頭を切り替える。 仕事は出社すればやるしかない、それを今考えても仕方が無い。

 それより今後の事・・・・・・彼女との事で考えなくちゃ行けない事は山ほどある。
 先ずは彼女の両親へ挨拶、結婚式の日取りや場所を二人で決め、彼女に仕事を辞めろなんて言える筈もないので、異動申請を上司の顔色を伺いながら提出して・・・・・・仕事よりも厳しい現実が待っているような気がする。

「まっ・・・ それでもやるしかないか」

 先のことを考えて、不安を感じながらも顔が緩んでいくのを自覚する。 だってこれからずっと彼女と一緒にいられるのだ・・・・・・ 嬉しくない筈が無い。

「親父にも・・・・・・ 一応連絡しとくか」

 久しく連絡を取って無かった父親を思い出す。 母親の命日以降会っていないから丁度いいかもしれない。

「喜んでくれるといいけど・・・・・・」

 何かと迷惑を掛けた父親の姿が脳裏に過ぎる。
 男手一つで俺を育て上げた父。 片親らしく無い放任主義を持った風変わりな父親。 その忙しい身を案じて、なるだけ負担を掛けないように心掛けたが・・・・・・それでも迷惑を掛けた自覚がある。

 結婚して孫の顔でも見せれば・・・・・・少しは恩を返せるだろうか?

「───ッ!!」

 色々と考え事をしていたせいか反応が一瞬遅れた。

 借りているアパートの近くまで来て、知っている道だから油断していたのだろうか?
 フラッと人影が急に歩道から出て来たのを見て、慌ててブレーキを床まで踏み込んだ。 ブレーキを踏み込んだ足にゴリゴリとABSがフル稼働している感覚を感じながら、ステアリングを切って車体を人影から避けるように反対車線へ逃がす。
 幸い、人には当たらなかったが車体は反対車線のガードレールへ突き進み、咄嗟にフルカウンターを当てながらサイドブレーキを力一杯引いて車体のリアを流した。

 タイヤ痕を路面に残し、盛大なスキール音を上げながら車は停止した。

「・・・・・・・ぷはっ!!」

 何時の間にか息を飲みこんでいたようだ、息苦しさを感じて口を開き肺に空気を吸い込む。
 額に流れる冷や汗を実感しながら、恐る恐る車の周囲に視線を巡らせる。

「ぶつかって無いよな・・・・・・・?」

 車体に何かがぶつかった手ごたえは無かった。 一般道でスピードを出しすぎていたこと反省しながら、注意深く周囲を見回す。

「はて? ・・・・・・女の人だった気がするんだが」

 急に車道に飛び出してきたのは女性だった気がする。
 暗くてなんとも言えないが、一瞬垣間見えた体型や、服装、髪の長さから間違いは無いと思うが・・・・・・回りを見てもそれらしき人影は無い。
 少なくとも車のライトが照らしている範囲に何か目に引く様なモノは見えない。 もしかしてライトが照らしきれて無い暗闇にいるかと思いつつ、ライトをハイに上げて見るが・・・・・・やはり何もいない。

「・・・・・・・気のせいか?」

 今日は色々と慣れないことをしたので疲れているのだろうか?
 とりあえずライトを戻し、一度外に出て確認しようと音楽のボリュームを下げた瞬間・・・・・・

「ッ!?」

 ───二度目は何も出来なかった。

 ───人影を咄嗟に避けて反対車線に出た自分が悪い。

 ───そのまま移動もせずに車内にいた自分が悪い。

 ───車を元いた車線に戻さなかった自分が悪い。

 ───カーナビのボリュームが大きすぎて、ソレに気づかなかった自分が悪い。



(麻美ッ!!)



 視界一杯に広がったトラックの姿を見つつ叫んだ言葉は・・・・・・・・・・・・・・・彼女の名前だった。








 ・・・・・・泣いている男の子がいる。

 年は10歳ぐらい、小学生の男の子だ。 場所は・・・・・・・病院だろうか?

(ああ・・・・・・・これは俺だ)

 突然視界に広がった光景を見て理解する。 これは母親が亡くなった時の光景だと。

 この時、子供心に理解していた。 母親が死んだ事を、もう会えない事を。
 つい先日まで、自分に弟か妹が出来ると喜んでいたのが嘘のようだ。
 父親は子供に隠し事をしなかった。嘘や誤魔化しをせず、ただ一言だけ言った。

「───お母さんには、もう会えない」

 その言葉の意味を理解して泣いた、父親も子供と一緒に泣いていた。

(そう言えば、親父が泣いたのこん時だけか・・・・・・)







 男の子は、煙突から上がる煙をじっと見ている。

 小さな火葬場、泣いている親戚の姿の多い中、男の子は泣いていなかった。 だが目は赤く腫れ、瞼や目の周りは必死で手で擦った痕で真っ赤になって残っている。

(・・・・・少しくらい泣けばいいのに)

 幼い自分の姿に嘆息してしまう。
 だが、覚えている。 何故自分がこの時必死に泣くことを堪えていた理由を。

「・・・・・・」

 男の子の前には父親が立っていた。
 背筋を真っ直ぐに伸ばし、立ち上がる煙からジッと目を離す事無く佇んでいる父親がいた。
 その背を見て・・・・・・自分だけが見っともなく泣くのが情けないと感じ取ってしまったのだ。
 今にして思えば、小さな意地っ張りだと笑ってしまうが・・・・・・

「隆君、泣いていいのよ?」

 そう言ってくれる叔母がいたが、男の子はただ首を横に振るだけだった。

「・・・・・・・難産だったとか」

「・・・・・・・可愛そうにねぇ」

 其処彼処から、親戚の声が聞こえて来る。

(今にして思えば、あれって医療ミスだったんしゃないのか?)

 もう写真だけでしか思い出せない母親の事を思い浮かべて首を捻り、先程から続くこの光景の意味を理解する。

(これが・・・・・・走馬灯ってやつなのかな)

 だったら早く終わって欲しい。 思い出したくも無い過去を引っ張り出されるのは・・・・・・辛いだけだ。


 ───火葬場から出てきた母と、弟か妹だったかもしれない子は小さな白い骨だけになっていた。







 場面が変わる・・・・・・ 今後は学校だろうか?
 成長し、少年と言っても過言でない子供が、数人の少年に囲まれて胸倉を掴まれている。

(ああ、そういえば苛められてたな・・・ この頃は)

 授業参観や運動会に親が来ない少年。 そして何処からか漏れた母親がいない事実。
 大人もそうだが、子供はそういった自分たちとは何かしら違う存在を見つけ、明確に自分たちと線引きをしたがる。
 集団の中に居続けるために必要な行為を、子供は無意識のうちに理解しているのかもしれない。

(わかるけどね~自分が仲間外れに会いたくはないからなぁ・・・・ ってもねぇ・・・・・・)

 少年は自分の胸倉を掴んでいた少年を突き飛ばし、殴りかかった。

(何時までも大人しくしてるとは限らないんだよな・・・・・・・)

 そう言えばこの頃だろうか? 体を鍛えるために剣道を始めたのは。
 少年は竹刀を振り回しながら何やら叫んでいる。 足元には顔を抑えて蹲っている少年が二人見えた。

(・・・・・・そーいやこの後、学校に呼び出しくらった親父にこっ酷く怒られたな)

 やれ相手は素手なのに獲物を使うなとか、先に手を出すなとか、今にして思えば何か間違ってる気もするが・・・とはいえ、これ以降難癖つけてくるやつを片っ端から殴ったらそれから静かになった気がする。







 学ランに身を包んだ少年が狼狽している。

(あ~若いねぇ)

 自分の事なのに思わずほくそ笑んでしまう。 中学生になった少年が校舎の裏で女子生徒と向かい合って話していた。

(剣道部の後輩だっけかな・・・・・・・?)

 面と向かって好きだと言われた少年も、好きだと告げた少女も顔を真っ赤にしている。
 少女は少年の言葉を待っているが、少年は言葉が出ない。 次第に焦れてきたのか少女が少年に問いかける。

「先輩、誰か好きな人がいるんですか?」

「いや、いないけど・・・・・・・」

「じゃあ、私のこと嫌いなんですか?」

「いや、そんなこと無いけど・・・・・・・」

「じ、じゃあ、付き合って下さい!」

「いや・・・・・・・ってか俺もう直ぐ卒業だし」

「そんなの関係ないですよ!」

 煮え切らない少年の態度に、少女は次第に怒り出す。

(言えないよな~・・・・・・・君を狙ってる友達に悪くて返事できないって)

 とりあえず制服の第二ボタンを渡す約束をし、少年はその場を逃げ出した。












 駅で少年が絡まれている。

 その理由は、やれ目つきが悪いだの態度が気に入らないだのと・・・・・・

(なんか、こんなのばっかりだな)

 もっとマシな思い出もあるはずなのだが、さっきから微妙な記憶しか再現されていない。
 どうせ最後なら楽しい思い出を見せてくれればいいのに、走馬灯ってやつは随分と弄れた現象のようだ。

 明らかに上の学年の生徒に難癖をつけられている少年は、ほとほと困り果てたように天を仰いでいる。 この頃はたとえ目の前の相手を追い払っても、結局数が増えて戻ってきた相手に仕返しされ、こっちが痛い目に合うと理解していた。

 ───数の暴力にはどうやっても勝てやしないのだ。

 だからまぁ・・・・・・ 逃げるのが一番。
 囲いを抜け出して少年は一目散に逃げ出す。 先輩方も追っては来るが、一応部活で体力作りをしている少年には敵わず、次々と脱落していく。

(なんでこんな目になったのかねぇ・・・・・・・)

 似たような経験が多くて一々思い出せないのだが、この光景を思い出すのだから何かしら意味があるのかもしれない。
 走っていた少年の前に人影が現れる。 小柄な女の子、立ち止まった少年が肩で息をしているが、少女はそれよりももっと肩で息をしている。

(・・・・・・ああ、なるほど)

 同じクラスの女の子が絡まれているのを見て、助けに入った隙に少女を逃がしただけだ。

(よくやるよ・・・・・・・我ながら)

 ただ、これが知りもしない子だったらどうだろうか? たまたま見かけただけの子にも同じ事をしただろうか?
 やったかもしれないし、やらなかったかもしれない。
 出来ることなら目立つ事はせず、平和な日常を送りたいのだが・・・・・・中々上手くいかないものだ。

 女の子と、一言、二言話してから少年は立ち去って行く。

(そうか・・・・・・・これがフラグだったのかもなぁ)

 この数ヵ月後、少女から告白されて付き合うことになった時、なんで俺なんだろうと不思議に思ったものだ。
 あの時は気づかなかっただけで、自分で種は撒いていたわけだ。

(っても、あの子には悪い事したな・・・・・・・)

 クラスの全員が彼女の告白に協力し、場所と時間を設定された挙句彼女と付き合うしか選択肢が残されていない状況に仕立て上げられた。 結局、追い込まれて了承したのだが、恋人らしいことなど卒業するまで何一つしなかった事に今更ながら後悔する。


 ───県外の大学に進学して、彼女とはそれっきり会うことも無かった。









 少年は青年になった。

 実家にいても出張の多い父のお陰で一人暮らしな生活だったが、県外の大学に出て青年は本格的な一人暮らしを始めていた。 
 大学に行く気は正直あまりなかったのだが、父親が大学だけはどうしても出ておけと力説するので進学を選んだわけだ。
 父親なりに、親らしいことをしてこなかった事への罪滅ぼしなのかもしれない。 少年は無い頭を絞って、なんとか学費の少ない国立大へ進学した。 これも、親に負担を掛けたくない子供心だったのかもしれない。

 だが青年になった少年は父親に感謝していた。 大学に進んでまで勉強を続けると事を億劫にも思っていたが、大学で経験した様々な出来事は決して自分にとって無駄ではなかったからだ。

 数多くの人に出会うことが出来た。

 友人もたくさん出来た。
 
 朝まで気の会う仲間と遊び続けた。

 人生で、一番充実していた時期かもしれない。


(この頃は何やっても面白かったな~)


 青年は友人と連れ添って街中を歩いている。

「今日の合コンで絶対彼女作る!!」

「はいはいお前はいつもソレだよな・・・・・・・俺は人数合わせなんだろ? タダ飲みでいいよな?」

「はぁ金谷!? お前何馬鹿なこと言ってんの?」

「やだやだ、これだからむっつりは」

「ってかさぁ・・・・だったら無理してこなくてもいいぜ?」

 口々に友人に言われ、青年は苦笑している。

「なんだよ!! いいだろ~飲むのは好きなんだからさ」

「・・・・・・・飲み誘えばお前は八割方来るけどよ。 合コンって言って誘うと、お前100パー来るよな!?」

「当たり前だ、野郎と飲むよりは女の子と飲みたい!!」

「うわ、言い切ったよこいつ!!」

「つ~か~さ~早く行こうぜ!! もう女の子達先に店に入ってるってよ!!」

「うわ、マジで!? かなり感じ悪くね俺たち!?」

「金谷~お前先頭で入って先にあやまれ~」

「はぁ? なんで俺が!?」

「今回のお相手は漸くセット出来たお嬢様大学の子達なわけよ・・・・・・・わかるだろ~? 第一印象悪くしたくないのよ。 それとお前・・・・・・・酒癖悪いからあんま飲むなよ」

「絶対、お持ち帰りして見せる!!」

「オラ、わくわくしてきたぞッ!!」

 などと、馬鹿笑いしながら青年達は飲み屋に入って行く。

(あれ? これって確か・・・・・・・)

「ども~遅くなってごめんなさ~い」

 結局、青年が先頭になって個室に入って行く。 座って待っていたのは4人の女の子達。

(ああ・・・・・・・そうだ)

 暇そうに携帯をいじっている子。

 値踏みすようにこちらをニヤニヤ見ている子。

「待ってたよ~!」

 元気よく挨拶してくる子。

(初めて・・・・・・・麻美に会った日だ)

「じゃ、早く飲み物決めちゃってよ」

 早速、メニューをこちらに差し出してくる子。




 ───いきなりだな、と思ったのが最初の感想。




 ただ、その顔を見ると何故か涙が溢れてくる。

 笑った顔、怒った顔、泣いた顔、拗ねた顔、色んな表情がフラッシュバックのように思い出される。







 最後に覚えているのは、笑顔で泣きながら頷いていた場面。







 だから思わず、もう届かないのもわかっているのに叫んだ。








『───麻美!!』








2010/05/06 修正


*Edit ▽TB[0]▽CO[1]
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とりあえず、誤字報告をば。
>暗くてなんとも言えないが、一瞬垣間見えた"体系"や
体型ですよね。
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