DONの落書き部屋

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「Muv-Luv 小説」
第一部

航空祭編 第4話

  航空祭編  かれが感じた疎外感


2001年2月10日13:35
百里基地  廊下


<社 隆>


「お兄ちゃん抱っこして~!」


 困った、非常に困った状況だコレは。
 なんとか人目の付かない場所にマユと沙霧大尉を連れ出せたのはいいが・・・・・・・非常に気まずい。


「・・・・・・・」


 沙霧は無言で付いてきているが、眼鏡の奥の瞳はかなり困惑気味で、額にうっすらと汗を掻いている。
 帝都守備部隊と言えばエリートの集まりだと橘に聞いた記憶があるが、流石にこの状況を打破する明確な術など持ち合わせていないのだろう。


「こ、ここじゃちょっと無理だなマナちゃん」


「え~なんで~?マユ足疲れた~」


 明らかに普通じゃない少女に振り回されるグラサン男・・・・・・・正直、こんな二人に関わってしまった沙霧が不憫で仕方が無い。


「ず、随分と懐かれているのだな社中尉は」


 だがやはり彼も大人だ、こんな状況でも此方に気を使った台詞を言ってくる。


「ええ・・・・・・・ですが、懐かれた理由は自分にも分かりませんが」


 そんな曖昧な返答しか返せない。事実、この白い少女が自分に懐く理由が全く分からない。


「抱っこ~抱っこして~」


(子供は嫌いだ!!ずうずうしいから!!)


 何処かの赤い人に夢中になった幼な新人類の言葉を思い浮かべながら、仕方なく少女の頼みを聞いて抱え上げる。

 肩車でもしようかと思ったが流石に恥ずい、お姫様抱っこで十分だ。


「わ~いわ~い♪」


「・・・・・・・」


 喜ぶマユとは対象的に、沙霧はこめかみに手を当てている。
 中央管制室まで後僅か、基地要員も殆ど外に出払っているのですれ違う人も少なく、この恥ずかしさもあと少しの辛抱だ。


「お兄ちゃん、お姉ちゃんに会った?」


「いんや、まだだよ」


 以前千歳で聞いた台詞、相変わらずこの少女は自分と誰かを混同しているようだ。


「駄目!早く合わないと駄目!今日一緒に来てるんだよ~」


「ん~機会があればな~」


 脹れっ面で抗議の声を上げる少女に苦笑しながら応える。


「ぶ~!!」


 随分と・・・・・・不思議な少女だ。

 横浜に残してきた霞と同い年ぐらいなのに、その余りのも違いに少々面食らってしまう。
 霞もこの位表情豊かで、我が侭だったら良かったのにと思う。

 霞には年齢にあった幼さが無い。むろん可愛らしい部分は多々あるのだが、その内面を表に表す事が少ない。霞の持つ能力を考えれば、ソレは仕方の無いことなのかもしれないが・・・・・・・


「♪」


 マユを見る。先程の脹れっ面は何処にいったのか、今は笑顔で此方の首に纏わり付いている。
 その微笑ましい姿に笑いそうになりながらも、何処か年齢にそぐわない幼い行動を取るこの少女にも、一抹の寂しさを感じる。

 マユも霞とベクトルは違えど、色々な過去を持っているのだろう。


 廊下を曲がり、管制室の扉が見える距離になってふと気づくことがある。


(俺って・・・・・・・管制室に入る権限なんてあるのか?)


「おや、隆君じゃありませんか?」


 最もな疑問にぶち当たった瞬間、お探しの人間を見つけてホッとする。


「石井少佐、ご無沙汰しております」


 離れるのを嫌がるマユを降ろしてから、敬礼しつつ挨拶。ご無沙汰と言っていいのか迷ったが・・・・・・・この台詞ぐらいしか思い付かなかった。


「ええ此方こそ、北海道では大変でしたね?」


 相変わらず、絵に描いたようなサラリーマン風の彼はにこやかな笑顔で言ってくる。


「いえ・・・・・・・任務ですので」


 此方も笑顔で差し当たりの無い返答を返す。目の前の技術少佐ならば、稚内で接敵したBETAもどきを知っているかもしれないが、後ろにいる沙霧が知っているとは限らない。

 緘口令も引かれている以上、余計な事は言わないほうがいいだろう。


「なるほど・・・・・・ヤレヤレ、またうちのお姫様が迷惑かけたようだね?」


「そんなことありませんよ。ほらマユお父さんだよ?」


 降ろした後も此方の腰にしがみついたままの少女にそう促すが、マユは離れる素振りを見せない。
 小さい女の子を無下にするわけにもいかず、この状況に再び困り始めてしまうと。


「フム、いいでしょう。よかったら皆でインパルスの勇姿を拝むとしますか」


「石井少佐?」


 沙霧の疑問の言葉も聞かず、彼は管制室に一人で入っていく。


「「・・・・・・・」」


 申し合わせた訳でもないのに、沙霧と二人で首を傾げてしまう。
 少しそのまま呆然としていると、再度管制室の扉が開き石井がにこやかな顔で此方に手招きしてくる。


「許可は取りました、管制室の中からアクロバット飛行を見ようじゃありませんか?」


「は、はぁ・・・・・・・」


 どうやら彼は随分とマイペースな性格のようだ。この基地所属の自分はともかく、彼の娘や、他基地の尉官を基地でも重要ブロックである管制室に入れていいのだろうか?


 そもそも・・・・・・・何故彼はそんな許可を簡単に貰えたのだ?


「しかし石井少佐・・・・・・・私は」


「沙霧君構わないでしょう、君の上官も中にいらっしゃいますから。さ、入りなさい」


 そう促され、沙霧とマユ、三人で管制室の中に入るしかなかった。








<橘 栞>


 見てしまった・・・・・・・


 見たくはなかったが見てしまった・・・・・・・


(あのロリコン・・・・・・・)


 ぎりっと、自分で奥歯をかみ締める音が脳裏に響く。


 あのグラサンが突如行方をくらまし、それを探しに行った真奈美も戻らない状況に、仕方なく自分が捜索任務に付いたのだが・・・・・・・真奈美はあっさり見つかった、静流と二人でテントの裏で何やら怪しげな人だかりの中にいたのだ。

 何をしてるのかと思い近づこうとしたが、先に彼女らに見つかっていたらしく、慌てた様子で私をその場から遠ざけるように引っ張られた。多少気にはなったが、今は彼を探すのほうが先決と思い基地内を真奈美と二人で彼の姿を探し回ったのだが・・・・・・・

 格納庫で得られた目撃情報、他基地の上官と素性怪しい幼女と一緒にいたらしい彼・・・・・・・流石歩くグラサン、此方の予想の斜め上を行ってくれる。


 そして、まさか・・・・・・・あそこまで酷いとは思わなかった。


 染めてるのか若白髪だが知らないが、12,3ぐらいの白髪の少女を彼は事もあろうにお姫様抱っこしてやがったのだ!!しかも降ろしてからも少女は彼にへばり付いて離れなかった!!


 基地内に向かったと聞いて追跡し・・・・・・・偶然目撃した現場はそんな彼の姿だった。


 思わず眩暈を覚えるた・・・・・・以前聞いた、身長160cm以下は興味の対象外だと言う話は嘘だったのか?


「栞さん、隆さん見つかりましたか?」


 後ろから真奈美の声が近づいてくる。振り向くと、何故か彼女はびくっとその小さい身体を震わせた。


「・・・・・・・真奈美」


「な、なんでしょう橘少尉」


 脅えか、それともここが基地中央ブロックに近いからか・・・・・・・最近言い始めた名前ではなく、階級でこちらを呼んでくる真奈美の姿を見据える。


「????」


 額に汗を掻いて何やらうろたえている。その姿は・・・・・・・まぁ可愛らしいと言えばそうだった。


 小さい頭、栗色の髪、真ん丸い茶色の瞳、あどけなさを残す顔の輪郭、丸い肩、強化装備越しに浮かび上がるその体形、多少くびれた腰、小さなお尻、細い足、そして・・・・・・ペチャパイ。


 なに一つ自分に該当すべきものが無い。


「・・・・・・・」


「!!」


 無言で一歩彼女に近づく、それに反応して真奈美は慌て一歩後ろに下がる。

 自分の体系に自信はあった。三澤程じゃないが自分もいいモノを持っていると自負していた、少なくとも目の前の幼児体系はおろか葵にも負けていない筈だ。


「・・・・・・・なんで」


「ひっ!」


 がしっと真奈美の肩を捕まえる、何やら悲鳴を上げたようだが気にしない。
 小さい肩を捕まえる手が、真奈美が震えていることを気づかせてくれた。流石に・・・・・・少しくらいは安心させようかと思い、営業用の満面の作り笑いを浮かべてみる。


「真奈美ちゃん」


「は、はい、栞さん」


 作りに作った私の天使の笑顔に、真奈美は安堵の表情を浮かべた。


「今日はいっぱいヤキソバ食べましょうね?」


「はぃ?」


 首を傾げる様子を最後まで見ること無く、真奈美を掴んで歩き出す。


「私の分も食べて。ううん、なんなら部隊全員の分を真奈美に食べてさせてあげるから、いっぱい、い~っぱい食べるのよ!!」


「ど、どうしたんですか栞さん!?」


「大丈夫、貴女ならまだまだ成長できるチャンスはある筈!あんな世間知らずの馬鹿姉よりも、このお姉さんに任せなさい!!ふ、ふふふふうふふふ!!」


「だ、誰か!!橘少尉が乱心したぁぁぁぁ!!助けてぇぇぇぇえ!!」










<社 隆>


「ん?」


「どうしたのお兄ちゃん?」


(なんか今叫び声が聞こえたような・・・・・・・)


「なんでもないよ、マユちゃん」


 不安そうに自分を見上げている少女の白い髪を手で鋤きながら笑って答える。

 そう気のせいだ、こんな所で今頃テントで必死にヤキソバを配っている橘の含み笑いと、真奈美の叫び声が聞こえる筈が無い。


「♪」


 ごろごろと、まるで猫のようにマユが喜んでくれる・・・・・・・が、周りからの視線が痛すぎる。

 何人か知ってる顔もいるが、管制室の要員その全てが苦笑している。沙霧は可愛そうなものを見る目で、石井はニヤニヤと笑っている・・・・・・・まぁこれらはどうでもいい。


 問題は大海司令、副司令、・・・・・・・そしてご来賓の方々。

 少なくとも好意的な目をしていない気がする。副司令にいたっては、視線で人が殺せるなら自分は殺されていたかもしれない。

 そんな剣呑な雰囲気の中大海司令が咳払い一つすると、ほぼ全員がガラス越しの外へと目を向けた。


『皆さんながらくお待たせいたしました、ただいまより戦術機によるアクロバット飛行を開始いたします』


「・・・・・・・」


 アクロバット飛行が始まることを知らせる放送が聞こえてくる。
 咳払いで注意をそちらに向けてくれた大海司令に目配せで礼をすると、彼は困った生徒を見るような目で苦笑していた。


「社中尉、お嬢さんに此方の席をどうぞ」


「あ、ああ、ありがとう」


 若い情報士官の女性が微笑みながら席を譲ってくれたので、気恥ずかしさを覚えながらマユを席に座らせる。
 マユの本当の保護者は、娘のこと等お構い無しに他のお偉いさんと話している。


「つまんな~い」


 まるでベビーシッターの気分だ。まかとは思うが、石井はこの事を見越して自分を此処に招いたのだろうか?


「大人しくしてないと怒られるぞマユちゃん?もう少しすれば凄いものが見れるから」


 怒られる、そんなフレーズに再度少女はその身を硬直させるが、ガラス越しの景色に指を向けて彼女の注意を外へと向ける。


 轟音を上げながら3機の不知火が空を飛翔していく。
 恐らくインパルスが出てくるまでの前座の部隊だろう、雲を引いて飛ぶ姿は圧巻なのだが、正直インパルス程の優雅さは見受けられない。


「う~つまんないよ~」


(ぬぅ、女の子には興味が無いか)


 確かに、こんな少女に戦術機の機動を見せたところで、到底楽しんでくれるとは思えない。

 さて、どうやってこの少女を落ち着かせようと思案していると、スピーカーから再度お知らせが聞こえてくる。


『皆さん東の空をご覧くだい!彼らが帝国軍百里基地が誇るブルーインパルスです!!』


 その放送が終わるやいなや・・・・・・・怒号のような歓声が沸きあがった。


 東の空・・・・・・・5機の青と白の雪風が悠然と基地に向かって飛翔してくる姿に、来場した一般人や基地関係者達があらんばかりの声を上げて叫んでいる。そんな歓声の叫び声が、この管制室内にまで響いてきた。


(・・・・・・・わざわざ基地を迂回して距離を取ったのか?まぁ演出には必要なことか)


 冷めた意見を内心で思いながらも、自分が興奮していることを自覚する。


 人々の喜びが、興奮が、自分にも共感出来る。

 先程の不知火を駆る部隊には悪いが・・・・・・・やはりインパルスは別物だ。

 5機の雪風が等間隔で飛翔しながら複雑な機動を描き、着色された飛行機雲を空に引きながら、一糸乱れぬ姿で基地上空に色取り取りな模様を描き出す。

 第一世代の戦術機らしからぬ、その運動性と機動性。特別にチューンされた雪風の性能もあるが、それらをまるで自分の手足・・・・・・・いや手足以上に使いこなすドルフィンドライバーの腕には、もはや感激などと言う言葉では言い表せない程の感動を覚える。

 彼らのその優雅な姿に基地を訪れた人々も感動を覚え、戦術機の力強さと未来への希望を見出しているのだろうか?


「キレイだね~」


「ああ・・・・・・そうだろう?」


 マユもその姿には心奪われたのか、素直な感想を呟いてくれる。自分と同じ気持ちを持ってくれたことが少し嬉しくて、少女の頭を優しく撫でてあげる。

 周りを見渡せば先程マユに席を譲ってくれた女性仕官も、その他の隊員達もインパルスの姿に目を奪われている。


「・・・・・・・?」


 いや・・・・・・例外が幾つかあった。


 沙霧は厳しい顔でその飛行を見つめている。大海司令は無表情だが、副司令をはじめとした賓客達は不機嫌な表情をその顔に貼り付け、ソレを隠そうともしていない。


 何故かと思うよりも早く、放送の声と共に・・・・・・彼らの言葉が耳に入ってくる。


『ブルーインパルスの一番機!ドルフィン01の愛称で呼ばれる松土少佐です!!』


「はっ、ただの飼い犬が偉そうな呼称で呼ばれてからに・・・・・・」


 肩に01のマーキングが描かれた雪風が一機、編隊を外れて来場席の近くまで降りてくる。その姿に、一人の将校がそう毒づいたのを聞き逃しはしなかった。


「しかし、これも必要な行事です・・・・・・・致し方ないかと」


「結果、増長したらどうする・・・・・・未だに従順とは言えん態度なのだろう奴らは?」


「彩峰中将の息が、いまだ根付いていると言うことですかな」


「まったく忌々しいことだ!」


 ドンとデスクを叩く音が管制室に響き渡る。
 その音で管制室の中が静寂に包まれるが、外の歓声はそんなことでは止まらない。

 注目を集めた初老の将官は、全員を一瞥し忌々しそうに溜息を付く。


「大海司令・・・・・・貴官が奴らの手綱を引けていないのがココの現状だ」


「は、申し訳ありません」


 初老の将校が大海司令を睨み付けながらそう言うものの、大海司令はまっすぐ前を・・・・・・・インパルスの姿を見据えながら応える。
 その姿で更に怒りが増したようで、初老の将官は吐き捨てるように続ける。


「帝国の喉元にBETAの巣がある今・・・・・・・帝国軍の将兵は一丸となって奴らに立ち向かわなければならんのだ!」


「はっ」


「なのにどうした!?彼奴等のようなお世辞にも従順とはいえん兵士が、この基地ならず其処彼処におるこの現状は!!」


「はっ」


「光州作戦の悲劇・・・・・・・何が悲劇だ!!奴が行った独断専行で国連の連中にいらぬ借りを作り、奴の子飼いだった連中へ予算を捻出しなければならなくなったと言うのに・・・・・・未だに奴のことを支持する連中が多いのは一体何故だ!!」


 喚き散らす将官の言葉に、何人もの人間が眉を顰める。


「少将閣下、彼らの腕は確かです・・・・・・それにリスクを掛けず利用するには、雪風が必要でしょう」


「下らんな・・・・・・所詮は曲芸しかできぬ部隊ではないか?金食い虫でしかない機体を与え、広告塔をさせる程度の使い道しか残っておらぬ。せめて前線へ追いやり、少しでもBETAを駆逐する駒にしたいが・・・・・・それもできんのが更に忌々しいものだ」


 その会話の中身が理解できない、いや理解したくない。

 インパルスが広告塔だとは薄々感じていた、だが彼らのその姿は人々に希望を与え、この疲弊した国に一筋の光を見せるための仕事では無かったのか?

 そんな彼らが何故こうも罵倒されなければならないのだ?


(ふざけるなよ・・・・・・・)


 まだ多くの時間を彼らと一緒に過ごしたわけではない、だがそれでも彼らが自らの技量に誇りを持っていることは感じている。
 一機の雪風が、轟音を上げながら管制室の上を通過していのを視界に納めながら、自分の中に湧き上がる感情を少しでも隠そうと奥歯を噛み締める。


「きゃあ!?」


 機体が通過したと同時に、管制室の窓の一つが音を立てて砕け散った。
 銃弾を弾く程の強化ガラスの筈だが、戦術機が飛翔した祭に生じた衝撃波か、もしくは舞い上がった小石がそれに乗ったのか・・・・・・・理由ははっきりしないが、ガラスが割れたことで管制室の中は一時パニックになる。


「こ、この!!私への侮辱か!?」


 またもや初老の将官が騒ぎ立てているが、そんな馬鹿げた姿を見ようとも思わず、驚いているであろうマユの顔を覗き込む。


「マユちゃん?大丈夫?」


「・・・・・・・」


 言いながら覗き込むと、飛び続けるインパルスの姿に圧巻されているのか、心此処にあらずといった表情で少女は此方を見上げてくる。


「大丈夫だよ、お兄ちゃん」


「ん?そうか、ならいいんだけど」


「イルカさんは強いよ、お兄ちゃんが怒らなくてもイルカさん達はきっと自分でなんとかするよ?」


(ぬぅ・・・・・・・)


 我ながら大人気無い、どうやらさっきのイライラを少女に見透かされていたようだ。


「ああ、きっとそうだな」


 ぽんぽんとマユの頭に手を置いて、恥ずかしさを感じながら笑顔で答えた。







 インパルスのアクロバット飛行も終わり、百里でのお祭りも終焉に向かいつつある。

 管制室の割れたガラスの撤去も終え、招かれた賓客達の姿も無い管制室の中は、落ち着きを取り戻していた。


「ふむ・・・・・・・先程は帝国軍の醜態を見せてしまったかな、社隆中尉?」


「はっ、いえ決してそのように思ってはおりません」


 苦笑しながら言う大海司令に敬礼しつつ応える。


 何故だか自分だけ退室が許可されず、こうして大海司令と向き合って管制室に残っている。

 石井がマユを連れて出て行く際、離れたくないと一悶着があって皆の失笑をかったのも、仕方の無いことだと割り切ろう。


 なんにしろ、そろそろ部隊のテントに戻らなければマズイ、非常にマズイ。


 随分と時間を使ってしまった、今更戻っても部隊内で私刑に合うのは避けられないかもしれない。


「そうか、いやなに・・・・・・・先程は随分と険しい顔をしていたのでな」


 大海司令の言葉を聞きながらも、用があるなら早く終わってくれと内心で懇願する。


「失礼な態度をとってしまい誠に申し訳ありません」


「気にするな社中尉、それにそう畏まる必要も無い・・・・・・・君も国連からの賓客だからな」


「は、はぁ・・・・・・・」


 笑う彼の姿に、なんと返答して言いか分からない。


「私はな、インパルスの隊員達に酷なことを押し付けておるのだよ」


「司令?」


 彼の言葉に思わず周りを見回してしまう。基地司令が易々と口にして良い言葉ではない。


「気にしなくていい、誰も聞いてはおらんよ」


「は、しかし・・・・・・・私のような人間にそのような事を」


「帝国軍では無く、国連の人間だからこそ言えるのだよ、こういった話はな」


 意味が理解できない。何故基地の司令ともあろうモノが、国連から来ているただの一士官にそんな愚痴まがいの話を聞かせるのだ?


「何故・・・・・・・インパルスが『雪風』を運用しているか考えたことがあるかね?」


「はい、光菱からの技術提供もあって第一世代型にも関わらず驚異的な運動性能を誇る機体ですので、彼ら以外には使いこなせないからでは?」


「そうだな確かにそれもある、他には?」


「・・・・・・・彼らが持ち帰るデータが貴重な研究材料となり、後の開発に繋がるのでは?」


「ふむ・・・・・・・30点だな社中尉」


(なんと!?赤点!!)


 思わぬ低い点数に内心で叫んでしまう。


「良い線は言っているのだが・・・・・・・君はどうやらインパルスの技量にばかり目が向いているな、雪風と別々に考えてみればどうかね?」


「別々、でありますか・・・・・・・」


 考える、インパルスの面々と雪風を別々にしながら、その意味を、その価値を。

 斯衛や教導部隊に匹敵すると言われる彼らの腕前、特別に改良された雪風、一つのセットとして捉えるのではなく別々の役割として考える。

 最初に与えられた情報を思い出す・・・・・・・横浜で聞かされたインパルスの話、湯田班長に教えられた雪風のスペック、そしてドルフィンドライバーたる松土達の姿。


 そして広告塔と揶揄される彼ら。


(・・・・・・・なんで雪風なんだ?)


 ヒントは・・・・・・・先程の初老の将官の言葉にあった。

 性能維持にかかるコストが莫大に必要な雪風、何故そのような欠陥機に近い機体を使い続ける必要がある?
 幾ら性能が高くとも、一度の戦闘機動でオーバーホールが必要な機体など、もし実戦で使用することになれば余りにもリスクが高すぎる。

 研究部隊として後継機に必要なデータ取りを目的とするならば、第三世代機の不知火なり吹雪を使えば良い。わざわざ第一世代の撃震を元に回収された雪風を運用する必要性など全く無く、彼らの技量を考えれば不知火や吹雪を改修した機体でも乗りこなせるに違いない。

 そう彼らは優秀なのだ。優秀すぎるが故に、前線へと彼らを配置すれば多くの武勲を挙げてしまうだろう、それを面白く思っていない連中がいるのだろう。だが、かと言って彼らを後方に配置しておくには、余りにも惜しい腕を持っている。

 何らかの役割を彼らに持たせなければ軍としての面子も保てない。故に軍は、広告塔として彼らを利用することに決めたのではないだろうか?
 一度の機動でオーバーホールが必要だとしても、雪風であれだけの機動を見せれば誰もが彼らの姿に希望を見出すだろう。それだけで、十分広告塔としても役に立つ。

 使えるものは何でも利用する・・・・・・帝国が今現在疲弊しているのは確かだ、それを国民に知られるのは喜ばしいことでは無い、凄腕の衛士で持って広告塔を作れば国民や兵士の士気も上がる、だからと言って問題がある連中に高性能機を与える必要は無い・・・・・・精々そう見える機体を用意すれば良い。


 そこで配備されたのが・・・・・・『雪風』なのだろう。


 機体性能が高くても長時間の性能を維持出来ない欠陥機。どのような状況下であろうと、時間さえ掛ければ堕とせる脆き翼。


 そんな、もしもの時を考える必要がある程、帝国軍の上層部は彼らの事を危険視しているとでも言うのだろうか?


「首輪・・・・・・・いや足かせですか」


 彼らの力を抑制する、それが自分が導き出した答えだった。


 唸るような声で呟いた言葉に大海司令は深く頷く。


「その通りだ中尉・・・・・・・上層部は彼らが力が持つのを恐れているのだよ」


「何故でしょうか・・・・・・・」


「そのあたりの話を深くできんのが残念なところだな。ただ彼らの上官は己の信念を貫いた、彼らにもその信念が根付いているのだよ」


「・・・・・・・」


 此処に来てはぐらかされた。
 恐らく、答えは自分で聞くなり、見つけろと言うことだろうか・・・・・・


「人は国のためにできることを成すべきである、そして国は人のためにできることを成すべきである」


「それは?」


「わしの亡き友の言葉でもあり、彼らの亡き上官の言葉でもある」


 その言葉に深い意味を感じるが、自分にその言葉の意味を共感することは出来なかった。


(やっぱり俺は・・・・・・・この世界では異邦人だな)


 そして、自分の立ち位置を再確認するには・・・・・・十分過ぎる言葉だった。










(結局・・・・・・・皆良くも悪くも日本人か)


 誰もいない廊下を一人、考え事をしながら歩く。
 今からテントに急いで戻っても仕方ないだろう・・・・・・・精々覚悟を決めて戻るだけだ。

 歩きながら、先ほど大海司令から言われた言葉を思い出す。


 人が国へ、国が人へ、するべきこと、しなければならないこと。


「・・・・・・・はっ」


 深く考えるまでも無く、鼻で笑う。


 何をする?


 国民が国へすること?税金を払い、国が決めた法律に従うことか?


 国が国民にしてくれること?一体何がある?失望と諦めを教えてくれるだけではないか?


 この世界の人々の価値観では無く、元の世界の価値観で持ってその回答を思い浮かべる。


 国の骨格となる仕事をしていた人間ならば、もっと違う回答が出たのかもしれない。だが生憎と自分は元の世界では極々普通のサラリーマンだ。

 国や政治に何かを期待するのではなく、己が立ち居地を、権力を、金を、自分の実力で掴み取る、それが資本主義の権化とも言われる企業で生きるサラリーマンの本質だ。
 過程で国の制度や、法律を利用することはあれど・・・・・・明確に国に何かをして貰った記憶等無い。


 マスコミが過剰に流している情報もあるのだろうが、国の政策に振り回され、搾取される側の人間が今更なにを望むことがある?


 日本と言われる、世界でも有数な経済国家、国民の大半が安定と平和に暮らすことができる国、その場所を提供してくれる事が、国がしてくれることだと言われればそれまでだが、それに甘んじて生きることは罪なのだろうか?それが国民として、日本にして貰っていることだとでも言うのだろうか?


 恐らくこの世界に生きる日本人に聞けば、こんな捻くれた回答は戻ってこないだろう・・・・・・


 管制室で暴言を吐いていた将官も・・・・・その思考に至ったまでの過程は、とても共感できるものではないが、あの人もまた国を思う気持ちが根本にあるのだろう。
 彼はインパルスを悪く言うものの、決して自分の私利私欲を優先するような発言はしなかった。

 きっと・・・・・・他の人間もまた、過程は違えどこの国の事を考えて行動しているのだろう。


 自分はどうか・・・・・・生憎と右や左の人間じゃ無い、そんな愛国心とやらは無縁の人生を送ってきたただの人間に、そんな大層な思想は無い。


「ちっ」


 イライラする、初老の将官の態度から始まった怒りが、今度は自身をこの世界と根本的に隔絶する言葉に移行する。

 希望を見せてくれたインパルスの姿に羨望を送り、その背景にあった人の思惑に吐き気を覚える。

 幾ら国を思っていようと、綺麗事を並べたとしても、所詮は人間でしかない。
 人類がBETAによって滅びの危機に瀕していると言うのに・・・・・・その本質は何も変わっていない。
 人は人を信じることが出来ず、足を引っ張り合い、狡猾に陥れ、他人を食い物にし、結果物事の本質を見失う。


 元の世界も、この世界も・・・・・・人は何も変わらない。


 思い出してみれば、夕呼がいい例だったのかもしれない・・・・・・彼女を信用しているが、彼女の言葉の端々からは人を出し抜こうとする符丁が幾らでも出てきていたような気がする。
 そして自分はソレに気づかなかった・・・・・・物事を斜めに見て、達観ぶっているのに、そんな事にも気づかなかったのだ。


 信じていたのかもしれない・・・・・・元の世界と違い、一人一人が生きる事に必死なこの世界の人間が、そんな矮小な考えを持っていると思いたくなかったのかもしれない。


 やはり自分にはこの世界の日本人として覚悟が無い・・・・・・幾ら取り繕っても、その根源は元の世界の平和ボケした日本人の一人でしか無いわけだ。


「社中尉」


 突然声を掛けられ、思考の渦に取り込まれそうになった意識が戻ってくる。


「沙霧大尉、お帰りになられたのでは?」


「いやなに・・・・・・まだ所用が残っていてな」


 廊下に佇んでいた彼が、言いよどみながら此方に向かって歩いてくる。


 厳格を形にしたような男。今まで知り合ってきた軍人の中でも、特に軍人然とした彼の佇まいは、その存在だけで今の自分へプレッシャーを与えてくる。

 彼もやはり帝国軍人としての信念を心に持っているのだろうか?今それを自覚することは正直キツイ。


「先程は私の上官が失礼な振る舞いをして申し訳なかった」


「はっ、いえ気にしておりません」


 大海司令と同じ台詞。
 やはり軍人かと、内心で彼に対する評価を決め付ける。
 とはいえ、そこまで自分が不快感を顔に出していたことに反省する。上手く隠していたと思っていたのだが、司令や沙霧、果てはマユにまで見透かされていたからには、恐らくバレバレだったのだろう。

「そうか・・・・・・・君が憤りを感じていると思ったのでな」


「いえ、もしやソレを言うために待っていらしたんですか?」


 もしそうならば何故かと問いただしたくなる。幾ら上官と言えど、他基地の士官の心情を配慮する必要性など何処にも無い。


「それもあるがね・・・・・・耳にした話で気になったものがあってね」


 言いながら彼は眼鏡を指で押さえる。


「今回この航空祭において行われた、一般人への食料配給。その発案者が君だと知ったのでね」


(配給ねぇ・・・・・・そう見るのが妥当か)


「はい、出すぎた真似でしたが、来場された国民の方々に少しでも楽しんで戴きたく、私から各所へ提案し実行に移しました」


 内心での皮肉を胸に、差しさわりの無い最もな言葉を沙霧へ送る。


「なるほど、中々出来る事では無い事を良くやれたものだ・・・・・・君の手腕には感服するよ」


 どうやら好印象に受け取ったようだ、感慨深く頷く沙霧の様子を見ながら苦笑する。


 実際問題、葵を初め部隊の同僚に最もらしいことを言ったが、心情的には祭りに乗じて憂さ晴らしをしたかっただけだ。その事を評価されても嬉しくもなんとも無い。


「しかも天然素材と聞く・・・・・・掛かった経費も莫大なものだろう、よくそのような許可が得られたものだ」


 感心しながら呟く沙霧の言葉に、背中に冷や汗が流れるのを感じる。

 そう、その通りだ・・・・・・今回のヤキソバ作りに掛かった資金、一体何処から捻出すればよいだろうか?
 正規の予算が取れるわけも無く、今のところは光菱が肩代わりしてくれているが・・・・・・請求書を見たら卒倒するかもしれない。
 部隊運営の資金を全て回せるわけも無いし、基地の予算を当てにするわけにもいかないし・・・・・・まさか夕呼に頼もうにも後が怖すぎる。


(・・・・・・光菱で一生タダ働きか・・・・・・それなりの利益上げる仕事するしかないか)


「だからな、そのような事を成し遂げた君ともう少し話がしてみたくてな・・・・・・迷惑だったかな?」


「いえ、そのような事は・・・・・・ですが、私の力ではありません、協力してくれた方々のお蔭だと思っております」


「ふむ・・・・・・自分の功績にするわけでも無いか、どうやら君は謙虚な男のようだな」


 そんな言葉を送られれば苦笑するしかない。

 少し歩かないかと沙霧に提案され、二人で薄暗い廊下から基地の外へと出る。


 既に太陽は西に沈みかけ、当たりは夕日の色で染め上げられている。来場客も昼間に比べれば少なくなっており、家路に着く人々の姿が見て取れる。


「どうやら今年の航空祭も成功のようだな」


 沙霧の言葉に頷くも、その意味がどちらなのかと問いたくなる。
 多くの人々へ希望を持たせられたことか、それとも戦争の真実から目を背けさせ、偽りの希望を見せたことにかと。

 沙霧は果たしてそのどちらを考えているのだろうか?
 管制室で見た彼の険しい表情だけでは、それを計ることは出来ない。


「君達が配ったヤキソバのせいもあるのかな?」


「ええ、そうかもしれませんね」


 口元に笑みを浮かべて沙霧がそう言ってくれるが、乾いた笑いでしか返せない。

 多くの人がヤキソバが入っているであろう袋を手に持っている。思わぬ食料の確保に喜ぶ人も多いだろうが、その喜びすらも全てこの祭りに乗じた広報活動に利用されたのではないかと疑心してしまう。


「ふむ、出来れば私も一つ持って行きたかったのだがね・・・・・・」


「?・・・・必要でしたら用意させますが?」


「はっはははは、いや結構、私が食したいわけでは無くてだな・・・・恩師の愛娘がヤキソバが好物だったと思い出してな」


 なるほど、と頷く。堅物に見えて、どうやらこの男も少しは茶目っ気があるのかもしれない。


「それにしても社中尉・・・・・・君は三澤大尉にもその口調で会話しているのかな?」


「いえ、大尉は堅苦しいのを嫌いますので、もう少し砕けて話しをさせて頂いております」


「なるほど・・・・・・彼女はそう言った所がズボラだからな、だが君も苦労しているのだろう・・・・・・何せ彼女は帝都で女帝とまで言われた女傑だからな」


(女帝?んな古代中国じゃあるまいし・・・・・・)


 静流がどのような評価を帝都でされていたかは聞いていないが、彼の言葉から察するに余程の行いをしてきたのだろうと推察できる。

 やはり彼女と沙霧を会わせるべきだったかなと思案していると・・・・・遠くのほうで白い髪の少女が歩いているのが見えた。
 間違いなくマユだろう、となると一緒にいるのは石井少佐で間違いは無い。

 二人の前に一台の車が現れ、女性が一人降りてくる・・・・・・恐らく二人を迎えに来た人間か。


「もう少し砕けて話してくれていいんだが?どうせ他基地の上官に畏まった所で、君の進退に影響は無いだろう」


 沙霧の言葉に、思わず首を傾げてしまう。
 進退?・・・・・・どうやら彼は、此方が国連の人間だと気づいていないのかもしれない。

 百里のグラサン国連兵の噂を聞いていてもおかしくないと思うが、やはり彼はそういった世事には疎いのかも知れない。


「確かにそうかもしれませんね、あまり沙霧大尉のような出来た上官と話機会が無いものでして・・・・・・久方ぶりに使う敬語が新鮮だったのですが、許可が出るのでしたら少し砕けさせて頂きます」


「そうしてくれ、同じ日本を憂う同志だ・・・・・・志を同じくするものとして遠慮はいらん」


 同士・・・・・・その言葉を聞いた瞬間、胸にチクリと痛みが走る。

 違う、俺は貴方にそう言って貰えるような人間では無いと反論したくなるが・・・・・・実際は何も言えなかった。


「君のとった行動は評価されるべきだろう・・・・・・国民へ、今の国が出来る最善の方法の一つだと私も思っているよ」


 追い討ちを掛けるような沙霧の言葉に、更に内心を揺さぶられる・・・・・・意図して言ってるとしたら、この男は随分な策士だと恨みたくなるが、笑いながら生真面目な目で言ってくるあたり、そんな思惑は無いのかもしれない。


 ならば、彼に・・・・・・此方の悩みの一つでもぶつけて見るのもいいかもしれない。


 今までに出会ったことが余り無い、軍人然とした彼がどのような言葉を返してくるのか興味がある。


「先程、大海司令から言われた言葉があります・・・・・・・『人は国のためにできることを成すべきである、そして国は人のためにできることを成すべきである』と」


 かみ締めるように言った言葉に、何故か沙霧は苦虫をかみ殺したような表情を作る。
 その表情に気づいたが・・・・・・・構わず続ける。


「・・・・・・こう言っては問題なんでしょうけどね、自分にはその本質の意味を理解することは出来ませんでした。だからソレを、自分に置き換えて見ました、自分が国のために出来る事、自分が人のために出来ることと・・・・・・・」


「ほう・・・・・・・良ければ聞かせて貰えるかな?」


 こんな下士官の言葉を、帝都にいるエリートは気にするのだろうか?


「国のために出来ること、それは正直わかりません。BETAと戦う・・・・・・・そんな当たり前の言葉しか、私は見出せませんでした」


「・・・・・・・」


 沙霧は何も言ってこない、無言は先を促す肯定と受け止め話を続ける。


「ただ自分が人にできること・・・・・・・それは数多くあります、個人の力で出来ることなどたかがしれてますが、自分にできる範疇であれば、私はソレをするのを躊躇いません」


「それが・・・・・・・今回の食料配給かね?」


「ええ、結果として見ればそうですね」


 苦し紛れの結果だ、こんな事ぐらいで困っている人を助けたことなどにはならないだろう。


「大それた事を言ってますが、自分が望むのは自分の身近にいる人間を助けることだけです、それが出来れば他には何も望まない・・・・・・・その過程で、たまたま見かけてしまった人には手を差し伸べますが」


 そう、何処かにいる誰かのために剣を振ることなど自分には出来ない。だが、見てしまった物事に大しては出来る限りの事をするだろう・・・・・・


 思えば昔からそうだった・・・・・・見てしまえば手を出してしまう自分の性格、甘いと言われたことは幾度と無くある。


「ふむ・・・・・・君は随分と悩んでいるようだな」


 沙霧の言葉に苦笑しか返せない。思えば初対面の相手に随分と臭い台詞を言ったものだ、だが彼ならばそんな台詞にも真面目に答えてくれるのではないかと、どこかで期待していたのかもしれない。


「悩むのは決して悪くは無い、そして君は悩んだ末に見つけたものを大切にすればいい、それが見つかるまでは幾らでも悩めばいいだろう」


 むろん自分の責務を果たして上でな、と沙霧は続けて笑う。

 悩む・・・・・・そう確かに彼の言うとおり、自分は悩んでいるのだろう。他の人たちとは違い、明確に戦う覚悟や、守るべき場所が無い自分は、この世界のつまはじきモノだと己を卑下しているのかもしれない。


「社中尉、君は帝国・・・・・・いや日本が好きかな?」


 突然の質問の意図が理解できない、好きか嫌いかと聞かれれば・・・・・・YESと答える頭しか持ち合わせていないが・・・・・・


「ええ、もちろん・・・・・・自分が生れた場所ですからね、好きですよ」


 元の世界の日本とはかなり食い違う部分が多いが、それでも此処は間違いなく日本だ。その事実は変わらない。


「そうか、私もこの国が好きだ・・・・・・それで十分では無いのかな、君が国に出来ることとは?明確な信念や、理由が必要なこともあるかもしれないが、その根底にあるのは日本を大切にしたい、守りたいと言う気持ちこそ、大事な部分ではないのかと私は思うよ」


 彼の言う根底と、自分の根底とではその重みが違うのでは無いかと思うが・・・・・・言いたいことは概ね理解できた。


「君が今までの戦場で何を見てきたかは分からない、君も何かを守ってきたのだろう?」


「はい・・・・・・確かに」


 何故か脳裏に浮かんだのは・・・・・・愛する婚約者の姿では無く、部隊の同僚の姿だった。


「君は先ほど、国のために戦うといったがね・・・・・・それは建前と受け取っておこう。本当の理由は様々だろうが、殆どの兵士は仲間を守るために戦っていると心では答えるだろうな」


「・・・・・・」


 何も答えられない、自分が戦う理由、覚悟・・・・・・未だに明確な答えは浮かんでこない。
 麻美は・・・・・・少なくとも自分が愛した彼女はこの世界にいない、元の世界に戻る手段も判明していない、それなのに自分がこの世界で生きて戦う理由・・・・・・


(・・・・・・仲間のためか)


 内心で沙霧の言葉を反芻する。
 騒がしくて、喧しくて、厄介ごとしか持ってこないのに、何処か無下に出来ない連中。


「そうかも・・・・しれませんね」


 口から出た同意の言葉・・・・実感は未だ得られないが、戦う理由の一つとしては候補に入れて置こうかと思う。
 呟いた言葉に、沙霧は満足そうに頷く。


「だからですかね・・・・・・尊敬しているインパルスの面々を揶揄された時に怒りを覚えたのは」


 苦笑しつつ言った言葉に・・・・・・沙霧の表情が厳しそうなものへと変化した。


「そうかもしれないな、あのような発言を漏らす上がいては・・・・・・兵士は十分な士気を持って戦うことは出来ないだろうな」


 彼の上官のはずなのだが、沙霧が漏らした言葉には深い失望が感じ取られる。
 彼もきっと苦労しているのかもしれない。厄介な上を持った記憶はあるので、その気持ちは容易く理解できる。


「とは言っても所詮は雲の上の話ですね・・・・・・現場の下士官がいくら叫んでも上には届きません」


 それは企業だって似たようなものだ、末端や現場の人間の意見が反映されたり、待遇が優先されることは滅多にありえない。余程の人物が上に立てばありえるかもしれないが、人は皆上に行けば行くほど己の保身に走る・・・・・・組織に属する人間としては当然なのかもしれない。


「自分の意見を言いたければ・・・・・・偉くなるか、自分で組織を作るしかないですからね」


「君は随分と達観しているんだな?」


「いえ、自分の経験から基づく言葉ですよ・・・・・上官へ言って良い言葉ではありませんでしたね、どうか忘れてください・・・・・・ただ、沙霧大尉も先ほどの表情を見る限り、自分と同じような考えをお持ちのようで・・・・・・そこは少し安心しました」


 だからこんな向こう見ずな発言が出来たのだ・・・・・・例えばあの堅物な副司令に言う気など更々無い。


「ありがとうございます、大尉と話をして少しすっきりしました」


 少なくとも自分と似たような気持ちを持っている人がいる、それが分かれば十分だ。


「そうか・・・・・・それはよかった」


「失礼を承知で・・・・・・大尉にお聞きしてもいいでしょうか?」


「なにかな?自分に答えられることならば幾らでも答えよう」


 そう彼に聞きたいことがある。


「沙霧大尉は・・・・・・なんのために戦っているんですか?」


 その質問に、彼は暫し険しい表情を作ってから確固たる意思を篭めた視線を此方に送ってきた。


「先ほど言った通り、私はこの日本が好きだ・・・・・・その国と、そこに住む人々のため私は剣を振ろう、内に秘めたその大儀は何者にも屈することは無いだろう」


「・・・・・・BETA相手にも」


「無論だ」


 即答する沙霧の言葉に頷くしかない。強い意志の篭った瞳は、何者にも屈することがないと言った彼の言葉を雄弁に表現している。
 強い男だと、心の底から関心してしまう。

 国を思う真の軍人とは、彼のような人間を指すのかもしれない。


(そうなると俺は・・・・・・職業軍人ってとこかな)


「・・・・・・では、もう一つお聞きして宜しいでしょうか?」


 沙霧は無言で頷く。彼の今の気持ちは分かった・・・・・・ならば、その先に彼は何を思うのだろうか?


「戦争が終結した後・・・・・・沙霧大尉は何がしたいのですか?」


「!!」


 彼の瞳が、驚愕したかのように見開かれる。
 戦う理由は分かった、覚悟も感じることが出来た・・・・・・だからこそ、彼が戦争が終わった後に、何を望んでいるのかが知りたかった。


「始めて聞かれる質問だな・・・・・・それは」


 そうなのだろうか?だが、地球がBETAによって制圧されつつある現状を鑑みるに、明確に未来を見据えている個人等何処にもいないのかもしれない。

 明日も生きられる保証等何処にも無いのだ・・・・・・元の世界のように、未来の自分を想像する余裕等、微塵も持ち合わせることができないのが、この世界の現状だろう。


「・・・・・・・・・・・・そうだな、出来ることならば私は医者になりたいかな」


(いやはや・・・・・・流石エリートは言うことが違う)


 長い沈黙の末に彼が口にした言葉に、内心で皮肉めいたことを言ってしまうが、その心情に感嘆するしかない。


「もしこの戦争に生き延びることができたら・・・・・・そんな人生を歩むのもいいかもしれないな」


「なるほど・・・・・・軍人として何かを壊し、殺すのでは無く、人を治す仕事ですか」


 そんな意見が出てきたあたり、彼が心の底から人を、他人を大切にしている事が推察できる。
 なんだかんだと軍人めいた男だが、やはりその人となりは誠実で実直なただの人間なのだろう。そして、そんなただの人だからこそ、その人柄に好感を持てる。


「まったく変な質問をする男だな、君は?」


「いえいえ、沙霧大尉から許可を貰ったからですよ」


 そう言い放つと、彼は少し困ったような表情を浮かべて苦笑した。


「そうだな、だが先ほど言った言葉は忘れてくれ・・・・・・戦術機に乗り、戦場でBETAを殺し尽くすものが医者になりたい等と、誰かに聞かれれば笑われてしまうだろうからな」


「そうですか?・・・・・・わかりました、自分の心の内に留めておきましょう」


「ああ、いつか共に戦場を共にすることもあるだろう・・・・・・その時にそんな噂が立っていては恥ずかしいのでな」


 言いながら笑う彼に合わせて自分も苦笑する。
 

 そう、いつか彼と共に戦場を駆けることがあるかもしれない。その時、彼ならば自分が戦う理由を明確にしてくれるかもしれない。

 大儀、医者への夢・・・・・・恥も外聞も無く、そう言い退けた彼の事を信じて見るのもいいだろう。



「はい・・・・・・私も、大尉と共に同じ戦場を駆けて見たいですね、その時は是非とも御供をさせてください」



 そうすればきっと・・・・・・今とは違った何かが見えてくるのかもしれない。










<マユ>


 今日は楽しい一日だった。

 パパがお兄ちゃんに会えるって言ったのは本当だった。
 久しぶりに見たお兄ちゃんは、やっぱりお兄ちゃんだった。


「~♪」


 パパの服を掴みながら歩きながら鼻歌を歌う。

 変なおじさんたちが言った話で、お兄ちゃんが怒ったけど、私がなんとかした、あれでよっかったと思う、うん
 乗ってきた黒い車が見えてきた、その傍に立っている人を見つけた瞬間、私は嬉しくて走り始めた。


「お姉ちゃん~!!」


 大好きなお姉ちゃん、綺麗な髪も、綺麗な目も、綺麗な声も・・・・・・・何もかもが綺麗で世界で一番大好きなお姉ちゃん。


 お姉ちゃんに飛びついて、ぎゅ~って抱きしめる。


「・・・・・・・」


 お姉ちゃんは何も言わないで頭を撫で撫でしてくれた、甘くてとってもいい匂いがして、嬉しくてお姉ちゃんの胸に頬ずりしてみた。

 でもあんまり気持ちよくない、お胸の大きさは凛や私のほうが大きいと思う。でも前にそのこと言ったら、お姉ちゃんが物凄く怖かったからもう言わない、うん絶対言わない、曲がらない方向に指を曲げて欲しく無い。


「ねぇねぇ、今日お兄ちゃんに会ったよ!?お姉ちゃんも会えた!?」


「・・・・・・マユ・・・・・・・少し大人しくしていろ」


 うう、今のお姉ちゃんはお仕事モードだ・・・・・・・つまらないし面白く無い。


「う~」


 不満たっぷり口を尖らせて抗議しても、お姉ちゃんは一回だけ私を見てそっぽ向いてしまった。


「石井少佐、お疲れ様でした」


「いやいや・・・・・・・古臭い官僚の相手は疲れるよほんとに」


 遅れてやってきたパパに、お仕事モードのお姉ちゃんがご挨拶する。


「どうぞ」


「はいはいありがとう・・・・・・・マユも早く入りなさい」


「は~い」


 お姉ちゃんが車のドアを開けてくれたので、パパと一緒に大人しく中に乗り込む。


「お、姫様は大人しくし見学できたかな?」


 運転席に座ったヘタレが軽々しく口を聞いてくる。


「五月蝿い、ヘタレには関係無い」


「おやおや・・・・・・・お姫様はご機嫌斜めなことで」


「鳴海、無駄口を叩く暇があればさっさと車を出せ」


 お仕事モードのお姉ちゃんが怖い声で言うと、ヘタレは慌てて車を動かし始めた。


「少佐・・・・・・・香月博士から経過報告がありました」


「ふむ・・・・・・・彼女はなんと?」


「はい、【WL】のロールアウトの目処がたったと」


「ほう、それは楽しみだ」


「付け加えて、試験用のパルチザンも追加培養が済んだそうです」


「はっははははは、いや景気の良い話じゃないか?」


 パパが喜んで拍手している・・・・・・・私には何のことだかさっぱり分からない。


「ほらお姫様、飴でも舐めるかい?」


「む~」


 ヘタレが気を利かして飴をくれた、子ども扱いされてるのが気に入らないけど仕方が無い、どうしてもと言うなら貰っておこう。


 お姉ちゃんから何時も言われている、利用する男と、好きな男にはきっちり明暗付けろと。


「・・・・・・♪」


 貰った飴が甘くて美味しくて、お姉ちゃんが構ってくれないことも気にならなくなってくる。

 最初は苦いお薬だったけど、お姉ちゃんが来てから甘い飴になった。お仕事モードのお姉ちゃんは凄く怖いけど、そうじゃないときは凄く優しい、だから一番大好き。


「凛とデブシューはどこいったの?」


 来る時はいたのに、今はいない二人のことをヘタレに聞いてみる。

「・・・・・・デブシュー?」


 お姉ちゃんが私の言葉に反応して方眉を上げる。
 なんだろ・・・・・・凄く怖い。いつもヘタレが慎二を呼んでる呼び方なんだけど、何かいけなかったのかな?


「鳴海・・・・・・貴様、真由美に何を吹き込んだ?」


「ひぃ!?いえ大尉殿!!気のせいであります!!デ・・・・平中尉の戯言です!!」


 お姉ちゃんにびびってる、やっぱりヘタレはヘタレだ。


「まったく・・・・・・マユ、平と七瀬は先に筑波に戻っているから気にするな」


「は~い」


 肩を落として震えているヘタレの姿が面白くて、笑いながらお姉ちゃんにお返事する。


「そういえば・・・・・・今日も彼と会うことが出来たよ」


「彼・・・・・・以前、少佐が千歳でお会いになった男ですか?」


「その通り、相変わらず面白い人だったな~」


「・・・・・・少佐には失礼かと思いましたが、私のほうでその男に付いて調べてみました」


「ほぅ?何か分かったかな?」


「いえ、それが・・・・・・横浜絡みだけありまして、経歴はおろか画像データすらも入手することは出来ませんでした」


「そうだろう、そうだろう・・・・・・なに、分からないほうが色々と面白いものだよ、世界は不思議な現象に満ち溢れている、その全てが分かってしまったら退屈になると思わないかい?」


「そうですが・・・・・・警戒しておくことに越したことはありません。何故麻由美がその男に引き寄せられたのかが分かっておりませんので、何より予定には無い人間です・・・・・・重大なイレギュラーに成りかねません」


「お兄ちゃんはお兄ちゃんだよ?お姉ちゃんも会えばきっと分かるよ?」


「マユ・・・・・・」


 うう、睨まれた。やっぱりお仕事モードのお姉ちゃんは怖い。
 お兄ちゃんのことでお話してたみたいだったから話しかけて見たのに・・・・・・でもお姉ちゃんはやっぱり分かって無い。
 お姉ちゃんだってお兄ちゃんに会えばきっと分かる。


 だって・・・・・・お兄ちゃんはお姉ちゃんの事を・・・・・・


「まぁ何はともあれ計画は順調・・・・・・後はお姫様の綺麗な花を用意するだけですね」


 パパがまた嬉しそうに笑っている。

 お姉ちゃんは・・・・・・何か不機嫌な顔をしているけど、何か嫌な事でもあったのかな?


 うん、帰ったらお姉ちゃんに今日見てきた事をお話して上げよう。お兄ちゃんの事と、青と白のイルカさん達の事をいっぱい話そう。
 そうすれば、また美味しいホットケーキを作ってくれるかもしれない。


「~♪」


 あの甘くて美味しい味を思い出して、私はまた鼻歌を歌い始めた。






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