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DONの落書き部屋

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「Muv-Luv 小説」
第一部

航空祭編 第3話

  航空祭編  かれとみんなと航空祭


2001年2月5日11:25
百里基地  基地司令室


<三澤 静流>

「もはや我慢ならんのだ!!」


 薄暗い司令室の中に怒声が響き渡る。
 ブラインドで遮られた筈の窓ガラスが、そのあまりの音量にビリビリと震えている錯覚すら覚える。

 パンパンと外からは花火の音が聞こえ、多くの人たちのざわめく声がここまで聞こえてくる。

 自分も暇では無いのだが、流石に基地副司令に呼ばれたからには執務室に出頭せざるえなかった。


(はやいとこ戻って、洗い物しないとな・・・・・・・)


「国連の人間だからと言って、少々甘やかしすぎじゃないのか!?」


 目の前の男の言葉を聞き流しつつ、今も働いているであろう部下の心配をしてしまう。


 隆や橘は問題無いだろう。

 桐嶋はああ見えて天然の疑いがある、大丈夫だろうか?

 川井はきっと今頃汗だくになって働いているに違いない。

 城崎と瀬戸は・・・・・・・羞恥心のあまり死んでいるかもしれない。


 そんな微笑ましい部下の姿を想像して、思わず頬が緩みそうになる。


 自分も随分と連中に感化されたものだと自覚する。


「聞いておるのかね!!三澤大尉!!」


「はっ!」


 名前を呼ばれれば即時に反応、このあたりは条件反射になっている。


「まったく・・・・・・・部下が部下なら上官の質も知れたものだな」


 言って男は腕を組んで此方を睨みつける。
 その男、基地副司令の姿を眺めながら、良くも悪くも軍人としての姿に嘆息する。

 視線をずらせば、椅子に深く腰掛け外の様子をブラインド越しに眺めている大海司令の姿が見える。


「とにかくだ!!」


 バンっと副司令が目の前の机に拳を振り下ろす。


「もはや彼の行動を黙ってみているわけにはいかん!!事は帝国の面子にも関わってくる問題だ!!しかるべき罰則を与えねばならん!!」


 そんな副司令の言いたいことも理解できる。


 彼、とはすなわち国連横浜基地からきた、歩くグラサン国連兵こと社隆中尉のことだ。
 いや、怪しいと言う字が服着て歩いていると言ったほうが正しいだろうか?


 ・・・・・・・それはさておき、彼の起こした数々の問題が、基地上層部で問題になっていることは以前から把握していた。


 基地内での戦術機の無断使用。

 上官への侮辱罪。

 味方への誤射。

 帝国技術廠及び、光菱から委託された試作兵器の無断運用、ならびに破損させた事実。

 それ以外にも色々・・・・・・・よくもまぁ、あれで軍人をやってこれたものだと関心する。


「・・・・・・・」


 耳を澄ませば、外から拡声器を使った彼の声が聞こえてくるような錯覚を覚えるが・・・・・・あながち気のせいでは無いかもしれない。

 そもそも彼は本当に軍人としての教育を受けてきたのだろうか?
 時々、基地に出入している業者の人間と通じる部分があるような気がしてならない。


「そしてこの責任は彼一人では負いきれるものではない・・・・・・・彼と共に責任を取るものが必要だ」


 ようやく本音が出た副司令の言葉に落胆する。
 結局この男は自分が気に入らないだけで、どうにかして処分を言い渡したいだけなのだろう。

 まぁ今まで自分がして来た事を思えば、その心情も理解できる。


「・・・・・・・責任でありますか」


「うむ」


 鷹揚に頷く副司令の姿に内心で舌を出す。
 生憎と、そんな口八丁に易々と乗る自分ではない。


「では・・・・・・・失礼を承知で発言させていただきます」


「言ってみたまえ」


「社中尉に一切の責任はないかと思われます。これまでに起きたアクシデントに直面した際彼は、臨機応変にそれらの問題に対処し、最良の結果をもたらしております。そのような彼に責任を押し付けるのは、帝国軍としての沽券に関わる問題ではないかと思います」


「ほぅ・・・・・・・彼に責任は無いと?では君はその責任をどこに持っていくつもりだ?」


 副司令の瞳が我が意を得たとばかりに輝く。

 だが甘い・・・・・・・彼は社がどのような人物かを忘れている。


「この上は副司令・・・・・・・われわれ二人で処罰を受けるべきです」


「なんだと?」

 副司令の顔色が目に見えて変わる。


「国連から派遣された彼を、私の部隊に配属することを薦めたのは、副司令だったと記憶しております。国連・・・・・・・あの横浜の才女から何を期待したのか、または光菱重工から何を言われたのかは、私の知るところではありませんが、副司令の強い後押しがあったのは間違い無く、結果として彼は私の部下となりました」


 ついでに、私へのあて付けもあったんだろう?と内心で付け加える。


「ま、待て待て」


「そしてそんな彼の手綱を、副司令の意図する通り引けなかった私にも責任があります。そんな私達で責任をとるのが筋ではないでしょうか?」


 ちらっと大海司令の姿を横目で見るが、彼は相変わらず外を眺めている。


「それに彼は以前お話しした通り国連の人間です、要請した私達の一存で彼の処罰を決めては国際問題になりかねません」


「そ、それはそうだが・・・・・・・」


 うろたえ始めた副司令の様子に内心でほくそ笑みながら、止めを刺すべく続ける。


「いさぎよく責任をとれば、副司令のお子様方、衛士訓練学校への入学をひかえたお嬢様と、帝都にいらっしゃる参謀本部付き秘書官のお嬢様も『父上あなたはえらかった』と」


「み、三澤大尉」


「奥様にいたっては副司令の男らしさに惚れ直すこと間違いな・・・・・・・」


「待てというのがわからんのか!!」


 再度机を叩きながら副司令は立ち上がる。
 怒りと焦りで動揺しているその姿を、冷めた目線で眺めてしまう。


「そんなことは我々の一存では決められんよ、これはその・・・・・・・高度な政治的な問題でもあるわけだ」


「はっ」


「せめて進退伺いぐらいにしておかないと・・・・・・・」


「私は副司令と一心同体のつもりでおります」


 言って敬礼すると、副司令は悔しそうに頭を下げて身体を震わせる。


「・・・・・・・それぐらいにしておきたまえ」


 それまで沈黙を貫いてきた基地司令の言葉に姿勢を正し、彼に向き直る。


「副司令・・・・・・・君の職務に対する矜持はわかった、彼の件は私が預かるとしよう」


「はっ・・・・・・・ですが」


「後は三澤大尉と話を付ける、君は下がりたまえ」


 そう言われれば従うしかない、副司令は渋々といった様子ではあるが司令室から出て行った。
 相変わらず外からの喧騒が聞こえてくるが、室内は先程までのことが嘘のように静まり返る。


「色々苦労をかけるな・・・・・・・三沢君」


「いえ、大海司令にそう言っていただけるだけで報われます」


 言って二人で苦笑する。


「副司令も悪い男ではないのだが・・・・・・・職務に忠実しすぎるところがある」


「はっ」


「我々も三菱も・・・・・・・横浜の女傑には色々と思うところはあるので彼の気持ちもわかる。そんな厄介ごとに巻き込まれた君にとっては、いい迷惑でしかないだろうがな」


「はっ」


 大海司令はデスクに置いてあったタバコを手に取り口に銜える。
 無言で置いてあったライターを点けて、大海司令に向けると彼は礼を言ってタバコに火をつけた。
 

「君も吸うか?」


「いえ、今は結構です」


 その言葉に答えると、彼は少し残念そうに差し出した煙草の箱を机に戻す。


「思えば・・・・・・・彩峰も私の前では煙草を吸わなかったな」


「彩峰中将は、きっとお嬢様の影響があったと思われます」


 大海司令の口から出た懐かしい名前に、ふっと口元が緩むのを自覚する。


「奴の教え子との一人とこうして同じ基地にいる・・・・・・・なんとも奇妙な運命だ」


「ええ、生前の彩峰中将から聞かされていた大海司令の姿に、私は現実と理想のギャップを教えていただきました」


「はっはははは、それは私も同じ台詞を君に言いたいよ。さて、私はこれから上の連中の接待をしないとならんからな・・・・・・・老骨には荷の重い話だ」


「心中ご察し致します」


「まったく心にも無いことを・・・・・・まぁ君にとっては見たくも無い相手ばかりだろうが、時間があれば挨拶ぐらいに来るといい」


「はい、とは言え・・・・・・うちの問題児達が、その時間を与えてくれそうにありませんね」








<瀬戸 真奈美>


『はいはい~いらっしゃ~い、天然素材で作ったヤキソバだよ~無料だから皆食べてって~!!』


 でかでかとやきそばと書かれた看板を持った隆が、呼び込み宜しく拡声器で叫んでいる。


「は~い三人様ね~!ヤキソバ三人前はいりま~す!!」


 栞は、数多くのお客さんを手際よく切り盛りしている。


「お~い桐嶋~キャベツ無くなりそうだから切ってくれや~」


 火のついた鉄板の前にいるからか、この二月のくそ寒い中、川井は上半身シャツ一枚でヤキソバを調理している。


「はいよ~待っててくれ~」


 答える桐嶋も、テントの奥で包丁をふるって野菜を切り刻んでいる。


「う~・・・・・・・出費がかさむ」


 敬愛する姉も、テントの奥でそろばん片手になにやら頭を抑えて呻いている。


 皆とても忙しそうだ。


 年に一度の航空祭だけあって、基地には一般の人や非番の隊員達でごった返している。

 こんな時代にお祭り騒ぎをやってなんの意味があるのかと非難する人たちもいるが・・・・・・・こんな時代だからこそこういったお祭りが必要なのだと思う。
 BETAの恐怖に脅え、今日食べるものや、寝る場所も無い人が帝国にはたくさんいる。ほんのひと時だが、自分も難民キャンプにいた経験があるので、身を持ってその悲惨さを感じとることが出来る。
 あそこにいた人たちは皆、生気の無い顔色をしていた・・・・・・何時死ぬかも分からない恐怖と、空腹と寒さに震え・・・・・・死を待つだけだった人々。

 だが、この目の前の人たちはどうだろう?
 皆の顔は笑顔に満ち溢れている、確かに無料で配給される食糧の恩恵もあるのだろうが、間近で展示されている戦術機の姿を見上げる彼らの顔は、希望に彩られているように感じる。


 きっと必要なのだ・・・・・・人々に希望を感じさせるためにも、こういったお祭り騒ぎをすることは。


 ソレはさておき、今自分が何をしているかと言うと・・・・・・・


「真奈美、ほらもっと声だして!」


 隆がそう叫ぶが、自分も一応精一杯やっているつもりだが・・・・なんというか恥ずかしい。


「軍人さん」


「は、はい!?」


 初老の女性に声を掛けられ、素っ頓狂な声を上げてしまう。
 女性はそんな自分の様子が面白かったのか、ころころと笑っている。


「こんなご時勢なのに、私どもみたいな者に食事を振舞っていただきありがとうございます」


「あ、いえ、そんな・・・・・・・」


 深々と頭を下げられ恐縮してしまう。


「子供達も楽しみにしておりましてね・・・・・・・毎年、開催されるこのお祭りはほんに楽しみなんですよ」


「そ、そうですか・・・・・・・人も多いですから気をつけて楽しんでくださいね」


 こういったお礼を言われたのは最早何度目だろうか?

 テントに詰め掛けた多くの人たちが、一様にそんなお礼を言いながら頭を下げてくれる。


「ええ、ありがとうございます。軍人さんもそのお格好では寒いでしょうが頑張ってください」


「あ、あはははっはは」


 此方にそう声を掛けて去っていく女性に、笑って答えることしか出来ない。


 軍に所属していない人たちから見れば、その言葉はもっともだと言える。

 傍目にみれば、衛士強化服はとても防寒に優れた見た目には見えないだろう。実際は対刃、対弾、対毒、耐寒などなんでもこなす万能スーツなのだが・・・・・・・知らない人が見ればただの全身タイツと同じだ。
 それの上に白と赤のはっぴを羽織っただけの姿は、さぞや二月の寒空の下では寒そうに見えるかもしれない。

 むろん自分も正規兵だ、強化服での羞恥心等とうに払拭していると自負していたが・・・・・・・


(こんな状況で着るとは思わなかった・・・・・・・)


 目の前には人人人、多くの一般人が所狭しとならんでいる。そんな彼らが此方に向ける視線は様々だ・・・・・・・好奇心や哀れみ、同情、憐憫・・・・・・・そんな目で見られてるかと思うと恥ずかしくて仕方が無い。


『はいはい!!まだまだいっぱいあるから押さないでね!!』


 拡声器で叫ぶ彼の姿が恨めしい。


 彼を含め男性三人は、訓練用の服に身を包んでいる。
 強化服を着ているのは女性陣の三人だけ、三澤は司令室に呼ばれて行ったのでココにはいない。
 何故私達だけが見世物にならねばならなかったのか?


 原因はわかっている、このグラサン男のせいだ。


『女の子が客寄せパンダやらんでどうする?』


 女性団体が聞けば発狂する一言を、彼は事も無げに準備期間中に言ったのだ。

 しかも彼の理想では・・・・・・・メイド服?やらキャンギャル?をご希望だったらしいが、衣装の調達が出来ないとのことで葵に却下され、それでも食い下がった彼の意見でこの強化服で接客することになったのだ。
 彼の言った服がどういったものかは分からないが、きっとろくでもないことになったのは予想できる。


 しかし、こんな格好で基地内で一般人相手に接客・・・・・・・今頃上層部はカンカンだろう。司令室に言った三澤の安否が気になるが、今は目の前のお客さんだろう。


 「は、はい!!二人前ですね!少々お待ち下さい!!・・・・・・・ヤキソバ二つお願いします!!」


 オーダーを受けて川井へと伝える。


「あいよ~ただいま~!!」


「は~い、ヤキソバお待たせしました~!!」


 元気の良く栞が、お客さんに袋を渡す。


「落とさないようにね~気をつけてもっていくんだよ~!」


 袋を受け取った子供へ、満面の笑みで声を掛ける姿に・・・・・・・正直脱帽してしまう。

 彼女は、この格好になんら恥らいという言葉を知らぬかのように振舞っている。それに比べて自分は・・・・・・・まったく情けない。

 彼女が以前、未遂ではあるが暴行を受けた事実は聞いている。最初は何かと気遣うべきかと悩んだが、直ぐに彼女は何時もの調子を取り戻し、今も満面の笑顔を見せながら楽しそうに振舞っている。

 きっと彼の影響が大きいのだろう・・・・・・自分も、彼の傍にいると何故だか安心できる。
 見た目はとっても怪しい人物なのだが、不思議な事もあるものだ。


「ねぇ真奈美、パックが無くなりそうだから追加の分持ってきて~」


「は、はい」


 栞に言われ、テントの奥へと急いで向かう。


「む~」


 唸っている葵の姿を横目に、奥から予備のパックを引っ張り出す。

 考えれば彼女もこの姿に恥ずかしがっていない、隆が提案した時は憤怒の形相だったのだが?


「あ~」


 ぱちぱちとソロバンを弾く姿に・・・・・・・きっとそれ所じゃないんだなと直感する。


 このご時勢、天然素材がどれほど高価なモノかは考えなくても分かる。祭りのためとはいえ、無料で来場客にくばっているのだ・・・・・・・それに見合うだけの見返りがあるとは決して思えない。
 予算は部隊の運営資金と光菱からの援助・・・・・・・だけで足りるはずも無く、彼女自身の資産もかなり食い尽くしている筈だ・・・・・・・伊達や酔狂でできることでもなく、企業としてもなんの利益も無い奉仕作業に近いことを彼女はしぶしぶながらやっている。

 これは以前なら見ることの無かった姿だが、必死そうな姉は・・・・・・・何処か楽しそうにも見える。


「もう駄目!考えてもしょがないわ!!」


 ソロバンを投げ捨てて、葵はそう叫んで立ち上がる。突然の行動に思わずびくついてしまうが、そんな此方を気にせず彼女は、手じかにあったはっぴを強化装備の上から着込み、前線へと赴く。


「はいは~い皆さん!!このヤキソバは光菱の提供でお配りしてますので、そこんとこ宜しくね~!!」


 もうどうでもよくなったのだろう・・・・・・・叫ぶ台詞から読み取れる。


 自分も仕事を思い出して、川井の作ったヤキソバをタッパーに一つ一つ入れる。


 本当に忙しい、基地の暇な隊員達も時間を見て手伝ってくれているが、来場客と店員のバランスがまったく取れていない。


「だぁ~まいったわ!まさか、こんなにお客さんがくるなんて・・・・・・・」


 栞が呻きながらヤキソバの入った袋を受け取る。


「そやな~社が言うほどお客なんてきへんと思ったのに・・・・・・・案外客入りが良いんやな~」


 言いながら鉄板の上でヤキソバを炒める川井の姿は、中々サマになっている。


「まぁみんな無料だからな・・・・・・・当然といえば当然だな」


 鉄板の上に切り刻んだ野菜をばら撒きながら桐嶋も言う。


「ほんと・・・・・・・この赤字、あの人はどうしてくれるのかしら」


 葵がそうぼやきながらも、ヤキソバが入った袋をお客さんに配っている。

 っと、そこで全員がふと気づく。


「あれ?隆は何処にいったの?」


「んあ?あいつならさっきまでそこで叫んでたで」


「え、私がここに来たときからいないわよ?」


「裏にも来てないぞ~」


「「「「「???」」」」」


 突然いなくなった彼の消息を誰も知らない、このくそ忙しい中彼は何処に行ってしまったのか?


「わ、私、ちょっと探してきます!!」


「マナちゃ~ん、直ぐに見つからなかったらほおって置いていいからね~」


「見つけたらとりあえず一発なぐっといてや~」


 そんな二人の言葉を背にテントから飛び出した。








「・・・・・・・三澤大尉のはあるのか?」


「ありまっせ~!大尉のは特にレア物ですからね~!いや~お客さんお目が高い!!」


 探すまでもなく、彼の姿は直ぐに見つけることができた。

 テントの裏側、なにやら人だかりの中に彼の姿がある。


(何してるのかな?)


 見れば集まっているのは基地の隊員ばかりだ、一般のお客の姿は数えるほどしかいない。


「お、おれは城崎中尉の!!」


「はいはい、お嬢様セットね・・・・・・・はい毎度!!」


「橘少尉!!」


「か~あの子のは色々あってね・・・・・・・あんま露出の少ない奴しかないけど勘弁してくれ」


 会話の中身がよく分からない。
 何人かの隊員が、此方の姿を見つけると慌ててその場から去っていく。


(??)


 その不可思議な行動にも首を傾げてしまう。良く見れば、彼が仮設テーブルの上に広げた写真のようなものに、何人もの人が群がっている。


「ま、まなみちゃんの二つ!!」


「ほほ~う・・・・・・・お客さんそういうご趣味をお持ちでしたか・・・・・・・いや何もいいません、人それぞれですからね~」


「桐嶋中尉の!!」


「はいはいお嬢様・・・・・・・うち一番のイケメンもむろん取り揃えております」


「洋平さんのは!?」


「はっははは、肉体美がお好きですかお嬢様?大丈夫、彼のは一番露出が多いのを取り揃えておりますよ」


 なにやら女性隊員までもが奇声を上げて群がっている。


「女性隊員のセットで買うからおまけしてくれよ~」


「おお、いいねお客さん!!その覚悟が気に入った!!奮発して二割引!!・・・・・・・なにもっと?駄目駄目!!原価で7割かかってるの!!おいちゃんにも一割ぐらい利益頂戴よ!!」


「・・・・・・・隆さん、なにしてるんですか?」


「!!!!!」×∞


 私の一言に全員の動きが硬直し、まるで危険な肉食獣から逃げるように一目散に散っていく。その逃げ出す隊員達を尻目に、彼の前に仁王立ちして冷ややかな視線で見下ろす。


「や、やぁ、マナリン」


「人を勝手に変な愛称で呼ばないで下さい」


 ぎろっと彼を一睨みし、彼の手元を覗き込む。


 会話の途中からだいたいの内容は把握してたが、それは予想通りの代物だった。

 同僚の隊員達の姿を映したプロマイドが所狭しとならんでいる。普段の姿や訓練中の風景、果ては強化装備姿のものなど・・・・・・・一体彼は何時の間にこんな写真を撮っていたのだろうか?呆れるを通り越して、むしろ関心してしまう。


 栞の種類が少ないのは、彼なりの配慮なのかもしれない。


「・・・・・・・売り上げは好調ですか?」


「え、ええお蔭様で」


 皮肉に彼は愛想笑いを浮かべながら答えてくる。


「・・・・・・・誰のが一番売れてるのかな?」


「お、お勧めは女性隊員のセットなんですがね・・・・・・・一番人気はなんと三澤大尉のやつなんですよお客さん」


 少しでも此方の機嫌を損ねないためにか、彼は両手でゴマをすって続ける。


「ふ~ん」


「せ、瀬戸少尉のも一部で人気がありましてね、ええっと二番目に売れておりますハイ」


 ソレが事実かどうかは別として、プロマイドの眺めてふと気づくことがある。


「隆さんのは無いんですか?」


 その質問に彼は、は?っと顔を上げる。


「え、ええ、あっしはしがない写真家でして・・・・・・・流石に写真家の姿を撮ったのは誰も欲しがらないと思いましてね。ああ、でもお客さんみたいに、あっしのも欲しいって酔狂なお嬢さんも多いんですよ、いや~お客さんのニーズに応えられないことを悔やんでますわ~」


 やけに饒舌になった彼の姿に、さらに冷めた視線を送る。
 この愚か者に、そろそろ死刑宣告をするものいいかもしれない。


「それで・・・・・・・言い残す言葉はありますか?」


「い、いや待て!!真奈美!!これにはな深い事情があってだな」


「へぇ、なんでしょう?」


「こ、この売り上げでな、なんとかヤキソバにかかった経費を葵に渡してやりたいわけだ」


「ほぅ」


 彼も彼で考えていることに関心する。やりかたは・・・・・・・まったく関心できないが。


「だからな・・・・・・・皆の姿をこんな見世物のようにするのは非常に心苦しいのだが、背に腹はかえられない!!断腸の思いで売っているわけだ!!」


「・・・・・・言い残すことはそれだけですか?」


「ま、まて真奈美!!話せばわかる!!わかってくれ!!むしろ好きなのいくらでもやる!!」


 往生際の悪い彼に、天誅の拳骨をくれようと拳を振り上げた瞬間。


「ほう、綺麗に写っているじゃないか?」


「た、大尉!?」


 突然現れた三澤が、自分が写ったプロマイドを手にとってなにやら関心している。


「お、お疲れ様です!・・・・・・・司令室は如何でしたか?」


「ん?小言をたっぷりと言われてきたよ、このグラサン男のせいでな」


「ぬ、ぬぅ」


 全ての元凶は責任を感じて小さく縮こまる。


「まぁ言われるのは慣れている。気にするな・・・・・・・ところでここにあるので全部か?」


「は、はい、部隊の皆様でございます」


「ふむ・・・・・・・隆のはないんだな?」


「!?」


 自分と同じ台詞を言った上官を凝視してしまうが、彼女はそんな視線を気にも留めなかった。


「み、三澤大尉、ここは彼に粛清を与えるべきでは?」


「そうか?自分の人気度が分かる良い機会だと思うんだが?」


 この上司はなんてことを言うのだろう、その心境が理解できない。
 上官の援護を得られそうにないので、自分一人で彼に制裁を与えようと心に決める。


『来場の皆様にお知らせいたします。1400時から戦術機のアクロバット飛行を開始いたします、ご覧になりたい方は第一演習場までお越しください。繰り返しお伝えいたします、来場の・・・・・・・』


 その放送が流れた瞬間、それまで項垂れていた彼が急に立ち上がり、近くに居た整備員を捕まえなにやら話し出す。


 戦術機のアクロバット飛行、航空祭のメインイベントだ。
 自分も見に行きたい所だが・・・・・・・遠目ではあるがテントからもその光景は見ることができる、お客さんがごった返している中、わざわざ演習場まで見に行くこともないだろう。


「じゃ!二人とも、自分はちょっと格納庫に行ってきますので!」


 どうやら捕まえた整備員がこの写真売りを続けるらしい・・・・・・・その姿が不満そうに見えないのが、はなはだ遺憾なことであるが。


「そんな!?皆忙しいんですよ!?」


「松土少佐にエールを送ったら直ぐに戻ってくるよ!!三澤大尉も店番宜しくお願いしますね~!」

 
 そう言いながら彼ははっぴを三澤に渡して走り去っていってしまった。


「・・・・・・・」×2


 残された二人、暫し呆然としてしまう。


「・・・・・・・ふむ」


「??」


「残念だったな、真奈美」


「な、何がですか大尉!?」


「いや・・・・・・お前が欲しがってるかと思って聞いてみたんだが・・・・・・何気にするな、その内手に入れてやる。流石に裸とかは言うなよ?そうなると私も脱がなくてはならないからな、まぁどうしてもと言うなら別にかまわんがな」


 盛大な勘違いをしている上官の姿に、思わず頭を抱える事しかできなかった。



<社 隆>

 第一格納庫に入り黒い塗装を施された戦術機の群れの中を走り抜ける。
 何人もの基地の隊員達に話しかけられるが、当たり障りのない事を言って切り抜ける。皆、色々と急がしそうだがとても嬉しそうに見える、日本人には祭りごとが必要だと内心で確信する。

 出来れば霞や、横浜の面々にも来て欲しかったが、全員忙しいようで断られてしまった。国連の人間が、帝国の基地に来る負い目でもあるのかと最初思ったが、どうやら本当に忙しい様子だった・・・・・・


『無理、却下・・・・・・忙しいのよ私は』←夕呼

『兄さん、行けません・・・・・・ごめんなさい』←霞

『あ~行きたいけど無理ね~・・・・・・お土産宜しく』←水月

『楽しそうだね~行こうかな~・・・・・・え?水月なに?・・・・・・・・・・・・隆さん、ごめんなさい』←遙

『隆さん、お誘いはありがたいけど・・・・・・来期の訓練兵の調整が始まってて行けそうにないわ』←まりも


 見事にフラれてしまった・・・・・・できれば霞だけはなんとか連れ出したかったが、夕呼が怖かったので止めておいた。


 異彩を放つ青と白に塗装された機体の傍まで近寄ると、お目当ての人物を発見することが出来た。


(いつみても派手な塗装だよな・・・・・・・)


 雪風を見ながら目当ての人物に近づく、見れば誰かと話しているようだった。


 帝国軍の服を着ているが・・・・・・・見たことの無い人物だ。
 航空祭だけあって基地には一般の人たちにの他に、軍関係者を含み様々な人間が今日は訪れている。話している男も、そう言った来場者の一人なのかもしれない。

 眼鏡を掛け、自分よりも少しぐらい年齢が上の男だろうか?姿勢を正し、いかにも堅物と言った雰囲気をかもし出している・・・・・・・すくなくとも自分が苦手なタイプだ。


 邪魔するのも悪いのでどうしたものかと悩んでいると・・・・・・・


「社中尉どうしたの~こんなところで?」


 声を掛けられ振り返ると、そこには松土以外のドルフィンメンバーの面々がいた。


「ああ、杉原大尉お疲れ様です」


 自分よりも歳若い上官に敬礼する。
 彼女も返礼を返してくれるが、どうにも元気が無いように思える。

 杉原瞳(すぎはらひとみ)大尉、歳は確か22、3と聞いた記憶がある。横浜の伊隅大尉と同じく、歳若い身でその階級を持っている事から、彼女が優秀なのだと思い知らされる。
 松土少佐が率いるインパルスの副官、雪風の二番機を駆りドルフィン2の呼称を持つ百里のエースの一人である。


「ええ~これからが本番なの~緊張して大変なの~」


 そんなエースなのだが・・・・・・その姿を見て、彼女が凄腕衛士だと気づく人間が何人いるだろうか?
 間延びした口調、たれ目の瞳、スレンダーながらも夕呼やまりもをも上回るそのボディ!!遙とは違った意味で天然と癒しを含んだ雰囲気に毒気を抜かれること間違いなし!


 噂では・・・・・・・松土少佐の恋人らしいが、本人達に確認はしていない。


「期待してますよ、皆さんのアクロバットを見るために大勢の人が来てるんですから」


「そうね~エースはエースらしく派手に見せないとね~」


 そう言うと彼女は、少し影ある笑顔を浮かべる。

 普段から優しげな表情を見せる彼女だったが、こんな顔は見たことが無い。よっぽど緊張しているのかと邪推してしまう。
 多くの一般客と軍関係者がこのお祭り、いや彼女達の戦術機の飛行を見に来ている、それがどれほどのプレッシャーになるのかを共感することは出来ないが、少なくとも応援することならできる。


「うちで配ってるヤキソバを貰いにきた人も言ってましたよ、このアクロバットを見るのが毎年楽しみだって!」


「そうね~そう言って喜んでくれる人がいるから頑張れるのね~」


「そうですよ、終わったらうちのヤキソバ食べに来てくださいね、大盛りにしときますから」


「ありがと~じゃ後で行くね~」


 そう言って乗機へ向かう彼女の姿を見送る。一緒にいた三人の隊員からは、どこで聞いたから知らないが、うちの部隊の連中のプロマイドを残しておいてくれと釘を刺されてしまった。






「いよぅ、どうした社?」


 どうやら来客との会話が終わったのか、松土が此方に気づき声を掛けてくれる。
 相変わらず眠そうな風貌に、先程見た杉原のような緊張感は見られない。


「あれ?さっき話してた人はもういいんですか?」


「ああ・・・・・・・昔の知り合いでな、上官の付き添いで来たらしいんだが、わざわざ挨拶にきやがった・・・・・・・まったく生真面目な奴だ」


「へぇ~松土少佐とは正反対ですね」


「言ってろグラサン・・・・・・・んで、お前もわざわざ激励に来たとでも言うのか?」


 シュポっと煙草を加えて火をつける、ここは格納庫で火気厳禁のはずなのだが・・・・・・・


「ええ、いつもお世話になっている他部隊の隊長が、慣れないことで緊張してないかと思いまして」


「はっ、こちとらもうこれで3回目だ・・・・・・・それに何時もの練習のおさらい、慣れたもんだよ」


 言いながら雪風を見上げる。


「コイツもな、こんな時ぐらいしか全開で飛ばせないし・・・・・・・たまには思いっきり空を飛ばせてやらないとな」


「そう言って~松土少佐が飛びたいだけでしょうに」


 まぁなっと、彼は答えて紫煙を吐き出す。


「その様子じゃ・・・・・・・杉原大尉みたいに緊張してるわけじゃないようですね」


「んぁ?杉原が緊張してたのか?」


「ええ、さっき少し話しましたけど・・・・・・・けっこうガチガチでしたよ?」


「そうか・・・・・・・」


 すぅっと彼が雪風を見上げる目が細くなる、部下の心配でもしているのだろうか?


(さて・・・・・・・そろそろお邪魔だろうからお暇するかな・・・・・・・)


「なぁ、社」


「なんでしょう?」


 挨拶を済ませて立ち去ろうかと思いきや、急に松土に声を掛けられる。
 相変わらず此方を見てはいないが、銜えた煙草を所在無さ下に右手で弄んでいる。


「お前が国連から来た理由は?」


「・・・・・・・へ?」


 突然の質問に頭が追いつかない。


「それはまぁ・・・・・・・帝国軍から国連に派遣要請があったからです」


「そうだな、建前はそうだが実際はどうだ?」


(実際?・・・・・・・う~ん)


 内心で呻きながら考え込む。
 何故かと聞かれれば、夕呼の気まぐれでは無いかと応えたくなる。この世界に来てから自分の進退を決めたのは他でも無い彼女だし、なにやら色々考えてるのかも知れないが・・・・・・・自分の考えが及ぶ内容とは思えない。


「・・・・・・・はて?それ以外思いつかないですが」


「くっくくくく、お前は案外自分の事については鈍いんだな?」


 鈍い、といわれて少なからずショックを受けてしまう。生れてこのかた・・・・・・・なるだけ周りの空気を読むようにして生きてきた自分にとっては十分過ぎる死活問題だ。


「鈍いですか、自分が?」


「ああ、少し考えればわかりそうな事だがな・・・・・・・お前さんが来てからな、基地での国連に対する評価が少し変わったんだよ」


「おお、そりゃ良い事ですね」


「ああ、グラサン掛けた変な男が部隊の綺麗どころ捕まえてはしゃいでる姿見れば・・・・・・・誰でも国連が変わり者の集団にしか思わなくなる」


(そいつは・・・・・・・褒め言葉なのか?)


「はぁ・・・・・・・」


「しかも話しに聞けば・・・・・・・この祭りで女性陣の写真売りさばいてるんだろ?普通やらんぞそんなこと」


「・・・・・・・少佐は誰のが欲しいですか?」


 その返しに、松土は少し考え込んでから被りを振る。
 予想では三澤辺りだろう・・・・・・後で届けるとしよう。


「だからな、お前は随分と国連のイメージアップをしたわけだ」


「そうですかね~?あんまり実感はありませんけど・・・・・・・」


 確かに配属されたときに比べれば、格段に過ごしやすくなったが、松土まで自分がこの祭りに乗じてやっている事を知っているとなれば・・・・・・・後がとても怖い。

 いい加減、基地上層部が痺れを切らして制裁を加えてくるかもしれない。


「・・・・・・・俺たちもな、そんなお前と似たようなもんなんだよ」


「インパルスがですか?」


 ああっと答え彼は煙草を握りつぶす。


「・・・・・・・鳥かごの鳥はな・・・・・・・鑑賞されることで評価される。餌に不自由しないぶん、本当の意味では飛べないんだよ」


 ポツリと漏らすその言葉の意味、理解できないわけじゃないが・・・・・・・そうは思いたくない。


「空はな・・・・・・思ったよりも狭いんだ」


「松土少佐・・・・・・」


 感慨深く呟いた後、松土は苦笑を浮かべて此方に背を向けた。


「さて、それじゃ俺たちの技量を皆様方に披露するか」


「・・・・・・ええ、楽しみにしてますよ」








 乗機に乗り込んでいく松戸の姿を見送り、格納庫を後に歩き出す。


『鳥かごの鳥』


 彼の言った言葉が引っかかる。
 彼らは百里が帝国軍が誇るエース部隊の一つだ、それを率いる彼が漏らしたその言葉の意味。


(・・・・・・・広告塔か)


 もしくはプロパガンダか。


 豊富な資金を投じて維持された改良機を駆るエース達。

 航空祭と称して集まる人たちの心に残る彼らの姿。

 疲弊した国でここまでのお祭り騒ぎを行う理由。


 なに、考えれば簡単なことだった。


「・・・・・・・これが政治か」


 途端、全てが色あせて見える。青と白に彩られた雪風が、基地内でのお祭り騒ぎが、全てが虚構、事実から目を遠ざけるための演劇にしか見えなくなる。

 その必要性、必然性、得られる効果・・・・・・全てを理解することが出来るからこそ、それに乗じて馬鹿騒ぎをしている自分の行いが、どうしようもない程に愚かに思える。


「君、ちょっといいかな?」


「・・・・・・・はっ!失礼しました大尉殿!!」


 物思いに耽っていたせいか、目の前の現れた見慣れない上官への対応に一瞬遅れてしまう。

 先程松土と話していた眼鏡を掛けた男が、何時の間にか目の前に立っていた。


「そんなに畏まらないで良い、私はこの基地の人間では無いのでね」


「はっ!」


 目の前の男は少し困ったように苦笑する。


「見ていたのだが・・・・・・・君は松土少佐の知り合いかな?」


「はい、第12機甲小隊所属、社隆中尉であります!」


「第12・・・・・・・そうか、三澤大尉の部隊か」


 彼は彼女の事を知っているのだろうか?しきりに一人で頷いている。


「ああ・・・・・・・申し遅れたね、帝都守備第1戦術機甲連隊所属の沙霧尚哉だ」


 彼、沙霧の言葉を聞いて先程の彼の反応に合点が行く、以前聞いた話では静流は帝都の守備部隊にいると聞いていた。その時の同僚か何かだろう。


(まさか・・・・・・・北海道で聞いた思い人か!?)


「三澤大尉とは部隊は一緒ではなかったのだが、以前から交友があってね」


 邪推し彼の態度を逐一観察するが・・・・・・・静流がいなければ話にならない事に気づき止める。


「そうですか、私も三澤大尉のような上官に恵まれ幸せであります」


 と心にも無いこと言ってしまう。
 だが、そんな言葉が彼は気に入ったのかしきりに頷いている。昔の彼女の姿を知らないが・・・・・・・今部隊の連中と一緒になって、強化服の上にはっぴ着てヤキソバを配っている静流を見たら彼はどう思うのだろうか?


 何故か無性に・・・・・・・試したくなる。


「三澤大尉なら・・・・・・・」


 彼の反応が見たくて提案しようとした所、格納庫の出入り口付近から喧騒が聞こえ注意がそちらに向かってしまう。

 見れば、何人かの整備員が一人の白い女の子を取り囲んでいる。


(・・・・・・・マユちゃん?)


 あれだけ特徴のある子だ、見間違える訳が無い。

 千歳で偶然知り会った白い髪の少女が、何故かそこに居た。


「おい、何をしている!!」


 以前の橘の姿が脳裏に走り、そう叫びながら彼らの所へ走って近寄る。


「ああ社中尉、実はこの子が・・・・・・・」


「お兄ちゃん!!」


 困り果てた様子の整備員の囲いをすり抜け、少女は自分の腰にまとわり付いてくる。


「ん?お、おお久しぶりだなマユちゃん。」


 どうやら自分の考えは杞憂だったようだ・・・・・・・考えれば今は昼間だし、アレ以来整備員を含め基地内の風紀は著しく厳しくなっている、早とちりもいいとこだろう。

 ちなみに、自分がプロマイドを売っていた事実は棚に上げておく。


「中尉のお知りあいですか?」


「あ、ああ、そんな所だ」


 その返答に整備員達はホッとしたように肩を落とす。


「助かりました・・・・・・・来場した一般客のお子さんでしょうけどね、ここから先は入ってはいけないと注意しても聞かなくて困ってたんですよ。」


「そうか・・・・・・・悪かったな。この子は俺が責任を持って保護者まで連れて行くよ」


「すみませんが・・・・・・・宜しくお願いします」


 去っていく整備員達を尻目に、先程から腰に抱きついている少女に向き直る。


「マユちゃん、どうしてこんな所にいるんだ?」


「お兄ちゃんがいるから!!」


 フムフム、中々嬉しいことを言ってくれる。


「その娘は・・・・・・・石井少佐の娘さんじゃないのか?」


 会話の途中で放り出してしまった沙霧大尉が、そう言いながら近寄って来る。


「沙霧大尉もご存知でしたか」


「ああ、今日は私の上官と共に石井少佐も一緒に来られたのでな」


 なるほど、と内心で納得する。


「マユちゃ~ん駄目だろ?お父さんと一緒にいないと?」


「お兄ちゃんがいるから来たの!」


「お兄ちゃん?・・・・・・・失礼だが社中尉は彼女の・・・・・・・」


「ああ、違います兄妹とかじゃありません・・・・・・・なんて言うか・・・・・・・懐かれてしまって」


 沙霧に誤解されそうなので慌てて訂正する。

 だがしかし・・・・・・・この状況はまずい、まずすぎる。


「お兄ちゃんあそぼ~!」


 言ってこちらにへばりつくマユ。

 その姿に困惑している沙霧大尉。

 そこかしこで此方の様子を伺っている基地の隊員達。


 噂のグラサン男と、人目に付きすぎる白い少女、そして他基地の士官、どうみても注目度ばっちりだ。今夜のPXはこの話題で持ちきりになるかもしれない。


(グラサン男、幼女を上官と取り合う・・・・・・・とかか?)


 それが同じ部隊の連中の耳に入るものなら・・・・・・・急いで此処から逃げたほうがいい。


「さ、沙霧大尉、石井少佐がどちらにいるかご存知ですか?」


「あ、ああ、今頃基地の中央管制室にいると思うが・・・・・・・」


「じゃあ行きましょう!さっさと行きましょう!沙霧大尉も是非!!」


 と、そんな此方の有無を言わさぬ迫力に押されたのか、彼は黙って首を縦に振るしか無かった。





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