DONの落書き部屋

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「Muv-Luv 小説」
第一部

百里編 第5話

  百里編  かれとかのじょのすれ違い



2000年12月4日 18:30
百里基地  第三格納庫



<城崎 葵>


「中尉、午前中に言ったと思うが・・・・・・・コイツは規格外な部分があるから無理しなでくれと。」


「ええ・・・・・・・申し訳ない。」


演習終了後、格納庫に戻って乗機のチェックを整備班の隊員と話していると、そんな会話が聞こえてきた。


「では城崎中尉、作業は2100までに完了させます。」


「・・・・・・・ええ、お願い。」


去っていく若い整備員の背中を見送りながら、隣のまだら模様の機体へと視線を移す。

自分の陽炎もペイント弾の直撃を何度も受けたので黒い装甲が黄色に染まっているが、生憎と彼の胡蜂程ではない。


「両腕部は一度ばらして見ないとなんとも言えんな・・・・・・・関節のフレームに歪みがなければ、通常修理で済むだろう。」


「重ね重ね、申し訳ない。」


湯田整備班長が呆れた感じで言うのを彼が謝罪している。

見れば胡蜂の整備箇所が書かれているバインダーを持った湯田班長の傍に、バケツとデッキブラシを持った彼がうな垂れた様子で佇んでいる。


哀愁漂うその背中がやけに様になっていると思いながら自分も胡蜂を見上げる。


(あんな使い方した後なら、どんなにFCSが良くても満足な射撃はできないでしょうね・・・・・・・)




戦術機は人体を模した形をしている。

人と同じように、刀を振り、銃を撃つ事が出来る。

そして銃を撃つと言う行為は、高度な計算の元行われている。

腕に保持した銃を目標物に向け、発砲。言葉にすれば簡単だが、それを実行するとなると機体各所の微調整、搭載FCSによる弾道計算などの様々な条件が組み合わさって初めて正確な射撃が出来る。

故に銃を保持する戦術機の腕部は、もっともデリケートに出来ているといっても過言ではない。


そして彼の乗機は胡蜂・F/A-18E、精密射撃を得意とする米国製の機体だ。

先程の演習の様子を思い返せば、機体の腕部総チェックは必須だろう。


(急に動きが良くなったかと思えば、後先考えない操縦・・・・・・・ほんと何考えてるのかしら?)


逆噴射制動を掛けながら地面に長刀を突き刺して減速、その後相手機体の頭部を鷲掴みにして地面に叩きつける・・・・・・・胡蜂の腕部にかかった負担は想像以上だろう。


「ま、明日いっぱいぐらいは覚悟してくれ。」


「了解です、お手数かけますが宜しくお願いします。」


「気にするな中尉、壊れたのを直すが仕事だ。あんたが死ななきゃ何度でも直すさ。」


そう言って湯田整備班長はその場から立ち去って行った、恐らくこれから部下と整備スケジュールの組みなおしをするのだろう。

残された彼は、所在無さげに自分の乗機を見上げている。


「・・・・・・・大変ね、それだけ塗料ついちゃうと落とすのも一苦労でしょう。」


「ん?・・・・・・・ああ、まぁな。」


声を掛けながら近づくと、彼は初めて此方に気づき振り返る。


「ま、自分のせいだからな、頑張って洗うさ。」


「そ、ご愁傷様・・・・・・・私は橘少尉みたいに手伝わないわよ?」


やたらと彼を気に掛ける同僚のことを思い出しながら言うと、彼は呆れたように肩を竦めた。


「いや、あれはあれで困っているんだが・・・・・・・城崎中尉は後で洗うのか?」

彼と同じようにバケツを持っていない此方の姿を見てそう言ったのだろうが・・・・・・・生憎と自分は彼とは違う。


「冗談・・・・・・・私が洗わなくても、整備の方が洗ってくれるわ。」


「・・・・・・・なんつー女だ。」


彼が何かを呟くが聞こえない。どうせ、嫌味の一つだろうと察知し鼻で笑う。


「貴方と違って整備の方から好かれているから当然ね。」


「あっそ・・・・・・・なんにしろ、悪かったな今日の演習で足引っ張って・・・・・・・いや、いつもか。」


「?あなた、そんな事気にしてたの?」


突然の彼の謝罪に思わず眉根を寄せてしまう。


「ん、ああ・・・・・・・」


「私たちは人殺しするために技術を磨いてるわけじゃないわ。戦術機同士の演習なんかどうでもいいのよ・・・・・・・BETA相手に結果さえ出せればね。」


曖昧な態度を取る彼の姿がどうにも気に入らない。

何かと気が回るし衛士としての腕も本人が気にする程悪いわけじゃない、彼の能力は私自身も認めつつある。

・・・・・・・人としては全く信用していないが。


彼の乗機を見上げる。

この機体が本来持つ意味を、彼は先程の演習で見せてくれた。

貴重なデータも手に入ったことだし、正直彼に感謝している部分もある。


データ収集の名目で真奈美と同じ部隊に無理やり入隊し、百里なんて辺境に配属されると知った日は流石に肝が冷えたが、この基地で収穫できたことは思ったよりも多岐に渡り今となっては大満足だ。


「演習じゃ余程のことがなければ死なないわ。でも相手がBETAだと・・・・・・・人は簡単に殺されるわよ。だから結果ならBETA相手のときに見せてくれればいいわ。」


「ああ・・・・・・・そうだな。」


「じゃないと、貴方・・・・・・・死ぬわよ。」


「・・・・・・・ああ。」


「出来ないなら・・・・・・・とっとと横浜に帰ることね。」








<社 隆>


(なかなか手厳しい言葉を言ってくれる・・・・・・・)


言うだけ言って、格納庫から出て行った城崎の言葉を思い出しながら一人自嘲する。

確かに彼女の言うとおりだ。

演習で戦術機相手の戦闘を上手くやるよりも、実戦でBETA相手に上手く戦えたほうが良いに決まっていいる。

先程の湯田整備班長の言葉もそう、演習中に気づいた通り彼らは彼らの仕事を望んでいる。


だったら、自分も、今自分ができる事を精一杯やるだけだ。


(とりあえず今は・・・・・・・掃除か)


そう思ってバケツに水を汲みに行こううとした所、またもや突然声を掛けられる。


「いよう、お前がホーネットライダーか?」


「ホーネット・・・・ライダー?」


耳慣れない言葉に首を傾げながら、声を掛けられた相手に振り向く。

30代前後の長身の男が強化装備の上から上着を被って何時の間にか立っていた。

思わず聞き返してしまった言葉に、言った本人はタバコを加えながらにやりと笑う。


「ああ、こいつはF/A-18E・・・・確かホーネットだったよな?だから、ソレに乗るお前はホーネットライダーだ。」


「そんな安直な・・・・・・・っ失礼しました!第12小隊所属、社隆中尉であります!!」

相手の、上着の襟章を見て慌てて態度を改めて敬礼する。


「社・・・・・・・中尉ね、お前さんがあれだろ?国連からきた変な男?」


「はっ、そうであります!」


(変じゃねぇ・・・・・・・)


「何時いかなる時もサングラスを外さず、横浜に残してき妹を夜な夜な思い出して枕を濡らす変態?」


「は・・・・そうであります。」


(たちばなぁぁぁぁっぁぁ!!)


同僚への絶叫を胸に秘め、決して態度を崩さず答える。


「くっくくくく悪かった冗談だ中尉、第2小隊の指揮をしている松土だ。さっきは突然乱入して悪かったな。」


言って、手を差し出される。その手を凝視しながら、握らなければ上官侮辱になるかもと考えぎこちない笑顔で握り返す。


「はっ、栄えある『ブルーインパルス』のドルフィンライダーにお会いできて光栄であります。」


「そう持ち上げるな、なにもでやしないさ・・・・・・・さっき、お嬢様が機嫌悪そうにしてが、何かしたのか?」


「お嬢様ですか・・・・・・・?」


はて、誰のことだ?


「おいおい、光菱からきてるお嬢様だよ。城崎葵中尉・・・・・・・なんだその様子じゃ知らないのか?」


呆れたように半目で此方を見る彼の言葉の意味を理解して、思わずブラシを落としてしまう。


(城崎って光菱財閥を創立した一族の名前じゃないか!?まさか、そこの関係者なのか?)


元の世界での記憶を掘り起こす。大学の講義で聞いた企業経営のモデルケースで題材に上がった光菱重工、その大企業を設立した一族の名前・・・・・・・確か城崎と記憶している。


「は、はい、初耳です。」


「そうだたのか・・・・・・・まぁ、隠すような内容でもないし、俺が教えても問題ないか。」


そう、自分に言い聞かせるように言って、松土は胡蜂を見上げる。


「これがF/A-18Eか・・・・・・・話では聞いていたけどな、生で見るのは始めてだ。」


「ええ、帝国軍・・・・・日本でもあるのは横浜だけでしょう。」


「だな、さっきの模擬戦も見てたが、なかなかいい動きするじゃないか中尉?」


「そんな・・・・・・自分は部隊の足を引っ張っています。正直少佐の機動を見て、失礼ながら嫉妬を覚えました。」


「嫉妬?」


「はい、その卓越した操縦技術もそうですが・・・・・・・鳥のように空を舞う姿に。」


「それこそ謙遜だ中尉。俺はな・・・・・・・ただ飛びたいだけなんだよ。」


「飛ぶ・・・・・・・でありますか?」


「大空を自由に飛びたい、ただそれだけで飛んでいるのさ。技術はなそうしていたら付いてきてたよ。」


言って彼はタバコを一度吹かす。

紫煙を目で追いながら、何処か遠くを見ているように一人で頷いている彼の様子に苦笑する。


「松土少佐は、飛行機に乗りたいんですか?」


「いいねぇ~出来ればそうしたい所だ・・・・・・くそたっれなBETAがいなければな。」


その提案が気に入ったのか、彼は子供のような笑みを浮かべて笑う。

気だるい様子で、眠そうな目をしている彼の様子が、自分の上官の姿が被る。


(ここの上官は、こんなんばっかりかよ・・・・・・・)


「雪風も・・・・・・・いい機体とお見受けしましたが。」


「ああ、まぁ速いといえば速いんだがな・・・・・・・。」


タバコを吸いながら此方の意見に同意し、彼は続けた。


「ありゃ、欠陥機だ。実戦じゃ使いものにならん。」


「は?・・・・・・・け、欠陥機でありますか?」


先程、憧れにも似た情景を覚えた機体をあさっりと卑下され、失礼だが思わず聞き返してしまう。


「ああ、一回出撃するだけでオーバーホールが必要な機体だからな・・・・・・・整備兵泣かせの罪作りな女だよ。」


「はぁ。」


「機体に似合わない突き詰めた改良をしてるからな~特にウチで使ってるやつは・・・・・・・俺も実戦じゃ別に用意してある不知火を使うぞ?」


「そ、そうなんですか・・・・・・・」


「ああ、あの雪風は光菱んとこの実戦を知らない馬鹿が作った機体だからな。まぁ、そのうちお前さんにも理解できるだろう。」


なら何故そんな欠陥機をこの上官は使用しているのだろうと疑問に思うが、タバコを吹かすその姿から読み取れるものは何一つとしてなかった。


とは言え彼の言ってる意味もなんとなく理解はできる。

第一世代の戦術機で第三世代相当の運動性を発揮させるのには、間違いなく突き詰めたチューニングが必要になってくるだろう。





古い世代の機械が、改良を加えることで現行の機械を上回る・・・・・・・元の世界でもよく聞く話だ。


20年前の車を今の技術で改良を加え、最新の高性能車を凌駕する性能を持たせる。限定的な状況や、様々な要因が絡んでくるが在りえない話ではない。


だが、そういった改良を加えた車は走行中に性能を落とすのも早く、走行後に性能を維持するのメンテナンスが必須となる。


つまるところ雪風のあの機動性は、そう言った改良を与えた結果得られた性能なのだろうと推察する。

彼らの所属する部隊名が戦技研究部隊と称されるのも、そう言った機体の運用データを得るのを生業にしているからなのかもしれない。


(・・・・・・・ようは雪風はF○見たいなものか)

ほんの20週もすれば、エンジンを初め足回りの部品交換まで必要なレース専用の車両を思い出す。


「さて、俺に言わせればこいつを乗るお前が凄いぞ。よくもまぁ、あれだけ跳躍ユニットを小刻みに操作できるもんだ。」


「ええ、それだけが取り柄みたいなもんですから。」


唯一の得意分野とも言える技能を褒められ悪い気はしない。見ていたとしても、先程の演習だけで良くも此方の動きを把握したものだと関心する。


「しかも動きがな・・・・・・・戦術機じゃなくて、車でも走らせてるような動きに見えたよ。」


「く、車ですか?」


「ああ、やたらと加減速しながら急回転、スピードを落とさないようにしながら旋回・・・・・・・それを平面機動でやるんだからな、まるで車で踊ってるように見えたさ。」


そんなつもりは一切なかったのだが、彼の目にはそう見えたのだろうか?

誰からもそう見えるようなら少し自重しなければならない。そんな気構えで戦術機に乗っていると知られれば、良い印象を相手に与えるとは決して思えない。


「そうですか・・・・・・・。」


「ま、なんでもいいがな。こいつはいい機体だ・・・・・・・乗りこなせれば、こいつで空を飛ぶことができるさ。」


笑う彼の姿に、自身の乗機を見上げる。


何かと、面倒な機体で性能も決して高いとは言えない戦術機であるが・・・・・・・エースにそう言われると、相棒と呼んだ胡蜂の姿が何故か頼もしく見えた。






<瀬戸 真奈美>


気が重い。

理由は言わずとも理解している。

先程の演習の結果だ。


「はぁ・・・・・・・情けないな~」


思わず呟きながら肩を落とす。

自分の腕に自信があったからこそ凹む。

だが自分の腕がまだまだ未熟で、それを教えられたのだと思うようにし考え方を変える。

悩んでも、悔やんでも仕方が無い。

もっと腕を磨くために努力すればいいのだ、衛士になると決めた日から立ち止まってる暇なんてない。


「あれ?城崎中尉どうしたんですか?」


夕食をとろうかと思いPXに着くと、演習後から姿の見えなかった葵が不機嫌そうな顔でPXのメニューと睨めっこしていた。


「あらマナちゃん、ううん何でもないわよ。」


ぱっと、先程までの不機嫌そうな顔から、笑顔に変わりおいでおいでとばかりに手招きされる。

不機嫌そうに彼女が考えていたことは概ね理解できる、きっとここの食事について文句があるのだろう。


「城崎中尉・・・・・・・何度見ても、中尉の好きなハンバーグなんて食べ物はここにはありませんよ。」


これだからお嬢様は、と内心で嘆息してしまう。



彼女とは昔からの知り合いだ。まだ日本が、横浜が平和だった頃、彼女の家と自分の家はお隣同士だった。

多少、年は離れていたが、まるで本当の妹のように此方を大切にしてくれていた。

光菱創設者の一族の人間として色々と優遇されてきたのは事実だろうし、彼女もそれに甘んじていたところはある。

そんな彼女も、家の都合か本人の意思か三年前に帝国軍へ入隊した。衛士ではなく技術部だから大丈夫と言って見送ったのを覚えている。

彼女がいなくなって少し寂しくなったが、暇を見つけては会いに来てくれる彼女の事を、姉と二人で楽しみにしていたものだ。


だが、そんな日々も長くは続かなかった。

1998年に起きたBETAの本土進攻、家族で東北への疎開の準備を進めていたが、余りにもの速いBETAの侵攻で避難する人たちの濁流に家族は飲まれてしまった。


あの戦闘は日本中に多くの悲劇を生んだ。


私も家族とはぐれ生き延びる事は出来たが・・・・・・・母と姉を失った。

家族を失い難民キャンプでボロボロになって途方に暮れ、明日には貧困か暴行で死ぬかもしれない運命だった自分を葵は必死になって見つけてくれたのだ。


葵はいつも綺麗にセットしていた髪を振り乱しポロポロと泣きながらこちらを抱きしめてこう言った。


「傍にいてあげられなくてごめんなさい」・・・・・・・と。


他に身よりも無く住む場所にも困っていたのだが、葵の好意で帝都にある彼女の別宅に厄介になり以来そこで暮らすようになった。

生活に困ることも無くなり、彼女も頻繁に仕事の合間を縫って会いに来てくれたが、正直肩身の狭い思いもしてきた。

それでも難民キャンプで死ぬこともなく、飢えに困ることもない生活を与えてくれた彼女に感謝してもし切れないほど感謝している。


死んでしまった母と姉の敵を取るため、帝国軍の衛士訓練学校に入学し必死になって結果を出し続けた結果、飛び級で総合戦闘技術評価演習に合格、晴れて念願の衛士になれたのだ。


これで母と姉の敵が・・・・・・・無力だった自分から卒業できると息巻いていた。葵も衛士になった自分の姿にさぞや喜んでくれると思って報告に行くと・・・・・・・彼女は泣きながら笑ってくれた。


「嬉しいけど複雑ね、大事な妹が私からも卒業しちゃったみたい。でも、おめでとう・・・・・・・私はマナちゃんの家族として祝福するわ。」


泣きながら私を『家族』と言ってくれたその言葉。

姉として家族として、本当に私を大切に思ってくれているその言葉。

以来、復讐とか恨みとかは考えないようにした。

失った家族はもう戻らないし、自分が経験した家族を失う悲しみを彼女にまで経験させたく無い。

私はただ、その事を気づかせてくれた大切な姉と一緒に過ごせればそれで良いのだと思うようにしてきた。



「へっ?やだ~違うわよマナちゃん~いつまでもそんな事言うわけないでしょ?それに二人だけの時はお姉ちゃんって言ってよ~」


「はいはい、分かったから・・・・・・・葵さん、後ろで待ってる人がいるから早く決めてね。」


「ん~、やっぱこの合成食料ってどうにも口に合わないのよね~」


(ほらきた)


結局予想通りの言葉を漏らした姉の様子に内心で呟く。


「文句言わないの、それでも食べられるだけ感謝しなくちゃ。」


「うう~マナちゃんが苛める~」


これじゃ、どっちが姉だか分からない。

文句言いつつも、合成パスタを選んだ姉の様子を見て微笑んでしまう。


「あ、やっと笑った。」


「へ?」


ニヤリとした笑みを浮かべて葵は続ける。


「だって、さっきから、マナちゃん眉間に皴が寄ってたわよ?」


「そ、そうかな?・・・・・・・それだったら、葵さんも不機嫌そうな顔してたよ?」


「わ、私?私はいいのよ・・・・・・・つまんない事だから・・・・・・・」


珍しい、何でもずばずば言う葵がはっきりとした物言いをしない。とりあえず料理を受け取って席に座る。


「なに?つまんない事って?」


そう聞いても彼女は答える気がないのか合成紅茶を優雅に飲もうとしている。


「なんだ~妹扱いしてるのに隠し事するんだ~こんなお姉ちゃんいらな~い~」


「ちょ、ちょっと待ってマナちゃん!そんな事言わないで~」


「じゃ、教えて。」


不機嫌そうに言ってから、手のひらを返したかのように言うと、彼女は渋々と言った様子で話し出した。


「彼のことよ・・・・・・・」


「彼って?」


予想は付く、目の前の姉がここまで言いにくそうにしているのは横浜から来た彼しかいない。

「社中尉・・・・・・・さっきね格納庫で話してね、それでちょっと」


「ふぅん~」


「何かと気がきくかと思いきや、つまんない事で責任感じてたみたいで、ウジウジしてたから言ったのよ」


「なんて?」


正直自分も彼とあまり話した事は無い、苦手とかそんなわけじゃなく話しづらいのだ。

国連と帝国の壁もあるが、それよりも彼の傍に同僚が一人付きっ切りでいるので話す切っ掛けが中々無いのだ。


「とっとよ横浜に帰れって・・・・・・・」


「あちゃ~それは言い過ぎじゃないの葵さん?」


「んん~まぁね~・・・・・・・何で私あんなこと言ったんだろう?」


言った本人が、そう言って何やら悩みこむ。


「まあ、人間、思っても見ないこと言っちゃう事もあるし・・・・・・・社中尉は気にしてる様子だった?」


その質問に首を横に振る。


「ん~なんとも言えないわね、だって彼いつもサングラスしてるから表情が読めないのよね。」


それには激しく同意する。出会った瞬間、サングラスごと引っぱたいた自分が言える台詞でもないが


「そうだね~しかも何考えてるかよくわからないし。」


「でしょ?マナちゃんもそう思うでしょ?」


ガバッと勢いよく、テーブルに身を乗り出してきながら彼女は続ける。


「私もね~色々調べたのよ~でも彼国連でしょ?調べるにも限度があって・・・・・・・彼、きっと日本で生れたわけじゃないとは思うよね、戸籍とか調べても無いし」


物騒な事をしている姉の行動に思わず冷や汗をかいてしまう。


「あ、葵さん・・・・・・・そうやって、おうちの力使うの止めたほうが良いって言ったでしょ?」


「そ、そうね。でもマナちゃんに近寄ってくる男を調べる事に妥協はないわ。」


それこそ杞憂ではないかと思う。


「社中尉、こないだ言ってたじゃん婚約してるって?」


「それよ!彼が通信室に行ったの見た事ある?」


「ない・・・・・・・かな・・・・・・・あ、でも何回か。」


「それみんな横浜に連絡してるの。しかも内容はつまんない定時報告と妹からの近況報告。」


「よく、調べたね・・・・・・・」


「まぁね~、それ以外で何処にも連絡してないのよ、あの男は!!怪しいと思うでしょ!?普通、婚約するような仲なら毎日こう・・・・・・・仲睦まじく連絡取り合うんじゃないの?」


それはあくまでも妄想ではないだろうか?


「だから、婚約者がいるって話も怪しいわ。」


「う、うん」


その剣幕に思わず押されてしまう。


「しかも妹を溺愛してる見たいなのよ!?シスコンよシスコン!!気持ち悪いったらないわ!!」


自分はどうなのだ、と聞きたくなるが、言わないほうが無難だろう。


「絶対小さい子にしか興味が無いロリコンよ!!じゃないと、橘少尉があれだけ纏わりついてるのになにもしないのは不自然だわ!!」


「な、なんか、本気で困ってる時もなかった?」


流石に橘少尉の「2号でいいよ」発言には焦ったものだ。その発言の後の彼のうろたえっぷりは今思い出しても笑ってしまう。


「そんなの演技よ、演技!!・・・・・・・あ~駄目、やっぱり信用出来ない!なんとかして、横浜に送り返してやろうかしら。」


彼女なら本気でそれをやりかねない。確かにそれだけの力が彼女にはあるだろう。


「そんなに悪い人かな~?」


「騙されてるのよマナちゃん!!」


「ん~私もね、そんなに話したわけじゃないんだけどね、さっきの演習中にちょっと話したの。」


「へ?何時の間に?」


これを言っても言いのだろうかと悩むが、彼女なら他言する事もないだろう。


「松土少佐と模擬戦が始まる直前にね、秘匿回線で急に話しかけてきたの。」


「立派な、軍機違反ね!!」


「ちょ、最後まで聞いてよ~それでね社中尉ね、なんかこっちに気を使ってくれたみたいで・・・・・・・応援されたの。」


会話の内容は意味不明だったが、それで少しリラックス出来たのには違いない。


それでも、不甲斐ない結果を見せてしまったが


「ふ~ん・・・・・・・そうなんだ。」


「うん、結果は負けちゃったけど・・・・・・・軍機違反してまで、応援してくれたんだし、葵さんが言うほど悪い人じゃないと思うよ。」


彼を擁護しても特別利益は無いのだが、部隊内で円滑な人間関係を構築するためにここは姉を説得すべきだろう。

(・・・・・・・ほっとくと、葵さん何するかわからないからな~)








食事も終わりこちらの話に少しは納得したのか、葵は渋々と言った様子だったが二人で部隊の詰め所へ戻るため廊下を歩いていく。


「だからね、きっと人には色々あるのよ。」

例えば国連から帝国に左遷・・・・・・・いや出向したり。

「そうね~」


「そ、人を見かけだけで判断しちゃいけないって小さい頃言われたでしょ?」

サングラスをいつも掛けて怪しくても。


「うん。」


「特に、人の身体的特徴は言っちゃ駄目だよ?」

私が気にしてる身長のこととか・・・・・・・


「は~い。」


頷く葵の様子に満足する。

どうやら説得の効果はあったようだ。今日は彼女を交えて、少し彼と話をしてみるのもいいかもしれない。

橘少尉が絡んでくるかもしれないが・・・・・・・ソレはソレだろう。


「だから、一人でやるから良いって言ってるの!!」


「そんな~いいじゃん一緒にやろうよ~」


廊下に小隊詰め所からの声が漏れている。

声の元はいつもの二人・・・・・・・よくもまぁ恥ずかしくないものだと笑ってしまう。


「いいって、今日は残ってる仕事少ないから。」


「ああ、すまん社。来週、千歳で使う分の兵站の申請まだなんだ、やっといてくれ。」


「み、三澤大尉!!なんだって、貴女はいつも急なんですか!?言ったじゃないですか、重要事項だと思った書類は俺に回してくれって!!」


「いや、お前、横浜に帰ってたからな。」


「ぬ、ぬぅ・・・・・・・」


「ほら、やっぱり終わりそうにないじゃない?」


どうやら劣勢のようだ、まぁあの二人に掛かっては彼一人では荷が重いだろう。


「それともなに~やっぱり、妹さん見たいな子がいいの~?や~い、ロリコ~ン」


「な、なんでいつもそうなる!!」


「だって、横浜から帰ってきて第一声が『妹がメロン喜んでた』でしょ?そりゃ、そう思うわよ~やっぱ、小さい子が好み?」


その言葉にはびっくりしたと言うか・・・・・・・彼も兄妹を大切にいているのだと気づかされた。

ロリコンやらスシコンの疑いが良く掛けられる彼だが、私はそんな事実は無いんじゃないかなっと思っている。

彼はきっと見た目と違って優しいだけだろう。


「断じて違う!!言っただろう身長・・・・・・・」


「じゃあ、瀬戸少尉なんかどう?」


(へ、わたし?)


急に話題に上った自分の名前に何故か動悸が早くなるが・・・・・・・意思とは裏腹にドアノブを廻す手に力が入りあっけなくドアが開く。


彼はなんて答えるのだろうか?


「な!?仲間だろう!?」


「仲間とかじゃなくて・・・・・・・女としてよ、やっぱチビッ子が好み?」


「誰があんなチンチクリン!!」


・・・・・・・ちんちくりん・・・・・・・?









<社 隆>


「誰があんなチンチクリン!!」


そう叫んだ自分の声に驚愕してしまう。

部屋のドアが開いて瀬戸と城崎が入ってくる、タイミングから言って聞かれた可能性が非常に高い。

見れば川井も桐嶋も、あ~あと言った顔をしている。


「あ、あの瀬戸少尉・・・・・・・」


「そうよね~言ってたもんね~瀬戸見たいな身長160cm以下には興味が無いって。」


(なんばいいよっと、この女は!?)


橘が追い討ちを掛けるように言った台詞で明らかに瀬戸の表情が変わる。


笑顔だが・・・・・・・こめかみに青筋があるような


「い、いや、そう言った意味じゃなくてだな。」


「しかも輪をかけて子供っぽいから興味ない~」


続ける橘に向かって手元の書類を投げつけようとしたが・・・・・・・瀬戸の視線に捕まった途端身体が硬直する。

「中尉」


「な、なんでしょう?」


一言で背筋に戦慄が走る。


「個人の身体的特長を言うのは失礼かと思います。」


「あ、ああ」


どうらや知らぬ間に地雷を踏んだっぽい。


「加えて、部隊内での不謹慎な発言もどうかと思われます。」


「あ、ああ」


それは・・・・・・・橘のせいでは?


「男女関係のいざこざは場所を選んでください。」


「だ、男女関係・・・・・・・」


小学校じゃあるまいし・・・・・・・


「非常に不愉快です」


「・・・・・・・それって、やきもち?」


余計な一言だった・・・・・・・笑顔だが目が笑ってなかった瀬戸の表情に青筋が追加される。


「中尉」


「はい?」




「横浜に帰れ。」



笑顔から、何の感情も篭っていない無表情に切り替え彼女はそう言い放つ。


「失礼します。」


小さな声で、だがはっきりと彼女はそう言って部屋を出て行く。閉めたドアの音が思いのほか大きくて思わずびくついてしまった。


「あ・・・・・・・」


自分は随分と間抜けな顔をしていたのだろうか?あの川井までもがヤレヤレと肩を竦めて部屋から出て行き、桐嶋もそれに続いて出て行く。


「・・・・・・・」


無言で、だがはっきりと怒りの表情をこちらに見せてから城崎も出て行った。

残されたのは、三人。


「社」


「はい・・・・・・・なんでしょうか?」


ぎぎぎっと擬音が聞こえてきそうな動きで三澤に向き直ると、彼女はいつもどおり読んでいた雑誌を閉じて立ち上がる。


「いい機会だ、これを生かして城崎と瀬戸と分かり合うだな」


「分かり合うって・・・・・・・現に今、思いっきり怒らせたんですけど?」


「下がるとこまで下がれば、後は上げるしかないだろ?」


「・・・・・・・どうやって?」


「連中は処女だな。やけに世事に疎いとこがあるようだし・・・・・・・いっその事、抱いてやったらどうだ?」


「「!?」」


爆弾発言に橘と二人で驚く。


「まぁ頑張ってくれ。来週の千歳派遣には影響がないようにな。」


そう言い残して彼女も部屋を出て行った。


「・・・・・・・」


「・・・・・・・」


残された二人、当然の如く無言になる。


「・・・・・・・ねぇ」


「・・・・・・・なんだよ?」


原因を作った女を見る、彼女はやや神妙な面持ちで続けた。


「溜まってるなら、私相手するよ?」


「だから、そう言う問題じゃないんだぁぁぁぁぁぁぁ!!」



そんな絶叫が部屋に響き渡った。






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