FC2ブログ

DONの落書き部屋

スポンサー広告

スポンサーサイト

 
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



*Edit   

「Muv-Luv 小説」
第一部

横浜編 第4話

 

「お~い、とっとと起きろ」

「ん~後五分・・・・」

 ベットの上でシーツに包まった亀が、もぞもぞと動きながら眠たげな返事を返してくる。

「麻美、今日の講義はサボれないんだろう?」

「・・・・・・・・・・ん、わかってる」

 顔だけ出して頷く彼女の姿に思わず苦笑してしまう。 カチッとコンロを切り、身につけていたエプロンを外して作った朝食をテーブルに運ぶ。
 大学生の一人暮らしなんて1ルームで十分、との親父の意見で借りた部屋の4分の一を占拠するベットには、付き合い始めて半年の彼女が寝ている。

 思わず嘆息してしまうが、ここ一週間で見慣れた光景だった。

 大学のゼミ研究を泊りがけでまとめるとか親に嘘言って転がり込んできたのだ。 実際、大学から帰ってくるのは遅いし、帰ってきても人のパソコンに噛り付いてレポート作っている当たり真面目にやっているようだが・・・・・・・

「朝飯食べるだろう?とっとと出て来いよ」

 こんがり焼けたトースト、後はトマトとスクランブルエッグ、大して手間を掛けた料理でもないのだが、トーストに塗りつけたバターが溶ける匂いに惹かれたのか、ベットからのそのそと彼女が出てきた。

「う~こっち見ないで・・・・・・・」

 なけなしの自尊心か、それとも乙女心ってやつなのか、決してこちらに顔を見せようとはせずにトーストに手を伸ばす彼女様。

「髪の毛ごちゃごちゃ・・・・・・・」

「はいはい、ほらコーヒー飲むだろ」

「ん」

 渡したカップに口を付けて、スクランブルエッグが盛られた皿を見ボソッと呟く。

「ぐちゃぐちゃ卵だ・・・・・・・」

「スクランブルエッグと言え、アメリカじゃ立派な家庭料理だ」

 トーストをかじりながら答えると、彼女は不機嫌そうにスプーンでスクランブルエッグをつつく。

「ゆで卵がいいって言ってるのに」

「文句言うなよ・・・・・・・一週間ただ飯食ってるくせに」

「ゆで卵はポーランドでは立派な主菜なんだよ?」

「知るか、ここは日本だ」

 スクランブルエッグをトーストに乗せて口に入れる・・・・・・うむ、卵の甘さがなんとも言えない。 ついでにマヨネーズを掛けてっと……

「…むぐむぐ」

 横目で彼女を見ると、文句言いつつもしっかり食べている姿に笑いたくなってくる。

「それで、麻美の大学も休みは5日からなのか?」

「そだよ~今まとめてるゼミの課題が終われば休み~」

「そっか・・・・・・・休み入ったらさどっか行く?」

「・・・・・・・またサーキット?」

 ジト目で答える彼女の視線に気づいてないフリをしてコーヒーを飲む。

「いや、スノボーとか行かない?」

「いいねぇ~・・・・・・・でも車は? アレで行くの?」

 満足そうに頷きながらも、ジト目を更に細めて呟く彼女。
 この女は俺の愛車に文句を付けるのか? 確かに、乗り心地悪くて荷物も載らないしうるさくて燃費も悪い、おおよそ快適な車とは程遠い存在ではあるが。

「どうする?」

「・・・・・・・行く」

「よし、じゃあ人数集めるか」

「ふぇ? 二人で行くんじゃないの?」

「車に文句があるんだろ? レンタカーでミニバン借りるよ。 人数集めて行けば交通費の負担も少なくなるし」

「・・・・・・・う~」

 唸る彼女をそれ以上構わずに携帯でメールを作り始める。 声を掛ければ暇人どもはいくらでもつかまるだろう。 年を越せば就職活動で忙しくなる。 今のうちに遊べるだけ遊んで置かないときっと後悔する。

「ね~女の子も誘うの?」

「ん? まぁな・・・・・・・じゃないと野郎はこないだろうし」

「けっ、どうせタカちゃんなんて他の女の子のお尻でも追いかけてればいいよ」

「ああ・・・・・・・そりゃ魅力的な話だな」

「ッ!? ・・・・・・・ほ、ほぅ・・・・・・・こんなナイスバディな彼女をほっといてそんな事言えるの?」

「黙れ、洗濯板」















 横浜編 かれと小さなウサギちゃん


 2000年10月10日 06:00
 国連太平洋方面第11軍・横浜基地 兵士宿舎


<社 隆>

「・・・・・・・夢か・・・・・・・」

 それが夢じゃなかったらどんなに幸せだろうか?

 人は今の自分に不満があると、良かった頃の自分を無意識に思い出すと言う。 過ぎ去った楽しかった記憶を思い出し、その幸せを反芻するそうだ。
 だからだろうか、麻美と過ごしていた時間を思い出してしまったのは?
 日常だと感じていた日々、それがどれほど幸せなことに気づいていなかった自分に嫌気が指す。

(なんだ・・・・・・・やっぱりナーバスになってるのかな)

 軽く目元に違和感がある。 少し泣いていたのかもしれない。

「ん、今何時だろう・・・・・・・ッ!?」

 目を擦りながら起き上がると、何時の間にかベットの傍に人が立っていた。

「え? へ? ・・・・・・・誰?」

「おはようございます」

 こちらが狼狽えるのも構わず、相手は挨拶をしてペコリとお辞儀をしてくきた。

「いや、これはご丁寧にどうも・・・・・・・おはようございます」

(なんだ、またガイジンの子か!? ってか誰?)

 内心の動揺を悟られないように返答するが、寝ぼけた頭は?マークで一杯だった。

「社霞です」

「ああ、社さん。 どっかで聞いたことが・・・・・・・・・・・・・・は?」

 返ってきた言葉に唖然としてしまう。 目の前の少女が昨日から会いたくて仕方なかった社霞だと言う。
 夕呼さんの指示で、偽りではあるが今後自分と兄妹の設定で過ごしてくれる子。

 だが、しかし・・・・・・・

(む、無理があるだろ夕呼さん・・・・・・・)

 冷や汗を流しながら、目の前の少女に改めて目を向ける。

 年は・・・・・・・13、4ってとこだろうか? まぁ、将来が楽しみな可愛らしいちびっ子だ。
 さらさらの銀髪に、青い瞳、でもって白い肌・・・・・・・ああ、人形見たいな可愛さってのはこの子みたいなのを言うんだろうな。

「・・・・・・・てか、日本人じゃないし」

 ロシアか、少なくとも北欧の生まれだろう。 社霞、なんて日本人の名前にまんまと騙された。

(ああ・・・・・・・どうしよう、ってか俺子供の相手上手くできないんだよなぁ)

「は、初めましてだね。 ええっと・・・・・・・金谷隆です」

「はい、香月博士からあなたのことを聞いています」

「あ、そう・・・・・・・じゃあ改めて宜しく」

「はい、宜しくお願いします」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

 なんだろう、この気まずさに軽いデジャブを感じる。 つい先日もガイジンさんと同じような会話をしたような・・・・・・・

「えっと・・・・・・・」

「出身はソ連です」

「!? そ、そう・・・・・・・ボルシチ好き?」

「食べた事ありません」

 玉砕。 なんか昔聞いた国の名前だが今はどうでもいい。

「そうか・・・・・・・とりあえず着替えたりするからさ。 外で待ってて貰えるかな? 出来れば色々話たい事もあるしね」

「はい・・・・・・・バイバイ」

 こちらの指示に素直に従い、霞は手を振って部屋から出て行く。
 その姿に、いい子だと思いながらいそいそと着替えようとし、起床ラッパのサイレンにびっくりしたのはご愛嬌だ。








「博士は忙しいので、これを渡すようにと」

「はいはい・・・・・・・ほう」

 霞から一枚のノートを受け取りざっと目を通す、先日貰ったノートと同じ字で書き綴ってある。

(適当に話しを合わせろ、そして面倒事を持ってくるなか・・・・・・・)

「優しいのか、優しくないのかわからないな」
 
 裏をめくると更に一言。

(―――霞に手を出したら殺す)

「うわ・・・・・・・シンプルだな、おい」

 裏を返せば、好きにしていいって事なのだろうが、どうも信用され過ぎな気がする。

 突然現れた異邦人、平行世界を立証する根拠はあれど、自分を人として信用する根拠は一切無い筈だ。
 泳がされているのか、それとも個人が一人で叫んだ所で何の影響もないと思っているだけか? なんにせよこちらは夕呼さんの指示に従うほか道は無い。

「・・・・・・・改めて宜しくな、霞ちゃん」

「はい、宜しくお願いします」

 言って二人で頭を下げ合う。

(さて・・・・・・・どうしたものか)

 霞を椅子に座らせ頭を捻る。 これからの二人の関係だ、話を合わせておかないと大変な事になる。

「幾つか質問があるけどいいかな?」

「はい」

「それじゃ・・・・・・・霞ちゃんは俺と兄妹ってことで大丈夫?」

「はい」

 元気は無いが、しっかり頷いてくれる霞ちゃん。

(そ~言えば、こんな子がなんで軍の基地にいるんだろう?)

「えっと・・・・・・・お父さんとかお母さんがこの基地で働いているのかな?」

「いません」

「?・・・・・・・お兄さんとかお姉さんは?」

「いません」

(はて・・・・・・・?)

「じゃ、じゃ、親戚とか知り合いとかいるののかな?」

「親戚はいません。 知り合い・・・・・・・私の知人は香月博士だけです」

「・・・・・・・夕呼さんの子供じゃないよね?」

「違います」

 淀みなく答える霞の言葉に眩暈を感じる、レスポンスよく答えが返ってくるのはいいのだが抑揚が無さ過ぎる。

「や、社霞って名前は本名?」

「はい、香月博士が決めてくれました」

「・・・・・・・こんな事聞いたら悪いけど、霞ちゃんは一人なのか?」

「はい」

「ぬぅ・・・・・・・」

 返って来る抑揚の無い声。 その言葉の持つ意味に、思わず聞いてしまった己の迂闊さと無神経さに反省する。

「気にしてません」

「そう・・・・・・・か、他にも社って夕呼さんが呼んでる人がいるか知ってる?」

「いえ、私と貴方だけです」

「了解・・・・・・・じゃあこうしよう、社家の養子って事でいいかな?」

 言葉の意味がわからなかったのか、霞は首を傾げる。

「俺の家が社って名前で・・・・・・・そこに霞を養子で迎え入れたってこと、わかる?」

 ぴこぴこと霞が頷くのと連動して、頭の上のメタリックなカチューシャが動く。

(か、可愛いかも・・・・・・・アレは夕呼さんの趣味なのか?)

「それで、霞ちゃんが元々いたころの話聞いていいか?」

「・・・・・・・言いたくありません」

 はっきりとした拒否の言葉。 その表情もなにやら辛そうなものが混じっている。

「ああ、ごめんごめん!! 嫌ならいいんだ、変なこと聞いてごめんな」

「・・・・・・・はい」

 きっと色々あったのだろうと勝手に納得する。
 出来ればどうして養子に来たとかの話を合わせるのに聞きたかったのだが、本人が話す気がないのでは仕方が無い。 無理強いは良くないと思うし。

「ん~・・・・・・・・霞ちゃんの家と社って家の間に夕呼さんを入れるか・・・・・・・夕呼さんを通して社家に来たって事にすれば・・・・・・・それで、俺があんまり家に帰らずにプラプラしてる間に社家の親が死んで、霞ちゃんが夕呼さんのトコに引き取られ、俺が夕呼さんに呼ばれてココにきたと・・・・・・・まぁ、無理やりだがこんな感じかな?」

 矢継ぎ早に話す言葉に、霞は耳を傾け首を何度も頷かせた。 それに合わせて頭のカチューシャが何度も動く。

「はい、わかりました」

「よし、じゃあ朝飯でも食べに行くか。 朝ごはん、遅くなってごめんな?」

 ふるふると首を横に振る霞。 言葉使いは何処か大人びているが、仕草一つ一つはまだまだ子供らしい少女の姿に自然と笑みが零れた。










 ぴょこぴょことメタルカチューシャ(命名)が視界の端で動く。

 先日までと違い、病院服を着ているわけじゃないので周りから視線を集めることが無くなるかと思ったが、別の理由でどうやら周りの目を引くらしい。

(サングラス掛けて野郎が美少女と一緒にいればそりゃ怪しかろう・・・・・・・)

 幾つもの視線が背中に突き刺さるのを感じながら、食堂の注文待ちの列に並ぶ。

(やはりメガネにしてくれと、後で夕呼さんに提案しよう)

 このままじゃ事情を知らない人間には、間違いなく変態呼ばわりされてしまう。

「霞ちゃん、注文は俺がしとくから席で待っててくれないかな? 何食べたい?」

 そう聞くと霞が指差すメニューは合成さば味噌定食。 夕呼さんと好みは同じなのかもしれない。
 テクテクとテーブルへ向かっていく霞の後姿を見送りつつ痛む胃を抑える。 ここ2,3日で色々な事が起きて気疲れしているのかもしれない、我ながら繊細になったものだ。

「すみませ~ん、さば味噌定食ときつねうどんお願いしま~す」

「はいよ、あれ今日は兄妹揃ってなのかい?」

 何故、このおばちゃんは何時も自分の目の間に現れるのだろうか?

「ええ、今日は兄妹水入らずですから」

「そうかいそうかい、直ぐにできるから待ってな・・・・・・・にしてもやっぱ似てない兄弟だねぇ?」

「ほ、ほら、霞ちゃんはうちの養子ですから」

「あれ、確か昨日は腹違いの兄妹って?」

「ああ、うまそ~!! 貰ってきますね、ありがとうございます!!」

 不味い話になりそうだったので、強引に会話を切り上げてお盆を受け取る。

 駄目だ、おばちゃんと話すとどこかでボロがでる、プラスおばちゃんの噂好きほど怖いものはない。 おばちゃん同士のネットワークによって、噂話は光の速さで広がって行くのだ。 あれは絶対無線で頭の中がリンクしてるに違いない。

「ふぅ・・・・・・お待たせ」

「ありがとうございます」

 霞の前にお盆を置いて隣に座る。 夕呼さんや伊隅大尉と違って一応兄妹なのだ、隣に座ってもおかしくはないだろう。

「うどん、ですか?」

「ああ、なんだか胃の調子が悪くてね・・・・・・・じゃあ、いただきます」

「いただきます」

 霞も手を合わせて復唱する。 きちんと躾が出来ている霞の姿を微笑ましく見ながら、うどんをすする。

(これからどうしたものか・・・・・・・と言うよりも俺はここで何をすればいいんだ?)

 ふとそれに気づき箸を止める。

(夕呼さんは考えなさいと言いながら、霞ちゃんと兄妹ごっこをやれと言う・・・・・・・まさかベビーシッターの真似事をしろと言うのか?)

 考えてみれば、どこを見ても流石に霞と同い年くらいの少女は居ない。 この基地の中では間違いなく自分は仕事が出来ないお荷物、そんな自分に与えられた役割に子供のお守りは正にうってつけではないだろうか?

「・・・・・・・どうした?」

「いえ、なんでもありません」

 何故か霞も箸を止めてこちらを見上げている。 どことなく不機嫌そうな気配を漂わせているが、声を掛けると黙々と食事を再開し始めた。 器用に箸を扱う霞を見て、やはり日本での暮らしが長いのだろうと思う。

(一人で、こんな基地に居て・・・・・・・寂しいだろうな)

 そう霞に同情した後、自分も似たようなものだと気づく。

「・・・・・・・宜しくな霞ちゃん」

「? はい、宜しくお願いします」

 都合三度目の挨拶、傍から見れば変な兄妹だろう。

「霞ちゃんは、普段何をしてるんだ?」

「香月博士の手伝いをしています」

「ふ~ん、なるほどね・・・・・・・」

 お茶汲みとか簡単なことだろうと想像してみる。

「今日は大丈夫なの?」

「はい、今日は貴方と一緒にいるようにと言われています」

「そ、そう・・・・・・・ちなみに俺と居て楽しい?」

「? 意味がわかりません、命令ですから」

 きょとんとした様子で答えてくる霞を見て、心の中で涙を流しながら思う。

 ―――やはり子供のあやし方は苦手だと。









 (ぬぅ・・・上から目線で話しているのが悪いのか・・・・・・・このぐらいの年の子は、大人と同じように扱ってあげたほうが喜ぶのか・・・・・・・)

「あ、こんにちは~」

 (いや、返ってそれが馬鹿にされていると思うんじゃないだろうか? となると、逆に突き放してツンデレに振舞えば・・・・・・・野郎のツンデレってキモイなおい・・・・・・・)

「社さん、今日はご兄弟で一緒なんですね」

 (こんなことなら大学で児童心理学の講座でも受けておけばよかった・・・・・・・いや霞ちゃんぐらの年だと逆効果か? ・・・・・・・一緒に遊ぶにしても・・・・・・・D○?いやWI○か!?・・・・・・・あんのかココに!?)

「私も妹がいるんですよ。 中々会えなくて寂しいんですけど、社さんは霞さんに会えて良かったですね」

「遙・・・・・・・多分この人聞いてない」

「…隆さん」

「ん? どうした霞ちゃん? P○Pなら確か車の中にあったような・・・・・・・あ、こんにちは」

 くいくいと、霞に服の袖を引っ張られて思考を中断すると、目の前に昨日の二人連れが立っていることに気づいた。

「こんにちは~、ご一緒しても良いですか?」

「ええ、どうぞどうぞ。 涼宮少尉と速瀬少尉でしたね」

 笑顔で席を勧めると、涼宮少尉はニコニコと笑い、速瀬少尉は昨日と違い胡散臭そうにこちらを見ながら腰を下ろした。

(凸凹コンビだな、この二人・・・・・・・)

 涼宮少尉は話し方から仕草まで全身で癒しのオーラを放っている。 天然? と、言ったら失礼かもしれないが彼女からはそんな印象を受ける。 対して速瀬少尉は昨日見たときは立派な軍人さんと言った印象だったが、今日はどこかネコ科の猛獣を思わせるオーラを醸し出している、ような気がする。

「今日は兄妹ご一緒なんですね?」

「ええ・・・・・・・ってあれ? どうして兄妹だって?」

 涼宮少尉の言葉に首を傾げる、この二人に兄妹がいると言った覚えはない。 それとも、それだけ霞ちゃんがこの基地で有名なのだろうか?

「霞さんとは何度も会ったことがありますし、先日隊長からお二人の事も聞きました」

「隊長? ・・・・・・・伊隅大尉ですか?」

「はい、サングラス掛けた不審者がいるぞって」

「ちょ、ちょっと遙!?」

(―――ほぅ、それはそれは。 やはり影ではそんな言われようですか)

 昨日話した時に受けた伊隅大尉の好印象を下方修正。

「なるほど、そうですか。 ・・・・・・・伊隅大尉とは昨日速瀬少尉のことでお話をしたんですけどね。 内心ではそう思っていたと……」

「わたし? ・・・失礼ですが大尉はなんと?」

「・・・速瀬少尉が自分に言った事と同じですよ。 部下を救ってくれてありがとう、と」

「そう・・・・・・・ですか」

 答えると、何故か悔しそうに唇を噛み締めて俯く速瀬少尉。

「ええ。 その後色々話をして、面白い人だな~と思ったんですけどね。 部下思いの……いい上司に恵まれましたね」

「・・・・・・・」

 話を続けると、速瀬少尉に引き続き涼宮少尉まで黙ってしまう。

(あれ? 地雷あったのか今の会話の中に?)

 ふと黙っている霞が気になって横を見ると、この雰囲気を感じ取ってやや気まずそうにしている……が、そんな様子よりも皿の上から一切移動していないニンジンの和え物に目が行く。 まさか・・・・・・・と思うと、こちらの視線に気がついたのか、ピクッと頭のメタルカチューシャを動かしながら霞がこちらを見上げる。

「隊長は・・・心から社さんに感謝しているんだと思います」

「? ・・・・・・・そうなんですか?」

 急に口を開いた涼宮少尉へ意識を引っ張られ、霞から目を離す。

「先日の作戦で…… 私たちは多くの仲間を失いましたから」

「ッ!?」

「―――あの時、光線級に撃たれて堕ちた水月を見た瞬間、私も本当に生きた心地がしませんでした」

「・・・・・・・」

 速瀬少尉は何も話さない、話さないが、その雰囲気から読み取れるものがある。

(ああ・・・悔しかったんだな)

「だから水月を・・・・・・・私の親友を助けてくれたことに本当に感謝します」

「・・・・・・・私は、もう墜ちない」

 ギリっと歯を噛み締める音が聞こえる。 速瀬少尉の顔に映る感情は・・・・・・・仲間を失った悲しみと、自身への悔しさと、後悔だろうか。

「ふぅ……俺もね、速瀬少尉を抱き上げて逃げるのに必死でしたよ。 しかもあの服でしょ? いや~何処を掴めばいいやら焦りましたよ、ほんと」

「なっ!?」

 笑いながら言った言葉に、速瀬少尉は顔を真っ赤にして俺を睨んだ。

「あ、あんたッ!! 変なとこ触ってないでしょうね!?」

「さぁ・・・・・・・気絶してたんでしょ? 俺も必死だったか覚えてないな~」

「な、なんて奴!!」

「や、やめなよ水月~社さん私たちより年上なんだし、副司令のお客様だよ~」

 止めに入った涼宮少尉と噛み付いてくる速瀬少尉を見て、いいコンビだと考えを改める。

「まぁまぁ、それと・・・・・・・あんまり俺に敬語とか話す必要はないですよ? 生憎と軍属じゃないし・・・・・・・お客って言っても居候みたいなもんですから」

 言いながら、霞の頭を優しく撫でる。 動きを止めた霞に悪いと思いつつ、これも演技だから許してくれと内心で謝る。

「いつもうちの霞ちゃんがお世話になっております」

 深々と頭を下げる、おそらくコレでさっきの雰囲気は崩れただろう。

「・・・・・・・はっ、それもそうね」

「ちょ、ちょと水月?」

「遙も言ってたでしょ? サングラス掛けた変なロリコンがいるから見に行こうって」

「!?」

「ほぅ・・・・・・・」

「ってか、二人とも似てないわよね? ほんとに兄妹なの?」

 急に速瀬少尉の態度が変わった。 なるほどこっちが地なのだろう、ならばこちらも営業スマイルで行く必要は無い。

「ああ、霞ちゃんは家で引き取った養子でね。 俺がぷらぷらしてる間にうちの親も死んじまってな、それで知り合いだった夕呼さんのところに霞ちゃんを預かってて貰ってたんだよ。 俺と会うのは久しぶり・・・・・・・と言うか実は顔もろくに合わせたこともない兄弟なんだがな。 だからこうやって残された兄妹二人……飯を食べて親睦を深め合っているわけだ」

 言いながら霞の皿の上に最後まで残ったニンジンを一つ摘んで食べる。

「!!」

 それを見た霞が今まで見た中で最高の反応を見せた。 尊敬と羨望の眼差し? ・・・気のせいだとは思うが、目がキラキラ光っているような気がする。

「あちゃ~そうなんだ。 ・・・・・・・ごめん無神経な事を言って」

「いんや、昔の事だ気にはしてない・・・・・・・それとこのサングラスは生まれつき視力がおかしくてね。 つけてないと普通の光でもまぶしいくらいなんだよ。 だから、変だと思わないで気にしないでくれ」

 嘘に嘘を重ねる。 まぁ、これぐらいの口八丁ならお手のものだ・・・・・・・だてにサラリーマンやってたわけじゃない。

「いや、それは遙が・・・・・・・」

「水月」

 その言葉にギョッとする。 先程まで涼宮少尉が放っていた癒しのオーラが消え、逆に負のオーラとしか言えないものが放たれていた。

 ―――この女は小動物なんかじゃないと、内心で直感する。

「そ、それはそれとしてだ・・・・・・・この後、霞ちゃんとスキンシップを計りたいんだが……何か、遊ぶ道具とかあれば貸して貰えると助かるんだが?」

「遊ぶ道具ですか?」

 一瞬で癒しモードにチェンジした涼宮少尉が首を傾げる。

「ええっと・・・・・・・トランプとかUNOならあるわよ?」

(トランプ!? UNO!?)

「私は、お手玉と・・・・・・・囲碁とかなら」

(お手玉!? 囲碁!?)

 二人の提案に、口には出さずに驚愕する。

「いいわ、後で部屋まで持っていってあげるわ」

「そうだね。 いいですか社さん?」

「あ、ああ・・・・・・・でも迷惑じゃ・・・・・・・仕事とか?」

「さっき言ったでしょ・・・・・・・部隊が壊滅して今は開店休業状態よ」

 立ち直れないこちらを尻目に、とっとと二人は食事を終えて席を離れていってしまった。

「なぁ、霞ちゃん・・・・・・・」

「はい?・・・・・・・ッ!?」

 霞の皿に残っているニンジンを口に運びながら続ける。
 
「・・・・・・・遊びって言ったら何を思い浮かべる?」

「・・・・・・・絵を描くことです」











「よし、どれからやろうか?」

 速瀬少尉たちが持ってきてくれたトランプ、UNO、囲碁、お手玉をベットの上に並べながら霞に問いかける。

 ―――世界が違うと娯楽も違う、娯楽に廻す余力などこの世界はないのだろう・・・・・・・

 二人も誘ったのだが、部隊が動かなくても自主練は出来ると言って丁重に断られた。

 あんな二人だが本質はやはり【兵隊】なのだと再認識する。 遊びやお洒落もまだまだしたい年頃なんだろうが、この世界に生きている彼女たちにはそれが許されない。 だったら、こうして霞と遊んでいる自分はなんなのだろうと自問自答してしまう。

「・・・・・・・どれでもいいです」

「駄目だぞ霞ちゃん、そんな主体性の無い日本人みたいなセリフ言っちゃ」

 霞の言葉に苦笑しつつ、お手玉を一つ霞の小さな手に乗せてやる。
 今出来るのは目の前のお姫様を楽しませることだ。 それが自分に出来ることなら精一杯やろう。

「お手玉なんて・・・・・・・昔ばあちゃんの見た以来だな・・・・・・・」

 一個、二個、三個、と増やしながら玉を放る。

(おお、思ったよりも出来る・・・・・・・ってか、この中身もやはり合成品の小豆なんだろうか?)

 そんなどうでもいいことを考えながら霞を横目で見ると、一個放り投げては落とし、二個放り投げては落とす。 そんなことを霞は何度も繰り返していた。

「難しいです・・・・・・・」

「ぷっ、そうだな・・・・・・・じゃあトランプでもやるか、ババ抜きってわかる?」

 メタルカチューシャをうな垂れさせる霞の姿に思わず吹き出しそうになりながら、トランプを掲げて見せる。

「はい」

 小さく答える霞の前に、苦笑しながらトランプを配る。 勝負事には違いないのだが、今回は霞を楽しませるのが前提だ。 わざと負けるのもいいだろう。

 ―――などと思いながらやっていると、

「ま、負けた・・・・・・・」

 全部が全部霞の手札と一致し捨てられていく。 最後のジョーカーまで一瞬の迷いも無く外されて、流石にショックを受けてしまう。

(・・・・・・・裏になんか書いてあるのか?)

 裏面が微妙に違うトランプもある、そういったイカサマで負けたのなら霞を叱らなければならないだろう。

 ―――イカサマをしていいのは、裏に呼ばれる覚悟がある奴だけだ!! と叫ぶために。

「イカサマしてません」

「あ・・・・・・・そうだよね」

 こちらの心を見透かしたかのような言葉を掛けてくる霞に肩を竦めて誤り、気を取り直して次はUNOを配る。 だが、ドローカードをドローカードで返され、色変更で的確にこちらに無い色を当ててくる。

(な、なぜだ!!完璧な戦術のはずが!?)

 内心の動揺を隠しながら今度は囲碁を並べる……が、どんどん劣勢に追い込まれていく。 霞も勝利を確信しているのだろう、表情に余裕がある。
 霞は表情が乏しい少女ではあるが、注意深く観察して見ると、楽しいとか、嬉しいとかの感情が見て感じ取れる・・・・・・・主に頭のメタルカチューシャの動きで。

「霞ちゃん・・・・・・・」

「?」

「・・・・・・・おっと」

(―――ベットの上に碁盤を置いたのが間違いだ!! 戦術と戦略の違いを教えてやる!!)

 そう内心で勝ち誇りながら、ベットを揺らして碁盤を崩そうとするが。

「・・・・・・・やらせません」

 しっかりと霞に碁盤を抱きかかえられて、それも失敗した。

 流石に、大人げ無かったかもしれない・・・・・・・結局、霞が一番喜んでくれたのはトランプを使った簡単なマジックと、意地になって完成させたトランプタワーだった。


「むぅ、思ったよりも遅くなったな・・・・・・・」

 部屋に掛けてある時計を見ながら呟く。 昼、夕と食堂には行きつつも、必死になって完成させたトランプタワーのせいで思いのほか時間を使ってしまったらしい。

「霞ちゃん、そろそろ自分の部屋に戻る?」

「・・・・・・・はい」

 答える霞だが、少しだけメタルカチューシャがうな垂れる。

 ―――どうやら嫌らしい。

(もうちょっとぐらいならいいか・・・・・・・)

 どうせ怒る親がいるわけじゃない。 しかも此処は軍の基地内だ、帰り道に何かあるとは思えない。

「ありがとうございます」

「ん?・・・・・・・そうだな、碁でも使ってオハジキでもするか」

 今、口にして言ったかな? と思いながら碁盤を引っ張り出す。

 黒と白の碁が碁盤の上を走る。

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

 霞は普段からあまり話さない子なのだろう、彼女に合わせて沈黙でいるのも慣れてきた。

(こんなんで、今日一日楽しんでくれたのかな)

「・・・・・・・隆さん」

「ん、なんだい?」

「今日はありがとうございました」

 思わぬ霞からの言葉に唖然としてしまう。 恥ずかしそうに俯きながら霞は続ける。

「こんな風に・・・・・・・遊んだのは初めてです」

「・・・・・・・そうか」

「隆さんが一生懸命、私を楽しませようとしているのも分かりました」

「光栄です、姫様」

「隆さんも大変なのに、どうして私と遊んでくれたんですか?」

「・・・・・・・へ?」

(夕呼さんの命令・・・・・・・じゃないし・・・・・・・あれ? なんでだ?)

 返答に詰まって思わず考えてしまう……霞が続ける言葉の意味に一瞬反応出来ないくらいに。

「隆さんが、この世界の人じゃないのは知っています」

「そうか・・・・・・・まぁね、ゲームがコレなのは流石にびっくりしたけ・・・・・・・ど」

 言葉が尻すぼみになりながら霞を凝視する。

 今、彼女はなんと言った? 俺がこの世界の住人ではないと言った? 知っているのか? それを夕呼さんが教える程の立場に彼女はいるのか!?

「どうしてですか? 貴方はこの世界に一人ぼっちです。 大切な思い出や、大切な人もいないのに、どうして笑えるんですか?」

「ッ!?」

 霞の言葉が胸に突き刺さる。
 この世界に飛ばされた事実を何処かで他人事のように考えて、あまり思い出さないようにしていた。 こちらを見据える霞の視線から無意識に目を逸らし、ポケットに入っている・・・・・・・麻美に渡した筈の指輪を握る。

「不安の裏返し・・・・・・・だからかな。 いや、どうだろう・・・・・・・」

「・・・・・・・」

 霞は何も話さない。 こちらの言葉を待っているのだろうか?

「自分の現状に目を逸らしているわけじゃないんだ・・・・・・・もうそんな子供見たいな年じゃないしね。 ただ・・・・・・・そうだな。 この世界に達観・・・・・・・いや絶望しているのかもな」

 言って天井を仰ぎ見る。

「この世界の状況、まだ詳しくは知らないけど・・・・・・・簡単に聞いて理解したよ。 ここは・・・・・・・地獄だってね」

 こんな言葉を霞に言っていいのか悩みはした。 だが、霞はきっとこちらの言いたいことを既に理解しているような気がする。

 ―――確信は無いが、そんな気がした。

 まだ、13、4の子供だが・・・・・・・彼女が抱えるモノは自分よりも大きいのだろう。 SFやマンガの話ではないが、こんな幼い子が恐らく夕呼さんしか知らない情報を持ってこの基地にいる。 その幼さで基地副司令の傍にいるのだ……明らかにこの子は 【普通】 じゃない。

 ・・・・・・だが、それがどうしたと思う自分がいる。

 例え、何かを秘密を抱えていても霞は子供だ。 自分の拙い行動に一々反応してくれる一人の女の子だ。 まだたった一日しか一緒にいないが、それくらいは見て取れる。

 だからここから先を霞に言っていいか悩みはするが・・・・・・・まぁ隠すだけ無駄だろう。

「この世界はね・・・・・・・もう駄目だと思ったのさ」
 
 間接的に聞いたこの世界の情報。 BETAとの戦争で疲弊した人類、住むべき土地を追い出され、世界の隅に追いやられている人々。

「必死になって世界を救おうと頑張っている人たちに、こんなこと言ったら殺されるかもしれないけどね」

 自著気味な笑みを浮かべ、パソコンの傍に置いてあった携帯電話を取り出して操作する。

 画面には相変わらず圏外の二文字。

 その表示に嘆息しながらカメラで撮影した画像データを検索し、一枚の画像を呼び出す。 表示された画像は珍しくも無い風景、きらびやかに光る町、通りを行きかうたくさんの人々……だがそういった元の世界にあった当たり前の風景がこの世界には残されていない。 BETAと言われる敵に勝利しても、果たしてこの世界は自分が元いた世界のような世界へ再建することができるのだろうか?
 ・・・・・・・時間さえ掛ければありえるかもしれない。 ただ、失ったモノはきっと多い・・・・・・・世界的な遺産や貴重な芸術、音楽、そして人としての道徳。

「―――ほら、これが俺の世界だよ」

 言いながら霞に見せる写真は満点に輝く星・・・・・・・ではなく街の光をバックに並んでいる二人の画像。

「それがね、街の光なんだよ・・・・・・・日本の横浜のね」

「・・・・・・・」

「此処と同じ、横浜なのに随分と違うよね・・・・・・・昨日、屋上から見た風景にびっくりしたよ。 同じ横浜だって言われても信じられなかった」

「・・・・・・・この女の人が隆さんの大事な人ですか?」

「ん?・・・・・・・そう、麻美って言うんだ。 一応結婚する筈だったんだけどね」

 霞の問いに苦笑しながら答えるが、果たしてそれが叶うのかどうかは分からない。

「・・・・・・・隆さんはきっと帰れます」

「・・・・・・・霞ちゃん」

「帰ってください・・・・・・・こんなに二人は幸せそうにしている・・・・・・・だから」

 小さく、か細い声で呟く霞。

「絶望しないでください・・・・・・・生きてください、その人のために」

「・・・・・・・ああ」

 ただ、それだけ、それだけの言葉を返す。

 霞がその写真から何を思ってそこまで言ってくれるのは分からない。 ただそれでも「生きて欲しい」と願う少女の気持ちを無下にはできない。

「―――だけどな、霞ちゃん」

「・・・・・・・はい」

「俺は霞ちゃんのためにも死ぬわけには行かないんだぞ?」

 笑顔で霞にそう告げると、霞はきょとんとした表情を浮かべた。

「どうしてですか?」

「だって霞ちゃんは俺の妹なんだからな」

「?」

「せっかく可愛い妹が出来たんだ、霞ちゃんが幸せになるのを見届けないとな・・・・・・・兄として」

「で、でも、私たちは・・・・・・・ほんとの兄妹じゃ」

「ああ、でも嫌だなぁ・・・・・・・霞ちゃんを俺に下さい!! とか言う野郎を見たら・・・・・・・冷静でいられるかな?」

 そのシュチュエーションを想像し、本気で悩んでしまう。

「た、隆さん・・・・・・・」

「むぅ……バージンロードで新郎を殴ってしまうかもしれない・・・・・・・その時は許してくれ霞ちゃん」

「そ、そんなことないです・・・・・・・」

 こちらの言葉に狼狽してうな垂れる霞。 そんな少女の姿を見ていると、自然と手が伸びて小さな頭を撫でてしまった。

「・・・・・・・」

 さらさらの髪を梳きながら続ける。

「俺はね・・・・・・・本当は、弟か妹がいる筈だったんだ」

「そう・・・・・・・なんですか?」

 他人に撫でられるなんで嫌がるかな? っと思ったが、霞が嫌がる素振りを見せないので頭を撫でながら言葉を続ける。

「そう・・・・・・・ってもね、俺が7か8の時に母親が死んで一緒にその子も死んだんだよ。 まぁ、もう昔のことだから気にしてないけど」

 最早母親の記憶すら曖昧だ。 今更思い出しても涙が出てくるわけじゃない。
 ―――ああ、昔そんな事があったなと・・・・・・・それぐらいの感情しか湧いてこない。

「だからさ、霞ちゃんと兄弟やれって言われて最初は焦ったけど、いるはずだった妹が突然やってきたって感じで嬉しいんだよね」

「・・・・・・・はい」

「しかもこんな可愛いし。 ウサギっぽいし」

 そう言いながら優しく撫でていた手に力を入れて、うりうりと霞の髪の毛をぐちゃぐちゃにする。

「や、やめてください」

「はははは、なんか湿っぽくなっちまったな・・・・・・・忘れてくれ、霞ちゃん」

「・・・・・・・忘れません」

 不満たっぷり、不貞腐れた顔をして霞は言ってくる。

「隆さんの言った事、忘れません・・・・・・・今日遊んでくれたことも忘れません」

「おいおい、明日も、明後日も遊ぶのにそれ全部覚えてるのか?」

「!?・・・・・・・もちろんです」

 小さなこぶしを握り締めて霞は頷く。 その様子があまりにも微笑ましくて思わず笑ってしまう。

「じゃあ・・・・・・・霞ちゃん、遊ぶ代わりに一つだけお願いしてもいいかな?」

「はい・・・・・・・隆さんに私に出来ることなら」

 うむうむ、十分出来るはずだ・・・・・・・別に変なこと頼むわけじゃないんだし。 ついで色々考えながら霞に向き合う、何故か霞の顔が赤い気がするが・・・・・・・はて、暖房強すぎたか?

「俺をのことをね・・・・・・・お兄ちゃん(はぁと)呼んで欲しいんだ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

(ああ、そんな目で見ないでくれ霞!! 俺はロリコンじゃないんだ、ただ悪ふざけが大好きなだけなんだ!!)

「・・・・・・・兄さんとか、兄貴とか、なんでもいいです」

「・・・・・・・はい、兄さん」

 がっくりとうな垂れ反省した俺に、小さくだが霞は兄と呼んでくれた。

「おおぉ、いい感じだ霞ちゃん」

 霞は自分で言っておいて恥ずかしくなったのか、体を左右に振ってもじもじしている・・・・・・・うん、涼宮少尉と違って本当の小動物とはこういうのを言うのだろう。

「あの・・・・・・・私もお願いをしても良いですか?」

「ん? なんだい? トランプのネタ晴らしは生憎できないぞ霞ちゃん。 トリックがわかったら面白みが無くなるし」

「私も・・・霞って呼んでください」

(なんと・・・!!)

 霞の訴えに衝撃を受ける。

(そうか、やはり子供扱いは嫌だったのか・・・・・・・すまんな霞)

 自分の迂闊さを呪いつつ、手遅れになる前で良かったと内心で安堵する。

「ああ・・・・・・・霞って呼ばせて貰うよ」

「はい」

 嬉しそうな霞の小さな手を取る。

「何度目になるか忘れたけど・・・・・・・よろしくな霞」

「はい、兄さん」

 ―――四度目の誓い、二人の小さな絆がこうして結ばれる。




 ―――妹は思う、偽りの兄は、いつか元居た平和な場所に帰って欲しいと。



 ―――兄は思う、偽りといえ妹のためにも、この世界で生きて見ようかと。





 何時かは離別する二人の間に・・・・・・・小さな、ほんの小さな絆がこの世界に生まれた。








 2010/05/22 修正


*Edit ▽TB[0]▽CO[1]   

~ Comment ~

修正依頼 

いつも楽しみにさせてもらっています。
本文が途中で途切れて完全に表示されていないようなので修正してもらえませんか?
当方の環境はWIN7 64bitのIEです。
管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。