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DONの落書き部屋

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「Muv-Luv 小説」
第一部

槍訪問編 第4話 第一部完

 
 槍訪問編   彼の見た夢 (第一部完)



 2001年4月9日 15:00
 横浜基地  医務室


<橘 栞>


「では此方がお薬になりますので、用法をよく読んで飲ませてあげてくださいね」


 緑の長い髪を持った衛生兵の少女が、そう言いながら薬を渡してくれる。


「ん・・・・・・ありがと、助かるわ」


 カエルの形をした髪留めに何故か目を奪われてしまったが、礼を言いながら薬を受け取る。


「それと社中尉が安静にしていないようでしたら、こちらの薬を使ってくださいね、すぐに大人しくなって言うことを聞くようになりますから・・・・・・ふふふ」


「??・・・・・・うん、分かったわ」


 にっこりと笑顔を浮かべ衛生兵の少女は違う種類の薬も渡してくる。

 なんだろ・・・・・・この子に親近感を感じるのは気のせいかな?


「じゃ霞・・・・・・お兄ちゃんの看病に行きましょうね」


「・・・・・・はい」


 ついてきた(もとい連れてきた)霞の手を取って医務室を後にする。


「霞も今日は時間あるんでしょ?」


「はい」


「よかった、じゃ今日も一緒にご飯食べようか?」


「はい、私オムレツがいいです・・・・・・」


「よしきた!葵に言って卵用意させるからね~♪」


 些細(天然食料なんてコレまでの経験上すでに些細なこと)な我侭を見せた霞がもう可愛いくて仕方が無い。

 霞の負担にならないように繋いだ手をブンブンさせると、小さな手が私の手を放さないようにキュッと力を籠め返してくる。

 そんな霞の愛らしい仕草の一つ一つに母性本能がキュンキュン反応してしまう・・・・・・・・・・・・う、鼻血でそう。



 そ、それはさておき、横浜に来てもう3日が過ぎた。

 葵が持ち込んだ機材の護衛という名目上での国連軍への出向なのだが・・・・・・護衛するブツがそもそも何処に運び込まれたかも分からず、よそ様の基地なので自由に歩き回れる場所は制限されているし、暇を持て余しているのが現状なのだ。

 正直、護衛任務や彼の古巣たる場所でなければ、国連の基地などに駐留するのは出来れば避けておきたかった。
 極東の最前線たる日本において、後方意識が抜けきらない連中の集まり・・・・・・それが帝国軍の横浜基地へ向ける評価の一つなのだ。


 だが私としてはそんなことよりも、甲22号目標である横浜ハイヴの跡地に作られたこの胡散臭い基地に長居などしたくないのが本音なのである。


(どんな気持ちでここ連中は住んでるのかしら・・・・・・?)


 醜悪なBETAの巣があった場所なのによくも平気にしていられるものだ・・・・・・それ以前に此処はG弾の爆心地であもる。
 あの糞忌々しい超兵器を無害だと米軍は謳っているが、過激派やどこぞの宗教組織の手によってそれがブラフでしかないことは周知の事実だ。


 そんな場所に妹を住まわせている彼の考えが本当に理解できない・・・・・・


(そもそも血が繋がっていないのは知っていたけど・・・・・・まさか北方の子だなんて誰が予想できるかっての・・・・・・はぁ、本当に大切に思ってるなら米国なり豪州なりに疎開させればいいのに)


 内心でそう呟きながら、隣を歩く霞の表情を横目で盗み見る。


「・・・・・・」


 まだ出会って数日だがこの愛くるしい彼の義妹が感情らしい感情を見せたことは、数えるぐらいしかなかった。

 まぁ、一目で霞が物静かで喜怒哀楽などの感情を表に出すことが苦手な子だってのは分かった。
 私だって人生苦労してきたわけじゃない、人の顔色を伺って生きるのが日課だった孤児院暮らしで培った観察眼は伊達じゃないと自負している。

 ただ・・・・・・お蔭で霞は感情を表に出さないのではなく、感情をそのものを理解していないことを何となく感じ取ることができてしまった。


 人と接することを知らない子供・・・・・・そう言う特殊な子も孤児院にはいた。

 身体が弱くて外に出ることが出来ない子や、酷い虐待を受けた子・・・・・・理由は様々だが、そんな感情を消してしまった子に霞は良く似ている・・・・・・


 小さい頃からどんな生活させてたのよ!?と彼に問いただしたのだが、何やら苦笑いで誤魔化されてしまい、更に霞から兄さんを苛めないでと上目遣いで抗議されては・・・・・・それ以上詰問することは流石に無理だった。


 何も知ることは出来なかったが・・・・・霞はとても良い子だ。

 この子の行動には裏表が一切無くありのままの自分を見せている・・・・・・その種類が乏しいことに悲しみを感じるが・・・・・・なに時間はある。
 将来妹になる子ならば、心身を削ってでも世の中の楽しみを教えてやることに躊躇いは無い。


「・・・・・・つきました」


「!?ん、ちゃんと寝てるかしらね、あの駄目お兄ちゃんは」


 少し考えすぎたらしい、いつの間にか彼の部屋に到着していたようだ。

 笑顔で霞に声を掛け部屋のドアを開ける、自分たちが横浜に来たその日のうちに何やら体調を崩して寝込んでしまった彼。

 軍医には胃潰瘍との診断を受けたらしいが・・・・・・いったい何が彼をそこまでの心労に駆り立てたのだろうか?


(でも、私と霞がいれば問題無しよね!!)


「隆~~~?ちゃんと寝てた?お薬貰ってき・・・・・・」


 意気揚々と部屋に入るも彼が寝ていたはずのベットはもぬけの殻・・・・・・狭い室内を見回すが隠れる場所など元から何処にも無い。


「・・・・・・ふむ・・・・・・いないけど、まだ暖かい」


 首を傾げて彼が眠っていたベットを手で触る・・・・・・まだ暖かい、さっきまでは此処にいたようだ。

 一瞬、彼の温もりが残るベットにダイブしたくなるがグッと堪える・・・・・・だって霞が見てる・・・・・・あれ?なんで霞までベッドに触るの?しかもなにモフモフしてるわけ?・・・・・・・・・・・・あ、侮れないわね。

 そ、それはさておき、胃痛で満足に食事がとれない彼は今点滴で栄養をとっている。
 その点滴ごといなくなっているところを見るに・・・・・・サングラスだけでも目立つというのに点滴までぶら下げて基地内をうろつくとは・・・・・・彼はそこまでして人目を惹きたいのだろうか?


「まったく何処行ったの・・・・・・・・・・・・そこの訓練兵、ちょっといい?」


「はッ!!少尉殿何か御用でしょうか!?」


 丁度廊下を歩いていた訓練兵らしき白い制服に身を包んだ少女に声を掛ける。

 ピシッと、彼よりも遥かに立派な敬礼を送ってくる三つ編みの少女・・・・・・にしてもその髪長すぎない?眼鏡も大きいと思うんだけど・・・・・・まぁいいか。


「えっと・・・・・・サングラス掛けた怪しい男見なかったかしら?」


「怪しい・・・・・・男ですか?」


 怪訝な表情を浮かべる少女の言葉に頷く。


「ええ、怪しいって文字が服着て歩いてるくらい怪しい人・・・・・・室内なのにサングラス掛けて、きっと今は点滴ぶら下げていると思うんだけど・・・・・・すれ違ったりしてない?」


 その質問にサングラス・・・・・・と、なにやら思うところがあるような表情を一瞬だけ少女は見せたが、少なともすれ違ったりはしていないと言われてしまった。

 となると彼は一体何処に行ったのやら・・・・・・この基地内で自分が自由に行動できる範囲は限られており、そんな場所ゆえに彼を探すにも限度がある・・・・・・どうしたものかと悩んでいると。


「栞さん・・・・・・こっちです」


 霞がピョコピョコとカチューシャに付いたアンテナ(?)を動かして私の手を引っ張る。


「分かるの?隆のいる場所が?」


「はい・・・・・・兄さんは大人しくしてなくちゃいけません、捕まえてください」


 何やら真剣な瞳で訴えてくる霞。

 うん、やっぱりいい子だ、お兄ちゃん思いなのがヒシヒシと伝わってくる。


「よしきた!一緒にあのグラサンをふんじばるわよ!!」







「帝国軍の衛士って・・・・・・あんな人たちばかりなのかしら・・・・・・」

 そんな訓練兵の声が聞こえてきたけど、聞こえないったら、聞こえない~









 同日 横浜基地 一階・化粧室

<城崎 葵>


「良かったわ・・・・・・隆の知り合いにまともな人がいて」


 速瀬中尉はがっくりと壁にもたれかかりながら、そんな台詞をシミジミと言ってくる。


「・・・・・・ごめんなさい、私の同僚がご迷惑を掛けたみたいで」


「あははは大丈夫ですよ、むしろ賑やかでいいくらいです」


 涼宮中尉がニコニコと笑みを浮かべて言ってくれた言葉に一応は安堵するも、アレが日常茶飯事となればこの二人の女性はいったいどんな顔をするのだろうか?


(ま・・・・・・今は少しのんびり出来るからいいわね)


 つまらないことを考えてしまったと嘆息し、鏡に映る気の抜けた自分の顔を眺める。



 横浜に来て早3日が過ぎた。

 持ち込んだ機材の調整は、香月博士直轄の人間が作業するとのことなので自分が手を出せるはずもなく、精々邪魔にならないように大人しくしていることしか出来なかった。

 ただ手持ち無沙汰なのは変わらないので、どうしたものかと思案し慣れない基地の中をふら付いていたのだが・・・・・・彼に基地を案内して貰おうにも生憎と今は自室で休養中だ、しかも看病は栞とあの霞なる妹が頑張っているので、手狭な部屋にこれ以上人が増えたら逆に迷惑だろう。


(・・・・・・そんな隆さんを光菱にね)


 先日、香月博士から要請された案件を思い出して嘆息してしまう。

 一体何を考えているのか・・・・・・此方としても香月博士と太いパイプが出来るのは願ったりだが、他にも要求された内容から推察しても、あの横浜の女狐と呼ばれる女傑が何を考えているかが一切分からない。


(でもどうしましょう・・・・・・国連からの出向となると社でも受け入れの準備が必要になるし・・・・・・私も軍から一時的に身を引かないといけないし・・・・・・マナちゃんのこともあるし・・・・・・はぁ、考えることが山積みだわ)


「どうしたの城崎中尉?」


「あ、いえそのなんでもないわ・・・・・・ごめんなさい」


「随分深刻そうな顔をしてたけど大丈夫ですか~?」


 そのマナちゃんから紹介されたこの二人の女性、速瀬水月中尉と涼宮遙中尉、両名とも国連の教導部隊の人間でかなり優秀らしい。


 なんでも栞がけしかけて模擬戦まで行ったらしい。

 その結果は、時間切れで引き分けだったとマナちゃん教えてもらったが、最初聞いた時は我が耳を疑ったものだ。

 横浜に駐屯する国連部隊といえば、新設された基地に配属された日和見主義者の集まり、それが帝国軍の多くが思っている見解である。

 幾ら此方がベストメンバーで無いとはいえ、インパルスに教導を受け百里でも指折りの部隊として認められてきている帝国のブリューナクたる百里の槍が、そんな後方の基地で燻ってる教導隊に引き分けに待ちこまれた事実はショックでしかなかった。


 とは言えこの基地が稼動するために多くの人員が帝国軍から国連に出向になったと聞いている、彼女たちはどう見ても日本人だ、直接聞いていないが元の所属は帝国軍なのかもしれない・・・・・・それならば十分納得できる。


(実戦経験が豊富な国連軍は、今じゃ欧州かインド海に集中してるはずだし・・・・・・極東の最前線とは言え、米軍嫌いな島国に国連が大手を振って精鋭部隊を送り込むこともないでしょうしね)


 そんなこを考えながら、何の気なしに隣に佇む涼宮中尉を横目で見た瞬間・・・・・・・・その仕草にある種の違和感を感る。


「涼宮中尉・・・・・・失礼ですが、貴女の足・・・・・・」


「あ、分かる?・・・・・・うん、生態義足なの」


 事も無げに言って笑う彼女。

 実戦で負傷したのか・・・・・・理由は分からないが、両足を失ったにも関わらずそんな風に笑える彼女を見て、和やかで落ち着いたその仕草から想像できないほど、心が強い女性なのだと印象を訂正する。


「・・・・・・ほんとは遙も衛士になって私の相棒になってもらうはずだったのにね~今はみんなのお母さんだからね~」


「ふふ、そうだね・・・・あ、城崎中尉気にしないでくださいね?訓練中の事故なので仕方が無かったんです・・・・・・でも折角総合戦闘技術評価演習を通ったのに適正で落ちちゃって・・・・・・悔しくないと言えば嘘になりますけどね・・・・・・今は部隊のCPとして頑張ってますから」


「そうですか・・・・・・大変でしたね」


 訓練中の事故、確かによくある話だが・・・・・・あまり腕のいい医師に診てもらえなかったのかもしれない。
 一流の腕と技術を持った医師ならば、戦術機の適正で引っかかるような無様な治療などするはずがないからだ。


「・・・・・・もし不具合あれば相談してください・・・・・・いい移植技術を持った医師を紹介しますので」


 もしかしたら今からでも間に合うかもしれないが・・・・・・先ほどの二人の会話を聞く限り、涼宮中尉はCPとして部隊に欠かせない存在のようだ。今から衛士として一から訓練するには惜しい人材なのかもしれない。


「ありがと~じゃあ、そのときはお願いしますね」


「くぅぅ、城崎・・・・・・いえ葵と言わせて!!隆の傍にいる人にしては、あんたほんといい人ね!!私の親友のことを気遣ってくれるなんて・・・・・・仲良くしましょ!!」


「え、ええ・・・・・・此方こそ、隆さんの傍に二人みたいなまともな人がいるとは思ってみなかったわ」


 握手を求められ、力説する速瀬中尉の剣幕に押されながらも自分の本心を語る。

 どうやら二人とも彼の同僚かなにかのようだが、栞ほど彼にたいする依存心やら執着心を持っていないようだ。
 これなら特に私が気にするようなことはないかもしれない・・・・・・いえ、別に彼がどこの誰と仲良くしてても別にいいけど・・・・・・なに、言ってるのかしら私・・・・・・


「っと・・・・・・やだ水跳ねちゃった」


「あ~あ、まったく遙はドジねぇ」


 しかも二人ともかなり仲が良いようだ・・・・・・もしかしたら、彼が絡んでいないときの私と栞の姿もこんな風に見えるのかもしれない。


(ふふ・・・・・・まぁ悪くはないわね)


 なんて暢気なことを考えていた瞬間・・・・・・二人が制服の胸ポケットから取り出した代物を見て思考が止まる。


「なんか最近こんなのばっかりね」


「そうだね~水難の相でもあるのかな~?」


「二人ともちょっといいかしら・・・・・・そのハンカチ・・・・・・」


 化粧室から出て行く二人を追いかけるべく声を掛けるも、速瀬中尉が何かに気づいたかのように顔を上げて、明後日のほうを突然見る。


「んげ・・・・・・橘だ」


 下品な声を上げ、うんざりとした表情を浮かべるが正直どうでもいい。


 なんでこの二人が、私と彼が一緒に作ったハンカチを持っているのか理解できない。
 きっと妹にプレゼントするのかと思って材料やら手助けをしたのに・・・・・・・・・・・・ほかの女性にあげるなんて・・・・・・聞いてない。


「あ、霞ちゃんも一緒なんだ~どうしたの二人して~?」


 涼宮中尉が手を振って通路を歩く二人へ声を掛ける


 そのピンクのハンカチ・・・・・・ほんとうなら私が欲しかったんだけどな。


「隆を探してるのよ・・・・・・知らない?」


 彼の妹と仲良く手を握った栞がそんなことを質問してくる・・・・・・随分と彼の妹と仲良くなったのね・・・・・・ふん、べつに羨ましくなんてないけどね。


「ん~見てないよ~・・・・・・水月知ってる?」


「私もちょと・・・・・・あ、そこの訓練兵!聞きたいことあるけどいいかしら?」


 たまたま近くを通りかかった白い制服を着た少女を捕まえて、速瀬中尉が質問し始める。


「は、はい!!なんでしょうか中尉殿!!」 


 小柄な身体を必死に背伸びさせて少女は敬礼してくる。

 なんか・・・・・・ピンクの髪が可愛らしいけど、随分と特徴的な髪型を持った少女だ。


「サングラス掛けた怪しい男見なかったかしら?」


「ついでに点滴ぶら下げて徘徊してるはずなんだけど?」


「え、ええっと、怪しい人ですか?ご、ごめんなさい見てないです」


 上官から声を掛けられるなど滅多にないのだろう、訓練兵の少女は顔を真っ赤にして緊張した面持ちで答えてくれた。


「そう・・・・・・霞、ここじゃないみたいよ?」


「はい・・・・・・栞さん、こっちです」


 彼の妹に栞が声を掛けると、小さな声を上げて彼の妹は栞の手を引っ張って歩き始める。

 うんスカーフは妹さんにプレゼントしたのね・・・・・・似合ってていいわね・・・・・・でも、そうなるともう一つのハンカチは誰にあげたのかしら?あの悪趣味な極紫のハンカチは妹さんに似合うとは思えないし・・・・・・そう、もう一人いるのね・・・・・・ふふふふふ。


「・・・・・・どうしたんだろう?隆さん体調崩して部屋で休んでるって言ってたよね?」


「大方逃げ出したんじゃないの~?橘の相手は正直隆でも辛いって、そう思うでしょ葵も・・・・・・」


 此方に同意を求めるために二人が私へ顔を向け・・・・・・硬直した。


「ごめんなさい二人とも、私も隆さんを探しにいくわ・・・・・・ちょっと色々と聞きたいことができたから」


 言って私も二人の後を追うべく歩き出す・・・・・・硬直した二人の顔だが、たまに見せるマナちゃんの顔と同じだったような気がするけど・・・・・・なんでしょ国連でも流行ってるのかしら?






「はわわわわ、サングラス掛けた人ってこないだの人かな~?突然聞かれたからびっくりしちゃったけど、失礼じゃなかったかな~?」

 取り残された訓練兵の少女が何か言っていたが、私の耳には入ってこなかった。








 同日 横浜基地 PX


<川井 洋平>


「まさか貴様とこのような場所で会うとは思わなかったぞ・・・・・・」


「そふぅか?んぐ、もぐ・・・・・・わいはそんなことどうでもええけど・・・・・・おばちゃん悪いけど合成牛丼と特盛りつゆだくだくでも一つ追加ええやろか?」


「あいよ~~~よく食べるね帝国軍の軍人さんは!」


 カウンターのおばちゃん・・・・・・確か京塚曹長とか言っていた女性が、豪快に笑いながらそんなことを言ってくる。


「いや~おばちゃん!こんな横浜やなくて百里にきいへんか?こんな旨い飯が食えなくなると思うと、わい辛いわ~」


「嬉しいこといってくれるね~!待ってな!!今特急で作ってやるからね!」


 上機嫌なおばちゃんは笑いながら厨房に下がっていく・・・・・・そんなやり取りを、何故か斯衛の月詠中尉は頭を抱えて見ていた。


「どないしたんや月詠中尉?」


「貴様は帝国軍人としての誇りはないのか?・・・・・・国連の食事にうつつを抜かすとは嘆かわしいにも程がある」


「なんや相変わらず硬いんやな・・・・・・まったくコレだから斯衛は・・・・・・食い物に罪が無いくらいお前さんも理解しとるやろ?」


「む・・・・・・確かにそうだが・・・・・・」


「お前も食うて見たらどうや?・・・・・・それとも武家様は庶民の食べる合成食料なんて下賎なものは口にできへんのか?」


「な!!・・・・・・いただこう」


 月詠は一瞬憤怒の形相を見せたが、自分が注文した合成牛丼に勝手に手を伸ばして食べ始める。


「・・・・・・ふむ、旨いな」


 何口か口にした後、月詠が感心したように呟くのを聞いてほくそ笑む。

 斯衛の食事がどうなっているかはしらないが、普段は帝国軍と似たような食事をとっているのだろう・・・・・・正直国連の飯は帝国軍が支給しているどの食事よりも遥かに旨い、流石に天然モノには勝てないがここの厨房の人間は良い仕事をしている。


 どんな人間でも、旨い飯と旨い酒があれば大人しくなる・・・・・・何やら奴が以前ほざいていたが、その通りだと共感できる部分が確かにある。


「にしても斯衛がなんで国連の基地におるんや?ワイらは任務だから仕方がないやけど・・・・・・斯衛が国連にようがあるなんて考えつかへんぞ?」


「私も任務だ、それ以上は詳しく言えん・・・・・・でなければ私も好き好んでこのような場所にいるものか」


 もぐもぐと牛丼を食べながら月詠が答えてくる。

 翌々見ればなんたるシュールな光景だろうか?国連のPXにて帝国軍と斯衛の人間が面合わせて牛丼を食す光景・・・・・・しかも片方は美女ときたものだ、異様な光景であることに間違いない。


 そんなわけで間違いなく人目を惹いているのだが・・・・・・はっきりと言えばそんなものはどうでもいい。 

 先ほどの月詠の言葉ではないが、自分とて好き好んでこんな場所にいるわけじゃない、任務だと割り切らなければ・・・・・・もしくは開き直らなければ、こんな忌々しい場所で食事など出来るはずも無い。



 ここは横浜だ・・・・・・もとはBETAの巣があった地だ、そしてG弾が放たれ、多くの戦友が散った地。


 本来なら弔うべき場所の跡地に基地を建設し、のうのうと生きている連中にどう思われようが知ったことではない。


 こうして食事に没頭しているのは自分なりの手向けなのだ、死んだ連中が好きだった好物を食す・・・・・・彼らの代わりに、彼らを忘れないために・・・・・・ただそれだけの行為だ。


「さよか・・・・・・まぁ大変やな」


「うむ」


 嘆息しながらそう言い、食事に集中し始めると。


「月詠中尉!!探しました!」


「伝言が入っております!!」


「って!?なんで中尉が牛丼なんか・・・・・・」


 三人の少女が自分たちの座るテーブルの傍に突然現れる。

 白い制服だったので国連の訓練兵かと思いきや、少女たちの服は色こそ白だが斯衛軍の制服だと気づき、流石に斯衛がこれだけ国連の基地にいることに驚く。

 向こうも何やら驚いたように顔を引きつらせているが・・・・・・どうやらその理由は上官である月詠が牛丼を食っているからのようだ・・・・・・その月詠のほうを見れば、彼女も何やら額に汗を掻いて狼狽していたりする。


「な、なんだ?何か連絡があったのか」


 必死に冷静を装っているが明らかに動揺している・・・・・・珍しい、むしろ初めてみる姿だ。


「は、はい・・・・・・奈華宮大尉が冥夜様の検診のために一度横浜にいらっしゃると」


 と褐色の肌の少女が背筋を伸ばして答える。


「ん?確か奈華宮は技術廠の都合で確か・・・・・・アラスカに行くのでは?」


「はっ、それが長期になる可能性があるので、その前に済ませておきたいと仰っておりました」


 今度は何やら後ろ髪が鋭角的に跳ね上がった少女が答える。


「なるほど・・・・・・難儀だなあいつも、自分の仕事に微塵も隙がないというか・・・・・・いや、斯衛としては当然の責務なのだがな」


「大尉は後腐れ残すのが嫌いですから~」


 最後に髪の毛でお団子を二つ作った少女が答える・・・・・・白の斯衛は初めて見るが、随分と個性派揃いの連中のようだ・・・・・・出来れば奴に会わせて感想を聞きたい所だ。


(・・・・・・けったいな言葉を吐きながら騒ぐのは目に見えてるけどな)


 よく分からない会話を繰広げる斯衛の連中を半目で見ながらそう思っていると、PXへ三人の見知った人物が現れる。


「ん?なにをやっとるんやお前ら?」


「隆を探してるのよ、見なかった?」


 先頭を歩く橘が答えた内容に首を傾げる。


「見てへんなぁ・・・・・・あいつ、部屋で養生しとるんとちゃうのか?」


「それがいなくなったのよ・・・・・・あ、そこの訓練兵、ちょっといいかしら?」


 城崎が別方向からPXに入ってきた訓練兵に声を掛けると、何故か斯衛の連中が揃って身体を強張らせるのが視界の端に映る。


「サングラス掛けて点滴ぶら下げた中尉を見なかったかしら・・・・・・あら?あなた・・・・・・どこかで・・・・・・」


「はッ!サングラスを掛けた中尉殿ですか?・・・・・・申し訳ありませんが、本日は見かけておりません!」


 薄紫の髪を結った訓練兵がびしっと背筋を伸ばしてそう答える・・・・・・はて?あの訓練兵には見覚えが・・・・・・


「・・・・・・??・・・・・・殿下?な、わけないわな」


「「「「「!?」」」」」


 自分でも馬鹿馬鹿しいと思いながら漏らした言葉に、斯衛の連中が何故か顔を引きつらせる。


「なんや?」


「い、いやなんでもない・・・・・・気にするな川井中尉」


 そう答えた月詠中尉を初め、白の三人組みも額に汗掻いて狼狽していたりする・・・・・・ほんと変な奴らや。


「・・・・・・ふむ」


 そんな斯衛の連中と訓練兵を見比べている城崎・・・・・・何か思うところがあるのかしきりに頷いていたりする。


「・・・・・・霞、ここにもいない見たいよ?」


「はい・・・・・・こっちです」


 ピョコピョコと奴の妹・・・・・・確か霞とかいった少女が髪留めについたアンテナ(?)を動かしながら橘の手を引いて歩き出す。

 なんとなくその様子に羨ましさを感じる。
 自分も少女に挨拶したのだが、その時の奴の顔を思い浮かべると・・・・・・触れてはいけないものが世の中にはある・・・・・・ゆえに奴の妹に下手に近づくのは止めようと心に決めた。


「暇やし・・・・・・飯食ったらわいも探して見るわ」


「ええ・・・・・・じゃ斯衛の方々・・・・・・やんごとなきお方、失礼致します」


 にっこりと意味不明な言葉を残し、城崎は先に行った二人を追いかけるべく小走りで去って行く。







「帝国軍とは・・・・・・個性に溢れた人間の集まりなのだな」

 ポツリと呟いた訓練兵の言葉にまたもや斯衛の連中が反応を示したが・・・・・・まぁ、どうでもいいことだった。






 同日 横浜基地・二階通路


<三澤 静流>


「先日の模擬戦には感服いたしました、帝国軍の烈士の実力を垣間見た気分です」


 そう言いながら不適に笑う女性。

 言った台詞の中からは【次は無い】との意気込みが感じられる・・・・・・大いに結構なことだ。


「なに、君たちの技術は一級品だったさ・・・・・・我々がちと特殊なだけだ」


 隣を歩く女性、確か伊隅大尉だったか・・・・・・インパルスの杉原といい、昨今の若い衛士は優秀で困る。

 20代前半ぐらいなのに大尉の階級章を持つ女性、年齢で見れば士官学校でのエリートでもなければいいとこ中尉ぐらいなのだが・・・・・・彼女の能力を鑑みるに杉原と同じく大陸で戦った経験でもあり、その当たりも功績も踏まえた上での階級なのかもしれない。


「特殊・・・・・・とは?」


 問う言葉の中に躊躇いが感じられる、軍機にでも触れる内容なのかと憶測している様子だが、別に隠し立てするようなことでもない。


「実を言えばな、うちの部隊はイルカ乗りに扱かれている奴が多くてな」


「イルカ?・・・・・・ドルフィン・・・・・・百里の【ブルーインパルス】ですか!?」


 驚愕の表情を浮かべる彼女に苦笑を返す。

 帝国のイルカ乗りの噂は国連にまで響いているようだ、流石というかなんというか・・・・・・難儀だな松土少佐も。


「なるほど・・・・・・帝国のトップエースが教導しているとなれば・・・・・・納得できます」


 教えた内容に満足そうに頷く彼女を見て小さく嘆息してしまう。

 先日の模擬戦で相対した彼女たち国連の教導部隊、その腕前は確かに賞賛に値するものだった。

 新設された横浜基地に、彼女たちほどの錬度を誇る部隊を招集した理由を計り知ることは出来ないが、何人かは未だ未熟と言える衛士がいたものの、BETA戦において彼女たちの部隊が優秀なのは相対してよく分かった。

 彼女たちは常日頃から、部隊配置、優先撃破目標、仕様兵装・・・・・・その何れも対BETA戦に重点を置いて訓練しているように見受けられる。
 限定空間での特化した部隊連携・・・・・・ヴォールクデータでのシミュレーター戦に慣れ親しんだ精鋭部隊と通じる部分が彼女たちにはある。


(BETA戦ではインパルスや富士の連中すら凌ぐかもな・・・・・・)


 だが逆に言えば、国連の教導部隊たる彼女達がBETA戦に特化していることのほうが不自然なのだ。


 教導隊といえば、戦術の基礎理論の構築、新武装の実証試験などを主任務としているので、BETA戦での有利な戦闘方法に精通しているのは理解できる。

 だが、その技術を現場の衛士に伝えるために模擬戦と称する教導を繰り返し、否応にも対人戦での技能を磨く筈なのだが・・・・・・彼女たちには何故かソレが欠けている。


(国連の玉砕部隊・・・・・・もしかしたら彼女達のことなのかもな)


 数年前から帝国軍内部で噂に上がっている部隊、大規模作戦などで国連から派遣されてくる部隊の一つに、凄惨な犠牲を払いつつも多大な戦火を上げる部隊の話は自分も耳にしている。

 極秘部隊らしく一切の情報は明かされていないらしいが、どんな部隊にも表向きの名前はある・・・・・・例えば教導隊などと都合のいい隠れ蓑をもっていてもおかしくは無い


(となると・・・・・・この大尉は夕呼の懐刀といったとこか・・・・・・)


 横浜で極秘裏に行われている大規模な計画、彼女たちはその計画実証なり実験部隊なのかもしれない・・・・そうなれば、その計画の中心にいるであろう夕呼の腹心か・・・・・・まぁ推測だけなら幾らでもできる。


「三澤大尉何か?」


「いやなんでもない・・・・・・難儀だなと思っただけだ」


 此処に呼ばれたまりもも似たような立場なのだろう・・・・・・相変わらず人使いが荒い女だ・・・・・・まぁ私に言われたく無いと夕呼なら喚くだろうが。


「あ、隊長~~~うちのグラサン見ませんでしたか?」


 階段を上がって来た部下たちに声を掛けられ足を止める。


「ん?・・・・・・見てないが・・・・・・奴は部屋で寝てるんじゃないのか?」


「それがどっかに徘徊してるみたいで・・・・・・っと、失礼しました」


 ぼやくように答えた橘が、私の隣に立っている伊隅大尉に気づいて慌てて敬礼する。


「グラサン・・・・・・まさか社中尉のことでしょうか?」


 何やら額に汗掻いて聞いてくる彼女に頷いて答える・・・・・・奴以外に誰がいるのであれば、此方が教えて欲しいものだ。


「はい・・・・・・伊隅大尉でしたか?彼を見なかったでしょうか?」


「いや私は見ていないが・・・・・・先ほどから三澤大尉と一緒にいたからな」


「そうですか・・・・・・あ、そこの貴女ちょっといいかしら?」


 城崎が階段を降りてきた女性下士官に声を掛ける。


「はッ!!中尉殿何か御用でしょう・・・・・・ッ!?」


「??どうかしましたか軍曹?」


 怪訝な表情を浮かべる【神宮司軍曹】に城崎が首を傾げると、まりもは何でもありません!と背筋を伸ばして答える。


(まったく私を見て露骨に嫌な顔をせずとも・・・・・・ん?伊隅大尉までどうした?・・・・・・まりもと知り合いか?)


「サングラスを掛けて点滴を持った中尉を見なかったかしら?」


「そ、それは・・・・・・もしや社中尉のことでしょうか?」


「知ってるの貴女!?」


「い、いえ、この基地でそのような目立つ姿で歩き回るのは彼ぐらいしかおりませんので」


 食いつかんばかりに橘が詰問しかけたが、まりもの至極全うな言葉にすごすごと引き下がって行く。


「神宮司軍曹も社中尉を見てないのか?」


 伊隅がやや躊躇いながら言った言葉にまりもは首を縦に振るのだが・・・・・・


「神宮司・・・・・・あなたが神宮司?」


 まりもの名前に何やら思うところがあるのか橘が再び食いつく。


「栞さん・・・・・・こっちです」


 だが何かを聞きかけていた橘の手を、彼の妹たる霞嬢が引っ張って歩き出すので何も言えずに立ち去って行く。

 随分と彼の妹に懐かれたものだ・・・・・・一見して人見知りするタイプの子だと思い、自分は何も手を出さなかったのだが、真奈美を初め橘や城崎はどうやら好かれたようだ。


(まぁ、人には向き不向きがあるからな・・・・・・)


 ようは・・・・・・自分が子供が苦手なだけなのだが。


「・・・・・・ふむ、私も探して見るか・・・・・・生憎と不慣れなので案内してもらえると助かるんだが伊隅大尉?」


「は、はぁ・・・・・・構いませんが・・・・・・大変な部下ばかりですね三澤大尉も」


「なに、騒がしくて退屈しないから悪くは無い・・・・・・まりもお前も手伝え・・・・・・まさか逃げられるなどとは思っていないだろうな?」


 こっそり階段を下りようとしていたまりもに笑顔を向けながら忠告してやると、よく高校時代に見たがっくりと肩を落とし涙目で頷くまりもの姿を見ることができた。









同日 横浜基地・三階談話室


<桐嶋 久志>


「なるほど社隆いくところに波紋ありですか」


「ああ、見ていて飽きない男だよ、あの男は」


「しかも弄りがいがあると・・・・・・」


「そうだ・・・・・・宗像少尉、どうやら君とは気が合いそうだな?」


 にやりと笑みを浮かべると、宗像少尉も我が意を得たとばかりに笑みを返してくる。

 まったく国連などつまらない連中の集まりかと思えば、奴といいこの宗像少尉といい・・・・・・中々面白い人間もいるものだ。


「その・・・・・・桐嶋中尉」


「ん?何かな風間少尉?」


 物静かで見るからに大和撫子と形容できる可憐な風間少尉が、その風貌に相応しく無い怪訝な表情を此方に見せている。


「そ、その姿でどうしてそんな普通にしていられるのでしょうか?」


 そして躊躇いがちに言ってきた内容に・・・・・・目の間に座る宗像少尉と揃って肩を竦めてしまう。


「いえ・・・・・・お似合いですよ、桐嶋中尉」


「ああ、そう言って貰えると助かる」


 目に掛かった前髪を掻き揚げつつ、恥じること無く不敵に笑う。

 着慣れていない服なので少々動きにくいが、この程度ならば十分許容範囲だ、むしろ長髪に見せるために付けたウィッグのほうが邪魔に感じる。
 スカートだのパッドだのは・・・・・・初めて強化装備を見に付けたときの違和感に比べれば皆無に等しい。

 何故か社に横浜の基地にいる間はこの格好をしていろと強制されたのだが・・・・・・女装など自分にとって見れば造作も無いことだ。


(まさか奴にそっちの気まであるとは思わなかったが・・・・・・まぁ面白いからよしとするか)


 奴にとって見れば意趣返しのつもりなのだろうが・・・・・・まだ甘い、たかが女装如きで失うものが何も無い自分が動揺すると奴は本気で思ったのだろうか?

 しかもここは国連の基地だ・・・・・・ここの連中にどう思われようと知ったことではない。


「そ、そうですか・・・・・・桐嶋中尉がそうおっしゃるならいいんですが」


 風間少尉はどうやらこういったことには余り耐性が無いようだ・・・・・・まぁお嬢さま然とした容姿から推察できることだったが。
 隣で面白そうに笑う宗像少尉は男装が似合いそうだが・・・・・・提案すれば、この女性ならばきっと快く了承してもらえるだろう。


(・・・・・・百里の連中ならば好きそうなネタがまた一つ増えたな)


 横浜に駐屯している間にネタが色々増えそうだ。

 奴の妹にしてもあれほどの美少女とは思っても見なかった・・・・・・一部で需要があるのは間違いない。


(ただ、写真を撮ろうにも奴のガードが異様に高い・・・・・・生憎とカメラも取り上げられてしまったからな・・・・・・どうしたものか)


 そう思案していると、ゾロゾロと見知った連中が部屋を横切って行くのが視界に端に映る。


「どうした?皆お揃いで?」

 声を掛けると皆足を止めるが、川井が露骨に嫌そうな表情を浮かべる・・・・・・まったく、その程度のリアクションでは俺は満足できんぞ。


「隆を探しているのよ・・・・・・変態繋がりで何かしらない?」


「変態とは酷いな・・・・・・社の趣味に合わせているだけなんだが?」


「桐嶋さん、私貴方のこと誤解してたわ・・・・・・もっと普通の人かとおもってたのに・・・・・・」


「ふむ、俺がなんと思われようと気にはしないが・・・・・・社がいないのは気になるな・・・・・・そこの訓練兵、ちょっといいか?」


 丁度廊下を通りかかった国連の訓練兵に声を掛ける。


「は、はい!!なんでしょうか中尉殿!!」


 ピシっと敬礼を送ってくる小柄な少女・・・・・・中世的な顔立ちに短い青い髪、スカートを穿いていなければ少年かと見間違うような少女だ。


「ん?・・・・・・君は男装が似合いそうな子だな・・・・・・よかったら男物の制服を着てみないか?」


「なに言ってるんやお前は!!・・・・・・すまんかったなぁ、この変態のいうことは気にしないでくれや」


「あははは、男装ですか?父も似たようなことを言ってました、娘のような息子だとか、息子のような娘だとか、そうそう両性具有ってしってます?雌雄同体の一種なんですけどね、まれにそう言った人が生れるらしいんですよ、なんでも合成食料の成分に身体に変化をもたらすホルモンを分泌させる成分が含まれているとかなんとか、そうそう合成食料の原料って一体なんなんでしょうか?そもそも農作物に依存しない食糧の確保は・・・・・・」


「な、なんや・・・・・・この娘は?」


「えっと、悪いけどサングラス掛けて点滴もった中尉をみてない?」


 マシンガントークを始めた少女に狼狽する川井を尻目に、城崎がうんざりした様子で聞くと、少女は少し考え込むように首を傾げ、見ていないと答えてくる。


「ん~・・・・・・霞、あのお兄ちゃんは何処いったのかしらね?」


「はい・・・・・・こっちです栞さん」


 奴の妹に手を引かれて橘が歩き始めると、ゾロゾロと全員が揃ってそれについていく・・・・・・一瞬ハーメルンの笛吹きを思い浮かべてしまった。


「・・・・・・ふむ、俺も行ってみるか・・・・・・また面白いことになりそうだしな」


「お供しましょう桐嶋中尉・・・・・・」


「あ、あまり係わり合いになりたくないけど・・・・・・美冴さんがそういうなら・・・・・・」








「凄いな~~変なこと言う人だったけど、あんなに多くの人に好かれてるんだね~見習いたいな~・・・・・・でもさっき声を掛けてくれた中尉殿・・・・・・綺麗な人だったなぁ・・・・・・僕も将来ああなりたいな~」


 先ほどの少年のような少女が何やら感嘆の声を上げているので・・・・・・とりあえずにっこりと笑みを送っておいた。









同日 横浜基地・屋上

<瀬戸 真奈美>

 
 一面に広がる廃墟奥に・・・・・・生命の母たる海が見える。

 例えBETAによって大地が蹂躙されても海は変わらずに存在し続ける・・・・・・今日も、明日も、この地球から生命が失われても・・・・・・海は変わらず其処にある。


「綺麗ですね・・・・・・」


「ああ、綺麗だな・・・・・・」


 そんな海の向こう、茜色に染まった空を見上げながら・・・・・・どこか憔悴しきった私と彼は呆然と呟いていた・・・・・・


 わざわざ屋上に上がり二人で体育座りしながら空を見上げる理由・・・・・・今更話す必要は無いよね?



 でも一言だけ言わせて・・・・・・おかしい・・・・・・おかしいよ、霞ちゃんとは私が仲良くするはずだったのに。


 どうしてこうなっちゃたんだろう・・・・・・


「なぁ真奈美・・・・・・聞いたか?」


 呻くような声で彼が声を掛けてくる・・・・・・見ればほんの数日しかたってないのに、彼も随分とやつれたように見える。


「なんですか?」


「俺たち・・・・・・来月にはヨーロッパだそうだ」


「・・・・・・ええ、聞きました」


「そうか・・・・・・向こうの景色はもっと綺麗なんだろうな・・・・・・白夜やオーロラが見れるかもしれないぞ・・・・・・最前線で激戦区らしいが・・・・う、ふふふふ」


 乾いた笑い声を上げる彼に私は頷くことしかできない・・・・・・あ、そろそろ点滴切れそうだ、交換してあげないと。


 まぁ・・・・・・それはともかく葵さんが言うには、なんでも武御雷を国外に派遣する計画がどこぞで上がっているらしい。
 他国へのプレゼンなのか牽制なのかは知らないが、国内運用を前提で作られている武御雷を海外でも通常通り運用できるか、そのデータ取りのために自分たちや幾つかの部隊が海外に飛ばされるらしい。

 ようは先遣隊・・・・・・体の良いモルモット・・・・・・にしても光菱の令嬢たる葵さんを激戦区たる欧州に向かわせるなんて・・・・・光菱も何を考えてるんだろ。


「ヨーロッパに行ってBETAに食われるか・・・・ここで身体壊して衰弱死するか・・・・どっちが幸せだと思う?」


「そうですねぇ・・・・BETAに食べられちゃうのって凄く怖いけど一瞬なんじゃないですか?・・・・・・心労でジワジワ弱っていくのと隆さんどっちがいいですか?」


「ははははははは、どっちも嫌だ♪・・・・・・・・真奈美、不知火で俺を握り潰してくれ・・・・痛くないように一瞬でだぞ?」


「お断りします、そんな一人だけ楽になんてさせません・・・・・・・・もしそんな機会があれば、クラッシックが一曲終わるぐらいの時間を掛けて、ゆっくりじっくり潰してあげますね♪」


 これでもかとばかりに極上の笑み浮かべて返答すると、彼もにこやかな笑顔を私に向けてくる。


「はははは、こいつめ~」


「あははは、隆さんも冗談好きですね~」


「「・・・・・・・・・・はぁ」」


 揃って溜息・・・・・・なににやってんだろ私たち・・・・・・


 こんな姿なんて誰にも見せられないなと思っていると・・・・・・グルルとお腹の虫が無く音が聞こえてくる。
 一瞬、彼の音かと思いきや・・・・・・私の音だった。


(そ~言えば、私も何も食べてなかったなぁ)


 霞ちゃんが栞さんに連れ去られたショックで食欲不振なの・・・・・・はぁ。


「・・・・・・食べて」


「ッ!?」


 突然声が聞こえて来たかと思うと、すっと目の前にパンが差し出される・・・・・・差し出した手の先を見上げると、何時の間にか其処にいたのか、国連の訓練兵らしき黒髪で長身の少女が私の傍に立っていた。


「あ、ありがと」


「お腹が膨れれば幸せ、これ世界の常識」


 礼を言いながら受け取ると、何やら世界の真理らしき台詞を言いながら少女は満足そうに頷く。


「良かったな真奈美・・・・・・流石はまりもさんの教え子だ、いい子だな君も・・・・・・」


「そんなことない・・・・・・中尉殿にはコレ」


 彼に褒められて素直に嬉しかったのか、訓練兵の少女は頬を染めて彼の点滴を手早く交換し始める。

 随分用意がいいというか・・・・・・なんでこの子は点滴なんてものを持ち歩いているんだろう?


「聞いてたから持ってる」


「そ、そうなんだ・・・・・・ありがとね」


 視線で私の疑問に気づいたのか、少女はニコリともせずに答えてくる。

 ふとそこで思うことがある・・・・・・先日行った模擬戦の終了後に見た訓練兵の少女たち、なんでも総合戦闘技術評価演習を受けるために横浜基地に来たのだという。

 今年、演習を行うとなれば・・・・・・もしかしたら少女たちは自分と同期なのかもしれない。


(変に評価されて飛び級で衛士になったけど・・・・・・きっとそうだよねぇ)


 そんな事実に気づいてしまったが・・・・・・訓練兵の少女を見て深い溜息を付きたくなる。 


 おかしいよ・・・・・・幾ら同い年でも成長に差があるっていってもさ・・・・・・なんでそんなに大きいのさ。


 制服の上から見ても分かる膨らみに羨望の眼差しを送っていると・・・・・・少女はその視線に気づいたのか、ふっと勝ち誇ったような笑みを浮かべてくる。


(く、悔しい・・・・・・でも勝てる見込み無い・・・・・・くそぅ)


 先ほど以上に肩を竦め、恵んでもらったパンに齧りつこうとすると・・・・・・屋上の出入り口から何やら賑やかな声が聞こえてくる。


「あ!!見つけたわ隆!!」


「た、橘!?どうしてここが・・・・・・」


 びしっと栞さんが彼を指差す、その後ろに立ち並ぶ面々・・・・・・皆、暇なのかな?


「見つけました・・・・・・兄さん」


「か、霞ちゃん・・・・・・ああ、毒されてる・・・・・・栞さんに毒されてる」


 何故か霞ちゃんまで栞さんと同じように指を向けてくる・・・・・・いや可愛いからいいんだけどね・・・・・・思わず、よよよと地面に泣き崩れてしまった。


「なんだマナちゃんが一緒だったのね・・・・・・まぁいいわ、隆さん聞きたいことがあるけどちょっといいかしら?」


 ああ・・・・・・どうして葵さんがあの瞳になってるんだろう・・・・・・


「なんや、屋上に入れたんか・・・・・・お~廃墟ばっかしやなぁ・・・・・・・・・・・・懐かしいもんや」


「さて・・・・・・これから始まる修羅場を撮影したいのだが・・・・・・ぬぅ、PXにカメラは売っていたかな?」


 感慨深げに遠くを眺める川井さんに、女装してることに一切違和感を感じさせない桐嶋さんが、ブツブツ呟いていたりするけど・・・・・・ほんとマイペースだねこの二人。


「・・・・・・すまないな、慧」


 さっきパンをくれた訓練兵に静流さんがなにやら礼を言ってるけど・・・・・・なんでだろう?


 見れば他にも色んな人がいる、模擬戦をやった教導隊の人たちや、他の訓練兵とか・・・・・・隆さん、すごいね、みんな隆さんを探してたんだよ?・・・・・・愛されてるね隆さん・・・・・・しかもみんな母性に溢れてるよ?・・・・・・じゃ、無い乳の私はここで・・・・・・さて取りあえず合成牛乳でも飲みにいこうかな~


「おい待て真奈美!!お前なに勝手に変なナレーション付けてフェードアウトしようとしてるんだ!?逃がさんからな、こうなったらお前も一連托生だ!!」


「離してください!!もう私はこんな生活にうんざりです!!実家に帰らさせていただきます!!」


 あ、そういえばここ横浜なんだよね・・・・・・お家まだあるかな・・・・・・きっとBETAに潰されちゃってるだろうな。


「おいこら!?遠い目して何考えてやがる!!それに何が実家だ!!・・・・・・ん?そう言えば俺の実家も横浜なんだが・・・・・・そう言えば、余りに光景が違うから実感がわかなかったな・・・・・・うん」


 隣で彼も廃墟を見ながら現実逃避を始める・・・・・・うん、思い出って大事だよね。


「兄さん我侭は駄目です、きちんと安静にしててください・・・・・・でないと・・・・・・私も栞さんと一緒に兄さんの添い寝をして見張ります」


「「「「「ぶっ!!」」」」」


 霞ちゃんの爆弾発言に私を含め何人かが噴出す・・・・・・思ったより多いのは気のせいかな?


「あ、ああ・・・・・・霞まで染まってる・・・・・・俺の癒しが・・・・・・俺のパライソが・・・・・・・・・・・・う、う、うふふふっふふふふふ」


「た、隆さん?」


 何やら危険な含み笑いを漏らしながら彼がゆらっと立ち上げる・・・・・・なんだろ今回の隆さんは本当に危険な香りがするような気が・・・・・・

 脳内でWarning、Warningと本能が鳴り響いている。


「ドイツもコイツも好き放題しやがって・・・・・・こっちの気もしらないで言いたい放題・・・・・・そろそろトサカに来たぞこの野郎・・・・・・邪魔だこんなん」


 彼がおもむろにサングラスを外して放り投げる、流石に硬いコンクリートの上に落ちれば壊れてしまうと思い、必死にキャッチして恐る恐る彼の顔を見上げると・・・・・・


「お前ら・・・・・・・・・・・・懺悔の時間だぞ?」


 ランランと目を真っ赤にしながら口を三日月に吊り上げた表情・・・・・・よりも、なぜ頬が赤く染まっているのかも凄く気になったけど・・・・・・その理由はすごく簡単なことで、二度と彼にソレを与えないと部隊の規則で決まったのは・・・・・・また別のお話。










 同日 横浜基地・90番格納庫


<香月 夕呼>


「作業はどう?順調かしら?」


「博士!?珍しいですね、ここにいらっしゃるとは」


 整備員の一人が声を掛けたことで気づいたのか、物珍しそうな視線を私へ向けてくる。


「まぁね、私だってたまには身体を動かしてみたい気分にはなるわよ」


 そう良いながら、基地内でも屈指の広さを持つこの格納庫の中で背伸びをしてみる。

 90番格納庫、基地でも一部の人間しか立ち入りはおろか存在すら知られていない場所。

 そんな場所で秘密裏に行われている作業と聞けば・・・・・・大抵の人間は極秘実験だとか、最新機材の試験運用だとか考えるかもしれない。


「ふぅん・・・・・・これが光菱の作ったユニットね、結構いい仕事するじゃない?提供した電磁投射砲の機関部が何なのかも理解出来ない富嶽や、軍の開発部門の連中よりはよっぽど優秀ね」


 そう言う目の前にあるモノ・・・・・・なんてことはない、戦術機に搭載する管制ユニットをしげしげと眺める。

 複座式で光菱が試作した高性能CPUが積んであるらしい、そしてこれを搭載するのが彼の乗る胡蜂となれば・・・・・・調整が必要なのも頷ける。

 光菱のご令嬢からの依頼で作業しているものの、現物を見るのはコレが始めてだった。


「作業はどう?」


「はい、大まかな取り付けは終了しました・・・・・・ですが、搭載されているCPUとのマッチングにまだ誤差が・・・・・・」


「適当でいいわよそんなの・・・・・・どうせおまけ程度の意味しかないんだから」


 そう所詮はおまけでしかない。
 戦術機の管制ユニットにバッフワイト素子を組み込むなど本来の用途を考えれば意味が無い。


 実の所を言えば、彼が使用しているF/A-18E(胡蜂)は00ユニットに搭載する予定のバッフワイト素子の使用実験のために米国から接収した機体なのだ。
 非接触端末による通信技術、その理論の実証と実験のため、ECMを搭載した簡易ハッキングができる機体を利用することで、素子が持つ危険性を米国や利権が欲しがる連中の目を欺いたに過ぎない。

 連中にしてみれば、精々多少精度の上がった電子攻撃ができるようになったとしか思っていないだろう。

 とはいえ、素子を利用しハッキングに必要な演算を行うには、戦術機に搭載されているようなCPUでは役不足であるし、ましてや搭乗する衛士がその全てを操作するなど不可能に近い。

 彼とて自分の機体にそのようなものが仕込んであるなどとは到底気づいてないだろう、むしろ機体が持つ重要性に気づいていればああも平気な顔で胡蜂を使っていられるはずが無い。
 
 ECMを搭載し、しかも帝国軍の情報をたっぷりもった機体、最悪は解体されて中身を調べ上げられ、彼も口封じに消される可能性も考えたが・・・・・・結果は光菱と言う大きな魚を釣り上げてくれた、因果を引き寄せる力は十分と言えるだろう。

 装置が持つなんらかの意味を知った光菱は早速接触を試みてきた、その時点で頭の固い軍の兵器部門や富嶽や川崎などよりも見込みはあると判断し、それなりの餌を与えてやることにしたのだ。


 全ては保険・・・・・・そう自身に掛けた保険にしか過ぎない。


「複座にしては・・・・・・案外広いのね」

 
 眺めていた管制ユニットの内部空間が広いことに気づくが、その理由が本来操縦席とセットになっている強化外骨格が存在していないことだと気づかされる。そして、その余剰スペースを活用して搭載されている光菱仕込みの高性能演算装置・・・・・・よく見れば外壁に[Asura-da]と書いてあるのが分かる。

 00ユニットに搭載予定の量子電動脳には遠く及ばないものの・・・・・・一企業がこれほどの演算装置を作り上げたことには素直に感心してしまう。


 これを、現在百里で改修中の胡蜂に搭載する・・・・・・向こうにも色々と手を回して機材は送ったのだが、たかが一機の戦術機にこうまで自分が手間を掛ける羽目になるとは思いもしなかった。

 自分の理論を実証する、貴重なサンプルたる彼が駆る機体・・・・・・だけの理由では決して無い。


(・・・・・・彼女を助けてね)


 内心である言葉を思い出して嘆息する。


 彼が持ってきた胡蜂の搭乗データに記録されていたメッセージ。

 新潟での戦闘終了後、憲兵隊に搭乗データの提出を求められたと彼から連絡があったか私はあっさりとソレを許可した。なぜなら、暗号化されているAECMが記録したデータを憲兵如きが気づいて接収できるはずがないと分かっていたからだ。

 むろん彼も気づいているはずもなく、記録したデータの中身を知ってなどいない・・・・・・

 記録されたデータの保存時間を見る限り、送って来た相手は新潟で彼が遭遇した【白い奴】なのは間違い無い・・・・・・その機体に乗っている衛士が霞と同じESP発現体なのだと予測できる。


 AECM、Active-ESP-Communication-Measurement


 平たくいえば積極的にESP能力者へ接触するための装置・・・・・・霞などのESP発現体に此方から呼びかけを行い返ってきた信号を測定する装置。用途としては副産物的なものに過ぎないが、その応用理論で全ての電子機器へのハッキングが可能となる・・・・・・むろん完成形である00ユニットならばの話だが。

 それがバッフワイト素子を利用して胡蜂に搭載されている装置なのだが・・・・・・まさか反応が返ってくるとは思っても見なかった。


 そして、その装置が反応を示し・・・・・・測定した言葉。





【彼女を助けて】





「彼女って言っても一体誰なのかしらね?」


 思わず声に出してしまい、その意味が理解できずに首を捻る。

 まぁなんにせよだ、バッフワイト素子のデータを光菱は喉から手が出るほど欲しがっている・・・・・・ECMやハッキングなどの能力ではなく、その卓越した通信媒体としてのデータが欲しいらしいが・・・・・・少なからずG元素が絡む問題だ、一企業が理解出来る範囲などたかが知れている。



「香月博士、ピアティフ中尉より内線が入っております」


「ん?何かしら?・・・・・・貸して」


 敬礼する警備の人間から内線の受話器を受け取る。


『は、博士!!早く来てください!!』


 聞こえてきたのはひっ迫した様子の彼女の声だった。


「どうしたの?何かあったわけ?」


『は、はやく!!私たちだけでは止められません!!・・・・・・キャー!!・・・・・・』


 悲鳴を残して受話器が切れる・・・・・・一体何が起きたというのか?


「・・・・・・これは何処から?」


「ハッ!地下3階の多目的ホールからと思われます!!」


 少し広さのある部屋、主に会議室として使われることもあれば、隊員の談話室としても使われる部屋だ。


「・・・・・・何人か付いてきて、一応武装した人間をお願い」


 この横浜基地で何が起きたというのか?私は数名の警備員を引き連れてその部屋に行くことを決めた。








 そして行くんじゃなかったと後で物凄く後悔することになるのは・・・・・・必然だったのかもしれない。











 同日 横浜基地・地下三階多目的ホール


<社 霞>


 私はきっとこの光景を忘れないと思います。


「ぶらぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 兄さんが何やら叫んでいます、何故かラダビノッド司令が興奮したときの話し方と同じです・・・・もの凄い迫力があります。


「な、なんで私まで・・・・・・」


 先ほど珍しく慌てた様子でやってきた香月博士が青い顔をして呟いています。

 珍しいです・・・・・・博士のそんな顔もそうですが、正座してうな垂れている姿なんてもう二度と見れないかもしれません。


 ちなみに博士が連れてきた警備の方たちにはお引取りをしていただいております、兄さんがなにやら耳打ちしただけで警備の人は去っていきました・・・・・・一体兄さんは何を言ったのでしょうか?


『『『『『『ううううっ』』』』』』


 博士以外の何人もの呻き声が聞こえます。

 視線を博士からずらせば何人もの女性が博士と同じように正座してうな垂れています。

 ちなみに此処にいる人たちには明確な境界線が引かれています。
 兄さんの正面にいる【あっち側】の人たち、水月さん、栞さん、葵さん、三澤さん、香月博士、桐嶋さん、宗像さん、それとなぜか斯衛の赤い服を着ている人と、訓練兵の姿まで見えます。
 そして兄さんの後ろ・・・・・・すなわち【こっち側】には、私と真奈美さん、川井さん、遙さん、まりもさん、風間さん、イリーナさん、それと先ほどまで斯衛の白い服を着た三人組がいたのですが、今は姿が見えません。
 
 正座した女性たちの中にあっても、腕を組み不敵に笑う三澤さんと桐嶋さん・・・・確か・・・・・・桐嶋さんは男性だったと記憶してしますが・・・・・・そこは触れちゃいけないと兄さんから教えて貰いましたから、気にしないことにします。


「誰よ・・・・・・あの駄犬に酒なんて与えた奴は」


「夕呼・・・・・・そんなことするの一人しかいないでしょう?」


「!!・・・・・・三澤先輩・・・・・・あなたって人は~」


「・・・・・・なに、点滴に少々アルコールを数滴混ぜただけなのだが・・・・・・思いのほか効果があったな」


「あ、ああ・・・・・・博士がまた・・・・・・どうしたらいいのかしら」


 博士が恨みがましく三澤さんを見ますが、まったく気にした素振りに見えません・・・・・・むしろこの状況を楽しんでいるようにすら見えます。
 イリーナさんが涙目で私の後ろにいますが・・・・・・助けられません、諦めてください。


「うう・・・・・・マナちゃん助けて」


「葵さん・・・・・・ごめんなさい無理です」


 城崎さんが真奈美さんへ助けを求めますがそれも無理な話だと思います、真奈美さんは兄さんを挟んで私の反対側・・・・・・つまり【こちら側】の人間ですから。


「ああ、傲慢な隆もすてき・・・・・・」


「橘・・・・・・あんたやっぱり病気よ・・・・・・遙~そこの駄犬とめてよ~」


「あはははははは、ファイトだよ水月」


 何やら恍惚とした表情を浮かべている栞さんの傍で、水月さんが嘆いていますが、遙さんが言うようにエールを送ることしか私にもできません。


「ふむ、まさか俺まで此方側になるとは・・・・・・な・・・・・・宗像少尉?こういう場合はどうするべきだろうか?」


「いえ・・・・・・流石に大人しくしているべきかと・・・・・・」


「はぁ・・・・・・だから係わり合いになりたくなかったのに・・・・・・」


 女装している桐嶋さんの質問に宗像少尉が額に汗掻きながら答えています、それを見て風間少尉がおろおろとした様子で右往左往しています。


「月詠・・・・・・何故なのだろうか?」


「分かりませんが今の彼には逆らえない何かを感じます・・・・・・冥夜様、いま少しの辛抱ゆえここは大人しくしておくのが得策かと」


 斯衛の女性と訓練兵の女性も何やら呟いていますが・・・・・・無理です、今の兄さんに逆らえる人なんていません。


「なにごちゃごちゃ言ってるんだお前らはぁぁぁぁっぁぁ!!」


 ドンッと一升瓶をテーブルに叩きつけて兄さんが叫びながら立ち上がりました。

 ちなみに一升瓶には「雪風」と書かれたラベルが貼られています・・・・・・ついでに床に転がった空瓶には「不知火」とか「武御雷」とかが書いてあります。


「ったく前らときたらいっつもいっつも人をおちょくりやがって!!幾ら俺でも我慢の限界ってもんがあるんだよ!?もう一杯一杯だぞこんちうくしょう!!」


「・・・・・・実は楽しんでなかったか?」


「ああお約束とかは大事だからな、何気に開き直っていた部分はあったりなかったり・・・・・・って違う!!桐嶋!!貴様のお蔭で俺の威厳が横浜でも地に落ちたぞ!!この責任どうとってくれる気だ!?」


「・・・・・・あんたの威厳なんて、とっくに焼却炉でゴミと一緒に燃え尽きてるわよ」


「ああぁ!?なんか言ったか水月!?」


 ガルルルと威嚇しまくりな兄さんです。


「・・・・・・べっつに~あんたの変態っぷりが色々分かってちょっとショックだったわ~」


「ロリコンで」

 栞さんが水月さんの言葉に続きます。


「シスコンで」

 そして葵さんも。


「女装が趣味だったのは・・・・・・私も気づかなかったわ」


 最後が香月博士でした・・・・・・私もちょっとショックでした、兄さんが女装するのが趣味だったなんて・・・・・・でも似合ってましたから良しとします、兄さんが優しいお姉さんに代わっても私は問題ありません。


「ふぅ・・・・・・もう諦めたらどうだ社?お前の変態っぷりを皆理解しているんだ、それなのにこうしてお前を構ってやってるんだぞ?まったくむしろ感謝してもらいたくらいだ」


 桐嶋中尉がシミジミという台詞に皆さん頷きます・・・・・いけません、これ以上兄さんを刺激すると・・・・・・


「!?き、貴様ら・・・・・・よぉしならば見せてやろう!!俺が至ってノーマルな人間だってことをな!!」


 言いながら兄さんがズンズンと栞さんと水月さんへ向かって歩いて行きます。

 兄さん的には威厳タップリのつもりなんでしょうが、足元が若干ふら付いています・・・・・・・・・・・・頑張れ兄さん。


「ち、ちょっと!!なによその手!!も、もしかしてまた揉む気!?」


「ま、まって隆!!私まだ心の準備が・・・・・・それにほら人目もあるし・・・・・・最初はもっと雰囲気とか大事にしたほうが・・・・・・」


 本気で嫌がっている水月さんと、なにか勘違いしている栞さん・・・・・・


「・・・・・・・・・・・・」


 「「ひゃうっ!!」」


 兄さんは何も言わずに二人の・・・・・・なんですか真奈美さん?目隠しされたら何も見えないんですけど。


「か、霞ちゃんは見ちゃ駄目だよ~~情操教育上よくない光景が広がっているからね~・・・・・・ああ、二人とも何気に嬉しそう・・・・・・あ、葵さんが倒れた、刺激強すぎたのかな~」


 ブツブツ呟く真奈美さんの言葉の影に、水月さんと栞さんが何かを悶える声が聞こえますが・・・・・・なんなのでしょう?

 少し力を使って【視て】みましたが・・・・・・皆の頭の中がピンク一色です・・・・・・よく分かりません。



「ふ・・・・・・小娘が、他愛も無い」


 悪役っぽい兄さんの声の後、真奈美さんが手を退けてくれて私の視界が回復します・・・・・・二人とも何やらぐったりとしてますけど、大丈夫でしょうか?


「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・孝之にも触られたことないのに・・・・・・でもあのヘタレじゃこんなに気持ちよ・・・・・・何言ってんのかしら私・・・・・・」


「あッ・・・・・・・・し、幸せ・・・・・・でも続きはベッドで・・・・・・うん、今なら私覚悟決めたから・・・・ね」


 ほんとに二人とも大丈夫でしょうか?


「その程度の乳で俺を誑かそうなど笑止千万!!・・・・・・いいか!?本当の乳ってのはこの二人のことを言うんだッ!!」


「ち、ちょっと隆!!あんたまた人の胸を・・・・・・ひっ!!」


「ほほう、漸く隆もその気になったか?・・・・・・んッ」


 あれまた視界が真っ暗です・・・・・・真奈美さん一体なんのつもりですか?


「むぅ瞳ちゃんがいればな~~~良かったのにな~~~~」


 博士の悶える声が聞こえます・・・・・・ところで兄さん、瞳ちゃんって誰ですか?


「す、凄い・・・・・・静流さん全然気にしてない・・・・・・私、あんな風に揉まれたらきっと・・・・・・いや揉むほど無いけどさ」


 真奈美さんがイジケタ様子で自嘲してます・・・・・・一体なにが起きてるのでしょうか?


「こ、この・・・・・・天才になんて仕打ちを・・・・・・クッ・・・・・・立てない」


「ふむ隆・・・・・・それで終わりか?」


 再び視界が広がると、ぐったりした様子の博士と、何やら勝ち誇った笑みを浮かべている三澤さんがいます。


「そ、そんな・・・・・・俺のテクはAサイズの娘すら腰砕けにするはずなのに・・・・・・」


 愕然とした様子で、兄さんが後ずさりしながら唸るように呻いています。

 その隙に宗像少尉が桐嶋さんの背中に隠れてしまいました・・・・・・何や真っ赤になってます・・・・・・思ったよりも純情さん(桐嶋さんの思考)なんでしょうか?


 そして、どうやら自尊心を大きく抉られた兄さんですが・・・・・・あ、他の獲物で自信回復する気です。


「・・・・・・どれ」


「ち、ちょっと隆さん!!何するのよ!?」


「あ、駄目だよ隆さ~ん!!」


 こちら側にいたまりもさんと遙さんが餌食になったようです、今度は真奈美さんの目隠しは間に合いませんでした・・・・・・なるほどそうだったんですね・・・・・・兄さんはやっぱり胸の大きい女性がいいようです。

 栞さんに騙されました、兄さんは胸が小さい人が好みだと教えられましたが、あの様子を見る限り嘘っぽいです・・・・・・明日から頑張って食事の量を増やして私も努力します。


「ふ・・・・・・やはり俺のテクは偉大な加藤さんに匹敵するレベルだ」


「ううぅ・・・・・・やっぱ私って男運ないのかしら」


「なんだろ~頭がポーッとするよ~~~」


 まりもさんも遙さんも倒れてしまいました、そんな二人を見下ろし勝ち誇った様子で兄さんがそう言います。

 かっこいいです兄さん・・・・・・でも加藤さんって誰ですか?


「・・・・・・」


「・・・・・・真奈美さんも皆のようにして欲しいんですか?」


「ナ、ナニイッテルノカスミチャン!!」


 折角心を【視て】言ったのに真奈美さんは必死で否定します・・・・・・でも何で片言なんですか?
 
 その前に真奈美さん、胸って揉んで貰えれば大きくなるんですか?もしくは赤ちゃんが出来ると勝手に大きくなるんですか?・・・・・・むずかしいです。
 赤ちゃんはコウノトリが運んで来てくれるんじゃないんですか?私と違う普通の子供はそうだって、兄さんが言ってたんですけど・・・・


「ふ・・・・・・隆も思ったほどではないな」


 余裕ぶってる三澤さんですが私にはわかります、どうやら腰にも足にも力が入らなくて立てないみたいです・・・・・・理由は分かりませんが。


「て、帝国軍なのに・・・・・・腐っている」


「冥夜様、あの者は帝国軍ではありません・・・・・・聞くところによると国連から出向中のものです、誇りある帝国軍の将兵があのような下賎な輩な筈がありません」


「・・・・・・二人とも、ごちゃごちゃ言ってるとあのアホの標的になるで」


 川井中尉が牛丼片手に、四月になってここへ赴任してきた斯衛の中尉さんと、訓練兵に忠告してます・・・・・・そう言えば、この川井中尉が兄さんに下品な言葉を教えた人だと判明しました。

 けどけっこう良い人みたいです・・・・・・凄く真面目なのが分かりますし・・・・・・何気に兄さんや皆のことを一番心配しています。
 でも、何かを食べてる所しか見たことがありません・・・・・・食いしん坊さんなんでしょうか?


「ん~?そこの二人~?お前らも喰らってみたいか~?」


 サングラスの奥で、兄さんの瞳がランランと赤く光っているような気がします・・・・・・
  
 ちなみにどうしてか分かりませんが、サングラスを掛けていないと危険だと感じ、兄さんにお願いしてサングラスを再び付けて貰いました。



「く、くるな!!そのような下衆な行為を受けたとあっては・・・・・・舌を噛み切るまでだ!!」


「いけません冥夜様!!そこの貴様!!やるならまず私をやれ!!私を好きにしてもいいが、この方には指一本触れるな!!」


「その意気や良し!!」


「なっ!?・・・・・・くぅっ!!・・・・・・ふぁッ!!」


 斯衛の中尉さんも陥落した様子です・・・・・・今の兄さんを止められる人なんてやっぱりいません。


「はッ、こないだは偉そうなことを言っていた斯衛の武家さんもこうなると脆いもんだなぁ・・・・・・今の俺は誰にも止められん・・・・・・ぐふふふふふ」


「つ、月詠!?・・・・・・く、くるな!!」


 わきわきと手を開いたり閉じたりする兄さんが、ゆっくりと訓練兵に近づいていきます・・・・・・誰も兄さんを止められない、私を含めて其処にいる誰もがそう思いました・・・・・・






 でも・・・・・・違ったみたいです。






「こ、此方です奈華宮大尉!!」


「はやくしないと月詠中尉と冥夜様が!!」


「ああ~~~もう中尉が負けてる・・・・・・信じられない!!」


 斯衛の白い制服を着た三人組みが誰かを連れてきたようです。
 黄色い斯衛の制服を着た女性が部屋に入室した瞬間、部屋の温度が一気に下がった錯覚を感じました。


「ったく・・・・・・子供のくせにこないだは生意気言い腐りやがって・・・・・・ん?若いくせにいい乳してまんなお嬢さん?やっぱこの世界の娘っ子は発育がいいねぇ、うひょひょひょひょ」


 若干一名、気づいていない人がいます・・・・・・兄さん、あの人はもしかして・・・・・・


「・・・・・・なんだこの状況は?」


 一言その女性が呟いた瞬間、その場で辛うじてまともな全員がビクッと身体を震わせました。


 むろん私も例外じゃありません、物凄く冷たい声音に身体が強張ってしまいました・・・・・・一瞬、以前兄さんに見せてもらった婚約者と同じ人かと思いましたが・・・・・・違うみたいです、写真の女性は物凄く優しそうな人でした、斯衛の女性はまるで抜き身の刃みたいな冷たい印象を受けます。


「な、奈華宮大尉!!はやくあの変態を止めてください!!」


「早くしないと冥夜様が!!」


「止められるのは大尉だけです!!」


 三人組みが次々と声を上げると、女性は呆れた表情を浮かべて兄さんに背後から近寄っていきます。


「月詠までこの様とは情けない話だな・・・・・・アラスカへ行く前に横浜によって正解だったわけだ」


 そんなことを呟きながら兄さんの背後に立ち、ゆっくりと手を伸ばします。


「・・・・・・沈め」


「んぁ?・・・・・・あさ・・・・み?」


 兄さんが何かを言いかけましたが既に遅かったみたいです、一瞬で兄の首を女性の細い腕が蛇のように絡め取ったかと思った瞬間・・・・兄はがっくりと膝を付いて崩れ落ちました。


「ふん・・・・戒、巴、冥夜様と真那を連れて行け・・・・・・神代、冥夜様の検診をする準備急げよ・・・・・・まったく私も暇では無いんだが・・・・・・」


「な、奈華宮すまない・・・・・・助かった」


 訓練兵がよろよろと立ち上がろうとするので、女性は嘆息しながら手を貸しました。


「冥夜様、この程度で狼狽してもらっては困ります・・・・・・私や月詠の手を煩わせないよう、今後も精進してください」


「す、すまん・・・・・・その通りだな」


「では此方へ・・・・・・ん?」


 奈華宮・・・・・・と呼ばれた女性は去り際に私のほうに視線を向けました・・・・・・いえ正確には私と真奈美さんを見ています。

 その視線は訓練兵や斯衛の方々に向ける冷たいもの・・・・・・ではなく、何故かは分かりませんが自愛に満ちた物凄く優しい目でした。


 その理由が知りたくて・・・・・・思わず彼女の心を【視て】しまいました。


 戸惑い、愛情、悲しみ、羨望・・・・・・グチャグチャで色々な色が混ざりあった色。

 そしてイメージ・・・・・・白い少女を大切にしている男性の姿・・・・・・大切な人の忘れ形見・・・・・・お姉さんが託した少女・・・・・・未来への希望と絶望・・・・・・平和な日常・・・・・・大きな島の前で崩れ落ちる姿・・・・・・断片的過ぎてソレラが何を意味するのか・・・・・・私には理解できませんでした。


「君たちは・・・・・・・・・・・・」


「はッ!!帝国軍百里基地所属、瀬戸真奈美少尉であります!!・・・・・・こ、こちらの彼女は社霞・・・・・・です」


 真奈美さんが物凄く脅えながら必死に敬礼して、自分と私の自己紹介をしてくれました。


「瀬戸・・・・・・そうか君が准将の娘か・・・・・・そうか・・・・・・大きくなったな」


 娘、と言われた部分で真奈美さんから、それまで一度も感じることが出来なかったドス黒い色がほんの一瞬だけ【視え】ました。


「そちらのソ連のお嬢さん・・・・・・なるほど・・・・・・確かにここは計画の中枢なわけだな・・・・・・邪魔したな、そこの不埒モノや女性の後始末は任せた」


 一人で勝手に呟きながら女性は去っていきました・・・・・・

 真奈美さんは・・・・・・何故か必死に拳を握り締めて何かに耐えてます・・・・・・あの色が見たくないので、私は真奈美さんを見ないようにしました。



 でも真奈美さん・・・・・・兄さん・・・・・・どうして二人のイメージをあの女性は持っていたのでしょうか・・・・・・とても気になりますが・・・・・・私はそれを聞けませんでした・・・・・・










「・・・・・・ごめんなさい兄さん・・・・・・でもあの人・・・・・・兄さんの教えてくれた人とは別の・・・・・・麻美さんでした」















「はぁ・・・・・・私が気絶している間に一体何が起きたの?」


「あははは、葵さんには色々刺激が強かったかな?」


「それはマナちゃんだって同じでしょ?・・・・・・まったく相変わらず周りを巻き込む人よね」


 嘆息しながら城崎さんは呻き声を上げて寝ている兄さんの頭に乗ったタオルを冷えたタオルに交換します。


「・・・・・・それ以前に、栞さん、貴女何してるの?」


「添い寝」


 即答する栞さんの言葉に城崎は頭を抑えます。


「う、うう・・・・・・やめてくれ・・・・・・俺は・・・・・・俺は・・・・・・」


 熱にうなされて入るかのような兄さんの言葉を聞いて城崎さんは、はぁっと小さい溜息をつきました。


「あによ、私がこうしてちゃわるいわけ?」


「・・・・・・栞さんは兄さんのことが好きなんですか?」


 何気なく聞いただけなのに、栞さんを初め、城崎さんや真奈美さんもびくっと身体を震わせます。

 栞さんが兄さんのことを考えるときに見える色・・・・・・とても優しくて、とても綺麗な色、もしかしたらコレが真奈美さんの言う「好き」という気持ちなのかもしれません。


 私もその気持ちを理解したい、あの暖かな色を持ってみたいです。


「そ、そうね・・・・・・改まってそう聞かれると照れるけど・・・・・・うん、私は隆が好きよ」


 照れたように頬を赤く染めながら栞さんが呟いた言葉に、城崎さんと真奈美さんが何故か顔を伏せました。

 そんな二人から見える色は戸惑いや焦り・・・・・・どうして二人がそんな風に思うか私は理解できません。
 だって、二人が兄さんへ向ける気持ちは栞さんとなんら変わらない暖かい色です。


「どうして兄さんが好きなんですか?」


「そ、そりゃ・・・・・・ねぇ・・・・・・人が人を好きになるのに理由は必要なの?」


「分かりません・・・・・・人を好きになる気持ちは一体どんな気持ちなんですか?」


「え?か、霞・・・・・・随分と哲学ちっくな話を持ち出すわね・・・・・・」


「私は知りたいんです・・・・・・人を好きになる気持ちが・・・・・・暖かなそれを持つ皆さんが・・・・・・羨ましいです」


「ふむ・・・・・・霞は誰かを好きになったことはないのね?」


「・・・・・・はい、そうです」


 それまでと変わって神妙な顔つきを見せる栞さん、その迫力に思わず負けそうになりました。


「そっ・・・・・・まぁ人を好きになるってことは苦しむことよ、羨むことじゃ決してないわよ?」


「・・・・・・苦しむんですか?」


 理解できない、だって栞さんは兄さんを思う気持ちの中に苦しんでいる色なんて見えない。


「そうよ、好きな人のことを考えすぎて苦しむの・・・・・・この人が私をどう思っているのか、嫌われてないか、私に何をして欲しいのか、何を望んでいるのか・・・・・・彼の期待に応えるように、色々と考えて苦しむの」


「・・・・・・?」


「霞は・・・・・・苦しみたい?」


「いえ・・・・・・嫌です」


「そうね、誰だってそうよね・・・・・・好き好んで苦しみたく無いわよね・・・・・・誰かを好きになることで苦しむなら、本当は恋なんてしないほうがいいわ」
 

 栞さんはそう言って自嘲気味に笑います・・・・・・


「でもね霞・・・・・・誰かに恋してないってのは、それはそれで苦しいものよ?しかもこんな世の中・・・・・・心の拠り所のために誰かを好きなるのは必要なことなの」


「拠り所・・・・・・ですか?」


「そ・・・・・・それがね「戦う理由」になるの、誰かを本気で好きになるとね、その人のために死んでも良いって思えるようになるの・・・・・・それが戦場で戦う理由・・・・・・私たちみたいな商売だとなおさらね」


「・・・・・・人を好きになると、その人のために死ねるんですか?」


「極論だけどね・・・・・・好きになるってのは、そこまでの覚悟を決められるもんなのよ、持っても苦しい・・・・・・持たなくても苦しい・・・・・・ま、これは私らみたいな人間の言葉ね・・・・・・だから霞、貴女は普通に生きて、普通に幸せになりなさい・・・・・・悔しいけど霞は隆に愛されてるわ、その気持ちに何時か答えてあげて・・・・・・それまでゆっくりと一つ一つ大人になって、好きって気持ちを理解しなさい・・・・・・苦しむことを覚悟してね」


「はい・・・・・・ありがとうございます」


 好きになること・・・・・・苦しむこと・・・・・・私は兄さんに愛されている・・・・・・ゆっくりソレを理解していけばいい・・・・・・焦る必要はない・・・・・・大きな宿題を貰った気分です。


「らしくないわね・・・・・・貴女の台詞じゃないでしょ?」


「う・・・・・・確かに、まるでどっかの誰かさんみたいなこと言っちゃたわね」


「・・・・・・あ・・・・・・あさみ」


「・・・・・・まったく、こんないい女が添い寝してるのに他の女の名前言うなんて・・・・・・ほんと女を不幸にする男ね」


「ふふ、そうね・・・・・・」


「あの~~~~二人とも?隆さんどう見ても苦しそうな顔してるんですけど・・・・・・?」


 真奈美さんが兄さんを心配してくれています・・・・・・そんな真奈美さんを見て思い出しました、この疑問も聞いてみようと思います。


「その・・・・・・胸はやっぱり大きいほうがいいんでしょうか?」


「は?どうしたの霞?」


 私の質問で、栞さんがびっくりしたような顔をしています。


「揉んでもらったり・・・・・・赤ちゃんが出来ると大きくなるんですか?私は誰にしてもらえばいいんでしょうか・・・・・・もし本当なら、兄さんが起きたらお願いしてみようかと思います」


 真剣に言ったのに皆さん唖然とした表情をしています・・・・・・私、変なこと言ったのでしょうか?


「ち、ちょっと霞ちゃん?あなた一体誰にそんなこと吹き込まれたの?・・・・・・た、隊長かしら?」


「・・・・・・」


 城崎さんがおろおろとした様子で聞いてきますが、流石に真奈美さんの考えを【見た】と言えるわけもないので困ってしまいました。

 仕方なく、無言で真奈美さんを見ると・・・・・・何故か城崎さんも栞さんも揃って真奈美さんを見ます。


「えッ!?な、なに!!・・・・・・私そんなこと教えて・・・・・・いや考えはしたけど・・・・・・」


「マナちゃん・・・・・・ちょっとお姉さんとお話しましょうか?」


「そうね・・・・・・真奈美の考えを聞く機会もなかったし・・・・・・これもいい機会ね」


 二人のお姉さん・・・・・・すごく怖いです。


 私は兄さんだけでよかったです、お姉さんって怖い存在なんですね、真奈美さん教えてくれてありがとうございました。


「か、霞ちゃん!?なんでそんな悟りきった顔してるの!?わ、私関係ないですって!!・・・・・・ち、ちょっと葵さん?栞さん?どうしてそんな目で私を見るの?や、やだよぉ、怖いよぉ・・・・・・もういやぁぁぁぁっ!」


 悲鳴を上げる真奈美さんでしたが、兄さんの頭に載せたタオルがすり落ちそうでしたので、私はそれを直すことに集中することしました。











「隊長」


「なんだ桐嶋?」


「入るチャンス・・・・・・逃しましたね」


「そうだな・・・・・・まぁそういうこともあるだろう、なに今後もチャンスはあるさ」


「確かに・・・・・・ですがいいんですか?隊長もあそこに混ざりたいのでは?」


「ふっ、私は今回珍しく手を出してもらえたからな・・・・・・今日は十分だ」


「殊勝な心掛けで・・・・・・では、とっとと去るとしますか」









「・・・・・・馬鹿ばっかりや、ほんま奴の周囲は馬鹿ばっかりや」



















<社 隆>



 夢を見た・・・・・・


 懐かしい夢を・・・・・・


 けっして心地よい感触ではないが、慣れ親しんだ痛みがその夢を見せてくれたのかもしれない。


 首に巻きついて的確に頚動脈を絞める細い腕、背中に感じたちょっとの膨らみしかない胸の感触・・・・・・そして底冷えする本気で切れたときの声・・・・・・


 なんだろ・・・・・・夢なのに涙が止まらない・・・・・・懐かしいんだけどなぁ、やだなぁこんな記憶。



 笑ってる顔、膨れてる顔、美味しいもの食べて幸せそうな顔、可愛いものを見て喜んでいる顔・・・・・・そうそう彼女は優しい人なんだ・・・・・・







 なぁ麻美・・・・・・元気か?



 俺がいなくて寂しくないか?


 
 泣いてないよな?・・・・・・お前、絶対人前じゃ泣かないからな・・・・・・影で泣いてないよな?



 ごめんな・・・・・・どうして俺こんなとこにいるんだろう・・・・・・



 なんだよ・・・・・・俺を呼ぶ原因って、因果ってなんだよ・・・・・・



 返してくれよ・・・・・・俺の幸せを・・・・・・



 大切な人の傍にいる権利を奪わないでくれよ・・・・・・一体俺が何をしたってんだよ。



 俺は諦めないからな・・・・・・・・・・・・きっと麻美のとこに帰るからな。



 待っててくれよ・・・・・・浮気なんかすんなよ?俺は絶対にしないからな・・・・・・約束するよ。



 ほんと、頑張ってるんだぜ俺?



 そっちの世界じゃ考えられないよ・・・・・・俺なんかを追っかけくれる子がいるんだぜ?しかもかなり美人だし・・・・・・胸も大きいし・・・・・・



 っと冗談だよ麻美・・・・・・俺にはお前が一番だ、知ってるだろう?それぐらいさ・・・・・・信じてくれよ。



 きっと・・・・・・きっとだ、少し時間が掛かるかもしれないけど・・・・・・お前のところに戻るからな。



 そんときこそ・・・・・・しっかり返事してくれよ?考えるとさ、嬉し泣きしてまともな返事もらえなかったからさ。



 愛してるよ麻美・・・・・・結婚してさ、幸せになろうぜ・・・・・・この世界の人には悪いけど、そっちの世界で幸せになりたいよ俺は。



 会いたいよ・・・・・・麻美。



 会って抱きしめたい・・・・・・お前を肌で感じたいんだ・・・・・・



 お前に会えたら、俺泣くかもれない・・・・・・だからって軽蔑すんなよ?



 そうそう・・・・・もしかしたら霞っていう超可愛い子連れていくかもしんないけど、妬くなよ?可愛いもの好きのお前ならきっと好きになれるよ・・・・・・俺が保証する。



 二人で行けるかどうかは分からないけど・・・・・・待っててくれ・・・・・・必ず、必ず帰るから・・・・・・待っててくれよ。

















 だから麻美・・・・・・・・・・・・・・・・・・またな。










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