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「Muv-Luv 小説」
第一部

横浜編 第8話

 


 横浜編  かれとかのじょたちと戦術機


 2000年10月18日 10:00
 横浜基地 第三戦術機シミュレーター室


<社 隆>


 訓練を始めて数日がたちそろそろ10月も半ばを過ぎた日に、唐突にまりもさんから分厚い教本を渡された。

「戦術機のマニュアルだ、明日はシミュレーターによる適正を受けてもらう、今日中に呼んでおけ」

 ドSモードの彼女に「了解」とだけ答えて、その分厚いマニュアルを受け取った。

(・・・・・・・・広辞苑ですか?これは・・・・・・・)

 霞の力も借りてなんとか基本動作と戦術機の運用における部分を重点的に覚えて行く。
 夕呼さんに言わせれば、「車と同じで慣れれば覚える必要もないでしょ」らしいが、なんとも信じられない。

「車と違って、明らかに操作する部分が多いからな・・・・・・・だいたいはオートで補正してくれるのはわかったけど・・・・・・・」

 男性用のロッカールームで着替えてこいとまりもさんに促され、いそいそと渡されたパイロットスーツ?衛士強化服とこの世界で呼ばれるものを身に付ける。

 一度、速瀬少尉の強化服姿を見た事があるので予想はしていたが、まさか自分が着る羽目になるとは予想出来なかった。

 数日の訓練で、なまった体も少しは引き締まっただろうか?むにっとわき腹を摘んで見るが、まぁ・・・・・・メタボじゃないからよしとするか。

「おお・・・・けっこう体にフィットするもんなんだな」
 
 着込んだ瞬間はこんなぶかぶかで大丈夫かと思ったが、マニュアルに従って密着させると全身タイツよろしくぴっちりと体にフィットする。
 女性なら体のラインがはっきり出て、恥ずかしい事この上なしだろうが・・・・・・・前線では男も女も関係ない、そんな羞恥心を捨て去るためにもこの形に落ち着いたらしいが・・・・・・・

(絶対・・・・・・・作ったやつの趣味が入ってるぞ・・・・・・・)

 それでも、対刃、対弾、防寒、衛士の生命維持等の優れた機能があるらしい。また、この強化服自体が対Gスーツになっていたり、個人の操縦データを蓄積し、搭乗した戦術機を自分の動作パターンに合わせるとかなんとか・・・・・・・

「戦争が技術革新への早道だと聞くけど・・・・・・・確かにその通りなのかもしれないな」

「・・・・・・・・ん、来たか」

 ぼやきながら、まりもさんが待っているシミュレータールームへ入っていく。

 小さな体育館ぐらいの薄暗い室内に幾つもの箱型の機械が並んでいる。その中の一つの傍で、まりもさんがシミュレーターの脇に設置されているコンソールでなにやら操作をしていた。
 バクンっと、シミュレーターのドアが開き乗り込むように彼女から指示される。

「顔色が悪いが・・・・・・・大丈夫か?もし体調が悪くなったら非常ボタンを押せ、それとコレを渡しておく」

 言って紙袋を渡される。正直、感謝感激であるが・・・・・・・流石に戻すような真似は女性の前でしたくない。
 ただ、先程から早鐘のように自分の動機が激しくなっているのは自覚せざるえない。


 非常に苦手なのだ・・・・・・・こう、乗り物系は。


「・・・・・・・・・・・昔は大丈夫だったんだよな~今じゃジェットコースターみたいな遊園地のアトラクションは絶対拒否するのに・・・・・・・」

 椅子に座ると、程なく油圧の音を響かせながらドアが閉じられる。

(何時からだろう?・・・・・・・車に乗り始めてからかな・・・・・・・?)

『社』

「・・・・・・はい」

 シミュレーターの中にはスクリーンのような周りを映し出すモニターは存在していない。顎に付けたヘッドセットから、直接網膜に向けて様々な映像が映し出される。

 戦術機のシートから強化服を通してヘッドセットに機体の状況や様々なデータが送られるとの事だ。しかも座っている限り自動充電ときている、以前速瀬少尉のを付けた記憶があるので今回は驚く程の事も無かった。

(サングラスを付けたままなのに見えるのも凄いよな~)

 当初は不安だったが、戦術機に乗るに合わせて透過率のいいサングラスを夕呼さんから渡されたので支障はない。

 程なくして鮮明な映像が映し出される。 
 どこかの都市の映像だった。
 周りのビルの高さと戦術機の視線の高さから、やはり戦術機が大きいものだと実感する。

(こんな都市まだ日本にあるのかね?)

 東北方面はBEAT進攻の影響も無く、都市がそのまま発展しているらしいが・・・・・・・

『言った通り座ったままでいい・・・・・・・取りあえず、戦術機がどういった代物かと言うことを身を持って知ってもらう』

「了解です」

 始めるぞ、とのまりもさんの声がした後・・・・・・・ゆっくりと周りの風景が後ろに流れていく。
 戦術機の足が地面を踏むとシートがガクンと揺れる。どうやら躯体そのものが揺れているようだ。

(おお・・・・・・・・てっきりもっとシェイクされるかと思ったのに・・・・・・・)

『続いて、駆け足』

「・・・・・」

『急制動』

「・・・・・・・・」

『跳躍』

「・・・・・・・・・・・」

『水平噴射軌道』

「・・・・・・・・・・・・・・」

『噴射跳躍』

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

『・・・・・・・・・おおっと、歩行者が飛び出してきた!!』

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

『ああ、車に躓いてこけた!!』

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

『おおっと!!おばあさんが危ない!!』

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うっぷ」






 プシューっと開いたドアから、のそのそと体を這い出させる。

「・・・・・・・・楽しんでやってませんでしたか?」

「・・・・・よく、吐かなかったな」

「一応、男の子ですから・・・・・・・ってなわけで、今からトイレに行ってきます」

「き、気をつけてね」








<神宮寺 まりも>

「どう、まりも~隆の調子は?」

 ヒラヒラと手を振りながら、夕呼が管制室から降りてくる。
 管制室でもシミュレーターの稼動データは閲覧できるのだから、聞くまでもなく知っているのだろうが。

「・・・・・・・・最低ランクね、彼」

 何故、彼女がここにいることを疑問に思うが、考えるだけ無駄なので素直な感想を述べる。
 シミュレーターに乗り込む前から顔色も悪かったし、乗り込んだ後のバイタルデータは最悪だった。

「らしいわね~・・・・・・・期待したけど、流石に無理があったわけね」

 その割には失望した様子は見られない、むしろ楽しんでいるようにも見受けられる。

「どうするの?これじゃ・・・・・・・・・訓練してもきびしいわよ?」

 自身も衛士だった記憶と、教官として教え子を送り出した記憶から導き出す・・・・・・彼は衛士には向いてないと。

「あっそう、本人も、営業とか雑用しか出来ないって行ってたからあながち間違いじゃなかったのかしら?」

「そうなの?・・・・・体は、鍛えればなんとかなるけど・・・・・・・」

「・・・・まぁ、いいわ・・・取りあえず続けて。よっぽどだったら諦めていいわ」

「わかったわ・・・・あんまり期待しなほうがいいわよ?」







<社 隆>

 トイレでしこたま吐いてすっきりして戻ってくると、何故か夕呼さんとまりもさんが並んで立ってた。

 ニヤニヤと笑みを浮かべている夕呼の姿を見て直感する、彼女はこちらの様子を見て楽しんでいるのだと。
 とりあえず、ぎこちなくであるが夕呼さんに敬礼をしてまりもさんに提案する。

「・・・・・・・申し訳ありませんが、直接操縦しても宜しいでしょうか?」

「もとよりそのつもりだが・・・・・・・大丈夫か?」

「はい、乗せられているのが性に合わないだけですから・・・・・・・自分で動かせば随分と違う筈です」

「そうか・・・・・・・しかし・・・・・・・」

「いいじゃないまりも、やらせて見なさいよ~」

 心配そうな顔でまりもさんはこちらを気遣ってくれている様子だが、夕呼さんが横から口を挟んだことにより、訓練はそのまま続けられることになった。

(さて・・・・・・・また、恥ずかしいことにならきゃいいが)

 シートに座りこんで一息つく。まだ緊張しているが、先程感じた揺れを思いだして表情を引き締める。
 正直、揺れそのものは大した事はなかった。よっぽど、対G装置がいいのか、慣性中和装置でも積んでいるのかと思うほど、加速減速のショックは少なかった。

 酔ってしまったのは、自分の感覚と機体の動きが一致してなかっただけだと思いたい。動きが予想できない上に、揺れる乗り物に乗っていれば三半規管が狂って誰でも酔ってしまうのではないだろうか?

(もっと若ければな~喜んで乗るんだろうけど)

『操縦のマニュアルは覚えているな?』

「はい、行けます」

『よし、なら自由に動いてみろ』

 視界に写る光景は、何もない荒野。
 市街地では建物に接触する危険があるので、まりもさんなりの配慮といった所か。

 ゆっくりと、操作レバーを動かすとズシン、ズシンと機体が歩き出す。
 正直、戦術機のマニュアルを見るまでは、どれほど複雑な操縦システムなのだろうと思い不安だったのだが、自律制御技術が凄まじく発達しているのだろう。
 動かすのに必要なのは両手で掴むレバーに足元のフットペダルのみ、殆どの動作の基本はオートでやってくれるので、これで問題無いとのことだ。
 無論、他にも細かなスイッチは幾つもあり、動作の細かい選択、動きはそれらを操作するのに必要らしい。
 撃震と呼ばれる今自分が乗っている戦術機は、第一世代と呼ばれる現存する機体の中では最古のものだと言う。

 とは言え、現在でも第一線で戦場を支えている機体であるからして、バリバリな現役なのだろう。

「取りあえず、今は慣れることから・・・・・・・だな」

 ぐぃっと、レバーにあるスロットルを握ると、機体腰部にある跳躍ユニットが火を噴いて機体は加速し宙を舞った。







<神宮寺 まりも>

「・・・・・・・・これなら、大丈夫かしらね」

 適正での姿を見た時はどうなることかと思ったが、既に2時間以上シミュレーターで機体を動かし続けている彼を見て安心する。

 最初は、一つ一つ確認するような動きだった。
 だが、一時間もして慣れてきたのだろう、今では彼が操作する撃震は跳躍ユニットを吹かして地面スレスレを滑空している。最初は、何度も地面に激突したり、姿勢を崩して危うい動きを見せていたが、今では落ち着いてるように見える。

 一度、空へ舞い上がった時は肝を冷やしたが、レーザーの的になりたいのか!?と叫んだら、大人しく平面軌道をするようになった。

 仮想敵機相手の攻撃許可も許したが・・・・・・・予想通り、彼は射撃戦向きなのだろう。
 訓練と同じく、一発一発を確認するように撃っている。命中精度はまだまだだが、慎重なその姿勢をみる限り動作に慣れればもっと良くなるだろう。
 管制室で合成コーヒーを飲みながら、危な気で、でもどこか安定感のある機動をぼんやりと眺めてしまう。
 夕呼のあの自身は、コレを見越してのことだったのだろうか?相変わらず天才の考えることはわからない。
 まだまだ拙い動きではあるが、見所はある・・・・・・・時間を掛ければ十分実戦にも耐えられるだろう。

(打撃支援・・・・・・・いえ、強襲掃討向きかしらね・・・・・・・)

 もし部隊配置する際の彼のポジションを考察する。精密射撃よりも、弾幕を張って味方を援護する役割が彼には向いているだろう。









<社 隆>

 現在、日本の前線を支えている戦術機の多くはアメリカよりライセンス生産されている機体が大多数を占めている。

 第二世代のF-15、日本名陽炎。第一世代のF-4、日本名撃震。
 日本が開発した国産戦術機は第三世代相当のスペックを持つらしいが未だに前線への配備が遅れているとの事だ。
 不知火と呼ばれるその第三世代戦術機は、使用要求、改良要求が現場から多く上がっており、その改良のために生産が滞っていると言う。
 また、帝都近衛軍と呼ばれる将軍の側近部隊では、不知火を超える機体を運用しているらしい。

 そんな幾つものバリエーションがる戦術機だが、その雛形となってるのはアメリカが開発したF-4。
 それを各国が解析、改良しつつ後継の戦術機を開発している。


 ペラッと、手にしたカタログを捲る。


 アメリカはF-4に始まり多種多様なモデルを運用しており、それらが主に砲撃戦仕様なのは、以前考察した通りG弾の使用を前提にしているからなのかもしれない。
 
 ヨーロッパ、ソ連、日本の三国は非常に似通った作りの戦術機を開発している。アメリカとは逆の近接特化仕様が多い・・・・・・・

(F-22・・SU-37・・・EF-2000ねぇ)

 元の世界で聞いた名前がちらほら上がる、主にゲームだったりするが・・・・・・・
 それでも昨今、元の世界の嘉手納基地に一時配備されたF-22はニュースでも出てたので記憶に新しい。

「・・・・・・・・前に霞に教えてもらった通り、機体にも個性があるんだな~」

「はい、お茶です兄さん」

 ありがと、と答えて霞が持ってきてくれた合成玉露を受け取る。
 
 今日の訓練が終わった後、戦術機に興味を持ち始めたので霞に言ってカタログを用意して貰い、PXでそれを眺めていたのだ。

 ボンヤリとカタログのページを捲っていると、そこへ見知った二人組みが現れる。

「あら、珍しいもの読んでるわね?」

「ん?・・・・・・ああ、速瀬少尉か」

 訓練で疲れていたため、ヒラヒラと手を振りながら挨拶する。

「こんにちは社さん、霞さん」

「こんにちは」

 ペコリと、行儀よく涼宮少尉にお辞儀でして挨拶する霞。

「どうしたんです二人とも?休憩?」

「そうよ~私たちの使っていたシミュレーターが調整作業に入ってね、待機中ってわけ」

 言って、二人は同じテーブルに座る。

(ほんと・・・・・・・・この二人って一緒にいるな~)

「で、あんたはこんな所で何をやってるわけ?」

「ん?ちょっとな・・・・・・戦術機について調べものだ」

 各国の戦術機が印刷されたカタログを見せながら答える。

「社さん、急にどうしたんですか?こないだまで霞さんと遊ぶのに必死だったのに?」

「ん~ちょっとね・・・・・・色々周りの環境が変わってきて・・・・・・・」

「どうせ気まぐれでしょ?あんた見たいな根暗ロリコンサングラスはカタログ読んで乗った気になってりゃいいのよ」

「水月~言いすぎだよ~いくら社さんが、民間人で・・・・・も・・・・」

 こちらの様子を見ながら呟いた涼宮少尉だが、その目線がこちらの襟元に止まった瞬間、次第に声が小さくなっていく。

「ほぅ・・・・・・相変わらず、速瀬『少尉』は俺をそんな風に呼ぶわけだ?」

 わざわざ少尉のアクセントを強めに言いながら話す。

「べつに~あ、霞はいいんだからね。変なのはこの人だから」

 彼女は気づいてないのか、平気な顔をしながら続ける。
 霞へのフォローをした点は褒めるべきだろうが、だったら元からネタを振るんじゃないと思う。

「み・・・・水月・・・・・・・」

「どれ、私も衛士だからね。なんか疑問があれば答えてあげるわよ?」

「こりゃありがたい、例え民間人に保護されて生き延びても、速瀬少尉は衛士様ですからねぇ」

「あ・・・・あんた、ケンカ売ってんの!?」!

 止めなよ水月~と涼宮少尉の静止の言葉が聞こえるが彼女は止まらない。

(さて、そろそろネタばらしと行きますか・・・・・・・)

 ぐいっと、彼女に見せつけるように襟首のバッチを突き出して話そうとしたら・・・・・・・そこに邪魔が入った。

「社中尉、強化服のマニュアルをお持ちしました!」

「・・・・・・・ありがと」

「じ、神宮寺軍曹!?・・・・・・・って中尉!?」

 突然の乱入者に速瀬少尉は驚いて立ち上がる。

「は、お久しぶりです、速瀬少尉、涼宮少尉!!」

 びしっと敬礼を決めるまりもさん、相変わらず彼女の敬礼姿は見ほれるほど綺麗なものだ。

「あれ?まりもさんは、二人と知り合いだったんですか?」

「はい・・・・・・・以前お二人の教官を勤めさせていただきました」

(ああ・・・・・・・なるほど)

 元教え子の二人は動揺している、特に速瀬少尉は口をパクパクとさせながら馬鹿みたいな顔になってる。

「か、霞が・・・・・・・中尉?」

「そこ違う!!」

「水月~だから止めたのに~」

 精一杯の誤魔化しだったのだろう、速瀬少尉の言葉を一蹴していると涼宮少尉が立ち上がってビシッと俺に向かって敬礼してくる。

「無礼な態度、申し訳ありませんでした中尉殿」

「も、申し訳ありません・・・・・・・」

 二人が謝罪の言葉を伸べる。速瀬少尉はしぶしぶと言った感じではあるが・・・・・・

「いいや、説明してなかったこっちも悪い・・・・・・・」

 苦笑しながらそう返答すると、速瀬少尉が恐る恐ると言った口調で質問してきた。

「え、衛士でらっしゃるのですか?・・・社・・・・・・・中尉」

「ああ速瀬少尉、と言ってもまだまだ衛士としてはヒヨッコなんでね・・・・・・・神宮寺軍曹に鍛えて貰っているところだ」

「は、軍曹と言う身で僭越ですが、中尉殿の教官を任されております!」

 訓練時はドS、普段は温和、外では階級に忠実な軍人、そんなまりもさんの態度の切り替えには正直頭が上がらない。

「は・・・・はぁ」

「中尉と言っても、臨時的なものだ。気にしないでくれ・・・・・・・まぁ、人目のあるところでは気をつけてほしいけどな涼宮少尉」

「は、はい、わかりました」

 俺の階級に狼狽しているのか、突然のまりもさんの登場にびっくりしているのか、取り合えず動揺している涼宮少尉に優しく声を掛けて落ち着かせる。

 とは言え階級を意識されて敬語なんて使われると背中が痒くなってしょうがない。軍が階級社会なのはわかるが、こちとらにわか仕込みの軍人だ、慣れるまでは無理して振舞いたくない。

「・・・・・・・となると中尉殿は、今戦術機のシミュレーターを?」

「ああ。実機はなかなか用意できないそうだから・・・・・・・暫くはね」

 こいつ聞いてなかったのかと思いつつ、疑わしそうに聞いてくる速瀬少尉にそう答えてやる。

「ちなみに・・・・・・・シミュレータールームはどちらで?」

「は、第4シミュレータールームを使用しております。」

 幾つもあるシミュレーター室の何処かと聞かれても答えられないので、まりもさんのほうを見ると俺の代わりに答えてくれた。

「そう・・・・・・・ですか」

 その時、俺は確かに見た!!やつの目が獰猛に光るのを!!

「では、失礼いたしました中尉殿!!行くよ遙」

「ちょ・・・・失礼しました!」

 言って、そそくさと二人はPXから出て行く。その後姿を眺めていると霞に声を掛けられた。

「兄さん・・・・・・・速瀬少尉が・・・・・・・」

「わかってる霞・・・・・・・みなまで言うな」










<神宮寺 まりも>

「どうですかね・・・・・・・俺は衛士としてやって行けそうですか?」

 突然彼からそう質問されて、思わず言葉に詰まってしまう。

(・・・・・・・少しやりすぎたかしら?)

 先程のシミュレーターでの模擬戦の中身を思い浮かべる。
 下手に調子に乗られて増長されても困るので・・・・・・・散々叩きのめしてやっただけだが・・・・・・・

「逆効果だったかしら・・・・・・・」

「へ?」

「ううん、なんでもないわ」

 思わず口に出た言葉を誤魔化すように手を振る、生憎と彼は聞こえてなかったのか首を傾げている。

 正直、大したものだと思う。

 夕呼の指示で訓練は繰り上げ気味で行っているが、彼がシミュレーターで戦術機に乗り始めてまだ2、3日しかたっていない・・・・・・・その割には操縦に対する飲み込みが速い。

 相変わらず、教えた事を一つ一つ確認するような動作が多いが、慣れてしまうと簡単に化ける。
 何かこう・・・・・・・操縦・・・・・・・いや乗りこなすといったほう正しいのか、機体の限界や特性を体に覚えこませようとしている節がある。

 射撃や格闘はまだまだだが、機体の・・・・・・・しかも平面機動での彼の動きは関心させられる部分が多い。

 ---だからこそ、その鼻を叩き折ったわけだが。

「・・・・・・・そうね、いいセン言ってると思うけど?」

「ふぅ・・・・・・・そうですかね・・・・・・・」

「ええ、隆さんって前に何か乗ってた?例えば・・・・・・・戦車とかヘリとか・・・・・・・」

 軍役の経験は無いと夕呼からも聞いているし、彼も無いと言っていた。訓練時の動きからいってもそれに嘘は無いとは思うが、一応確認してみる。

「いんや、まったく」

「そう・・・・・・・」

 腕を組んで考えてしまう。
 まぁ深く考えても分かるわけがない、ようは夕呼の言った適性がいいと言う所なのだろう。
 適正訓練では最下位に近かった彼だが・・・・・・・そう言う事もあるのかもしれない。

 自分とて、始めて戦術機の適性検査をやった時は最悪な結果だった。

「・・・・・・・やっぱり動くだけじゃ駄目かな~」

「搭乗時間で見れば・・・・・・・いい動きしてるわよ?」

「そうですか?・・・・・・・まぁ、逃げ回るのは慣れてきた感じですかね。」

 そう言って自嘲気味に彼は笑う。

「いいじゃない、逃げる技術を磨くことも」

「?」

 此方の言葉がよほど以外だったのだろう、彼はきょとんした顔で私を見た。

「逃げて・・・・・・・臆病でいいと思うわ、エースとか誰かに褒められる腕よりも・・・・・・・臆病でもいい、少しでも多く生き延びて誰かを救えばいいと私は思うわ」

「・・・・・・・・・・・・・・ぷっ」

「な、なに笑うようなこと言ったかしら?」

 突然笑った彼の態度に思わず赤面してしまう。

「いえねぇ・・・・・・・そう言う本人が、凄腕じゃぁ説得力ないですよ」

「うっ・・・・・・・」

「でも、言いたいことはわかりましたよ・・・・・・・今日渡されたマニュアルで気になることがわかりましたからね・・・・・・・明日にでも試して見ます」

 言って朗らかに笑う、相変わらずサングラスで目元は見えないが、言ったことの意味を理解してくれたならいいかと嘆息する。
 今回はこれで訓練終了、着替えるためにロッカー室へと向かう彼の姿を見てふと思う事があった。

(そう言えば・・・・・・・なんで、今日こっち見ないのかしら?)

 今日、一度も彼はこちらを直視していない。サングラスで目元が見えないとは言えそれぐらい気づく。
 私が強化装備姿だからだろうか?いや、彼も兵役がないとは言え夕呼の下で軍務についていたのだ・・・・・・・軍としての気構えくらいは理解している筈だと思いたいが。

「自信あるんだけど・・・・・・・なんかショックね・・・・・・・」

 誰も聞いていない事を確認しつつ、私はそんな事を呟いてしまった。









 2000年10月19日 10:00
 横浜基地 戦術機シミュレーター室

<社 隆>

「中尉殿、是非模擬線のお相手をお願いします!!」

 次の日のシミュレーター室で、まりもさんと今日の訓練の打ち合わせをしている最中、唐突に速瀬少尉の声がシミュレーター屋に響き渡った。

(なんて・・・・・・・予想通りな)

 振り返って入り口を見ると、ばつが悪そうにしている涼宮少尉の隣に強化装備姿の速瀬少尉がいた。

「しょ、少尉・・・・・・・ご自分の隊の訓練は?」

「先日、私たちの隊が使用しているシミュレーターが調整作業に入ったため、本日15:00まで待機任務がでております。また、伊隅隊長を通して香月副司令より社中尉との模擬線の承諾もすでいただいております」

「な・・・・・・・」

 絶句するまりもさん。確かに彼女の手際の良さには賛辞を送りたくなるが、ここはため息をつくことしかできない。

「・・・・・・・承諾しましょう軍曹・・・・・・・副司令が絡んでるんじゃどっちみち拒否権はないでしょうから」

「はぁ・・・・・・・確かにそうですね・・・・・・・わかりました速瀬少尉」

 ぐっと拳を握って速瀬少尉が近づいてくる、その姿を極力見ないようにしながら、俺は先にシミュレーターへと乗り込む。

(まりもさんだけでも目に毒なのに、速瀬のまで見てたら目のやり場に困るつーの・・・・・・・)

 先日からまりもさんも一緒に強化装備で訓練しているのだが、やはり女性の強化装備姿はその・・・・・・・刺激的だ。
 まりもも出るとこ出てるし、速瀬も十分良い体している、なんだかこの世界の人間は発育が良すぎないかと思ってしまう。

(霞~・・・・仕方ないんだ兄さんも所詮男なんだよ~)


何処かで、見ているかもしれない霞に向かって懺悔する。





『宜しいですか、社中尉?』


他の人間がいるからだろう、通常の訓練時と違い、まりもはこちらを上官として聞いてくる。


「ああ・・・・・・・ただ、ちょっと待ってくれ、教えて貰った調整が・・・・・・・まだ・・・・・・・」


通常握っている操作レバーではなく、機体のメンテナンスなどに使うキーボード式のタッチパネルを操作しながら答える。

戦術機も一つの機械である。汎用性を前提に押し出した兵器であるが、個々の機体を自分好みに調整も出来るのは当然といえよう。ただ、あくまでも部品から変えるカスタム機のような特別な調整は出来るわけもなく、せいぜい機体の反応値などを搭乗する衛士に合わせて数値をいじるだけだ。

しかも、凄いのはその数値を強化装備へ記憶することができ、他の機体に乗った時もある程度自分好みの設定を戦術機側に伝えて動かせることだろうか。


(乗る個人の着座位置を記憶している高級車みたいなもんだよな~)


車と同じだとは、夕呼もよく言った思う。シミュレーターとは言え、戦術機を操縦して感じることは一つ、乗せられるのでは無く、如何に乗りこなすのが必要なことかと。


そのためには、機体の事を詳しく知らなければならない。

機体重量、主機ユニットの総出力、各部関節部の強度、機体ごとの特性、等など

30年と言う戦術機の歴史と、選任達が経験してきたデータがある・・・・・・・それで後は検証するだけだ。


「よし・・・・・・・大丈夫だ、始めてくれ。」


『わかりました、速瀬少尉は如何でしょうか?』


『何時でもどうぞ~』


網膜と投影には、ニヤニヤと笑みを浮かべている速瀬が写っている、


『では、状況開始してください。』


まりもが言い終わると、真っ暗で何も見えなかった周りに都市の風景画映る。

視界の端に写る、レーダには速瀬機を示す赤い交点が一つ。本来なら、市街戦では様々な条件が重なってレーダーなど使い物にならないのだろうが、生憎とこれはシュミレーターである相手からもこちらの姿がまる見えだろう。


「さて・・・・・・・そうそう、速瀬少尉。」


『なによ、模擬戦中に通信なんて余裕しゃないの?』


一度は消えた、速瀬の顔がまた映る。

口調が以前のものに戻っている事に苦笑しつつ続ける。


「この勝負・・・・・・・何回勝負にする?」


『はぁ!?一回で十分でしょうが?』


「ほんとに?三回勝負にしようよ~」


『馬鹿いってんじゃないわよ、あんたなんか一瞬で落としてあげるわ!!』


「へ~じゃあ、罰ゲーム決めようぜ。」

こちらは開始位置を動かずじっとしているが、赤い光点はどんどん迫ってくる。


『へぇ、面白うそうじゃない・・・・・・・何にするの?』


「そうだな・・・・・・・負けたほうが言うことなんでも一つ聞くのはどうだろ?」


『あんた・・・・・・・スケベな事考えてんじゃないでしょうね?』

若干顔を赤くした速瀬が噛み付いてくるが気にしない。


「さぁね~どうする~?なんたって俺は香月副司令の特務兵だし~負ける気はないし~それともベテランの速瀬少尉は自分が怖いのかな?」

ニヤッと笑って問いかける、速瀬の顔が一瞬にして憤怒の形相に変わる。


『やってやろうじゃんない!!』


「交渉成立と。あ、でもやっぱ自信無いから三回勝負ね」


『なっ!?ちょ・・・・・・・』


通信カット、何か言いかけてたが気にしちゃ行けない。まぁ、万に一つも勝ち目はないだろう、まりもの足元にも及ばない自分だし実戦を生き抜いてきた正規兵との腕の差は遺憾ともしがたいだろう。ただ、彼女の性格を考えると、これで少しは時間が稼げるかなと思う。


「さて、行きますか。」


自分の撃震の装備を確認する。

まりもには部隊で連携を組むならば、強襲掃討に当たるポジションが向いていると言われ、87式突撃砲を4門、65式近接戦闘短刀を2振り、射撃重視の武装で固めてある。


レーダーの交点が点滅する、同時に鳴り響くロックオンされた事を伝えるアラーム。

慌てて、機体を後退させると、先程までいた場所に正確に銃弾が降り注ぐ。


(ロックオンと同時に撃ってきたのか、思い切りがいいと言うかなんというか・・・・・・・)


跳躍ユニットを吹かして距離を開こうとするが、交点との距離が離れる所かどんどん狭まってくる。明らかに、向こうの方が速い。


「・・・・・・・って不知火かよ!?」


視界に納めた速瀬が乗る機体に思わず叫んでしまう。


帝国が94年に実戦配備した、第三世代戦術機『不知火』

配備された年代にちなんで、TYPE94とも言われるらしいが・・・・・・・どう考えても、こちらの撃震とは機体スペックに違いがありすぎる。


「速瀬少尉、不知火はないだろ、不知火は!?」


『うっさいわね~一番コレに慣れてるからいいのよ!!』

再び通信を開いて抗議するが、速瀬にとってはどうでもいいことらしい。


確かに、実践でもお互いフェアな状況で戦うなんてことは無いだろう。


87式突撃砲の36㎜砲弾を撒き散らしながら後退を続ける。左右に持った87式突撃砲を時間差をずらしながら不知火の行動予測ポイントへ向けて撃つが、速瀬はそれを尽く避けてみせる。


『ほらほら、そんな鈍間な弾じゃ当たらないわよ!?』


避けながらも、自身の87式突撃砲を制射してくる。

何とか後退しながら避けていたが、ビルの合間に入ろうとした瞬間、期待に衝撃が走る。


『社機、右肩部被弾、右腕部使用不能』

まりもが機体損傷を伝えてくる、同時に右腕の反応が消える。


「・・・・・・・・・ったく、まだ慣れちゃいないってのに!」


シミュレーターを始める前に、自身の設定データを変更した。

なんてことはない、入力に対する機体レスポンスの向上と、幾つかを動作をマニュア入力によって動かすだけだ。

乗り始めて解ったのだが、戦術機はどうにも機体側が色々とやりすぎる。

転倒時のオートバランサーだとか、ロックオン時の微調整だとか、跳躍ユニットの噴射量だとか、例を挙げればきりがないが、ともかく操作を簡略化するのに当たって機体側がやってくれる事が多すぎる。

だから、幾つかをマニュアルで調整できるようにしたのだが・・・・・・・


(逆に、操作がややこしくなった!?)


内心で悲鳴を上げる。これが実機なら、まだ試さなかっただろう。下手に操作ミスして機体を転倒でもさせたなら、整備している方々に殺されかねない。


だから、シミュレーターで慣れておこうかと思ったのだが・・・・・・・


再度、強い衝撃が走る。


『社機、跳躍ユニット、両脚部、左腕部被弾、戦闘不能とみなします。』


一戦目は何も出来ずにやられたらしい・・・・・・・






<速瀬 水月>


挑発に乗って、三回勝負になどしなければよかった。


『状況開始。』


軍曹の言葉とともに、シミュレーターが作り出す市街地の上を不知火を滑走させる。

いくらBETAとの戦闘ではないとしても、上空を飛ぶような馬鹿なことはしない。上空にいる的など、戦術機にとってもいい的でしかない・・・・・・・


(正直あんなもんだとねわね~)


先程の彼の軌道を見て嘆息する。

香月副司令の直属で、今まで特務を受けて基地外にいて軍属でなかった理由はわからないが、あの社霞の兄なのだから色々と訳ありなのだろう。


自分よりも年上の男、不服だが、一度は命を助けられた、しかも最初は礼儀正しいかと思ったら、飄々として掴み所のない性格だと最近気づいた。


そのやり取りを思い出しながら唇を噛む・・・・・・・まるで孝之と話しているようだと。見た目が似てる訳でも、話し方や仕草が同じ訳でもない・・・・・・・ただ、ああやって異性と言い合える事でどうしても思い出してしまう。



だから、少し期待したのかもしれない・・・・・・・彼に。


こちらには不知火と言う機体アドバンテージは確かにある、だがそれにしてもさっきの彼の動きはどうか?撃震もむろん悪い機体ではないが、先程の彼はただ逃げ回っていただけだ。


レーダー上の赤い光点は先程と違い、開始直後から動いてはいるが・・・・・・・やはり、こちらから距離を離すように、逃げている。


「まっ・・・・・・・シミュレーター始めてまだ、2、3日って聞いてたからしょうがないかもね。」


それでも、動き回れるのは大したものだとは思いつつ、不知火の主機ユニットの出力を上げる。爆発的な加速で一気に社機との距離をつめる。


無防備なその後姿にロックオンしつつ呟く。


「もらった。」


さて、いったい彼に何を命令しようか・・・・・・・?

銃弾が激震を貫く姿をイメージしながらそんな事を考えていたのだが、銃弾はあえなく回りのビルに阻まれ目何時宙には至らなかった。。


運がいい男だと、思い再度ロックオン。


(・・・・・・・ん~コレと言ってないのよね~・・・・・・・って私が変なこと考えてどうするのよ)

妄想を振り払うかのように、再度射撃。


「あれ?」

だが、二発目も激震に当たることはなく側面の建物を削る。


火器管制の調整ミスだろうか?


実機ならありえるかもしれないが、生憎とこれはシミュレーターだ。強化装備から自分が慣れ親しんだデータに基づいて射撃しているので、そんな筈はない。


「ええい、ちょこまかと!!」


何時の間にか回りはビル郡で埋め尽くされている。

そのビルの隙間を縫うかの如く彼の機体は噴射ユニットを操作しながら進んでいく。
むろん、撃震よりも不知火のほうが主機ユニットの推力差がるので、直線では一気に距離が詰められる。


だが、急旋回で通りを抜けたり、わき道にそれたりと彼の撃震はねずみのように動き回る。


不知火では主機ユニットが強力過ぎるせいでどうしても加減速の操作に繊細さが求められる、比べて向こうは噴射ユニットが非力なせいか一定のスピードを落とさず、ちょこまかと逃げ回っている。


(む、むかつく、軌道ね・・・・・・・)


建物ごと120㎜砲弾で薙ぎ払おうかと思ったが、それではこちらもビルの破片に巻き込まれるかもしれない。



どうしたものかと悩むが・・・・・・・生憎とうじうじ悩むのは性に合わない。



レーダで周りの地形を確認すると、そろそろわき道の少ない直線の長い通りになる。

恐らく、その直線で迎え撃とうというのが彼の狙いかもしれないが・・・・・・・


(こんなんで、誘いこんだとは思わないことね。)


彼の撃震の装備を思い出す。


87式突撃砲を4門、典型的な強襲掃討使用だ。

こちらは、突撃前衛使用、87式突撃砲1門に、92式多目的追加装甲1つ、74式近接戦闘長刀2振り。


(装甲で弾を弾いて、貫いてやるわ!!)


武装を87式突撃砲から74式近接戦闘長刀に切り替え、装甲を前面に展開して追いすがる。

撃震が道の角にある高いビルを旋回する。一瞬肉眼でロストするが、自身も高いビルを曲がると視界が開け、撃震がこちらを振り向こうと跳躍ユニットを左右に吹かしているのを視認する。


「殺った!!」


こちらに銃口を向ける撃震の姿が目に入る、これから射撃しようと弾は装甲に弾かれ、また逃げても主機出力の違いから今度は振り切れる筈が無い。

ビルをすり抜けてきたその操縦技術には関心する所があるが、所詮ここまでだ。


(支給されている給料じゃ買えないようなもの要求してやるわ!!)


響くロックオンアラート、彼が射撃体勢に入った事を知らせるが、そんなものは関係無いと跳躍ユニットを全力噴射。


彼の撃震が掲げた装甲によって視界から消えるが、位置は捉えてある。

後数刻でその機体を貫く手ごたえを予想した瞬間・・・・・・・轟音ともに機体に衝撃が走った。


「!?」


何が起きたか理解できないまま、不知火は上から押しつぶされるように地面に激突し、路面を削りながら墜落する。


強化装備の感覚欺瞞機能で体がGに揺さぶられる、優秀な耐G機構をもってしても時速数百キロから、地面に転がり落ちたのでは消しきれない。


『速瀬機、頭部、右腕部、跳躍ユニット大破。』


何が起きたか現状把握するよりも、早く機体を立ち上がらせる。跳躍ユニットがつぶれたところで、まだ足が残っている、幾らでも奔れる。


『社機、左肩部、左脚部、中波。』


神宮寺の報告、こちらの長刀は届いていない、なのに彼の機体も被害を追っている。


(なんで!?)


その事を確認するよりも早く、再度機体に衝撃が走り、二戦目は私の負けで勝負が決まった。






<社 隆>


「納得できません!!」

そんな速瀬の姿を見て、まるで噛ませ犬だなと思ってしまう。

結果は、一勝一敗一分け・・・・・・・ようは引き分けと言う事だ。


「まぁ・・・・・・・負けたわけじゃないんだし、別にいいだろう・・・・・・・」


「もう一回!!」

引き下がらない、速瀬を見てまりもへどうしたものかと視線を送る。

確かに勝率で見れば引き分けだが、搭乗していた機体が激震と不知火だ。性能の違いから言って、不知火が負けることなどあってはならないだろう。


「ってゆーか2回目のなによ!!突撃砲を撃つなんて正気の沙汰じゃないわよ!?」


彼女の言うとおり、勝利した二戦目は一つの博打だった。


必死でビルの間を逃げ回り、後方モニターで彼女の不知火が長刀を抜いた瞬間覚悟を決めるしかなかった。

迎撃せずに逃げ回ったのには訳がある、機体の姿勢制御と跳躍ユニットをマニュアル制御で行っていたので、射撃に手を回すほどの余裕がなかったのだ。流石に逃げ回るのも限界と思い、遮蔽物のない通りで玉砕覚悟で迎え討とうとしたところ、後方の不知火が長刀を構え装甲を前面に掲げたのを見てアレを閃いたのだ。

最後のビルを旋回した直後、背後ウェポンマウントに設置してあった87式突撃砲二門を空中に向けてパージ。
それを、右腕に持った突撃砲で狙撃したわけだ。


だが、彼女がパージした突撃砲に気づけば終わり、狙撃した突撃砲が爆発しなくても終わり、例え爆発してもその跳弾や爆圧で機体が損傷したら終わり、正直分の悪い賭けでしかなかったが、なんとかなったわけだ。


彼女は装甲で視界が塞がれ突撃砲には気づかず、狙撃した突撃砲はきちんと爆発し不知火にダメージを与え、此方まで来た跳弾はあらかじめ機体を左側を向けていたので大事には至らなかった。


(やっぱ・・・・・・・悪運強いな俺)


「一対一なら、アレもありだろ。」


「無いわよ普通!!」


尚も食い下がってくる速瀬。彼女のプライドに傷を付けたのだから仕方の無い事なのだろうが・・・・・・・


「しかも三戦目は何よ、あんた自殺志願者なわけ!?」

彼女の言うことはごもっとも、引き分けに持ち込んだ三戦目は両者大破の判定を受けていた。


「確かに・・・・・・・中尉は特攻精神があるのでしょうか?」

まりもまで、納得できないっといった顔で訴えてくる。


(・・・・・・・シミュレーターだからって調子に乗りすぎたかな・・・・・・・)


三戦目はいたってシンプルだ。

装備を少々変更し、両手に多目的追加装甲を持たせ、二戦目と同じように、起動制御と跳躍ユニットの制御に全力を傾ける。そして、今度は逃げるのではなく不知火に接近・・・・・・・何発も銃弾を受けながら、体当たりで不知火を吹き飛ばしたのだ。


もし、同じ不知火同士だったら無理だったかもしれない。装甲を掲げた速瀬を不知火事押しつぶしたのは、一重に第一世代機である激震の堅牢な装甲から来る重量差だったからだろう。


機体、マニュアルを熟読したから出来た戦法でもあるのだが・・・・・・・


「社中尉・・・・・・・一つ宜しいでしょうか?」

速瀬を宥めていると、涼宮が挙手をして質問してくる。


「ん?なに?」


「その・・・・・・・二戦目、三戦目と、どうして跳躍中は発砲しなかったのですか?」


「そ、そーよ、私のこと舐めてんの!?」

どう答えたらよいものかと考えてしまう、跳躍するのに夢中で発砲してる余裕が無かった等と言っていいのだろうか?


「・・・・・・・中尉は、ほぼマニュアルで跳躍ユニットを制御していたのですね?」

シミュレーター中のこちらのデーターロガーだろうか?備え付けの制御版を見ながらまりもが告げてくる。


「だから、射撃制御まで手が回らなかったわけですね?」


「んな!?」


「いや・・・・・・・まぁ・・・・・・・その通りなんだけどね。」

驚愕する速瀬の様子にポリポリと頬を欠きながら誤魔化す。


(データロガーなんて無いほうがいいよな~どんな操縦してたか丸分かりだもんな~)


といっても、元の世界ではレースする車にならほぼ付いていた機能だ。別に珍しいものでもない。


「むろん、これは別段珍しいことではありません。前線の兵士や近衛などは同じような制御をしております。」


「水月も、長刀振り回す時や、突撃していく時はやってるね。」


「そ、そうだけど・・・・・・・」


「ただ・・・・・・・・まだ、シミュレーター操縦時間が30時間に満たない衛士が、これをやるのは異例です。」


「・・・・・・・そうなの?」

はい、とまりもは答える。


はて・・・・・・・・そうなのだろうか?


「ああ~・・・・・・・なんて言ったらいいんだろ・・・・・・・乗ってて思ったんだよ、戦術機に乗せられているってさ。」


「・・・・・・・乗せられている?」


「そうそう、便利なのは確かなんだよね。機体がオートで色々やってくれるのは、だけどなんか嫌なんだよね、こう・・・・・・・気持ち悪いっていうか、なんと言うか・・・・・・・」

上手く言葉に出来きていない。

三人とも理解に苦しむように首を傾げている。


「ゴホンっ・・・・・・・例えばだ・・・・・・・車に乗っているとする。」


「車・・・・・・・ですか?」


「そう、車。」

オウム返しをしてくるまりもにウンウンと頷く。


「スピードだしてカーブに入ったら・・・・・・・ブレーキ踏むだろう?」


「そりゃ・・・・・・・そうね・・・・・・・」


「なんで?」


「当たり前じゃない、スピード落としてハンドル切らないと曲がりきれないでしょ?」

答えてくれた速瀬にもウンウンと頷く。


「それが、曲がれるとしたら?アクセル踏んでるのに、車のほうで勝手に減速してしかもハンドルまで制御されて曲がるとしたら?」


「・・・・・・・気持ち悪いと思います。」


「でしょ?それを戦術機はやってくれてる訳だ、無論すごいいい事だし助かる面も多いと思うよ。けどさ、どうしても機械が介入すると反応が遅れるよね?」


「はい・・・・・・・入力しても、機体側が状況に応じた適正を取ろうとすれば衛士が思った反応とズレがあると思います。」

自身が衛士じゃないせいか、自信無下げに言ってくれた涼宮に向かってもウンウンと頷く。


「実際、戦闘してたらそんな事言えないでしょ?時にはぶつかってでも機体の向きを変えたり、限界ぎりぎりまで加速して原則するのに地面削ってでも止まる必要もでてくる時があると思うんだ。」


「はい・・・・・・・ただ、その後の機体制御に難が出ますが。」

まりもの発言に、まぁ、その変は賭けだろうなと思う。その掛けのリスクを最小にするために、機体特性を熟知する必要があるのだが・・・・・・・


元の世界の車を思い出す、最新の高性能車は正直乗せられている感じしかしなかった。車が路面状況に合わせて走らせてくれる、しかも下手なプロよりもその制御が細かく速い。だが、どうにも感覚とズレがあって気持ちよく走れなかった記憶が多い。


「それも一つの答えだけどね・・・・・・・分かった、俺の言いたいこと?」


「はい・・・・・・・なんとか。」


「理解できる所はあります。」


「・・・・・・・ようはあんたがやっぱり変態ってことね?」


(おい)


内心で講義して肩を竦める。彼女達にしてみれば、戦術機は高価な機材であり、その後の整備、修理にかかわるコストも考えて機体にわざと無茶な行動をとらせることはないのだろう。

それが根付いているからシミュレーターでも、そういった行動はとらないのか。

実際、元の世界でジェット戦闘機を相手や地面にぶつけて姿勢制御なんてする軍人さんは絶対にいないだろう。


自分はやはり異質なのかなと思う。


シミュレーターでなら、何をやっても戦術機は実際には壊れない、乗ってる自分も死ぬことは無い。


(ゲームでもやってるつもりか・・・・・・・俺は。)


何度やられてもコンテニューすれば生き返れるゲームを想像し嫌悪する。だが生憎と、命は一つしかないし実践で機体トラブルで死ぬことも多々あるだろう。


「まぁいいわ・・・・・・・私の負けね、不知火で激震に負けたなんていい恥さらしだわ。」

やれやれと言った感じで速瀬は頭を振り、こちらを睨んでくる。


「で、どうするの?私に何をさせるのかしら?」


「ちょ、ちょと水月、本気なの?」


止めるように涼宮が声を掛けるが速瀬は聞いていないとばかりに、こちらに近づいてくる。


(ぬぁ・・・・・・・止めろアップはまずい)


近づいてくる速瀬に後ずさりしつつ内心で冷や汗を掻く。


「さぁ、言ってみなさいよ!?」

形のいい胸を突き出して速瀬は言ってくる。なんとか、それを見ないようにしつつ・・・・・・・視線をずらす。


(ゆ、揺れたぞ今!?・・・・・・・ってか、その態度をまずなんとかして欲しいが・・・・・・・形とはいえ上官だし、まぁ無理か)


「なぁにぃ?やっぱスケベな事でも考えてたわけ~?」


「・・・・・・・・・・・・・・ああ、そうだったらどうする?」


(ごめん・・・・・・・麻美)

内心で婚約者に謝罪しつつ、もうどうにでもなれと思いながらニヤリと笑みを浮かべ、ムニっと此方に突き出された彼女の乳房を掴む。


「んなっ!?」


「随分、わがままなボディに育って・・・・・・・挑発してんのか?」

強化装備越しだ、ろくに感触なんかわかりゃし無いが何が起きたか理解できてない呆然とした速瀬にそう言いつつ、ムニムニと数度揉んで手を離す。

(これ・・・・・・・もとの世界でやったら社会的に抹殺されるな・・・・・・・)


「な、何すんのよ!!!!!」


「社中尉・・・・・・・それは流石に・・・・・・・」


顔を真っ赤にして胸を隠しながら速瀬は後ずさる。それを見かねたのか、まりもが声を掛けてくるのを聞いて苦笑する。


「冗談だよ・・・・・・・生憎と決まった相手がいるのでね、それに二十歳ぐらいの小娘に興味は無いよ。速瀬少尉、気を悪くしたなら謝罪するよ、まぁ軍人に女も男も無いし・・・・・・・その程度気にはしないと思うが。」


小娘なんて嘘だ、正直ご飯何杯でもいけちゃうかも。


肩を竦めて言う、此方の様子にまりもと涼宮はほっとしたような表情を見せる。


「つまり・・・・・・・あんたは、やっぱり霞ぐらいの子にしか興味が無いと。」


「何故・・・・・・・そうなる?」

まだ顔は赤いが、それでも此方と同じようにニヤリと笑みを浮かべて速瀬は笑った。


「冗談よ・・・・・・・で結局どうするの?やっぱ私?それとも遙?」


「な、なんでわたし!?」

まだそのネタで引っ張るのかと思ったが、面白そうに笑う速瀬を見て、今度は涼宮が赤い顔して抗議しているが、どうやらそんな雰囲気はとっくにぶち壊されたようだ。


「これと言ってとくに考えてなかったんだよ・・・・・・・正直勝てるとも思ってなかったし。」


「・・・・・・・やっぱり馬鹿にされてりとしか思えないわね。でも私の気がすまないの!!早く決めなさい!!」


「あ~ちなみに、速瀬少尉は勝ったら俺になにを命令する気だったんだ?」


「な、なんでそうなんるのよ!?」

何故か動揺する彼女を眺めながら呟く。

「・・・・・・・つーか、俺よりもお前のほうがエロイ事考えてたんじゃないのか?」


「ぶ、ぶっ飛ばすわよ!!」


今まで以上に真っ赤になって速瀬は握りこぶしを上げながら叫ぶ。


(おいおい・・・・・・・図星じゃないよな)


「なんだよ、じゃあ言ってみろよ~?」


「くっ・・・・・・・貢物よ。」


「貢物?」

予想外の彼女の言葉に首を傾げる。


「そうよ、あんたの給料じゃ買えないような高価な代物を要求する筈だったの!!」


「へぇ・・・・・・・あれかブランド品とかネックレスとか指輪か?」

この世界にも、まだそう言ったものが残っているのかなと思う。

残っている国を思い浮かべながらふと考える。

(イギリスのブランドって・・・・・・・バーバリー、ポールスミス・・・・・・・上いってエッティンガーとかか?そう言えばむこうも王室とか残ってるのかね・・・・・・・)


「ゆ、指輪!?」

考え込んでいたので、速瀬が何か叫ぶが聞き逃してしまう。まぁ、どうでもいいことだろう。


「生憎と間に合ってるからな・・・・・・・さてどうしたものか・・・・・・・」


「社中尉・・・・・・・お戯れもその変かと。」

真剣に悩みはじめる俺に、まりもは諦めたような口調で言ってきた。


「水月~その変で止めなよ~」


「うっさいわね遙!!私のプライドが掛かってるのよ!!」

二人はそう言って、なにやら言い合いを始める。それを見てふと思いつくことがあった。


「ああ・・・・・・・決まったよ」


「な・・・・・・・なによ?」

ごくりと、速瀬が唾を飲むのが聞こえてきたような気がした。


「涼宮少尉にもお願いなんだけどね。」


「わ、わたしもですか?」

なにやら驚いている、その様子がまた微笑ましいのだが・・・・


「俺を二人の友達にしてくれ。」


『はっ?』


三人、速瀬、涼宮、まりもの声がはもったような気がした。


「あれ?駄目?・・・・・・・もちろん、人前とかでは立場に合った対応をしてくれないと困るけど。」


「はぁ・・・・・・・」


「・・・・・・・って駄目か、だよな~歳が違うってか~気持ち悪いとか言わないでくれよ~」

生返事で返された事にショックを受けながら、空元気で言い放つ。

二人の掛け合いを見て思ったの事があったのだ。生憎とこの世界では知り合いといえるものは、夕呼と霞とまりもしかいない。だからせめて、楽しそうにじゃれている二人にも構ってもらえればと思ったが・・・・・・・失敗したらしい。


「いえ、そんな事はありません。」


「いや、別にいいいけど・・・・・・・。」

と言いつつ、二人はまりものほうをチラッと見る。


「?・・・・・・・ああ、まりもさんも、俺の大事な友達だ。ですよね、まりもさん?」


「!?・・・・・・・え、ええ、そうですね隆さん・・・・・・・」

一応、この場で自分は最高階級、まりもも此方の言葉に従わない訳にもいかないだろう。


「さて・・・・・・・じゃあ、いいのかな?」


「し、仕方ないわね、あんたがそう言うならそうしてあげるわ。」


「う~ん、いいのかな~、社さん中尉なんだし~でも・・・・・・・いいのかな?」


(なんだこのツンデレと、天然は?)


二人の態度に笑みが隠し切れない。


「じゃあ宜しくな、速瀬、涼宮。」


言って右手をまず速瀬に差し出す。


「良いわよ、それに水月って呼んでいいわよ、私も隆って呼ぶから。」


「年上を呼び捨てかよ・・・・・・・」


「私も遙って呼んでくださいね、隆さん。」


速瀬・・・・・・・水月の態度に呆れていると、次に握手を求めた遙にまで同じ台詞を言われてしまう。


そんな様子を、まりもは頭を抑えながら見ていた・・・・・・・







<伊隅 みちる>


「どう?伊隅から見て彼は使い物になりそうかしら?」

副司令に呼び出され、何事かと思い執務室まで来て見れば、開口一番彼女はそう言って来た。

むろん、彼のデータは神宮寺軍曹から香月副司令のところにも上がってきている筈だ、それを私に聞くということは現場レベルの意見を聞かせろいうことだろうか。


「はっ、神宮寺軍曹からあずかりました操縦データ、ならびに先日行われた速瀬少尉との模擬線からも彼は優秀な衛士になりつつあります。」


速瀬に勝利した戦法は、あまり褒められたものでない。だが、それでも彼は対人戦においては非常識ともとれる戦い方をしている・・・・・・・正直BETAに通用するとは思えないが。


「特に、軌道技術、並びに射撃に対する適正が高いとおもわれます。」

と言っても、まだまだのレベルではあるが、操縦時間から考えると訓練兵上がりの衛士よりは見込みがある。


「でしょうね~たかが車だけど地上で200キロ以上でぶっ飛ばしてたらしいしね~動態視力とかいいのかしら?」


車で200キロ、戦術機では驚くほどのスピードではないが、四輪の車でそれほどのスピードがでるのだろうか?


副司令の言葉に疑問を覚えるが、

考えてみれば始めてあった戦場で、彼は自動車で戦車級、要撃級から逃げ回っていたではないか?


「はっ、時間をかければ第一線で部隊に加えられるでしょう。」


「そうね~・・・・・・・ま、それはそれとしてコレよ。」


言って一枚の書類を手渡してくる。


「まったく・・・・・・・暇じゃないってのに、めんどうな事だわ。」

先程と打って変わって不機嫌そうな副司令を横目にみつつ渡された書類に目を通す。


「・・・・・・・帝国軍への派遣要請ですか?」


書類には、日本帝国軍から国連所属部隊への派遣要望の内容が記されている。


「そっ・・・・・・・新潟方面への戦力増強で、各基地の部隊が手薄・・・・・・・そこで国連に少しの間補充要員のお願いに出たわけね。」

忌々しく彼女は呟く。
国連、ひいてはアメリカを敵視している帝国軍だが、多くの組織がそうであるように帝国軍にまた一枚板ではない。利用出来る物は何でも利用しようと言う連中も多いだろし、何かと借りがある国連・・・・・・・嫌米国に打診してくることも少なく無い。
今回も帝国軍の台所事情はひっ迫している現在を鑑みるに、少しでも戦力を欲しての要請だろう。

むろん、この要望に従う必要は無い。
あくまでこれは要望であり、命令では無い。
だが、彼女が進行している計画の一番のスポンサーである帝国軍、引いては日本政府からの希望に答えないのはこれからの進退に影響を及ぼすかもしれないが・・・・・・・


「基地の部隊からも何人か出すわ・・・・・・・それで私も立場上出さないと行けないのよね・・・・・・・」


そう言って彼女は言いよどむ。そんな彼女が考えていることは概ね予測できた。

自分が所属している部隊、A-01には今現在、部隊として機能しているとは言えない。

先日の作戦で死傷者を多数出してしまった現状では、今期の予備兵の育成が済むまで開店休業状態だ。


(だからと言って私が行くわけには・・・・・・・)

そもそもA-01は秘匿部隊だ。
表向きの顔である戦技教導隊として出向くのもいいが、同じ国とは言え帝国軍へ行くのは本来許される事ではない。


「まぁ、前回の作戦での功績で持ってチャラにすることも出来なくはないけど・・・・・・・丁度今、一人手が空いてるのがいるのよね。」

それを聞いて脳裏に閃く人物がいる。

丁度今、戦術機のシミュレーターであの鬼軍曹に扱かれている彼の事だが・・・・・・・


「社・・・・・・・中尉にですか?しかし彼はまだ・・・・・・・」


「派遣日までには、使い物になるようにまりもには言うわ・・・・・・・なにより、彼が帝国で何をやってくるかが興味あるわね。」

言って彼女は笑う。

(スパイにでもしたて上げる気なのか?)


「・・・・・・・しかし、まだ彼は自分の乗機がありません。流石に手ぶらで派遣させるわけには・・・・・・・」


「・・・・・・・言われてみれば、それもそうね。」


A‐01の部隊員の機体は全機オーバーホール中だ、今は実機演習も予備機を使って行っているのが現状だ。とても彼に回す機体の予備など無い筈だが。


「今からですと・・・・・・・機体の申請をしても間に合わないでしょうし、まさか他部隊の機体を接収するおつもりですか?」


「まいったわね・・・・・・・接収?・・・・・・・ああ、そう言えば『蜂』があったわね。」


「・・・・・・・『蜂』ですか?しかしあれは、速瀬少尉にまかせて完熟訓練をやらせましたが・・・・・・・評判が・・・・・・・」


彼女に言われて思い出す。計画の名の元に彼女が米軍から接収した戦術機を。

副司令もこんな使えない機体を寄越してどうする、と怒り狂っていた気がするが・・・・・・・確かにアレなら副司令権限で使用できるだろう。


速瀬少尉に任せて搭乗させた所かなりの不評を受け、尚且つ部隊の誰にも合わなかったので、今では格納庫の隅で誇りを被っている不運な機体だ。


「大丈夫でしょう?面子さえ保てればいいわ・・・・・・・しかも、彼の乗り方にはあってるんじゃない?」


「はぁ・・・・・・・わかりました、整備部に言って用意させます。」

肩を落として答える。

彼女が決めたことだ、それが覆るとは思わない。彼には悪いが、あの機体で帝国軍へと行ってもらう事になりそうだ。まぁ・・・・・・・帝国軍で、未だ数が揃っていない筈の不知火等で行かせるよりは良いかもしれない。


「宜しく~・・・・・・・とびっきりのスズメバチにしてやんなさい。」









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