DONの落書き部屋

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「Muv-Luv 小説」
第一部

航空祭編 第1話

  航空祭編  かれの日常


2001年1月7日10:25
百里基地 第12小隊詰め所



<社 隆>


「隆、今度の部隊長会議で使う書類知らないか?どうにも見当たらないんだが・・・・・・・」


「静流さん、書類なら後ろの棚の上から三段目に入ってますよ」


「おお・・・・・・・しかも記入済みか、悪いな隆」




「社~お前やったんやろ?ワイの単車の調子が良くなったんやけど・・・・・・・」


「ああ、プラグが被ってたぞ、ついでにキャブを弄って燃調も調整しておいた」


「お前・・・・・・・器用やな~」




「社、前に試飲したカクテルのレシピだが・・・・・・・覚えてるか?」


「桐嶋、アレなら俺のマニュアルがある・・・・・・・っても今は手元に無いから待ってくれ、後で作って渡すから」


「ああ、すまない。見よう見真似で作ったのでも評判は良かったよ、皆期待してるぞ」




「隆さん、次に技術検証を頼まれた機材の資料なんだけど・・・・・・・」


「葵、それならもう目は通したぞ・・・・・・・あんまり有効的なもんじゃないと思うけど・・・・・・・試すだけならいいかもな?静流さんの判子押して技術廠に送っといたぞ」


「何時の間に・・・・・・・相変わらず仕事早いわね・・・・・・・」




「たかし~、初詣の御参りいつになったら行くの~?」


「橘・・・・・・・当分は無理だと言ってるだろうが、その内時間が出来たら、笠間の稲荷神社あたりなら付き合ってやるよ」


「・・・・・・・あなた、あの神社のご利益知ってって言ってる?」




「隆さん・・・・・・・これなんですけど」


「どうした真奈美?・・・・・・・ああ、予備の制服の申請か、わかった総務に伝えておくよ・・・・・・・サイズは今までと同じでいいのか?」


「うぐっ・・・・・・・はい、お願いします」




「「社」」
「「隆」」
「「隆さん」」




(・・・・・・・頼む・・・・・・・俺は聖徳太子じゃないんだ・・・・・・・)






同日 11:45  第一格納庫

「で・・・・・・・逃げ出してきたと?」


「・・・・・・・はい」


 松土からの憐憫が篭った視線を受けながら、携帯式の栄養補給剤と胃薬を一錠口に運ぶ。
 べ、別に胃が痛いわけじゃない・・・・・・・罹病対策と栄養は必要だ、何時如何なる時でも、うん。

「はぁ・・・・・・・」


 溜息を付きながら、インパルスの雪風を見上げる。
 薄暗い格納庫でも異彩を放つ色彩、本当に目立つ機体だ・・・・・・・


「大変なんだな・・・・・・・お前も」


 同情を意味する松土の言葉にも苦笑しか返せない。
 格納庫の前でボーっとしていた所を、偶然通りかかった松戸少佐に見つかり、いつの間にか自分の苦境を彼に愚痴ってしまっていた。


「まぁ、逆にそれだけ事務仕事が出来るなら、文官としても十分やっていけるだろうな」


「あぁ、それは魅力的な話ですね・・・・・・・異動願い出してみようかな・・・・・・・」


 言ってはみるが、夕呼がそんなもの受け取る筈が無い・・・・・・・却下だ。


「それにしても、部隊の女性陣と名前で呼び合うとは・・・・・・・随分親しくなったんだな?」


 眠そうな瞳を輝かせて聞いてくる彼の態度に、更に深く肩を落としてしまう。


 そう、その通りだ・・・・・・・先日、まぁ色々あって何故か名前で呼び合うことになったのだが・・・・・・・


(思い出しても頭が痛い・・・・・・・)






 全ては数日遡る・・・・・・・




「ねぇ隆さん、この書類なんだけど・・・・・・・」


「ん・・・・いいんじゃないか?考察も良いし見やすい・・・・・・・上出来だよ」


「そ、そうかしら?」


 褒めれば城崎は伸びる、この娘は鞭よりも飴のほうが好みらしい。元の世界の会社勤めで、数人とはいえ部下を持った身だ、後輩の扱い方はむろん心得ている。

 そんな何時も通りの会話を、城崎としている所から全ては始まった・・・・・・・


「・・・・・・・ねぇ、ちょっといい?」


「「?」」


 黙って雑誌を見ていた橘が、顔をあげながら此方に向かってそう言ってきた。

 しかも何やら機嫌が悪そうに見えるが・・・・・・・何故だろう?


「・・・・・随分、二人とも仲が良いのね?」


「そうか?・・・・・・・今まで通りだと思うんだが・・・・・・・?」


 言いながら隣にいる城崎に視線を向けると、彼女も橘の発言する意図が理解出来ない様で、不思議そうに首を傾げている。


「いいえ、北海道から戻ってきてから・・・・・・・二人の様子が変よね、瀬戸?」


「は、はい・・・・・・・私もそう思います。」


 橘に突然話を振られた瀬戸だが、その意味が理解できているらしく、コクコクと首を縦に振っている。
 ふと周りを見れば、詰め所の中にいる同僚全てが、自分も同じだとばかりに首を縦に振っていた。


(・・・・・・・なんなんだ?)


 確かに城崎の書類作成を手伝うようになったが・・・・・・・あくまで仕事をしている筈なのだが、ソレに何か問題あるのだろか?


「・・・・・隆さんが、また何かやったんじゃないのかしら?」


「嫌・・・・・ここ最近は大人しくしているつもりなんだが」


 年末に横浜に帰ったときに何があったか良く覚えてないのだが・・・・・・・どうにも最近調子が悪い・・・・・・・急に寒気を感じたり・・・・・・・なんでだろう?


「それよそれ!!」


 びしっと橘が城崎に向かって指を突きつける。


「葵今あんた、た・・・・・社中尉の名前を呼んだでしょう?」


 隣で瀬戸が大きく頷いて同意している。


「「それが?」」


 名前で呼ぶことの何がおかしいのか分からず、返した言葉が城崎と被ってしまう。

 橘と瀬戸の表情がピシッと音を立てて割れた・・・・・・・ような気がした。


「橘少尉・・・・・・・お前だって、城崎中尉のこと最近名前で呼んでるじゃないか?」


「そうね隆さん・・・・・私も彼女のこと栞って呼んでいる筈だけど、何かおかしかったかしら?」


 そんな此方の言葉に橘はワナワナと肩を震わせている。

 ますます彼女の態度が理解できない・・・・・・・まさかとは思うが、たかが名前で呼ぶようになっただけで、二人の仲を邪推してるなどと思いたくないが。


(んな、小学生じゃあるまいし・・・・・・・)


「それはソレよ!!いいわ、私もコレから社中尉を名前で呼ぶわよ!!」


「いや・・・・・・それは流石にまずくないか?階級とかあるし・・・・・・・」


 横浜で、自分よりも階級が低いまりもや、水月、遙に名前で呼ばせていることを棚に上げつつ、そう言い放ちながら、この部隊で最高階級者である三澤の姿を横目で一瞥する。


「別にいいんじゃないか?人目が無ければ好きにすればいい」


(世間体が良ければ何でもありですか貴女は!?)


 内心で抗議を挙げるが、彼女はそんなことに気づくわけも無く、面白そうに此方を眺めている。


「ふふふふふふ、ボスから許可が出たわ・・・・・・・これで好きに呼ばせてもらうわよ」


 我が意を得たとばかりに、橘が何やら邪悪なオーラをかもし出しながらゆっくりと立ち上がる。


「いい、私も・・・・・・・その・・・・・・・社中尉の事をこれから・・・・・・・たか」


「私も、葵さんと同じように隆さんって呼んでいいですか?」


 言いよどんでモジモジしている橘の隣から、何やら必死な様子で瀬戸が言ってきた。


「ああ・・・・・・・大尉がああ言うなら別にいいだろ、好きに呼んでくれ」


「ほう、なんだ隆は私のことを名前で呼んでくれないのか?」


「はい?な、何言ってるんですか三澤大尉?仲良しグループじゃあるまいし・・・・・・・」


「かまわんぞ、人が居なければ静流と言え・・・・・・・どうも最近名前で呼ばれることが無くてな、たまには呼んでもらえないと自分の名前を忘れそうだ」


「んな事で自分の名前忘れるわけないでしょが・・・・・・・」


「ふ~ん・・・・・・・私だけが隆さんを名前で言うのも確かに変だし、私のことも葵って呼んでいいわよ」


「お前まで・・・・・・・なんなんだ一体?」


 大したことを告げる内容でも無い風に城崎は呟くが、なにやらその顔が赤い・・・・・・・恥ずかしいなら、言わなければいいだろうに。


「葵さんが・・・・・・・名前で呼ぶ許可だすなんて・・・・・・・」


 しかも、瀬戸がらぶつぶつと一人で呟いている。


「なんだよ・・・・・・・まさか瀬戸まで名前で呼べとか言うんじゃないだろうな?」


「あら、そうなのマナちゃん?」


「ち、違います!!そ、そんな・・・・・・・ことないです・・・・・・・」


 ごにょごにょと尻すぼみな発言をしながら、彼女は両手を弄びながら俯いてしまう。

 思えばこの子も変わったものだ、最初会った時に引っぱたかれた事実も今では懐かしい。
 最近では以前のような強気の発言も無くなり、歳相応の少女にしか見えない。

「ふ~ん・・・・・・・なぁ真奈美」


「!!」


 言ってみた言葉に瀬戸は予想以上の反応を示す、姉と同じように顔を真っ赤にしてアタフタとキョドッてる。
 千歳で聞いた彼女の台詞を思い出し・・・・・・・その様子が微笑ましくてしょうがない。


 だが・・・・・・・そろそろ自重しないといけないだろう、危険でこうばしい香りがプンプンと匂い始めてきている・・・・・・・


 横浜での飲み会の最中・・・・・・・記憶に無いのだが、物凄く危険な存在を垣間見たような気がするのだ。その存在が告げている・・・・・・・程々にしておけと。


「ふ、ふふふふふっふふふ」


 俯いて、肩を小刻みに震わせながら不気味に笑っている人物を一瞥する。


 危険人物№1、今現在もっとも傍にいて警戒すべき女性・・・・・・・いったい俺なんかの何処がいいんだか。


「・・・・・・・ふむ、橘少尉」


「な、なに?」


 呼んだ瞬間、彼女の表情がパァッと輝いた笑顔になる、先程までのハイライトが消えた瞳は何処に言ったと問いただしたい所だが・・・・・・・


 女性の扱いは心得ている・・・・・・・夜の職場でバイトした経験は伊達じゃ無い。


「♪」


 何かを期待して、まるで犬のように尻尾を振っているその様子に薄く笑う。


「橘は橘でいいよな?」


「な、なんで!?」


「いや・・・・・・・お前と名前で呼び合うと・・・・・・・なんかこう・・・・・・目つきの悪い自称魔術師の893に、変な言いがかりで借金押し付けられて、ひたすらその取立ての恐怖から脅える日々を送るような・・・・・・・気がする」


「意味わかんない!何よ、なんで私だけ名前で呼んでくれないのよ!?」


 ああ、実は言ってる俺も意味が分からない、だが・・・・・・・


「だって、名前で呼ばない女性はお前だけだぞ?そんだけ俺が意識してるわけだ、嬉しく思ってくれ」


「・・・・・・・」


「さいてーね貴方って」
「死ねばいいのに」
「失望した、お前は女心がわかってない」


「おい、ダレだ今死ねっていったの!?」


 意識・・・・・・・と言われたことに橘は一瞬だけ表情を変えたと言うのに、周囲の女性陣からの非難で折角有耶無耶に出来そうな雰囲気がぶっ壊れてしまった。
 ってか今死ねてって言ったのダレだ?さっき、好評価を与えた真奈美のような気がするが・・・・・・・やっぱ中身は変わってないのか!?






「なぁ・・・・・・・桐嶋中尉」


「なんだ川井中尉」


「・・・・・・・この部隊って大丈夫なんやろか?」


「やれやれ・・・・・・・・・洋平♪・・・・・・・コレで満足か?」


「駄目や・・・・・・・この部隊でマシなのはわい一人だけや・・・・・・・」







 そして時間は今に戻り・・・・・・・


(何を間違えたんだろう・・・・・・・)

  
 確かにバイトでの成績は芳しくなかった・・・・・・・ヘルプで席に着けば同僚から睨まれ、指名を貰っても同伴やらアフターをこなすとソッポ向かれる・・・・・・・何故だ?偶然、客が重なった瞬間の修羅場を上手くこなせなかった自分が原因なのか?


(それとも酒癖だろうか・・・・・・・)


 親しい友人からも言われている・・・・・・・はたで見てる分には面白いけど、決して近寄りたくないと。

 だが、自分としてはある一定量を越えると記憶が消えるのだ、何をしたのか全く覚えていない。

 以前、その事実を友人に言った祭に、都合の良い頭だと睨まれた記憶がある。


「三澤のとこは、やっぱり面白い部隊だな」


 苦笑する松土に首を縦に頷く

 軍の一部隊が、こんなノリでいいのか本当に悩む。

 まぁ・・・・・・・いいのかもしれない、衛士は戦場に行かなくちゃいけないご身分だ、普段の日常を楽しく過ごす事は、心の贅肉を増やす大切な事なんだろう・・・・・・・きっと。


「社中尉、なら気分転換に俺たちの訓練に付き合うか?」


「はい・・・・・・・是非ともそうしたいのですけど・・・・・・・これから映写室で部隊ミーティングがあるもので」


 事実だ、午前中に突然三澤が指示され、先程管理部に許可を貰いに行ってきたのだから。


 その返答に、松土はそうかとだけ答え残念そうに肩を竦める。

 彼と知り合ってから、手の空いた時間に彼の教導を受けることは習慣になりつつある、単純に強くなりたいとかではなく、出力の劣る機体の操縦方法を彼からレクチャーして貰っているのだ。

 本来なら越権行為でもあるのだが、その特訓を進言した時、彼は喜んでそれを承諾してくれた。


 未だに・・・・・・・彼の足元にも追いついていないのが現状ではあるのだが。


(化け物だよ・・・・・・・乗ってる人間も、コイツも)


 物言わぬ雪風を睨む。

 常々思うが、よくもまぁこんな出鱈目な機体を光菱と軍は作り上げたものだ。
 第一世代の機体を改良に改良を重ねて第三世代機並の機動性を持たせる・・・・・・・はっきり言って無駄なだけだ。そこまで金を掛けるなら、他の機体に回したほうが得策だ。


「・・・・・・・来月には航空祭だからな、こいつも俺達も忙しくなりそうだ・・・・・・・」


「航空・・・・・祭ですか?」


 自分が雪風を見ていた視線に気づいて振ってきたネタなのだろうか?


「ああ、年に一度のお祭りだ、一般の来場客が大勢くるぞ・・・・・・・戦術機のアクロバットを見にな」


 言って笑う松土の表情を見ながら記憶を掘り起こす。

 元の世界でも、百里基地で航空ショーが開催されていた記憶がある。茨城に人が多く集まる数少ないイベントの一つで、ソレに便乗したイベントプランを会社に提出した経験があるので知らないわけではなかった。


(懐かしいね~)

 
 それなりに稼がせて貰ったイベントだ、あの時ほど公務員様サマだと思ったことは無い。


 立ち去って行った松戸の背中を見ながら、その時の光景を思い出す・・・・・・・


「・・・・・・・コレは・・・・・・・面白そうだな」


 もしかしたら、良いストレス発散の機会かもしれない事に気づき、脳内で様々な妄想を膨らませるのだった。








<三澤 静流>


 戦車の砲塔が、BETAもどきの姿を捉えその姿をFCSが正確にロックオンする。
 瞬間、狙われている事に気づいたかのようにBETAが跳躍、数瞬後には盛大な破砕音と共に、搭乗していた戦車兵の絶叫が響き渡る。


「随伴していた戦車の車載映像がコレだ・・・・・・・殉職した彼らはきっちりとデータを残してくれたわけだ」


 映像が切り替わり、既に残骸とかした戦車からBETAもどきが跳躍しながら向かってくる。
 BETAもどきをロックオンするために、機体のFCSが世話しなく敵の姿を追いかけ、照準、発砲・・・・・・・だが難なく避けられ、BETAもどきはその驚異的な脚力で持って距離を詰めてくる。
 ロックを外し、弾幕宜しく敵機の予測行動範囲内に満遍なく36㎜砲弾をばら撒くと、BETAもどきは足を止めて突撃級のような頑強な腕部の甲羅を掲げ、弾丸を受け止め始める。
 足を止めたBETAもどきへ接近した不知火が、手にした長刀を一閃・・・・・・・血飛沫を上げてBETAもどきは崩れ落れちた。


「・・・・・・・これが桐嶋の陽炎に記録された映像データだ」


 言いながら次の画像へと切り替える。
 真っ暗な室内に、プロジェクターで映し出された先日の戦闘風景が再度流れ始める。

 目前で蹲っているBETAもどき・・・・・・・突然、頭を持ち上げ口を開き、内部から光線級のような眼球が露出する。
 眼球を確認した瞬間、機体がBETAもどきへと突貫。
 手にした試作型支援砲を照準した瞬間、BETAもどきが目標を変えて自機へとレーザーを放ってくる。
 左腕をレーザーで溶解されつつも、機体をBETAもどきへと突撃・・・・・・・支援砲が深々と頭部に突き刺さり、そして爆発・・・・・・・血だるまのBETAもどきを再び現れた不知火が一閃。


「隆の胡蜂の映像記録だ・・・・・・・見ての通り小口径のレーザーを頭部に内包している」


 データを再度切り替える・・・・・・・次は川井の不知火の映像だ。

 ふと見れば、部下の真剣な顔がプロジェクターの光で暗闇の中浮かび上がっている・・・・・・・隆もこんな時ぐらいはサングラスを外さばいいだろうに。
 
 三体のBETAもどきへと長刀を振り上げて不知火が噴射滑走、だがBETAもどきは全て自機を素通りし、無視するかのごとく他の機体へと向かって行く。
 慌てて反転、銃弾を掻い潜る敵の姿を観察しながら・・・・・・・弾幕で足を止めた一体に向かって接近し長刀を振り上げる。
 先程の二機の映像記録と違い、BETAもどきは此方を振り向こうとすらしない。全く気づいていないかのように、あっさりと長刀の一撃を受けて血を吹き上げながら崩れ落ちる。
 もう一体も同じく弾幕で足を止めたところを斬撃・・・・・・・拍子抜けするほどあっさり倒してしまう。


「最後のが川井の不知火のデータだ・・・・・・瀬戸、部屋の照明を付けてくれ」


 指示した瀬戸が部屋の照明を付ける、明るくなった部屋で部下達の表情が確認できた。


「さて・・・・・・・本来なら緘口令が言い渡されている現状、こんなデータを持っているのがバレたら問答無用で軍事裁判送りなのだが・・・・・・・データを消去する前に、もう一度全員に見て欲しくてな」


 言った内容は事実、技術廠に搭乗機のマスターデータを提出する旨の指示が出ている中で、コピーとは言え一部隊が保管していいモノでは決して無い。整備班に無理言ってコピーして貰ったデータを、躊躇う事も無くパソコン上から消去して行く。
 アレの姿を確認した部下が三名、話だけしか聞いていないのも三名・・・・・・・だが、一度見せれば考察する時間としては十分だろう。


「・・・・・・・」


 無言で社へと目配せすると、彼は嘆息しながら頷く・・・・・・・予想通り、横浜の女傑はデータを手に入れているようだ。

 瀬戸が席に戻った所で、全員の顔を見渡す・・・・・・・
 戦闘を経験した男三人は平然としている、未経験の女三人はやや憮然とした表情を浮かべているが、まぁそんなとこだろう。


「今の映像を見て・・・・・・・気づいた点があるか?」


 その質問に三名が挙手する。


「ふむ・・・・・・・城崎中尉」


「はい・・・・・・・あのBETAもどきは近接をする機体は後回しにし、射撃兵装を持った機体を狙ってくる習性が見受けられます」


 彼女の言葉に頷く、確かにあのBETAは近接兵装と射撃兵装を識別できる感覚器を持ち合わせているようだ。


「・・・・・・・桐嶋中尉は?」


「は、自分が高度を上げた瞬間・・・・BETAもどきは光線級と同じレーザー照射器官を展開させました、通常の光線級と同じく飛翔物体を捕捉する習性があるように見られますが、社中尉の胡蜂が突貫した瞬間、優先目標を接近する胡蜂へと変更しました・・・・・・・このBETAもどきは、レーザー目標の優先順位が既存の光線級とは違います」


 彼の言葉にも頷く、この図体でレーザー照射器官を持っているのにも驚きだが、飛翔物体よりも接近を試みる敵への反応が早いことに注目すべきだろう。


「最後・・・・・・社中尉は?」


「はい・・・・・・・」


 隆は一瞬だけ口を開きかけ、伺うような物腰で全員を見回して一言付け加えた。


「その・・・・・・・自分が言う発言がどれほど馬鹿げていても、気にしないでください」


「ん?構わない、言ってみろ」


 彼はその応えに安堵したのが、一度溜息を付いて話し始める。


「このBETAもどきは・・・・自身に照準用レーダーを照射する機体を、第一目標として攻撃する習性があると予測されます」


「「「「「「!!」」」」」」


 彼の発言に部下達に動揺が走るが・・・・・・・かまわず続けさせる。


「その根拠は?」


「はい・・・・・・・自分が接敵した一体ですが、戦闘中にBETAもどきの驚異的な瞬発力でFCSのロックが外れ、尚且つモニターからも敵の姿をロストしました」


 そこで彼は一度言葉を区切る。


「あの瞬間・・・・・・・ロストした瞬間、自分は死んだと思いました。目の前で敵の姿をロストしたんですから当然でしょう?だが、あのBETAもどきは此方を素通りして、一体目を撃破し二次目標として自身を捕捉していた桐嶋機へと脇目も振らずに向かって行きました」


「なるほど・・・・・・・」


 唸るような声で桐嶋が呟く。


「その後、桐嶋機を襲った一体は行動を停止・・・・・・・これは自身に照準用レーダーが照射されていないことが原因とされます、現に最初に現れた三対のBETAもどきは随伴していた戦車が砲塔を向けるまで一切の反応を見せませんでした」


「ふむ・・・・・・・そうなるとレーザーの目標を切り替えたのも?」


「はい、高度を上げた物体を狙う・・・・・・・これは光線級の基本行動ですが、このBETAもどきは胡蜂が支援砲を向け、照準した瞬間に目標を此方へと切り替えました」


 脳裏に記憶した瞬間を思い出しても、彼の言葉と状況が一致する。


「そして・・・・・・川井機の不知火の長刀には一切の反応を見せていません」


「だから・・・・・・・わいを無視したのか?」


 川井の言葉に彼は小さく肩を竦めた。


「あくまで予想だけどな・・・・・・・BETAが照準用レーダーを知覚する能力があるなんて根拠は、何処にも無いからな」


「だけど、理屈としては理にかなっているわ」


 城崎が頷きながら彼の言葉を肯定する。

 確かに彼の言葉通り、BETAもどきが照準用レーダーを知覚出来る能力があるのならば、彼の推論は確証を得るものへと変わってくるだろう。しかし、彼が自分で言った通りそれを証明する証拠は一切無い。

 技術廠では、BETAもどきの解剖と研究を進めているようだが、そんな特別な特徴があるとの報告は上がってきていない。


 知らされていない・・・・・・・そんな可能性も無いわけでは無いのだが。


「だけど、今までのBETAにそんな習性無かったわよね?」


「そうだな・・・・・・・『BETA』にはそんな習性があったなんて記録には無い」


 橘の言葉に、意味有り気な含みを持たして彼は答える。


 彼は、何かそれ以上の事に気づいている事があるのだろうか?


「なんや・・・・・・・意味深な発言やな今のは?」


「まぁな・・・・・・・ここからが本題なんだが、皆笑うなよ?」


 苦笑する彼に全員が首を傾げる。


「あれな、BETAじゃないんじゃないかと思うんだ」


「「「「「「は?」」」」」」


 彼の素っ頓狂な言葉に全員が呆れてしまう。


「・・・・・・・人為的な操作がされたBETAもどきの生態兵器・・・・・・・馬鹿げた話だが、そんな可能性を考えてたりするんだよ・・・・・・・俺は」


「・・・・・・・お前・・・・・・・やっぱり馬鹿やろ?」


「私もその意見にせんせ~い」


「ああ、俺も右に同じく」


「・・・・・・・ふ~ん」


「葵さん?」


 部下が思い思いの反応を彼に返し、馬鹿にされた意見もあったのにも関わらず彼は苦笑を続ける。


「だな、そんな技術は流石に無いだろうし・・・・・・・あってもソレを此方にぶつける意図が不明、BETAと戦争している現状にそんな酔狂な真似する馬鹿はいないわな」


「だが社・・・・・・・お前がその予想を考えた根拠は他にもあるんじゃないのか?」


 彼が、他の衛士とはどこか違う視点で物事を見ていることは以前から感じていた。
 価値観が違うというか、何か普通では無い知識を持ち合わせていると言うか・・・・・・・どうにも言葉には上手く表せない。


「そうですね・・・・・・・理由は他にもありますよ」


「言ってみろ」


「あのBETAもどきが出てきた状況を思い出してください・・・・・・・BETAが上陸していた沿岸からでは無く、突然後方からの出現・・・・・・・そしてコレは自分しか感じなかったでしょうが、胡蜂以外のレーダーに表示されない事実、これら全てが腑に落ちません」


 突然の後方からの奇襲、戦術機はおろかHQも気づかなかった事実、確かに言われれば益々疑わしい存在に思えてくるが・・・・・・・


「・・・・・・・なるほどな。事実は疑わしいが確証が何も無いのでは、全ては机上の空論でしかない」


「ですね・・・・・・・」


「ちなみに・・・・・・・それはお前の本当の上司の意見か?」


 その言葉に彼は一瞬だけきょとんとした表情を浮かべ、慌てて手を振って誤魔化す様に答える。


「いや~あの上司はそこまで気づいているかどうか・・・・・・・でも調べるのが得意そうでしたから、当たりなら何か掴むんじゃないですかね?」


 その言葉の持つ意味に納得し、口元だけ笑みを作って頷く。
 彼の言うとおり・・・・・・・あの女傑ならば確信にいたる部分を導き出せるだろう。


「そうか・・・・・・今の所は此処までだな。全員ご苦労だったな、今日は後は自由にしてていい。言うまでもないがこの事は・・・・・・・くれぐれも他言無用でな」








<橘 栞>


「ねぇねぇ・・・・・・・よくあんな妄想がでてきたわね?」


「んぁ?もぐもぐ・・・・・・・そうか?」


 食事していた手を止めて彼は不思議そうに首を傾げる。
 PXは基地の隊員達でごった返しており、自分達もミーティング後の食事を取るために集まっていた。


「ちょっと・・・・・・・食べるか話すかどっちかにしたら?」


「隆さん、お水です」


 真奈美から受け取った水を飲み干して、彼はふうっと一息付く。
 先程のミーティングでの彼の言葉には驚かされた、まさかBETAのような生態兵器を人の手で作成する発想など普通の人間にはとても考え付かないだろう。


(頭が良いのか馬鹿なのか判断に悩むのよね・・・・・・・)


「社の脳みそは人と違うからな~」


「黙れ関西人」


「か、関西を馬鹿にするんかい!?」


「止めろ二人とも・・・・・・・周りが見ているぞ」


 言い合いになりそうになった彼と川井に、桐嶋が咎めて大人しく二人は席に戻る。だが、サングラスを掛けた国連兵はとっくに基地の名物になりつつある、今更視線を集めた所でなんら支障は無い。


「・・・・・・・いやな、結構良くある話だったりするからさ」


「何が?」


 言い返すと彼は困ったように視線を天井へと向け、ポツリポツリと漏らし始める。


「・・・・・・・戦争でもなんでも・・・・相手の使っている物を確保して再利用するのは当然だろう?」


「そうねコストも掛からず、相手の技術を見ることもできる・・・・・・・『人』の世界じゃ通説ね」


「だろ?・・・・・・・しかもだ、ああいうグロテスクな生態兵器を生み出しているのは、決まって自分とこの研究所だったりするわけだ、お約束的に」


「お約束・・・・・・・ですか?」


「そうそう、アンブレラしかりリヴァイアスしかり・・・・・・・テレビの中じゃ扱く良くある話・・・・・・・いやなんでもない忘れてくれ」


 途端に嘘くさくなった彼の言葉に全員が懐疑的な視線を向けると、彼は慌てたように手を振って否定してきた。


「・・・・・・っていうかココでするような話じゃないだろう?」


 周囲に視線を向けながら言う彼の言葉に同意する、むろん人の集まるPXで大っぴらに出来る話では無い・・・・・・・当然、その当たりを踏まえた上で語呂を濁しながら話している。


「そうね・・・・・・・でも私としては面白い意見だったわ、ありがとう」


 礼を言う葵が、次に全員の懐疑的な視線に晒される。そんな視線に受けながらも、彼女は気にした風もなく合成紅茶を優雅に飲んでいる。

 悔しいが、彼女はそういった姿が板についている・・・・・・・中身が鈍感娘でも、外見は高級所得の娘なのだと時たま垣間見せる優雅さから感じ取れる。

 しかも何時も食べるのは合成ナポリだの合成カルボナーラだの、パスタ系ばかりだ。こんなメニューは帝国軍には無かったと記憶している・・・・・・・金の力で、自分が食べたいメニューをPXに並べたのだろうか?


(むぅ・・・・・・・お嬢様ってのは)


 生憎と自分は平民の生まれだ。生れも育ちも茨城県、筑波山が良く見える関東平野で何が悪い?田んぼしかない田舎臭くて何が悪い?ちなみに言っておくが、チバラギとか言う奴は問答無用で殴り倒す。


「あの~すみません」


 葵へ一方的な嫉妬の視線を送っていたところへ、後ろから声を掛けられる。声のしたほうを振り向くと・・・・・・・向けられた視線に圧倒されたのか、何やらうろたえる女性仕官が一人。


「お食事中に申し訳ありません、社中尉にお話が・・・・・・・」


「はいはい、何でしょう?」


 彼はすぐさま席を立ち上がって、声を掛けてきた女性仕官と話し始める。



「こないだ頼まれた件なんですが・・・・・・・」


「ああ、すみません・・・・・・・お手数掛けちゃって」


 目の前にある合成カレーを口に運びながら、耳に全神経を集中させて二人の会話を盗み聞く。

 女性は確か・・・・・・・基地の総務に所属していた事務官だ、彼との接点があったとは把握していなかった。


 ちなみに彼の女性関係は全てチェックしている・・・・・・・筈だ。確かに、百里基地全ての人間を把握する事は流石に出来無いが、ある程度は掴んでいる
 百里に限らず、帝国軍全体で慢性的な男不足に陥っているために、女性兵士の数は男女比率で大幅に男性を上回っている・・・・・・・整備兵や衛士には男性も少なくはないが、事務官や秘書官を務める女性の数は多い、しかも皆若くて花盛りな女性ばかり・・・・・・・危険だ。


 じろりと、同じテーブルに着く同僚の姿を一瞥する。


 暢気に合成ラーメンを啜る12小隊のイケメン(隆から聞いた語源)№1、桐嶋久志中尉。少々、ズレた所もあるがその甘いマスクと高身長から基地内の女性仕官からの人気は高く、密かに投票されている抱かれたい男トップ5に入っている。
 自分は・・・・・・・余り魅力を感じないが。


 その傍で早食いでもマイブームなのか、あっという間に合成大盛り牛丼を平らげた川井洋平中尉が、お腹を押さえながら満足そうに合成緑茶を飲んでいる。
 関西人で口喧しい男だが、衛士としての腕は折り紙つきで基地内でも高く評価されており、女性仕官の人気もこれまた高い。隆曰く・・・・・・・もっとクールに装おうか、関西人らしくお笑いに走れば更に人気は高くなるらしいが・・・・・・・相変わらず隆の言う根拠が分からない。


 先程も嫉妬の視線を送った葵。
 彼女は、その中身さえ知らなければ非常に見目麗しい娘だ・・・・・・・自分で言って虫唾が走るが間違いない。
 容姿、振る舞い、実家の業績、逆玉へ至る最良物件と、基地の若い連中からの呼び声が高い。
 例え中身が救いようの無いニブチン娘でも、所詮野郎なんてもんは見た目が全てだ・・・・・・・忌々しい。
 あのサラサラの綺麗な黒髪も、きっと金の掛かるトリートメントのお蔭に違いない・・・・・・・忌々しい。
 あの細い指も綺麗な爪も、きっと全うな訓練をやらずに文官上がりで任官したからに違いない・・・・・・・忌々しい。
 隆がわかってやってるのか微妙なところだが、彼女への個別指導は正直止めて欲しいものだ・・・・・・・彼と二人きり・・・・・・・全く持って忌々しい・・・・・・・

 
 チマチマと合成オムライスを食べる瀬戸は・・・・・・・まぁいい。
 基地でも一部に根強いファンがいるのは知っている、人の趣味にアレコレ言う気は無いし、私にとっても害になることじゃないから更に気にしない。
 そして、ちびっ子には興味が無いと彼も宣言していたし、それぐらいは信じて見るのもいいだろう。
 しかも何やら最近私に対する態度を改めつつある・・・・・・・鈍感娘の変わりに私が姉としてしっかり教育するのもいいかもしれない。


 そしてだ・・・・・・・


「あちゃ~そうなんですか、あははははは」


「ええ、ふふふふ」


 馬鹿みたいに総務の事務官と笑っている、変態ロリコンサングラス国連兵こと・・・・・・・社隆。


 女性仕官のアンケートでは、階級を感じさせない物腰穏やかなその姿勢が好感触、話も面白く、気遣いと御もてなしが最高・・・・・・・などと彼の表の顔ばかりが評価さていた。


 最初ソレを見た瞬間、『週刊百里の女性自身』を床に叩きつけたものだ。


 人気ランキングにこそ彼の名前は入っていなかったが・・・・・・・恐らく国連所属の人間を、そう表立って評価出来ない編集局の思惑があったと推測できる。


 現に、女性同士の話のなかで・・・・・・・彼の話が話題に上る事が多い事実を私は知っている。


 故に・・・・・・・彼がロリコンで変態で妹を愛して止まないシスコン野郎だと基地内で宣伝しているのだが・・・・・・・どうにも成果があがらない。
 理由は明快、彼が百里に赴任してきた際に、国連所属の彼に対する帝国軍の厳しい評価を好転させるため、自分が必死に駆けずり回って会う人会う人に彼に良い印象を持つように触れ回ったのだ。


 それが・・・・・・・いけなかった、いや誤算だった。


 結果として彼の人柄もあったのだろうが、整備班から始まった彼への好評価は次第に事務へと変わって行き、今では表立って彼を非難するものはおろか、擁護する立場の人間のほうが多い・・・・・・・主に女性が主体なのだが。


 合成カレーに入った合成ニンジンに、スプーンを使って突き刺す。


 ニンジンを突き抜け皿にまで貫通した際に、スプーンと皿がぶつかる甲高い音が響き渡り、隣にいた真奈美がビクッと身体を震わせたような気がしたが知ったこっちゃ無い。


 むしろ・・・・・・・なんでコレはナイフでなくスプーンなのだろうか?と我ながら理不尽な疑問が浮かんでくる。



「あ、あの・・・・・・・栞さん?」


「なによ?」


「い、いえ・・・・・・・なんでもないです」


 声を掛けてきた真奈美がすごすごと引っ込んでいき、その姿を見て被りを振る。
 自分は何を考えていた?くだらない嫉妬を感じている暇があれば、早急に彼を陥落すべきだ。


「ふう・・・・・・・助かった」


 事務官と話し終わったらしい彼が、再び席に座って合成緑茶に口を付ける。


「総務の人と何の話だったの?」


「ああ・・・・・・・大した事じゃないよ、提出期限の迫った書類の事でちょっとね」


 葵の言葉に彼は嘆息しながら答える。こうやって部隊の書類を纏めている彼が、事務官とお知り合いになるのも当然かもしれない。


「・・・・・・・ねぇ一つだけ聞いてもいい?」


「ん?なんだ橘?」


 声を上げた瞬間、隣の真奈美が再度身体を震わせたような気がするが・・・・・・・どうでも良い。


 そう、どうでもいいが・・・・・・・この男は本気で私を名前で呼ばないつもりなのだろうか?


「麻美・・・・・・・ってダレ?」


「!!」


 その質問に、彼は口にした合成緑茶を噴出しそうになるのを堪えるように、両手で口を押さえて身体を震わせている。


「・・・・・・・」


 冷ややかな視線でソレを眺める自分・・・・・・・見れば周りの同僚が、此方と彼を見比べて右往左往している。


「な、なんだ突然!?ってか何処で聞いた!?」


「別に・・・・・・・ちょっと気になったから、でダレなのよ?」


 予想は付いている、間違いなく百里にいる女性仕官の誰かでは無い。
 もし、百里にいる誰かだったら・・・・・・・多くを語る必要は無いだろう・・・・・・・


「あ~・・・・・・・そう言えばあんまり話してなかったかもな」


 言いにくそうに、彼は自身の後頭部を指で掻きながら話し始めた。


「・・・・・・・言っただろう?俺には婚約者がいるって・・・・・・・その人の名前が麻美なんだよ」


「麻美さんですか?」


 真奈美の言葉に彼は恥ずかしそうに頷く。


「お前と結婚するんやからな・・・・・・・さぞや出来た人間なんやろうな~」


「あ、ああ・・・・・・・そうだな、俺には勿体ないくらいだよ」


「へぇ、社がそこまで自分を謙遜するとはね・・・・・・・一度その女性に会ってみたいもんだよ」


「そ、そうか?胸は無いかもしれないが、結構可愛いぞ?」


 何時もなら、なんやかんやと反論する川井と桐嶋の言葉にも、彼は嬉しそうに笑みを隠さず答える。


「その麻美さんは何処にいるんですか?」


 と・・・・・・・真奈美の質問に彼は少しだけ寂しげな表情を浮かべた。


「ちょっとね、遠い所だよ・・・・・・・ああ、ちゃんと生きてるからな?誤解するなよ?」


「す、すみません、変なこと聞いちゃって・・・・・・・あれ?葵さん?栞さん?どうしたんですか・・・・・・・ボーっとして?」


「「な、なんでも無いわよ真奈美(マナちゃん)」」


 真奈美の言葉で我に返りながら、わたわたと手を振って誤魔化す、見れば葵も焦っている・・・・・・・自覚症状が無くとも、その態度を見ていれば何を考えていたかは一目瞭然だ。


(・・・・・・・生きてるね)


 彼の寂しげな表情を思い出す・・・・・・・あれはまるで、生き別れたかもう会えない人へ向けている顔だと思う。


 わからない・・・・・・・彼は何処まで真実を語ったのだろうか?本当にその婚約者は生きているのだろうか?


 もし・・・・・・・それが嘘で・・・・・・・彼が一人でその思い出に囚われているのならば・・・・・・・


(ちゃ~んす・・・・・・・ね)


「ね、ねぇ、答えるられる範囲で・・・・・・・」


 このまま畳み掛けて、情報を洗いざらい聞き出そうと意気込んで身を乗り出そうとした瞬間。


「その話題はもういいわよ・・・・・・・人には色々あるでしょ?」


 隣から葵に手で制されてしまう。


(こ、この鈍感お嬢様!!なに良い子ぶってるのよ!!あんただって本当は知りたいくせに!!)


 声にこそ出さずに内心で彼女をコレでもかと罵るが、鈍感娘が此方の視線に含まれた内容に気づくことは決して無かった。


「話は替わるけどね・・・・・・・隆、あなた今度私に時間を貰えるかしら?」


「!?」


「ああ、別にいいけど・・・・・・・なんだ急に?」


「来週ね、帝都の技術廠の副部長が百里にいらっしゃるのよ・・・・・・・私も以前お世話になった人でね、色々と貴方の話が聞いてみたいって先方から申し出があったのよ」


 などとどうでも良い話を続ける二人を・・・・・・・脇から暗い瞳で見続けることしかできなかった。


 そう言えば、最近真奈美が私に対する態度を改めた理由・・・・・・・なんだろう?









<三澤 静流>


「ふむ・・・・・・・」


 誰も居ない詰め所で、最後に残ったBETAもどきが印刷された書類に目を通す。
 これを見せた部下の反応は皆それぞれだった・・・・・・・一人だけ例外のような意見を述べる風変わりな男もいたが。


(人為的に作られたBETAね・・・・・・・)


 内心で彼の意見を思い出し、鼻で笑ってしまう。

 照準用レーザーに反応して襲ってくる・・・・・・・そこまでは可能性の一つとして自分も推察できた、だがその必然性までは考え付かなかった。
 人類がBETAと接触し始めてから早半世紀近くが立っている・・・・・・・公な公式見解ではBETAの生態は何一つわかっていないことになっている。
 人類の天敵になりえる敵性生物の生態が何一つわからない、果たしてそんな事があるのだろうか?


「・・・・・・・」


 無言で最後に残った書類を煙草の灰皿入れへと置いて、銜えた煙草の灰をその上に落とす。
 熱を持った灰が書類の上に降り立ち、ゆっくりとその周囲を焦がしていく。

 人類が何十年にも渡って敵対し続ける異種起源生命体・・・・・・・その生態を調べるために、様々な計画が公開されずに歴史の水面下で行われて来た噂は聞いている。
 計画は形を変えて何度も行われ、多大な犠牲を払いながらもなんら成果を挙げていないと聞く・・・・・・・それは昨今のBETAへの有効な戦術を見出すことができない軍の体制を見れば容易に想像できるが・・・・・・・


(秘匿された情報・・・・・・・)


 現在・・・・・・・この帝国軍領内において、極秘にある計画が遂行されつつあるのを帝都にいた際に耳にすることがあった。高度に隠された情報であり、ソレを詳しく知るものは帝国軍内においても限られた人間しかいないようだが・・・・・・・その計画が、横浜を中心として行われているのは間違いないだろう。


「・・・・・・・夕呼か」


 横浜の魔女・・・・・・・そう揶揄される彼女のことを自分は知っている。

 非常に傲慢で我侭で、それでいて頭の回転が飛びぬけて速く、自他共に天才と認める才女・・・・・・・そして少しだけ優しすぎる女。
 昔見た彼女の顔を思い出して苦笑する、もう随分と昔のことだ・・・・・・・そう言えばまりもも、帝国軍から国連へと彼女に引き抜かれたらしいが、元気にやっているのだろうか?


「何時もどおり、まりもが苦労しているのだろうな」


 それも昔、よく見た光景だ。

 隆には話していないが・・・・・・・あの二人とは旧知の仲でもある、まぁ向こうも彼の上官が私だとは気づいていないかもしれないが。

 半分まで吸いきったタバコを書類の上で押しつぶす、さっきは焦げたぐらいで済んだ書類が、今度こそ押し付けた部分からゆっくりと燃え始める。
 形としては残っていてはマズイ書類・・・・・・・燃やしてしまうのが一番確実だろう。


 あの後、一切BETAもどきの情報は回ってこない、未だ解析が進んでいないのか・・・・・・・それとも隠蔽されているのか。


「・・・・・・・ふむ」


 思いつく可能性は幾つかあるのだが・・・・・・・確証が一切無い。

 帝国軍で秘密裏に進められている壮大な計画、それと並ぶ・・・・・・・いや、それ以上に隠蔽された帝国軍の暗部。噂の域もでないのだが、その連中が今も現存している証拠は無くとも、口にするだけで憚れる禁忌の噂。

 帝国軍の最暗部たるその話に比べれば・・・・・・・夕呼がなんらかの形で関わっている計画も、所詮は子供の児戯に等しいのではないかと思う。
 むろん、自分如き一介の尉官風情が首を突っ込んでいい話ではない、しかし以前聞いた噂が真実だとすれば・・・・・・・

「ふぅ・・・・・・・まったく厄介な部下を持ったものだ」


 そう嘆息するも、あのグラサン男の言葉とは言え、ソコに結びつきそうになっている自分がいるのであれば・・・・・・・出来る手を取ることに躊躇いは無い。


 外線に繋がった通話機を手に取り、記憶を掘り起こしながら番号を押す。


「・・・・・・・ああ、すまない・・・・・・・百里基地所属の三澤だ・・・・・・・・・・・・・・そうだ、その三澤だ」


 受話口の相手が何やら慌てている。相手はなんてことは無い、古巣の首都防衛隊施設の事務所にいるであろう若い事務官だ。


「そこから帝都に出入りしている業者に繋げるな?悪いが頼む・・・・・・・業者名は・・・・」


 若い士官は仕事を無事こなしてくれたようで、受話器からの音が保留状態になる。

 その間にポケットから煙草を取り出して口に銜える。今から話す相手は、狐や狸も小馬鹿にする鬼だ、少しぐらいは緊張を解すモノが必要だろう。



「・・・・・・・申し訳ありません、三澤静流と言いますが・・・・・・・外事購買部の鎧衣課長をお願いできるでしょうか?」



 口に銜えた煙草に火を付けつつ、交渉は始まった・・・・・・・








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