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「Muv-Luv 小説」
第一部

横浜編 第2話

 


 横浜編  かれの現実


 2000年10月8日 09:30
 国連太平洋方面第11軍・横浜基地内医療室


<金谷 隆>

「・・・・・・・・・・うう・・・・・・・・・・」

 目覚めは最悪だった。
 またおかしな夢を見た。しかも意味が分からない最悪な夢だ。

「水・・・・・・・」

 苦しくて寝言でも言っていたのか、咽が酷く渇いていた。 水差しでもあればと思い周りを見ようとするが、生憎と包帯のせいで何も見えない。
 ナースコールの存在が脳裏を過ぎった直後、手に冷たい何かが触れる感触を感じた。

「え?」

 間抜けな声を漏らしながら、手に持たされたモノがコップだと理解する。 親切な誰かがコップを手渡してくれたようだ、目が見えないし相手の気配が希薄過ぎて、傍に誰かいるのに気付かなかった。

「・・・・・・ありがとう」

 礼を言ってコップに口を付け、ひんやりとした水を体内に流しこむと、気分が大分楽になった。
 水を飲んで一息付いていると、ガチャっとドアノブを回す音と共に気配の主が退室して行ってしまった。
 医者でも呼びに行ったのだろうと考えながら、気怠い体をベットの上に伸ばしてボーッとしていると、再びドアが開く音が室内に響いた。

「気分はどう?」

 コツコツと、ヒールが床を踏む音がしたかと思えば、開口一番でそんな質問をされてしまう。

「・・・・・・・・最悪です」

 相手が昨日話した女性と同じ人だと判断しながら、正直な感想を答える。

「そう、ご愁傷様・・・・・・・とりあえず起き上がれるかしら?」

「・・・・・・・ええ、なんとか」

 っと今更だが、寝る前までは固定されていた体中のギブスが外されていることに気づく。

「もう、頭の包帯は取っていいわよ」

 医者の了承が出たので頭の包帯を外す。

「へぇ、写真で見るよりいい男ね」

「・・・・・・・ありがとうございます」

 気分が優れないせいか、自分の口調が荒くなっているのが自覚できる。 だが女性は特に気にした風も無く、こちらを眺めていた。
 目に入る光の眩しさに顔をしかめつつ、初めて医者と思しき女性の姿を見る事が出来た。

(はぁ、随分と派手な医者だな)

 見た目は結構な美人ではるのだが、白衣の中に黒っぽいスーツを着ていたり髪の色が派手な紫だったので、内心でそんな本音を呟いてしまった。

「大丈夫? 急に目を開けると辛いでしょう、コレでも付けてなさい」

 言って手元にサングラスが放られる。

「・・・・・・・ありがとうございます」

 感謝しつつサングラスを掛けると大分視界が楽になった。

(・・・・・まぁ、医者だし変わった人も多いしな)

 目の前の女性を観察しながらそう判断し、女性の姿を観察してみる。
 年齢は自分と同じくらいだろうか? ややきつめの印象を受けるが、美人には違いない。

「はじめましてと言うべきかしらね、金谷隆さん? 私は国連太平洋方面第11軍横浜基地副司令、香月夕呼よ」

「・・・・・・・・・は?・・・・・国連?」

 突然の自己紹介に頭の回転が追いつかない。 いや、それ以前に告げられた言葉の意味が理解出来無い。

「ここは基地内部の医療施設よ。 戦場で気を失った貴方を保護してここまで連れてきたわけ」

「い、いやいやいや、ちょっと待って」

 こちらが理解するしないを無視して、スラスラと言葉を続ける女性を制する。

(は、国連? なんで国連の基地が横浜にあるんだ? どこぞの米軍基地じゃないのか? ってかその前になんで横浜?)

「ってか、副司令?」

(副司令? あれか支社の副社長みたいなもんだよな? つ~とここで2番目に偉い?)

「ええ」

「その若さで?」

「ええ」

「優秀なんですねぇ・・・・・・・」

「・・・・・あ、ありがと」

 思わず出た言葉に彼女は、顔を引きつらせながらも頷いてくれた。

「いや~自分とはエライ違いですね。 俺なんか入社して4年立つけど部下も少ないし、大した仕事も任せられてもないし・・・・・・・」

「・・・・・・・あ、そう」

 呆れた様子で自分を見る彼女。

「・・・・・・・・・・・・で? これは何のドッキリですか?」

「・・・・・・・・は?」

 確信を付くこちらの質問に彼女は鳩が豆鉄砲食らったような顔を見せた。

「イヤイヤ、ありえないでしょ? え~とココが国連の横浜基地? で香月さん? 貴女が副司令? ・・・信じろって言うほうが無理がある」

 言いつつ周りを見回す、きっとどこかにカメラがあるに違い無い。

「まぁ、貴方の常識じゃそうでしょうね」

 必死に周囲を観察する自分が余程滑稽に見えたのか、ニヤリと彼女が笑う。

「ココを案内するわ、ついてきなさい」

 だがその笑顔は・・・・・・どこかとっておきの悪戯を思いついた子供のような無邪気な笑みだった。













 目の前を二足歩行のロボットが歩いている。

「・・・・・・・あれは・・・・・・・夢じゃなかったのか」
 
 そう言いながら、自分が酷く間の抜けた顔をしているのだろうと自覚する。

「香月さん」

「何かしら?」

「俺のほっぺ摘んで貰えますか?」

「・・・・・・・・・・」

「痛っ! ・・・・・・・もういいです」

 病室を出た途端、目の前に銃を構えた兵隊を見たときも焦ったが、この光景はそれ以上だった。

 ―――4体のロボットが、地表すれすれを飛んでいる。

 目の前の光景が幻だと自分に言い聞かせても、ロボットが風を切る音や、ロボットが着地の際に響かせる振動などがしっかりと感じ取ることができてしまう。 ヴァーチャルや夢なんかじゃない、これが紛れも無い現実だと、その感覚が自分に告げている。

「戦術機を見せるのが一番手っ取り早いと思ったけど・・・・・・・予想以上に効果があった見たいね」

 してやったりと言った顔で彼女はこちらの間抜けな様子を見ている。

「せんじゅつ機? ・・・・・・・ですか」

「そっ、人類の誇る対BETA用の兵器」

「・・・・・・・・・・・・・・まるでSFだ」

 また聞きなれない言葉を聞いたような気がするが、取りあえず素直を感想を述べて混乱する頭を落ち着かせるために頭を振るが、目の前では相変わらず4体のロボット・・・・・・・・・・・戦術機が派手に動き回っている姿を見て目眩を覚えてしまう。

「ってか、なんであれで空が飛べるんだ? あんな細い足でなんで跳んだり跳ねたりできんだ? 世界の物理法則は何処に行ったんだ・・・・・・・」

 目の前の光景を見ていると頭を抱えたくなる。
 簡単な物理学ぐらいは習ってきたが、それでも現代の科学じゃあんなSFちっくなロボットを作る技術力が無いことぐらい分かる。

「さ、時間が無いわ。 次に行くわよ」

「・・・・・・・はい」











 大きな広場で何人もの人が走り回っている。

 国連・・・・・・・と言うだけあって基地内の隊員の人種は色々な国の人間で溢れていた。 だが、それでも日本人。 しかも自分と同じ、嫌それ以上に若い世代が多いような気がするが。

「なんか、ほんとに副司令なんですね?」

「嘘なんかついてどうするのよ?」

 先程からすれ違う人が彼女を見るたび立ち止まって敬礼する。 彼女は気にした素振りも見せず歩き去るが、本当なら返礼とかするべきじゃないのだろうか?

(まぁ、見た感じ・・・・・・そう言うのをするようなタイプじゃないけど)

 だが問題は其処じゃない。
 すれ違った人たちが、彼女と一緒にいる自分に奇異な視線を送ってくるのだ・・・・・・。 そりゃそうだろう、白い病人服姿の男 (サングラス付) が偉い人と一緒に歩いているのだ。 怪しく思わないほうがおかしい。

「はぁ・・・・・・なんだかなぁ」

 力無く呟いていると、遠くの方から爆竹を鳴らすような音が耳に響いてくる。 射撃訓練とかの音だろうか? ちなみに目の前では格闘訓練なのか、組み合っている人の姿が見える。

「なんか・・・・・女性が多いんですね」

「・・・・・・・そうね」

 見かける人の多くは若い世代、しかも女性の割合が多かった。
 女性の軍人さんがいるのは知っているが、この基地ではその数が少し多いような気がする。

「さっき聞きましたけど、べ、ベータ? でしたっけ? そんなのと戦ってるんですか?」

「そうよ、貴方も新潟で見たでしょう?」

 言われて思い出す、赤い蜘蛛みたいな奴や、白い蟹、そして目前まで迫った白い化け物。

「ああ・・・・・・あれですか・・・・・・食べても美味しくはなさそうですね」

「BETAを食べる。 ・・・・・・その発想は無かったわね」

「いや、真剣に受け止められると困るんですけど」

「冗談よ・・・・・・・・さ、次行くわよ」

「・・・・・・・はい」











「で、お腹空いてるんでしょ?」

「ええ、まぁ」

 広い、広すぎる、大学の学食なんか目じゃない。 やたら広すぎる食堂に目を奪われていたので、彼女に相槌を打つことぐらいしか出来なかった。
 幸いまだ昼ではないのだろう、食堂にいる人もかなりまばらだ。

「私は・・・・・・・さば味噌定食ね」

「了解です・・・・・・・」

 持ってこいと言う意味なのだろう、さっさと彼女は席に着いてしまう。

「ん?見ない顔だね、注文はなんだい?」

「えっと、さば味噌定食と、うどんで・・・・・・・」

 お金はどうするんだ? と思っていると、見た感じ食堂のおばちゃんと言った女性に声を掛けられ、おもわず注文してしまった。

「あいよ、ってかあんた病人じゃないのかい? 歩き回って大丈夫なのかい?」

「・・・・・・・・ええ、なんとか」

 病人服を着ているせいか、こちらの様子に心配してくれるおばちゃん。

「そうかい、ならいいんだけど。 合成さば味噌定食と合成きつねうどん入るよ!!」

 一応は納得してくれたのか、景気良くおばちゃんが食堂の奥に向かって叫ぶ。

(・・・・・・今、合成とか言わなかったか?)

 疑問に思いつつ待ってると、すぐに注文したものが出てくる。

「夕呼ちゃんが上がってくるなんて珍しいねぇ・・・・・・・あんた知り合いなのかい?」

「え、ええ、まぁ」

 食事がのったトレイを受け取りつつ、おばちゃんの質問に曖昧な返答しか返せない自分。

「っと…お待たせしました」

「ん」

 短く返事をする彼女の前にさば味噌定食を置く。 合成とか言ってたが、見た目が普通の定食とうどんだった事に安堵しつつ、彼女の向かい側に腰を下ろす。

「あら、貴方はうどんなの?」

「ええ、急に胃に色々入れないほうがいいかと思って」

「あっそう。 ・・・・・・・やっぱりあんま上がって来るもんじゃないわね、うっとおしいったらありゃしない」

 そう言って彼女は嘆息しつつ割り箸でさばをつつく。

「はぁ、そうですか」

「そうよ、本当はこんな事してる暇はないんだけどね・・・・・・・で、わかった? 此処のこと?」

「まぁ、現実は見ないといけませんから・・・・・・・色々聞きたいこともありますけど今はいいです」

 嘆息しつつ頷く。

「そう、いい心がけね」

 その返答に彼女は満足したらしい。 彼女のようなタイプには、基本的に物分りがいいように振舞っていた方がいいと人生経験が告げている。

 ―――幸か不幸かあちらはこちらに興味を持ってくれているらしいし。

(ほっとけば、自分で色々話してくれるだろう)

 そう思いつつ、うどんをすするしかなかった。












「はい、貴方が持っていた私物よ一応返しておくわ」

 食事を終え寝ていた病室に帰ってくると、彼女はいつの間にかベットの上にあった俺の私物を見てそう言った。 財布に、携帯電話、手帳、ハンカチ、ボールペン、まぁ大したものじゃないが、一つだけここには無いはずのものがある。

「指輪・・・なんで?」

 彼女に、麻美にプロポーズして渡したはずの指輪が無造作にそれらといっしょに置いてある。

「その指輪?・・・・たいした石じゃないわね~」

「む、むぅ、ほっといてくださいよ」

 見も蓋もない事を言われ、興味なさそうに指輪を眺めている彼女の視線から指輪を隠す。

「それ電話機なのよね? 随分と小型化してるわりには多機能なのね」

「ん? やっぱ調べたんですか?」

「ええ、一通り。 液晶の解像度は高いしカメラにテレビまで付いてくる、便利な代物ね」

 携帯電話はどうやら彼女の興味を引いたようだった。
 圏外の表示が出ている液晶を一瞥してベットに腰掛け、備え付けの椅子に座る彼女を待った。

「で・・・・・・聞きたいことは?」

(―――ほらきた)

 内心で予想通りだと思いつつ、目の前に座った彼女へ視線を向ける。 幾らでも聞きたいことがあるが、最初に聞くことは決まっていた。

「何故、俺に情報を与えるんですか?」

「・・・・・・・」

 彼女の目が細くなる。先程までの茶目っ気のある目じゃない、こちらを値踏みするような視線に変えてくる。

「まぁ、ここが俺の知っている世界じゃ無い事はわかります。 それでも、貴女が俺を気に掛ける理由が見つからない。 とてもじゃないが、善意だけとは考えられませんよ」

「へぇ・・・・・・状況は認識できるてるわけね?」

「ええ、お蔭様で」

「確かにここは・・・・・・・・・・・・この世界は、貴方がいた世界とは違うわ」

「・・・・・・・・・・」

 黙って彼女の言葉を待つ。

「あら、随分と冷静なのね?」

「そう見えます? 夢なら覚めろってずっと思ってますよ」

 答えて肩を竦め、天井の蛍光灯を仰ぎ見る。

「そういったSFじみた本とか読んだこともありますしね。 ・・・・・・・まぁ自分がこんな不思議な現象に巻き込まれるとは思っても見ませんでしたけど」

「SFね・・・・・・・・・因果律って言葉、知っている?」

「? いや、・・・まったく」

「あ、そう・・・・・・・平行世界のほうが分かりやすいかしら?」

「・・・・・・・・ぱられるんるん・・・・・」

 思わず口から出た言葉に彼女は怪訝な表情をする。

「失礼・・・・・・・それならなんとなくわかります、結局はIFの世界ですよね」

「ええ、数多くの選択肢から分岐した世界、【もしかしたらあったかもしれない】世界ね」

「もしもの世界ですか・・・・・・・例えば、人間が生れてこない地球があったり、昨日コンビニで買う決心が付かなかった肉まんを買ったかもしれない世界ってやつですよね?」

 壮大な推論の後に身近なネタで聞いてみるが、彼女はまたもや怪訝な表情をした。

「そうだけど・・・・・・・・こんびに?」

「いや、気にしないで下さい・・・・・・・でもその理論って、決定論だかラプラスの悪魔だかで否定されてませんでしたっけ? どんな選択肢を選んでも、結果は全て同じモノに落ち着くとか」

 詳しい事はなんとも言えないが、例えば世界大戦でドイツ帝国を率いたヒットラーがいたが、彼が存在しなくても似たような人間が結局ドイツを率いて同じ末路を辿ったのではないかという理屈だ。

「そういった考えもあるわね。 でも認めなさい・・・・・・・ココは貴方の世界じゃないわ」

 言って彼女は面白そうに目を細める。

「その携帯電話? に入ってるデーターで確信は持てたわ。 貴方、去年中国にいたのね?」

「? ええ・・・・・・・ああ、写真のデータでも見たんですか?」

 彼女の言うとおり去年確かに中国に行った。会社の仕事だったが、初めての中国ということもあり携帯電話で何枚も写真を撮ったものだ。

「そう、色々と面白いものが見れたわ。 この世界に無いものがソレには映ってたし」

(なんだ・・・・・・・・万里の長城とパンダがそんなに珍しいのか?)

「合成とか、でっちあげのデーターとか思わなかったんですか?」

「意味がないわね・・・・・・・それに、それだけの機械を作る用途がないわ。 データーにしたってそう、コストに見合うモノでもないしね」

「ふむ・・・・・」

「平和そうな写真もたくさんあったわね、一緒に写っていたのは彼女かしら?」

(うっ……プライベートなんだから、あんまり見ないで欲しいな)

 からかってくるような彼女の言葉に再度溜息をついてしまう。

「まぁ、いいわ。 それで質問に戻るけど・・・・・・・」

「―――俺を研究でもしますか?」

 彼女の言葉を遮って言った一言で、彼女はその瞳に警戒の色を混ぜて此方を見据えて来た。

「へぇ・・・・・・・・・・どうしてそう思うのかしら?」

「単純な事ですよ。 貴女は自分がこの基地の副司令と言いましたが、全然それらしく見えない。 まぁ・・・・・・あれだけ敬礼されるんですから本当のことなんでしょうけど」

「・・・・で?」

「会った時からの話の内容です。 なんて言うか軍人らしくないんですよね・・・・・・・・・・まるで技術者と言うか、科学者あたりと話しているような気がしましたよ」

「・・・・・・・・・・」

「携帯のデータもそうです。 本来の軍人であればこんなデータを信じるよりも、俺を尋問にでも掛けたほうが早い」

「まぁ・・・・薬は使ったけどね」

 彼女がポツリと呟くが上手く聞き取れない。

「察するに貴女はこの基地で高い地位にいるが軍人ではない。 何かを研究している科学者ってとこですね。 科学者は自分の研究対象になりそうなものに、異常なまでに興味を持ちますから・・・・・・・・・俺への対応にも納得できますよ」

「・・・・・・・・・・・大したものね、概ね当たりよ」

「いいんですか? そんな人がこんな得体の知れない余所者と話してて?」

「まぁ、私の提唱する理論が形になって目の前にいるわけだしね。 それに私以外じゃきっと話しにならないわよ?」

 彼女の言う通りだ。 平行世界から来ただのと、そんな荒唐無稽な話を信じてくれる人がいるとは思えない。

「・・・・・・・・人体実験とか解剖とかは止めてくださいよ」

「今はまだやらないわよ」

(今は!?)

 あっけらかんと言い放って笑う彼女に内心で叫び返す。 考えたくないが、もしかしたらとんでもない人間に保護されたのかもしれない。

「別にとって食おうってわけじゃないわ、貴方この世界に来る前の事覚えてるでしょう? 直前の事を話して見なさい」

「・・・あ~昨日も言った通り、交通事故にあいかけてそれで…」

「もっと詳しく、その日に起きたことや、変わったことを全部話しなさい。 言っておくけど、嘘を付いても見抜けるから」

(マジっすか・・・・・・・)

 取りあえず嘘や隠し事はしないほうがいいだろう。 記憶にある、あの日に起きたことを順を追って彼女へ説明する。

「―――で、彼女にポロポーズして馬鹿みたいに喜んで帰ったわけね?」

「ええ・・・・・もう少しオブラートに包んで言って下さいよ」

 明らかに面白がっている彼女を見ながらジト目で唸る。

「あ、そう言えば・・・・・・・頼んでおいた伝言は・・・・・・・」

「出来ると思う? 生憎と電波じゃ世界の壁は破れないわよ?」

「ですよね・・・・・・・で・・・・・・・俺は元の世界に帰れるんですか?」
 
 今まで必死に言わないようにしてきた言葉をここに来て問う。 この回答は自分にとっての生殺与奪。 帰れるか帰れないかでこの後の身の振り方が変わってくる。

「今は無理ね・・・・・・・まず、何故貴方がこの世界にきたか、その原因がわからないとね」

 帰ってきた回答は限りなくグレーだった。

「そうですか・・・・・・まぁ、帰っても目の前にトラックがいたんじゃそのまま死ぬわけですしね。 その辺も考えないと…」

「もしくは、もう死んでるのかもね」

 この女はSだと確信する。 しかもドのつくSだ。

「そんな顔しないでよ、ただ覚悟はしておきなさい」

「・・・・・・・・・ええ」

 覚悟なんか出来るわけが無い。 戻れたとしても、そのまま死ぬような覚悟なんて。
 せっかく幸せの切符をつかんだと言うのに・・・・・・そう思いながら、手の中にある指輪を我知らず握り締めてしまう。

(・・・・・・ん?そう言えばなんでこれがココにあるんだろう?)

「で、他に聞きたいことは?」

「いえ・・・・・・・取りあえず今は何も。 まずは現状を認識するだけで精一杯ですから」

 逆に考えることが多すぎて疑問に思ったことが霧散していく。

「そう、じゃあこれからどうしたいの?」

「・・・・・・・・・・・・・わかりませんよ」

 肩を竦めて言った言葉に彼女は納得したのか、苦笑しながら頷いて椅子から立ち上がった。

「でしょうね・・・今日はゆっくりしていると良いわ。 色々と考えることもあるでしょうし・・・・・・・まぁ、この世界に残された時間は少ないけどね」

「…?」

「この部屋の中でなら、ある程度は自由にしてて構わないわ。 後、PX・・・貴方に言わせたら食堂かしら? そこも行ったら使えるようにしておくから…それと、そのサングラスは一人の時以外は必ず掛けておくように。 なるだけ素顔は見せないほうがいいわ、後できれば名前も変えたほうがいいわね・・・・」

 矢継ぎ早に呟いたかと思えば、彼女は腕を組んで何かを考えこんでしまった。

(…名前?)

 そんな様子の彼女を見ていると、色々考え付くことが脳裏に浮かぶ。 顔を見せないほうがいい、名前も変えろ・・・・・・・そしてここは平行世界。

「ああ・・・・・・この世界の俺がいるんですね?」

 小さく呟いた言葉に彼女は今度こそ驚愕の表情を浮かべた。

「貴方、けっこう頭は回るのね」

「そんなたいしたもんじゃないですよ・・・・・・・知ってるんですか? この世界の俺の事を?」

(けっこう色んな表情するんだな~)

 などと思いながら聞いた言葉に、彼女は此方に視線を向けずに答えた。

「まぁね・・・・・・・だから取り合えず苗字位は変えなさい、何かいい案でもある?」

「特には、好きに呼んでくださいよ」

「あ、そう・・・・・・・なら・・・・・・・社ね。 貴方はこれから社隆と名乗りなさい」

「やしろ? なんか神主さん見たいな名前ですね?」

「うだうだ言わないの、異論ないわね?」

「了解です」

「だったら良いわ。 これから貴方の戸籍とか作るから、それと・・・・・・・これだけは見て置きなさい」

 言って手書で色々書かれた一枚の紙を渡してくる。

「それさえ覚えてれば、この世界ではなんとかなるわ」

「・・・・・・・・・・・ふむ、汚い字ですね」

「解剖してあげましょうか?」

「いや~読みやすいッ!! これならプレゼンで使えますよッ!!」

 睨んでくる彼女の視線を受け流して返答する。 その様子に彼女は嘆息して部屋を出て行こうとした。

「あ、香月・・・・・副司令?」

「夕呼で良いわよ、どうせ貴方軍人じゃないし」

 なれない言葉で呼び止めたせいか、彼女は苦笑しながら振り返った。

「そりゃどうも・・・さっきの続きなんですけど」

「・・・なに?」

「俺は……この世界の俺は。 何をしてるんですか?」

「・・・・・・」

 彼女は何も答えずドアノブを回す。 その態度からして、彼女はその質問に答える気が無いと言う事だろう。

「・・・・・・・・・大丈夫、貴方はこの世界の金谷隆に会うことはないわ」

「え?」

 期待せずにうな垂れていると、そんな呟きが耳に入ってくる。 慌て視線を彼女へ向けると、ドアを引きながら彼女は独り言を呟くように続けた。

「この世界の金谷隆はもういないわ」

「ッ!?」

「彼はテロリストだったのよ。 一年前に生死不明になって・・・・・・恐らく死んでいるわ」

 そう言い残し彼女は部屋を出て行ってしまった。


 ―――ドアの閉まる音が呆然とした俺の耳に酷く響いた。




2010/05/22 修正


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