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*Edit   

「Muv-Luv 小説」
第一部

横浜編 第6話

 


横浜編 かれとかのじょの思い


2000年10月12日 18:00
横浜基地・PX


<社 隆>

 霞の講座も終わり彼女を見送ってから特にすることもなかったので基地内をブラブラと散歩しようとしたが、ここは軍の基地であり階級もない民間人が歩きまわれる場所などたかがしれていた。
 結局いつものPXでお茶でも飲んで夕食までの時間を潰そうかなと思い行ってみると、そこで数少ない見知った女性を見かけてしまった。

「あれ、涼宮少尉?」

「あ・・・・・社さん、こんにちは」

 ボーっと何処を見るでもなく、席に座っていた涼宮少尉に声を掛け相席させて貰う。

「一人なんて珍しいですね?」

「はい・・・みつ、速瀬少尉は今、自主訓練中ですから」

 ニコッと微笑みながら彼女はそう答えてくれる。
 先程見かけた様子は落ち込んでいる風だったが気のせいだろうか?

「そうですか・・・・・・・ああ、こないだ借りたお手玉とか、そろそろお返ししますね」

「そんな、いつでもいいですよ」

 ニコニコと笑みを浮かべて彼女は答えてくれるが、どうにも覇気が無いような気がする。
 もしかしたら速瀬少尉が居ない時など、一人でいる彼女はこんな様子が当たり前なのかもしれないが。

「こんな話したら失礼でしょうけど・・・・・・・速瀬少尉と一緒に訓練しないんですか?」

「・・・・・・・ええ、私はCPですから。衛士の速瀬少尉といつも一緒を訓練が出来るわけじゃないんです」

 CP,先程霞の講座で聞いた単語だ。部隊での指揮管制を担当する部署だと記憶している。

「そうだったんですか・・・・・・・てっきり速瀬少尉と同じ衛士かと思ってましたよ」

「・・・・・・・あの、社さんはなんでここにいるんですか?」

 唐突な質問に面食らってしまう。
 彼女がどういった意図でその質問をしてきたのは推測しか出来ないが、その答えは・・・・・・・今の自分自身が一番欲しているものだった。

「・・・・・・・」

「あ、すみません・・・・・・・失礼なこと聞いてしまって」

「いや・・・・・・・気にしないで下さい」

 こちらの唖然とした表情から何を汲み取ったかしらないが、彼女は罰が悪そうに謝罪し俯いてしまう。

 この世界の日本では、徴兵制度が未だ生きている。
 該当年齢も年々下がり、今では16歳以上の女性までもが兵役につく現状だ。

 そんなところに彼女よりも年上の男がここにいる。

 それが衛士でもなければ軍人でもない。

(・・・・・・・配慮が足りなかったか)

 軽率だった自分の態度を恥じる。

「・・・・・・・私ね、本当は衛士になりたかったんです」

「・・・・・・・」

 考え事をしていると、ポツリポツリと俯いた彼女が言葉を呟き始めた。

「訓練兵だったころ、最後の総合戦闘技術演習で事故にあって・・・・・・・足が、その・・・・・・・駄目になったんです」

 顔を上げ自嘲気味に笑う彼女。
 それは事故の原因が彼女自身だったからだろうか?それとも、衛士への道が閉ざされた自分自身の惨めさを呪ってだろうか?

「足は、義足でなんとか普通の生活は出来るんです。ただ、戦術機の適性には落ちてしまって・・・・・・・そのまま衛士への道は閉ざされたんです。すごく、悔しかったな」

 その姿は痛々しい、正直どんな言葉をかけていいのか思いつかない。

「でも・・・・・・・諦めたくなかったから、CPの道を目指して頑張ったんです」

 だが、今なら先程彼女が落ち込んでいたのが理解できる。

 速瀬少尉と同じ訓練が出来ない、同じ場所に立てない自分が悔しくて、考え込んでいたのではないだろうか?

「・・・・・・・涼宮少尉は、何でそこまでして戦うんですか?」

 この質問の意味がどれだけこの世界の人間を侮辱した意味を持つかは想像できる。

 ---それでも知りたかった、彼女をそこまで戦場に駆り立てるものは何なのかと。

「ん~・・・・・・・」

 彼女は顔を上げて顎に手を当てて唸るようにしている。
 そういった仕草は歳相応で可愛らしいのだが、彼女もまた心に闇を抱えているのだろう。

「私、大切な友達がいたんです・・・・・・・」

 ---いた、それはもういないという事。

「速瀬少尉も知っている人なんですけどね、昔よくその人とあと一人、四人で一緒にいたんです」

 大切な人だったのだろう、思い出を語る彼女は幸せそうな顔をしている。

「でも・・・・・・・一年前の明星作戦で戦死したんです」

 彼もまた衛士だったのだろうか?

「・・・・・・・その人の事、好きだったんでしょ?」

「は、はい」

 意地悪く質問すると、彼女はもじもじと両手を弄びながら消え入りそうな声で答えてくれた。

「へぇ~、涼宮少尉が好きだった人か・・・・・・・会いたかったな~」

「ど、どうしてですか?」

「そりゃねぇ~こんな可愛い子が好きな男なら、よっぽどいい男だったんだろうし」

「ん~・・・・・・・そんな事もないですね」

「へ、そうなの?」

「はい、速瀬少尉に聞けば・・・・・・・きっと、ヘタレって言うと思います」

 まぁ彼女ならそれぐらいあっさりと言い放つなだろう。

「でも速瀬少尉も、その人の事が好きだったんです・・・・・・・」

(前言撤回・・・・・・・ツンデレかあの女は?)

「孝之君が死んで、二人で泣いたんです。泣いて、泣いて、泣き疲れて・・・・・・・それから二人で決めたんです」

「・・・・・・・何を?」

 ---孝之、それがその男の名前なのだろう。

「勝負しようって・・・・・・・孝之君よりもいい男の子を見つけて先に彼氏にしたほうが勝ちって」

「ぷっ」

 朗らかに笑いながら言う彼女を見て、思わず飲んでいた玉露を吹きそうになる。

「も~笑うなんて酷いですよ~」

「ごめんごめん・・・・・・・それが涼宮少尉が戦う理由?」

「はい・・・・・・・戦いの無い平和な世界になったら、じっくりと水月と決着を付けるんです」

 かみ締めるように彼女は言う。
 そんな世界は果たして来るのだろうか?現実視点から見れば、その可能性は限りなくゼロかもしれない・・・・・・・
 だが彼女はきっとそんな平和な世界が訪れると信じているのだろう。

「勝てるといいですね・・・・・・・」

「はい、ありがとうございます」

 彼女には明確な戦う理由がある。
 元々のきっかけはわからない。だが、大切な人を失った悲しみから立ち上がり、挫折を経験してもなお前に進もうとしている。

 ---強い人だと、心から思う。

 それは、精神だとか、体だとかじゃない・・・・・・・心のあり方が強いのだと。

 人は、戦いが長引けば長引くほど戦う理由は明確になっていくのではないだろうか?
 元の世界で、同じ仕事を毎日繰り返し続けていく人が明確な目的を見出せなくなり、自暴自棄になるのと同じことではないかと思う。

 慣れとは、つまる所そういうことだろう。

 だがこの世界では、ソレと平行して戦いが終わった後の事を考えなくなってしまうのではないだろうか?
 あまりにも今の状況が絶望過ぎて、そんな先の事を考えられなくなっていくのではと・・・・・・・
 だが彼女は・・・・・・・戦いが終わった先のことも考えている。
 それを語る彼女の姿を見ればなんとなく確信できる、きっとこの先も彼女ならその気持ちを持ち続けて行けるだろう。

 願わくば、二人の決着が付けられるような平和な世界になりますように。

(元の世界じゃ、極々有り触れた話しだしな・・・・・・・)

「・・・・・・・俺もね、ここにいる理由は同じようなものかもしれない」

「そう・・・・・・・なんですか?」

「ああ、なんたって・・・・・・・婚約した相手がいますから、それと妹にも生きろって言われてますしね」

「そ、そうなんですか!?」

 身を乗り出して涼宮少尉が聞いてくる。どうやら・・・・・・・伊隅大尉と同じくこういった話には食いつきがいいようだ。

「そ、だから・・・・・・・死ぬわけには行かないんです。彼女と平和に過ごして生きたいから」

 こんな話を好きだった人が死んだ彼女に言う台詞だろうかと自問してしまうが、なにやらうっとりしている様子の彼女を見て安堵する。

「相手の方は・・・・・・・横浜にいらっしゃるんですか?」

「いえ、随分と遠い所にいまして・・・・・・・今度会えるのは何時になるころやら」

「そうですか・・・幸せになってくださいね」

「ええ、ありがとう」

 優しげな笑顔を彼女は見せてくれる。
 その笑顔を見て、きっと勝負は彼女の勝ちかな?っと予想してしまった。

(麻美がいなければな~もっとお近づきになってもいいんだが・・・・・・・)

 だが浮気は己のポリシーに反する、するほうも、受け入れるほうも、人間として終わっている。

「社さん、こちらでしたか・・・・・・・」

「あれ、イリーナさん・・・・・・・どうしたんですか?」

 何か前も同じような状況、涼宮少尉と話しているときに彼女に声を掛けられたような・・・・・・・

「香月博士がお呼びです」

「夕呼さんが?・・・・・・・じゃあ、涼宮少尉これで失礼しますね」

「はい・・・・・・・また良かったら、お話聞かせてください」

 笑顔で言う彼女に勿論と答えその場を後にした・・・・・・










<社 霞>

 ポフっと自分の部屋に戻りベットの枕へと顔を埋める。
 今日は疲れた。あんなに話した事は今までなかった、慣れないことをして余計疲れたのかもしれない。

「・・・・・・・」

 ベットの上のぬいぐるみを見る。
 彼は果たして、この世界を理解してくれたのだろうか?
 自分の説明が上手く出来ているとは思えないが、それでも彼はお礼を言ってくれた。

「兄さん・・・・・・・」

 思わず声が漏れる。

 突然現れた人、最初はすごくよそよそしくて・・・・・・・今まで私に接してきた人と同じなのかなと思った。
 私を見るあの目。モノを見るような、嘲るような目。そんな目で見る人たちと同じかと

 ---けど彼は違かった。

 それに彼の中はとても明るくて暖かいも「色」に溢れていた。
 住んでいた世界が違うからなのか・・・・・・・でもそれだけが理由では無いと思う。

 彼は、彼だからこそ、あんな優しい「色」を見せてくれたのではないかと。
 凄く一生懸命に此方に接してくれて、気遣ってきれて・・・・・・・「力」に気づいても・・・・・・・彼はその態度を変えることは無かった。

 それが、とても・・・・・・・とても、嬉しい。

「・・・・・・」

 ぬいぐるみを抱き寄せてそっと抱きしめる。
 それに彼は一緒にいてくれると言ってくれた・・・・・・・偽りだけど、妹として大切ししてくれると言ってくれた。
 これからも彼と一緒にいたい、彼と思い出を作って行きたい。
 でも・・・・・・彼が心の中で帰りたがっていることも知っている。
 見せてもらった女性の姿、とても綺麗で、とても笑顔で、とても優しさに満ちていた・・・・・・・彼の大切な人。

 隣に立つ彼の姿も、とても嬉しそうな笑顔だった・・・・・・・

 その事を思うと、何故か少しだけ胸が苦しくなる。

 きっと・・・・・・・いつかは別れがくるから、それを覚悟しなければならないからだと思う。

「・・・・・・・」

 ベットから起き上がり、ぬいぐるみを戻す。
 私は彼の優しさに触れた、これはとても幸福で幸せな事。

 でも【彼女】はソレが出来ない。

 【彼女】にソレを教えて上げたい。大切な人を失って、絶望にくれている【彼女】へこの幸せを伝えたい。
 それが、どれほど【彼女】の救いになるかは分からないが・・・・・・・やって見ようと思う。

 疲れていたがそう思い・・・・・・・私はあの部屋へと足を向けた。









<社 隆>

 イリーナさんに先導されてエレベータで地下へ降りて行く。

「その・・・・・・・先程はやはりお邪魔でしたでしょうか?」

「へ?なんでそう思うんですか?」

「いえ、先日も涼宮少尉と話をしている所を遮ってしまいましたので・・・・・・・」

「なんだ、気にしないでくださいよ・・・・・・・夕呼さんに呼ばれてるのなら、それを上回る用事なんて無いですから」

 流石秘書官、細かい気配りに感心してしまう。
 やがてエレベーターが止まる。表示はB19、随分と深さがある基地なのだなと改めて実感する。

「?」

 ドアが開いているのに出て行かないイリーナさんの様子に疑問を覚えると、彼女はすっと身を引いて此方を促してきた。

「一番奥の部屋に博士はいらっしゃいます、そこまでのドアのロックは外してあるとのことです」

「イリーナさんは行かないんですか?」

「私は、このフロアへの立ち入りを許可されておりませんので」

(・・・・・・・・・いいのかそんな重要フロアに入ったりして?)

 イリーナさんと別れて薄暗い廊下を歩きながらそう自問する。

 在籍していた会社にもむろんこう言った区画はあった。
 その多くは部外者はおろか、役員の許可を得ないと社員すら立ち入りが出来ない場所だった。
 そんな場所にあるデータやモノは無闇に外に漏らしていい代物ではなかった。
 そんな秘書官すら立ち入りが許されていない場所へ自分が呼ばれた理由。

(・・・・・・・何時までもプラプラしているから、業を煮やして遂に俺を解剖する気か!?)

「ないない・・・・・・・と思いたいな~」

 一番奥の部屋の扉の前で止まる。果たして鬼が出るか蛇がでるか・・・・・・・

「・・・・・・・開いてるわよ」

 ノックに答えるように夕呼さんの声が聞こえてくる。

「失礼します・・・・・・・うわ、汚っ」

 中に入り思わず小さく呟いてしまった。

 部屋自体の広さは、自分にあてがわれた部屋の4、5倍はあるのだろうが、部屋の中には本棚に入りきらなかった書物や何かの書類が部屋中に散らばってる。

「・・・・・・・・・・・・正しく科学者の部屋ってやつだな」

 大学の頃世話になった教授の部屋を思い出す、似たような惨状で座る場所にも苦労した記憶がある。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 折角部屋まで着たのに、夕呼はこちらを見ようともしない。
 眉間に皴を寄せ、何やら手元にある機械と睨めっこしていた。

「あんま、険しい顔してると小皺になりますよ?」

「あんた、入ってきた途端それ?」

 更に険しい顔で睨んでくる、どうやらこちらに注意を向ける事には成功したようだ。

「いえ、失礼しました」

「私も忙しいのよ・・・・・・・貴方にかまってる暇なんかないのよ?」

(呼び出したのはそっちだろう・・・・・・・)

 内心で抗議の声を上げつつ肩を竦める。

「ええ、お手を取らせて申し訳ありません・・・・・・・それより大丈夫ですか?」

「・・・・・・・なにが?」

「いえ、夕呼さん寝てないでしょう?・・・・・・・睡眠は美容の大敵ですよ、しっかりとした睡眠と水分補給、それがお肌の曲がり角を終えた女性に最も必要な事です」

「貴方・・・・・・・やっぱ解剖されたいのかしら?」

「いや~何ですかこの本?・・・・・・・フランス語かな?流石天才科学者は読む本が違う!!」

 背中に冷や汗を掻きつつ必死で彼女を持ち上げる。

「いいのよ~・・・・・・・私は別に研究素材が一つ手に入る訳だし」

「そうそう、今度ゴルフなんてどうですか?基地内でパソコンと睨めっこしてるのもいいですけど、青空と芝生の上を歩くのも気持ちの良いものですよ?キャディーならまかせてくださいよ!!」

「はぁ・・・・・・・もういいわよ」

 呆れたようにため息をつく彼女、先程の険しい表情は幾分和らいでいる。

「とりあえず座ったら?」

「はいはい、失礼しますね」

 彼女と向き合うように配置されているソファに座る。それなりの代物なのか随分とソファの座り心地は良かった。

「そのテーブルの上にあるもの・・・・・・・貴方のでしょ?」

 言われて目の前のテーブルに目を向ける。
 確かに見た記憶のあるものばかりが並んでいる・・・・・・・だがこれは・・・・・・・

「俺の車にあったやつじゃないですか?どうしたんです・・・・・・・これ?」

 雑誌、時計、携帯電話の充電器、その他もろもろ・・・・・・・正直どうでもいいものばかりだが、何故か懐かしい。

「貴方の車を回収したのよ・・・・・・・ってもスクラップ同然だったけどね」

(ああ・・・・・・・愛車よ・・・・・・・)

 事も無げに言われた事実に目頭が熱くなる。

「そうですか・・・・・・・ありがとうございます」

「そ、色々調べて見たけど・・・・・・・使えない技術のオンパレードだったわ」

 そりゃそうだろうな、と内心で同意する。

 この世界に元いた世界での快適な自動車って奴は無意味だ、そこ使われている技術がどんなに優れていても用途にマッチしていなければ意味が無い。

「この基地にあるんですか?」

「ええ・・・・・・・一応、人目のつかないトコにあるから・・・・・・・そのうち見せるわ」

 そう言ってくれるが見たいような見たくないような・・・微妙な気持ちになる。
 きっとBETAによっていい感じに踏み潰された後だろう・・・・・・・正直見てもショックなだけだ。

 テーブルの上の私物を弄ぶ、ダッシュボードの奥で眠っていた代物まである。

(ブルースハープねぇ・・・・・・・もてたい一心で覚えたな~)

 言わば黒歴史だ・・・・・・・結局、簡単な曲しか吹けなかったが・・・・・・・

 っとそこで、さっきから夕呼さんがこちらを一回見ただけで、また視線を手元戻していることに気づいた。
 何を見ているのかと思い覗き込むと。

「・・・・・・・面白いですか?」

「ええ、なかなか・・・・・・・頭の体操になるわね」

 テーブルの上の私物と一緒に車の中にあったのだろう、よく無事だったと感心してしまう。
 だが、手元のP○Pを必死になって操作している夕呼さんの姿に、軽い眩暈を覚える。

(しかも・・・・・・・ぷよ○よかよ・・・・・・・)

 麻美にねだられて買ったソフトだ・・・・・・・考えれば車の中にはたいしたソフトが無かった筈だし分かり易いのはそれだけだろう。

「ふぅ・・・・・・・」

 一息付いたのか、夕呼さんが顔を上げる。

「科学者が何やってるんですか・・・・・・・」

「あら?科学者だからこそ、興味を示すんじゃないかしら?」

 此方の皮肉を何処吹く風とばかりに彼女は受け流してくる。

「興味を持ったなら差し上げますよ、好きに使って下さい。どうせただのゲーム機ですから」

「あらそう?じゃ遠慮なく・・・・・・・」

 ガラッと机の引き出しを開ける音が聞こえる、どうやら本気で貰う気らしい・・・・・・・

「さて・・・・・・・随分と霞と上手く行ってるようじゃない?」

「お蔭様で、彼女優秀ですね・・・・・・・世話になりっぱなしですよ」

 今度こそ本題なのだろうか?夕呼は此方へ視線を向けて話し始める。

「でしょうね・・・・・・・私の娘みたいなものだから、キズモノにしてたら殺すとこだわ」

 そう言う彼女の顔は、茶目っ気たっぷりに笑っている。

「当たり前でしょうが・・・・・・・ってか夕呼さんでしょ、伊隅大尉に俺をロリコンだとか変態サングラスだとか吹き込んだのは?」

「さぁ、なんの事かしらね?」

(こ、この女・・・・・・・)

「これ、とっちゃ駄目ですか?」

「駄目ね」

 一蹴され、ずれ落ちそうになるサングラスを掛けなおす。

「まぁいいですけど・・・・・・・なんにしろ霞には、この世界の事とか色々教えて貰いましたよ」

「そうらしいわね、霞から聞いているわ」

「俺と霞の偽装兄妹もアレでいいんですか?」

「問題ないわね、貴方の提案どおり戸籍をねじ込んで置いたわ。晴れて私と貴方は遠縁ってとこになったわね」

 戸籍をいじるとか、凄まじいことを平気でやるものだと感心する。

「それで・・・・・・・決まったの?これからどうするか?」

「ああ・・・・・・・その前に一つ聞きたいことがあります」

 失礼だとは思いつつ、彼女から視線を外し天井を仰ぎ見る。

 今から言うのは一つのカード。彼女がこれにどう反応するかでこれからの彼女へ対応が決まる。

「霞は・・・・・・・俺への試験ですか?」

「!?」

 明らかに夕呼の顔色が一瞬だけ変化する、驚きと恐怖だろうか?

 だが次に現れた表情は感情の無い目と、凄惨な笑みだった。

「へぇ、何故かしら?」

「その表情見るだけで答えて貰ってるようなもんですけど・・・・・・・霞、人の心が読めますね?」

「・・・・・・・」

「最初は気づきませんでした、だけど何日か一緒にいて違和感を感じました・・・・・・・まぁ、気づく切欠は色々ありましたね。本人に確認したわけじゃありませんけど」

「妄想ね、貴方に虚言癖があると思われるわよ?」

「でしょうね・・・・・・・確証があるわけでもないし。誰かに言う気は更々ありませんよ・・・・・・・もし、夕呼さんに見捨てられたら俺は住所不定の怪しい人間でしかないですから。それに俺を危険視して監視する理由も分かります、ただ・・・・・・・」

「ただ?」

「あんな子に、そんな事をさせないでください。もし人の心が見えるのだとしたら、ソレは苦痛でしかないと思います・・・・・・・」

 夕呼は答えない、こちらを射殺すような視線も変えようともしない。

「スパイだって思われてるのなら仕方ないですけどね。霞の言葉と・・・・・・・そうそう、この基地が夕呼さんの提案でハイブの跡地に作られたって聞きましたよ。そこから推測して夕呼さんの研究も・・・・・・・」

「そこまでよ」

 夕呼は黒光りする物をこちらに向けながら立ち上がる。

「・・・・・・・」

「金谷、貴方ね・・・・・・・知りすぎると危険って言葉知ってるかしら?」

「・・・・・・・ええ、もちろんです」

 こちらに向けられた銃口から目を離さずに答える。

「貴方に好きなようにさせてはいるけど、信用したわけじゃない、スパイの可能性も捨てきった訳じゃないわ」

「でしょうね・・・・・・・そこで夕呼さんの最初の質問に答えさせていただきます」

「・・・・・・・なに?」

 銃口から目を離し、彼女の視線を真っ向から受け止める。

「俺を・・・・・・・貴女の好きにしてください」

「・・・はい?」

「俺自身を夕呼さんに売りますよ」

「意味わかって言ってるのかしら?」

「もちろんです、俺自身ができることなんてたかがしれてますしね。元の世界で技術者だったんなら、夕呼さんへ技術を提供することも出来るでしょうけど生憎と違うんで無理ですね、これと言った特別な技能があるわけじゃないし・・・・・・・そこで色々考えたんですよ、自分の使い道ってやつを」

「それが自分を売ること?」

「ええ、夕呼さんなら俺をきっと上手く使ってくれる。俺自身が気づかないような適正とかに目を向けて、必要な場所に据えてくれるんじゃないかと思いましてね」

「随分と・・・・・・・買いかぶられたものね」

「そうですか?生憎と色んな上司の下で仕事しましてね、色々な人間を見てきましたよ。それで鍛えられた観察眼で見れば、夕呼さんは信用に値する女性です。だから自分を売れるわけです・・・・・・・まぁそれ以外売るものもありませんけどね」

 サングラスで見えないだろうが、一つウィンクをしてみる。

「はぁ・・・・・・・もういいわ。それにしても貴方・・・・・・・それじゃ、私が死ねと言ったら死ぬのかしら?」

「そんな質問しないでしょう?」

 銃を降ろした彼女の質問に、わざとらしくサングラスを外して彼女を見据える。

「貴女はさっき・・・・・・・霞を本当の娘のように語った、その言葉に嘘は無いと思いたい。そんな霞に、偽装とはいえ兄を失う悲しみを与えるとは思えない」

 自信たっぷりで言った言葉に、最初はきょとんとしていた夕呼だったが、堰を切ったように突然笑い出す。

「あはははははははははッ!!・・・・・・・あんた、随分と自意識過剰なのね?」


 失礼なと思いつつ、内心でほくそ笑む・・・・・・・これでまぁ、少しは信用が持てたかなと。

 ---自分自身と、霞を人質にした信用だが。

「あんたやっぱ面白いわ・・・・・・・肝が据わっているというか、馬鹿というか・・・・・・・この世界にはいないタイプね」

「褒め言葉と受け取っておきますよ、一応ね・・・・・・・ただ、向こうの世界で営業やってればこんなもんですよ?」

「へぇ、そうなの?」

「ええ、相手が何を持ってその言葉を発するか察したり、何を此方に望んでいるのかを予測したり・・・・・・・狸と狐の化かし合いの毎日でしたよ・・・・・・・さっきのも、相手に鎌かけて、逆上したら別の話題に摩り替えて有耶無耶にする手です」

「あ、そう。いいわ・・・・・・・とりあえずあんたをスパイだって言うのは取り消すわ」

「霞の件は?」

「ノーコメント」

「さいですか・・・・・・・了解です」

 これ以上余計な事は突っ込まないほうがいいだろう、素直に身を引くこちらを夕呼は面白そうに見据える。

「あんた、物分りもよくて頭も切れて・・・・・・・逆にこっちが何処かにスパイとして潜り込ませようかしら?」

「それこそ買い被りすぎで・・・・・・・ってか専用の教育も受けてないんですよ?送った次の日には基地の前に麻袋に入った俺を見ることになりますよ、きっと」

「それもそうね」

 あっさり認めた夕呼さんの様子はどこか楽しそうだ、まるで楽しいおもちゃを見つけた子供ようにも見える。

 もしくは、ストレス解消のいい相手を見つけた女性のそれか・・・・・・・

(あきらかに後者のような・・・・・・・)

「それで、俺はこれからどうすればいいですか?」

「・・・・・・・そうね、明日までには考えておくわ。また、明日の朝にでも呼ぶから来なさい」

「了解です」

 答えて立ち上がる、恐らくこれ以上話す内容は無い筈だ。

「・・・・・・・さっきの言葉だけどね」

「?」

 退室しようと背を向けたこちらに、独り言のような声で夕呼さんは続けた。

「社・・・・・・・霞が悲しむからってあんたを殺さないと思ったら大間違いよ。私は、必要ならあなたであろうと霞であろうと死んで貰うわ」

 振り向いて彼女を見るが、彼女は此方を見ていない。

「私はね、そんな犠牲にかまけている余裕なんてないのよ」

「・・・・・・・わかりました、でも一つだけいいですか?」

「・・・・・・・」

 無言は肯定と受け取り、話を続ける。

「俺が死んでも気にしないで下さい・・・・・・・ただ、霞は少しは気にしてくれるかと思うので、ケアをお願いします」

 ゆっくりと夕呼がこちらに顔を向けてくる。

「そして・・・・・・・考えたくないですけどね、霞がもし死ぬような事があったら・・・・・・・少しくらい、俺に寄りかかってくださいね」

「・・・・・・・あんたやっぱり自意識過剰ね、もしくは私の事口説いているのかしら?」

「ええ、魅力的な女性には逆に失礼かと思いまして」

「はっ・・・・・・・生憎と、年下・・・・・・・じゃないか、嫁持ちと浮気する趣味はないわ」

「奇遇ですね、俺も浮気する甲斐性は一切持ち合わせてませんよ」

 そう言い合って二人で苦笑する。

「じゃ、これで失礼します・・・・・・・きちんと寝てくださいよ」

「わかったわ、あんたも明日遅れないようにね」

 了解とだけ答えて、俺は夕呼の部屋を後にした。












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