DONの落書き部屋

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「Muv-Luv 小説」
第一部

百里編 第1話

 
百里編 かれの出張の始まり



2000年11月11日 06:10
千葉県沖 国連軍所属C-130機内

<社 隆>

「丘をこえ~いこ~よ~口笛ふきつ~つ~」

 眼下に広がる海岸線を見ながらそう口ずさむ。
 出発した時点ではパイロット達も苦笑していたが、今では完全に無視されてしまっている。
 
 水平線に昇りつつある太陽を眺めながら自問する。

(何故・・・・・・・こうなったのだろう?)

 今日この時まで、果たして何回この言葉を反芻しただろうか?








 時間は三週間程巻き戻る。

 2000年10月21日 11:00
 横浜基地内 B19副司令執務室


「出張よ!!」

「はい?」

 夕呼さんに突然呼ばれて執務室に向かえば、部屋に入るなり言われたのはその一言だった。
 言葉の意味はむろん理解できる。だが何故自分なのかがさっぱり理解出来ない。

「副司令、質問してもよろしいでしょうか?」

「却下」

 一蹴されてしまった。

「・・・・・・・正気ですか?俺なんかが行ったらどんなボロがでるかわかりませんよ?」

「なによ、却下って言ったでしょう?・・・・・・・あんた、元の世界で出張した事ぐらいあるでしょ?」

(まぁ、確かに・・・・・・・でもそれとこれとは話は違うんじゃないか?)

「はぁ、まぁ何度かしましたけど・・・・・・・ってか、この世界の俺ってテロリストだったんですよね?誰か俺のこと知ってる人がいたら危険じゃないですか?」

 当然の質問を投げかけてみるが、彼女は何処吹く風と興味無さ気に手を振る。

「ああ、その件なら気にしなくていいわ。あんたがよっぽどのヘマしなかぎり大丈夫だから」

(本当かよ・・・・・・・)

 彼女のそんな態度に疑いの眼差しを投げかけてしまう。

「いいから、つべこべ言わない。他に人がいないのよ・・・・・・・この御時勢、何処も人手不足だから諦めなさい。11月から一年間、帝国軍の百里基地に行ってもらうわ」

「百里?・・・・・・・確か茨城でしたっけ?」

「そ、茨城に行った経験は?」

 そう聞かれて脳裏に思い浮かぶのは、

「・・・・・・・お土産は納豆がいいですか?」

「却下」









 そして時は再び輸送機の室内へと戻る。

「・・・・・・・はぁ」

 あの時の様子を思い出して、思わず溜め息を付いてしまう。

 辞令?を言われた後は目まぐるしい日々の繰り返しだった。

 まりもさんとの戦術機操縦訓練が昼夜ぶっ通しになり、模擬戦だと騒ぐ水月の相手をしつつ、何故か途中から伊隅大尉が加わって尉官教育の座学まで受けさせられた。

 折角霞と約束したのに・・・・・・兄妹らしいことが出来なかったのが心残りだ。

「中尉、そろそろ到着です」

「・・・・・・・了解」

 横浜から輸送機で一路茨城へ。
 BETAの勢力範囲で航空機を飛ばすなどもってのほかだが、日本近海の太平洋は平和なものである。

 ちなみに、輸送機に乗る前に酔い止めはきっちり飲んである。


『私に迷惑かけない程度に好きにやりなさい・・・・・・・わかってると思うけどサングラスは外さないように、それと月に一回は私への報告がてら霞に会いにきなさい』

 離陸前に言われた夕呼の言葉をふと思い出してしまう。

 あの時霞は怒っていたのだろうか?輸送機へ搭乗する自分に向かって「バイバイ」と別れの言葉を送ってきのだ。

『霞・・・・・・・こう言うときはな、気をつけていってらっしゃいとか、お土産買ってきてねって言うんだぞ』

『・・・・・・・いってらっしゃい。お土産、期待して・・・・る』

 中々敬語が抜けない霞の様子に苦笑したものだ。

 また、帝国軍に出張だと三人の女性に教えた時の反応は一様だった。

 まりもさん曰く

「国連軍は目の敵にされてるから・・・・・・・体には気をつけてね」

 水月曰く

「よそ者だからって虐められるんじゃないわよ~」

 遙曰く

「あ、あの・・・・・・・泣いちゃ駄目ですよ?」

 とまぁ、そんなやりとりがあったりなかったり・・・・・・・

(なんだってんだ、ちくしょうめ・・・・・・・)

 よっぽど国連軍は帝国軍に嫌われているらしい。

 とは言え、そんな帝国軍の将兵の心情が理解出来ない訳じゃない。
 昨年の明星作戦において、日米安保条約を一方的に破棄した米国軍が横浜で日本政府の了承を得ずに新型爆弾の使用を強行。

(ひとんちの庭で爆弾落とされれば、そりゃキレるわな・・・・・・・)

 国連と言えば聞こえはいいが、その実態はBETAに侵略された国々による寄せ集め集団でしかない。
 その中核となり最大戦力を誇るのは米軍、ゆえに国連を米軍の手先にしか思っていない帝国軍の将兵も多いと聞く。

 それを知った時、何故夕呼さんやまりもさん達が日本人なのに国連へ入隊したのか尋ねたことがあった。

 夕呼さんは自身が進める研究のため。まりもさんと伊隅大尉は帝国軍所属だったのを夕呼さんが国連へとスカウトしたらしい。
 水月、遙は徴兵志願の申請を日本政府に提出した筈なのに、気がついたら国連の訓練学校にいたらしい。

(ったく・・・・・・帝国軍で国連のイメージアップでもしてこいってのかよ)

 だったらアイドルに歌でも歌わせろと思ったときには、輸送機は帝国軍百里基地へと着陸態勢に入っていた。







 11月11日 09:00
 百里基地 一階ロビー

 持参した【積荷】は輸送機のパイロット達に任せ、ボストンバック片手に基地内へと入って行く。

「期待してなかったけど、出迎えも何もないとはね・・・・・・・」

 滑走路にいた誘導員や、基地入り口まで車で送ってくれた帝国軍の隊員達の顔を思い出しながら呟く。

 思い出せる彼らの顔は、一様に不服そうな表情を浮かべていた。

(・・・・・・・ったく、だったら派遣要請なんかするんじゃないっての)

 入り口に貼ってある基地の案内板を見て、取りあえず基地司令に挨拶に行くため司令室の場所を確認する。
 なんとなく場所を把握して基地内を歩き出す。立っていた歩哨が敬礼してくれるのでそれに答礼しつつ歩いていくと・・・・・・・

「おっと・・・・・・・」

「きゃ!」

 廊下の曲がり角で誰かとぶつかってしまた。

(ぶつかって始まる恋もある~)

 などと内心思いながら、倒れて尻餅をついてしまっている女性に手を差し伸べる。

「すみません、大丈夫ですか?」

「は、はい、こちらこそ余所見をしてしまいまして・・・・・・・」
 
 罰が悪そうに謝りながら、彼女は差し出した手を躊躇いながらも掴んでくれる。
 随分小さい手だと思い、転んでしまった女性を眺めると・・・・・・霞よりは年齢は上だろうか?17、18ぐらいの女の子だった。

「もう・・・し・・・わけ・・あ・・・・・」

「?」

 彼女が此方の顔を見るなり語尾が少しずつ小さくなっていく。それに首を傾げた瞬間・・・・・・・顔面に衝撃が走った。

「ッ!!」

 掛けていたサングラスが宙を舞い、遅れて右頬に痛みが走る。

 引っぱたかれたのだ、しかも突然会った相手に!!

「なっ!?」
 
 呆気にとられ、呆然としている間に彼女は走りだして視界から消えてしまった。

(な、なんだ?俺なんかしたか!?少なくともパンツは見えてなかったぞ!?)

 彼女も何処かの部隊員なのだろう、秘書官やCPと違ってスカートではなくズボンだったから間違い無い。

(なんなんだよ・・・・・・・)
 
 女性に殴られたのは久方ぶりだと思いつつ、痛む頬を押さえながら宙を飛んだサングラスを探す。

「はい、どうぞ」

「!?・・・・・・・ああ、どうも」

 突然後ろから声を掛けられて振り向くと、見知らぬ女性が立っており手にしたサングラスを渡してくれた。

 正直、この世界に来てから女性にしか会ってないような気がする・・・・・・・

(女難の相でもあるのか俺は・・・・・・・)

「大丈夫~?思いっきり引っ叩れてたけど・・・・・・・」

「いえ・・・・・・・恥ずかしいとこ見られたみたいですね」

 サングラスを掛け直しながら答える、どうやら歪んでいたり割れたりはしていないようだ。

 今度の女性は水月や遙と同年代ぐらいだろう。
 日本人らしいショートの黒髪、そして愛嬌がありそうな顔でこちらを見ている。先程の少女と同じく帝国軍の軍服に身を包んでいるところを見ると、彼女も何処かの部隊員のようだ。

「そ、ならいいけど・・・・・・・国連の制服を着てるってことは、貴方が社隆中尉?」

「ああ、今日付けでこの基地に出向されてきたんだが・・・・・・・」

「あ、そう・・・・・・・迎えに行ったんだけどね・・・・・来るの早いって、すれ違いになったじゃない」

「迎え?」

「そっ・・・・・・・百里基地所属の橘栞(たちばなしおり)少尉よ。一応貴方の同僚だから・・・・・・・隊長から迎えと、基地内の案内を命令されたわけ」

 階級をモノともせず彼女・・・・・・・橘少尉は告げてくる。

(まぁ・・・・・・・国連と帝国じゃ所属が違うからな・・・・・・・そんなもんだろう)

「ついてきて~まずは司令室まで案内するわ」






<瀬戸 真奈美>

 自分の行動があまりにも迂闊だったと反省する。

 いくら所属が国連と帝国で違うとは言え、仮にも上官である彼に思いっきり平手を叩き込んでしまったのだ。

「・・・・・・・はぁ」

 今日から自分の部隊に配属される予定の人が、国連から出向されてくると前々から上官から聞いていた。

 となれば・・・・・・・先程の「彼」に間違いない。

 思わず逃げてきてしまったが、それも良くない・・・・・・・むしろ悪すぎる。

(ああ~橘少尉と一緒じゃなくて良かった~)

 部隊一、お節介な同僚の姿を思い浮かべる。
 彼女に見られていたら、今後どんな事でからかわれるか分かったもんじゃない。

 ただ、あの時は仕方がなかったとしか弁解できない。

 知っている人と似ているような気がしたが・・・・・・・その筈が無い。

「あら、マナちゃん?どうしたの?」

 肩を落として歩いている姿を部隊の上官に見られてしまう。こんな姿を人に見せるもんじゃないと思い背筋を伸ばし敬礼する。

「はっ、なんでもありません、城崎中尉」

「そう?・・・・・・・何かあったら何でも言ってねマナちゃん」

 言って微笑を浮かべる上官らしからぬ自分の同僚を見ながら、どうやって彼に謝ろうか考えるべく頭を使うことにした。






<社 隆>

「なぁ・・・・・・・基地司令っていつもあんな感じなのか?」

 司令室で挨拶をすませた後、思わず橘少尉にそう聞いてしまった。

「ん?・・・・・・・大海司令って、普段からあんなもんよ?」

 百里基地司令の大海喜八郎准将は・・・・・・・なんと言うか熱い男だった。

 遠い所をようこそ、と握手から入り暫し話したのだが、出るわ出るわ昔の武勇伝を散々聞かされ正直気疲れしれしまった。まぁ、他の基地要員と違い普通に話してくれたことには感謝するが、彼の立場上当たり前の事かもしれない。
 それでも最後、そのサングラスは国連で流行っているのかね?と聞かれた時は肝を冷やしたものだ。

(やっぱ・・・・・・・このサングラスが全ての元凶ではなかろうか?)

「で、ここが貴方がコレから配属になる部署よ」

 橘少尉が指差したドアには、第12小隊と書かれた立て札か掛かっている。

「失礼します」

 中がどうなっているかと思いきや、なんて事は無い何処にでもある普通の事務所の様相だった。机が向かい合わせなって幾つも並び、綺麗な机もあれば、資料が乱雑に散らばっている机もある。

 主不在の席ばかりだが、そんな席の中で一番机の上が汚い席に一人の女性がいた。

「・・・・・・・ん?誰だ?」

 タバコを咥えたまま手元の雑誌を読みふけっていた女性は、此方に気づくと開口一番そう言ってきた。

「三澤隊長~、国連から出向してきた人ですよ~大尉が迎えに行ってこいって私に言ったでしょう?」

 背後から部屋に入ってきた橘少尉が抗議の声を上げているのを聞いて、彼女は今思い出したかのように、ああ、っと答え短くなった口元のタバコを灰皿でもみ消す。

「宜しく、部隊長の三澤静流(みさわしずる)大尉だ」

「・・・・・・・はっ、国連太平洋方面第11軍・横浜基地所属、社隆中尉であります。これから一年間宜しくお願いいたします!」

 びしっと敬礼して挨拶する。何事も最初が肝心だ、うん。

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

 折角気合を入れて敬礼したというのに、三澤大尉は手元の雑誌に再び目を落として何も語らない。

(・・・・・・・間がもたん・・・・・・・)

 敬礼したまま直立不動の体勢で彼女の言葉を待つが・・・・・・・なんの反応も無い。

 歳は自分や夕呼と同じくらいだろう、25、6と言ったところか。やや茶色がかった長い黒髪を後ろでアップにしている、眼鏡も掛けているので見ようによっては知的なクールビューティに見えなくもないが・・・・・・・
 気だるげに雑誌を読みふけるその姿は、なんと言うか全身でやる気の無さをアピールしていた・・・・・・・

「いつまで、敬礼してんの?・・・・・・・貴方の席ここだから座ったら?」

 不思議そうに此方の様子を見ながら橘少尉が声を掛けてくる。仕方なく教えてくれた席に自分の荷物を置いて座る。

「隊長はいつもあんな感じだから・・・・・・・気にしないほうがいいわよ?」

「そ、そうなのか・・・・・・・?」

 隣の席に座った橘少尉が言ってくれた内容に安堵しつつ他の席を見やる。

「他にも4人いるけど、もう直ぐ来ると思うわよ」

「了解」

 何となく手持ち無沙汰で、壁に掛かった部隊スケジュールを書き込むホワイトボード見ると・・・・・・・真っ白だった。

 何故か・・・・・・・無性に不安になってくる。

 まるで、潰れかけの会社に所属した気分だ。

(いや・・・・・・・実際経験したわけじゃないんだが・・・・・・・)

 それでも依然見た会社を思い出し、似たような雰囲気だったな~とか思ってしまう。

「この部隊ね最近設立したのよ。私と、隊長だけが元々百里の所属、貴方を含めた他5人が増員ってとこね・・・・・・・まぁ、貴方で最後だけどね」

 橘少尉の言葉に納得する。ほどなくして廊下を何人かが歩く音が聞こえてくる。

「あ~・・・・・・・それと言っておくけど・・・・・・・あんま相手しないようにね」

「?」

 彼女の意味不明な言葉に首を傾げていると、ドアが開いてぞろぞろと人が入ってくる。

「しつれいしや~す」

「お疲れ様です」

「遅くなりました」

「・・・・・・・」

 四者四様、男性二人に女性二人。
 男の仲間が出来るかもしれない嬉しさを覚えつつも、最後に入ってきた女性に驚く。

(んな?さっきの!?)

 向こうも此方に気づいているのだろう。気まずそうにしているが、一言も発せず憮然とした表情で、先程廊下で出会い頭に自分を引っぱたいてくれた女の子がソコにいた。

「なんや橘、そいつが国連の新入りか?」

「はつ、国連太平洋方面第11軍・横浜基地所属、社隆中尉であります、これから一年間宜しくお願いいたします」

 すかさず、椅子から立ち上がって敬礼する。

「・・・・・・・」

 橘に声を掛けてきた男性は、此方の様子を・・・・・・・まるで得体の知れないものを見るような目で見て、

「・・・・・・・なんや、そのサングラス・・・・・・・取らへんで敬礼とは馬鹿にしてんのか?」

 敵意を隠そうともせず言葉とともにぶつけてきた。

(夕呼さん・・・・・・・やっぱこのサングラス失敗だよッ!!)

「はッ、申し訳ありません・・・・・・・・自分は視力病気の一種なので、これを外すわけにはいきません。ご容赦ください」

「はっ・・・・・・・まぁいいわ」

 そう言ってムカツク関西人は、ドカッと自分の席に座る。
 短く刈り込んだ頭に、鋭い目、どこのチンピラかと思わず突っ込みたくなる。

「遠い所をようこそ」

「はっ、ありがとうございます」

 同僚の様子をヤレヤレと言った様子で眺めていたもう一人の男性は、そう声を掛けてくれながら自分の席、丁度自分の向かい側に座る。
 優男と言った感じが否めないが、クールでニヒルな外見・・・・・・・簡単に言えばイケメンと言ったところだろう。

 二人の男は自分と同世代ぐらいに見えた。今まで、女性しか知り合いが居なかったので、正直喜びを隠せない。
 やはり男の知り合いは欲しいものだ、女性相手だと気疲れする事が多すぎる。

「ふ~ん・・・・・・・」

 値踏みするような目線を送ってきた女性の視線に笑顔で返す。
 歳は橘と同じぐらいか・・・・・・・綺麗な黒髪を背中まで伸ばしたその姿は、いわゆるお嬢様タイプだと勝手に判断する。
 現に折角笑顔を向けたのにも関わらず、冷めたような一瞥を此方に向けて彼女は自身の席に着いてしまう。

 ますます、先程の言葉の意味が大きくなる・・・・・・・とは言え、優男はともかく関西人は敵意剥き出しなので前途多難だが・・・・・・・

「・・・・・・・」

 引っぱたいてくれた女の子は、此方を見ようともせずさっさと自分の席に座ってしまった。

 さっきは観察する時間も無かったので改めて女の子を見る。歳は17、8くらい、栗色の髪を邪魔にならないように後ろで縛っている。
 体系は・・・・・・・同じ部隊の三人の女性と比べると可愛そうだが・・・・・・・霞ぐらい小柄だった。

「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」」

 そして訪れる沈黙・・・・・・・

(・・・・・・・な、なんなんだこの雰囲気は?)

 額に冷や汗を浮かべながら敬礼を解いて自分も席に座る・・・・・・・・なんと言うか、この雰囲気に耐えられそうに無い。

 手元の雑誌から顔を上げない上官、此方を睨んでくる男、我かんせずと何やら書類を漁りだす男、興味無さそうに自分の髪を弄ぶ女性、此方の様子が面白いのか興味深そうに見てくる女性、そしてひたすらシカトをかましてくれる女の子。

 とそこで、部屋にパンっと音が響く。

 音のした方を見ると、三澤大尉が手元の雑誌を閉じて此方を眺めていた。

「・・・・・・・で、お前達・・・・・・・挨拶ぐらいしたらどうだ?」

「・・・・・・・川井洋平(かわいようへい)中尉や」

「桐嶋久志(きりしまひさし)中尉です」

「城崎葵(しろさきあおい)中尉よ」

「・・・・・・・瀬戸真奈美(せとまなみ)少尉です」

 桐嶋、城崎以外は渋々と言った様子で答えてくれる。

(なんだよ、全員俺と階級一緒か下かよ!!)

 敬語使って損したと思うが、まぁ最初が肝心だと心で納得させる。

「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」」

 そして、再び訪れる沈黙。

(勘弁してくれ・・・・・・・)

 先程とまったく変わらない状況に呆然としつつ、天井を見上げるしか出来なかった。








 同日 13:20
 百里基地 第3戦術機格納庫


 散々な目に合ったと、肩を落としながら格納庫をトボトボと歩く。

 結局あの後三澤大尉の、今日はどうせやることないから好きにしてろ、の一言で解散となったのだが。

(やっぱ・・・・・・・嫌われてんのかな~)

 同僚から向けられた視線や、基地内の雰囲気を感じながら嘆息する。

 国連軍を嫌う理由はわかるが・・・・・・・だがしかし、ああも敵対心をむき出しにされると辛いものがある。すれ違う整備兵や他の部隊の衛士達も似たような視線を送ってくるし、正直気が休まる暇が無い。
 慣れてしまえば大抵の事など気にしなくなる自分の性格は分かっているのだが・・・・・・・慣れるまでは辛いだろう。

「は~こんな場所で一年か・・・・・・・霞、兄ちゃんは頑張るぞ~」

 既にホームシックに掛かってるような台詞をはきつつ、帝国軍の基本迷彩である黒色で塗装された戦術機の列を見上げる。

 騒然と並んでいる陽炎と激震・・・・・・・不知火の姿が見える。不知火は部隊配備が滞っているとの話だったが格納庫内に見える姿は多い。滞っているのは、前線への配備が遅れているからそう言われているのだろうか?

 そんな戦術機群の中、夕呼さんの計らいでなんとか国連塗装の青から黒に塗られた他とは形状の異なる戦術機を見つける。
 といっても大まかな部分は陽炎と類似する箇所が多い。同じ第二世代の戦術機であり、開発元も同じアメリカだから当然といえば当然かもしれない。

「・・・・・・・【胡蜂】ねぇ」

 自分用に用意された機体を見上げながらポツリと呟いてしまう。


 第二世代戦術機、F/A-18Xレガシーホーネット、日本名・胡蜂(スズメバチ)

 この戦術機はアメリカから正式に日本に導入されたモノではなく、夕呼さんがアメリカから接収した機体だと伊隅大尉から聞いている。
 この戦術機を語るにあたり、まずその前世代機とも言えるF-14 から説明する必要がある。



ちなみに・・・・・・・ここから長くなるので読み飛ばしてもいいですよ(汗
――――――――――

 現在、日本帝国軍でも運用されている第二世代戦術機・陽炎、もとの名は米陸軍で使用されているF-15・イーグル。
 そのF-15が帝国軍に技術評価のため試験導入されるに当たり、実は米海軍からF-14 と呼ばれる戦術機もその候補にあがっていた事実がある。

 F-14トムキャットは82年から配備された世界初の第二世代戦術機である。
 F-14の配備以前、米海軍は初の艦載戦術機であるF-11タイガーを運用していた。
 だが、F-11はF-4に比べ失敗作と揶揄され、その開発元であるアメリカ・グラナガン社は海軍から要求された次世代型戦術機の開発に全力を持ってあたり、革新的な技術を幾つも採用してF-14 を開発し海軍が求める要求に応えた。

 F-14 の登場は、それ以前の戦術機は全て旧式兵器と言わせるまでの性能を持った機体だった。
 87年に、前述したF-14 とF-15の帝国軍への激しい売り込み合戦が行われたが、厳しいトライアルの末くしくもF-14 は、その戦術運用の違いで日本に受け入れられること無く敗れたのだ。

 陸軍と違い海軍では、洋上での空母機動艦隊を中核とした戦術機の運用を前提としている。

 上陸部隊支援のための長距離ミサイルを主とした遠距離射撃能力、海上での飛行性能を考慮した機動概念、航続距離を延長するべく燃料タンクの大型化、空母では狭いスペースでの整備を余儀なくされるために整備性の向上、離発陸が多くなるので足回りの強化等、海軍ならではの特徴が逆に帝国軍へは受け入れられなかったのだ。

 中、遠距離戦を主眼とするその戦闘能力はF-15にも引けを取ることはなかったのだが、ハイブ突入と陸上での近接戦闘に重点を置いている帝国軍には、近接戦闘までこなすF-15が後の第三世代型の開発に必要な技術検証に成りうると評価され試験導入されたのだ。

 そんな日本への導入は無かったF-14 だが、米海軍、イラン、アフリカ諸国では運用され続けている。
 だが最古の第二世代戦術機であるF-14 は、幾多の回収を受けながらも、その維持費の高騰から2000年には米国議会で米海軍からの退役が決定しつつある。

 そしてF-14 の後継機として87年からF-14 と並行して海軍で運用されている機体がある。

 それが、F/A-18C・ホーネットである。

 F-14 よりも安価で、機体そのものが一回り小さく、なおかつ汎用性が高い多用途戦術機であり、オーストラリアなどの各国で使用されている。
 米軍のハイロー・ミックス計画の一端に組み込まれ、当初その運用は主にF-14 の補佐であった。これはF-14 が、その大型な機体故に多くの設計的余剰を持っていたために、数多くの改良を重ねる事ができ、結果として後継機であるF/A-18Cよりも稼働時間、総合戦闘能力、その何れもが勝っていたためである。

 とは言え、後継機として開発されたF/A-18Cがその現状を指を銜えて黙っていたわけでは無い。

 F/A-18C・ホーネット(蜂)をさらに回収したのがF/A-18E・スーパーホーネット(雀蜂)である。

 不知火と同じ94年に米海軍で実戦配備が決まったF/A-18E。
 元々のF/A-18Cを現場から上がった意見を元に大幅な改修を施した結果、第二世代戦術機では最強といわれるF-15Eに次ぐ能力を誇るまでとなった。
 F-14 よりは小型だった機体を大型化し、兵装搭載能力と稼働時間延長の底上げ、FCSの情報処理能力の向上、なおかつ跳躍ユニットに可変翼機構を採用し、元のF/A-18Cとはまったくの別物と言って差し支えない機体に仕上がったのだ。

 そして目の前に鎮座しているこのF/A-18Xは、そんな改修を受けたF/A-18Eの標準機と比べあるシステムが追加されている。

 特殊レーダーの装着により限定的な情報戦が可能、また専用の特殊ミサイルを採用し、多様性を増しているのがこのF/A-18X・・・・・・・レガシーホーネット【胡蜂】である。

 伊隅大尉曰く、それがこの機体がオリジナルだと言われる由縁だと。

 米海軍の一部で採用されているこの機体。
 情報戦が可能な事から米軍が何を持ってこの機体を運用しているかは推して知るべしである・・・・・・また正式量産機としてG型と呼ばれる機体が、既に米軍では運用されているそうだ。
 


――――以上、ここまでが考察です。



(それでもまぁ・・・・・・・水月はポンコツと言ってたな)


 横浜にて誰も乗る人がおらず格納庫の隅で誇りを被っていた不運な機体を見上げる。


 突撃前衛で近接戦闘を得意とする水月には、この機体の特性が合わなかったらしい。
 なんだかんだ言って米軍機である、近接戦闘能力では不知火には遠く及ばないのだろう。

(74式近接戦闘長刀振り回したら、肩と肘の関節が逝ったとか言ってたからな)

 強襲掃討のポジションの自分だからこそ使っていられるのだと思う。

「・・・・・・・頑張ろうな~相棒」

 声を掛けた機体は・・・・・・むろん何も応えてくれなかった。







 同日 14:00
 百里基地 基地内通路

<橘 栞>

 あの格好で歩き回る彼に、正気なのかと問い詰めたい自分がいる。

「あ~もう、せっかく制服持ってきてあげたのに部屋にいないんだから・・・・・・・」

 目立つ国連の制服を着替えさせるべく、帝国軍の制服をPXに取りに行って部屋に戻れば彼の姿は既に無かった。
 何処に行ったのかと聞いても、協調性のない部隊員は知らないとしか答えてくれない。

(ったく、待ってるように言えばよかった・・・・・・・)

 言わなかった自分も悪いのだが、ジッとしてない彼も悪い。
 うろうろと基地内を歩き回ったが、何処にも彼の姿は見えなかった。

「どうした、栞ちゃん?」

 基地で古参の整備兵の目に留まったのか、声を掛けられ振り向く。

「ああ・・・・・・・湯田のおじさん・・・・・・・丁度良かった、国連の制服着てサングラス掛けた怪しい人見なかった?」

 言ってる内容が酷いとは思わない、むしろ一番分かりやすい表現だと豪語できる。

 配属されて2年、色々とお世話になっている気のいい整備兵は格納庫のほうを指差しながら答えてくれた。

「国連の制服?・・・・・・・ああ、さっき格納庫で持参した自分の機体のとこにいたな~」

「ほんと?ありがと~、何も言わずにどっか行くからまいったわ、何処のハンガー?」

「第三格納庫、栞ちゃんの陽炎と一緒に並んでるよ」

「了解、ありがとね~今度お礼するよ~」

「じゃあ、ぜひともその乳を今度揉ませて・・・・・・・げふっ!?」

 毎度毎度、年甲斐も無く下品なことを言う爺に蹴りをくれつつ、私は格納庫へと走り出した。

「ああ、やっと見つけた~」

「?」

 薄暗い格納庫でボーっと自分の機体を見上げている彼を見つけて声を掛ける。

「ほんと、まだココにいてくれてよかった~」

「・・・・・・・橘少尉、俺になにか用か?」

 きょとんとした様子で言ってくる彼に、無言で制服を突き出す。

「なんだこれ・・・・・・・?」

「制服」

 その一言で合点が言ったのだろう、礼を言いながら彼は制服を受け取った。

(よく、こんな薄暗いとこでサングラスなんか掛けてられるわね~)

 こんな場所でもサングラスを外さない彼の様子に思わず感心してしまう。
 先程、瀬戸に引っぱたかれて素顔を晒していた彼を見たが、特に困った様子も無く普通に見えた。彼の紹介では目の病気がどうのとか言っていたが・・・・・・・まぁ色々あるのかもしれない。

「サングラスマニアとか・・・・・・・」

「何か言ったか?」

「いいえ~何も~・・・・・・・ってか何してたの?」

 小さな声で言ったのに聞こえていたのだろうか?半目で聞いてくる彼から話題を逸らすべく問いかけてみる

「いや・・・・・・・特に何も、まぁ・・・・・・・なんとなく居場所無くてね・・・・・・・ココに来たんだよ」

「はぁ・・・・・・・」

 返ってきた答えに生返事を返してしまう。

 彼の気持ちが分からなくもない。国連の人間が帝国軍に来れば当然白い目で見られるだろう。しかもうちの部隊には五月蝿い関西人が一人いる・・・・・・・フォローしようにも他人に無関心な上官が三名ときたものだ、ソレを望むべくも無い。

 そう言えば・・・・・・・瀬戸の様子が変だったがなんでだろう?

「社中尉は瀬戸少尉と知り合いだったんですか?」

「いや・・・・・・・まったくの初対面の・・・・・・・筈だが・・・・・・・」

 問いに彼は首を傾げている。サングラスせいでその表情を伺う事はできないが、嘘はついてないと思う。

(はて?いきなり人を殴るような子じゃないんだけど?)

 同僚の少女の姿を思い出す。

 実際、部隊に配属されたのは二ヶ月程前で、付き合いもそれほど長いわけではない。だが同じ釜の飯を何度も食べればそれなりにわかってくるものはある。
 確かにあの子は無口かもしれないが、根っこは優しい子なんだと感じていたのだが・・・・・・・

「中尉・・・・・・・何かやったんじゃないの?」

「何もやってないぞ!?パンツだって見えなかったし!」

 訳のわからない事を叫ぶ彼に思わず苦笑してしまう。

 国連の人間が来ると聞いてどんな人かと思ったが、なかなかどうして階級差を気にさせない面白い男じゃないか。

「ところで橘少尉・・・・・・・」

「なんでしょ?」

 言いにくそうに彼は口ごもる。

「その・・・・・・・少尉は何も気にしてないのか?」

「は?何を?・・・・・・・サングラスのこと?」

 違う、と言って彼は被りを振る。

「そうじゃなくて・・・・・・・・俺は国連の人間なわけだ・・・・・・・ここは帝国・・・・」

「ああ、そう言う事。別に気にしてないわ~」
 
 彼の言葉を遮って答える。
 彼の言いたいことは概ねわかった。確かにここは帝国軍の基地で、彼は国連所属の兵隊。まだ短い時間しか過ごしてないだろうが、十分この基地の雰囲気を味わったのだろう。

「そうなのか?」

 意外そうに彼は聞いてくる。

 まぁ全く国連への不信感が無いわけではない。此方へなんの勧告もせずG弾を使用したアメリカを許す気はさらさらないが、生憎と彼は国連の一個人でしかない。
 怨むのは筋違いだと、基地の隊員達も分かってはいるのだろが、なかなか人は素直になれないものだ。

「まぁねぇ~、怨みやすい対象がそこにいれば誰だって敵意を向けるでしょうね~」

「・・・・・・・」

 彼に向かって言ったわけではないのだが・・・・・・・彼は、むぅっと黙り込んでしまう。
 誰だって似たようなものだ。国なんて巨大で形の無いものを憎んでも正直実感がわかない、だが目の前に形となって憎む対象を代弁するモノが現れれば、無条件で敵意を向けるのは仕方が無い事だろう。

「貴方は・・・・・・・社隆でしょ?アメリカの軍人?アメリカの人間?もしくはアメリカそのもの?」

「いや・・・・・・・違うな」

「だったら気にすること無いでしょ?貴方は所詮一個人なんだし・・・・・・・今は帝国に出向されてる状態。国連の背景まで背負う必要は無いはずよ」

「言うのは簡単なんだが・・・・・・・まったく気にしないというのも・・・・・・・」

 そんな様子を、ああ、じれったいと思ってしまう。

「貴方ねぇ、これからどうせ一年間この基地いるわけだし、同じ釜のご飯食べるんだから皆仲間でしょ?仲間になりたいなら、まずは自分の背景じゃなく自分自身を周りに見せなさいよ!!」

 年上の、しかも上官に向かって何を言ってるんだろうと自問するが、口は止まらない。

「これから一緒にBETAと戦うのよ!仲間なんだから、普段は一緒にご飯を食べるの、寝るの、お風呂に入るの、誰かとまだできないってなら、先ずは私が一緒にいてあげるわ!!」

 そう言い放つと、彼は一瞬きょとんとした様子を見せた後・・・・・・・急に笑いだした。

「何よ・・・・・・・笑うこと無くない?人が柄にもなく本気で言ってんのに・・・・・・・」

「い、いや、悪い悪い・・・・・・・ただな」

 目元に涙まで浮かべて彼は笑いながら続けた。

「それで、毎朝の味噌汁まで作ってくれるってか?」

「?・・・・・・・貴方がそうして欲しいって言うなら作るわよ?」

 その返答に彼は今度こそお腹を抱えて笑い出す。意味が分からない、気でも狂ったのかと思いながら眺めていると、彼はとんでもないことを言いやがった。

「いや・・・・・・・それってプロポーズしてるみたいだぞ?」









<社 隆>

「いや・・・・・・・それってプロポーズしてる見たいだぞ?」

 そう言った後彼女は一瞬考え込んだ様子だったが、意味を理解したのか顔を真っ赤にして口を開こうとした。

「あ、貴方ねぇ!!」

「見つけたわ!!この米国かぶれが!!!!」

 彼女の声を遮るような形で、格納庫内に関西弁が響き渡る。
 橘も慌てて振り向くと、格納庫の入り口で仁王立ちしている男の姿が目に入る。

「さっきはなぁ、隊長の手前何も言わへんかったがもう逃がさへんで!!」

 ズンズンと、足音でも立てるような足取りで近づいてくる。その後ろを見れば、桐嶋中尉が諦めたような態度で肩を竦めて立っているのも見える。

「・・・・・・・んで、いったいなんのようだ?」

 すっと橘少尉を脇にどけて彼の前に出る。

「はっ、決まってるわ・・・・・・・勝負や!!」

 何処かで同じような言葉を聞いたな~と思いつつ嘆息してしまう。

「・・・・・・・一体何で勝負しようってんだよ?」

 こちらの呟きに、彼はびしっと脇に並んでいる戦術機を指差す。だいたい予想できた行動だが、どう見ても彼がかませ犬にしか見えない。

「もち、戦術機でや!!」

「本気か・・・・・・・川井中尉?」

「悪いね社中尉・・・・・・・こいつは頭の中まで筋肉で出来ててね、言い出したら聞かないんだ」

 ヤレヤレと言った口調で言いながら桐嶋中尉が近寄ってくる。その言葉に、更に川井中尉は激昂して叫ぶが正直相手にしたくない。

「一回ぐらい勝負して貰えないか?川井中尉にしろ俺にしろ・・・・・・・君の実力は見てみたいんでね」

 その言葉と同時、彼は目をすうっと細める。
 どうやら彼も此方のことを気に入っているようでは無さそうだ・・・・・・・これは提案に乗るしかない。

 そして乗せられているのはもっと嫌いだ・・・・・・・だったら、乗りこなしてやるだけだ。

「いいでしょう・・・・・・・受けて立ちますよ」

 ニヤリと苦笑しながら俺はそう言い放った。


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