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「Muv-Luv 小説」
第一部

新潟編 第2話

 
新潟編  かれの受難が始まる日




2001年3月18日09:30
新潟県  帝国軍仮設駐屯地


<瀬戸 真奈美>


 BETA・異種起源生命体。

 外宇宙より飛来した化け物達。

 火星に月にそして地球に、宇宙より訪れてはハイヴと呼ばれる巣を作る異形の生物。

 生物としての知性や本能があるのかすら判明しておらず、会話等の一切のコミュニケーションを発せず、ただ地表に存在する全てのモノを蹂躙しながら活動圏を広げる存在。


 人はそんなBETAに相対したときに取れる選択肢は二つしかない。

 一つはその圧倒的な力になすすべも無く殺されるか、もしくは死に足掻らい武器を取って戦うか・・・・・・生物として圧倒的に劣る人類には残された手段はその何れかだ。


 自然界の摂理、力の無い生物が淘汰される現実・・・・・・その摂理に足掻くためにも人類は戦い続ける。


 中国の新疆ウイグル自治区喀什にBETAの着陸ユニットが落下してから早30年近くの月日の時が経った現在、人類の熾烈な反抗が何度も繰広げられたのにも関わらずハイヴは地球上に21箇所存在している。
 モニュメントと呼ばれるハイヴの直上に建造される地表構造物、大きいものでは高さに1000mにまで達するハイヴの象徴ともされる建造物がユーラシア大陸のそこかしこに存在しているのが現状なのだ。


 ハイヴが増え続ける事実とBETAの侵攻に対して、人類もただ指を銜えて黙っていたわけでは無いのだが、モニュメントを破壊しハイヴに致命的損害を与えたことは30年のBETA戦争の歴史の中でたったの一度しか成功していない。

 その成功も甚大な被害の結果得られたものであり、このまま明確な打開策が構築されないままでは、遠からず人類はBETAによって種の滅びが運命付けられてしまう。


 だから・・・・・・人は・・・・・・そのBETAの脅威を少しでも減らすべく、日々足掻き続ける。


 それがどんなに苦しく熾烈な事だと分かっていても、人は絶望的な未来を遠ざけるために戦い続ける。


 BETAがハイヴ内から進攻を開始するのは一つの理由があると推察されている。

 ハイヴ内に収納しきれなくなった多くのBETAが、別のハイヴを建造するために地下から這い出てくることでBETAの進攻があると予測される学説である。

 一度本格的な進攻が開始されると・・・・・・人類がソレを防ぐ手立ては殆ど無い、よしんば防衛に成功してもBETAとの戦闘によって甚大などとは済まされないような被害を被ることになる。

 故に先ほどの学説を踏まえ、人類はBETAの進攻を防ぐため定期的にハイヴへ向けて【間引き】と呼ばれる作戦を行う。
 ハイヴ内のBETAの貯蔵数と増加数を統計的に計算し、その数が飽和する前に個体数を間引くことでBETAの進攻を遅らせるのがその作戦の狙いと言える。

 日本では佐渡ヶ島に、世界中のハイヴ隣接地域では数ヶ月に一度行われる間引き作戦によって、人はBETAの脅威から回避し続けているのだ・・・・・・

 むろん戦闘行為であるが故に、一度の作戦で多くの弾薬と人員が消耗してしまう・・・・・・その結果、大規模な反抗作戦をおこなう余力をも失ってしまのも現実である。
 だが、人はそれでもBETAに大規模な進攻を起こさないために・・・・・・仮初の平和を維持するためにも、今日も戦い何処かで誰かが死んでいるのだ・・・・・・



「以上です」


 解説を終えペコリと一礼すると、感嘆の声と共に拍手が沸きあがった。


「お~凄いな真奈美・・・・・・父ちゃん、よく分かったよ」


「・・・・・・隆さんを私の父だなんて思ったことありません」


 びしっとグラサン野郎に指を突き付けてはっきりと拒絶の言葉を言い放つ。


「隆さんが父親?・・・・・・そうなると私が母親?・・・・・・そ、そんな夫婦だなんて」


「ちょっと~葵~戻ってきなさいよ~?」


 なにやらトリップしつつある葵に栞がジト目で突っ込んでいるが・・・・・・まぁいつもの事だろう。


「こっちから仕掛けるってのに・・・・・・倒しきれないのはなんともやるせないな」


「そうやな~連中全て殺せるわけやないもんな~出口の見えないもぐら叩き見たいなもんやな」


 しみじみと桐嶋と川井が呟いている。


「さて・・・・・・瀬戸の解説も終わったところで・・・・・・【間引き】作戦に参加経験の無い三人に言っておく。何時も通りシミュレーターの訓練と同じようにこなせ、幸い周囲には他の部隊も多く展開している・・・・・・もしもの時も救援が来るのは通常よりも遥に早いからな」


 自分を含め該当する三人が彼女の言葉に頷く。


「今度はこっちが守るからね」


「はいはい・・・・・・皆宜しく頼むよ」


 栞が隣に座る彼に視線と言葉で投げかけると、彼は苦笑しながら皆を見回した。


「・・・・・・」


「葵・・・・・・そう緊張するな、同じ間違いを犯すお前じゃないだろう?」


「あ、当たり前じゃない!?同じ立場の隆さんに言われたくないわよ!!」


 やや緊張した面持ちの葵を見た彼が、気遣うような言葉を送ると姉は何時もの通り頬を紅潮させて反論する。

 それを見てヤレヤレと肩を落とす川井、面白そうに眺める桐嶋、ニヤニヤと笑う三澤。

 いつもの光景だ、何も変わらない日常、間違いなく戦闘が起きるであろう作戦を前に・・・・・・何時も通りでいられることに安堵する。


 前回から数えて二度目の実戦、本来なら葵のようにもっと緊張していればいいのだろうが、今の自分は自分でも驚くほど落ち着いている。
 慣れた・・・・・・などと言うつもりは毛頭無い。ただ北海道での彼の姿を見たからには、緊張などはしていられないと自分に言い聞かせているのが実情だ。


 あの作戦では彼も初の実戦だった、なのに彼はそんな様子を億尾にも出さず自分や栞を救ったのだ。


 実力では部隊最下位を自ら豪語する彼、だが自分は彼が決して自らが言うほど周りから劣っているようには見えない。

 確かに演習などで戦術機の格闘戦を行った際、慢心しなければ彼に落とされる事は間違いなく無いだろう。

 機体の性能・・・・・・あの厄介なECMを使われたとしても、近接戦闘に持ち込めば彼を落とすのは正直容易い。それは自分だけでなく部隊全員の共通認識なのだが、その事実だけを踏まえた上で彼の実力を評価するのは間違いだと自分は思っている。

 彼は自分を卑下しているが、それでも自らの操縦技術を向上させるために日々努力をしているのを自分は知っている。此処暫く、百里の教導部隊とも言えるインパルスに師事を請い、暇を見付けては操縦技術の向上に励んでいる彼の姿を目撃したことは幾度と無くある。

 もしかしたら努力家なのかもしれない・・・・・・あまり人に言わないだけで、彼も裏では必死に皆に追いつこうと足掻いているのだと思う。


 以前・・・・・・彼が百里に出向に来たときに比べて、今の彼の操縦技術は間違いなく進歩している。

 射撃特性に優れた機体と、本人の射撃への適正もあったせいか射撃戦では非常に優秀な腕前を持ち。一対一での戦闘ならともかく、彼はそれ以外の集団戦闘訓練などでは抜群の援護能力を垣間見せ周囲へのフォローに絶えず勤しんでいる。
 強襲掃討として前衛の突撃前衛の援護、両翼の味方機へのカバー、そして胡蜂特有のミサイル攻撃による圧倒的な面制圧能力、彼がいるといないとではBETA戦を想定したシミュレーターの成果に雲泥の差が出る。


 彼が戦術機同士の戦闘で回りから一歩劣るのは、彼が格闘戦を重視していないせいだと見て取れる。


 前に一度、その点を彼に指摘したことがある、何故積極的に近接戦や格闘戦の訓練をしないのかと。


『・・・・・・俺達の敵は戦術機か?違うだろう?俺達の敵はBETAだ・・・・・戦術機みたいにほいほい避ける相手でもないし、距離を取って確実に弾を当てながら仲間を援護できる能力のほうが必要だろう?』


 確かにごもっともな意見だと思う。


 彼が乗る胡蜂の性能と合わせて、その考え方はある種理に適っているとも言える。

 他の国からは、帝国軍が得意とする戦闘方法は近接戦闘が主とされているが、現実はそうも言ってられない。

 確かに近接はBETAを確実に仕留めるためにも有効な手段なのだが、それを成すにはBETAに接近する必要性が出てくる。そしてBETAの群れに突撃すると言う事は、それだけ此方も殺られる可能性が増えると言うことだ。
 射撃戦は少しでも衛士が生き残る可能性を増やすために必要な戦闘方法だろう。
 弾薬消費を抑え、混戦で味方誤射を防ぐためにも近接戦闘は確かに必要不可欠なのだが、補給が期待できないハイヴ内戦闘でも無い限りそこまで近接にこだわる必要は無い。

 そもそも軌道降下などでハイヴ内に突入する部隊はトップエース達だ、インパルスでも無い自分達にそのお鉢が回ってくるとは到底思えない。

 他国で囁かれる帝国軍の近接戦主義は、恐らく斯衛軍の存在が強いのではないかと思っている。


「どうした真奈美?お前もやっぱ緊張してるのか?」


「ち、違います、ちょっと考え事を・・・・・・」


 軽く物思いに耽っていたせいか、彼にいらぬ気遣いをさせてしまったようだ。

 でもブリーフィング中に考え事をしてしまった自分の気持ちの変化に驚いてしまう。北海道でBETAの進攻を直面した際は脅えて周りが何も見えなかったと言うのに・・・・・・今ではそんな余裕すらある。
 あの時の状況が違うと言われれば確かにその通りだが、【間引き】作戦である以上今回は戦闘が必ず起きるというのに、自分の成長というか慢心に呆れながらも感心してしまう。


「ま・・・・・・後ろには俺達もいるんだ、そんなに気張らなくてもいいぞ~」


 静流以外の気だるげな声がブリーフィング室に響き渡る。

 視線を部屋の左右に巡らせれば、ランサーズの面々の他に同じ百里から派遣されたエース達の姿が確認できる。


「松土少佐達は後方警戒でしょうが・・・・・・インパルスが前面に出てくるような事があったらマズイですよ」


「そやな~少佐達の手まで煩わせたら、わいら百里でいい笑いものになるやろな~」


「いや、既に俺達は笑いものだ・・・・・・多分」


 男達三人がそんなことを言いながら肩を竦める。

 彼の言うとおり、インパルスの今回の任務は煌武院殿下がいらっしゃる式場でのデモンストレーションと聞いている。元々実戦向きではない機体を駆る彼らを前線に送り込むなどあってはならないことなのだが・・・・・・


(でも・・・・・・インパルスがいれば安心できるよね)


 そう考えるのも間違いではないだろう。
 自分達より後方に最も頼りになる存在がいるのを知っていれば、作戦中において非常に有効な心理的軽減へと繋がる。もし自分達が抜かれたり、危険に陥れば頼もしい味方が応援に来てくれる。孤立無援で戦うのとは訳が違う。


「さて・・・・・・では今回の作戦内容を確認する」


 パンパンと手を叩いた静流が、皆の前に立ってスクリーンに映し出された予定表に手にしたポインターで指し始めた。


「明後日に控えた間引き作戦の前に、予定通り殿下の演説が明日・・・・・・この悠久山公園跡地で行われる。インパルスの方々は事前に現地入り・・・・・・ランサーズは信濃川南西3キロの地点に・・・・・・


 殿下がいらっしゃる・・・・・・その言葉を聞いたからには流石に気を引き締めなければと自分に言い聞かせ、真剣に彼女の言葉に耳を傾けた・・・・・・







同日 12:30
仮設駐屯地内・派遣部隊用PX


<社 隆>


「幾ら大きな仮設駐屯地って言っても・・・・・・PXの飯は相変わらずしょぼいな」


 などと思わず言ってしまった自分の言葉に焦り、慌てて周囲を見回して警戒してしまう。


 この世界の食事に関しては、横浜で京塚さんの作った飯が一番まともだった。それは国連軍と言う組織故に、世界中から豊富な合成食料が入手出来るせいらしく帝国軍に出向してから暫くしてその事実に気づかされたのだ。

 各国から食料が送られてくる国連軍とは違い、帝国軍は国内で必要な食料を、少ない輸入と自前の生産力でなんとか賄わなければならない。元の世界でも日本の食料自給率は決して高くは無かったが、この世界の日本の食糧事情はソレに比べても遙に絶望的である。
 西日本の殆どがBETA侵攻によって荒土と化し、田畑を耕すどころか済む安全も確立されていない現状に加えて、逃げてきた難民が東日本に溢れた結果国内のインフラは混迷の極みにある。
 多くの日本人が海外に移住していると聞くが、それでも国内の難民キャンプで暮らす日本人の数は多く、その多くが悲惨な日常に身を置いているとの話だ。

 自分達は軍人だからと言う理由だけで少ない食料を優先的に支給されている、その影で飢えに苦しんでいる人の存在を忘れてはならない。

 ただ百里基地は帝国軍の中でもまともなほうだと桐嶋や川井が言っていたような気がする・・・・・・おおかた何処かの社長令嬢のせいかもしれないが・・・・・・


 なんにせよここは新潟、甲21号目標である佐渡ヶ島ハイヴを目の前にした最前線。

 前述した理由の他に、此処に駐屯する衛士達はいつもこの食事を食べているのだ、その事実にけちでも付けようものなら即座にリンチにあっても文句は言えないだろう。


「・・・・・・」


 幸いに聞きとがめた人はいなかったらしい、その事実にホッと胸を撫で下ろしながら何処で食べてもそれほど味の変わらない合成うどんを受付に頼んで大人しく受け取る。


「わりぃ、待たせたな」


 同僚が待つテーブルに戻りながら一言侘びをいれて席に着くと、自分を待っててくれていた皆が目の前の食事に手を付け始める

 正直、食べるのを待っててくれなくもいいのだが、この変わり者の同僚達はきちんと全員が揃わないと食事を始めようとしない。


 以前、随分と皆礼儀正しいんだなと言った時に橘にこう諭された記憶がある。


『ご飯は皆で食べるもの、一人で食べても味気ないでしょう?』


 その言葉に、高説ごもっともだと納得しするしかなかった。

 小さな事ではあるがこういった小さな気遣いや、和を重んじる気持ちを改めて意識させられると、元の世界で少なくなってきていた日本人特有の人情を感じさせてくれ、くすぐったいやら恥ずかしやら思いながらも自分の心を暖かくしてくれた。


 母親が死んでから食事は殆ど一人でするのが基本だった。
 それは大学で一人暮らしをすれば益々顕著になり、麻美や友人達がいてもあまり食事に気を使ったとがなかったのだが、此処が軍だからか、共に戦う間柄だから、もしくは仲間だからか、変な話だがこういった家族染みたことに最初は戸惑ったものだ。


「なんや社ボーっとして?食わへんのか?」


 合成牛丼を既に半ばまで平らげた川井が聞いてきた言葉に苦笑を返し、目の前のうどんに箸をつける。


「嬉しそうだったが・・・・・・社はうどんに何か思い入れがあるのか?」


 今度は桐嶋が合成ラーメンを食べながら不思議そうに言ってくる。


「いんや何も・・・・・・ただ何となく嬉しくてな」


「・・・・・・」×2


 苦笑しながら言った言葉に、二人は気味が悪いモノでも見るような視線を無言で送ってくる。


「んだよ・・・・・・何もそんな目で見ることないだろ?こうして野郎だけで気兼ねなく飯が食えるのはいいもんだ」


「ああ、そうか・・・・・・だからリラックスしてるわけだなお前さんは?」


 同意してくれた桐嶋に大きく頷く。
 部隊を二つに分けて休憩を取る際に、密かに静流に打診して気兼ねなく休息を取らしてくれと頼みこんだのだ。


(ああ・・・・・・快適だ)


 効果は抜群だった、橘の『あの』視線や、葵からの抗議に晒されることなく休める時間・・・・・・なんて甘美な響きか。


「・・・・・・どうした川井?」


「・・・・・・いやなんでもあらへん・・・・・・整備班から聞いた話もあながち間違いでもないんやろか?」


 桐嶋と違って疑わしげな視線を送ってくる川井に声を掛けると、彼は小さな声でぶつぶつ呟きながら食事を再開し始めた。

 その姿にさして疑問に思うことなく、自分もうどんを盛大に啜る。

 合成だけど旨い、やはり食事はリラックスして食べるものだ・・・・・・気を使いながらするもんじゃない。


「~♪」


 ズルズルとうどんを啜りながら自分がどんどん上機嫌になっていくのが分かる。


「・・・・・・だがそれじゃ、瀬戸に失礼じゃないのか?」


「ん?・・・・・・そうなのか真奈美?」


 桐嶋の言葉に隣に座る彼女へ視線を向けると、彼女はさして気にする風も無く合成栄養パックを口に銜えていた。


「チュー、チュー・・・・・・はふぅ~・・・・・・そんなことないですよ?私も今かなりリラックスしてますから♪」


 ニコニコと彼女もやたら上機嫌で答えてくるが、合成栄養パックなんてモノを食べているあたり・・・・・・きっと普段の食生活を気にしてるのだろう。

 彼女が橘によって餌付け?されているのは部隊内で周知の事実。

 結果、過度の栄養摂取によって彼女は最近ある事で悩んでいる・・・・・・それを今此処で口にするのはデリカシーの無い人間のすることなので無論公言はしない。


 麻美も言っていたが、女の子のその部分だけは乙女のATフィールドが張ってあるとかなんとか・・・・・・


 まぁなんにせよ真奈美もあの二人から開放されてノビノビしているように見える。自分と同じように真奈美も頗る機嫌が良いように見えるのはそんな理由からだろう。


「は~幸せです・・・・・・今度から食事するときは二つに分けましょうよ~」


「ああ・・・・・・それはいい俺も賛成だ」


「隆さんもそう思いますよね?食事ぐらいゆっくりさせて欲しいです」


 深く頷いた此方に呼応するように真奈美もしみじみと呟く。


「なんか食べてる気がしないんだよな・・・・・・橘が合成カレー以外の食事とると何故か身体が震えるんだよ・・・・・・」


「わかります・・・・・・特に日替わりでたまに出てくる合成ステーキを栞さんが頼んだ日なんかは・・・・・・何故か隣に座りたくありません」


 ちなみに百里では時々常陸牛もどきとか言って合成ステーキがPXのメニューに並ぶ。
 結構人気のメニューで皆頼むのだが・・・・・・その時食事と配られるナイフにやたらと危険なものを感じているのはどうやら自分だけではなかったようだ。


「言える、しかも残したり・・・・・・じーっと肉を凝視なんかされてると特にな・・・・・・」


「はい、ほんとあの『瞳』だけはやめて欲しいです・・・・・・」


「ああ、やめて欲しい・・・・・・」


 真奈美と見つめあい、二人で深々と溜息をついてしまう。

 考えると最近真奈美とかなり意気投合しつつある、同じ苦労を持つ者
して当然の事かもしれない。


(苦労を分かち合える仲間ってのはいいもんだ・・・・・・)


 隣に座る、部隊で一番苦労してると言われる愛らしいちんちくりんの同僚に感謝する。


「・・・・・・真奈美、一応助言してやるとだな・・・・・・社がいなければ平穏は何時も訪れるぞ?」


 ぼそっと、桐嶋が合成ラーメンを食べる手を止めて呟く。


「へ?」


 桐嶋の言葉に真奈美は呆けたような表情を一瞬だけ見せて・・・・・・先ほどまでのリラックスした表情は何処にいってしまったのか、打って変わって無表情な顔を此方に向けてくる。


 なんて言うかアレだ・・・・・・ハイライトが無いと言うか、ロボット見たいな目と言うか・・・・・・真奈美、瞳孔開いてないか?


「ああ、隆さんがいるから私の平穏は無いわけですね・・・・・・隆さんやっぱりどっか行ってください」


「う、裏切る気か真奈美!?」


 無感情な言葉で言われて目じりに涙を浮かべて抗議する。

 せっかくの分かり合える仲間だと思ったのに・・・・・・あっさり自分が原因だと見抜かれてしまった!!


「食事は今度から社さんを除いたこの三人か、後は三澤さんを入れてということで」


「異議なしや」


「それは酷くないか?・・・・・・せめてテーブルを遠ざけるだけにしよう、そうすれば此方に被害は無いし俺が社の苦しみを見て楽しめる」


「お、おい、お前ら!?ってか桐嶋、お前さりげに酷いこと言ってないか?ナニ人の不幸を楽しんでやがる!?」


「じゃ、私は先に戻りますね~」


 自分の叫びを無視して、真奈美が席を立ってスタスタと入ってしまう、その姿から完全に此方に全てを押し付けようとする魂胆がアリアリと見て取れる。


「あぁ、待て真奈美!!話し合おう、人間は話し合って分かり合える生き物だ!!苦労は二人で分かち合おうじゃないか?・・・・・・へ?いい加減一回ぐらい刺されろ?ま、まて労災きくのか?ってか出たとしても絶対ゴメンだぞおい!?」


 無常にも去っていってしまった真奈美の背中に叫び続けるも・・・・・・無駄だと思い知って力なく机に突っ伏してうな垂れる。


(・・・・・・何故だ、飯ぐらい平穏に食べさせてくれ)


 明日から予定されるであろう食事の席の様子を思い浮かべながらシクシクと涙なんかを流して見たりする・・・・・・この野郎二人に望む効果などは全く期待できないが。


「で・・・・・・お前はなんて言うんだ?」


「なんだ・・・・・・藪から棒に?」


 案の定、合成ラーメンを食べ終わった桐嶋から意味不明な質問を投げかけられる。


「おいおい誤魔化すなよ、そろそろいい加減応えてやらないと大変な事になるぞ?」


「・・・・・・あ~そういう事ね」


 ニヤニヤと笑う姿と言葉から、彼が言いたいことを察する。


 まぁ察した所で具体的な回答など用意してないのだが・・・・・・


「勘弁してくれ、何時も言ってるだろう?俺には婚約者がいるから誰かと良い仲になる気は無いって」


 肩を落として返答した言葉に、二人の同僚は眉を顰める。


「お前はいっつもソレやな~・・・・・・建前でもいいから誰か一人でも決めておけば少しは静かになると思わへんのか?」


「建前って・・・・・・んなことしたら俺が横浜に戻るなり、結婚したりした時どう責任とるんだよ?」


「そんときはそんときやろ」


「お前ね・・・・・・」


「・・・・・・このご時勢やで?変な貞操観念は捨てろや・・・・・・今はまだいいけどな、その内大変な事故にでも繋がったら一番後悔するのはお前やで?」


「ぬ、ぬぅ・・・・・・」


 ある種の正論を川井に言われて呻くことしか出来ない。

 確かに・・・・・・男女間の拗れが原因となって、訓練中や任務中になにかミスが起こらないとは言い切れない。
 むしろ、今までよく何事もなくドタバタで済ませられてきたと感心する。


 それに川井の言うとおり、軍の最前線がそういった恋愛事と言うか肉体関係に対して非常にオープンだとは聞いているし、男が減りに減っている帝国軍の現状を鑑見るに・・・・・・この世界の倫理観には抵触しないのかもしれないのだが・・・・・・


(だからって、そう易々と出来るかんなもん・・・・・・)


 そう思う自分は、考え方が古いのだろうか?確かに元の世界でも、平気で浮気なり不倫なりする人たちは多くいたし、今時一人に操を立てるなど古臭い考えなのかもしれない。


 だが・・・・・・自分はソレでもいいと思う。


 相手のことを本当に大切にしているから結婚の約束も交わしたわけだし、彼女に再会した際に後ろめたい事無しに笑って彼女を抱きしめたい・・・・・・やはりこの考えは今後も守っていこう。


 決して麻美が怖いからじゃない・・・・・・前に浮気してると誤解されて地獄の七日間を味わったからじゃない。


 もう一度言う、決して麻美が怖いわけでは決して無い!!


「麻美ゴメン・・・・・・麻美ゴメン・・・・・・麻美ゴメン・・・・・・」


「なんや社?ぶつぶつ独り言いってからに?」


「は!?・・・・・・いやなんでも無い、昔のトラウマを思い出しそうになっただけだ」


 額に浮かんだ汗を拭いつつ乾いた笑顔を川井に送る。


「ふむ・・・・・・だが実際どうなんだ社?」


「何がだ?生憎と俺は【絶対命令】で決まっているから無理だぞ?」


 口を開いた桐嶋に感情の篭っていない声で答えてみる。


「ああ、それはもう分かった・・・・・・それでだ、一人に絞る必要もないだろう?」


「なぬ?」


 軽く危険な香りを感じさせる桐嶋の発言に驚く。


「だから一人に絞ることもないだろうと?・・・・・・皆囲ったらどうだ?」


 などとやはりとんでもない発言をしてくる。


「ば、馬鹿かお前は!?俺にハーレムでも作れってのか!?」


「そうだ、それが出来てこそ本当の男の甲斐性ってやつじゃないのか?」


 事も無げに言ってくる彼の発言に眩暈を覚える。


「・・・・・・勘弁してくれ、そんな現実麻美に知られたら洒落にならん・・・・・・ってか橘さえ気をつければいいんだから大丈夫だろう?」


「お前・・・・・・本気でソレ言ってるんか?」


「城崎はどうなんだ?」


「あん?葵?・・・・・・葵は特に問題ないだろう?」


 意味不明な発言を送ってくる二人に聞き返すと・・・・・・二人は揃って深い溜息を付く。


「・・・・・・空気が読めるようで読めてないんやな・・・・・・お前は」


「だな、ちなみに言っておくが、社が考えている以上にお前を狙う女性陣は多いぞ?ちなみに・・・・・・三澤さんや瀬戸はイマイチ微妙だが、城崎はお前に間違いなく気がある」


「HAHAHAHAHA、何を馬鹿なことを」


 人格崩壊を起こしかけながら片言で返答しつつ、先ほどの桐嶋の言葉を思い浮かべる。

 彼は皆を囲えと言った。皆とは麻美と橘のことかと思いきや、その範囲はもっと広いと言う。


(・・・・・・橘・・・・・・葵・・・・・・真奈美・・・・・・静流さん・・・・・・横浜もカウントすんのか?)


 色々と思考を巡らせて見る。


 家が一つある、その中に自分がいる、葵が隣で一緒に仕事をし、真奈美がソレを手伝い、橘が台所で料理なんかを作り、静流が縁側で雑誌を読みふけり、遙もその隣で本を読み、外では水月が犬なんかと戯れ、仕事疲れて帰ってきて喚く夕呼、それを宥めるまりも・・・・・・


 そして誰かとの子供がいたりいなかったり・・・・・・


(それ・・・・・・なんてエロゲ?)


 凄まじい状況に内心で冷静に突っ込みをいれながら、きちんと現実を考えてみる。

 葵が仕事でポカをやらかし、夕呼が切れてまりもが宥め、自分がそれを修復するために奔走し、真奈美がそれに巻き込まれてワタワタして、台所ではそんな様子を見ながら瞳にハイライトの無い橘が無言で包丁を持って、水月は何故かタンスの中に隠れて橘並みに危険な香りをかもし出し、遙はそんな光景に倒れ意識不明に、静流はそんなのに構ってられないとばかりに休日のお父さん宜しくゴロゴロしながら煙草吸って雑誌見ている現実・・・・・・ああ、言うまでもないが麻美がいたら、皆の目の前で裏に呼び出しくらって・・・・・・・・・・・・・・・・・・暫く表は出歩けなくなると思う。


「・・・・・・な、ないないないないいぃぃいっぃ、そんな現実は何処にもないぞ~俺はそんな物騒な生活はしたくないぞ~ご馳走様でした!!」


「お、おい、社!?」


「・・・・・・ふむ・・・・・・少し言い過ぎたか?」


 脱兎の如く現実から逃れて席を立った自分に二人が呆れていたりするのだが・・・・・・んなもんはもうどうでも良かった。








<瀬戸真奈美>


(ん~葵さんには悪いけど・・・・・・本気でそうしたくなってきた)


 PXから外に出て作戦に向け慌しくなりつつある駐屯地の様子を眺めつつ、シミジミト先ほどの発言を反芻してみる。

 栞と彼だけを二人きりにしてもいいのだが・・・・・・それだと葵が落ち着き無くキョロキョロし始めるから、やはり二人の中に混ぜたほうがいい。だがそうなると、その輪に自分から決して入りたくない・・・・・・あの瞳が増える場所に立ち会うのは本当に勘弁して欲しい。


 生きた心地が一切しないので葵には悪いが自分はやはり席を別にさせて貰うとしよう。


(ん~もしくは私が隆さんと一緒にいればいいのかな~)


 そしてどちらかのストッパーをすれば・・・・・・無理だ疲れる、それに余り彼と一緒にいるとその内きっと刺される。


「・・・・・・はぁ」


 どうしたものかと深々と溜息を付いた瞬間。


「あれ・・・・・・もしかして真奈美?」


 聞き覚えのある声を耳して、声のした方向へ振り向くと・・・・・・懐かしい顔ぶれが其処にあった。


「千恵?それに夏穂!?」


 数人の他基地の隊員の中に、見知った顔を見つけて思わず声を上げてしまう。


「久しぶり~真奈美~!!」


「良かった~真奈美も生きてたんだね~」


 元気よく此方の肩を叩くショートカットの茶髪の娘、名前は松崎千恵。自身を見るな否や、その大きな瞳に涙を一杯ためて泣きそうになるおさげの女の子名前は森夏穂。

 二人とも自分が訓練校時代の仲間だ、衛士になって各基地に配属が決まって離れ離れになってしまった同期の二人が目の前にいる。


「うん、生きてたよ・・・・・・生きてたよ」


 夏穂と同じように自分も二人の姿を見て泣きそうになってしまう。

 訓練校で苦楽を共にしたかけがえの無い二人、飛び級の自分と違って二人とも一つ年上だが、そんなのはお構い無しに仲良くしてくれた大切な友人。


 もう会えないと思っていた・・・・・・BETA戦の最前線に立つ衛士の生存率の低さから故に、配属が別々に決まってからは二度と会えないと覚悟していた。

 『死の八分』と言われる言葉がある、それは新人の衛士が初の実戦で生きていられる平均時間と教えられた。
 自分は前回の北海道で辛くもソレを乗り越えることが出来たが、多くの新人達がソレを乗り越えられず戦場で散っていったのも事実だ。

 また訓練校を卒業できても、戦術機の適正に落ちた人は歩兵や戦車隊、その他の様々な部署へと送られ・・・・・・危険な任務に就く、先ほどの時間は衛士特有のものであり、歩兵などの新人が生き残る平均時間は・・・・・・もしかしたらそれよりも短いかもしれない。


 そんな過酷な道を自分達は自ら選んだ・・・・・・だから別れの日には、盛大にお別れ会を開いて相手の今後を祈り、皆笑顔で出て行ったのだ。二度と・・・・・・笑って会えることが無いと覚悟を決めて。


 なのに再会出来た・・・・・・『死の八分』を乗り越えて、こうしてまた出会うことができた。


「・・・・・・千恵、夏穂、私達先に行くね」


「うん、後で追いつくから~」


 彼女たちの同僚がそう言ってその場から離れていく、再会した自分達に気を遣ってくれたのかもしれない。


「い、いいの?二人とも一緒に行かなくて?」


 余り二人の負担になるような事はしたくないと思って声を掛けると、二人はニッコリと笑みを作って此方の腕に手を回してくる。


「なに言ってんのよ真奈美!折角再会出来たんだから野暮なこと言わないの!!」


「そうだよ、まさかこんな所で真奈美ちゃんに会えるなんて思ってなかったんだから~」


「千恵、夏穂・・・・・・」


 そっと二人を抱きしめる・・・・・・強がっても意味は無いと二人は気づかせてくれた。

 その気持ちにそして葵や彼とは別として、心を許せる友達に会えたことに、今は本当に神様に感謝したくなった。


「・・・・・・う、うぅ・・・・・・」


「ちょっと、真奈美泣かないでよ・・・・・・ほら夏穂も~」


「えぐっ・・・・・・えへへ~千恵ちゃんも泣いてるよ~?」


 抱きしめあって三人で静かに涙する・・・・・・通り過ぎる他の隊員達はそんな此方に好奇の視線を送ってきても、咎めるような真似をする無粋な人は誰一人いなかった。


 むしろ・・・・・・まだ少女とも言える彼女たちが戦場の近くにいる現実に、彼女たちをこんな場所まで来させてしまった自分達の不甲斐無さを恥じる人達が殆どだったのかもしれない。


 だがこれが帝国軍の現状なのだ。女子供まで徴兵して戦場に送り込み、なんとか日本の崩壊を食い止める体たらく・・・・・・誰だって子供に戦場に立って欲しいと思ってなどいないだろう。


 だが仕方が無いのだ、そうまでしないと日本と言う国そのものが世界から消えてしまうのだから。





「それで・・・・・・今真奈美は何処にいるの?」


 再会の感動から落ち着いて、まだ食事を済ませてないと言う千恵と夏穂のために再度PXへと足を向けていた。


「私は茨城の百里だよ、二人は?」


「私達は群馬の相馬原だよ、何の偶然か千恵ちゃんと一緒の部隊になれたんだ」


「へ~良かったね~」


 嬉しそうに答える夏穂の言葉に心から共感する。

 気心がしれた友人が傍にいるのは何よりの救いになる。自分には葵という姉がいたが、皆が皆そんな環境に恵まれているわけではないだろう。
 大体が右も左も分からない基地に配属され、先任達に必死に追いつこうと努力し慣れるまでは一人で思い悩むに違い無い。


「・・・・・・真奈美、今百里って言ってたわよね?」


「そうだよ、どうしたの千恵?」


 言った瞬間、がしっと両肩を彼女に捕まれる。


「ってことはインパルスと一緒なのね!?ドルフィンライダーと今回一緒に来ているのね!?」


「う、うん、そうだよ」


 力任せに身体を揺さぶらされながらも、なんとか彼女の質問に答える。


「くぅぅぅぅ!!羨ましいぃぃぃぃ!!!」


「ど、どうしたの・・・・・・千恵?」


「千恵ちゃんね~インパルスの大ファンなんだよ~」


 急に叫びだした彼女の様子を夏穂に聞くと、夏穂はニコニコと笑いながらそう教えてくれた。


(ああ・・・・・・なんか分かるかも)


 内心で納得する。

 百里のインパルスといえば、航空祭の例もある通り帝国軍の花形部隊だ。あの勇姿に憧れを抱く若い衛士は数多く、かくいう自分も彼らの姿を生で見るまでは千恵と同じように憧れていて頃がある。


 だが現実は・・・・・・あっさりと此方の理想を砕いてくれた。


「松土少佐~~~格好良い~~~」


 などと叫びながら千恵は一人でクネクネし始める。

 確かに松土は格好良いだろう。あの戦術機の操縦センスといい、階級を感じさせないラフなスタイルといい、彼女がそう言うのも分かる気はするが・・・・・・事実は伏せて置いたほうがいいだろう、彼女の理想のために。


(暇さえ見つけては昼寝してるなんて言えないしね・・・・・・)


「ねぇねぇ、インパルスは何処で整備してるの?雪風持ってきた?PXに行けば会える?松土少佐って彼女いるの?」


「ち、ちょっと千恵落ち着いて・・・・・・」


 機関銃のように質問攻めをしてくる千恵に軽く引きながら後ずさる。


「そうだよ千恵ちゃん落ち着いて~折角真奈美ちゃんと会えたんだからもっと別の話しようよ~」


「む・・・・・・確かに夏穂の言う通りね、そのあたりは後でゆっくりと教えて貰うわ」


(やっぱり・・・・・・訊くんだ)


 内心でそう突っ込みながら苦笑する。直情思考の千恵と、おっとりしてるがきちんと周りを戒める夏穂、二人とも訓練校の頃から何も変わってないことを嬉しく思う。


「あ、真奈美ちゃんまた笑った~~」


「へ、なに?」


 急に夏穂がそう言ってニコニコと幸せそうな笑顔を此方に向けてくる。その理由が分からずに首を傾げると。


「うん、私もそう思った・・・・・・真奈美あんたよく笑うようになったんだね?」


「ふぇ?なんのこと?」


 やはり二人の言ってる意味が理解できない。


「ふぇ?だって、聞いた夏穂?」


「聞いた~真奈美ちゃん可愛い~~」


「な、なんなの~教えてよ~」


 笑い合う二人に泣きつくと、二人はしみじみと話し始めてくれた。


「・・・・・・訓練校の頃、あんたあんまり笑わなかったでしょ?」


「そ、そうかな・・・・・・?」


「そうだよ、真奈美ちゃん普段はけっこうブスっとしてて・・・・・・でもあの光菱のお姉ちゃんが来た時はたまに笑ってたかも」


「え、ええぇ・・・・・・私そんな嫌な子だったかな?」


 二人にはっきりと言われて流石に考え込んでしまう。


 確かにあの頃は、葵の家から出て帝国軍の訓練校に入校し、母と姉の敵を取るために躍起になって訓練に励んでいた自分がいたような気がする。
 今にして思えば悲劇のヒロインぶっていただけだ・・・・・・自分と同じ境遇の人間は多かったと言うのに、ソレに気づけなかった自分が、当時どれだけ子供だったかを思い出して情けなくなってくる。


 確かに自分の行動を思い起こせば・・・・・・二人にそう言われるのも少し納得できる。


「真奈美ちゃんが笑ってくれて私は嬉しいな~」


「なになに?真奈美なんかあったの~?」


「べ、別に何もないよ・・・・・・」


 きっと葵のお蔭だろう、自分がこうして変われたのは・・・・・・彼女に心配かけまいとするため、人として強くなろうと決めたからだ。


「・・・・・・誰か良い人でも出来たの?」


「!!」


「あれ真奈美ちゃん顔赤いよ~?どうしたの~?」


 千恵の一言でビクッと身体を震わせてしまう、しかも必死に動揺する顔を隠したのにあっさりと夏穂に見られていた。


「え!本当に!?だれだれ、今回の派遣にもしかして一緒に来ているの!?」


「そ、そんな人いるわけないでしょ!!」


 思わず声が裏返ってしまうが、そんなのどうでもいいなんで夏穂に言われた瞬間、彼の顔が過ぎった事実など認められるわけも無い。


(あ、ありえない・・・・・・だってそんなこと考えようなものなら・・・・・・栞さんに)


 ブルっと先ほどとは違う意味で身体を震わせる。
 そう、きっと自分の思い違いに決まっている・・・・・・そもそもなんで私があんなシスコンでロリコンでグラサンな人なんかを・・・・・・


「真奈美ちゃんぶるってる~へいへいへい~♪」


「か、夏穂・・・・・・その変な掛け声止めてって前に言ったよね・・・・・・」


 夏穂が訓練校の頃よく口にしていた奇妙な掛け声を言い始めたので・・・・・・流石に恥ずかしくて止めようと声を掛けた瞬間・・・・・・


「あれ?真奈美その子達知り合いか?」


 歩くグラサンが目の前から歩いてくる・・・・・・


「・・・・・・や、社中尉・・・・・・」


 このタイミングを齎した運命に文句を言いつつ、頬が引きつるのを自覚しながら現れたグラサン野郎になんとか敬礼をする。


「あん?・・・・・・ああ、そうか」


 ガチガチの敬礼だったと思うが、彼はどうやら何かを察してくれたらしく、きっちりと返礼を返してくれた。

 苦笑してるところを見る限り・・・・・・バレバレなのかもしれないが・・・・・・


「瀬戸少尉、そちらの二人は?」


「失礼しました中尉殿!!自分は相馬原基地・第13機甲部隊所属の松崎知恵少尉であります!!」


「同じく、同部隊所属の森夏穂少尉です!!」


 自分が説明する前に、二人はびしっと背筋を伸ばして彼に挨拶を始めてしまう。


「ああ・・・・・・百里基地から来た社隆中尉だ・・・・・・お互い派遣された立場だな宜しく頼む」


 彼は言って二人ににこやかに笑みを送る。


(出た!!幼女キラースマイルだ!!)


 彼が時々、他の部隊の女性などに見せる余所行きの笑顔にそう名づけた栞の姿を思い出してしまう。

 まぁその字をつけた栞のセンスは正直どうかと思うのだが・・・・・・


「・・・・・・」


 爽やかな笑みを浮かべるグラサンをジト目で見るのだが、そんな此方の視線などお構い無しに彼は会話を続ける。


「二人は瀬戸少尉の知り合いなのか?」


「は、はい、訓練校で同期でした!」


「同期・・・・・・なるほどね」


 千恵の言葉に彼は納得したように頷く。


「・・・・・・三人とも、会えて良かったな」


「は、はい、ありがとうございます!!」


 呟いた言葉に夏穂が瞳をウルウルさせながら答える。

 此方に優しげな言葉を送ってくるあたり、彼も訓練校の同期と再び会えた自分達へ気遣ってくれたのかもしれない。

 考えてみれば彼だって軍での経歴は自分よりも長い筈だ。以前は衛士では無かったそうだが、それでも彼も訓練校での仲間や以前の同僚達が居たに違い無い。
 だがその手の昔話を聞いた記憶が一切無い・・・・・・普通なら以前の仲間の話ぐらい出るものだが・・・・・・もしかしたら彼の仲間はもうダレもいないのでは・・・・・・


「・・・・・・」


 一人ぼっちの彼の姿を思い浮かべて何故か無性に悲しくなる。

 彼は基本的に自分の過去を話さない、そして代わりに此方の過去も詳しく聞いてこない気がする。
 恐らく誰かから自分が母や姉を失ったと聞いてはいるだろうが・・・・・・そういった話しを彼に振られた記憶が一切無い。
 自分を気遣っているのかと思ったが・・・・・・もしかして、そう言った話をしないことで自分の悲しい過去を思い返さないようにしているだけではないのだろうか?


(・・・・・・そんな・・・・・・ことないよね?)


 内心で呼びかけても彼に通じる筈が無い。


「あ、あの社中尉・・・・・・お聞きしても宜しいでしょうか?」


「なにかな?」


 いや・・・・・・きっと自分の思い過ごしか、でなければ何時もあんな軽いのりで振舞い続けることなど出来ないだろう。
 千恵と夏穂に話しかけられにこやかに笑いながら答える彼の姿から、そんな重いものを抱えているとは到底思えなかった。


「社中尉がもしかしてインパルスのドルフィンライダーなんでしょうか?」


「はっははは、いや違うよ・・・・・・俺なんかじゃ彼らの足元にも及ばないさ・・・・・・俺の腕じゃ瀬戸少尉にも届かないぞ?」


「ええ!?真奈美そうなの!?」


「真奈美ちゃんすご~い」


 彼の言葉で二人は此方に驚きの言葉を送ってくる。


「え、ええっと・・・・・・私の部隊には斯衛に推薦されるほどの人もいたし・・・・・・私なんかは・・・・・・」


「斯衛!?ち、ちょっと超エリートじゃない!?真奈美その人千恵に紹介して~!!」


 どうやら火に油を注いでしまったようだ。


(ど、どうしよう・・・・・・)


 エスカレートし続ける千恵の様子にほとほと困って彼へ救いの視線を向けると・・・・・・


「ああ、そんな人からも・・・・・・真奈美の腕は確かだって御墨付きが出てるぞ」


「す、凄い・・・・・・真奈美、適性も高かったけど・・・・・・才能もあったんだね」


「うう~真奈美ちゃん羨ましいな~私なんかずっと足手まといにならないように必死なのに~」


「ち、ちょっと隆さん・・・・・・」


「突撃前衛として部隊の切り込み役として欠かせないし・・・・・・今回、その腕を見込まれて乗機も上の機体に切り替わったからな」


 どうやら彼はこの茶番を止める気が無いように見える。


「本当に部隊の皆は真奈美に期待してるんだよ・・・・・・その期待を一手に引き受けてソレに応えてる彼女は本当に凄いと思ったぞ?」


 止めて欲しいと心から思っているのだが・・・・・・こうして人前で褒められるのは・・・・・・恥ずかしいけど悪い気はしなかったりする。


「だからだ・・・・・・君達も真奈美みたいな同期を持てたことを誇りに思い、自分達も彼女と並べるように日々精進してくれ」


「はい!!」×2


 随分と偉そうなことを言った彼に、二人はそれはもう立派な敬礼を送る。


(うぅ・・・・・・恥ずかしいよ~)


「あれ?真奈美どうしたの?」


「な、なんでもない!!社中尉!お時間を取らせて申し訳ありませんでした!!私はコレで失礼します!!」


 ビシッと二人に負けない敬礼を送り、そそくさとその場から離れる。
 決して恥ずかしいとか、彼の顔をマトモに見れないとかじゃない、アレだそろそろ二人を解放しないとマズイと思い行動に移しただけだ。


「ま、真奈美ちゃ~ん?・・・・・・ええっと、中尉私達もこれで失礼します!」


「ああ、真奈美には急いで戻る必要は無いと伝えてくれ・・・・・・上官には俺から話しておくから」


「はい!!ありがとうございます!!」


 そんな会話が後ろで聞こえてきたかと思うと、すぐさま追いついてきた千恵が肩に腕を回して耳打ちしてくる。


「真奈美!!あの人ナニ?サングラスが怪しいんだけど!!」


「・・・・・・よかった、洗脳されたわけじゃなっかたんだ・・・・・・」


 全うな疑問を聞いてくれた千恵の言葉に救われ、思わず涙が流れてくる。


「あの人はああいう仕様なの・・・・・・気にしたら駄目だよ?」


「そうなんだ変わった人だね~でもなんか優しそうな人だったね~」


「うん、それは私も思った・・・・・・なんかこう、近所の良いお兄さんって感じ?」


「例え良いお兄さんに見えても絶対付いていっちゃ駄目だからね?」


 やはり何やら軽く洗脳されているようなので、きちんと釘だけは刺しておく。


「え~そうなの?・・・・・・ってかあの人真奈美のナニ?」


「な、ナニって・・・・・・上司だよ?」


「でも真奈美ちゃん隆さんって名前で呼んでたよ~?」


「!?い、いいから早く行くよ!!PXも閉まっちゃうんだから!!」


 内心の動揺を必死に隠しながら・・・・・・そう言って駆け足でPXに向かうのだった。









<社 隆>


(同期ね・・・・・・)


 楽しそうに話ながらPXに向かっていく三人の背中を見送って感慨深く内心で呟いてしまった。
 同期・・・・・・いや友人と会えたからか、何時もの姿とはまた違った真奈美の姿を見ることが出来た。

 部隊で一番若いくせに何かとしっかりしている彼女、衛士としての腕も確かで軍の観点から見れれば十分自分よりも真奈美のほうが優秀と評価されるに違い無い。
 少し先ほどは褒めすぎただろうか・・・・・・だが人間って奴は、目の前で自分の好評価を他人に伝えられると嬉しいものだ。

 誰だって褒められたい・・・・・・そう自分の教育方針は褒めて伸ばすだ。
 ちなみに麻美は厳しくがモットーらしく、たまに意見が衝突したのもいい思い出だ。


「なんにしろ・・・・・・・・・羨ましいもんだ」


 苦笑して機体の整備が行われている野外ハンガーへ向かって歩き出す。

 真奈美はまだ17歳と聞いている・・・・・・元の世界ならまさしく花盛りで青春を謳歌すべき時期だと言うのに、彼女は日々訓練で汗を掻き泥にまみれている。とてもじゃないが、その生活が彼女にとって有意義なものだと思ったことなどない。


 だが・・・・・・そんな彼女を見ていても最近何も思わなくなった自分がいた・・・・・・


 慣れたのか、それが当たり前だと思い始めたのか・・・・・・そんな風に平然とその事実を受け止めていた自分の思考に嫌気が差す。


(・・・・・・やれやれだな)


 内心で苦笑する、どうやらまた元の世界の視点でいらぬ考えをしてしまったようだ。


 例え真奈美が日々に苦しんでいたとしても・・・・・・先ほどの彼女ははどうだったろうか?


 元の世界の女子高生・・・・・・とまではいかないが、ソレに準じるくらいに歳相応に見えた。
 きっと暫くぶりに会えた同期の仲間に気を許していたからに違いないだろう。部隊の仲間や、葵なんかと居るときとも違う彼女の笑顔が見れた事が純粋に嬉しかった。


 やはり・・・・・・仲間ってのはかけがえの無いものだと思う。


 学生時代の限られた時間の中で得られた友人関係は、人しての成長を促し、心情的に支えにもなってくれる筈だ。


 人は一人でも生きてけるかもしれない・・・・・・だがソレは余りにも寂しい生き方だ。
 元の世界では人の繋がりを絶って生きていくことは不可能ではなかった、だがそんな生き方を重ねれば人としていつか破綻をきたすに違い無い。

 だから父親には感謝している、自分を大学まで上げてくれたことで自分は大きく成長することができた。
 高校までは主に勉強をする場所だが、大学は少し違う・・・・・・あそこは様々な人と触れ合い人生勉強を経験しながら、社会に出る直前に人との繋がりを多く作り、ソレを何時までも大切にしていくために必要不可欠な場所・・・・・・自分が経験した大学ってのはそんな感じだ。

 むろん勉強を疎かにしてはいけないのだが・・・・・・あの時期が一番楽しかったと今でも思っている。


「・・・・・・ナニをニヤニヤしてるんだ・・・・・・お前は?」


「ぬぉ!?・・・・・・ま、松土少佐・・・・驚かさないでくださいよ」


 突然目の前に現れた彼の姿に飛び上がってしまうが、彼はそんなこちらに冷ややかな視線を送ってくる。


「いや驚かしたつもりは無いんだが・・・・・・むしろお前が怪しさ炸裂してたぞ?」


「ぬ、ぬぅ・・・・・・」


 なにも反論できない。思考に埋没していたので自分がどんな風にしていたか全く分からない。


「隆・・・・・・探したぞ」


「?・・・・・・どうしたんですか静流さん?」


 松土の背後から現れた彼女も何故かヤレヤレと肩を竦めている。


「予定に変更があってな・・・・・・明日の式典に自分達も立ち会うことになった」


「はぁ・・・・・・それはそれは」


 生返事を返す、式典に参加と言っても部隊長クラスだけと鷹を括って。


「随分と他人事だな社?インパルスからは俺と杉原、ランサーズからは三澤とお前だ」


「はい?」


 苦笑しながら言った松土の言葉の意味が分からない。

 何故に?自分が?式典?そんな人の多いところに自分に出て行けと?


「ち、ちょっと待った!!ええっと煌武院殿下が来る式典ってことは・・・・・・かなり警備が厳しいですよね?」


「もちろんだ、斯衛や帝都から来た精鋭が回りを固めているからな」


(ああ、そんな平然と言われても・・・・・・)


 三澤の言葉に胸中で涙を流す。

 ・・・・・・最近忘れがちになるが、この世界の金谷隆はテロリストなのだ。そんな人間と同じ顔の自分が帝国軍の最高権力者が来るような場所に行けば・・・・・・今度こそ誰かに正体を知られてしまうのではないだろうか?


(まずい・・・・・・非常にこれはまずい)


「え~・・・・・・他の誰かに頼めば・・・・・・」


「無理だ、川井は斯衛に目を付けられているし、橘や桐嶋は明日の外周警護の部隊に組み込まれている・・・・・・城崎は瀬戸の機体調整を手伝うとの話だから・・・・・・搭乗待機のお前ぐらいしか暇な人間がいないんだよ」


「・・・・・・警護を俺が誰かと代われば・・・・・・」


「二人とも面倒だからいいとの事だ」


(おいおい・・・・・・二人ともソレは流石に問題発言じゃないのか?)


 眩暈を覚えて思わず空を見上げてしまう。

 青い空・・・・・・本当に綺麗だな・・・・・・何もかもどうでも良くなって空を飛びたいな~・・・・・・佐渡島の重光線級に狙われるけど。


「・・・・・・ほ、ほら国連の人間がそんな場所にいったら場違いでしょう?ソレにほら、俺ってグラサンだし見るからに怪しいし?」


 現実逃避しつつも何とか式典から逃れようとアレコレと言い訳をしてみる。


「ああ・・・・・・なに、問題無い様に今から仕込むから安心しろ」


「し、仕込むって・・・・・・ナニを?」


 言った瞬間、ガシっと腕を静流によって拘束される。まりもと同じで細い腕のくせに凄まじい力で此方の腕を締め上げてくる。


「だからお前を探していたわけだ、今から相馬原基地まで行って明日の式典用の制服を借りてくるぞ、運転は任せたぞ」


「んな無茶苦茶な・・・・・・」


「サングラスの件も考えてある、私の眼鏡を貸してやろう・・・・・・なに度が入ってなくて、UVカットがされてる代物を偶然持っていたからな」


 三澤の眼鏡のしたの瞳がキラッと光ったような気がしたが・・・・・・あながち見間違いではなかったかもしれない。
 ズルズルと腕を引っ張られ、三澤によって引きずられて行く、足掻いてもどうしようも無いと思いつつも必死に助けは求めて見る。


「ま、松土少佐!?ちょっと助けてくださいよ!!」


 ヒラヒラと手なんか振りながら見送ろうとしている彼にそう言ったものの・・・・・・


「頑張ってな社・・・・・・ちなみにコルセットはけっこうキツイだろうけど耐えろよ?」


「は?・・・・・・コルセット?」


 意外な単語に首を傾げて思案し・・・・・・


「ま、マジっすか!?ちっと待ってよ静流さん!!俺にそんな趣味は無いから・・・・・・いや昔、遊びで着た事くらいは・・・・・・いや待って・・・・・・あ゛~~~~~~」



 そんな抗議もなんのその・・・・・・ドナドナ宜しく、彼女に連行されていくのだった・・・・・・






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