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DONの落書き部屋

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「Muv-Luv 小説」
第二部

欧州編 4話

  欧州編  かれの誤解が加速する


2001年5月11日 14:50
スカパ・フロー基地 第二演習場


<川井 洋平>



 ―――降り注ぐ砲弾の雨。



 砲撃支援機が装備する中隊支援火器による砲撃だと理解するよりも早く、回避コマンドを入力して機体に回避運動をとらせる。


「ぐぅぅぅッ!!」


 身体を揺さぶる凄まじいG、その時間が過ぎるのをただ耐えるほか無い。

 
 砲弾は此方を燻り出すかのように周囲に着弾し、JIVESによって表示された仮想ビル群がその余波で打ち砕かれる。


 ・・・・・・倒壊するビルによって巻き上がる粉塵、網膜に映る光学映像が粉塵に阻害され周囲の状況把握が次第に困難になっていく。


 と同時、白銀の機体が一機、粉塵を払い除けながら突然目の前に現れた。


「ちぃッ!!」


 敵影の姿を確認した瞬間、跳躍ユニットを反転させて全力噴射・・・・・・瞬時に後方に下がったことで、振り下ろされた一撃を寸前で回避することに成功する。


(思い切りのいい嬢ちゃんや!!お姫様ってのも伊達じゃないってことかいな!?)


 間合いを取りながら、相対する戦術機に乗るオルフィーナ中尉へ賛辞の言葉を内心で送る。


 折角詰めた間合いが広がってしまったのに追撃する素振りを見せない白銀の戦術機・・・・・・当然か、あの機体の間合いは不知火よりも広い。


(EF-2000・・・・・・ほんま暴風やな)


 一般機と違い白銀に染められたEF-2000、不知火と同じ第三世代機に分類される戦術機だが、その性能は不知火を軽く凌駕している。
 これは仕方が無い、どんな兵器でも後発の機体は大抵問題点が改善されているものだし、十分な開発時間を持って生み出された機体と急造品ではそもそも比べること事態が間違っている。


 此方の乗機が武御雷であればと思うが・・・・・・それは流石に無いものねだりだと頭を振る。


 向こうのEF-2000はお姫様専用の特注機、一般機体でも不知火を凌ぐ機体のグレードアップ版だ・・・・・・分が悪い勝負に直面したことで額に冷や汗が流れる。


 ―――そのEF-2000が手にした大剣をゆっくりと肩に担ぐ・・・・・・その動きは悠然とした動きであり、何処か気品すら感じさせる。


『もう・・・・・・終わり?』


 抑揚の無い、無感情な声がヘッドセットから聞こえてくる。


 声の主、オルフィーナ・ルン・グリュックスブルク中尉・・・・・・大人しい顔をしてるくせに、あのEF-2000をまるで手足のように操っている・・・・・・正直、自分の予想を遥かに超えた実力を持っている衛士だ。


(まったく武家様といい貴族様といい・・・・・・なんで連中はドイツもコイツも衛士適正が高いんやろか?)


「まさか、これ以上負けたら国に帰れへんわ、姫様には悪いけどここらで決めさせてもらうでッ!!」


 言い放つと同時、操縦桿のスロットルを捻って機体の出力を上昇・・・・・・跳躍ユニットを吹かして噴射滑走に移る。

 攻撃するタイミングを察知されないように小刻みに機体を左右に振りながら接近、突進の勢いを利用して二刀の長刀を繰り出すが・・・・・・その一撃はEF-2000が手にする大剣によって難なく弾かれてしまった。


(ちぃ・・・・・・厄介やな・・・・・・あの剣は)


 EF-2000が装備する大剣・・・・・・正確にはクレイモアか、両手での保持が必要な程肉厚で幅広な両手剣。

 帝国の近接兵装である74式近接戦闘長刀が斬る武装に対し、EF-2000が装備するクレイモアはその自重でもって対象を叩き潰す武装だ、正面からの鍔迫り合いでは余りにも分が悪い。


 実際、装備の自重差と機体のパワー差でジリジリと押され始めている・・・・・・


 帝国が自主開発した戦術機は総じて軽量級だ、これは軽快な機動性を持たせるための仕様でもあるが、本音を言えば搭載している主機や跳躍ユニットの出力不足をカバーするための苦肉の策と言える、

 出力の低いエンジンを持った機体に高い推力比を持たせる・・・・・・それを可能にするには機体の軽量化しか在りえない。加えて機体の制御を過敏にすることで早い反応速度を持たせる・・・・・・これが不知火や吹雪が衛士にとって優しくない機体と言われる所以だ。

 元は米国製である陽炎や撃震はその主機出力の余裕から安定した機動がとれるが・・・・・・不知火や吹雪はピーキーな機体特性を持つ機体ゆえに、搭乗する衛士には総じて高い技術が必要になる。

 主機や跳躍ユニットの開発技術では米国や欧州に帝国は一歩も二歩も譲る・・・・・・不知火の開発にあたり、全てを自主生産するのでは無く、他国製品を使えばこのような結果は生まれなかっただろうが・・・・・・一衛士の自分が言っても仕方が無い話だ。


(けっ・・・・・・なんでもかんでも外国産かい・・・・・・性能は認めるけど気にいらへんわッ!!)


 などと余計なことを考えていたせいか反応が一瞬遅れてしまった。


 眼前にいたEF-2000が手にしたクレイモアで此方の長刀を弾き視界から消え失せる。

 振動で揺さぶられる中、慌ててEF-2000を追尾しようとするがヘッドセットから鳴り響くロックオンアラートがソレを邪魔する。


(狙撃かいなッ!?)


 戦術マップにて、レーダーの索敵可能距離ギリギリの位置に赤い光点が一つ表示されている。


「こなくそッ!!他の連中は何しとるんや!!」


 機体をビルの陰に滑り込ませたと同時、再度砲撃が始まる。

 ビルの合間を縫うように噴射滑走、決して止まることは出来ない・・・・・・後方モニターで背後を見れば、ビルの外壁を貫通しながら自機の軌跡を追うかのごとく砲弾の雨が降り注いでいる。


 その威力から言って、砲撃しているのはオルフィーナ中尉の相方であるファーナ中尉のEF-2000だろう・・・・・・なんでも砲撃特化仕様らしく、あのグラサン男の機体と同じMK-57を巧みに扱えるそうだ。


 回避機動を取りながら戦術マップに目を通せば、ビルを挟んだ向かいの通りを併走して走る赤い光点が確認出来る・・・・・・IFFを見るまでもなくオルフィーナ中尉のEF-2000だ。


(このままじゃ挟み撃ちやんけ・・・・・・辛いわ~)


 内心で舌を出した瞬間、戦術マップに映る赤い光点が急に機動を変えて此方から遠ざかって行ってしまう。


『セイバー2よりセイバー1へ遅くなってすまん・・・・・・だが、前進し過ぎるお前が悪いと思うぞ?』


 オルフィーナ中尉のEF-2000が下がった原因、僚機である桐嶋の駆る不知火の青い光点がマップに表示される。


「はッ、仕方あらへんやろ?待ってたら社の時の二の舞や・・・・・・こっちから打って出ないとジリ貧や!!」


『ソレは分かるが・・・・・・現在セイバー3とセイバー4も交戦中・・・・・・相手は真奈美と隊長の不知火、ちと分が悪いかもしれないな』


 うんざりとした顔で言う桐嶋からの報告に自分も顔を顰めてしまう。

 橘の相方であるアルフの駆る機体はEF-2000、此方も一機はEF-2000なので性能では此方に分があるのだが、相手はあの真奈美と隊長・・・・・・しかも盾を巧みに使う真奈美の戦闘スタイルはEF-2000にとってはやり難い相手だろう・・・・・・ご自慢のハリネズミのような外装も直接殴られてはその意味を失うに違い無い。


(考えるとEF-2000は雪風みたいな機体なんやな・・・・・・まぁ性能はさておき・・・・・・そうなると真奈美の戦い方は雪風・・・・・・インパルスとやり合うことを考えて編み出したんやろか?)


『さて・・・・・・来たぞ、3時と11時方向・・・・・・こっちはファーナ中尉のEF-2000の相手をする・・・・・・セイバー1はもう一機を頼む、相性から見てそうするしかないだろう?』


 桐嶋の言うとおり、二つの赤い光点が此方に急速に近づきつつある・・・・・・


「そやなぁ・・・・・・あの二の舞はゴメンや」


 言って数刻目を瞑る・・・・・・目蓋の裏に映る光景は、社の乗る熊蜂に砲撃され近寄る頃にはボロボロになった不知火・・・・・・そして後一息のところまで接近した後ブレード付きの刃で蹴り倒された記憶。


 思い出しても腹が立つ・・・・・・いや、それ以上に奴のことを考えるだけでイライラが増していく。


 自分でも取るに足りない拘りだとは分かっている・・・・・・日本がアメリカから受けた仕打ちは看過できるものではないが、そう何時までも根に持っていては自分の考えを腐らせるだけだと当に気づいている。


 あの爆発によって・・・・・・失った仲間は帰ってこない。


 アメリカを憎んでも、罵っても・・・・・・あのG弾のお蔭でハイヴを一つ潰せたのは事実なのだ。


 もし横浜ハイヴがそのまま今も存在していたら・・・・・・日本は既に地図から消えていたかもしれない。



(それはわかっとる・・・・・・わかっとるんやけどな・・・・・・)



 ―――奴の性格を考えれば、確かにああいった行動を取るのも理解できる。


 それでもだ、あの米軍の連中の物言いは許せるものでは無かった・・・・・・日本人としてではなく、個人として・・・・・・いや仲間が罵倒されたのだ、それに怒りを感じない馬鹿がいるのだろうか?


 百里に配属になってもう一年近く経つ・・・・・・なんだかんだで気のいい連中ばかりだ、それなりに愛着も出来た・・・・・・それに戦場で背中を預けられる仲間なのだ、その仲間が田舎のヤンキーに罵詈雑言を浴びせられていれば、もとより短気な自分がただ黙って見ていることなど在りえない。


 以前、橘が巻き込まれた事件の例もある・・・・・・奴もその考えを持っているはずだと信じたい、いや人一倍人間関係に気を使う奴がソレを考えていないはずが無い。


『接敵まで残り20・・・・・・此方から先制を仕掛け、向こうの連携を崩すぞ・・・・・・』


「了解・・・・・・そっちに合わせる」


 答えながら苦笑する・・・・・・結局、あのグラサンに期待している自分自身に。


(まったく・・・・・・わいもどうかしとるわ)


 奴と一緒にあの糞生意気なヤンキー野郎に一発かましてやりたい・・・・・・そんなくだらない希望を持っている自分に苦笑するしかなかった。









 同日 第二演習場・専用管制室


<城崎 葵>


「状況終了・・・・・・各機、所定の行路を取って基地に帰還してください」


 機体ステータスが表示されたモニターを眺めながらCPとしての指示を部隊に伝える。

 慣れない仕事だがようやく最近になって板に付いてきた感じがする。出来れば私も皆と同じように戦術機に乗っていたいが・・・・・・自分を取り巻く状況がソレを許そうとしない。


(今まで好きにさせてたくせに・・・・・・現金なものね)


 自分が衛士から降ろされた理由ぐらい察しは付いている、どうせ光菱から軍へ圧力があったのだろう・・・・・・親族の心配性には困ったものだ。
 北海道、そして新潟の戦闘で百里の部隊が戦闘に突入するなど、彼らは思ってもみなかったのだろう。日和見主義が露見したと言えるが、何も手のひらを返したかのように自分を下げるのはやり過ぎだと思う。


(まぁ、帰ってこいと言われないだけマシかしら・・・・・・)


 そんなことを考えていた思考を切り替え・・・・・・部隊の機体ステータスに目を通す。

 日本製戦術機の国外運用データ収拾が目的で欧州まで来たのだ。実戦はまだ先かもしれないが、今のうちに問題点を洗い出しておけば、いざ実戦となった際に自信を持って皆を戦場に送り出すことが出来る。


「・・・・・・わかっていたけど・・・・・・こんなに差があるものなのねぇ」


 画面に2体の戦術機のデータを表示する、オルフィーナ中尉のEF-2000と川井さんの乗る不知火。

 グラフ化された機体の数値、反応、推力、出力、燃費、等など・・・・・・悲しいぐらいに不知火が下回っている。不知火がEF-2000に勝てる点はその調達コストぐらいではないだろうか?


 オルフィーナ、ファーナ両名が乗るEF-2000が、ブリュッケル中尉やトゥルーリ少尉の乗るEF-2000と違い、特注機であることは事前に知らされている。そんな機体と不知火を一概に比べても仕方が無いことは分かっているが、こう客観的なデータで表示されると流石に頭を抱えたくなる。

 二機が特注機と言っても、無論量産を前提に製作された機体なのだろう・・・・・・ユーロから渡された資料によると、ファーナ中尉の機体はトランシュ1のブロック5A。現行型の最新モデルであり、CPUの変更により砲撃戦に優れた性能を持つ機体とのことだ。

 オルフィーナ中尉のEF-2000はトランシュ2のブロック10・・・・・・高機動モデルの暫定量産型らしく、その機動性は正直武御雷を持ってしても追従できるかどうか・・・・・・それに喰らい付いたマナちゃんはほんと大したものだ・・・・・ドンドン成長するのはいいけど、お姉さんちょっと心配だな。


 ・・・・・・えっと、流石一機種で多用途の戦闘が可能なマルチロール機と言ったところか、汎用性においては帝国軍の不知火を遥かに凌駕しているのは間違いない。


「技術力の違い・・・・・・じゃないのよねぇ、光菱にしても河崎にしても他国の技術力に劣ってるわけじゃないのよ・・・・・・ようは時間の問題だったのよねぇ」


 軽く溜息を付きながら当時の状況を考えてみる。


 不知火が実戦配備されたのが94年、その年にはEF-2000も先行量産機が既に完成していた。
 にも関わらず本格的な配備は2000年まで延期されたEF-2000、延期された理由は技術的な問題のほかに政治的な問題もあると言うが・・・・・・結果として十分な開発期間を費やした機体は完成度が高い。


 防衛省と陸軍の横槍によって無理やり完成に漕ぎ着けた不知火とは違う・・・・・・端的に言えばそう言うことだろう。


 世界に先駆けて第三世代機の実戦配備、当時の日本にはそんな考えがあったのかもしれないが・・・・・・早計過ぎだと言いたくなる。
 そして何が軍の仕様要求に応えた結果、発展性が無い機体になってしまっただ・・・・・・そんな言い訳染みたことを言う不知火を設計した当時の開発陣を全員解雇したくなる・・・・・・いえ、まだ当時の技術者はたくさんいるけど・・・・・・分かり易い嘘を言うその根性が気に入らない。



 光菱が軍や政府に脅される?・・・・・・武御雷の開発を斯衛から押し付けられた富嶽や遠田ならともかく、世界の四大財閥とまで言われる光菱財閥の主要部門の一つが、たかが一国の圧力に屈するなど・・・・・・有り得るはずが無い。

 あの大戦以降、光菱を含めた光井、住智、靖田の四大財閥は多大な発展を続けて成長してきたのだ。大陸から逃げ出してきた華僑の資本力すら取り込み、米国の大企業すら凌ぐその経済力は伊達では無い。

 ・・・・・・単に日本が起点なだけで、その実態は世界に幅をきかせる一大コンツェルン、今回自分が衛士から外されたこと言い光菱が持つ影響力は絶大なのだ。


 不知火の早期開発は、結局その当時の連中が自分たちの技術力を世界に見せ付けたかっただけ・・・・・・悲運な運命を辿って生れた不知火は世界から酷評を受けている・・・・・・せめて後二年ぐらいは時間をかけて開発すれば、このような状況にはならなかっただろうに。


(アラスカの計画・・・・・・そんなのに投資するくらいなら、F-15やF-16みたいな発展性のある機種を改良して生産したほうがいいのに・・・・・・)


 もしくは欧州からEF-2000を仕入れるかだ・・・・・・ハイローのローの部分は既に光菱で形になっている、主力機のように開発に時間と金の掛かる機体はよその国から持ってくるのが一番だろう。

 主力を他国の兵器に依存する危険性は承知しているが・・・・・・この情勢でそんな戯言を言っている場合だろうか?


(武御雷はねぇ・・・・・・作ってもお金にならないし・・・・・・それ以前に斯衛の連中が日本の象徴だのなんだのと五月蝿いから面倒な機体なのよねぇ)


「中尉、お疲れ様です・・・・・・どうぞ」


「ん?ああ・・・・・・ありがとう」


 思案に耽っていた思考が声を掛けられたことで現実に戻ってくる・・・・・・光菱から技術派遣されてきている技術者の一人から珈琲の入ったカップを礼受け取る。


(・・・・・・本物?・・・・・・ってもインスタントよね)


「ユーロの連中・・・・・・興味津々と言った様子でしたよ」


 受け取った珈琲の中身を予想していると、技術者が面白そうな笑みを浮かべながらそう声を掛けてきた。


「そうなの?武御雷ならともかく・・・・・・不知火に興味あるのかしら」


「違いますよ、胡蜂・・・・・・いえ熊蜂にですよ・・・・・・あの複合兵装が余程気に入ったようですね、必死にデータ集めてましたよ」


「ふぅん・・・・・・そう」


 彼は面白そうに言うが正直どうでもよかった、あのシステム自体はそれほど目新しいものではない・・・・・・機材と資金があれば何処ででも製作できる代物だ。

 それに欧州の複合企業であるユーロ社や他の欧州企業の連中が、自分たちが現在運用している機体に興味を持って必死にデータを収集しているのはとっくに分かっていた、
 欧州では中々見ることが出来ない日本製の戦術機・・・・・・EF-2000の開発にあたり、日本政府を通じて幾ばくかのデータを売ったそうだが実際見てみるのとではわけが違うのだろう。

 それにこの中隊では小隊の殆どが異種機で部隊連携を行っている・・・・・・特に、第二小隊は米、欧、日(元は米)の三機種が集まって行動しているのだ・・・・・・興味を持たないはずが無い。


「生産国や世代が入り混じって運用してますからね・・・・・・今後、欧州もEF-2000が主力になると様々なデータが必要になるでしょうし」


「世代か・・・・・・そうね、BETAとの戦闘は出し惜しみなんてしてる場合じゃないからねぇ」


 ただ・・・・・・中隊の小隊同士で行われた演習の結果を見るに、戦術機同士の戦闘においては個々の世代など余り関係ないのかもしれない。


 ―――第二小隊、編成されている機種で見れば第二世代機が中心の部隊・・・・・・第三世代機であるEF-2000が一機、第二世代最強と呼び声高いF-15Eが二機、第二世代のF/A-18の改良機たる熊蜂が一機。
 他が全て第三世代機で編成されているのに第二小隊はそうではない、客観的に機体スペックだけで見れば勝つ見込みは皆無に等しい部隊なのだが、演習ではただの一度も敗退していない。


 搭乗している衛士の錬度もあるのだろうが、その優位性を高めているのは熊蜂が装備している武装だろう。


(57mmで燻し出されて大量のミサイルに追い掛け回される・・・・・・とどめは120㎜、正直私が相手をしなくてよかったわ)


 真奈美の不知火が記録したレコーダーの光景を思い出して身震いしてしまう、正確無比に放たれる砲弾の数々・・・・・・そして視界を埋め尽くすミサイル、真奈美も頑張ったのだがあっさりと撃墜されてしまった。

 一機の戦術機が搭載している武装としては破格過ぎるのだ、同程度の武装なら海神も持っているが、水陸両用の海神には熊蜂ほどの機動性は無い。


 海神の武装を持った機体が戦場を縦横無尽に飛ぶ・・・・・・対人戦で相手側の衛士が感じる恐怖が手に取るように分かる。


(それに元が電子戦機だけあって索敵能力も高い・・・・・・加えて長距離での砲撃能力は搭載CPUの優秀さもあって精密と・・・・・・ほんとアメリカが好みそうな機体に仕上がったわね)


 嘆息しながら熊蜂のデータを眺めてしまう・・・・・・随分と出鱈目な機体になったものだと。


 無論、問題点は多々ある・・・・・・あの機動は機体スペックの恩恵ではなく搭乗する衛士の腕ゆえだ。
 普通の衛士が乗っては機体各所に追加されたスラスターを使いこなすことは不可能に近い、それを巧みに使いこなし格闘戦までやってのけるのはインパルスのドルフィンライダーたる瞳大尉の技量があってこそだ。

 それに熊蜂の元は海軍機で小振りなことに定評のあるF/A-18だ、あの大砲撃と機体各所のスラスターによって生じる負荷に機体各所が悲鳴を上げている。
 幾ら艦載機として足回りの強化が行われているといっても、機体フレームに蓄積される疲労は無視できない・・・・・・


(戻ったらオーバーホールかしら・・・・・・下手したらスクラップかも)


 なんて熊蜂の行く末を考えて苦笑してしまう・・・・・・あの横浜の魔女から許可を得て色々と試させてもらっている機体だが、少し酷使し過ぎているのかもしれない。


「さて・・・・・・どう、【Asura-da】の調子は?」


 気持ちを切り替えて今最も需要な案件の一つを切り出す。


「問題はなさそうです・・・・・・現在も衛士の操作ログを読み取っています、自律機動が取れるまでにはまだ20時間は必要ですが概ねスケジュールに狂いはありませんね」


 帰ってきた答えは満足のいく答えがだが、どうやらモノになるまでまだまだ時間が掛かりそうだ。

 第三開発技術廠から光菱経由で送られてきたユニットだが・・・・・・まっさらな状態では無く機動データぐらいは入れておいてくれてもいいだろうに・・・・・・いや、あの【笑い男】に何かを期待するだけ無駄か。


「そう・・・・・・あとでマテリアルへ送っておいて、量産機へのフィードバックは彼らがやってくれる手筈だから」


「分かりました・・・・・・それと、原燃からの報告が来ていますが?」


「?・・・・・・ああ、頼んでいたモノが出来たのかしら・・・・・・後で目を通しておくわ」


 答えながら目の前のモニターの電源を切る・・・・・・そろそろ夕食の時間だ、それに戻ってきた隊の連中の出向かえもあるしデータを確認するのは後でもいいだろう。


「分かりました準備しておきます・・・・・・それとよくサーグが条件を飲みましたね?報告書、自分も読みましたよ・・・・・・グリペンは彼らにとっても虎の子でしょうに」


 苦笑しながら言う彼に自分も苦笑を持って返す。


「輸出に失敗したもの同士だからかしら?・・・・・・それとも、どこぞに煮え湯を飲まされたもの同士・・・・・・だからかもね・・・・・・じゃ、後は宜しくお願いするわ」











 同日 衛士・更衣室

<橘 栞>


 ・・・・・・イライラする。


「・・・・・・むぅ」


 空になったボトルをダストシュートへ放り投げるが・・・・・・入らない、更にイライラする。


 イライラしてる理由?・・・・・・そんなの分かりきってることでしょ?


「あのグラサンめ・・・・・・人がちょっと目を離した隙に・・・・・・」


 言いながらここ最近よく見る光景を思い浮かべる・・・・・・彼の周りにいる何人もの敵の姿を!!


 真奈美や瞳大尉はまぁいい・・・・・・付き合いも長いし。


 ―――ソレ以外の連中だ。


「・・・・・・むむぅ」


 強化装備の装甲をコツコツと指で突きながら・・・・・・敵の姿を思い浮かべる。


 あの二人のお姫様はどうやらフェノンリーブ少佐にご熱心のようだ、少佐にちょっと気に入られた隆から少佐の情報を聞きだそうとしているようだが・・・・・・そこから発展する可能性はゼロじゃない。


 ・・・・・・一番厄介なのは、あのアザリーとか言われているドイツの娘だ・・・・・・やっぱり彼は貧乳がいいのだろうか?


(・・・・・・どうにかして減らせないかしら?)


 なんて無理なことを考えながら自分の胸を見下ろす・・・・・・それなりに自信があるのにソレが裏目にでるなんて・・・・・・世の中うまく行かないものだ。


「はぁい栞・・・・・・どうしたの?」


「ん?・・・・・・ああ、アルフ・・・・・・別になんでもないわよ」


 いつの間に其処にいたのか、一人だと思っていた更衣室には彼女の姿があった。


「とてもそんな風に見えないわよ?・・・・・・ははぁん、ダーリンのことね?」


「ぶッ!!」


 その言葉を聞いて、自分たち以外誰もいないことを確認するべく周囲をキョロキョロと見回してしまう。

 そんな私の様子を面白そうに腕を組んで見下ろすアルフ・・・・・・このイタリア女性に慎みと言う言葉は無いのだろうか?いや・・・・・・私がソレを言える立場に無いことぐらい分かってるけど。


「その様子を見れば正解ってことで間違いないわね?・・・・・・なぁに?こないだのリルフォートの件まだ引きずっているの?」


 図星だ・・・・・・まぁ誰が見てもあの場にいた人間ならその答えに行き着くだろう。

 ただ川井や桐嶋と違い・・・・・・自分の憤りは別の方向に向かっていってしまっているが。


(隆のことなかれ主義を考えれば、ああするのは分かっていたんだけど・・・・・・ねぇ)


 でも、あのアメリカの兵士に自分が言われた暴言を聞いて・・・・・・出来れば彼に怒って欲しかった。


(ふん・・・・・・前は守ってやるって言ったくせに・・・・・・隆のバカ)


 なんてことを考えると益々不貞腐れてしまう・・・・・・隣に座ったアルフにちょっと愚痴を漏らしたくなってきた。


「まぁね・・・・・・それもあるけど・・・・・・」


「なるほど・・・・・・それ以降、夜の営みが滞っているのね・・・・・・それで機嫌が悪いと?よかったら私が相手をするわよ?」


 言いながらスっと身体を私に摺り寄せてくるアルフ・・・・・・一瞬意味が分からなかったが、その行動が意味することに気づいて背筋が一瞬で凍り付く。


「な、なに言ってるわけ!?ちょっと冗談は止めてよッ!!」


「あら?つれないわね・・・・・・ジョークじゃなくて本気なんだけど?」


 ますます性質が悪い・・・・・・初対面のイメージとその後の言動から見た目通りの解放的な人かと思っていたのに、今の相棒はソッチの気まである人間だとは・・・・・・やはり世界は広い。


 何やら熱っぽい視線を送ってくるけど・・・・・・生憎と私はノーマルだし、操を隆に捧げたし・・・・・・いや、まだだけど・・・・・・いつかきっと・・・・・・うん。
 

「だ、だから、私の悩みはあのグラサンのことなのよッ!!・・・・・・隆の周りに群がるメス猫たちが目障りで仕方がないのよ!!」


 ベンチから立ち上がって声高に叫び・・・・・・ながら、アルフと距離をとる。


「ふぅん・・・・・・やっぱ妻として気になるわけ?」


 未だ獲物を狙う目で彼女がそう言ってくる・・・・・・うう、怖い・・・・・・


「えっと・・・・・・その奥さんってわけじゃないけど・・・・・・うん、いつかはきっと・・・・・・」


「へ?違うの?こないだアレだけ声高に言ってたくせに?」


「い、色々あるのよ・・・・・・日本人なりの事情ってやつね・・・・・・敵が多いのよ、ほんと」


「・・・・・・日本って一夫多妻制だったかしら?」


 首を捻って検討違いのことを言っている彼女、その姿を見ながら今の自分を見返して小さく溜息をついてしまう。

 こんなギクシャクした関係のままで実戦で満足な連携が果たして出来るのだろうか?
 自分たちも職業軍人としての誇りがある、少なくとも仲間を見殺しにするような無様な真似をする気はないが・・・・・・雑念が混じれば判断が遅れる、それが戦場で起こらないとは言い切れない。


 それにしても、何故こんな些細なことで思い悩まなければいけないのだろうか・・・・・・



 ・・・・・・私は一体なにをしているのか。



 私は彼にどうして欲しいのだろうか・・・・・・?



「・・・・・・はぁ」


 考えただけで胸がモヤモヤする・・・・・・我ながら随分とナイーブになったものだ。


「複雑ね、日本人って人種は・・・・・・」


「そ、複雑なのよ・・・・・・私もアルフみたいに積極的になれればねぇ・・・・・・いいんだけど」


「あら?じゃぁ・・・・・・とりあえずスキンシップをもっとしてみたら?こうボディランゲージをもっと積極的に」


 言われて考える・・・・・・強化装備越しだが胸も触らせた、キスも迫った、抱きつきなんてソレこそ嫌がられるほどしてる。


 ・・・・・・いや、きっとアレは照れてだけに違い無い。


「もうやってる・・・・・・十分抱きついたりしてるはず」


「あ、そう・・・・・・じゃあ・・・・・・周囲を気にせず甲斐甲斐しく振舞ってみたり?」


 周囲なんて気にしたことなんて無い、ただ甲斐甲斐しく振舞っても隆は気づいてくれないし・・・・・・なんなのよ、もう。


「それもやった・・・・・・でも気づいてくれない」


「・・・・・・えっと・・・・・・じゃあ既成事実を作るまでね、今晩彼のベットに忍び込んで待ってたら?彼、きっと野獣になって襲ってくるわよ」


 茶目っけたっぷり、その案が物凄く名案だと彼女は思っているようだが・・・・・・ベット・・・・・・それなりに潜り込んでるけど何かあったことなんて一度も無い。

 私が強襲した際は必死に抵抗されて逃げられるし・・・・・・その後決まって自分の機体に引き篭もってしまうから、外からじゃ手が出しようが無い。


「やった、押し倒した・・・・・・でも逃げられるのよね・・・・・・いえ、それ以前に邪魔が入るの・・・・・・なんでだろう」


 隊長とか真奈美とか葵とか・・・・・・何処かで見てるのか問いただしたくなる。


「・・・・・・日本人が奥ゆかしい民族だってイメージは過去のものなのね」


 何故だがアルフが呆れた様子で天井を仰ぎ見ている・・・・・・なんでだろう?


「・・・・・・あのグラサン硬いにも程があるのよ・・・・・・そのくせそこら中で女の子に愛想振りまいて勘違いさせるし、歩く女の敵ね」


「へぇ・・・・・・見かけによらず、プレイポーイなのかしら?」


「そう・・・・・・なのよね、きっと・・・・・今はドコゾのドイツ娘が勘違いしつつあるけど・・・・・・」


「ブリュッケル中尉のこと?・・・・・・そうねぇ・・・・・・私の知る彼女はもっと冷たいイメージがあったんだけど、ここに来てから随分と印象が変わったわね」


「そうそのブリュッケル中尉よ・・・・・・何やらアザリーなんて愛称まで付けられて・・・・・・彼と四六時中一緒にいるのよ・・・・・・悩ましい」


 そういつも一緒、小隊でもエレメントを組んでるし・・・・・・瞳大尉は・・・・・・うん、おまけだから気にしない。


「いえ、それって彼の語学教育のためじゃぁ・・・・・・」


 うっすらと額に冷や汗を見せるアルフ・・・・・・はッ、そんな口実に騙される私じゃないわ。


「やっぱ貧乳が隆の好みなのかしら?・・・・・・そのくせにこないだ揉んだのは、それなりにサイズのある連中ばかりなのよね・・・・・・謎だわ」


 横浜の騒ぎで彼の性癖の片鱗を垣間見たはずだが・・・・・・


「揉む?・・・・・・連中?・・・・・・ねぇ栞・・・・・・社中尉って一体・・・・・・」


「人種は関係無いわよね・・・・・・霞の例もあるし・・・・・・まったく目障りよねあのドイツ娘、何がアザリーよ・・・・・・べアザリーミとか言う舌でも噛みそうな変な名前の癖に・・・・・・べアザリーミがアザリーですって、ほんと安直な発想よね・・・・・・ん?アザリー?・・・・・・べアザリーミ・・・・・・アザリーミ・・・・・・アザーミ・・・・・・アサーミ・・・・・・アサミ!?」


「ち、ちょっと、どうしたの栞?」


 気づいた・・・・・・気づいてしまった・・・・・・なるほど・・・・・・そういうことだったのね。


「なんか・・・・・・謎が全て解けた気分だわ!!そうか、そういうことだったのね!!・・・・・・あの変態グラサン、こんな欧州に本妻を匿っていたわけね・・・・・・ふ、ふふふふふふふ、ついに見つけたわ・・・・・・」


 それならば全て合点がいく、日本にはいない婚約者、常日頃ペチャだと言い張る隆の言葉、そして名前・・・・・・ここ最近、まるで腫れ物に触れるかのようによそよそしい態度をとりながら、彼女への対応に一喜一憂している彼の姿・・・・・・


 ならば、こうしている場合では無い!!


「あら栞、どうしたのこんなところで?」


 大急ぎで強化服を脱ぎに掛かっていると、葵がいつもどおり間抜けな顔して入ってくる。


「葵!!いいトコにいた!!見つけたわよ私たちの宿敵を!!」


 言いながら強化装備をロッカーぶち込み、いそいそとブラとショーツを身に着ける。


「は?・・・・・・なんのこと?」


 相変わらずこの鈍感娘は何も気づいちゃいない・・・・・・いや、今はそれどころじゃないわ。


「いいから来なさい!!・・・・・・今ならまだPXに居るはずだから・・・・・・」


 国連仕様のBDUを羽織って未だ状況が掴めていない葵の腕をガシっと掴む。


「え、ええ、私もPXに行こうと思って・・・・・・皆で食事でも・・・・・・ちょ、ちょっと栞引っ張らないで!!どうしたのよいったい~!?」


「いいから行くわよ、悠長なことしてる時間なんて無いわ・・・・・・決戦よ、いえこれは聖戦ね!!ついに決着を付ける時が来たのよ!!」


 廊下を走るな、なんて張り紙を無視して猛然と走り出す・・・・・・敵は本能寺・・・・・・ならぬPXにありだ、自分で言っておいてなんだが、遂にこの時がきたのだ!!








「・・・・・・日本女性の奥ゆかしさ・・・・・・本当にもう無いのね・・・・・・」


 アルフのそんな声が聞こえたけど・・・・・・きっと気のせいね。








 同日 スカパ・フロー基地内・衛士用PX

<社 隆>


「なぁ、欧州国連軍っていっつもこんな美味い飯食べてるのか?」


 きっちり火が通ったチキンソテーにナイフを付きたてながら、ふと周囲にそんな質問を投げかけてしまった。


「私が前にいた基地じゃ在りえない食事だよ、ここはアメリカ資本の基地だからな、そのせいだろうな」


 と、パンをスープに浸しながらアザリーが投げやりに答えてくれる。


「私たちも此処に来るまではこんな食事はしていなかったわ、正直疎開先で苦しい思いをしている人のことを考えると心苦しくなるわね」


 何やら沈んだ様子で答えるファーナにその隣で頷いているオルフィーナ・・・・・・二人とも優雅に白身魚のソテーなんざ食ってやがる・・・・・・まぁ絵になるから良いけど。


「なるほどね・・・・・・流石は軍事と農業の国アメリカだな・・・・・・っと・・・・・・んぐんぐ」


 切り分けたチキンを口に放り込む・・・・・・うむ、肉汁がタップリでとってもジューシーだ。


「いえ社中尉・・・・・・っと隆さん、それには語弊があります、アメリカ本土の食料自給率は他国が思っているほど高くはありません」


 ハティがわざわざ言い直しながら教えてくれるが・・・・・・なかなか硬い感じが抜け気っていないところが、流石は委員長タイプというべきか。


「西海岸も東海岸も難民で一杯・・・・・・言うほどアメリカは裕福な国じゃないですぜ、難民と自治体で小競り合いも多いし・・・・・・治安は悪くなる一方なんすよ」


 ジャックまでもが軽く溜息をつきながらそう言ってくる。

 確かに、二人の言うとおりアメリカが裕福と言う考えは間違いなのかもしれない・・・・・・もとの世界では失業率が高く路頭に迷う人間が一番多い国だったし、この世界のアメリカは自国内にハイヴが無いだけで多くの難民を受け入れている。
 何かと人権問題に五月蝿い国だ・・・・・・難民にもそれなりの援助を続けていれば、自国内の人間を養う力も低下するのだろう。

 それでも前線で戦う兵士には惜しみない支援を続ける国、流石は国費の多くを軍事費用に掛けているだけのことはある・・・・・・その多くが、前線で戦う兵士の家族や遺族に傾けられているとしても、大事な人が安心に暮らせるから兵士は戦える、そういった心理を美味く利用するアメリカはやはり大した国だ。


 しかし、他国から流失する多くの難民が、治安悪化の原因にもなる可能性も孕むので受け入れを拒む国も多いというが・・・・・・アメリカに拒まれた難民は一体何処に行けばいいのやら・・・・・・


「ほんと・・・・・・世界は何処に向かうのやら・・・・・・おっと瞳ちゃん、ほらほっぺにソース付いてるって」


「ふぇ?・・・・・・う~」


 隣に座る瞳ちゃんのほっぺに付いたソースをナプキンでふき取る・・・・・・なにやら嫌そうな声を上げているが気にしない。


「ほら、とれた・・・・・・美味しいのはわかるけど、ゆっくり食べな」


「うん、ありがと~隆さん」


 ニコニコと笑って瞳ちゃんが皿に乗った目玉焼きハンバーグにかぶりつく・・・・・・その様子を微笑ましく見ていると、自分に幾つもの視線が突き刺さっていることを感じる。


「なんだお前ら・・・・・・なんか言いたいことでもあるのか?」


「別に・・・・・・随分、日本人同士仲がいいんだな?」


「公共の前でやる行為ではないわね・・・・・・美しくないわ」


「・・・・・・」←頷くオルフィーナ


「旦那~旦那ばっかり羨ましいですぜ~・・・・・・って!!」


「黙れ!・・・・・・コホン、風紀もありますのでお控えていただければ幸いです」


 思い思いに皆が言う中。


「最近・・・・・・隆さんがよくわかりません」


 もの凄く冷ややかな目をした真奈美がそう言ってくる・・・・・・一体俺が何をした?
 

「真奈美・・・・・・その一言は何気に深く傷つくんだが・・・・・・ほら、霞の例もあるだろ?・・・・・・俺ってこう儚くて可愛いものにはどうにも甘くなるんだよ、こう守ってやりたい見たいな?」


 必死に言い訳染みたことを言うが、皆の冷ややかな視線は変わらない・・・・・・
 

「あんたのほうがお荷物じゃないか?それでよく守ってやるなんて台詞がでるな?」


 アザリー・・・・・・貴様、よくもまぁそこまで毒舌に育ったもんだ。


「儚いねぇ・・・・・・模擬戦で姉さんのEF-2000を蹴り飛ばす操縦をする衛士を儚いねぇ・・・・・・」


「瞳大尉、凄かった」


 確かに二人の言うとおり戦術機に乗った瞳ちゃんは鬼だ・・・・・・一体、何度揺さぶられて吐いたことか・・・・・・


「その・・・・・・瞳大尉が少し、その・・・・・・おっとりとしているのは分かりますが・・・・・・それとコレとは・・・・・・」


「ハティも瞳姉さんくらい可愛げがあれば・・・・・・おっと、そう何度も足は踏ませないぜ?」


 お前ら、ほんと仲良いよな・・・・・・少し羨ましいぞ。

 夫婦漫才ともとれるハティとジャックの掛け合いを見ていると・・・・・・なにやら真奈美がモジモジしながら言ってくる。


「・・・・・・隆さんは私が儚かったら守ってくれるんですか?」


「はい?」


 何故に上目遣いなんだ真奈美?・・・・・・それ以前に・・・・・・一応、前に守ってやると言ったんだが、忘れてるのか?


 衛士としての腕前は真奈美のほうが上だ、ここ最近の伸びを見る限りソレは最早不動の事実になっている。
 そんな彼女を守る・・・・・・まぁ、公は無理だが私ぐらいはなんとかなるかも・・・・・・それも時間の問題のような気がするが。


「隆さん~私儚くないよ~しっかりものだよ~?」


「えっと・・・・・・その瞳ちゃん?」


 何やら頬を膨らませプンプンと擬音が聞こえてきそうな可愛らしい怒り顔を見せる瞳ちゃん。


(俺にどうしろと・・・・・・)


 二人の不明瞭な発言にどう返答すべきと困った瞬間・・・・・・眩しい閃光が走る。

 それが、カメラのフラッシュだと気づくより早く・・・・・・その光源の先にいた人物の姿を確認して軽い眩暈を感じる。


「ミツコさん・・・・・・写真とるときは事前に一声掛けて言ったじゃないですか?」


「そうだったかしら?・・・・・・でも自然な姿をとるのにはコレが一番なのよね、勘弁して頂戴」


 抗議の声を掛けるが、特に悪びれた様子も無くあっさりと答える一人の女性、紫の髪、切れ長の瞳、そしてダイナマイトボディ・・・・・・自分をこき使っている上司に良く似た容姿を持つ人。


 香月ミツコ・・・・・・あの自分の身元引受人たる香月夕呼のお姉さまである。

 なんでも戦場カメラマンとして各地を飛び回っているそうで、最初見た瞬間、思わず『何やってるんですか夕呼さん』と声を掛けて恥をかいたのは秘密である。

 ・・・・・・帝国軍の広報から依頼を受けて自分たちに張り付いているとのことだが、夕呼さんも自分に姉妹がいることぐらい教えてくれればよかったものを・・・・・・


「さいですか・・・・・・でもフィルムは後で確認させて下さいよ、約束は守ってもらわないと・・・・・・」


 嘆息しながらも釘を刺す、自分が写っている写真は全て処分してもらう手筈になっているからだ。
 この世界の金谷隆はテロリスト・・・・・・そんな人間が写った写真が日本国内で公に晒されれば、どうなるか分かったもんじゃない。

 下手したら夕呼さんに迷惑が掛かるかもしれない・・・・・・ソレを考えると背筋が薄ら寒くなってくる。


「折角いい瞬間だったのにそういうこと言うわけ?帝国軍の人間と欧州勢が揃って食事をするシーン・・・・・・けっこう使えると思うんだけど?」


「でしょうね・・・・・・でも駄目です、もっといいシーンを探してください」


 更に釘を刺すと彼女は『残念ね~』などと言いながら、テーブルの空いた席に座り込んでくる。


「っても実はもうバッチリな写真があるのよ・・・・・・ああ大丈夫、君は写ってないから」


「へぇ・・・・・・誰が写ってやつなんですか?」


「ふふん・・・・・・さっきの模擬戦の後、更衣室に向かう皆の姿を捉えたのよ・・・・・・帝国軍のエースと成長を続けるヒヨッコ、そして欧州のお姫様に凛々しい騎士、アメリカ軍の衛士が揃って強化装備で語り合う姿・・・・・・まさしく日米欧のあるべき姿と思わない?」


 と腕を組みながら一人で頷くミツコさん・・・・・・夕呼さんの唯我独尊は姉譲りなのだろう。


「おれっちと旦那はハブですか?」


「野郎を撮る趣味は無いわね」


 ジャックの訴えを一言で一蹴、その姿に夕呼さんが被って見える・・・・・・そう言えば欧州土産どうしよう・・・・・・


(夕呼さんには酒か?・・・・・・何故か良い顔されないような気がするが・・・・・・霞には何がいいかな・・・・・・)


 二人への土産を考えて少し悩み・・・・・・そんな悩みを持つ自分が、きっとこの世界では幸せものなのかなと自問してしまう。

 欧州くんだりで死ぬ気は無い、いつものように無事に横浜に戻って愛する義妹に土産を渡すのだ、仮初とはいえ待っていてくれる人がいる自分はきっと幸せなのだろう。


「写真ってのは女の子が一番映えるのよ、本人に言われなくても怪しいグラサンや、マッチョな君に用は無いわね」


「ひでぇ!!」


 ミツコさんに軽くあしらわれたジャックが大げさなリアクションを見せている、それを見てテーブルに笑いが溢れる。

 だが、彼女のいうことはご尤もだ・・・・・・各国の思惑はともかく、これだけ国が違う衛士が集まった写真はそれだけで絵になる・・・・・・しかも帝国軍のエースと欧州の姫、そして米軍、使いようは幾らでもあるだろう。


(宣伝、宣伝・・・・・・どこでも自分とこの国民を騙すのに必死ですか・・・・・・世知辛い世の中だな)


 写真の使われ方を考えて肩を竦める・・・・・・まぁ別に珍しいことでも無いので一々気にしていたら仕方が無いか。


「にしても・・・・・・社中尉、随分と言葉が堪能になったわね?」


 ミツコさんが両手の上に顎を乗せ、笑みを浮かべながらそんなことを言ってくる。


「お蔭様で・・・・・・いい教師に恵まれましてね」


 言って、我関せずと言った様子でパスタをフォークで突くアザリーへ視線を送る。


「へ?なに?・・・・・・か、勘違いするなよ!!あんたのために教えたわけじゃないからな・・・・・・これは部隊の皆のためだ、そこんとこちゃんと理解しろよな」


(お前は何処のツンデレだ・・・・・・?)


 何やら頬を赤く染めながら、テンプレ通りの台詞を答える彼女に内心で突っ込みをいれてしまう

 だが彼女に教えられて、こうして英語が少しずつ話せるようになったのだ・・・・・・以前教えられたドイツ語といい、彼女には本当に感謝している。


「なんだか・・・・・・隆さん楽しそうですね?」


 そんな自分に、再び不満そうな視線を送ってくる真奈美。


「ん?そうか?・・・・・・いや、そうだな楽しいぞ、真奈美は楽しくないのか?」


 ニコニコと笑みを絶やさずそう答えると、真奈美は更に不満が増したかのように口を尖らせる。


「どうしてです?百里の皆とうまく言ってないのに・・・・・・」


「ん?・・・・・・ああ、そうだな・・・確かにその通りなんだが・・・・・・」


 真奈美の言う言葉はご尤もな話だ・・・・・・だが、そのお蔭で自分たちがこんなにもリラックスできていることに真奈美は気づいていないのだろうか?


「ふむ・・・・・・例えばだ」


 言いながら水の入ったボトルを手に取り、コップの水が無くなりかけていたファーナ中尉のグラスに水を注ぐ。


「あ、ありがと・・・・・・気がきくわね」


「いやいや・・・・・・」


 返答しつつ今度はオルフィーナ中尉へ、サラダボールから野菜を小分けした小皿をそっと差し出す。


「・・・・・・ありがとう」


「いえいえ・・・・・・」


 何やら俯き加減で答えた彼女に笑みを送り、ジャムの瓶詰めの蓋に手こずっていたハティに手を差し伸べ難なく蓋を開けてやる。


「も、申し訳ありません・・・・・・」


「なんのなんの・・・・・・」


 申し訳なさそうに頬を染める彼女を尻目に今度はアザリーへ視線を送る。


「・・・・・・なんだよ」


「・・・・・・お前はいいや」


「なッ!?」


 などと声を上げるアザリーを無視して瞳ちゃんのほっぺに再び付いたソースをナプキンで拭いて上げる。

 む~と声を上げる彼女の仕草は随分と可愛らしい。


「ごめんね~隆さん~」


「よしよし・・・・・・と、こう言うわけだ、分かるな真奈美?」


「ぜぇぇんっぜんっ!!・・・・・・分かりません」


 力いっぱい即答されてしまった・・・・・・何故だ?真奈美なら理解してくれてると思ったのだが・・・・・・


「ぬぅ・・・・・・ならば・・・・・・ほら、真奈美・・・・・・あ~ん」


「な、なんですか急に!?」


 人が折角フォークにチキンを刺して差し出したのにこの態度・・・・・・真奈美はお約束がわかっちゃいない。


「あ~んだ真奈美・・・・・・いいからつべこべ言わずに食べろ!!これは上官命令だ!!」


「んなッ!?・・・・・・く、くっぅぅぅぅッ!!」


 そう言われては真奈美も従うしかないようだ・・・・・・軍隊意識を肯定する気は無いが、このときばかりは真奈美がきちんと上下関係が理解できる子でよかったと思った。
 
 小さな口を精一杯開けている真奈美にチキンをねじ込む、まったくこの程度で恥ずかしがるなんて・・・・・・まだまだだな真奈美。


「むぐむぐ・・・・・・一体、コレが何だって言うんですか?」


 余程恥ずかしかったのか、顔をリンゴアメみたいに真っ赤にした真奈美がそう不満を漏らしてくる・・・・・・ここまでしても気づかんのかこの娘は?


「ほんとに分からないのか?・・・・・・だからな真奈美・・・・・・」


「隆さ~ん、私もあ~んして欲しいの~」


「ん?あ、ああ・・・・・・ほら瞳ちゃん・・・・・・あ~ん」


「あ~ん・・・・・・もぐもぐ」


「・・・・・・っでだな、今までこう言った行動を俺が取ればどうなった?・・・・・・ん?アザリー、お前にはやらんぞ」


「誰も頼んでないって!!」


 物欲しそうな目をしていたアザリーにきっちり答えてやる、昔のちびっ子だった時なら兎も角今の彼女にはちと相応しくない。


「隆さん、あまりにも自然過ぎて少し引くんですけど・・・・・・霞ちゃんにも同じことしてたんですか?」


 まるでキモイものを見るような眼で真奈美が呟く・・・・・・それを聞いて、手からすり落ちたフォークが床に転がり乾いた音を響かせる。


 ―――霞に・・・・・・だと?


 いやいや待て待て・・・・・・ない・・・・・・な、ニンジンが嫌いみたいだから勝手に食べていたが・・・・・・もしかしたらあの瞬間が、あ~んして貰えるチャンスだったのか!?横浜じゃ殆ど麺類だったから霞にあ~んする気にもならなかったが・・・・・・くぅぅぅぅッ!!仲睦まじげな兄妹としてお約束のイベントをしてなかったとは、一生の不覚!!


「もし俺以外の奴が霞にあ~んなんかしてたら・・・・・・いや、それ以前にあ~んなんて霞にされてたら・・・・・・殺す!!」


「隆さ~ん、戻ってきてくださ~い・・・・・・てぃ!!」


 言いながら真奈美がナプキンを投げてくる・・・・・・お蔭で現実世界に戻されたが、真奈美よ少しマナーが悪いぞ。


「・・・・・・うぉほんッ!!でだ真奈美、俺の言いたいこと・・・・・・まだ分からないか?」


「まぁ・・・・・・今の言動で君がプレイボーイなのは分かった・・・・・・女の敵か君は?」


「それは誤解だ、ミツコさん!!」


 疑わしげな視線と言葉を送ってくるミツコさんにすかさず反論、真奈美はようやく合点がいったのか頬を引きつらせながら答えてきた。


「・・・・・・えっと・・・・・・栞さんと葵さんが大変なことに・・・・・・」


 その返答に満足して大きく頷く。


「その通りだ、あの二人の鬼がいるせいで俺の平穏がいっつも脅かされていたわけだ・・・・・・まったく人が親切で行っていることに一々目くじら立てやがって・・・・・・息子とられた姑かよ、やだねぇ~心の狭い人間は」


 ヤレヤレと肩を竦めながら床に転がったフォークを屈んで拾う・・・・・・再度、顔を上げて真奈美を見ると・・・・・・何故か先ほどよりも更に顔を青ざめた様子の真奈美がいた。


「どうした真奈美?」


「・・・・・・」


 返答が返ってこない、変わりに頬をピクピクさせて身体を震わせている・・・・・・まったく、まるであの瞳を目の当たりにした態度を作ってからに・・・・・・真奈美もこう見えて演技派なのかね。


「隆さん、うしろ~」


「へ・・・・・・?」


 ポツリと呟く瞳ちゃんの言葉に気づいて後ろを振り向くと・・・・・・あるぇぇぇ?おっかしいなぁ?つい先日も似たような光景を目の辺りにしたような・・・・・・


「ひぃ!!」


 真奈美が悲鳴を上げて椅子から立ち上がる・・・・・・出来れば自分もそうしたいところだが、がっちりと両肩を押さえ込まれて一歩も動けない。

 その押さえ込んだ手の先を見れば・・・・・・冷ややかに自分を見下ろす二人の女性。


 誰かは・・・・・・言うまでもないよね?


「えっと・・・・・・な、なんか久しぶりだな二人とも」


「「さっき模擬戦であったわよ」」


「さ、さいですか・・・・・・」


 ハイライトの無い瞳で揃って返され・・・・・・何も言えずに視線を二人から反らす。


 テーブルには、そんな二人に気づいてビビッている連中が多数・・・・・・いや、瞳ちゃんは我関せずといった様子で食事を続けている・・・・・・流石、空気が読める子。


「へぇ・・・・・・少し見ない間に、随分とまぁ・・・・・・仲良くなったわね」


「私、心外だったわ・・・・・・隆さんにそんな風に思われていたなんて」


「い、いや・・・・・・まぁ落ち着け二人とも・・・・・・ほら折角だから一緒に飯でも・・・・・・ち、ちょっと少し力弱めて・・・・・・お願い」


 などと友好的な接触(むしろ連中を巻き込んで有耶無耶にする)を謀ろうとするが、万力のような力で肩を締め上げられて思うように言葉が出ない。
 
 自分の運命もココまでかと半ば覚悟を決めた瞬間・・・・・・自分が予想もしていなかった展開に状況が移行し始める。


「そこのあなた・・・・・・確かべアザリーミだったわね」


「ああ、何を今更・・・・・・それ以前に橘少尉、上官へ向ける口の聞き方ではないと思うが?」


 などとまたもや自分のことを棚に上げて返答するアザリー。


「んなのこの隊ではどうでもいいわよ・・・・・・一つ聞きたいことがあるのよね・・・・・・あなたに」


「・・・・・・なんだよ?」


 何やら微妙な雰囲気が漂い始めている・・・・・・今までに無い雰囲気だ、一体橘はアザリーに何を言う気なのだろうか?


「単刀直入に言うわ、あなたがアサミね?」


「ぶッ!!」


「た、隆さん大丈夫なの~?」


 橘の台詞に盛大に噴出してしまった自分を瞳ちゃんが優しく介抱してくれるが、正直今はそれどころじゃ無い。


「気になったのよべアザリーミって名前・・・・・・何がアザリーよ、略せばアサミじゃない・・・・・・白々しい態度ね」


「へぇ~なるほどね・・・・・・栞、貴女の言いたいことが分かったわ・・・・・・そう、彼女が噂の婚約者だったの」


「お、おい!!橘、それは幾らなんでも飛躍しすぎだ!!言ってるだろう麻美は日本人だって、アザリーと類似点なんざ無いって!!葵もそんな話を真に受けるな!!ってかどうしてお前までそんな目になるんだ!?」


「その胸!!・・・・・・それが証拠じゃないかしら?」


 此方の話など元より聞く耳など持ってなかったのか、びしっとアザリーの胸を指差しながら言い放つ橘、そのあまりにも堂々とした姿に何も言い返せない。


「常日頃から隆が言ってた言葉よね・・・・・・アサミがペチャだって、日本にはいないって・・・・・・筋は通るわ」


「んな強引な・・・・・・」


 橘の思考が理解できない・・・・・・一体、何が彼女をそんな狂気に走らせたのだろうか?


(お、俺か?・・・・・・俺なのか?・・・・・・俺の常日頃の行いが悪いとでも?・・・・・・おかしいなぁ・・・・・・フラグは立ててないはずなんだけど)


 チラッと横目で橘を見上げる・・・・・・すごく・・・・・・怖いです、流石は【元祖】です、瞳にハイライトが無いんじゃなくて暗い光を放っています、背中にもユラユラと揺らめく黒いオーラが見える・・・・・・ような気がします。


「だ、誰か・・・・・・助けて」


 新たな仲間たちに救いを求めるが・・・・・・何時の間にか皆テーブルから逃げ出して、遠くで小さな円陣を作ってやがる。


「へいマナミ・・・・・・二人が言うアサミってのは誰なんだ?」


「えっと・・・・・・隆さんの婚約者・・・・・・らしいです、誰も見たことないですけど」


「え?・・・・・・確か親睦会のとき橘少尉が妻だって宣言したのは?・・・・・・嘘なのか?」


「ロレンス少尉・・・・・・それは・・・・・・」


「へぇ・・・・・・となるとあの橘少尉は社中尉に弄ばれているってわけね・・・・・・少しは紳士かと思ったけど、とんだ見込み違いね」


「・・・・・・詐欺師?」


「二人とも・・・・・・ちょっと酷いです」


「ご飯が冷めちゃうよ~」


「瞳大尉、気持ちは分かりますけどあっちに行ったら駄目ですッ!」


「夕呼の部下だって聞いてるけど・・・・・・あの子、部下に恵まれてないのかしら?」


「どうでもいいけど私を巻き込まないで欲しいよ・・・・・・痴話喧嘩に巻き込まれるなんていい迷惑だよ」


「の割には・・・・・・案外嫌そうでもないんだなアザリー?」


「静流さん!・・・・・・調度よかったあの二人を止めてください!!」


(静流さんッ!?)


 真奈美の叫び声で救いの主が現れたことに気づく。

 ドナドナな気分でうな垂れていた自分に面白そうな視線を送りながら、静流さんが皆を引き連れて此方に近寄ってくる。

 まるでハーメルンの笛吹きだなと、その光景を見ながらふと思ってしまう。


「相変わらず、楽しそうだな隆?」


「そう見えますか?・・・・・・出来れば助けて欲しいんですけど・・・・・・」


「ああ、後で気が向いたらな」


(ひでぇ・・・・・・なんて上司だ)


 相変わらずやる気の無さそうな様子で期待できない答えを貰い、上司らしくない上司の姿を半目で見てしまう。


「さて・・・・・・後ほど正式にブリーフィングにて通達を行うが、事前に伝えておいてやろう・・・・・・私たちの参加する作戦が決まった」


 そんないつも通りの気だるげな様子だが、彼女の口から突然漏れた言葉にその場にいた全員が態度を一変させる。


「甲八号目標、ロギニエミハイヴまでの進攻作戦が決定した」


「「「なッ!?」」」


 続けて彼女の口から発せられた言葉に数人が息を呑む・・・・・・無理も無い、ハイヴへの進攻作戦なんて世界でも数えるぐらいしか行われていない大規模作戦だ。 

 それほどの作戦であれば、入念な下準備をする時間が必要になる・・・・・・この基地に駐屯してまだ日が浅いが、そんな大規模作戦が行われるのであれば準備として大規模な物資の流れもあるだろうし、嫌でも耳に噂が入ってくるはずだ。

 それが一切無い・・・・・・なんの準備も無しにハイヴに進攻なんて自殺行為もいいとこだ。
 

「よく聞け・・・・・・私は【ハイヴまでの】、と言ったんだ・・・・・・ハイヴ攻略作戦では無い、そこまでの戦力は欧州国連軍には無いだろう、まぁ米軍が全力で援護するなら話は違うだろうがな」


 苦笑しながら言う彼女の言葉を聞いて安堵のあまり大きく肩を落としてしまう。

 これまでに行われたハイヴ攻略作戦の概要は自分も目にしている・・・・・・その内容は悲惨、の一言で済まされるような結果ではない。
 資料で見た限りだが、それは最早作戦と言えるような代物ではなく、特攻や玉砕の言葉が似合うほど凄惨な戦闘が繰広げられたことぐらい容易に想像できる。


 一例を挙げれば、突入した機甲師団が衛士10数名を残し全滅、5000人近い人員がハイヴ内部で命を散らしたパレオロゴス作戦・・・・・・そんな彼ら機甲師団をハイヴまで到達させるのに犠牲になった人たち・・・・・・資料で見たその数字に吐き気すら覚えたが、その場に立ったことも無い自分が彼らに同情するなど・・・・・・彼らへの侮蔑もいいところだろう。

 自分に出来ることはその事実を受け止めるだけだ・・・・・・多くの家族や生活があった人間が、たった一度の作戦で命を散らした事実を・・・・・・この世界の凄惨さを、自分の平和呆けした脳みそに叩き込むことだけだ。


(っても・・・・・・ハイヴに進攻しないってだけで・・・・・・安心してるようじゃ覚悟もクソも無いわな)


 軽く震えていた自分に自嘲してそんなことを考える、静流さんはそんな自分の様子に気づいているのかいないのか・・・・・・手渡されたばかりであろう作戦の資料を団扇代わりに扇ぎながら続けてくる。


「目的は、現在ノルウェー半島で繰広げられている前線の押上げだ・・・・・・今よりもハイヴに近い場所へ戦線基地を作り、来るべき欧州大反抗作戦への橋頭堡の確保・・・・・・自分たちの任務は、その進攻部隊に随伴し後方援護・・・・・・しかるべく帝国側が求める実戦データの収集・・・・・・そんなとこだろう」


「じゃあいつもどおり、間引き作戦と同じなんだね~」


 緊迫した雰囲気に包まれた空気が瞳ちゃんの一言であっさり霧散していく。


「その通り、間引きしつつ前進するだけだな・・・・・・まぁ私たちはテストや演習を行いだから・・・・・・デンマークの二人には悪いが、言わば【ヴェーザー作戦】の再来といったとこか・・・・・・全員、気張るな・・・・・・だが気を抜くなよ、呼ばれてもいないBETAの庭に行くわけだ・・・・・・手土産をたっぷり用意しておかないと失礼になるだろう」



 言って瞳を輝かせ獰猛に笑う静流さん、その笑みにつられたのか何人かが薄く笑うのが分かった。



 自分は・・・・・・笑っているのだろうか?


 分からない・・・・・・分からないが・・・・・・戦場と言う名の地獄がゆっくりと近づいてきていることに身震いしているのは確かだった。




























「・・・・・・さて、どうやらなんとかやり過ごせたようだな」


 静流さんの突然の報告に、部隊の皆は気を引き締めて真剣な顔つきでPXを出て行ってしまった。

 色々と自分も考えることがあるが・・・・・・橘と葵の脅威から逃れたことに一人で安堵していた。


(戦場に行く前に目先の問題で疲れてたらどうしようもないしな・・・・・・けど・・・・・・これじゃ百里の時となんら変わらないなぁ)


「タカシ、まだここにいたのか?」


 忘れ物でもあったのか、アザリーがやや驚いた様子で近寄ってくる、まだ自分が此処にいるとは思ってもいなかったのだろう。


「ああ・・・・・・ちょっとな、疲れちゃって・・・・・・」


 曖昧な笑みを送ると彼女も軽く疲れたかのように苦笑を浮かべる。


「私もだ、ほんと日本人ってのは変わった人間が多いんだな?・・・・・・親父の言っていた言葉が信じられなくなるよ」


 言いながらドカッと自分の向かいの席に座るアザリー・・・・・・女らしくなりたいと言っていた少女は一体何処に言ってしまったのだろう・・・・・・


「親父さんか・・・・・・なんて言ってたんだ?」


「ん?・・・・・・ああ、日本人の持つ侍魂は尊敬し畏怖すべきものだってな・・・・・・世界で唯一アメリカに爆撃し、その後敗戦したにも関わらず目まぐるしい発展を遂げ、独自に戦術機を作り上げたパワーは並じゃないって・・・・・・そんな国と同盟を結んでいたことを誇りに思えって言ったよ」


(なるほど・・・・・・親父さんらしい台詞だ・・・・・・また酒でも飲みたいもんだな)


「今・・・・・・親父さんはどこに?ってか何やってるんだ?」


「整備だよ戦術機専門のね・・・・・・今はシチリアかな?・・・・・・生きてるとは思うよ、去年だけどラファールを見て文句付けてたらしいから」


「なるほど・・・・・・フランスがやっぱり気に入らないのかね」


 アザリーに聞き取られないように小さく呟く・・・・・・娘であるアザリーがフランスの獅子を欲しがっても言えなかったぐらいだ、この世界の親父さんも生粋のドイツ党なのかもしれない。


「そんなのはどうでもいいんだよ・・・・・・あの二人、なんとかしてくれよ」


「ああ・・・・・・すまない、犬に噛まれたと思って諦めてくれ・・・・・・きっと今後も噛むだろうけど」


「なんだよそれ?・・・・・・ったく、それでなくてもどっかの誰かさんに語学教育してるってのに、これ以上面倒ごとが増えるのは面白くないんだけど?」


 ややイラついた様子で答えるアザリー・・・・・・確かに彼女の言うとおりだが、これからも苦労して貰うしかないのは最早決定事項だ。


「・・・・・・その点は感謝してるよ、何かお礼できればいいんだけどな・・・・・・生憎と何も思いつかないな・・・・・・わるぃ」


「な、なんだよ、急に塩らしくなるんじゃないってのッ!!調子狂うじゃないか・・・・・・気遣いはいらないよ」


「いやそう言うわけにも・・・・・・ふむ」


 なんとかならないかと腕を組んで思考を巡らせる・・・・・・獅子のガラス細工なんて嗜好品がこの世界にあるわけ無いし・・・・・・アレか、先日行っていたレオン様なるスペイン軍のエースのサインかなんかを仕入れればいいのか?


(難しいな・・・・・・何処にいるかも分からないし・・・・・・そもそもどんな人かも分からないしなぁ)


「おい、考え込むなよ?別に礼はいらないからな・・・・・・あんたに教えてやってるのは、死んだジイ様が日本人に受けた恩をあんたで返してるだけだからな」


「ん?ああ・・・・・・そう言えば・・・・・・なぁアザリー、お前やっぱ日本語話せるのか?」


「んなッ!?・・・・・・私、あんたにソレ言ったか?」


(言ってないな・・・・・・少なくともこの世界のお前は)


「いんや、なんとなくな・・・・・・で、どうなんだ?」


「ああ・・・・・・家の家訓でね日本語は一応話せる」


 どうやらそのあたりの事情は、この世界と元の世界の彼女の共通点なのかもしれない。

 少しだが・・・・・・自分の知っているアザリーに彼女が近づいたことに嬉しさを感じる。


「そうか・・・・・・さっきの礼の話だがな、日本人に救ってもらった爺さんの恩があるなら・・・・・・たまには日本語で話してくれよ」


「ん?爺さんが助けてもらったことまで言ったか?・・・・・・いや、それよりも意味が分からない、なんで私が日本語で話さないといけないんだよッ!」


 あの頃よりも・・・・・・随分と長くなった髪を振り乱して彼女が叫ぶ。


「まぁ深い意味があるわけじゃないが・・・・・・欧州まで来て聞く日本語にはちと感慨深いものがあるんだよ・・・・・・頼む」


「なんだよ・・・・・・そこまで言うなら仕方ないな・・・・・・ほら、これで満足か?」


 懇願されると断れない性格はこの世界のアザリーも同じだった、思ったよりあっさりとソレまで話していたドイツ語から日本語へ彼女は切り替えて話してくる。


「あ~、あ~・・・・・・なんか変なんだよ、日本語を使うってのは・・・・・・こう、考えも切り替えなくちゃいけない・・・・・・ってどうしたんだタカシ?」


 喉の調子でも整えていたのか変な声を上げていたアザリーが、此方の様子に余程驚いたかテーブルへ身を乗り出して此方を覗き込んでくる。


「いや・・・・・・なんでも無い、ちと懐かしくてな」



 なんとなく分かった気がする・・・・・・ほんの、ほんの些細なことだがこの世界のアザリーに感じていた違和感。



 言語だ・・・・・・元の世界のアザリーは自分に日本語で話しかけてくれていた、興奮したときは母国語に戻るが自分が一番多く聞いた彼女の声は日本語での言葉だ。

 成長して、声も少し変わってしまったが・・・・・・あの耳に響く甲高い日本語を久しぶりに聞いたことで・・・・・・不覚にも気持ちが弛んでしまった。


「・・・・・・それにしてもだ、流暢な日本語だなアザリー?それなら十分日本でもやっていけるぞ?・・・・・・よかったら極東国連軍に来るか?」


 目じりに溜まった水を指で弾きながら彼女へそう軽口を飛ばす・・・・・・アザリーは一瞬逡巡する仕草を見せたが、ニヤリと子供頃見せた茶目っ気たっぷりの笑顔を此方に見せる。


「タカシ・・・・・・お前ってけっこう軽いやつなんだな?・・・・・・そう言ってあの二人を誑かしたのか?」


 別れ際に聞いた台詞・・・・・・相変わらず、この娘は俺をどんな人間だと思っているのやら・・・・・・


「誑かすとは酷いな・・・・・・少なくとも橘や葵を俺は誑かした記憶は・・・・・・」



 ―――ガプッ


 話している途中でそんな擬音が耳に聞こえた・・・・・・気のせいかと思ったのだが・・・・・・腕に感じる重みが現実だと教えてくれる。


「なにやってるんだ・・・・・・お前は?」


 ハグハグと・・・・・・自分の腕に噛み付いている橘を冷ややかな目で見下ろしながらそう問いかける。


「へっ、どうせ私は犬なんでしょ?・・・・・・だったら噛み付いてやるわよ・・・・・・ガブッ!!」


 などど言いながら再度噛み付く橘・・・・・・一体、コイツは何時からいたんだ?


「おい・・・・・・地味に痛いからそろそろ・・・・・・」


―――ガブッ


「・・・・・・葵、お前まで何やってるんだ?」


 空いた手に噛み付いている葵の姿を見て、うんざりとしながら問いかけるが・・・・・・


「ふが、ふがっつふ、がうがうッ!!」


「噛むか話すかどちらかにしろ・・・・・・ってか光菱のお嬢様が一体何やってるんだ?」


 光菱の一言で冷静になったのか、葵は慌てて身体を離して今更ながら乱れた服やらを調え始める。


「な、なんか・・・・・・栞の毒気に当てられて・・・・・・何してたのかしら私・・・・・・」


 しかも自己嫌悪してやがる・・・・・・忙しいお嬢様だ。


「ふん!!私は噛み痕がつくまで噛むのよ・・・・・・コレは私のものなんだからッ!!」


「い、いてぇ!!止めろ橘!!ほんとに痕が残る!!ソレに痕ってのはなるだけ目立たないところにつけるのがエチケットだろうが!!」


 本気で齧り付いて来た橘から必死に身をよじって逃げる・・・・・・ほんと、加減をしらんのかこの娘は。


(ったく・・・・・・酷い目にあった)


 噛まれた腕を息を吹きかけていると・・・・・・ふと、アザリーからの視線を感じる。


「・・・・・・お前も噛みたいとか言うなよアザリー?」


「だ、誰がそんなこと言うかッ!!」


 ワタワタと手を振って否定するアザリー・・・・・・そうだよな、お前に噛み癖なんてなかったもんな。

 なんて安心していたのに・・・・・・修羅場が再び舞い戻ってきたようだ。


「さて・・・・・・邪魔者も居なくなったことだし・・・・・・ゆっくりと二人の関係について教えてもらおうかしら?」


 言って座る赤鬼・・・・・・


「そうね、疑問は早めに解消しておいたほうが何かといいしね」


 自分を挟んで座る青鬼。

 その二人に睨まれ珍しく狼狽した様子のアザリーを眺め・・・・・・もう全てを投げ出したくなりながら天井を仰ぎ見る。



 どうやら・・・・・・戦場と言う名の地獄の前に、目の前の修羅場を乗り越えなくては、愛する義妹が待つ横浜へ無事に帰れそうにない・・・・・・なんだよ・・・・・・この世界の理不尽っぷりは。



「・・・・・・霞・・・・・・兄ちゃん頑張るからな」









 遠く離れた横浜までその言葉が伝わったかは・・・・・・霞以外、誰にも分からないとさ。







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