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「Muv-Luv 小説」
第一部

横浜編 第3話

 


 横浜編  かれとかのじょたちの出会い


 2000年10月8日 18:30
 国連太平洋方面第11軍・横浜基地内医療室


<社(金谷) 隆>

 夕呼さんから貰ったノートの切れ端を眺めながらベットで寝ていると、何時の間にか日が暮れていた。

「ん・・・・・・・腹減ったな」

 何もしなくても人間は腹が減る、これも一つの心理だ。

(にしても・・・・・・・酷い世界だな)

 貰ったノートに書かれている事が真実だとすれば、この世界の悲惨な現状が間接的に想像できる。
 減った人口、戦地に借り出される年少兵達、慢性的な食糧不足、人的資材の減少、世界を取り巻く危機を数えあげればそれこそきりが無いだろう。

 少なくともここは・・・・・・・そう、地獄だ。

 ベットから起き上がりつつ頭を掻き毟る。
 これが現実だと、まだ心のどこかで認めたくない自分がいる。 だが実際に敵を、BETAと呼ばれる存在を見てしまったのだから、信じない訳にもいかないだろう。

 巨大な赤い蜘蛛、白い蟹もどき・・・・・・・そして自分の目の前まで迫った白い化け物。 思い出しただけでも足が震えてくる、あんな化け物とこの世界は戦っているのだ。

「・・・・・・・それでも人は腹が減るっと」

 嘆息しつつ、食堂に行こうかと思いベットから立ち上がる。
 病室に備え付けられているロッカーを開け、夕呼さんが白衣の下に着ていたような上着を肩から羽織る。 忘れないようにサングラスを掛けながら、ガチャっとドアノブを捻って外に出ると、いかつい軍人さんと目が合った。

「あれ? ・・・・・・・食事して来てもいいですか?」

「はッ!!」

 敬礼されてしまった。

 見張り・・・・・・・なのだろう、部屋の前で銃を携えているという事は。

 スリッパを履きぺたぺたと足音を立てつつ、昼に夕呼と一緒に行った食堂を目指す。 すれ違う兵隊さん達が、こちらを見ると怪訝な顔をするけども気にしてはいけない。

(それにしても・・・・・・・兄妹ねぇ)

 ノートの最後に書かれていた一文が脳裏を過ぎり、思わず溜息をつきたくなってくる。

 ―――社隆と名乗り、社霞と兄妹として振舞うこと。

 どうやら夕呼さんは、最初から此方に偽名を使わせようと考えていたわけだ。

「あの人、頭はいいんだろうけど・・・・・・・」

 この社霞って子がどんな子か分からない。

「どうやって振舞えばいいんだよ・・・・・・・」

 などと考えている間に食堂にたどり着く。 昼間に比べれば人が多く、活気だっている中順番待ちの列に並んだ。

(昼間はあんまメニューを見なかったんだよな、他に何があるんだろう?)

 そこかしこから視線を感じるが、ここも気にしてはいけない。

(ふむふむ・・・・・・・色々あるんだな)

「すみませ~ん、合成ラーメンセット一つ」

「あいよ!!あれ、昼間の兄ちゃんかい」

「あ・・・・・・・ども」

 運悪く? 昼間の元気のいいおばちゃんに捕まってしまった。

「またそんな格好でうろうろして、ほんとに大丈夫なのかい?」

「はい、体はホントなんともないんですよ」

 言いながら苦笑する。 病人服がいけないんだ、今度夕呼に服を一式頼もう。

「しかも、部屋の中でサングラスなんか掛けて・・・・・・・見づらくないのかい?」

「ええ、大丈夫です。 むしろ掛けて無いと眩しいぐらいで」

「あれま、そうなのかい?」

「はい、そういった病気でして・・・・・・・」

「そりゃ悪いこと聞いたね・・・・・・・チャーハン大盛りにしとくよ」

 咄嗟についた嘘を真に受けるおばちゃんに悪いと思いつつ、ラーメンが乗ったお盆を受け取る。

「あたしは京塚志津江ってんだ、ここのPXを切り盛りしてるんだけどね」

「そうですか、自分はか・・・・・・・社隆です、宜しくお願いします」

 言って頭を下げる。

「社って・・・・・・・霞ちゃんの親戚なのかい!?」

「!? は、はい、兄なんです・・・・・・・いつも霞がお世話になっております」

 言って更に頭を下げる。

「お兄さん!? 全然似てないねぇ?」

(なぬッ!? どないしろってんだ!!)

「は、腹違いの兄妹なんです!! 失礼しました!!」

 そういい残しその場から逃げるように立ち去った。 後ろで何か言ってる京塚さんの声が聞こえるが気にしちゃいけない。

(夕呼さん、幾ら何でも説明不足過ぎるよ)

 席に着いて思いっきり肩を落とす。 早めに霞ちゃんとやらに会わないと危険だ。

(・・・・・・・あれ? でもどうやったら夕呼さんを呼べるんだ?)

 聞いておけばよかったと思いつつラーメンに箸を伸ばすと、

「失礼、社隆さんでしょうか?」

「ッ!?」

 急に声を掛けられて、思わずむせってしまう。

「だ、大丈夫ですか?」

「ええ、気にしないで下さい・・・・・・・」

 お茶(もちろん合成)を飲みながらそう答え、声を掛けてきた女性に視線を向ける。 テーブルの傍に立っているのは赤毛の女性・・・・・・・はて? 何処かで見た事があるような?

「あ、ロボットのパイロット・・・・・・・」

「? 私は伊隅みちる大尉であります。 先日は部下の命を救って頂きありがとうございました」

 こちらの呟きは聞こえていなかったのだろう、伊隅みちると名乗った女性はそう言いながら敬礼してきた。

「あ、ああ、気にしないでくだい。 あれは偶然みたいなもんでしたから」

「いえ、あの状況でBETA相手に生身で立ち向かった貴方の姿は尊敬に値します。 ご一緒しても宜しいでしょうか?」

「え、ええ、どうぞ」

 ぎこちなく敬礼を返しながら言うと、伊隅大尉は自分の持ったお盆を向かいの席に置いて座る。

(合成生姜焼き定食ね・・・・・・・今度頼もうかな)

 彼女の持ってきたお盆を眺めながら、ふとそんなことを思ってしまった。

「香月副司令から貴方が軍属で無いと聞いております、気にしないで下さい」

 先程のぎこちない敬礼を見てだろう、彼女は苦笑しながらそう言ってくれた。

「う・・・助かります」

(聞いてる? 何処まで聞いているんだ?)

「副司令の助手である社霞さんのご兄妹ですか。 新潟にも副司令の指示であの場にいたとか」

「・・・・・・・ええ、まぁ」

「生身での戦場任務、ご苦労様でした」

「ありがとうございます」

 やばい、適当に話を合わせているが顔が引きつっているのが分かる。

(指示? 任務? 聞いてないぞ!?)

「それよりも、伊隅大尉ですか・・・・・・・若いのに優秀ですね」

「は? あ、ありがとうございます」

 強引だが話を無理やり捻じ曲げる、向こうのペースじゃ何時ボロが出るか分かったもんじゃない。

「女性にこんな質問をするのは失礼ですが、お幾つですか? 自分は26ですが…伊隅大尉は随分とお若いようなので」

 笑顔でにこやかに話を振ると、彼女は苦笑しながらも返してくれた。

「そうですか? お世辞が上手いんですね社さん。 今年で22になります」

「22!? その若さで大尉!? それでその美貌なら引く手あまたでしょうねぇ」

(おいおい、夕呼さんといい、この基地はエリートかキャリア組ぞろいか?)

 しみじみと頷きながら、知り合った女性の地位に驚くことしか出来ない。

「いえ、そんな事は・・・・・・・」

「またまたご謙遜を。 それともいい人がいらっしゃるんですか? いやその人が羨ましい限りですねぇ」

 歯が浮くような言葉を連発する。 経験上、女性は褒めておけば間違いない!!

 だが・・・・・・・

「いい人ですか・・・・・・・」

(地雷かよ!?)

 その言葉に急に沈み込んだ彼女を見て焦る。

「い、いやね。 実は私も先日彼女にプロポーズしまして・・・・・・・」

「ッ!? そうなんですか!?」

 食い付いてきた伊隅大尉の姿にほっとしながら続ける。

「ええ、なんとかOKは貰えたんですけど…」

「それは・・・・・・・おめでとうございます」

 それは本心からだろうか? 彼女は笑顔で祝福の言葉を送ってくれた。

「ありがとうございます。 ってもまぁ、次に会えるのは何時になるやら・・・・・・・」

「婚約された方とは、離れて暮らしてらっしゃるのですか?」

「ええ、まぁ・・・・・・・とても遠い所ですね」

(理屈で言えば、薄皮一枚以下なんだろけど・・・・・・・破るのは至難の業だろうな)

「そうですか、早くご一緒になれるといいですね」

「はい、そうなれるよう努力しますよ」

 言ってお互い笑い合う。

 女性と話に詰まったら、恋愛とか結婚の話を振ればなんとか乗り切れる!! ・・・・・・・まぁ、人によってはとてつもない地雷の可能性もあるが、彼女は大丈夫のようだ。

(うまく言ったようだ・・・・・・・)

 だが、この状況で冷静に振舞える自分に違和感を感じる。
 もう麻美に会うことが出来ないかもしれない、将来を共にしようと誓った相手に会えないかもしれないのに、こんなにも平然としていられる。

 思えば昔からこうだった・・・・・・・自分の身の回りの出来事を他人事のように考えながら、相手の顔色を伺って生きる。 楽しそうに、辛そうに振舞っても、心の何処かでは冷めた目で自分を見ている自分がいる。
 ―――いつからこうなったかは覚えてない。 だが、これが自分なりの処世術なのだと何時の間にか納得していた。 だからこの異常な世界にも納得できる・・・・・・・どこかで人事のようにしか考えていないから。

 取り合えず長いモノには巻かれて生きるのが無難だ。 ここでは、さし当たっては夕呼さんだろう。 彼女の機嫌を損ねず、こちらに対する興味を失わせないよう振舞うしかない。

「では、失礼します。 重ねて部下を救っていただいたことに心より感謝いたします」

 食事を終えた伊隅さんが敬礼して去って行ってしまった。 その毅然とした自分よりも年下の女性の後姿を見ながら思う。
 元の世界で彼女ぐらいの年であそこまで毅然とした人間が果たして何人いるだろうか?
 
 ふと自分が彼女ぐらいの年のころや、何人かの後輩の姿を思い出し苦笑する。

 ---いるわけがない。

 思い出すのは、居酒屋で飲んでる姿やカラオケで遊んでいる姿だ。 ココと向こうではあまりにも環境が違う。

(情けなくなるな・・・・・・・)

 平和な世界で生きてきた自分の姿とそれを甘んじて過ごして来た自分を思い出し、少しだけ情けなくなった。

 食器を返却する際に再び京塚のおばちゃんに捕まったが、なんとか無難な受け答えをして元いた病室に帰ることができた。

(とりあえず、霞って子に早く会わないとまずいなこりゃ・・・・・・・)

 早急に二人の関係について打ち合わせをする必要があるだろう。
 誰かに聞かれた質問に対して、こちらの素性を怪しまれ無いような答えを考えるのにも限界がある。

(何処にいるかわからないし・・・・・・・ ん? 警備で立っていた人に夕呼さんを呼んで貰えばいいのか)

 考えながら歩いていたせいか、病室の前にいる二人組みに気が付かなかった。

「あ、社さんですか?」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・あ、あの~聞こえてますか?」

「・・・・・・・ん? ・・・・・・・ああ俺か、なんでしょう?」

 先程会った伊隅さんと同じ服を着た女性二人、警備の人と一緒に病室の前にいた。

「横浜基地、戦術機甲教導隊所属の涼宮遙少尉です」

「同じく速瀬水月少尉です」

 突然名前を名乗って敬礼する二人組み。

「ああ、ご丁寧にどうも・・・・・・・社隆です」

(あれ? 確かあの子・・・・・・・)

 自己紹介をした片方の子に見覚えがあることに気付く。 痛々しそうに額に包帯巻き、左腕を首から掛けた包帯で吊っているが、その青色の髪と髪型に見覚えがあった。

「先日は、危ないところを助けて頂きありがとうございます」

(俺が助けた子か・・・・・・・良かった、生きてて)

 自然と笑みが零れる、人助けが成功したことが素直に嬉しかった。

「いえ、お互い命が助かって良かったですね」

「は、その・・・・・・・私は気を失っていたので覚えておりませんが、体を張って守っていただいたそうで。 本当にありがとうございました」

 言って、敬礼の次は深々と頭を下げてくる。

「私からも感謝します。 水月・・・速瀬少尉を救って頂きありがとうございました」

 栗色の髪をした女性にも、深々と頭を下げられてしまった。

「い、いやいや、気にしないで下さい」

 条件反射で自分も頭を下げてしまう。 日本人の悲しい性ってやつだ。
 頭を下げ合う俺たちの姿に、視界の端で警備の兵隊さんが苦笑しているの見えた。

「ま、まぁ立ち話もなんですから、良かったら中で・・・・・・・」

 などと言いながらふと気が付く。

 元居た世界の自分の部屋ならともかく、今間借りしているのは病室だ。  そんな場所に女性二人を相手をもて成すものなどありはしない。 あるのはベットと、ロッカーと椅子が一つだけ。

(せ、せめてお茶セットがあれば・・・・・・・)

 内心冷や汗を流しながら、二人の様子を伺う。

「え・・・・・・・あ、はい。 お邪魔じゃなければ・・・・・・・」

「は、遙?」

(マジかい!? 入るのかよ!?)

 栗色の髪の子がのほほんとしながら答えてくるのを聞いて、どうやって中で間を持たせるかを考えて頭を悩ませる。連れの子も、ややうろたえながらこちらの顔色を伺っていた。

「・・・・・・・失礼。 宜しいでしょうか?」

 と、そこに響く第三者の声。

「社隆さんですね?」

「は、はぁ・・・・・・・貴女は?」

 ・・・・・・・今日で何回名前を呼ばれただろうか? 偽名でも、こうまで呼ばれると違和感を感じなくなってくる。

「副司令付き秘書官のイリーナ・ピアティフと申します。 副司令からご命令があってお伺い致しました」

(おお・・・・・・・流暢な日本語話す見事なブロンド美人さんや)

「あ・・・・・・・社さん。 私たちはこれで失礼します」

「え?」

「行くよ、遙」

「ま、待ってよ水月~」

 二人は突然現れた女性士官に敬礼し、その場を立ち去って行ってしまった。

「・・・・・・・お邪魔でしたか?」

「いえ・・・・・・・むしろ助かりました」

 ホッとしているこちらを見て彼女は不思議そうな顔を浮かべるが、直ぐに自分の用事を思い出したのか話を続けてきた。

「お体の調子も大丈夫と伺っております。 別室を用意しましたので、そちらへご案内致します」

「あ、そいつは助かります」

 いそいそと病室から私物・・・・・・・といっても片手で持てる量だが、それを持ち出して彼女の後をついて歩いていく。

 食堂へと向かうルートとは別の道をひたすら歩く。

「・・・・・・・」

 長廊下を歩き、右に曲がって、またまっすぐ歩いて左に曲がる…などなど

「・・・・・・・」

 エレベータの前で下に向かうボタンを押して降りてくるのを待つ。

「・・・・・・・」

 程なくしてドアが開きエレベーターに乗り込む。
 彼女が地下5階のボタンを押すのを眺めつつ、何度となく思った事を思う。

(・・・・・・・間がもたん)

 一言も口を開か無い彼女の態度に内心ため息をついてしまう。 だが、ここは男として、紳士として、コチラから切っ掛けをつくるべきだ。

「・・・・・・・あ~ピアティぶっ・・・・・・・さん?」

「はい?」

(舌噛んだ・・・・・・・)

 意気込んだものの、ばつが悪くなって鼻先を指で掻く。

「失礼ですが・・・・・・・お国はどちらですか?」

 この世界の人に、この質問は禁句だろうか?
 夕呼から貰ったノートでは、この世界のヨーロッパ方面はイギリス以外BETAに侵略されている。 彼女も、名前からしてアメリカ系ではなくフランスやポーランド当たりの出身だと推測できるが、祖国が占領されてることを気にしているかもしれない。
 ―――そのことを思い出させるこの質問は、彼女にとって楽しい話ではないかもしれない。

「・・・・・・・ポーランドです」

 帰ってきた答えに感情は篭っていなかった。

(あら~やっぱりまずかったかな・・・・・・・)

「ポーランドですか・・・・・・・前にヨーロッパに行ったことがありますが、ポーランドには行きませんでしたね」

「・・・・・・・?」

 彼女は振り向いて首を傾げてくる。 会話の内容が意図する意味を図りかねているのだろう。

(修学旅行はイギリスだし・・・・・・・使用で行ったのはドイツだしなぁ・・・・・・・確かポーランドと言えば・・・・・・・)

「バルト海に面してて・・・・・・・確か皆、ゆで卵が好きなんですよね?」

「え、ええ・・・・・・・よくご存知で」

「昔、知り合いから聞いた話なんですけどね・・・・・・・ホントなんですか?」

 肩を竦めてそう聞くと、彼女は初めて感情らしい表情を見せた。

「はい、イースター・・・・・・・復活祭では欠かせない食料ですから」

(ああ・・・・・・・宗教ね・・・・・・・よしよし掴みはOKか?)

 そう言って微笑する彼女に手ごたえを感じつつ続ける。

「なるほど、でも卵アレルギーとかの人は大変じゃないですか?」

「確かにそうですね・・・・・・・社さんはヨーロッパのどちらへ行かれたんですか?」

「ああ、旅行でイギリスに。 後、ドイツへ行ったことが」

「イギリスの料理はお口に合いましたか?」

「いや、それが何食べてもお腹壊しちゃって・・・・・・・なんであんなに脂っこいんでしょうね?」

「ふふっ、日本の方には確かに口に合わないもしれませんね」

「まったくです、できれば二度と行きたくないですね・・・・・・・」

 そんな話をしているとエレベーターが止まりドアが開く。 たいした内容の会話をしたわけではないが、さっきよりは雰囲気が崩れたと思う。

「香月副司令から話は聞いておりますが・・・・・・・お体は大丈夫なんですか?」

「ええ、せいぜい打撲ぐらいですから気にしないで下さい」

「そうですか。 でも目を怪我なされてサングラスを外せないとか・・・・・・・」

「・・・・・・・はははっ。 ま、まぁ、多少暗いですが大丈夫です」

(あの人はなんて説明を周りにしてるんだ? 考えると今日話しかけてきた人たちって、皆俺の事を判別できていたし……まさかッ!? このサングラスが目印になっているのか?)

 確信に思いつき、思わず外したくなるが・・・・・・・外せない。
 ピアティフさんが知っているかわからないが、テロリストと同じ顔をした人間に気を許してくれるとは思えないからだ。

(まぁ、メガネ一つで顔の印象は変わるからな。 ……ん? グラサンよりもメガネで良かったんじゃないのか?)

「こちらです」

「あ、はいはい」

 案内された部屋のドアを開けると、壁掛けのベットと、テーブルと椅子、それと備え付けらしい電話機?とデスクトップのパソコンが一つにポットが一つ、そんな殺風景な室内の様子が視界に映る。

(・・・・・・・病室よりはましか)

 シャワー室とトイレもあるようだ、病室に比べれば遥かにマシだろう。

「何か必要なものはありますか?」

「・・・・・・・これと言って特には」

「そうですか、何かありましたら備え付けのインターホンでお呼びください」

「あ・・・・・っと、びっアティフさん・・・・・・・」

「・・・・・・・ふふ、イリーナでけっこうですよ」

 まるで出来の悪い子供を見るような目で笑い、彼女はそう言ってくれた。

(うう・・・・・・・恥ずかしい・・・・・・・)

「夕呼さんと出来れば話がしたいんですが・・・・・・・取り次いで頂けますか?」

「はい、伝えて置きます」

「それと・・・・・・・自分の事、何か聞いていますか?」

 その質問に彼女は首を傾げる。

「社・・・・・・・霞さんのご兄妹の方だと。 そして副司令のお客様と聞いております」

「そう・・・・・・・ですか・・・・・・・わかりました。 色々ありがとうございます」

「いえ、では失礼致します」

 立ち去る彼女の後姿を見ながら一人頷く。 彼女の様子から見て、先程の会話に嘘が含まれているとは思えない。

(つまり、俺の事を知っているのは恐らく夕呼さんだけか。 本人にソレを隠す必要は無いと思うしな)

 彼女の後ろ姿を見送り、姿が見えなくなってから部屋に入ってベットに寝転がる。

(みんな若いな・・・・・・・)

 見慣れない天井を見上げつつ、今日出会った人たちの事を思い浮かべる。

 思いつくの皆女性、しかも自分よりも若いことだった。

 京塚のおばちゃんは別として、直接話した女性たちは20代前半もいいとこだろう。 その他に見かけた人たちも、男より女性を多く見かけた気がする。年齢もやはり20代ぐらい、一部10代の子もいたような気がする。 それがこの世界の現状、この基地の置かれている状況ということだろうか?

(そんな世界に元居た俺はテロリストね・・・・・・・)

 夕呼さんが部屋を出る際に呟いた言葉を内心で繰り返す。

 自分が【居た】と言うことは、自分が知っている人たちもこの世界の何処かに存在しているのだろう。 と言うことは、自分が知っている人もこの世界の何処かにいると言うことだ。
 ―――だが世界にいるのは、自分が知っている人たちとは外見が同じだけで中身は別人だ。 正直、そんな人達に会いたいとは思わない。 知人や親しい人と同じ顔をした人に、他人に向けられる眼差しで見られでもしたら・・・とてもじゃないが平静でいられる自信が無い。

 それにだ、その人達がこの世界の自分と同じく生きている保証は何処にも無い。

 まぁ本心から会いたくない・・・・・・・と言えば嘘になる。

 少なくとも麻美には会いたい。 会って話がしたい。 例えそれが自分の知らない麻美だとしても。

 ―――その声を。

 ―――その顔を。

 ―――麻美の仕草を。

 ―――それを、もう一度見たいと思うのは罪だろうか?

 遠くからでもいい、会って話をしたなどとは言わない、ただ一目見るだけでもと思う。 夕呼さんにこの世界の彼女を探して貰えるように頼んで貰うべきかと思案するが……


 ―――もし麻美が死んでいたらどうする?

 例え自分が知らない麻美でも、その事実に自分は耐えられるか? そして、もし耐えられないような自分の姿を夕呼さんに見せれば?

(・・・・・・・そんな軟弱な人間に用は無いだろう・・・・・・・な)

 彼女の価値観を予測して苦笑する。

 これからの事を夕呼さんには考えろと言われているが、正直何を考えていいのかわからない。 自分は軍人では無いし、技術者でもない。彼女たちの手助けになれるとは思わない。

(営業やるにも相手が化け物じゃねぇ・・・・・・・)

 馬鹿な考えだと思いつつ目を閉じる。

 きっと流されて行くのだろう。 どうせ一人じゃ何も出来ない、この世界で自分の出来ることなどたかが知れている。

「さてはて明日は何をしたらよいのやら・・・・・・・」

 見慣れない天井にそう呟き・・・俺はゆっくりと瞳を閉じた。



2010/05/22 修正


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