DONの落書き部屋

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「Muv-Luv 小説」
第一部

千歳編 第1話

 

千歳編  かれが出会った白い妖精


2000年12月7日 08:30
帝国軍第五師団駐屯地  千歳基地・滑走路


<社 隆>

 灰色の空、分厚い雲は太陽の恵みである陽光を遮り地に闇をもたらし、肌を切り裂くような凍て付く冷気が身を包み、此処が帝国最果ての地だと如実に教えてくれる。

 そこ彼処に降り積もった雪を踏み抜き、久方ぶりの雪の感触を楽しむのも既に飽きた。

 この世界はBETAによって耕地化が進み、地球規模で地形が変化している、結果この世界でも温暖化が進んでいると聞いていたが・・・・・・・やはり寒い場所は寒いのだと実感する。



 ---こんなくだらないポエムもどきを考えてしまう自分の心が一番寒いのだが。




「・・・・・・・はぁ」


 溜息とともに出る息が白い。

 百里基地から輸送機に搭乗し一路千歳基地に飛び、千歳基地から前線へ送る兵站に便乗して稚内の基地に向かうのだが・・・・・・今は天候が悪く千歳基地に足止めされているのが現状なのだ。

 仕方なく輸送機が飛べるまでの時間つぶしに、こうして一人で雪の舞い散る空を見上げているわけなのだが・・・・・・



 今頃隊の皆は基地内で暖をとっているだろう。


 一人外に出て灰色の空を見上げる男、憂鬱な自分の内心をあらわすには格好の場所かもしれない。



 ---結局、瀬戸と城崎との関係は改善しないまま千歳まで来てしまった。

 その事を思うと更に気が重くなる。色々と試してみたのだが・・・・・・・うまくいっている手ごたえがない。


 一応会話はあるのだが・・・・・・瀬戸とは事務的な内容のみ、城崎にいたっては嫌味たっぷりだ。


 自分のせいでそうなったのだから、仕方がないと言えば仕方が無いが・・・・・・・どうやって改善したらいいものかと悩んでしまう。




 ---くわえて


「はい」


「・・・・・・・ありがと」


 わざわざ持って来てきれたのだろう、橘から手渡されたコーヒーもどきを受け取る。


「いや~寒いね~やっぱ北海道は違うね~」


「・・・・・・・そうだな」


 間違いなく原因一端を担っている彼女はまったく気にした様子が無いのだ。

 その事に、軽い眩暈を覚えつつ受け取ったコーヒーもごきを啜る。


「ねぇねぇ、寒いからさくっついててもいい?」


「却下」


 夕呼の言葉が伝染ったのだろうか?あっさりと出てきた返答に橘は不機嫌な表情を作る。


「え~けち~」


「けちじゃない・・・・・・・橘少尉・・・・・・・なんだって、そう俺に絡んでくるんだ?」


「そんな、二人の時はしおりって呼んで?」


「却下」


 何故彼女がここまで自分に絡んでくるか理解出来ない。そして、このように無下に扱っているのにへこたれない彼女の根性は大したものだと関心してしまう。

 どこまで本気なのかを推し量ろうにも下手にそのアプローチに乗った日には、なし崩し的に飲まれてしまう恐れがある。


(ああ・・・・・・・麻美、助けてくれ・・・・・・・)


 こんな境遇を婚約者に話したらどういった態度を見せるだろうか?



 簡単に想像出来る・・・・・・・修羅場になり自分が血祭りになる・・・・・・・と



「寒いんでしょ?いい加減中に入ったら?」

 
 寒さ以外の理由で震えたのだが、生憎と彼女はそこまでは理解していないだろう。


「ああ、それもそうだな・・・・・・・」


 あの二人と顔を合わせるのは何かと神経をすり減らされるのだが、流石に寒くなってきた。


「よしよし、素直で宜しい」


 そう言いながら、橘はこちらの腕に自分の腕を絡めてくる。


「・・・・・・・おい」


「なに~?コーヒー持ってきて寒くなったんだからいいでしょ~?」


 此方の抗議など何処吹く風、気にした様子もなく彼女は答えてくる。振りほどこうにも手荒な事など出来るわけもなく思わず天を仰いでしまう。


「・・・・・・社中尉、橘少尉」


 と、そこであまり聞きたくない声が聞こえてきた・・・・・・間が悪いと言うかなんと言うか、こんなんばっかりだ自分。


「せ、瀬戸少尉・・・・・・・」


「三澤大尉がお呼びです。今から待機室でブリーフィングを始めるとのことですので、集合するようにと」


「り、了解」


 抑揚の無い声音に背筋が寒くなる。


「・・・・・・・仲が宜しいのは結構ですが、人の目もありますのでお控えください」


「そんな~瀬戸~嬉しいこと言ってくれて~」


「た、橘少尉!?」


「・・・・・・・先に行ってます、遅くならないように」








<城崎 葵>

 ようやく待機室まで戻ってきた二人を一瞥しながら、手にしている資料を二人に渡す。社中尉が書類を一瞥してなにか質問がある様子だったが、かまわず席に着くように促す。

 全員が集まった所で三澤隊長が席を立ちブリーフィングを始めた。


「さて・・・・・・・せっかく北海道まで来たのだが、生憎と観光と洒落込む暇はなさそうだ」


 いつもどおり気だるげに、だが此方を見ながら皮肉たっぷりに彼女は話し出す。


「百里でも説明した通り、北部防衛線の再構築までに補充要員としてきた我が隊だ。BETAの再度進行の気配も無く、北の地でバカンスの筈だったがそうも行かなくなった」


 先週のソ連・中国からのBETA侵攻によって北部防衛線の一部が瓦解。百里基地から前線の再構築までの繋ぎとしてこの隊は派遣されて来たのである。


 とは言え、BETAの侵攻が続けて起きる可能性は統計的に見て少なく、仕事といっても哨戒任務が多くなるのでそれほど忙しい内容になることは無いはずだった。


 三澤隊長は手にした書類をパンパンと手で叩きながら続ける。


「見ての通り、光菱からの要請で新型機材の評価試験が上から通達された・・・・・・・このくそ寒い中、何が悲しくてか仕事が舞い込んできたわけだ」


「「「「「・・・・・・・」」」」」


 誰も何も言わない。聞かずとも、彼らが思っている事は想像できる。

 新型装備の評価試験と言えば聞こえは良いがようは体の好いモルモットと同じだ。同じ作業の延々の繰り返し、くだらないレポート作成、それが楽しい筈がない。


 そんな地味な作業でも技術革新には必要な仕事である、それで得られた貴重なデータが後の成功を生む。


「では・・・・・・・詳しいことは城崎、お前から頼む」


「はい」


 三澤隊長から促され、立ち上がって皆の前に立つ。


 帝国軍衛士であると同時に、自分は帝国陸軍技術廠の人間なのだ。


「ではさっそく始めたいと思います。皆さんお手元の資料をご覧下さい」


 そう声を掛けると、全員が手にした資料に目を落とす。

 資料のタイトルは試作型長距離支援砲および試作跳躍ユニットの概要と書かれてある。


「今回、技術廠第三開発局および光菱との共同開発によって製作された装備の試験評価を百里基地所属第12小隊の皆さんに行っていただくことになりました」


 兵器に限らず、工業製品と言う者は試作の段階から採用、量産に至る過程までに様々な試験が行われる。
 今回、試験を行う機材もそう言った代物なのだが、実際のところ、こういった試験を行うためにこの隊が発足されたと言っても過言ではない。

 自分とマナちゃんが共にいる部隊に今回のような技術評価の機会を多くすることで、部隊そのものを技術評価チームに仕立て上げ、なるべくなら前線から遠ざけようという魂胆が私にはあるのだ。


 勿論、もしもの実戦を想定して部隊の隊員も最高の人選で選んである。


 帝都守備部隊のエースだった隊長、本州防衛線に参加し実戦経験豊かな二人の男、そしてテストに不可欠な訓練兵あがりで装備にたいする先入観の少ない新兵。


 ---そして横浜から来た国連兵。


 帝国軍のみならず、光菱とて何かと横浜には借りがある。

 あの「横浜の魔女」によってもたらされた技術の数々には正直本社の科学者達も頭が上がらなかった。

 与えた技術すら使いこなせない無能、と彼女に評価されては今後の自社の地位は危うい。だからこそ、横浜から来た国連兵に多くの新型を見てもらい、その姿を横浜まで持っていってもらわねば困るのだ。


 間単に言えば『発表こそしてませんが、ここまでやってます』と彼女に訴えるためなのだ。


 はなはだ不本意ではあるが・・・・・・・


「現在、私たちが乗って来た輸送機に、戦線へ届ける兵站とは別に今回運用評価をしていただく装備の搬入が行われております。搬入終了予定時刻が1400、その後稚内まで飛び、明朝0900から、稚内駐屯地傍の特設演習場にて試験を始めたいと思います」


「なんや、ほんま休む暇もないんやな」


 不満そうな顔をする川井中尉を一瞥しなが続ける。


「評価して頂く装備ですが、資料の通り支援砲と跳躍ユニットの二点になります」


 まず一点は、試作型長距離支援砲。

 試作、と言えばまっさらな新型と思われるがそうではない。元々この概念の武装は存在していたが、その大きさから戦術機には運用しずらくてお蔵入りになった代物を改良しただけに過ぎない。


「・・・・・・・装填数が50発?いくら何でも少なくないか?」


 唸り声を上げる社中尉の質問も最もだと思う。

 現用している射撃装備の数々は、圧倒的なBETAの物量に対抗するために装填数を重視した設計がなされている。彼の質問の意味するとおり装填する弾の数としては圧倒的に少ない部類に入るだろう。


「しかも・・・・・・・随分と大型なんだな・・・・・・・」


 資料の寸法を見たのだろう、桐嶋中尉も唸るような声で言ってくる。

 彼の言うとおり、試作型支援砲のサイズは戦術機の使用するサイズとしては破格の大きさを誇る。
 彼らは強襲掃討、制圧支援のポジションに付いているので射撃武装に関しては色々と思うことがあるのだろう。


 突撃前衛の二人にも関係無くはないのだが、二人は大人しく話を聞いている。


「支援砲は要塞級ならびに重光線級の早期撃破を目的としたものです、長距離からの砲撃によって速やかに目標を殲滅、その後の戦闘を有利にすすめるための物です」


 言っておきながら、無茶な話だと自覚している。

 確かに自立型支援ミサイルに比べれば光線級などによって撃墜される可能性は少ないかもしれないが、それだけの長距離で砲撃する弾丸が普通に考えて命中するわけがない。


 最も、この支援砲の目的はもっと別の所にあるのだが彼らがソレを知る必要は無い。


「それが出来れば苦労しないんだがね・・・・・・・」


 肩を竦めて言う桐嶋中尉は、実際の戦場での遠距離戦の実態を知っている故の発言だろう。


「もう一点の試作型跳躍ユニットは、04、05、07の機体に取り付けます」


「はい?胡蜂にも付けるのか?」


「はい、陽炎や他の機体で運用した際のマッチングデータを取るためにも社中尉のF/A-18Eに装着させていただきます。既に国連横浜基地からも了承は得ております」


「あ、っそう・・・・・・・別にいいけどね」


「その跳躍ユニットは使えるんかいな?」


「ユニットそのものは既に実戦配備されているTYPE00・武御雷に使用されているものと同型の物です。今回、そのユニットを簡易化し、出力を若干落としながらも整備性に優れた仕様に設計しなおしたものです」


 川井中尉の質問に答えながら思案をめぐらせる・・・・・・今年、斯衛軍に実戦配備となった武御雷、そのスペックは第三世代機として申し分の無い性能を持ってはいるが、如何せんその整備性の悪さが一部で問題になっている。

 高度な整備環境が整わない限りその性能を発揮しきることができないことに、製造に携わった各社はその問題を払拭しようと各自躍起になっているのだ。

 今回テストするのは武御雷に代表される、不知火、吹雪等の第三代機体に標準装備されている91式跳躍ユニットの改良版。

 本来なら開発された機体に合わせて跳躍ユニットは調整を施すのだが、今回はあくまでデータ取りの名目なのでそこまでの調整は必要ない。雪風のように、主機、跳躍ユニットの換装で何処まで性能が上がるかを確かめられればそれで良い。


 またTYPE94・不知火は武御雷とは違った意味でその性能向上が問題視されており、来年にはその問題払拭のための対策が軍上層部で話し合われると聞いている。


「へ~武御雷って斯衛の新型でしょ?凄いんじゃないのそれ?」


 橘少尉の発言に頷く。


「出力を絞っているとはいえ、陽炎に標準装備されているものとは出力が違いますので、運用には最新の注意を払ってください」


 そこまで言って全員の顔を見渡す。


「以上です。その他質問があれば私まで随時ご質問ください」








 ブリーフィングも終わり全員が出発まで自由行動となった。とは言ってもよそ様の基地なので行く場所などかぎられているのだが・・・・・・・


「はぁ~」


 輸送機へ搬入される装備のチェックと、その他作業員との打ち合わせをこなしながら溜息を付く。

 皆と違い自分にはまだまだ仕事が残っているのが嫌になる。
 本当なら、せっかくの北海道なので真奈美と色々と話もしたかったのだが仕方が無い。


(はあ~光菱の娘ってのも難儀な商売よね)


 むろん選んでそうなったわけではない、生れたときからそうなのだから今更思っても仕方が無い。

 搬入される装備を一通り見て周り、基地内にそろそろ戻ろうかと振り向いた先で会いたくも無い人物の姿が目に入る。


「いや~葵さん、久しぶりですね~」

 
 そう馴れ馴れしく眼鏡を掛けた30代半ばの男が、此方を見つけ近寄ってくる。

 彼がここにいることを予想できなかった自分に少々イラつきながら、忌々しくその姿を見据える。



「石井少佐、軽々しく葵と呼ぶのは御止め下さい。以前からお話している筈ですが」


「まぁまぁ、ぼくと君の仲じゃないか」


(どんな仲よ!!)


 ---目の前の男と親しかったことなど一度として無い。


 以前帝都の技術廠にいた頃の上司を睨みながら溜息をつく。


 石井正(いしいまさし)少佐、帝国陸軍技術廠・第三開発局部長。


 戦術機の機体開発をしている第壱開発局に比べると知名度は低いが、新型火器の製作、戦術機用機材の研究等、地味な仕事を主に生業としている。

 光菱とも親交は厚く、色々と技術提供や支援をしている部なのだ。


(社中尉とは違った意味で、気に入らないのよね・・・・・・・この人)


「葵さんが、百里に行ってしまってからはや半年・・・・・・・貴女がいなくなって毎日に張り合いが無くなってしまいました。」


「そうですか、良かったですね」


 家族と、真奈美以外にそう呼ぶことを許した覚えは無いのに、彼は事も無げに人をその名前を呼ぶ。


「あの暗い穴倉で毎日毎日、パソコンと睨めっこ・・・・・・・いや~太陽の光がマブシイ」


「そうですか、ならとっとと暗い穴倉へ帰ったら如何ですか?」


(太陽なんか出てないでしょうが!)


 自分の今の気持ちと同じような灰色の空を見上げながら唸る。

 このどうにも人を子馬鹿にしたような彼の態度が気に入らない。
 これで、開発局部長の立場が無かったら容赦なく蹴り上げているところだが・・・・・・・


「そうそう、葵さんにあったら渡そうとずっと持っていた物があるんですよ?」


 そう言ってごそごそと自分の服から何かを取り出そうとする彼を見て、暫く逃げられそうもないなと落胆するしかなかった。







<社 隆>


「いや~やっぱり外は寒いなおい・・・・・・・」


 この季節、しかも北海道、言うまでも分かっているのに基地の外をうろつく自分。
 
 質問があれば聞きにこいと言った当人はブリーフィングが終わるとさっさと出て行ってしまい、仕方なくこうして探し回っているのだ。


(・・・・・・・何処にいるんだ、あのお嬢様は)


 先程のブリーフィングの姿で、彼女が光菱の人間と言う事実を改めて認識した。

 資料を見れば分かる内容だったので、お世辞にも良い解説とは言いがたかったが・・・・・・・


「・・・・・・・いない」


 てっきり輸送機の周辺にいるのかと思いきや、彼女の姿はそこに無くうろうろと建物の周辺を探し回る。

 かって知ったる場所では無いため、広大な基地内を歩き回ると迷子になる可能性がある。まったく、広すぎるのも考え物だと嘆息する。

 誰かに聞こうにも目に付く場所に人はいない・・・・・・・寒さに慣れてる地元の人間といっても、好き好んで寒い思いをしたくはないのだろう。


「・・・・・・・ぬぅ」


 思わず喚き、元いた待機室に戻ろうかと考え始めたころ・・・・・・・


「お兄ちゃん?」


「はい?」


 霞に呼んで欲しかった№1の言葉を耳にして条件反射で答えてしまう。


(まずい・・・・・・・これでは本物の変質者だ)


 声がしたほうに振り向きその主を探す。声からして子供なのは間違いないのだが、見てもそこには雪景色しか広がっていない。


「・・・・・・・はて?」


 寒さで頭がおかしくなったのか、本気で自分を心配し始めると急に手を誰かに引っ張られる。


「お兄ちゃん?」


「??」


 視線を下に向けると・・・・・・・そこには白い少女が居た。


 ---白い、雪が積もっているとか服が白いとかじゃない、比喩でもなんでもなく、その子は白かった。


「お兄ちゃん?」


「あ、ああ、どうしたのかな?こんな所で?」


 三度声を掛けられ、少女の目線まで腰を落として答える。


「見つけた」


 言って少女は此方に抱きついてくる。


 白い髪が宙を舞い、世界が雪とその髪の色一色になる。


(な、なんだこの子?)


 抱きついてきた少女の素性が分からない、恐らくこの基地の人間だとは思うのだが・・・・・・・あまりにも幼い。

 年齢は霞と同じくらいだろうか?白い肌、白い髪、そして色素が抜けたような茶色の瞳。


 霞に似ていなくもないが・・・・・・・顔立ちは日本人のそれだ。


「ち、ちょと待ってくれ」


「む~~」


 慌てて引き離すと少女は不満たっぷりに呻く。仕方が無い、こんな光景を部隊の誰かに見られれば、またもや変な疑いを掛けられるのは必然だろう。


「お兄ちゃん?」


「・・・・・・・いや、俺は君のお兄ちゃんじゃないんだが・・・・・・・」


 首を傾げる少女の様子に困りながら少女を眺める、白いコートに身を包み、小さい足にブーツを履いて、小さな手がこちらの服を離さない。

 やはり自分には女難の相があるのではないかと本気で考えてしまう。


「お姉ちゃんに会った?」


「はい?・・・・・・・いや多分会ってないと思うが」


 少女の言葉の意味する所が分からない。

 明らかに普通の子には見えない、もしかして霞のような特殊な子なのかと邪推してしまう。


「・・・・・・・?」


 不思議そうに此方を見上げる瞳に恐怖は見えない。

 まぁ、そのなんだ・・・・・・・色々試しに考えてみたわけです。


(日本人・・・・・・・だよな、色素欠乏症かなんかか?)


 真っ白い少女を見ても疑問しか浮かんでこない、生憎とこんな見た目にインパクトがある人間に覚えは無い。


「駄目、はやく会って」


「はぁ」


 生返事を返してまじまじと少女の顔を覗き込む。

 何処かで見たことがあるような気がしないでもないが・・・・・・・こんな少女の知り合いはいない、きっと気のせいだろう。


「君、ここの子なのかな?」


「違うよ」

 
 ぶんぶんと首を横に振る。その度に白い髪が宙を舞う。


「えっと・・・・・・・じゃあ基地に誰か知り合いがいるのかな?」


「いないよ」


 そのやり取りに何故か霞と最初に交わした会話を思い出してしまう。

 ただ霞と違って、目の前の少女は見た目よりも仕草がずっと幼く見える。


「・・・・・・・名前は?」


「マユ!!」


「マユ・・・・・・・ちゃんね、俺は・・・・・・・」


「お兄ちゃん!!」


(聞いちゃいねぇ・・・・・・・)


 きゃっきゃと跳ねる少女を見て肩を竦める。


「マユちゃんはどうしてここにいるのかな?」


「お兄ちゃんを見つけたから!!」


 えっへんと胸を逸らしてマユは答える。


「そ、そうか・・・・・・・でも寒いから中に戻ろうか?」


 この歳でその胸はアリなのかと思いつつマユにそう提案すると、彼女はイヤイヤと首を振る。


「お兄ちゃんと遊びたい!遊んで~!!」


「いや、ちょっと待て・・・・・・・誰かと一緒に此処に来たんだろ?」


「うん!」


「・・・・・・・その人がきっとマユちゃんの事探してるぞ?」


「探してる?」


「そう、それにもしかしたら怒ってるかもしれないぞ?」


「怒る?」


 笑顔で冗談交じりに言ったのだがマユの顔色は急に真っ青になっていく。


(おや・・・・・・・怒られるのが怖いのかな?)


 ますます子供っぽい様子に笑ってしまう。


「な、一緒にあやまってあげるからその人の所に戻ろう?」


「・・・・・・・うん」
 

 さっきまでの元気は何処にいったのか、マユはしょぼんとうな垂れてしまう。


「よしよし良い子だ」


 霞にしてやるように頭を優しく撫でてやり、小さな少女の手を握る。

 小さくて白くて、儚い印象を持った少女だが・・・・・・・その手は生きていることを証明するかのように暖かった。


「そのマユちゃんと一緒に来た人が何処にいるかわかる?」


「うん、あっち!」


 手を繋いだことが嬉しいのか、マユはぴょんぴょんと跳ねながら此方の手を引っ張って突き進む。


 だが、そんな後ろ姿を見ながらこの光景に戦慄を覚える。


(やばい・・・・・・・MPに見つかったら連行されるかも)


 誰にも会わない事を祈りながらマユの後に続く。


「みんなね、お兄ちゃんのこと待ってたの!!」


「そうなんだ~」


「うん、お姉ちゃんもねきっと会いたがってる!!」


「そうか~」

 
 マユの意味不明な会話に適当に相槌をしつつ進む。

 会話から察するにどうやら随分とお姉ちゃん娘らしい。お兄ちゃんとやらを自分と混同している節があるが、小さい子の言うことを間に受けても仕方が無い。


「だから私お願いしたの、お兄ちゃんを助けてって!いなくならないでって!」


「ほうほう・・・・・・・ん?」



 何か今、物凄く引っかかる事を言われたような・・・・・・・



「ああ!!」


 ふと疑問に思ったことがマユの叫びで霧散する。

 マユが指差している人物に目を向けると、そこに自分にとってもお目当ての人物の姿があった。


(なんだよ・・・・・・・やっぱ輸送機の傍にいたのか)


 輸送機の傍で誰かと話している城崎の姿を見つけて嘆息する。見れば誰かと話している。


 見たことの無い男だ、千歳基地の隊員だろうか?


「う~~」


 なにやらマユが唸っている・・・・・・・どうやら彼が彼女の連れなのだろう。

 改めて見れば城崎はあまり良い顔をせずなにやら苦笑いをしながら男と話していたが、此方がそこまで行く間に話は終わったのか輸送機へと向かっていってしまう。


(仕事熱心だよな~そんなに持っていく物が気になるのか~)


 などと関心していると、彼女と話していた男が此方に気づいたのか声を掛けてきた。


「もしかして君は、社隆中尉かな?」


「は、はぁそうですが・・・・・・・なんで?」


 突然此方の名を呼ばれ、思わず面食らってしまう。まさか、こちらのことを知っているとは思わなかった。


「っと、失礼しました、少佐殿。百里基地第12小隊・社隆中尉です」


「ああ~そんな硬くならないでくださいよ。技術廠第三開発局の石井です」


 言って石井少佐は笑みを浮かべながら握手を求めてくる。

 その手を握りながら、目の前の男を観察するが・・・・・・・絵に描いたようなサラリーマンにしか見えなかった。

 年齢は30代後半と言ったところか、温和な笑みと黒縁眼鏡、そして髪は七三、なおかつ少し太り気味の体系、どう見ても中間管理職と言った要望だ。


「おや・・・・・・・どうやらうちのお姫様がご迷惑をお掛けしたようですね?」


「ああ、いえ・・・・・・・そんなことありませんよ」


 此方の後ろに隠れて出てこないマユの様子に苦笑してしまう。


「ほら石井少佐が君の知り合いだろ?」


「・・・・・・・」


 恐る恐ると言った様子でマユは彼を見上げる。石井は相変わらず温和な笑みを浮かべていた。


「パパ、怒ってない?」


(パパ!?)


「ああ怒ってないよ、でも駄目だな~知らない人に迷惑かけちゃ」


 マユの口から出た言葉に固まっている間に二人は会話を続ける。


「でも、お兄ちゃんが怒ってるって言った」


「おや、そうかい?大丈夫、こうして戻ってきた子に怒る必要は無いよ」


「・・・・・・・うん」


 トコトコとマユが此方の後ろから出てきて彼に向かう。繋いだ手を離さなかったので二人の真ん中くらいでその足が止まる。


「?」


 自分はもう手に力を入れていない、彼女が此方の手を握って離さないだけだ。


「どうしたマユちゃん?」


「・・・・・・・」


 自分を見上げたまま答えてくれない彼女の様子に困ってしまう。


「珍しいですね・・・・・・・この子が、他人に興味を持つとは」


「そうなんですか?」


 感慨深く石井は呟く。


「ええ、見ての通りマユは身体に病気を患ってましてね・・・・・・・そのせいで余り人と関わることをしないんですよ」


 そうだろうな、と内心で彼の言葉に同意する。霞じゃないが見た目に此処まで特徴があれば色々と嫌なことも経験してきたことだろう。
 見た目よりも幼いのはもしかしたらそのせいなのかもしれない。

 白い手が必死に此方の手を掴んで離そうとしない、仕方なく腰を折って彼女と目線を合わせる。


「ほら、パパを見つけたんだよ?お手手繋ぐならパパと繋いであげな?」


「・・・・・・・お兄ちゃんも一緒にいこう?」


「は?」


 何処へ?とは言葉にでなかったが、マユの言葉に首を傾げてしまう。


「こら、マユ・・・・・・・無茶なお願いをするものじゃないぞ」


「・・・・・・・うん」


 石井少佐の言葉に納得したのかマユはようやく繋いだ手を離し、彼の背後へと隠れてしまう。


「随分と可愛らしいお嬢様をお持ちなんですね?」


「いやいや、それほどでもありますね」


 そんな彼の言葉に思わず笑ってしまう。どうやら、余り裏表が無い性格なのかもしれない。
 彼も笑われたことで気分を害することも無く話を続けてきた。


「いや~まさか君に会えるとは思っていませんでしたよ」


「はっ・・・・・・・その、私をご存知だったんでしょうか?」


 ええ、もちろんと言いながら彼は頷く。


 それを見て、内心でその理由を推測する。

 開発局、その名の通り、何かを開発している部署なのだろう。それが何かまではわからないが、彼のような立場の人間が何故此方の事を知りえたのか?

 この世界での戸籍を作るに当たって、夕呼が帝国内の厚生省のデータも改ざんしたのは知っている。国連内部であれば、その出生が疑問視されることは無いがここは帝国軍。

 国連から派遣されてきた人間を、調べないでもしかしたら実戦になるような場所に送り込むだろうか?


 夕呼は大丈夫だと自信タップリだったが・・・・・・・


(考えれば帝国軍だって情報部とかあるよな・・・・・・・そこが本気で調べれば足がつくんじゃないのか?)


 そう此方が先程までのほのぼの感を捨て去り、不安たっぷりでいると彼は自分の眼鏡を指差しながら続けてきた。


「国連から変なサングラス男が来たと、城崎中尉から聞いてましたから。」


「そ、そうですか・・・・・・・」


 そんな返答に肩を落としてしまう。予想して無かったわけではないが、まぁ概ね許容範囲ないだろう。

 橘の例もある、他の隊員からも色々な所で様々な話はされているのだろう。


「城崎中尉とお知り合いだったんですか?」


「ええ、彼女が帝都にいた頃は僕の部下でしたからね」


 ああ、なるほどと頷く。

 城崎が帝都の技術廠出身だとは百里で松土や橘から聞いている。しかも、あの光菱の縁者とも聞いているので、今回の三菱から委託された兵器運用試験も直ぐに納得できたものだ。


「いや~それにしても・・・・・・・ほんとにサングラスしてるんですね~」


 ジロジロと此方の様子を見る。

 正直、男にそんなに見られても嬉しくない。


「ちょっと、サングラスを外して貰えますか?」


「あ、それは・・・・・・・申し訳ありませんが、出来ません」


 上官に大してこの態度は間違いなう不敬罪に当たるのではないかと思うが、彼は気にした様子もなく、ただ残念ですとだけ言ってきた。


(まったく・・・・・・・城崎も何を吹き込んだのやら・・・・・・・)


「ところで・・・・・・・今回、試験する装備は少佐殿の所で製作されたものでしょうか?」


「そ、あんまりぱっとしないモノばかりですけどね~第壱開発局見たいな花形の仕事がしたいですよ」


 まぁ、開発している部署にも色々あるのだろう。

 皆が皆好きなものを作っているわけではないの位は用意に想像できる。仕事なんてものは往々にしてそういったものだ、趣味が仕事に出来る人は少数だろう。


 そして趣味を仕事としてしまった瞬間から、それは趣味ではなく仕事になる。


「私らみたいな日陰ものはね、仕事しても評価されないんですよ~」


「いえ、決してそのような事は・・・・・・・」


「あるさ~誰だって自分の好きな物作りたいだろう?」


 飄々とそんな事を言ってくる、彼の態度に思わず眉根を寄せてしまう。

 なんと言うか、のりがいいのか軽いのか判断に悩むタイプであはある。


「時に隆君。一つ聞いてもいいかな?」


「は、自分に答えられる事でしたら」


「君は戦術機をどう思う?」


「?」


 質問の意図が理解できない。

 戦術機をどう思う?思うも何も、そこに現として存在しているものに何を思えばいいというのか?


(カッコいいとか言えばいいのか?)


 回答に困った此方の様子が面白かったのか、彼は笑顔で続ける。


「質問が悪かったかな?では・・・・・・・君は戦術機に何を望むかな?」


「望むこと・・・・・・・ですか?」


 望むこと、と質問を変更されてもその回答に悩んでしまう。

 実際、戦術機は万能な兵器だと思っている。兵器としては欠点だらけの人型と言う形をしておりながら、様々な点で他の兵器を凌駕している部分がある。


 戦車程の火力は望めないが、その機動性は戦車を遥に凌駕する。


 航空機程の機動性は望めないが、その汎用性は航空機を遥に凌駕する。


 一長一短ではあるが戦術機は非常にオールマイティな兵器、いや機械と言える。


 戦闘行為から、人命救助、災害救助、そのどれらもこなす事ができる万能な機械だ。


 それが実現できたのは、元の世界に比べこの世界の技術能力が格段に進んでいるからだと認識している。


 そしてもしBETA戦争後の事を考えると、恐らくは廃れていくものだとも理解している。


 BETA相手ではなく人間相手の戦闘となった時・・・・・・・BETAに勝つことができればそんな時代は間違いなくるだろう。


 色々と、独学で戦術機の運用方法や整備方法を勉強しているが、やはりその運用コストは他の兵器を遥に凌駕していると言える。


 戦争は全てがコストで図られる。

 それは会社経営でも同じことが言えるので、その概念は概ね理解できる。人の命までコストで計るのはなんとも言えないが・・・・・・・

 確かに戦術機は戦車よりも機動性が高いが、一機作るだけで戦車が10両は作れるだろう。

 確かに戦術機は航空機よりは汎用性が高いが、航空機程の高度では飛べないし速度も出ない。遠距離から誘導性の高いミサイルでも撃たれれば終わりだろう。


 その二つ以上に、その機構が緻密すぎる。


 例えば歩兵が対戦車ミサイルを物陰から撃って命中でもしようものなら、その機能が大幅に下がる可能性が高い。

 第一世代の堅牢な装甲を持つ機体は耐えられるかもしれないが、第二世代以降の機動性に重点を置き装甲を薄くした機体ではその一発が致命傷になりかねない。


 BETA戦争が終われば人の戦場は元の世界と同じような戦場へとなるのではないだろうか?まぁ、それでも拠点制圧などや市街戦などでは戦術機の有効性は高いので無くなりはしないだろうと思うのだが。


「そうですね・・・・・・・もっとコストが抑えられればいいのではないでしょうか?」


「そりゃ無理だ、戦術機は金食い虫だからね。他には?」


 なんとか捻りだした答えを一蹴されてしまう。


「ええっと・・・・・・・他には・・・・・・・」


 唸りながら考える。


(ああ・・・・・・・なんだろ・・・・・・・昔みたアニメとかじゃロボットは)


 思い出すのは元いた世界でのロボットアニメ。


 空は・・・・・・・飛べる。


 ビームは・・・・・・・駄目だこの世界にもきっとなんとか粒子が無い。


 水中とか宇宙とかで使う・・・・・・・駄目だ、そんな汎用性が両立できるわけが無い。


 動きも十分すぎるぐらいよく動いてくれるし・・・・・・・ん?


「・・・・・・・ああ、そうだ。もっと動いてくれるといいですね」


「動く?」


 石井が不思議そうな顔をする。どう言えば納得してくれるだろうか?


「ええ、こうなんと言っていいか・・・・・・・やっぱり戦術機ってロボットじゃないですか?」


「ロボット?これはまた、懐かしい例えだ」


 こちらの発言に石井は笑う。この世界の人間はロボットなんて言葉は使わないだろう。


「失礼しました。ようは幾ら人体を模しているからと言っても機械じゃないですか?・・・・・・・どうしても、その動きが自然じゃなんですよね」


「ふむ・・・・・・・人間が出来る動きは戦術機も出来る筈ですが?」


 彼の質問はもっともだ。確かに戦術機は跳躍ユニット等を使い人間以上の動きが出来る、オリンピック選手も真っ青の反転とかも可能だろう。


「そうですね・・・・・・・単純な動作そのものなら、戦術機は人間を凌駕していると思います。ですが・・・・・・・所詮機械じゃないですか?」


 生物のように筋肉が動くのとは訳が違う、各種のアクチュエーター、シリンダー、サスペンション、その他諸々の機械が筋肉のかわりに機体を動かす。


 そこには生物としての滑らかさは無い。


「どう頑張っても・・・・・・・自然にはならないんですよね」


「ふむ・・・・・・・ようは、隆君は戦術機に生物のような自然な動きをしてほしいと?」


 こちらの言いたいことが伝わったのだろう、彼の答えに頷く。


「はい。そうすれば、もっと面白い乗り物になると思うんですよね、戦術機ってやつは」


 実際には難しいのは理解できる、制御コンピューターとかの問題ではなく戦術機の形から見て、まぁまず無理だろう。


(あんなに突起とか、邪魔なものがあればな・・・・・・・)


 張り出した肩や、胸部、腰や膝も同じだ、あれじゃ人にはなれない。


「なるほど乗り物ですか・・・・・・・中々君はユニークな発想をお持ちだ。流石、国連から来た人は言うことが違う」


「ありがとうございます」


「私の部署はね・・・・・・・主に戦術機に付随するものを開発してましてね、OSなんかも作ってるわけですよ」


 言って石井少佐はウンウンと一人で頷く。


「生物のような動き・・・・・・・確かにそれが理想かもしれません、いや参考になりましたよ」


 大した話はしていない筈なのだが、彼が納得しているならいいだろうと思い此方も頷く。


「出来ればもっと話がしたかったんですが・・・・・・・そろそろ、帝都に戻る時間でしてね、また機会があれば是非ともお話を聞かせてください」


「は、機会があれば是非」


 っとそこで、それまで石井少佐の後ろに隠れていたマユが姿を見せた。


「お兄ちゃん、一緒にいかないの?」


「・・・・・・・それはね出来ないんだよマユちゃん」


 答えると、マユは顔をくしゃくしゃにして今にも泣きそうな顔をする。


「ほらほら・・・・・・・女の子は泣いたら駄目だよ?」


「泣いちゃ駄目?」


「そ、涙は女の武器だから・・・・・・・マユちゃんに泣かれたらお兄ちゃん何も出来なくなっちゃうよ?」


「じゃ泣く」


 しまった説得の仕方を間違えたと気づき空を仰ぐ。


「ええっと・・・・・・・女の子は笑ってるのが一番!そうすればお兄ちゃんも嬉しいな」


 そう言うとマユは不思議そうに首を傾げる。


「・・・・・・・笑えば・・・・・・・いいの?」


「そっ、マユちゃんが笑ってくれればお兄ちゃんときっとまた会えるよ?」


「また・・・・・・・会える?」


「そう今は一緒には行けないけど・・・・・・・きっとまた会えるよ?」


「・・・・・・・」


 父親の前でこんな無責任な台詞を言っていいものかと思い、石井を見上げると彼は面白いものでも見るように此方とマユを見下ろしている。


「うん、わかった」


 言葉とともにマユは満面の笑みを浮かべて笑う。


 だがそんな笑顔を見て心が痛む。


 霞はすぐには笑えなかった、笑えるまで一緒にいると言ったのに今自分は帝国軍に、北海道にいる・・・・・・・そのことが無性に悲しかった。


「そっ!その笑顔だよマユちゃん!・・・・・・・じゃ、また今度ね」


「うん、また今度ねお兄ちゃん!!」


 バイバイとばかりに小さな手を握って握手をする。

 石井もそんな笑顔の娘の様子が嬉しかったのか笑みを浮かべ立ち去ろうとしたが


「ああ、それと・・・・・・・今回試射してもらう支援砲ですけどね、弾薬はたっぷり用意しましたので、幾らでも撃ってくださいね」


 去り際にそう言って二人は基地へ向かって歩いて行った。



 白い雪のような少女は基地の中に入るまで、ずっと此方に小さな手を振ってくれていた。












「・・・・・・・やっと、行ったわね・・・・・・・」


「おぅ!?・・・・・・・なんだ、城崎中尉、いたのか・・・・・・・」


 去っていくマユの姿を見ていたからだろう、彼女の接近に気づかなかった。


「随分と話込んでたみたいだけど・・・・・・・曲者よあの人」


 だろうなと、内心で納得する。

 気の良さそうな雰囲気だが、どうにもつかみどころが無い。まぁ、それでも悪い人間では無いと思うが・・・・・・・


「でもいい娘さんいるんだな」


「そうね・・・・・・・ずっと身体の調子が悪いって聞いてたけど・・・・・・・見るのは私も始めてよ」


 頷く彼女の様子に、やはりマユも色々苦労しているのだなと再確認する。

 あんな無茶な約束してしまったが、城崎に頼めば会えなくはないのだろうと勝手に納得する。


「石井少佐も、面白い人だな」


「そう?・・・・・・・まぁ、変わり者同士波長が合うのね」


(お前の思い込みだと思うが・・・・・・・)


「・・・・・・・はぁ、橘少尉にも言ってるんだがな、あんまり人の噂広めないでくれよ」


 このサングラスのせいで無理だとは思いつつも、そう呟く。


「・・・・・・・噂?」


「そ・・・・・・・人の人相をあることないこと吹き込んで・・・・・・・ん?なんだそれ?」


 言いかけて、彼女が持っているモノに目が行く。

 見慣れない小瓶を持っている、錠剤が多い所からなにかの薬だろうが・・・・・・・


「ああこれ?石井部長がよくくれるのよ・・・・・・・美容にもいいサプリメントですって」


「へぇ・・・・・・・」


 何処の世界でも女性は、やはりそういったものが好きなんだなと思ってしまう。


「良かった上げるわ、私前に貰ったのまだ残ってるし・・・・・・・」


 返答もしてないうちから此方に渡してくる。まぁ、拒否することもないのでありがたく受け取った。


「ありがと・・・・・・・美容ねぇ・・・・・・・城崎中尉にはいらないんじゃないか?」


「・・・・・・・なにその言い方?私が飲んでも手遅れだって言いたいわけ?」


「いんや、こんなの飲まなくても十分綺麗だよ」


 険悪な雰囲気になりそうだったのを、一刀両断してみる。


「な!?あ、当たり前じゃない・・・・・・・私には、そんなドーピングは必要ないわ!!」


 やや照れながら答える彼女の様子に苦笑する。

 腰に手を当てて、胸を張るポーズは・・・・・・・中々様になっている。必要無いと豪語するのも納得はできる。


「三澤大尉ほど胸ないけど・・・・・・・プロポーションには自身があるのよ」


 などと、とんでもないことを口走っているが・・・・・・・


 三澤隊長は・・・・・・・確かに胸はある、ついでにプロポーションも抜群だろう。アレでOLの格好させたら、殆どの男が言い寄ってくるのではないだろうか?まぁ、あの性格では無理な話だが。

 橘もきちんと出るトコ出てるし、スタイルも悪く無い。むしろあのくらい普通のほうが良かったりするのだが・・・・・・・いや、考えるのは止めておこう。次に迫られた時に抵抗できなくなるかもしれない。

 瀬戸は・・・・・・・まぁ、お子様には興味が無いな・・・・・・・


「・・・・・・・あなた、変なこと考えてない?」


「いんや、ぜんぜん」


 いつの間にか半目で此方を見ている城崎にそう言ってごまかす。


「あなたねぇ、今の自分の立場わかってるの?マナ・・・・・・・瀬戸少尉に暴言吐いて置きながらそのままじゃない?」


(ぬぅ、痛い所を・・・・・・・)


「ああ、そうなんだが・・・・・・・どうにも話も出来ない雰囲気でな」

 
 内心でお前もと付け加える。


「あやまる気あるの?」


「もちろん、ってか考えるとなんで城崎中尉まで怒ってるんだ?」


「私はその・・・・・・・彼女の姉として・・・・・・・」


 もごもごと、小声で話し出すその様子を見て、首をかしげてしまう


「はぁ・・・・・・・まぁ、いいわ・・・・・・・所で私に何か用でもあったの?」


「ん?ああ、そうそう実は今回試す装備で色々と聞きたいことが・・・・・・・」




 そんな城崎と会話している中で、先程あった雪の妖精のことはすっかり頭から消えてしまいましたとさ。





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