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「Muv-Luv 小説」
第一部

槍訪問編 第3話

 


 槍訪問編   かれと猪、そして狐と女王様


 2001年4月9日 15:00
 横浜基地  戦術機シミュレーター室


<社 隆>


「さて・・・・・・こんなもんか」


 シミュレーターで行われている模擬戦は未だ終わっていないが耳につけたインカムを外して席を立つ。
 隣に座っていた遙に目線で後は頼むと伝え、いそいそと管制室から外に出る。


 ちなみにイリーナさん経由で、夕呼さんから呼び出しを受けたのだ・・・・・・決して逃げ出すわけじゃない。


(ありがとう夕呼さん・・・・・・やっぱ俺貴女に付いていくよ)


 でも此処から離れる理由が出来たのも事実なので素直に感謝する。

 基地の案内が途中になってしまったが・・・・・・まぁ子供じゃないんだし、大丈夫だろう。


「さてと・・・・・・第三応接室だったな」


 確認するように呟きながらシミュレーター室から出て行くべく歩き始める・・・・・・と、出口付近に集まる人だかりを見て思わず足を止めてしまった。


 10人ぐらいの・・・・・・子供と言っても差し支えない少女たちが、模擬戦の光景が映し出されている大型モニターに釘付けになっている。


(ああ・・・・・・確かまりもさんが訓練兵に模擬戦の様子を見せたいとか言ってたなぁ)


 そんなことを思い出しながら再び歩き出す・・・・・・なんでも初期課程の訓練を終え、戦術機への搭乗資格を得るために四月から横浜基地へ赴任してきた新規の訓練兵だとかなんとか。

 要するに衛士の卵達だ・・・・・・見たところ随分個性豊かな少女たちだが、この世界に来てからと言うもの、ありえない色彩の髪色を持った人を何人も見てきたので今更驚くに値しない。


(・・・・・・なんだあのピンクの髪?寝癖ってレベルじゃないぞ?鋭角的にも程がある・・・・・・ってかなんだよあの三つ編み?幾らなんでも長すぎ・・・・・・あれ?あの薄紫の髪の子どっかで見たような・・・・・・いやそれ以前にあのちょんまげの如く聳え立つ髪型・・・・・・針金でも入ってるのか?)


 やっぱり無理だった・・・・・・髪の色以前に、今まで見たどの人間よりもありえない幾つモノ髪型に目が釘付けになってしまった。

 これも全ては合成食料のせいだろうか・・・・・・?
 となると、どうやら若い世代ほど影響を受けるようだ・・・・・・霞や真奈美が普通でほんと良かった。


「・・・・・・ッ!?」


 ボーっと歩きながらそんな少女たちを眺めていると、此方の視線に気づいたのか薄紫の髪の少女が此方へ素早く敬礼を送ってくる。

 その少女の後に続くように10人の少女が一斉に敬礼を送ってくる・・・・・・なんとも壮観な光景ではあるが・・・・・・


(止めてくれ・・・・・・流石に恥ずかしいぞ)


 ぎこちなく答礼してみるが、どう見ても訓練兵の少女たちのほうが立派に見える。

 少女たちほどの真剣さをもてない自分に嘆息していると、まりもさんの姿が無いことに気づく。訓練兵に見学を指示して、本人は所用でも済ませているのだろうか?


(・・・・・・ふむ)


 自分の歩く進路上、しかも気づかれたとなっては・・・・・・声を掛けないわけにもいかないだろう


「大変だな君達、立ち見だと首が疲れないか?」


 何気なく声を掛けただけなのだが・・・・・・少女たちが揃って驚愕の表情を浮かべる。

 はて、何かおかしいことを言っただろうか?
 自分の発言の内容を思い返してみるが、それほどおかしいことを言ってないはずなのだが・・・・・・


「はッ!!お心遣い感謝いたします!!ですが私たちは未だ訓練兵の身でありますので、戦術機の模擬戦の様子を見られるだけで光栄であります!!」


「そ、そうか・・・・・・そりゃよかった」


 三つ編みの子がやたらと張り切って答えてくれる、その迫力に思わず後ずさりしてしまった。

 見れば皆さんキリッと真剣な表情をしてらっしゃる・・・・・・若いっていいね、ほんと。


「・・・・・・あ~まり・・・・・・っと神宮司軍曹は?」


「はッ、現在神宮司軍曹は席を外しております!」


「・・・・・・君、あんまり肩肘はらなくていいぞ?まだ訓練兵なんだし」


「ち、中尉殿!?」


 皆が皆、目を剥いて此方の発言に驚いている。

 そんな少女たちの態度を見て肩を竦める、訓練兵に労いや気遣いの言葉を掛ける士官は確かに珍しいかもしれない。

 訓練兵時代といえば軍の規律や厳しさを徹底的に叩き込まれる時期だと聞いている。
 当然教える側は鬼の如く苛烈な指導をしているのだろうし、階級の何たるかを身をもって教え込まれているのだろうから、少女たちの反応にも頷ける。
 
 少女たちほど長い期間では無いが、自分も此処で扱かれた記憶は残っている。
 百里に出張する前にまりもさんや伊隅大尉から特急で軍人になるべく指導され、完全縦割り社会を教え込まれたのだ。

 上が黒といえば白いものも黒になる・・・・・・下はそれに従い、上は自分の出した指示に責任を持たなければならない。

 それは別に軍や警察といった仕事だけでなく、民間の会社にもある程度同じことが言える。

 社員にしろ兵士にしろ組織の中で個人は一介の駒にしか過ぎない、そこに個人の意思を反映ささる必要は無く、ただ上からの指示に従い全体の利益や効率に励めばいい。


 よく個人の個性を尊重しろだとか、意思を持たせるべきだと公言する奴がいるが、そういった意見を言えるのは大きな組織に組み込まれたことの無い人間が言う台詞だ。

 大きな組織の中に組み込まれた人間はそんな甘い台詞は履かない、なぜなら幾ら良かれと思って行動したとしてももし失敗すれば、自分が勝手に行った行為で多くの人間に迷惑をかける可能性を知っているからだ。
 自分で自分の尻を拭けるレベルの話なら責任もとれるが、組織が大きくなればなるほど組織が扱う仕事の責任は大きなものとなり、個人では到底背負いきれないものになる・・・・・・そんな時こそ、上に立つ人間が支持を出した責任をとるのだ・・・・・・上に立つ人間に必要なのには実力云々よりも、役職に見合った責任を取る覚悟を持つことだろう。


 それを・・・・・・自分は知っているから、軍人になることにそれほど抵抗は無かった。


 金を稼ぐための仕事か化け物を殺すための仕事、ただそれだけの違い・・・・・・その程度の割り切りはとうに出来ている。


 だが・・・・・・そんな考えを年端も行かない少女が持つものじゃない。


(・・・・・・こんな子供が軍に入って戦うわけだ)


 年端も行かない少女たちの姿に自然と溜息が漏れる。


 徴兵という名の元に少女たちを戦場に送り込む・・・・・・

 これがこの世界の、日本の現状だと頭では理解している。
 現に少女たちと同じ年代の真奈美が部隊にはいるし、先日の新潟では真奈美の同期の姿も見た、度重なる戦闘で人的不足が顕著になった日本が10代の少女を戦場に駆り立てている現実を自分は見てきた。


 だからと言って、それに納得しているわけじゃない。


 未成年、下手をすれば親の庇護下にあってしかるべき年齢の子供たちが、泥にまみれ、血反吐を吐いて訓練に明け暮れる・・・・・・そんな現実に納得など出来るか。


 遊べよ、楽しめよ、人生で最高に楽しくて、一番輝いている時期をもっと謳歌しろと叫びたくなる。


 子供は子供らしく・・・・・・無邪気に遊んで、大人に一歩一歩近づけばいいのに・・・・・・この世界の連中ときたら。


(子供くせに・・・・・・頑張りすぎなんだよ)


「あ、あの中尉殿・・・・・・私の発言がなにか?」


 さっきから此方の言葉に答えてくれる三つ編みの少女が不安そうに聞いてくるのに気づき、軽く手を振って答える。


「いや、なんでもない・・・・・・気にするな」


 この世界の現状に、他所の世界から来た異物たる自分がケチを付けても仕方が無い。

 BETAなんて化け物のせいで、人が人らしく平穏に暮らせる権利を剥奪された世界、人類全てが戦いに明け暮れ非生産的な生活に明け暮れる・・・・・・まったく持って最悪な世界だ。

 胸糞が悪くなった此方の様子を訝しげに見る少女と、大型モニターに映る戦術機の姿に目を奪われる少女たち。


「・・・・・・シミュレーターとは言え、戦術機の戦闘機動を見るのは初めてか?」


「はッ!!そうであります!!」


 今度はカチューシャをつけた少女が答えてくる・・・・・・何処かで見た顔のような気がするが、気のせいだろうか?


「そうか、ならしっかりと目に焼き付けておくんだな・・・・何れは君たちが乗る代物だ」


「は、はい~!・・・・で、でも私にあんな動きができるかな~」


「珠瀬ッ!!」


 やたらと鋭角的なピンクの髪の少女が自信なさ気に答えると、三つ編みの少女がすぐさま叱責する

 上官の前で弱音を吐くなと言う意味なのだろうが・・・・・・気にしなくてもいいものを。


 ふと自分もモニターへと視線を向ければ、二機の不知火が連携を組みながら一機の不知火を追い詰めている。


 追い詰められているのは川井のようだが・・・・・・あの野郎やる気無いな、無様な機動を見せてからに・・・・・・訓練兵が見てると言うのに・・・・・・

 そう思いながら訓練兵たちの顔を横目で見るが、全員食い入るように見入っている・・・・・・まだ乗ったことの無い少女たちに戦術機の機動概念が分かるはすも無いか・・・・・・


「国連軍の人たちもやっぱり凄いんだね~~」


 小柄だが少年と見間違うほどボーイッシュな少女がそんな感嘆の声を漏らす。


「国連ね・・・・・・ちなみに言っておくが、半分は帝国軍の人間だぞ?」


 いらぬ解説だろうが一応少女たちに教えてやると・・・・・・・・・・・・もう何度目だろうか、少女たちは揃って驚いた表情を此方に見せてくる。


(顔・・・・・・疲れないのか?この子たち)


 そんなどうでもいいことを心配していると、驚いた表情を浮かべる少女の中に、一人だけ周りと違う表情をしている少女を発見してしまう。


 最初に此方の視線に気づいた薄紫の長い髪を持った少女だ・・・・・・浮かべる表情は、戸惑いと・・・・・・憤りだろうか?


「・・・・・・そこの訓練兵、何か言いたいことがある顔をしているな?」


「はッ!!いえ、そのようなことは・・・・・・」


「いいから言ってみな、上官侮辱罪とかつまらないことを言う気は無いから」


 明らかに言いたそうにしている少女へ苦笑しながら答える。


「はッ!!お心遣い感謝いたします・・・・・・では僭越ですが、何故帝国軍の衛士が国連の基地にてシミュレーターで模擬戦をしているのでしょうか?」


「何故って・・・・・・」


(はぁ・・・・・・ほんとの理由言えるわけないだろう)


 上手く返答できず言葉に詰まってしまう。


「・・・・・・帝国軍の衛士が国連の基地にいたら不自然か?」


 ならば聞き返してやれと思いそう少女へ問いただすと、少女は背筋を伸ばして答えてくる。


「はッ!!帝国軍の将兵は日本を守るための剣であり盾であります、そのような貴重な戦力を後方たるこの横浜基地に燻らせておくのは誠に惜しいと感じます!」


「ふぅん・・・・・確かにな・・・・・・ちなみに俺も帝国軍の衛士だが、本人を前にしてもその台詞を君は言えるか?」


 目の間にいる一見(制服は横浜にいるので国連仕様)して国連側の人間たる人物が、帝国軍だと自ら発言したことに少女は一瞬惑ったようだが、瞳に強い力を籠めてはっきりとした声音を上げる。


「はッ!!中尉殿が帝国軍の将兵ならば尚更です、佐渡ヶ島に巣食うBETAの脅威を一刻も早く排除することに全力を注ぐべきかと!」


(訓練校で一体何を教えこまれてくるのやら・・・・・・洗脳やら催眠で暗示、なんてことが起きてても不思議じゃないなコレは)


 年齢に似合わない少女の発言にうんざりしながら、そんな想像を膨らませる。


 考えてみればだ・・・・・・第二次大戦中の日本人の思考を思い返してみれば、戦場へ子供たち送り出すために訓練校で全うな手段を用いてない可能性も有り得る。


「なるほど確かにそうだな・・・・・・だが訓練生何事にも理由はある、自分たちが此処にいる理由を話すわけにはいかないが、自分たちもれっきとした帝国軍の将兵だ、この国を守るために戦っていることに違いは無い」


「はッ!!失礼な発言、誠に申し訳ありません!!」


 言ってきっちり頭を下げる少女。

 正直な話、百里の連中が此処にいるのはきっと葵のこじ付けのお蔭だし、模擬戦を行っている理由は・・・・・・極めて私情が挟んでいるわけで・・・・・・それを考えると出来れば頭を下げてなど欲しくないのだが。


「・・・・・・中尉、逃げた?」


「あはははは、彩峰~そりゃ言い過ぎだよ」


 長身の二人の少女がそんな言葉を交わすのを聞き逃したわけじゃないが、咎める気は一切なかった。

 黒髪の少女の言うとおり自分は逃げたに過ぎない、こんなところで下らない論争に付き合う気が無いのよりも、自分が少女の問いに答えられる回答を持っていないからだ。

 薄紫の髪の少女が明らかに落胆した様子だったが、考えてみれば其処まで日本を憂う彼女が何故帝国軍では無く国連に入隊したのだろうか?


(まぁ・・・・・・色々あるんだろうな)


 内心でそう決め付け訓練兵たちの姿を眺める。

 この少女たちが早ければ半年もしない内に戦場へ立ち、BETAと殺し合うために戦術機を駆って命がけの戦闘を繰広げる。
 そして若い命を戦場に散らせる・・・・・・その責は誰がとるのか?自分たち大人なのだろうか?それとも・・・・・・志願して此処にいる本人たちなのか。



 まったく・・・・・考えれば考えるほど頭の痛い世界だ。



「まぁなんにせよだ・・・・・・君たちは神宮司軍曹の教え子なわけだな?」


「はッ!そうであります」


「そうか・・・・・・なら俺の後輩に当たるわけだ、彼女の教えは厳しいだろうが・・・・・・頑張って耐えてくれ」


 一ヶ月にも満たなかったが、まりもに訓練と称して数々の仕打ちを受けたことを思い出して苦笑する。
 この少女たちはその仕打ちを半年近く受けるのだ・・・・・・不憫としか言いようが無いだろう。


「ち、中尉殿も神宮司軍曹の指導を受けたのでありますか!?」


「ああ、まぁな・・・・・・彼女の指導はとんでもなく厳しいい頑張ってが耐えることだな・・・・・・何故軍曹が其処まで厳しく接するのか、その意味をよく考えてな」


 松土少佐に聞いたことがある、訓練兵時代に受ける教官の指導の厳しさは想像を絶するものだと、だがその訓練が厳しければ厳しいほど実戦に出た際自分自身の心の糧になるらしい。


「人から教えを受けるってことはな、その教えを聞く姿勢をまずつくることだ・・・・・・教える人間が何を伝えたいかを聞きわけ、自分の価値観を抜きにして教えられた言葉の意味を考えるんだな・・・・・・・・・・君らはまだ若い、自分の意思を持つのも大切なことだが、今はまだ先人たちに教えを乞うべきだな・・・・・・あまり考え過ぎると・・・・・・老けるぞ?」


「そ、そのようなことは・・・・・・」


「ふっ・・・・・・なんにしろ軍曹は厳しいかもしれないが出来た人だ、それにまだ分からないかもしれないが実はすごく優しい女性だから・・・・機会があれば色々と相談してみるといい、きっと力になってくれるはずだ」


 何やら説法臭くなってしまったが、最後にまりもさんをベタ褒めして締める。

 本人を前にこんな台詞を言うことはできないが、本当に彼女には感謝している。

 彼女の教えがあったことで自分はこうして今も生きていられる・・・・・・元はしがないサラリーマンに過ぎない自分を、軍人として生きていけるようにしてくれたのは紛れもなく彼女のお蔭だ。

 彼女を擁護するわけじゃないが、この少女たちにもソレを知ってもらいたくて言ってしまった。


(厳しさにも飴は必要だからな・・・・・・それに他人の評価ってやつは第三者に言われたほうが効果があるもんだ)


「・・・・ん?」


 少女たちの視線が自分の背後に向けられているのに気づき、ふと背後を振り向くと・・・・・・そこには、やや頬を赤らめたまりもがいたりいなかったり・・・・・・


 あれ・・・・・・もしかして聞かれてた?


「ま、まぁそれはそれとしてだ・・・・・・頑張れ君達」


 人間ってやつは自分がよく評価されていることを人伝に聞くとえらく嬉しいものだが・・・・・・目の前で他人に話されているのをじかに聞くのも・・・・・・それはそれで嬉しいものだ。
 

 なんてことを話している間に、何時の間にか模擬戦が終わってしまったようだ。

 シミュレーターの機械が動きを止め、油圧音と共に厚い隔壁が開放されて中に乗っていた人たちが出てくる。


 思った以上に時間を食ってしまったみたいだ・・・・・・早く行かないと夕呼さんにどやされるに違い無い。


(・・・・・・決して、連中に捕まるのがイヤなわけじゃないからな)


 などと何処かで見ている誰かに言い訳染みたことを言いながら、出口へ向けて早足で歩き始めると・・・・・・二人の言い争う声がまたもや聞こえてくる。


「こぉぉぉぉの猪女!!そこまでして勝って嬉しいわけ!?」


「うっさいわね!!あんたに猪なんて言われたくないわよ!!ってかあったりまえじゃない!!戦場じゃね、どんな手使ってでも最後まで立っていたほうの勝ちなのよ!!」


「はッ!!全ては隆のためってやつ!?あんな変態グラサンに熱上げてあんた頭おかしいじゃないの!?」


「な、なんていった今!?人が誰に熱上げたっていいでしょう!!私はねぇ、隆がいれば他になんにもいらないのよ!!」


 平坦な床のはずなのに何故か躓いて転びそうになった。


 ってか足首挫いた・・・・・痛ぇ。


「それが頭おかしいんじゃないって言ってるのよ!!何、あんた隆がやれって言えばなんでもするわけ!?」


「そ、そりゃ・・・・・・隆が望むなら・・・・・・って!!あんただってきっと似たようなもんでしょう!?ってか絶対私より性質が悪い気がする!!あれでしょ?自分が惚れた相手のためならなんでもするんでしょう?」


「ど、どう言う意味よ?」


「甲斐甲斐しくご飯なんか作ったり、帰ってくるまで遅くまで起きてたり・・・・・・彼に喜んでもらえるよう色々頑張ったりするのよ・・・・・・まるで犬ね!!」


「んなッ!?」


「そ、それにきっとアレよ!!・・・・・・そ、その、きっと特殊なプレイも容認するのよねきっと、変態染みた行為をあれやこれや・・・・・・露出とか首輪つけて、え、SMじみたこととか・・・・・・」


「なによソレ!?い、いくらなんでも想像力豊か過ぎない!?」


「ほら否定できないんでしょ?速瀬・・・・・・やっぱあんたのほうが変態だわ!!」


「うっさいわね!!橘、あんただって隆がやれって言えばさっき言ってたことするんでしょう!?」


「!?そ、そりゃ・・・・・・隆がどうしてもって言えば勿論・・・・・・ハッ!?もしかして隆ってそう言う趣味なわけ!?だから私の誘いに乗ってこなかったのね!!ロリコンでシスコンで女装癖のあるグラサンで終わりかと思ったのに・・・・・・盲点だったわ!!」


「・・・・・・今へんなこと言わなかった?女装・・・・・・?」


 頼む速瀬、後生だからそこだけはスルーしてくれ。


「・・・・・・神宮司軍曹、一つ質問を宜しいでしょうか?」


「・・・・・・なんだ御剣」


「はッ、さきほどからあそこの二人の女性の会話に出てきている隆なる人物はどういった方なのでしょうか?聞く限り・・・・・・とてもまともな人間には思えないのですが・・・・・・」


 そんなまりもさんと訓練兵の会話が聞こえた直後、後ろからも凄いプレッシャーを背中に感じる。



 刺すような視線を幾つも感じる・・・・・・痛い、痛すぎる!!主に内臓関係とガラスのハートが!!



「は、はやく・・・・・・霞に会って癒してもらわねば・・・・・・身体が持ちそうにない」



 よろよろと頼りない足取りでシミュレーター室を抜け出した自分はそう呻くように呟いた。









<香月 夕呼>


「突然の無理な話を引き受けていただき誠に感謝致します・・・・・・謝礼のほどは我社の出来うる限りのことをしたく思いますので、何なりと仰ってください」


 テーブルを挟んでソファに座る企業の歳若い代表の言葉に苦笑してしまう。

 そんな私の態度に彼女は一瞬だけ不服そうに眉根を寄せる・・・・・・その態度から、腹芸が出来るほどの経験は積んでいないと見て取れる。


(城崎・・・・・・葵ね、光菱重工社長令嬢・・・・・・城崎家に名を連ねる才女ね)


 胸中で彼女の肩書きを思い浮かべながら彼の言葉を思い出す。


「今は未熟だけど・・・・・・将来性はバッチリか」


「・・・・・・何か?」


 声に漏らしてしまった言葉に彼女は怪訝な表情を浮かべる。

 彼は一体どんな根拠を持って、この小娘にそんな評価を与えたのか問いただしたくなる。


「いえ、流石は帝国の栄えある企業を束ねる一族の人間かと思ってね・・・・・・」
 

 第一印象は子供だ、親の権威を振りかざし我侭が許され続けてきたただの餓鬼にしか見えない。


「私から其方に要求するのはこの紙に書いてある通りよ」


 言って白衣のポケットから取り出した一枚の紙をテーブルへ置く。


「失礼します・・・・・・・・・・・・・・・・・・これは・・・・・・どう言うことでしょうか?」


 書類に目を通した彼女の表情が一瞬にして曇る。


「どう言うこととは?」


「博士は帝国を・・・・・・いえ、国連を裏切る気なのですか?」


「まさか、ただバックアッププランは幾つも用意しておくべきでしょう?」


「・・・・・・博士が進められている計画、国連のみならず帝国が出来うる限り協力している計画にもしや陰りでも?」


「計画ねぇ・・・・・・貴女、『計画』のこと何処まで知っているのかしら?」


 何気なく聞いた質問にご令嬢は言葉を詰まらせる。


「計画は最重要極秘事項ですので光菱でも知るのはごく一部の人間のみです・・・・・・私はまだそこまでのポジションに就いておりませんので詳しくは・・・・・・ただ人類を救う偉大なプランだとは聞き及んでいます」


(まぁ・・・・・・及第点の回答ね)


 幾ら計画を進めている当の本人に聞かれたとしても、おいそれと話をしていいレベルのものではない・・・・・・どうやらソレぐらいの分別は付くようだ。

 だが彼女が百里に来る以前何処に所属していたかくらいの調べは付いている、帝国軍の技術廠の一派・・・・・・まだ全容をつかんだわけではないが随分ときな臭いことをしている部署。


 核心を持てていないが自分の見立てが正しければ・・・・・・帝国の国益が絡んでくる厄介な問題になりかねないので迂闊に突く気はサラサラないが・・・・・・


「まぁいいわ・・・・・・話はかわるけど、あの【白い奴】・・・・・・光菱が絡んでるわね?」


「・・・・・・さぁ、なんのことでしょうか?」


「しらばっくれなくてもいいんだけどね、計画名【神の心】だったかしら?その計画の一旦を担う技術で製作されたんでしょう?アレは」


「・・・・・・社の極秘事項ですのでお答えかねます」


「彼の乗ってる胡蜂だけどね、其方には知らせていないだけで色々と特殊な装置が乗ってるのよ、まぁ下手に弄れないようにプロテクトは掛けてあるんだけど・・・・・・その装置が先日の新潟での戦闘中に作動してるのよねこれが」


「それが何か・・・・・・」


「・・・・・・まぁ平たく言えば特殊な波長を検出して言語に代える装置なんだけど、それが【白い奴】に接敵した瞬間作動してるのよ・・・・・・・・・・・・第三計画って言っても知らないって言い張れるかしら?」


「第三計画ですか・・・・・・?」


 ふむ・・・・・・どうにも彼女の様子が自分の想像していたものと違う。

 もしかしたら、このお嬢様は本当に何も知らないのかもしれない、となると・・・・・・あの部署も一枚板ではないということか・・・・


(けど、もし白を切ってるのだとしたら・・・・・・大した狐ぶりね)


「お言葉ですが博士・・・・・・先ほどからの言葉の真意は分かりかねますが、少々自分の発言に慎みを覚えたほうがいいかと。もし・・・・幾ら帝国が博士の最大のスポンサーだとしても、目に余る行為を重ねれば・・・・・・黙ってはいないと思われます」


「へぇ言うじゃないの、なるほど・・・・・・帝国にとって都合の悪い事実ね・・・・・・となると帝国最大の利権に絡んでくるのかしらね?」


「・・・・・・ご想像にお任せします」


 突っぱねるご令嬢の態度に苦笑する。
 確かに彼女の言うとおり、自ら首を突っ込んでいい問題でもなさそうだ・・・・・・あの利権がらみだとすれば、帝国どころか世界の超大国を二つとも引っ張り出しかねない。

 彼女を侮り、少し調子に乗りすぎたかもしれない・・・・・・確かに自重すべきだろう。
 一応、今はまだ光菱との関係はイーブンだ・・・・・・これをどうもっていくかはコレからだろう。

 光菱のご令嬢はその話はこれで終了とばかりに、再度書類に目を通し先ほどまでの抑揚の無い声から一転して、唸るような声音で呟いてくる。


「しかし、この内容・・・・・・なぜマナち・・・・・・いえ瀬戸少尉を博士の下へ出向させろと私に?彼女は帝国軍の人間です、出向なり異動なりは帝国軍に掛け合うべきでは?」


「生憎と全うな手段で身柄を要求してものらりくらりと突っぱねられるのは目に見えてるからね・・・・・・帝国の訓練校の中期過程で行われる適正検査、それに高い水準を見せた人材は例外なく私の管轄する訓練校に異動させせるはずなのに・・・・・・瀬戸真奈美・・・・・・随分と素晴らしい逸材ね?逸材すきで繰上げで衛士にしたらしいけど・・・・・・・その際に適性検査を誤魔化したわね?飛び級と称して味な真似をしてくれるわ」


 挑発交じりの質問にご令嬢の顔色が一気に青ざめていく・・・・・・どうやら、この件に関しては心当たりがあるようだ。


「企業からの圧力が掛かるくらいなら、真っ先にその企業に要求を通すだけよ・・・・・・時期は追って知らせるわ、何も直ぐにってわけじゃないから安心しなさい」


「・・・・・・」


 何も答えず、ご令嬢は黙って此方に視線を向けてくる。
 それと同時この応接室のドアをノックする音が室内に響き渡る。


「どうぞ・・・・・・開いてるわよ」


 睨んでくる彼女の視線を受け流してドアをノックした本人に声を掛けると、なにやらお腹を押さえた彼がヨロヨロと入室してくる。


「遅くなって・・・・申し訳ない」


 そんな様子の彼の姿を見て流石に面食らってしまった。


「隆・・・・・・どうしたの?何かおかしなものでも食べたの?」


「夕呼さん気にしないでくれ・・・・・・人生の不条理に嫌気が差しそうだが、まだ俺は頑張れるはずだ・・・・・・ってか霞いないし・・・・・・いると思ったのに・・・・・・俺の癒しは一体何処にいった・・・・・・」


 ブツブツと呟きながら彼がソファへと座る。

 自分の隣ではなく光菱のご令嬢の隣に座る・・・・・・意図的にそうしたのであれば、彼は彼女の味方をすると判断したほうがいいだろうか?


「なんだ葵・・・・・・こんなとこにいたのか、今回の横浜出張の件で話があったんだけど・・・・・・もぅどうでもいいや」


「隆さん・・・・・・なんとなくそうなった原因が分かる気がするわ、同情するつもりは一切無いけど・・・・・・後愁傷さま」


 いや・・・・・・どうやら自分の思いし過ごしかもしれない。


「それで・・・・・・夕呼さんにいったい何をお願いしてたんだ?生憎と彼女は手ごわいぞ?・・・・・・葵じゃ相手にならないのは見え見えなんだが」


「なっ!?本人を前にしてそういうこと言うわけ?」


「事実だろ?まったく・・・・・・交渉術はまだ教えてないってのに・・・・・・夕呼さんと話し合うなら、俺か静流さんを同席させろよ・・・・お前だけじゃまだ無理だよ」


 久方ぶりにきく名前と嘆息しながら言う彼の言葉に苦笑してしまう。
 相変わらず、彼は気遣いが過ぎるというかなんというか・・・・・・ほんと変な男だ。


「で、出来ればそうしたかったわよ!!でも・・・・・・その・・・・・・ほら機密が絡むからおいそれと話せる内容じゃないのから・・・・その」


 何やら頬を赤く染めて抗議するご令嬢、もしかしたら彼に熱でもあげているのかと勘ぐってしまうが・・・・・・まぁ気のせいだろう。


「なるほどね・・・・・・じゃあ仕方ないな、でもなんでそんな場所に俺を呼んだんですか?」


「別に、もうあらかた話は終わったからね・・・・・・後は光菱がどう出るかだけね」


 ニヤニヤと笑みを浮かべてそう答えると、彼女は不機嫌な表情を浮かべてくるが声を上げてくることはなかった。


「隆に用事があるのは今後のことね・・・・・・折角光菱の人間がいるんだから、目の前で言っておこうと思って」


「はぁ?・・・・・・なにを?」


「隆、あんた光菱に行きなさい」


「はぁ!?」


 素っ頓狂な声を上げたのは彼・・・・・・ではなく、隣に座るご令嬢のほうだった。

 彼は此方の予想を裏切り、サングラスを指で抑えながら小さく溜息をついただけだ・・・・・・おかしい、もう少し動揺するかと思ったのだが・・・・・・


「隆・・・・・・あんたあんまり驚かないのね?」


「そりゃね・・・・・・異動ってのは突然言われもんですけど、そんなん俺はもう慣れっこですからねぇ」


「そ、ならよかったわ、期間はあんたが帝国軍の出張が終わり次第そのまま光菱に出向して頂戴」


「まだ先っちゃ先ですね・・・・・・出向する理由は・・・・・・まぁ光菱と夕呼さんとを繋ぐパイプの役割でもしろとか?」


 彼がうんざりしながらも言ってくる内容に満足して頷く。


「理解が早くて助かるわ・・・・・・元々あなた、そういった仕事のほうが得意なのよね?」


「そりゃね・・・・・・了解です・・・・・・ってなわけだ葵、そん時は宜しく・・・・・・前にお前に言ったことが現実になったな?・・・・・・ん?どうした?」


 何やら茫然自失に陥っている彼女の顔の前で、ヒラヒラと彼が手を振るとビクッと身体を震わせてから彼女はゆっくりと彼の顔へ視線を向ける。


「えっと・・・・・・それは確かにいい話だけど・・・・・・うん、もちろん私もそのつもりだったんだけど・・・・・・改まって言われると心の準備が・・・・・・ああ、どうしよう隆さんの宿舎用意しないと・・・・・・本社傍にある別宅に一緒に住んでも・・・・・・一緒?そ、そんなまだ早いわ・・・・・・その前にお父様や御爺様にご挨拶にいかないと・・・・・・あぁ、隆さんの妹さんへ私も挨拶しないと」


「お~~~~~い、戻ってこ~~~~い」


「はっ!!・・・・・・ち、ちょっと隆さん気が早いわよ」


「・・・・・何が?」


「え?・・・・何かしら?・・・・ごめんなさい何か変なこと考えちゃったみたい・・・・・・気にしないで」


 なにやら動転していた様子だが、何度も頭を振ってご令嬢は落ち着いた声音で彼に答えるが・・・・・・その朱に染まった頬を見れば何を考えていたかぐらい一目瞭然だろう。


(これは・・・・・・使えそうなネタね)


 そんな呆れたやり取りをしている二人の姿に幾つも名案が浮かぶ。
 彼が、本当に使える駒になりつつあると、心の中で彼の評価を更に上げる。


「隆・・・・ほんとあんたを帝国に行かせてよかったわ・・・・・・それに随分と楽しそうね」


「んなことありませんよ・・・・・・百里に行ってから何かこう・・・・・・俺の中で歯車が狂ったような気がするし・・・・・・最近心労が重なって倒れそうですよ」


 はぁっと溜息を付きながら言う彼は面白くて仕方が無い。
 確かに最初と比べて随分と印象が変わった気がするが・・・・・・霞への態度を見る限り根っこまでは変わってないだろう。


「・・・・・・甘いな隆、お前が楽しんでいたのはれっきとした事実だ」


「なッ!?」


 不敵な声と共にゆっくりと応接室のドアが開いていく・・・・・・開いた先にいるのは私も知っている女性。

 昔なじみで、私が頭が上がらなかった数少ない人物の一人、出来れば二度と会いたくなかった。
 失念していた・・・・・・ご令嬢が部隊を派遣してきたのなら、部隊長たる彼女が来ていないはずがない。


「み、三澤先輩・・・・・・いらっしゃってたんですか」


「ああ、久しぶりだな夕呼・・・・・・相変わらず元気そうでなによりだ」


 硬直している彼を尻目に入室してきた三澤先輩は、机の上に封筒を放り投げてくる。


「土産だ、大いに活用してくれ」


 短くそう呟きソファへ優雅に腰掛ける、高校以来だが・・・・・・気だるげな感じや横暴っぷりは相変わらず健在のようだ。
 大陸での戦闘から始まった一連の事件に関わり、落ちぶれたと聞いていたが・・・・・・


(血の女王・・・・・・いえ女帝・・・・いまだ現役ね)


 そんなことを考えながら封筒を手に取る。


「・・・・・・相変わらず急ですね・・・・・・何が入ってるんですか?」


「なに・・・・・・とても面白いものだよ」


 その言葉だけで彼は三澤先輩が持ってきた封筒の中身が分かったのか、正気に戻るものの彼の顔色が一気に青ざめていく。


「ま、まさか・・・・・・それは・・・・・・」


「隆、桐嶋から伝言だ・・・・・・つめが甘いとな・・・・・・写真は俺も含め全員が持っている可能性ぐらいは感づくべきだったな・・・・・・だそうだ」


「は、諮ったな・・・・・・諮ったな桐嶋ぁぁぁぁ!!」



 悲痛な叫びを上げる彼を横目に、私は封筒の中に入っていた数枚の写真を見て思わず噴出してしまった。







<瀬戸 真奈美>


(気まずい・・・・・・)


 そうとてつもなく気まずい。
 此処がよそ様の基地なので居づらさを感じている・・・・・・のでは無く、目の前の二人の女性のお蔭で雰囲気がとてつもなく重い。


「「・・・・・・」」


 睨み合う二人の女性、先ほどのシミュレーター戦での結果もお気に召さなかったようで、模擬戦を始める前よりも険悪な雰囲気になってしまっているような気がする。

 まぁ今回(?)ばかりは、国連基地の教導隊の衛士である速瀬中尉の意見に自分も賛成している。


 手負いの相手に奇襲かけるのは卑怯だよ栞さん・・・・・・実戦じゃそんなこと言ってられないけど。


(はぁ・・・・・・どうしてこうなっちゃうのかなぁ)


 表には漏らさずに溜息を付いて肩を落とす。

 原因なんてものは分かりきっている、シミュレーター戦の途中で姿を暗ました彼のせいだ。

 幾ら自分へ矛先が向かっているからといっても逃げるのは卑怯だと思う、彼以外に誰が栞さんを抑える・・・・・・というか生贄になる人なんていないのに。

 川井中尉は何か気分悪そうだし、桐嶋中尉も彼がいなくなったせいか暇そうにしているし、三澤隊長もどっか行っちゃうし・・・・・・葵さんは最初からいないし、結局私しかいないじゃない。


「・・・・・・はぁ」


 思わず溜息を表に漏らしてしまった、恐る恐る傍にいる栞の顔を見上げると明らかに不機嫌さが増した表情で此方を見据えている。

 しまった、そう思っても最早遅い・・・・・・どうにか矛先を変えなくては危険だ。


「え、えっと・・・・・・流石は教導隊の方々ですね、皆さんの技量には感服しました」


 引きつった笑みを浮かべながら目の前に座る速瀬中尉へそう声を掛ける。


「ん?・・・・・・まぁね、普段からきっつい任務ばかり押し付けられているから嫌でもそうなるわよ」


 腕組しながら速瀬中尉がそう答えてくれるが・・・・・・はて?教導隊の人間にそうそう実戦任務が下されるとは思えないのだが・・・・・・


「ふん、でもまだまだね。生憎とうちはベストメンバーじゃないのよ?隆の乗る胡蜂ともう一人が加われば中盤の層はさらに厚くなるわ」


 思惑は成功したようだ、栞は再度速瀬中尉へ牙を剥いて威嚇し始める。


「隆ねぇ・・・・・・実際どうなの?あのグラサンが戦術機に乗り始めた頃に何度か模擬戦したけど、正直たいした腕じゃ無かったのよね~」


「でも水月~最初負けちゃったよね?隆さん乗る撃震に・・・・・・不知火に乗ってたのに」


 ほんわかした雰囲気の涼宮中尉が横手から速瀬中尉の意見に言葉を付け加える。


「ぷっ!なに!?あんた不知火で撃震に負けたわけ!?しかも隆の乗る撃震に!?あの厄介なECM積んだ胡蜂じゃなくて!?」


「う、うっさいわね!!あのグラサンは奇抜で卑怯な手しか使ってこなかったのよ!!・・・・・・まぁ私に慢心があったのは認めるけどさ」


 ケラケラと笑う栞に速瀬中尉が顔を真っ赤にして言い訳している。

 ってか栞さん・・・・・・幾ら所属が違うと言っても向こうは中尉なんだから、もう少し言葉遣いとか気をつけたほうがいいと思う。

 でもさっきの速瀬中尉の言葉が少し引っかかる。


「・・・・・・卑怯な手ですか?」


「そうなんだよ~自爆覚悟の特攻とか隆さんたまにやらない?」


 涼宮中尉が自分の発言に笑顔で物騒な内容の話を答えてくれる。

 確かに彼の戦闘スタイル・・・・・・最近は滅多にやらないが、百里に来た当初は特攻精神でもあるのかと聞きたくなる手を何度か使っているのを見たことがある。


「あ~そやなぁ・・・・・・確かにあのグラサンは自爆覚悟で突っ込んでくるわ~」


 此方の話を聞いていたのか、隣の席に座る川井中尉が唸るような声で言ってくる、考えてみれば川井中尉は彼の非常識な手を受けた最初の人物だった気がする。


 速瀬中尉はその言葉に満足したのか、腕組して何度も頷いている。


「そっ、非常識な動きばかりやるのよね、あのグラサンは・・・・・・しかもそれが伝染してる見たいだし?」


「え?」


 何故か此方を見ながら速瀬中尉がそんな言葉を送ってくる。


「あ~確かにね・・・・・・最近この子の動きがおかしいのは隆のせいかもね」


「ええ?」


 しかも栞さんまで同意してくるし。


「瀬戸少尉の機動・・・・・・モニターで見てたけど凄かったよ?」


「そ、そうですか?」


 涼宮中尉が言ってくれて言葉で、二人が何を言いたいのかようやく理解できた。

 先ほどのシミュレーターでも見せた戦術機の機動について言っているのだろう。


 彼やインパルスの面々が得意とするマニュアル制御による機動操作、それを駆使することで従来では有り得ない動きを戦術機にさせているのだが・・・・・・正直まだまだ自慢できるほどのものじゃない。
 シミュレーターなので試して見ただけであって、機体のオートバランスを無効化させるのが前提の操作を、実戦は愚か実機訓練でも行う気は一切ない。

 ほんの少しの操作ミスで地面に頭から激突する可能性がある動きを普段から行うのは流石に危険過ぎる、入力方法を教えてくれた松土少佐もシミュレーターでしっかり完熟訓練をしてからでないと絶対やるなと言っていたし。


 ちなみに、こういったマニュアルでの機動制御は自分を含め部隊の誰よりも、行方を暗ました彼の技術が実は最も高い。
 戦闘に直接関係してくるわけではないので分かりづらい技能なのだが、複雑なコマンドを幾つも間違い無く入力する技術は驚嘆に値する。


 それを必死に真似しているのだが・・・・・・機動コマンドの操作に集中する必要があるので、同時に攻撃ができないのが今一番の悩みだ。

 先ほどのシミュレーターで速瀬中尉の不知火に一撃を加えられたのは、意図的に攻撃したわけでは無く前転の勢いを利用して偶然蹴ったに過ぎない。

 彼もマニュアル制御中は射撃を機体の自動制御に任せっぱなしだと言っていた、インパルスの面々は雪風そのものがハリネズミのようにスーパーカーボン製の翼を機体各所に供えているため、動き自体が攻撃になるので問題ないらしい。


 戦術機の機動操作技術では帝国軍の最高峰の一角を担うインパルスに教えを受けているのだ、今の自分の実力にはそれなりに自信が付きつつあるのだが・・・・・・


(・・・・・・【白い奴】にはまだ届かないな)


 訓練を重ね戦術機の関節駆動範囲や機動プログラムを調べれば調べるほど、新潟で遭遇した【白い奴】がいかに規格外の機体なのかを思い知ることができた。

 松土少佐が言うには量産性を考えず精度の高いワンオフの部品で機体を組み上げ、特別なプログラムで動きを取らせれば【白い奴】の動きも実現できるのではないかと言う話だ。
 だが現状の機体、陽炎は愚か不知火やあの武御雷ですら、あの動きを再現するのは不可能だと百里で密かに行われた検証で結論が出ている。
 参加した人間は、満場一致で一体どんな変態どもがあんな化け物を作ったのだと憤慨していた様子だったのだが・・・・・・葵さんが微妙な表情を浮かべていたのを私は見逃さなかった。

 何かを知っているのかも知れないが・・・・・・あの葵さんが私にも話さない内容だ、少しばかり寂しい気持ちもするが彼女の立場を考えれば理解してあげるべきだろう。


 ちなみに、その話し合いの中で松土少佐や彼が言っていた台詞を思い出すと、今でも思わず笑いそうになってしまう。
 松土少佐はいっつも眠そうなくせに、その時ばかりは次は自分がやりあって見たいと楽しそうに言っていたし、彼にいたっては、次に出会ってまた喧嘩売ってきた日には距離をとって蜂の巣にしてやると息巻いていた。

 確かに一見して【白い奴】は射撃兵装を持っていないように見えたので、彼の手は有効かもしれないが・・・・・・相手は人が乗る戦術機だ、こちらに攻撃を仕掛けてきた真意は分からないが、次もまた同じような武装とは限らないだろう。


 ただ次がもしあれば、あのような無様な姿を皆に見せる気は無い・・・・・・そのためには今後も努力あるのみだ。


 まぁ、その【次】があるのかすら疑わしいのが現状なのだが・・・・・・


「その歳であれだけの動きができるんだからね・・・・・・たいしたもんよね」


「あったりまえでしょう?私の最高の妹分なんだから、そこらの新米衛士と比べてもらっちゃ困るわ」


 速瀬中尉の言葉に、鼻を鳴らして言い張る栞さんの姿を見て頬が弛みそうになる。

 自分の能力を褒めてくれたり認めてくれたりするのは嬉しい・・・・・・でも、まるで自分のことのように誇って言われるとちょっと恥ずかしい。


 栞さんも葵さんも、部隊の皆は私のことを未だに子供扱いする。

 それは部隊で一番年下だし、未だ二十歳にもなっていない身だから当然のことなんだけど、とても軍人とは言えない騒がしい皆にそう言われるとムッと感じる時がある
 そんな時は内心の苛立ちを抑えるべく、張り切ってぐーたらな皆をまとめるべくしっかりしなきゃと自分に言い聞かせるのだ。

 そんな意地を張っているだけの自分なのに、その時ばかりは皆私の言うことを聞いてくれる・・・・・・そんな姿を見ると、皆が私のことをきちんと認めてくれているのだと感じる・・・・・・からかわれているだけだったら、皆私の話しなんて聞いてくれるはず無いしね。


 それに、さっきの栞さんのように・・・・・・私のことを他の誰かに自慢していることが結構あるらしい。知らない整備員の人や、事務の人が私を見るととっても親切にしてくれる・・・・・・その度に、自分が大切にされていると更に感じることができた。


 まぁ・・・・・・大体此処にはいない誰かさんが、一番言い触らしていたりするんだけどね。


(ふぅ・・・・・・早く戻ってきてくれないかな~)


 彼のことを思い出してそんな風に願ってしまう。

 とは言えこの横浜基地は彼の古巣だ、彼にも色々用事があるんだろうから、客たる自分たちは大人しく待っているしかない。
 
 視線を巡らせれば真新しい基地の施設が幾つも目に付く、新設されたばかりの基地なので新しくて雰囲気も良い基地だなと素直に思う。
 何人もの国連の隊員の方が此方に視線を向けていた気がするが・・・・・・きっと帝国軍の制服を着た私たちがいるせいだろう・・・・・・と思いたい。

 そう言えば、彼はこの横浜基地に来る前は一体何処にいたのだろうか?聞いたこともないし、彼もそのことを言っていたことが無い気がする。


「そうそう妹分って言えば・・・・・・隆の妹のこと知ってるわね?」


「妹?・・・・・・ああ霞のことね」


「知ってるよ~隆さんが居ないときはたまに私たちが霞ちゃんと遊んでいるから」


(・・・・・・この二人は知っているのかな?)


 速瀬中尉と涼宮中尉の顔を眺めながらそんなことを考える、何やら話の方向が変わってきているが、言い争うよりは遥かに良い内容なので黙って耳を傾ける。
 
 彼の妹のことは私も興味がある、北海道で雪だるまを作った時に血は繋がっていないと言っていたけど、一体どんな子なのか気になる。


 でも先ほどの会話を聞く限り、彼がいない間はこの二人がその妹の相手をしているらしい。


 速瀬中尉と涼宮中尉、随分と彼と仲が良いように見えるけど・・・・・・彼と一体どんな関係なのだろう?


 軽く話をして見た限りでは、彼と同じ部隊だったとかでは無いらしい、流石に栞さんのように男女の仲だとか疑う気は無いのだが・・・・・・


(・・・・・・二人とも綺麗な人だな~)


 二人を見て素直にそう思う。


 ハキハキしてて衛士として物凄い腕を持つ速瀬水月中尉、すごい優しそうでおっとりしてるのにあれだけの錬度を誇る部隊の専属CPを務める涼宮遙中尉、彼にこんな綺麗な女性の知り合いがいるなんて思っても見なかった。

 百里で見る彼の姿が彼の全てじゃない、彼は元々国連の人間だ・・・・・・国連での彼の日常もある、自分の知らない彼の一面があるのは当然と言える。

 彼が横浜に帰って百里にいない間、彼が一体横浜で何をしているのかを考えなかったわけじゃない、でも考えた内容は顔も見たことが無い妹と戯れている彼の姿だ・・・・・・他の女性と仲良くしている姿なんて考えたこともなかった。


 彼は妹だけじゃなく、この二人の女性やもっと多くの人と横浜で楽しくやっている。


 それを考えると何故か・・・・・・何故か胸が少しだけ苦しい。


(違う違う私じゃないって・・・・・・葵さん、早く自分の気持ちに気づかないと乗り遅れちゃうよ~)


 ぶんぶんと頭を振って雑念を追い払う。

 心配すべきは愛する義姉だ、鈍感なのも考え過ぎだとつくづく思う。


「それで隆が言うのよ、何か玩具は無いかって」


「へ~何貸してあげたの?」


「えっとね、私はお手玉とか、水月はトランプだったよね」


 何やら会話が弾んで賑やかになってきている、彼の妹の話題がどうやらいい方向に流れていったようだ。


 談笑を続ける三人を置いて席を立つ、彼が何時戻ってくるかは分からないので皆の分のお茶でも取りに行こうかとカウンターへと向かう。


「あの~すみません」


「はいよ!!おや?見ない顔だね・・・・・・しかもその制服、帝国軍の兵隊さんかい?」


 恰幅の良い女性が威勢よく答えながら此方を値踏みするように見てくる、その視線と声量に思わず気圧されてしまう。


「あ!!もしかして隆の同僚かい?」


「は、はい、そうなんです!!いつも隆さんにはお世話になっています」


 慌ててペコリとお辞儀をする、そんな私を見て女性は面白そうに笑ってる。


「いや~礼儀の出来たいい子だね!流石は帝国軍だ!きっちり訓練と礼儀作法を教え込まれてるんだねぇ・・・・・・その点国連は国際的というか大雑把というか、まったく見習ってもらいたいもんだねぇ」


「そ、そうなんですか?・・・・・・訓練校で習う内容は国内共通だと思ったんですが」


「まぁ気の持ちようってやつだよきっと、帝国軍の軍人さんは佐渡ヶ島やら九州やら北海道からくるBETAに目を光らせてないといけないからねぇ、その当たりで覚悟が違うのかもしれないねぇ」


「はぁ・・・・そうなんですか」


 一人で頷く女性の言葉に生返事しか返せず、どうしたものかと思案してしまう。


「それはさておきだ、あたしはこの横浜基地のPXを預かる京塚ってもんだけど、隆の同僚たるお嬢ちゃんの名前は?」


「あ、はい瀬戸真奈美少尉です・・・・・・何日かご厄介になると思いますので宜しくお願いします」


 言って再度ペコリと頭を下げる。

 どうにもこの京塚なる女性には迫力がある・・・・・・例えるなら百里の湯田整備班長みたいなものだろうか?階級とか関係無しに、人生を積み重ねてきた経験を感じ無条件で従う気持ちにさせてくれる。


「ん、真奈美ちゃんだね気に入った!やっぱり礼儀正しくていい子だ!それで何を頼むんだい?なんでもいっとくれ、どうせ全部隆の給料から差っ引いとくから」


「あ、あはははは・・・・・・えっと、取り合えず合成玉露を四つ頂ければ」


 あいよ!と叫んで京塚さんはコップを用意してくれる、そんな態度に豪快な人だという印象が更に強まる。


「もしかしたら、あそこに座っている水月ちゃんたちに持っていくのかい?」


「はい、その・・・・帝国軍の私たちに良くしてくれていますのでソレくらいは・・・・・・」


 むしろ栞が迷惑掛け捲っているので部隊を代表して平謝りしたい位だ。


「偉い!!はぁ・・・・・・ほんと隆の周りにいる小さい子はしっかりした子が多いねぇ・・・・・・霞ちゃんも無口だけど、しっかりした子だからねぇ」


「かすみちゃんですか?・・・・・・もしかして隆さんの妹さんですか?」


 先ほど速瀬中尉が言っていた話に出てきた名前だ。


「そうだよ~隆に似ても似つかない子なんだけどね・・・・・・まぁ養子とか言ってたから当然なんだけどねぇ・・・・・・お!!めずらしい!!ほらあそこにいるのが霞ちゃんだよ!!」


「えっ?」


 京塚さんに言われて視線を巡らせる。


 噂に名高い彼の義妹、そんな少女を見たい気持ちよりもPXに現れたことで栞の標的になるんじゃないかと心配してしまう。


(でも隆さんが持ってくお土産に悩んじゃうくらい溺愛する子なんだから・・・・・・ちょっとは興味が・・・・・・)


 そう思いながら噂の少女を視界に納めた瞬間・・・・・・一瞬我が目を疑ってしまった。


 見間違いかと思ったが、きっとあの娘だ・・・・新潟で軟禁中の彼が必死に手作りしていた薄紫色のスカーフを首に巻いているから間違いない。



「・・・・・・か、か・・・・・・」


「か?」


(可愛い・・・・・・)


 言葉には出さずに内心で噛み締めるように呟く。

 13,4歳くらいだろうか?真っ白い肌にサラッサラの銀髪を持った美少女がテクテク歩いている。
 しかも、まるで絵本に出てくる妖精さんですかと聞きたくなってしまうほど、儚げな雰囲気を醸し出していたりするし。

 確かにあの子なら・・・・・・彼が溺愛するのも頷ける。


(ってか・・・・・・よその国の子だなんて聞いてないんですけど)


 内心で彼を非難する、血は繋がっていないとか義妹だとか言っていたけど・・・・・・まさかよそ様の国の子だとは思っても見なかった。

 ソ連か・・・・・・恐らく北欧系の生まれだと見た目からは分かるが、一体どんな経緯で妹になったのか彼に問い詰めたくなってきた。


(ううぅ・・・・・・しかも何だろあのカチューシャについた長いの・・・・・・ウサギみたいに見えるけど、凄く似合ってるし)


 きっと彼の妹は将来美人になる運命を背負わされているに違い無い、なのに私ときたら・・・・・・なんか泣きたくなってきた。


 はぁ・・・・・・どうせ私はチンチクリンですよ、あの子みたいに可愛くありませんよ~だ。


 なんかムカムカしてきて、前に彼が言った言葉を自然に思い出してしまった。


 我ながら些細なことを気にしてしまったと恥じるが・・・・・・ふと彼の妹を見て疑問に感じることがある。


 明らかに徴兵前だと分かる年頃の少女がどうして軍の施設にいるのだろうか?

 幾ら彼の妹だと言っても、国連の基地に住んでいる理由が思いつかない。
 帝国軍の場合、基地要員の家族にはきちんとした宿舎があてがわれているが、その殆どが帝都か仙台を初めとする東北地域だ。国連基地ゆえに国内にそういった宿舎がないとしても、わざわざ基地内に家族を住まわせるような真似をするのだろうか?

 幾らこの横浜が日本でも後方に位置する基地とはいえ、佐渡ヶ島ハイヴに隣接する本土はその何れもが最前線だ。大切な家族に安心して住んでいてほしいなら、国連本部がある米国に住まわせればいいと思うのだが・・・・・・


(へんなの・・・・・・それともよっぽど一緒にいたいのかな?そうすると隆さんって筋金入りのシスコン・・・・・・まぁ今に分かったことじゃないけど・・・・・・ん!?こ、こっちきた!?)


 思案を巡らせて少女を眺めていたのだが、突然少女が私のほうに視線を向けてくるので目が合ってしまう、しかも方向修正して此方へ向かってテクテクと近づいてくるではないか。


「「・・・・・・」」


 逃げるわけにもいかず、目の前にまで来た少女と無言で見詰め合ってしまう。

 吸い込まれそうな綺麗な青い瞳・・・・・・やっぱりこの子は将来美人になるに違い無い。

 う、羨ましくなんてないもん・・・・・・わ、私だってきっと今からグングン背が伸びて胸だって大きくなると思う・・・・・・絶対・・・・きっと・・・・・・多分・・・・・・・・・・無理かな。


「・・・・・・兄さんのお知り合いですか?」


「ふへっ!?う、うんそうだよ・・・・・・え、えっと霞ちゃん?」


 鈴がなるような綺麗な声音で質問され、思わず変な声を上げてしまった自分を恥じながらなんとか答える。


「はい」


 初対面でチャン付けはまずいかなと思ったのだが、少女はあっさりと答えてくれた。

 けど怒っているのかもしれない・・・・・・ものすっごく無表情だしこの子。


「えっと始めまして、私は瀬戸真奈美少尉です・・・・・・百里では隆さんのお世話になってます」


「はい、此方こそ兄がお世話になっています」


 二人でそんなことを言いながらペコリとお辞儀する。


「た、隆さんは今いないんだ~・・・・・・折角妹さんが来たのにどこいっちゃたんだろ」


「兄さんなら香月博士に呼ばれてます・・・・・・でも、もう直ぐ此処にくると思います」


「え?そうなの?・・・・・・そっかぁ・・・・・・じゃあ待ってればいいのかな?」


「はい」


「「・・・・・・」」


(か、会話が続かない・・・・・・)


 栞さんたちに囲まれた時とは違う気まずさを感じる。

 京塚さんはそんな私たちを面白そうに見てたけど、合成玉露を人数分私に渡してカウンターの奥に行ってしまった。


 どうしよう・・・・・・テーブルに連れて行ったら栞さんの標的になるのは間違い無いし、こんな可愛い娘にトラウマなんて持って欲しく無いし・・・・・・守るにも私だけじゃ・・・・・・せめて隆さんか静流さんがいればいいんだけど。


「瀬戸少尉のこと・・・・・・兄さんから聞いています」


「へ?そ、そうなんだ・・・・・・隆さん変なこと言ってなかった?」


 突然の振りになんとか返答を返す。

 どうにも感情が無いというか抑揚に欠けるというか・・・・・・折角可愛いのに掴み所の無い少女だと思ってしまう。


「瀬戸少尉には苦労を掛けてると・・・・・・でも部隊で一番頼りになるのは彼女しかいないと言っていました」


「そうなんだぁ・・・・・・そっか・・・・・・うん、そうだよねぇ」


 口元がにやけていくのを自覚するが抑えられない、人伝に自分の好評を聞くのはやっぱり悪い気がしない。


「でも頑張って欲しいって言ってます、可愛らしさは小さい頃のうちだけ言われることで成長すればそれが逆に仇になると」


「はい?」


「意味は分かりませんが、ロリは一部の趣味の人が幼い対象へ向けるものであって、それは永久に続くものじゃないと。年取ったロリは悲惨だと兄が力説していました・・・・・・だから瀬戸少尉にはもっと栄養を付けて色々成長して欲しいと」


「ほほぅ・・・・・・あのグラサンはそんなことをこの基地で触れ込んでいたわけなんだ・・・・・・そっか喜んで損しちゃたよお姉ちゃん」


(・・・・・・やっぱ私は隆さんにとって見ればチンチクリンなんだ、そうなんだ、へぇショックだなぁ、別にいいけどね・・・・・・ぜぇぇぇたい忘れないけどさ)


 ニッコリととびっきりの笑顔を浮かべて霞ちゃんに答える。

 あれ?おかしいな・・・・・・とびっきりの笑顔を見せてるのになんで怖がってるんだろこの子?

 まぁなんにせよだ・・・・・・彼とは後で色々と話し合いをする必要があるみたいだ。

 まったく、私を敵に回したらどうなるか分かってないみたいだし・・・・・・栞さんや葵さんが【あの瞳】を見せてるところに彼を放り込むなんて造作も無いことなのに・・・・今度身をもって教えて上げるとしよう。


「まったく・・・・・・霞ちゃんも変なお兄さんもって大変だね?」


 ヤレヤレと肩を竦めて少女に同意をもとめると。


「そんなことありません・・・・・・私は兄さんがいてくれて嬉しいです」


 あっさりと覆されてしまった。
 おかしい、あんな変態兄を持てば間違いなく苦労しているはずなんだけど・・・・・・


「ほ、ほら?でも隆さんってたまに暴走するし・・・・・・意味不明な発言するし・・・・・・やたらと細かい部分もあるし・・・・・・そのくせ気遣いを人一番するし・・・・・・影で努力しまくってるし・・・・・・なんだかんだ言いながら皆のこと良く見てるし・・・・・・ん?あれ?」


 酷評するつもりが何故か途中から変わってしまっていることに気づく。


「はい、兄さんはとっても変わっていると思います・・・・・・けど、変わっているからこそこんな私に優しくしてくれているんだと思います」


「そ、そうなんだ・・・・・・霞ちゃん、隆さんのこと好き?」


 本当にこの子はいい子だ・・・・・・そして心が広い、あんな兄を持ってそんな出来た台詞は中々言えるもんじゃないと思う、だから当然YESと答えてくる内容の質問をしてみたのだが、予想を裏切り少女は考え込むように黙ってしまった。


(あれ?・・・・・・あ、そっかこの頃って思春期まっさかりだよね、幾らなんでも『好き』とか聞かれたら恥ずかしくて答えられはずが・・・・・・)


「分かりません・・・・・・私は好きと言う気持ちが理解できません」


(・・・・・・もしかしてこの子、葵さん以上に鈍感なのかな・・・・・・)


 帰ってきた回答にそんな感想を内心で考えてしまう。

 っと顔に出ていたのかもしれない・・・・・・霞ちゃんが何やら不機嫌な表情になった・・・・・・ような気がする。表情の変化が少な過ぎて自身が持てないけど・・・・・・


「う~んそっかぁ・・・・・・あのね、私も霞ちゃんや隆さんと同じで血が繋がっていないお姉さんがいるの、っても同じでもないか、養子縁組してるわけじゃないし、元はご近所さんでしかないし・・・・・・しかも居候の身だったしね」


 色々思い出してしまい、自嘲気味な笑みを浮かべつつ話を続ける。


「とっても鈍感で世間知らずでほっとけないお姉さんなんだけど私は大好きなの・・・・・・昔ね、私のせいで一杯苦労掛けたから・・・・・・その分幸せになって欲しいんだ・・・・・・本人にその気が無い今じゃちょっと難しいけどね・・・・・・」


 戦火に塗れ、路頭で死ぬはずだった自分を見つけてくれた義姉、住む場所と暖かい食事と、いつも一緒にいてくれて力になってくれた義姉、優しい記憶が自然に脳裏に過ぎていき、彼が百里に来てから大変な時もあったけどたくさんの良い思い出を作ることができた・・・・・・血なんて関係ない、葵さんは私の大切な家族だ。


「・・・・・・今は幸せですか?」


「ん?・・・・・・うん、そうだね・・・・・・とっても幸せだよ・・・・・・葵さんがいて隆さんがいて・・・・・・栞さんや皆がいて、とっても騒がしいけどとっても幸せかな」


「・・・・・・私は瀬戸少尉が羨ましいです」


 思っても見なかった少女の言葉に戸惑ってしまう。


「私は百里にいる兄さんのことをよく知りません・・・・・・兄さんとの思いで出も多くありません・・・・・・瀬戸少尉は辛いこともたくさんありますが、楽しいこともたくさんあります・・・・・・思い出が一杯あります・・・・・・だから羨ましいです」


 以前彼が漏らした言葉をようやく思い出した。

 この子は確か体が弱いとか何かであまり外に出たことがないと言っていた・・・・・・今の言葉を聞く限り、きっと遊んだことなどの楽しい思い出が余り無いのかもしれない。


(心配だから・・・・・・米国とか遠くじゃなくて、そばにいてあげたいのかな・・・・・・)


 さっき不思議と感じたことに答えが見えたような気がする。

 彼はきっと心配なのだ、そして大切にしているのだ、この少女のことを・・・・・・そして少女は気づいていない、自分がどれだけ彼のことを大切に思っているかを。


「大変だな~葵さんも栞さんも・・・・・・数年後にはもの凄いライバルが登場するかもね~」


「?」


 霞ちゃんが不思議そうに此方を見てくる。

 実の兄妹じゃないのだ・・・・・・実際のところ二人を阻む壁は無い、姿を見たことのない噂の婚約者などこうなってはブラフもいいとこだろう。

 もしかしたら・・・・・・この子を狙っているから、彼はそんな嘘を突き通しているかもしれない。


「有り得る・・・・・・有り得るかも・・・・・・だって犯罪じゃないし、合法だし・・・・・・やっぱり隆さんって凄い策士なのかも」


「瀬戸少尉?」


「・・・・・・ふう、ねぇ霞ちゃん・・・・・・うん、霞ちゃんって呼ばせてね?だから私のことも真奈美って呼んで?」


「???はい・・・・・・真奈美さん」


「うん、さっき霞ちゃんが言ってたこと・・・・・・百里での隆さんの日常をたっぷり教えてあげるね、その色々聞いたらショックなこともあるだろうけど・・・・・・霞ちゃんのお兄さんが凄い人だってもっと分かると思うよ」


(葵さんには悪いけど・・・・・・私、この子の応援もしてみたくなっちゃった)


 霞ちゃんに説明しながら内心で姉に謝罪する。

 きっと誰も自分の行動を非難することなど出来ないだろう、この世間を知らない子は彼の日常を聞かせてでも外のことを知る必要がある気がする。

 同情とか哀れみとか憐憫じゃない・・・・・・私はこの子に色々と聞かせてあげたい、彼のこと外のこと・・・・・・そして私のこと。

 自分を大切にしてくれる人がいる、自分が大切に思う人がいる・・・・・・そのことに気づかせてあげたい、自分が幸せなんだと気づいて欲しい。


 どうしてこんな気持ちになったんだろう・・・・・・よく分からないけど、きっとしなくちゃいけないことなんだと思う。


「はい・・・・・・ありがとうございます、真奈美さん」


「むぅ・・・・・・硬いよ霞ちゃん~折角友達になったんだからもっと気楽にいこうよ~こう砕けた感じでね」


「ともだち・・・・・・ですか?」


「そだよ~大変な兄や姉を持った似たもの同士なんだし仲良くしよ?」


「・・・・・・はい、友達・・・・・・嬉しいです」


 噛み締めるように霞ちゃんが呟く。
 小さな、小さな声音だったが・・・・・・大切なものを見つけたかのような響きのある声だった。


「そうそう・・・・・・だからね、もっと気楽に話して?敬語とかいらないから・・・・・・こう、きゃーきゃー騒がしいぐらいにね」


「・・・・・・兄さんにも言われました・・・・・・とっても難しいです」


「あはは、隆さんも言ってたんだ~いいよゆっくりやろう?時間は・・・・・・あんまり無いけど、横浜にいる間はきっと暇だろうし・・・・・・霞ちゃんさえ良ければ一緒に居ようね?」


「・・・・・・はい、宜しくお願いします」


 ほんの僅かな変化だが、少女の表情がさっきよりも明るくなったような気がする。


 些細なことなのに・・・・・・何故か私は物凄く嬉しくなってきた。


「真奈美~どうしたの~?・・・・・・ん?その子・・・・・・」


 なのにだ・・・・・・どうやら猛獣の視界に映ってしまったらしい。


「あら霞じゃない?・・・・・・あ、そのスカーフ似合うわね?どうしたの?」


「あ!もしかして隆さんからプレゼントされたの?」


 目ざとく速瀬中尉と涼宮中尉が霞ちゃんの首に巻かれたスカーフに目を付ける。
 自然と栞さんの視線もそのスカーフへ注がれてしまう・・・・・・あぁ、瞳に陰りが見えてきた。


「はい・・・・・・兄さんからのお土産です」

「へぇいい趣味してるじゃない隆も・・・・・・カスミソウね、確か花言葉は『無邪気な心』だったかしら?」


 速瀬中尉が感心したように頷きながら言う隣で、栞さんが髪を書き上げながらポツリと呟く。


「違うわよ速瀬、白いカスミソウの花言葉は『静かな心』・・・・・・隆と葵と調べたから間違いないわ」


「へ?そうなの・・・・・・むぅ、にわか仕込みの知識で言っちゃったわね」


「そうだよ~花言葉を水月が言うなんて柄じゃないよ~」


 照れくさそうに頬をかく速瀬中尉に涼宮中尉が笑いながら声を掛けるが、私はただおろおろと栞さんと霞ちゃんの顔を見比べることしか出来なかった。

 ただ、先ほどの花言葉の説明があったせいか・・・・・・何やら霞ちゃんは尊敬の眼差しを栞さんに送っているような気がするが・・・・・・その核心はもてないけど。


「その子が・・・・・・隆の妹?」


 静かな声音で聞こえてきた声に背筋が震える。


 恐れていた予想が現実になった瞬間だった。
 栞さんにとってみれば霞ちゃんは嫉妬の対象にしかならない、一番気にしてもらいたい人が自分よりも遥かに気にしている対象だ・・・・・・好きな人に見てもらえない事実、女性のみならず誰もが嫉妬するのも当然なのだが。


(折角友達になったんだから、この子は私が守らないと!!)

 
 そう自分に言い聞かせて二人の間に立つ。


「し、栞さん!!この子はその・・・・・・ほら大人しそうだから優しく接してあげないと・・・・・・」


 可愛らしい兎を飢えた猛獣に差し出すような残酷な心を生憎と自分は持っていない、隆さんを喜んで栞さんや葵さんに差し出す根性なら余裕で持ってるけど・・・・・・それはさておき、必死に栞さんを宥めようと声を掛けるが全然私を見ていない・・・・・・あの虚ろな視線を霞ちゃんへ向けている。

 あんな瞳で見られたら霞ちゃんにトラウマが出来るんじゃないかと心配になるが・・・・・・あの瞳を向けられても動じた様子が一切見られない・・・・・・儚げな見た目とは違いもしかしたら物凄く度胸があるのかもしれない。

 もしくは・・・・・・あの雰囲気に気づかないだけなのかも。

 ふらっと栞さんが霞ちゃんへ近づいていく、こうなったらいよいよ刺し違えてでも止めなくてはと覚悟を決める。


「あなたが・・・・社霞?」


「・・・・はい」


 コクッと頷く霞、あわせて機械ちっくなカチューシャがピョコっと動く。


(あ~アレ可愛いな~)


 なんて場違いな感想を思い浮かべていると・・・・・・


「・・・・・・って・・・・で」


「はい?」


 栞がポツリと言葉を漏らす、小さくて聞き取れなかった・・・・・・いや脳が認識できなかった。



「ママって呼んで!!」



 ほら・・・・・・そんな爆弾発言理解なんて出来ないって、したくないって、無理だって。

 霞ちゃんも流石に驚いているのか綺麗な瞳をコレでもかと見開いていたりする。


「し、栞さん落ち着いて・・・・!!」


「すっっっごい可愛い!!あり得ないだけどマジ(社語)で!!隆が溺愛するのも頷けるわ・・・・・・だからお願い、私をママって呼んで!!」


「橘・・・・・・あんたそれじゃ隆の母親になるわよ?」


 速瀬中尉の冷静なツッコミを受けて栞さんがフリーズする。


「・・・・・・それもいいわね・・・・・・溢れる母性で隆を包み込めば今度こそ陥落できるかも♪」


「あ、あんたそれでいいわけ!?なりふり構わないとかじゃなくて、もう病気よ誰がどう見ても!!」


「速瀬・・・・・・なんか私悟ったかもしれない、隆が好きなものは私も好きになればいいのよ・・・・・・そうよそうすればいいのよ、嫉妬なんてしなくて良いし、だって私も隆も好きなんだから・・・・・・うんそうね・・・・・・うふふふふふふふふ」


 虚ろな瞳、しかも普段の瞳よりもはるかに深い、むしろ真っ暗な瞳に唇を三日月に歪めた栞さんが、やんわりと霞ちゃんの細い肩に手を置くのを見て。


(隆さ~~~ん、今回は本当にピンチだよ~~~~~!!)


 さっきまで感情を余り露にしなかった霞ちゃんが、今は露骨に脅えた表情を見せているのに、助けられない自分に嘆くことしかできず彼にただ救いを求めるしかなかった・・・・・・







<社 隆>


「一体何が・・・・・・起きてるんだ?」


 PXの一角で繰広げられている光景に眩暈を感じる。

 自分が姿を消した小一時間ほどで・・・・・・こうまで状況は変わるものなのだろうか?


「うふふふふふ、可愛いわね霞ちゃん・・・・・・とっても大好きよ、もう食べちゃいたいくらいに」


 愛する義妹である霞を抱きしめながら何やら虚ろな瞳で呟く橘・・・・・・な、なんだ?いつもより当社比5割り増しぐらいでヤバ気な雰囲気なんだが・・・・・・一体何があった?


「栞さん駄目ですって!!もっと優しく接しないと!!」


 そんな栞を必死に止めようとする真奈美・・・・・・やっぱお前はほんとうにいい娘や、出来ればそのまま頑張ってくれ・・・・・・今の栞には近寄りたくない。


「ふむ・・・・・・こうなると・・・・・・賭けの倍率が変わってくるかもな」


 隣のテーブルで桐嶋がそんなことを言っている・・・・・・まぁいい、お前には後でタップリと話がある・・・・・・なぁイケメン?きっとお前のほうが似合うと思うぞ・・・・・・それに需要もたっぷりあるはずだ、なぁに痛くしないさ。


「こ、こりゃ驚いた・・・・・・予想の遥か斜め上をいっとるわ・・・・・・まさかこないな美少女がグラサンの妹とは」


 川井よ、その感想は素直に受け取っておくが・・・・・・変な気を起こすなよ?霞に近づく不貞の輩は俺が全力を持って滅する所存だ・・・・・・手段はむろん問う気は無い、可能なら夕呼さん頼んでG弾だろうが調達してぶっ放す覚悟はある。


「ねえ遙・・・・・・隆の周りってこんな人ばっかりなのかしら?」


「う~ん・・・・・・あ、でもそうなると私たちもどうなのかな?」


 頓珍漢な会話をしている水月と遙・・・・・・なんか苦労掛けるな二人とも、後で平謝りするから許してくれ・・・・・・可能なら何でも言うこと聞くから。


「あの子が・・・・・・隆さんの妹さんなの?」


「ああそうだよ・・・・・・なぁ葵、夕呼さんへの用事終わったんだろう?・・・・・・もう百里帰ろうぜ」


 腹部が痛い・・・・・・猛烈に痛い、さっき応接室で静流さんが夕呼さんに写真を渡した時から痛みが酷くなってきているんだけど、更に悪化してるような気がする。

 写真はもう諦めた・・・・・・夕呼さんにも好きにしてくれとしか言えなかった・・・・・・なんだろ、絶望ってこういう気分なのかな?あはっはははははは・・・・・・駄目だ胃が痛い。


「何無理なこと言ってるの?」


「・・・・・・なに?」


「さっき博士から言われたわ、作業が終わるまで二日は見て欲しいって・・・・・・まぁ貴方の機体に乗せるものだから当然待つしかないわね」


「ここで?」


「・・・・・・それ以外に何処かあるのかしら?」


 もう何がなにやら・・・・・・葵が夕呼さんに何か頼んでいたが、正直覚えちゃいないし心の底からどうでもよかった。


「それにだ隆、どうせ百里に戻ってもすることはないぞ?お前の胡蜂は殆どOH状態で、湯田班長が言うには一週間は掛かるそうだ・・・・・・ま、それまではここに厄介になる予定だな」


「そ、そんな・・・・・・この状況が一週間も続くのか?」


「どうした隆?そんな人生に絶望しきった顔して?・・・・・・冤罪で死刑宣告を言い渡された悲惨な人間にそっくりだぞ?」


「見たことあるんですか?・・・・・・いやもう・・・・・・まいった、ほんとに」


「隆さん?どうでもいいけど少し休んだら?・・・・・・どうせ一週間くらいは滞在するしかないんだし・・・・・・このくらいで根を上げてたら持たないわよ?」


「葵・・・・・・知ってるか?胃に穴が開くのに五秒も掛からないそうだぞ・・・・・・はぁ・・・・・・悪いちと一人にさせてくれ」


 二人を置いてフラフラとPXのカウンターへ近づいていく。

 もう駄目だ、辛い、明日への希望が無い、未来へ咆哮なんて出来ない・・・・・・苦悶の咆哮ならできるけど。


(俺・・・・・・今回は本当に心労で潰れるかも)


「おや隆、帝国軍に行ったって聞いて心配してたけど、随分と礼儀の良い子や楽しそうな子が同僚みたいだね?」


「はぁ・・・・・・そう見えますか」


 京塚さんの視線に止まったらしい、相変わらずおばちゃん気質な気さくさで声を掛けてくれる。
 なんだろ・・・・・・その何も裏が無い気さくさが今は心に染みる・・・・・・


「どうしたい隆?辛気臭い顔してからに・・・・・・」



「京塚のおばちゃん・・・・・・なんか俺・・・・・・人生が上手くいってないような気がするんだ・・・・・・」




 そう吐き捨てるように答え、俺はがっくりとカウンターに崩れ落ちた。








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