DONの落書き部屋

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「Muv-Luv 小説」
第二部

欧州編 12話

 

欧州編  かのじょたちの過去と、かれの本懐




1988年 12月14 日
デンマーク王国首都・コペンハーゲン アマリエンボー宮殿


<ファーナ・ルン・グリュックスブルク>


「ファーナ様!!どちらにいらっしゃるのですか!?ファーナ様ッ!!」


 誰かが私を探す声が聞こえてくる。
 そのことに気付きながらも私は走るのを止め無い。言葉に応えて素直に自分の姿を見せる気なんて更々無い。


 ―――だって今、私はその声から逃げているのだから


 赤い絨毯が敷き詰められた廊下を走り抜け、大理石で作られた柱の影に身を潜める。
 柱の影から今来た道を振り返れば、突然部屋を飛び出した私を探すべく、使用人や教育係たちが慌てた様子で廊下を右往左往しているのが見えた。

 その姿に満足し、そのまま身を隠しながら廊下を進む。そして漸く私はこの鳥かごみたいな場所から抜け出すことに成功した。


「ん~~~~ッ!!」


 溜まった鬱憤を晴らすかのようにこれでもかと背伸びをしながら空を見上げ、新鮮な空気を胸いっぱい吸い込む。
 空気がとてもおいしい・・・・・・久しぶりに外に出れたような気がするけど、実際には此処に連れて来られてからまだ日は浅い。

 一週間前ぐらいだと思う、それまで住んでいたボーンホルムの離宮からここに呼ばれたのは。
 主都に呼ばれるなんて母様が亡くなって以来だったので最初はビックリした・・・・・・でも、ここに連れて来られてから、毎日、毎日勉強ばかり。外に自由に出ることも駄目と言われ、ここ一週間は軟禁に近い状態で部屋に閉じ込められている。

 何となく此処に呼ばれた理由を理解したけど・・・・・・これからこんな生活が続くかと思うとちょっと嫌になってくる。


(やだなぁ・・・・・・シスンやヒュレイカと一緒に学校に行きたかったなぁ)


 外に出て見ることが出来た空の青さは、ボーンホルムでいつも見上げていた空とまったく同じ色だった。
 母様が教えてくれたこと、例え一緒に過ごすことが出来ず遠く離れ離れに暮らしていたとしても、見上げる空は同じ・・・・・・離れても同じ空を見ることは出来る。
 それを思い出してしまったせいだろうか、こんなセンチメンタルな気分になってしまったのは。


 これじゃいけないと思って被りを振る。


 私は普通の子達とは違う、まだ10歳になったばかりの子供だとしても・・・・・・私の生まれは少々特殊過ぎる。


 ―――デンマーク王国、第四位皇位継承権保持者・・・・・・ファーナ・ルン・グリュックスブルク。


 自分で言うのもなんだけど、一応私はこの国のお姫様の一人なのだ。
 でもお姫様って言っても私の扱いはそんなに大それたものじゃない。【オル】の名前を与えられなかった私は、首都を遠く離れたボーンホルムにある離宮にて政事には一切関わる事無く過ごしてきた。
 だからだろうか?一通りの教育を受けたにも関わらず、私の考えが何処か普通の貴族の思考とずれているのは。

 何かを守るために強くなるとか、誰かに道を指し示すだとか・・・・・・正直、私には理解できない。
 ほんの一週間前までは、市井の子供達と一緒に無邪気に遊んでいた私なんかにソレを理解しろなんて最初から無理な話なのだ。


 だと言うのに、今はこうして主都にある邸宅で軟禁状態。
 それが嫌になって逃げ出して、なんとか邸宅の外に出ることは出来た・・・・・・でも私が行けるのはここまで。

 目の前には色とりどりの花が咲き乱れる庭があるけど、その先にはとても背の高い壁が立ち並び、多くの衛兵が私たちを守るための職務についてくれている。
 私がどんなに行けてもそこまでだ・・・・・・それより先に行くことは間違い無く不可能。

 それに外に出ることはできたが、屋敷中に設置された監視カメラによって私の居場所はとっくにばれているだろう・・・・・・暫くすれば誰かが私を捕まえに来るに違い無い。


「・・・・・・どうしてこうなっちゃったんだろ」


 衛兵か侍従が来るまで大人しく待っているのも癪なので庭を歩き始めたのだが、突然変わった自分の生活にうんざりしてそう呟いてしまった。

 私は所詮【控え】でしかないはずだ。そんな自分が首都に呼ばれ・・・・・・政治学のなんたるかを教え込まれている現状を考えると、もしかしたら親族の序列に何かあったのかもしれない。

 自分なりに考えてみるが、士官学校に通っているオルデリック兄様に何かあったとは考え難い。オルディエント姉様だって先日南米のお土産を貰ったばかりだし・・・・・・実質的な時期国王とその補佐官が健在と言うことは・・・・・・もしかしたら父の容態が急変したのだろうか?


(・・・・・・あんまり実感がないけどね)


 言葉には出さずに、内心で小さく嘆息してしまう。

 父である、デンマーク国王陛下と顔を合わせたことなど数えるぐらいしかない。
 噂では、昨年から熾烈さを増したBETAの西進に対抗するために、ドイツ、ポーランドの国境沿いで繰広げられた防衛線に参加した際に重症を負ったと聞いている。

 心配・・・・・・していないわけではないが、実感が湧かないのも事実だ。
 母様は亡くなるまで何度も私に会いに来てくれたが、父は来てくれなかった・・・・・・当たり前だ、このご時勢に一国の王が娘一人に会いに来ることなどありえない。
 それが分かっているからこそ父のことを酷い人などと思うことは無く、むしろ皇族としてのあり方には尊敬すらしている。
 ただ、父親と言われてもピンとこないのだ・・・・・・まぁそれは、私の姉にも言えることなのだが・・・・・・


「オルフィーナ姉様も・・・・・・もしかしたら此処にいるのかな」


 同じ父と母から生まれた双子の姉・・・・・・何度か見たことのある姉・・・・・・話した事も碌に無いけど、もしかしたらこの邸宅にはオルフィーナ姉様もいるのだろうか?

 生まれは同じでも、別々の生活を送ってきたせいかオルフィーナ姉様も父と同じように自分の姉だと言う実感が余り無い。オルデリック兄様やオルディエント姉様は何度も会って話をしたことがあるのだが、オルフィーナ姉様とお会いしたのは・・・・・・母様が亡くなった時だけだ。


 姉様には失礼だが、第一印象は【人形】のような人だと感じた。


 母様が亡くなって私は悲しくて泣きじゃくっていたと言うのに、オルフィーナ姉様はまるで人形のように表情を変えずに列席していた。
 私と髪の色が違うだけでまったく瓜二つの容姿を持ったオルフィーナ姉様・・・・・・なのに感情らしい感情を見せずに座ってるその姿を初めて見た時、私は凄く恐ろしかった。


 ・・・・・・母様からオルフィーナ姉様が武官としての厳しい教育を受けていると聞いていたが、一体どんな生活を送ればあんな人間になってしまうのだろうか?
 私は幸運なのだろうか・・・・・・ほんの少し母様から生まれてくるのが遅かっただけで、姉様のような特別な教育を受けずに今まで生活してくることが出来たから。


 もし私のほうが早く生まれていれば、私が【人形】になっていたかもしれない・・・・・・そう考えるとゾッとしてしまう。


「・・・・・・ん」


 寒気を一瞬感じた直後、突然風が吹き荒れる・・・・・・


「・・・・・・ッ・・・・・・ッ!!」


 風に煽られる髪を押さえていると・・・・・・誰かの声が聞こえた。


「?」


 一瞬、気のせいかと思ったけど確かに聞こえる・・・・・・それと同じく、何か硬いものが打ち合う音も。


(・・・・・・何の音だろう?)


 外に出れたことで少し浮かれていたのかもしれない、私は好奇心に駆られるまま音がする方に歩き出し・・・・・・
離れにある小さな広場に辿り着いた。
 私の背よりも少し高い壁が視線を邪魔する、その壁には衛兵たちの訓練場と表記されている。
 そんな場所へ正面から堂々と入るわけにも行かないので、適当な足場を見つけて中の様子を伺うと・・・・・・


「くぅ!!」


 ―――丁度一人の女の子が地面に倒れるところだった。


「・・・・・・立ちなさい、この程度で根を上げられては困りますな」


 年端も行かぬ少女が剥き出しの地面に倒れていると言うのに、手を差し伸べるどころか冷たい言葉を浴びせる男の姿も見える。
 三十代ぐらいのゲルマン系の偉丈夫。外見的な特徴は右目につけた眼帯・・・・・・そして刃を潰した剣を持っている姿を見るに、あの男は少女の指南役なのだろうか?


「・・・・・・ぐ・・・・・・っ」


 男と同じ、刃を潰した剣を握り締めたまま倒れていた少女だったが、苦悶の声を上げながら震える腕で立ち上がろうとしている。

 着ている服は所々が破れており、露出した白い肌には痣やうっすらと血が滲んでいる。

 見るだけで痛々しい姿なのに、少女が浮かべる表情は前に見た顔と同じく、人形みたいに表情が無い。


(・・・・・・な、なんで?)


 少女の姿に疑問の言葉が脳裏に過ぎる。

 あの少女を自分が知らないわけがない・・・・・・だって同じ顔を毎日鏡で見ているから、自分と瓜二つの顔を持っている世界で唯一の人だから。


「・・・・・・オルフィーナ姉様」


 ポツリと、自分でも意識せずに姉様の名前が口から漏れる。


 そんな小さな声が姉様に届くはずも無かった。
 呆然としている私を他所に、なんとか立ち上がったオルフィーナ姉様は指南役の男に向かって剣を構えた。

 男はそんな姉様の姿を一瞥した後、小さく嘆息しながら掛け声も無しに手にした剣を振るい・・・・・・また姉を地面に叩き伏せた。
 体力面での訓練を受けていない私が言えることではないが、目の前で繰広げられている光景が全うな訓練でないことぐらいは理解できる。


 ―――これはただの虐待だ。


 他の教育係は?侍従は?衛兵は?一体何をしている?・・・・・・こんなものが姉様に課せられた教育だとでもいうのか?


「・・・・・・覗き見とは、淑女としてあるまじき行為ではありませんな」


「ッ!?」


 姉の姿に目を奪われていたせいか、突然背後から掛けられた声にビクッとしてしまった。

 迂闊だった・・・・・・自分が逃亡者の立場であることを思い出し、慌てて足場にしていたブロックから飛び降りて背後に振り返る。


 ―――其処にいたのは一組の男女だった。


 着ている服装からきっと軍人なのだと予想できる。だが屋敷を警護している衛兵達が着ている軍服とは意匠がかなり異なる。

 嫌、そもそも肩口に縫い付けられている国章がデンマークを示す王冠と獅子では無い。
 男性の服は鷲が、女性の肩口には鉄槌と麦が組み合わさった委託が描かれている・・・・・・確かどちらもドイツ軍の国章だ。


「お見苦しいところをお見せしまして・・・・・・失礼致しました」


 スカートの裾を掴み、一礼しながらも二人の姿を観察することは止めない。


「いえいえ、かような場所で姫様のご尊顔を拝見できまして感激しております」


 年は・・・・・・二十代半ば頃か、短めの銀髪に彫の深い顔立ちの男は涼しげな顔でそんな言葉を返してくる。


「・・・・・・ルーファス、姫様に失礼よ」


 そんな失礼な態度を見せる男を嗜める声が響く。
 声を発したのは男の背後に立つ女性・・・・・・年齢は男性と同年代だろうか?栗色の長い髪を持った綺麗な女性は困った顔をしながら佇んでいる。


「ん?そう思うかシェーナ?」


「ええ、失礼過ぎるわね・・・・・・私を前にして名前も名乗らないなんて不届きすぎるわ!!」


 きょとんとした顔をしている男の態度に苛立ちが募り、思わず声を荒げてしまった。


「これは失礼したリトルプリンセス・・・・・・私はドイツ連邦共和国陸軍第8492戦術機甲部隊所属、ルーファス・ツー・フェノンリーブ中尉であります」


「同隊所属、シェーナ・コードウェル少尉であります」


 言って綺麗な敬礼を見せる二人。
 先ほどまでの姿と打って変わって、軍人然とした姿に少々驚いていると・・・・・・


「さて、お姫様は何を見てらっしゃったのかな・・・・・・」


 あっさりと敬礼を崩してオルフィーナ姉様がいる広場に視線を向ける男・・・・・・フェノンリーブ中尉。


「ち、ちょっと貴方、私が何見ててもいいでしょう!?」


 名乗りはしたものの、こんな何処の人間かも分からない相手に自分が姉の姿に目を奪われていたなんて知られたくない。


「・・・・・・ルーファス、失礼が過ぎると後で問題になるわよ」


「そうかい?こんな綺麗なお姫様が見惚れてたんだぞ?気にならないほうが逆に失礼だと私は思うんだけどな」


 私と女性の制止を振り切って、フェノンリーブ中尉はひょっこりと背伸びして壁の向こうに目を向ける。


「・・・・・・まったく、貴方ってそう言う子供っぽいところがあるわよねぇ・・・・・・それで、何が見えるの?」


「なッ!?あ、貴女までそんな!!」


 清楚な雰囲気に騙された、女性・・・・・・コードウェル少尉もどうやら彼と同類らしい。

 必死に二人を止めようと頑張るけど子供一人の力じゃどうにもできない・・・・・・そもそもこの二人は一体なんなのだ?幾ら皇位が低いとは言え一国の姫君に対してこの無礼な振る舞い、外交問題に発展する可能性を全く考えていないのだろうか?


「・・・・・・どれどれ、アレは・・・・・・髪の色からしてオルフィーナ様か?」


「そうね・・・・・・でもルーファス、あの人・・・・・・」


「ああ、ラスキン卿だな・・・・・・相変わらず容赦無いお人だ」


「・・・・・・止めなくていいの?どう見ても・・・・・・ラスキン卿の私情が入ってるわよ」


「特権階級の憂鬱か・・・・・・やり過ぎかとは思うが我々に彼を止める権利は無い・・・・・・まぁ報告ぐらいはしておくが・・・・・・」


 オルフィーナ姉様と相手の男を見ながら二人が何かを話しているが、私はまた見てしまった姉様の姿に釘付けになってしまった。
 何度打ち倒されても立ち上がり、震える足で地面を踏みしめて構え・・・・・・再び地面に叩き伏せられる姉様の姿に。


(・・・・・・オルフィーナ姉様)


 あそこに居るのはもう一人の私・・・・・・あったかもしれない私の可能性の一つ。

 自我らしい自我が無くなるほど厳しく躾けられた自制心、体中に傷が出来ても終わらない訓練。
 ほんの少し生まれるのが早ければ私が受けていたかもしれない現実。


 それを考えると、恐怖で身体が震えてくる。


「まぁ覗き見していても仕方が無い、我々は自分たちの役割を全うするだけだ・・・・・・探していた姫様もこうして見つかったことだし今後のカリキュラムを・・・・・・」


 頭の上で何かを話していたフェノンリーブ中尉だったが、私を見るや否やその言葉を詰まらせた。
 震える私を見て笑っているのかと思い彼の顔を見上げると、彼は私と姉様を何度か見比べた後、何かに納得したかのように頷き始めた。


「失礼・・・・・・ファーナ様、今から私が発言する内容の失礼をご容赦願いたい」


「な、何よ急に・・・・・・突然、真剣な顔になって・・・・・・」


 此方の名前を呼んだ彼の顔は、それまで浮かべていたにこやかな笑みを消し、此方が改まってしまうほどの真剣な表情に変わっていた。


「大方・・・・・・今受けてらっしゃる教育が嫌で、こそこそ隠れているのですかな?」


「うッ」


 図星を指されて言葉に詰まってしまう。


「今までファーナ様が送ってきた生活の内容は聞き及んでおります。突然周囲の環境が変わって戸惑っていることでしょう・・・・・・」


 ゆっくりと、私に言い聞かせるような声で彼は私に話し始め・・・・・・寂しげな笑みを浮かべる。


「・・・・・・貴女は、不幸な人だ」


「ッ!?」


 彼の口から漏れた言葉が信じられなかった。


 彼は今の私の境遇に同情しているとでも言うのか?
 突然これまでの生活から隔絶され、帝王学のなんたるかを教え込まれている私を不幸だと思い、憐憫の眼差しで私を見ていると言うのか?

 今までの不敬な物言いなど、その侮辱極まりない言葉の前にあっさりと霞んでしまった。

 確かに不幸かもしれない。だが、こんな男に同情される程私は落ちぶれては居ない。
 それに・・・・・・不幸だと言うのであれば、生まれたときから過酷な環境に身を置いているオルフィーナ姉様はどうなのだ?

 私よりも不幸だと・・・・・・あそこまで必死になっているオルフィーナ姉様にまでそんな言葉を掛けるものなら、私はこのフェノンリーブと言う男を許す気など無い。
 まだ私には実質的な力は無いが、何れ力を得たときには彼にソレ相応の報いを与えることを、私は己の名に懸けてその時誓った。


「・・・・・・」


 無言で怒りを含んだ視線を彼に送るが・・・・・・彼は小娘の眼差しなど相手にする気もないのか、表情を変えないまま口を開いた。


「・・・・・・もし、姉君であるオルフィーナ様へ少しでも哀れみの心をお持ちならば・・・・・・それは間違いです。少なくともオルフィーナ様は貴方よりも幸福でいらっしゃる」


 再度彼の口から告げられた言葉は、またもや私の思考を混乱する内容だった。


 いや、それよりも私は姉様を哀れんだのか?

 先ほど、姉様と自分との境遇の差を目の当たりにし、姉様のようにならなくて良かったと安堵した私は・・・・・・姉様を哀れんだのか?

 そうだ・・・・・・確かに、私は良かったと思った。

 人形のようにならず、暴力的な仕打ちを受けることなく生活できたことに安堵した。姉様に同情し、憐憫の視線を送った。
 私はなんて酷い妹なのだろう。辛い立場にいる姉様の姿を見て、自分の立ち居地に安心感を覚えるなんて・・・・・元々その自覚も覚悟も無かったが、私は皇族、いや貴族として失格だ。


「・・・・・・くッ」


 情けない、あまりにも情けなくて涙が出てくる。

 だがしかし、フェノンリーブ中尉は過酷な境遇を生きる姉様よりも私のほうが不幸だと言った。
 何故?・・・・・・どう見ても、どう比べても、私と姉様であれば私のほうが恵まれているはずなのに・・・・・・どうして彼はそんなことを言ったのだろうか?


「オルフィーナ様は目的を持って歩いてらっしゃる・・・・・・だからこそ、その道が辛くても進んでいける。ああして何度も立ち上がれるのは確固たる意思を持ってその目的を見ているからでしょう」


 呆然とする私を余所に彼は続ける。


「しかし、貴女にはソレが無い・・・・・・ただ流されるままに皇位を授かり、ただ目的も無いまま今日まで生きて、そして覚悟も無いままこの場所に呼ばれた・・・・・・可哀想な姫様」


「・・・・・・ルーファス、貴方・・・・・・」


 コードウェル少尉が口を挟もうとしたが、彼は手を上げて彼女の言葉を制した。


「ですがよく考えて欲しい。今の貴女に何が出来るのかを、この壁の向こう側にいるもう一人の少女が、今何をしているのかを」



 ―――私に何が出来る?



 彼の言葉を聞き、何故か昔・・・・・・母様に言われたことを思い出してしまう。


 離宮に住む私を心配し時折顔を見せに来てくれた母様。来るたびに、会ったことも無い姉様のことを色々話して聞かせてくれた母様。

 無口で、不器用で、自分の気持ちを表に出すことが出来ない・・・・・・いや、許されない姉様のことを心配そうに話していた母様。
 

 物心付いた時、私はそんな姉様に嫉妬した。


 私はこうしてたまにしか母様に会えないのに、姉様は普段から母様と顔を合わせて、こうして絶えず心配して貰っている。
 どうして、私は母様と一緒に過ごせないのだろうか・・・・・・どうして私は生まれるのが遅かったのだろうか・・・・・・そんな自分の身を呪い、顔も知らぬ姉様を憎んだ時があった。


 正直に言えば今だってそうだ。
 母様の最期に立ち会った姉様、最後まで母様と一緒にいることができた姉様・・・・・私は悲しくて悲しくて、母様の墓前で泣き崩れるしかなかったのに、涼しげな顔で佇んでいた姉様。
 憎むな・・・・・・と言うほうが無理だ。だが、その感情を表に出すわけにはいかない・・・・・・姉を忌み嫌う妹など、あってはならない・・・・・・誰も、そんな私を望まない。

 だから、私は姉様を憎むことを止めた・・・・・・いや忘れた。
 意味が無い、そう考えて今まで忘れていた・・・・・・でも本当にそれだけだっただろうか?周囲のことを考えて私は姉様を憎むことを忘れたのだろうか?


 違う・・・・・・そうじゃ無い。


 どうして忘れてしまっていたのだろうか・・・・・・母が言っていたこと・・・・・・いつかはオルフィーナ姉様の力になってくれと、いつも姉様の話をした最後にそう語っていた母の言葉を。


 無口で、不器用で、自分の気持ちを表せない姉様。
 母様が居なくなってしまったら、そんな有りのままの姉様を見守る人は誰もいなくなってしまう。
 だから、母様は私にソレを望んだ・・・・・・唯一血を分けた姉妹である私に。



 母様が私に託した願い、だと言うのに今の私は何をしている?



 今はまだ何も出来ない。そしてこうして逃げ回っている内は、何時までたっても私は母様の願いを叶えることなんて絶対に出来やしない。
 まだ自分に何が出来るかなんてわからない・・・・・・でも、この壁の向こうにいるもう一人の自分は、自分の成すべき事を成すために努力している。


 例えそれが与えられたものだとしても、それを受け入れるための努力をしている。

 母の言葉ではないが・・・・・・私は力になりたい、もう一人の私の力になりたい。


「・・・・・・」


 私は誰だ?

 ファーナ・ルン・グリュックスブルク。

 母、ベネディクト・ルン・グリュックスブルクの娘であり、オルフィーナ・ルン・グリュックスブルクの妹。

 そう、私はオルフィーナ姉さんの妹だ。

 私がやることは・・・・・・姉さんの隣に並んで、姉さんの力になることなんだ。

 何を逃げているんだろう、こうしている間にも姉さんは必死に歩いていると言うのに、私はまだ歩き始めてすらいない。
 だけど、今から姉さんに追いつこうと歩き始めてももう追いつけない。私は私の道を歩き・・・・・・姉さんと違う立場で、姉さんの隣に立てるだけの力を付ける必要があるんだ。


 もう・・・・・・私は逃げない・・・・・・何かに甘えたりなんかしない。


「ふむ、いい顔をしている・・・・・・流石は一国の姫君か」


「ルーファス・・・・・・随分とまた自分を棚に上げたことを言ったわね?」


「当然だ、これから短い間とは言えお世話させていただく方だからな・・・・・・それに生憎と私は相手を見て言葉を選ぶほど器用な生き方は出来ない」


「そうね・・・・・・貴方は不器用な人だから」


「褒め言葉と受け取っておくよ・・・・・・さて、失礼しますよ我が君」


 私が内心で決意表明していると言うのに、フェノンリーブ中尉はそんなことなどお構い無しとばかりに私に向かって手を伸ばした。


「な、なっ!?」


 突然、自分の身体が宙に浮く・・・・・・抱きかかえられたと自分が理解するよりも早く、先ほどまでの真摯な態度を消してしまった無礼な彼はスタスタと歩き始める。


「な、なにをするの!!放しなさい!!」


「はっはははは、また逃げられては困りますからな。それに姫様を抱きかかえることなど、このような機会でないと出来ない経験ですのでご容赦の程を・・・・・・これから短い付き合いとは言えお傍にいることになりますので・・・・・・これぐらいで驚かれては困りますぞ?」


「え、ええ?お傍??」


「はい、ファーナ様。今後、この私とルーファスがお傍に仕えさせて頂きます」


「そう言う事です姫君、私は護衛ぐらいしか出来ませんがシェーナはコレでも博識でしてね。知識面に関しては彼女の言葉を聞くといいでしょう・・・・・・それ以外は私がしっかりとご教授いたしますよ」


 言って朗らかに笑う二人。
 気恥ずかしいはずなのに、不思議なことにその笑顔は私を幸せな気持ちにしてくれた・・・・・・・・・・・・でも


「わ、私がせっかくやる気出したのに、こんな人たちの世話になるなんていやぁぁぁっぁぁ!!」




 そんな虚しい私の叫びが・・・・・・冬の宮殿に響き渡った・・・・・・





 この日を境に、二人は私の護衛として暫くの間行動を共にすることになった。
 陽気でいい加減なくせに優秀なフェノンリーブ中尉に守られ、清楚で知的なコードウェル少尉・・・・・・ううん、シェーナに色々教わり、私は姉さんのために必死に努力することを続けた。

 結局、士官学校に入るまで姉さんと顔を合わせることはなかったけど、楽しくも辛い日々の中で基礎を得た私はその後努力を続け、姉さんの隣に立てるぐらいの力を付けることができた。


 全ては切欠を与えてくれた二人のお蔭。


 少女だった私を導いてくれた二人は、二年間と言う短い役目を終えた後本国に戻って式を挙げた。
 BETAとの戦闘が激化する最中に結婚した二人。
 シェーナと言う、凄くよく出来た彼女を妻にするのに彼はとても役不足に見えたけど、式の最中シェーナは嬉しそうに笑っていた。
 こんな不幸に満ち溢れた世界で、愛する人と添い遂げるという人としての幸せを私に見せてくれた二人。
 私は心から祝福し、幸せを見せてくれた二人に感謝した。


 ―――だが、戦場はそんな幸せをあっさりと打ち砕いた。


 彼は愛する伴侶を戦場で失うことになる。
 欧州本土から逃げ出す避難民を守るために・・・・・・彼女は祖国の地で散った。

 私はグリーンランドに逃げ延びた後、欧州本土からの最終便で辿り着いた彼の口から、その事実を聞くことになる。


 雄々しく、そして気高く、彼女は散ったと。
 貴族である彼の出自に泥を塗らぬように、最後の最後まで戦い抜き・・・・・・BETAの波に飲まれたと。


 悲鳴は・・・・・・上げなかったそうだ。


 彼の話では、最後の出撃の前に二人が話した会話の内容は私のことだったそうだ。


 彼女は士官学校に入学する私のことを心配していたらしい。
 「あの子は勝気だから周囲と上手くやれるかな?」、「きっとオルフィーナ様と再会するだろうけど、あの子は素直にお姉さんと言えるかな?」、「もう国も無くなったし、あの子のところで雇って貰おうかしら?」、そんなことを最後に話していたそうだ。


 母様が姉さんのことを心配そうに話していた時、母様はとても優しげな笑みを浮かべていた。
 心配されている姉さんを嫉妬し、私を心配してくれる人がいないことを拗ねていたのに・・・・・・シェーナは私のことを心配してくれていた。
 
 姉さんを嫉妬し、憎むほど欲しかった愛情を・・・・・・彼女は私に贈ってくれていた。


 シェーナも・・・・・・あの優しげな笑みを浮かべて私のことを心配してくれたんだろうか?


 きっとそうに違い無い。


 愛する伴侶を失い、多くの部下を失い、『灰色の鷲』と言う欲しくも無い名誉を得た彼の胸で・・・・・・私は彼女のことを思い、ただ泣く事しか出来なかった。












<オルフィーナ・ルン・グリュックスブルク>


「・・・・・・?」


 何故、目の前の相手から目を逸らしてしまったか分からない。
 一瞬の油断の後、私の身体は宙を舞っていた。

 強かに地面に叩きつけられた衝撃で胸が詰まる。これで何回倒されただろうか?思い出そうにも、地面に転がった回数なんて覚えていない。
 腕や足、体中が痛い。打撲、擦り傷、打ち身、捻挫、訓練をするたびに傷は増えていく


 だけど、泣き言は言えない。


 昨年、ポルトガルに移転した欧州政府が大陸からの撤退を決定した。
 BETAの西進は留まることは知らない。ポーランド国境沿いに展開されている防衛線が突破されれば・・・・・・欧州は瞬く間に蹂躙されるに違い無い。この場所に滞在できる期間もそんなに長くはないだろう。


 いつかは私が戦場に立つ時が来る。


 その時のために私は強くならなければならない、私が守るべき人のために、私を必要とする全ての人のために・・・・・・誰よりも強くならなければならない。


「・・・・・・ぐッ」


 口の中に広がる鉄の味に顔を顰めつつ、震える腕に力を入れて上半身を起こすと、目の前に立っている人物の姿が視界に映る。


「ほぅ、立ち上がりますか?・・・・・・これは子供と思い、少々加減が過ぎましたな」


 私の指南役である、ギュンター・フォン・ラスキン卿が嘆息交じりに呟く声が聞こえる。
 その声を聞きながら必死に立ち上がろうと足掻く私を、彼は刃を潰したレイピアを手にして気だるげな一眼の眼差しで私を見下ろしている。

 数日前からデンマークとの友好国であるドイツより、技術指南役としてこの邸宅に身を寄せているラスキン卿。元はドイツの侯爵家の人間であり、戦場での武勲を幾つも持つ優れた逸材だったのだが、数年前にBETAとの戦闘中に負傷し前線に立つことが適わなくなったと聞いている。右目に巻いた眼帯は、その時の傷なのかもしれない。

 それでも彼の持つ能力は各国に高く評価され、多くの国々から技術顧問として召喚される立場にある方だ。
 今はこうして私の指南役としての任に就いて下さっている。彼の技術を得るためにも、何時までも這いつくばっているわけにはいかない。


「ふむ・・・・・・では、続けますぞ」


 私が立ち上がるや否や、此方の返答を待たずに彼はそう呟いて剣を構え、私へ向けて再び剣を振るい始める。


 幾度と無く振るわれる剣閃、私は必死に剣を構えて繰り出される斬撃を受け止める。


 彼が振るう一撃は一見無造作に見えるが、その一太刀一太刀が途轍も無く重い。技量や力量もさることながら、体格の差から来る質量がまず違う。
 そんな斬撃に絶えられなくなり一歩、二歩と後ずさった瞬間、踏ん張りがきかなくなった足が絡まり地面に倒れ伏してしまう。


 受身を取って直ぐ様立ち上がろうと足掻くが腕に力が入らない。
 なんとか顔を上げて相手を見上げると、剣を振り上げたラスキン卿の姿が視界に映る。日の光に照らされ、剣が鈍い光を放ったと同時に剣閃が奔る。

 その一撃を受け止めようと剣を構えるが・・・・・・腕が上がらない。
 眼前に迫るその剣先を見続けることができず、一瞬後には訪れるであろう激痛に備えていると・・・・・・何時まで経ってもその痛みはやってこなかった。

 未熟、と自分で恥じながら、痛みに耐えるために閉じていた瞳を開けると・・・・・・振るわれた刃は私の顔の数センチ手前で停止していた。
 寸止め・・・・・・では無い、ラスキン卿がそのような手心を持っているはずが無く、またそんな甘えは不要だ。


「・・・・・・?」


 状況が飲み込めずに目の前で静止している刃を凝視していると、聞きなれない声が自分の背後から聞こえてくる。


「少々やりすぎでは?卿とて、一国の姫君の顔に怪我をさせたとあっては問題でしょう・・・・・・」


 とても静かな声音・・・・・・アクセントが私の知っているどの地方の方言とも違う。
 よくよく見れば、私の背後から伸びた一振りの剣がラスキン卿の剣を虚空で受け止めていた。


「・・・・・・客人とは言え、出すぎた真似をすると後悔しますぞ?」


 めずらしく苦々しい口調でラスキン卿が、私の背後にいる人物に忠告の言葉を放つ。


「後悔ですか?・・・・・・生憎ですが、そんな感情はとうに捨てましたよ。後悔などしていてはとても歩めない人生を歩いておりますのでね・・・・・・それがこれからも続くと決められておりますゆえ、自分の処遇など如何様にでもお好きにどうぞ」


「・・・・・・ちッ・・・・・・若造が」


 とても貴族とは思えない捨て台詞を残し、ラスキン卿は剣を納め踵を返して立ち去ってしまった。


「・・・・・・ふぅ、大丈夫ですか姫様?」


 小さく安堵の吐息を漏らし、背後にいた声の主が私の前に廻って跪く。そうして初めて私は彼の姿を見ることが出来た。

 東洋人・・・・・・恐らく日本人だろう。そんな彼の容姿を見た瞬間、私は無礼だと理解しつつも驚いてしまった。

 黒髪、黒目、東洋人らしい容姿を持った彼の姿は、10代半ばのまだ幼さの残る顔立ちを持った少年だった。 
 私とてまだ子供だと言う自覚はある。だが先ほどまで私の指導を行っていたラスキン卿の剣を、この少年が意図も簡単にいなした事実は十分驚きに値するものだった。


「・・・・・・姫様?」


「・・・・・・」


「はて?地面に頭でも打ちましたかな?・・・・・・姫様?・・・・・・オルフィーナ姫様?」


 彼の手が私の頭を優しく触った瞬間、漸く思考を取り戻すことが出来た。


「・・・・・・何故、訓練の邪魔をしたのですか?」


 口から出てきた言葉は私の本心。
 助けて、などと言うつもりも無く、ましてや思ってすらいなかったと言うのに、この見慣れない東洋人の彼は私の訓練の邪魔をした。


「邪魔・・・・・・ですか?申し訳ありません、あのまま続けていてはオルフィーナ様に危害があると判断しましたので、出すぎた真似でしたが止めさせて頂きました」


「・・・・・・私が傷を負うことが、貴方にとって有害なことになるのでしょうか?」


「ええ、目の前で小さな女の子が傷だらけになるのを見るのは私の精神衛生上宜しくありませんので・・・・・・しかし邪魔でしたか、ご容赦くださいオルフィーナ姫様」


 恭しく頭を垂れて彼は謝罪の言葉を紡ぐが、既に指南役であるラスキン卿は席を外してしまった。

 ラスキン卿の剣を受け止めた彼に次の相手になって貰うのもいいが、突然現れたこの東洋人の素性を私は何も知らない・・・・・・恐らく日本帝国から客人が来ると聞いていたので、その御付の人間なのだろう。


「構いません・・・・・・」


「ありがとうございます・・・・・・姫様どちらへ?」


 立ち上がり、頭を下げたままの彼の横を通り過ぎようとすると、何故か彼が声を掛けてくる。


「まだ、訓練が終わっておりません、続きをするだけです」


 自分にとっては至極全うな言葉を返しただけなのだが、彼が肩を落として溜息を付くのが分かった。


「がむしゃらに努力することは決して無駄ではありませんが、物事には加減と言うものがあります・・・・・・人は訓練の中で限界を超えてこそ次が見えてくるものですが、それは自分でも中々気付かないものです。本来であれば指導すべき人間がそこを把握するべきなのでしょうが・・・・・・先ほどの者では少々力不足かと思われますな」


「・・・・・・私がとっくに限界を迎えていたと?」


「ええ、失礼ですが私にはそう見えました・・・・・・それにアレはまだ10にも満たぬ姫君が受ける指導ではございません」


「それは貴方が判断することではありません、私には必要なことですので・・・・・・今後は見かけても邪魔なさらないでください」


 無礼な物言いを返す彼にそう答え、私は痛む足を引きずりながら立ち去ろうとしたが・・・・・・


「何故・・・・・・そこまで強くなりたいのですか?」


 ポツリと、呟きにも似た彼の質問に足が止まる。


 何故?私が強くなることに理由が必要なのだろうか?


「私は多くの人のために強くならないといけないんです・・・・・・そうしないと、いけないんです」


「それは周りの人間が姫様に望んだ姿でしょう・・・・・・私は貴女自身の気持ちを知りたい」


(・・・・・・私の気持ち?)


 周囲は私に期待している。有力な公爵家が私を後押しし、先ほどのラスキン卿のような優秀で厳しい指南役を何人も集めてくれた。

 それは何故か・・・・・・?

 決まっている、私が求められる役割を演じるのに必要だからだ。
 今はまだこういった基礎的な訓練が主だが、やがては兵法に始まり、各種専門的な分野も学ばなければならない。


 それは全て、私が戦場に立つために必要なことだからだ。


 それ以外に何の理由がある?
 皇位を持つ者として、多くの人を導く者として、強くなることは当たり前のこと。


 そこに・・・・・・自分自身の意思など必要なのだろうか?


 彼の言う言葉の意味が分からない。


 周囲が私に強くなることを望んでいる・・・・・・だから強くなる・・・・・・それ以外の何があるというのだ?


「失礼ですが、貴方の仰りたいことが私には分かりません・・・・・・失礼します」

 
 それ以前に言葉を多く話しすぎた。
 寡黙であれ、多くを語る舌は要らない。人は千の言葉を語る者よりも、必要な時に必要な行動を取れる者にこそ従う。
 ・・・・・・そう教えられているはずなのに、素性不明の人間を相手に私は少々話しすぎた。


 未熟な自分を恥じながら、その場から立ち去ろうと足を早めるが、再度背後から声が投げかけられる。


「理由が無い強さはただの暴力と何ら変わりません・・・・・・姫様は何の理由も無くただ強くなりたいと仰るのですか?・・・・・・やれやれ、この国は姫君に暴君になれと強要しているのですかね」


 呆れた声音で囁かれた言葉に再び足が止まる。


「・・・・・・それが、皆が私に望む姿であれば受け入れます」


「受け入れます・・・・・・か、五摂家を始めとする武家の人間と言い、この国の公爵家といい・・・・・・身分が高い人間は自分で考えることを忘れてしまったか・・・・・・生き方、いや在り方を求めるばかりに、枠にはまった自己を作りたがる・・・・・・姫君はその典型ですかな?」


 彼は自分がどれだけの問題発言をしているか気付いていないのだろうか?いや、もしかしたら此方が子供だから舐められているだけなのかもしれない。
 しかし、子供とは言え私はこの王国の皇族だ。故に面子と言うものがある・・・・・・例え他国の客人と言えど見逃せない言葉はある。


「・・・・・・帝国の方は皆、士道に殉ずる方だと聞き及んでおりましたが・・・・・・どうやら私の聞き間違いだったようですね」


 振り向いてそう告げると、彼は少し困った顔をしながら立ち上がった。


「いえ、少々物言いが失礼でしたね・・・・・・それに質問の意図が姫様にとって不明瞭だったと見受けられる。私がお聞きしたいのは、オルフィーナ・ルン・グリュックスブルク姫君では無く・・・・・・オルフィーナと言う一個人の意見なのです」


「・・・・・・なんの違いかあると?」


「ありますよ、姫君と言う立場では無く、10歳の女の子が本当に思っている気持ちを・・・・・・私はお聞きしているのです」


 苦笑しながらも、彼はまたも不明瞭な質問を私に投げかけてくる。


 個人、などと彼は言うが、私に個人は必要無い。
 私はオルフィーナ・ルン・グリュックスブルクなのだ、ソレ以上でもソレ以下でも無い。
 そして、年齢など皇族である私には何ら関係無い。無論、性別もだ。

 彼の言う個人としての気持ちがあったとしても・・・・・・それを彼に話す義務は何処にも無い。


「私にその質問は無意味です・・・・・・先ほどの言葉は聞かなかったことにしておきます」


 そう、何処にも無いはずなのだ・・・・・・私は彼にそう答え踵を返して立ち去ろうとするが、不意に聞こえてきた声にまたもや足が止まってしまった。


「わ、私がせっかくやる気出したのに、こんな人たちの世話になるなんていやぁぁぁっぁぁ!!」


 言葉の意味は理解できない、だがその声を聞いたことが何度あっただろうか?


 恐らくは数回しかないはず、だがそれでも決して忘れることは出来ない声。


 私と同じ母を持つ・・・・・・私の妹の声。


 訓練場の外壁の隙間から、誰かに抱きかかえられている妹の姿が見える。
 見間違えるはずが無い、あの少女は私の妹であるファーナ・ルン・グリュックスブルクだ。

 母が亡くなった葬儀の席で、初めて顔を合わせた私の妹。
 泣きじゃくる妹の姿が酷く印象に残っている・・・・・・あの姿が、母から何度も教えられた妹の印象と違うことに・・・・・・

 母は言っていた・・・・・・妹は、ファーナは、いつも元気で笑顔に満ち溢れていた子だと。
 そして私や母と一緒に暮らせないことに寂しさを感じているくせに、ソレを微塵にも見せない健気な子だとも言っていた。


 母はいつもファーナのことを心配していた・・・・・・そして懺悔していた。


 だから母は私に望んだ・・・・・・姉としてファーナを・・・・・・


「オルフィーナ様・・・・・・貴女が強くなろうとしたわけは?」


 囁くような声音が私の気持ちを揺さぶる。


「・・・・・・私が・・・・・・弱ければ・・・・・・不要と判断されれば・・・・・・あの子が私と同じ目に合う」


「・・・・・・でしょうね」


「それは嫌・・・・・・あの子には・・・・・・ファーナをこんな辛い目に合わせたくない」


 何故か寒い、ガタガタと震える肩を必死に掴むけど震えが収まらない。


「数回しか話した事も無く、碌に知らない妹君のために・・・・・・自分が犠牲になると?」


 彼の質問に言葉を発することが出来ず、ただ黙って頷いて肯定の意を返す。




 母が私に願ったこと・・・・・・姉として、妹を守りなさいと。




 皇族としてではなく、一人の姉として・・・・・・血を分けた肉親を守りなさいと。そしてそんな運命を貴女に背負わせてごめんなさい・・・・・・と。

 母が亡くなる寸前に私に言った言葉。

 そう、私は国民とか、貴族とか、そんなものを守るために強くなろうとしたんじゃない。
 母との約束だったから・・・・・・ファーナを守るために強くなろうと決めて、辛い訓練にも耐えて、こうして足掻いて来たのに・・・・・・どうして忘れてしまったのだろう?


 母との大切な思い出なのに、妹との数少ない絆なのに・・・・・・何故・・・・・・私は今までソレを考えなかったのだろうか?


「その気持ちは大人たちの手でまた忘れてしまうと思う・・・・・・けどいつか思い出して欲しい、姫様がなんのために今の境遇を耐えているのか・・・・・・何が姫様をそうまでさせるのか・・・・・・」


 彼はそう言いながら私に近寄り、着ている上着を私の肩に掛けてくれた。


「守りたい人を、守ろうと決めたわけを・・・・・・忘れないで下さい」


「貴方にも・・・・・・守りたいと思う人はいるの?」


「はは・・・・・・生憎とそう思っている人は私よりも遙に強いのでね・・・・・・でも姫様のように、私も自分の妹のためにもっと強くなろうと決めましたよ」



 そう呟いた彼の顔はとても寂しげな笑みを浮かべていた・・・・・・



 その後、彼と出会うことは二度と無かった。


 私の予想通り日本から来た客人の一人だったらしいが、その直ぐ後に帰国してしまったらしい。
 私の指南をしていたラスキン卿の邪魔をしたせいか、それとも別の理由があったのかは分からないが・・・・・・忘れることが出来ない寂しげな笑みを残して彼は消えた。


 そして、その彼のことを忘れてしまうのに・・・・・・そう時間は掛からなかった。



















 時は戻り、2001年7月6日
 ナルサルスアーク・デンマーク陸軍基地内・第一格納庫


<べアザリーミ・ブリュッケル>


「それで、私が真奈美にコイツの使い方を教えればいいのか?」


 目の前にある一機のEF-2000を指差しながら言った質問に、部隊長である三澤大尉は頷きで返してくれた。
 その態度に呆れながらも、彼女の傍らに立つ緊張気味の少女の姿に思わず苦笑してしまう。


「真奈美、機種転換訓練の経験は?」


「は、はい、以前、陽炎・・・・・・F-15CからTYPE94への機種変更訓練を受けました」


 上擦った声で答える真奈美。何を緊張しているのか知らないが、普段の姿からは想像も出来ないぐらいに硬くなっている。
 とは言え経験があるのは大いに結構なことだ、私なんかはトーネードから突然EF-2000に乗れと辞令があった時は焦ったというのに・・・・・・いや、そもそも昨年衛士になったばかりの真奈美が、既に機種転換訓練を受けていることに素直に驚いてしまった。

 戦術機なんて人括りにされた兵器群だが、機種ごとにその特性は全く異なる・・・・・・まぁ基本的な操作は同じだが、機種によっては感覚が全く違うこともあるのでそれをモノにするまでが辛いのだが・・・・・・真奈美はまだ幼いからその辺りの順応性は高いだろう。


「ん、優秀だなお前は・・・・・・しかし構わないのか?本来であれば三澤大尉がコレに搭乗すべきじゃないのか?」


 真奈美の言葉に満足して頷き、至極全うな質問を部隊長に投げかけてみる。


 昨日、スカパ・フロー基地から届いた補給物資の中に、念願と言うべきか漸くと言うべきか、先月の戦闘で失った戦術機の補充があった。

 届いたのは三機、その内に欧州が誇る最新鋭機であるEF-2000が二機含まれていた。
 二機のEF-2000は三澤大尉の指示で川井中尉と真奈美が登場することになった。真奈美ではなく、瞳との話があったが、彼女の身体を考えてその案は却下となっている。

 三澤大尉の決定に異論を挟むつもりは無いが、やはり質問したくはなる。
 戦場でまず生き残るべきは指揮官だ。TYPE94のことを悪く言うつもりは無いが、スペックでは明らかにEF-2000が一歩勝っている。


 本来であればEF-2000には三澤大尉が乗るべきなのだが・・・・・・


「ああ、構わんさ・・・・・・どうもコイツとは合わなくてな、私は元々使っていた不知火のほうが性に合っているよ」


 帰ってきた答えに嘆息するしかない。
 まぁ、部隊長である本人がそう決めたのだ、自分がこれ以上とやかく言っても仕方が無いだろう。


「それにだ、今更機種転換訓練など受けてもな・・・・・・身体が付いていかないんだよ」


 冗談交じりにそう言って、咥え煙草を整備パレットに固定されたTYPE94へ向ける三澤大尉。
 腰部装甲に日本語で「烈士」と描かれた機体、元は彼女が使用していた機体と聞いている。

 
「まぁ同じ第三世代機でも別物だって話だしな・・・・・分かったよ、真奈美は私が預かった。真奈美、マニュアルはもう目を通したか?」


「はい!」


「ん、いい返事だ・・・・・・ではさっそく実機機動を行う、搭乗して着座調整を済ませろ」


「はッ!!」


 敬礼し、乗機となった新たな機体に駆け足で向かう真奈美。
 うん、やはり軍隊ってのはこう言うものだ、最近どうにも馴れ合いが多くて困る・・・・・・まぁ主に何処かの誰かのせいだが。


「ふむ、いきなり実機か・・・・・・まずはシミュレーターではないんだな」


「任せられた以上、やり方は私の好きにさせて貰いますよ?」


 小さく呟いた三澤大尉へ向けてニヤリと笑みを浮かべながら答える。
 確かに、運用コストを考えても最初はシミュレーターでの訓練が一番なのだが、まずは実機に乗って実際の機体の感触を確かめて貰ったほうが手っ取り早い。


「ああ、別に構わんさ・・・・・・真奈美ならドコゾのグラサンと違って機体を【墜落】させることもあるまい」


「確かに」


 言って二人で頷き合い、どちらからでもなく笑ってしまう。


「ちなみに川井中尉には誰が教導するんでしょう?」


「アイツなら放っておいても大丈夫だろう・・・・・・一応、後でオルフィーナをぶつけてみようとは思っているがな」


 彼女の返答に「なるほど」と頷きたくなる。
 以前おこなった部隊間での模擬戦において、川井中尉は近接戦闘でオルフィーナ様のEF-2000に完膚なきまでに叩きのめされている。
 表には出さないが、彼も少なからず禍根が残っていることだろう・・・・・・衛士としての腕は確かな川井中尉だ、恐らくかなり良い勝負が見れることだろう。


「では任せたブリュッケル中尉、私は自分の機体でも見てくるとしよう」


「はッ!!」


 珍しく階級つきの名で私を呼び、彼女は気だるげに立ち去って行く。その後姿を苦笑で見送り、多くの機体が立ち並ぶ格納庫内に視線を巡らせる。

 帝国軍のTYPE94、欧州国連のEF-2000、F-16、そしてガラクタ寸前だがF/A-18の改良機。よくもまぁ、こんな多種多様な機体が並んでいるものだと感心してしまう。


 そしてまた一機、格納庫に運び込まれた機体が目に止まる。


 ―――今まで自分たちが乗る機体が決まらずに、シミュレーターでの訓練も何処か浮いていた二人の衛士がいる。


 片や、米軍の誇る試験機を墜落させた落ちこぼれ衛士。片や、米軍の誇る高機動試作機をフレーム限界にまで追い込むと言う、人間離れした技量を持った衛士。

 別々の意味で使う機体の無い二人だったが・・・・・・漸くそんな二人に搭乗する機体が決まったのだ。


「お~らい、お~らい!!こっちなの~!!」


 耳を澄ませば格納庫に響き渡る喧騒の中に、陽気で暢気な声が含まれていることに気付くことができる。
 視線を声のする方に向ければ、格納庫に搬入されてくる機体を誘導している彼女の姿があった。


(まったく・・・・・・踏み潰されないでくれよな)


 その危なっかしい姿に嘆息しながら、隣接する米軍基地経由で運ばれてきた機体を見据える。
 これまで彼女が搭乗していたF/A-18の改良機と同じ艦上戦術機。現在はその座をF/A-18Eに譲り渡し、他国に売り払われるか、再利用のために解体されるのを待っている、最初期に開発され配備された第二世代戦術機。


 ―――F-14D。

 
 通称は可変翼の動きが猫の耳に似ていることから「トムキャット」と呼ばれる機体だが、今回搬入されたこの機体は対地攻撃能力を向上させる改修が施され、一部では【ボムキャット】と呼称されている爆装仕様のモデルらしい。

 元は欧州国連軍が米軍から購入した貴重な機体なのだが、乗る機体の無い二人のためにわざわざ回して貰ったそうだ。
 F/A-18と同じ米国製で海軍機、製造元は違えど運用思想が似通っている機体ならば、二人にとっても使い易かろうと判断されたのだろう。


(熊蜂と同じ複座だしな・・・・・・瞳に何かあっても大丈夫か)


 自分でも余計な心配だと思いつつも、そんな安堵を覚えて小さく溜息を付く。 
 ただその場合、あのグラサンが機体の操縦権を持つことになるのだが・・・・・・それを考えると頭が痛い。


「きゃ~♪ネコちゃんなの~♪」


 訂正、瞳だけでも十分頭が痛い・・・・・・


(まったく・・・・・・瞳の保護者は何処にいったんだ?)


 整備パレットに固定されたF-14の足元で小躍りする彼女を半目で眺めつつ、彼女の相方であり保護者でありお世話役であり変態なグラサン野郎の姿を探すと。


「いちいち五月蝿いんだよお前は!!少しは黙ってられないのか!?」


 F-14Dの隣の整備パレットに固定されている熊蜂からそんな叫び声が聞こえてくる。
 見れば、開放された管制ユニットの隙間から悪態を付く彼の姿が見えた。


(何をやってるんだ?・・・・・・アイツは)


「ったく、葵もこんな面倒な代物積みやがって・・・・・・なんだよ?俺が問題だって言うのか?・・・・・・知ってるよ、俺が一番足引っ張ってることくらいな。でもな、改めて言われると流石に頭にくるぞ?」


 誰かと話しているようにも見えるが・・・・・・恐らく城崎中尉と話し込んでいるのだろう。この部隊の技術的顧問であり、彼らの乗るF/A-18の改良機に何かと感心を持っている様子だったし・・・・・・だが、確かあの機体は既に日本に送り返すことが決定しているはずなのだが・・・・・・二人は一体何をしているのだろうか?


「おいべアー、こんなところで突っ立ってないで早く自分の機体に乗ったらどうだ?日本の嬢ちゃんが待ってるぞ」

 
 私が隆を見上げていると、無礼極まりない口調で古参の整備兵が私に声を掛けてくる。


「・・・・・・ったく、わかってるよ親父・・・・・・それよりも、幾ら親子でも私のほうが階級上なんだから少しは敬えよな」


 振り向き、久しぶりに見る父親の顔を半目で見ながら答える。
 シチリアあたりで腕を振るっているとは聞いていたが、まさかEF-2000やF-14Dと一緒にこの基地に赴任してくるとは思わなかった。


「小娘がいっちょ前に吼えやがって・・・・・・古参を蔑ろにすると碌なことにならんぞ?」


「言ってろ、私だって敬うべ人間はきちんと敬うさ・・・・・・EF-2000の専門整備士なんだろ?姫様たちに粗相の無い様に頼むぜ」


「んなことは百も承知だ、お二人が乗る機体を整備できるんだからな・・・・・・整備士魂、いや職人として腕が鳴るってもんだ」


 言って笑い出す親父、こんな人間がよく一級のマイスターの資格を得ることが出来たと感心したくなる。
 いや・・・・・・母が居る頃は生真面目な人間だったと聞いているからその頃の賜物なのかもしれない。


「元気っすね・・・・・・相変わらず」


 親父が騒ぎすぎたせいかどうやら彼の注意を引いてしまったようだ。視線を熊蜂に向ければ彼がハッチから顔を出して此方を見下ろしていた。


(相変わらず?・・・・・・あれ?・・・・・・隆の奴、いつの間に親父に会ったんだ?)


 確か親父は昨日の晩に基地に着任したはずだ・・・・・・いや、それ以前に二人に面識があったのか?


「おう!社中尉!!ソイツが昨日の夜に話していたF/A-18か?」


「・・・・・・昨日の夜?」


「ああ、町の歓楽街でお前の親父さんと偶然会ったんだよ・・・・・・そのまま意気投合して昨日の夜は一緒に飲んだんだ」


「なるほど・・・・・・ってお前、酒飲んだのか!?」


「ああ、私が誘ったんだが・・・・・・不味かったかブリュッケル中尉?」


 などと、質問で質問を返してきたのは、新たに搬入されてきた機体の様子でも見に来たのか、大隊長であるフェノンリーブ少佐だった。


「し、少佐?い、いえ決して不味いと言うわけでは・・・・・・その・・・・・・あのグラサンが何か粗相をしなかったか心配で・・・・・・」


「心配って・・・・・・お前は何時から俺の保護者になったんだ?大丈夫だよ暴れちゃいないから・・・・・・っと親父さん聞きたいことあるからちょっといいかな?F-14の兵装処理の件なんだけど・・・・・・F/A-18と比べてペイロードに余裕があるのはいいけど兵装選択時の優先順位について・・・・・・」


「あ~分かった分かった!!自分で手を出すなよ!?そういったことは専門家に任せておけよ!!」


「ん?F-14 Dでは何か問題があるのか社中尉?・・・・・・なんなら私のツテでMigかSuでも仕入れるか?いいぞぉソ連系は!!何より頑丈だからな、はっはははは」


「少佐、整備班の連中を殺す気ですか?少なくとも初期型のMig-29とSu-27は止めてくださいよ・・・・・・整備性どころか部品調達も厄介ですからね」


「いや、親父さん突っ込むトコそこですか?・・・・・・少佐って確か西側出身ですよね?なんで東?」


「ん・・・・・まぁ色々あるんだよ社中尉。長く生きていると特にな・・・」


 そんなやり取りを繰り返す三人を交互に眺めながら小さく溜息を付く。


(・・・・・・相変わらず、隆は誰かと知り合うのが早いな・・・・・・いや、うちの親父だからそうとも言えないか)


 F-14 Dに向かう親父の後姿を見ながら内心で納得し、自分も乗機に搭乗しようかと振り向いた瞬間。


「ッ!?」


 いつの間に其処にいたのか、二人の姫君が自分の真後ろにいたことに驚いてしまった。


「ひ、姫様方・・・・・・何をしてらっしゃるんですか?」


「え?・・・・・・いえ、特に用と言うほど用があるわけじゃないのよブリュッケル中尉・・・・・・ちょっと姉さんが格納庫に用事があるからって言うから一緒に来ただけ」


「そ、そうですか」


 答えてくれたファーナ様に、失礼かと思いつつも生返事を返してしまう。
 何故に生返事かと言うと、答えてくれたファーナ様も隣に立つオルフィーナ様も、此方を一瞬たりとも見ようともせずに顔を見上げて何かを見ているからだ。

 何を見ているのか気になって二人の視線をなぞるが・・・・・・見ているのは自分が先ほど見ていた光景と全く同じものだ。


「・・・・・・似てる」


 隆を見ながらオルフィーナ様がポツリと呟くが・・・・・・はて?あの変態と誰かが似ているのだろうか?もしそうならばその似ている人物に同情したくなる。よりによもよって、あの変態サングラスと似ているなどと言われた日には・・・・・・とてもじゃないが私は外を歩けない。


「・・・・・・」


 ファーナ様も何か思うところがあるのか、フェノンリーブ少佐を凝視しながら腕を組んでいる。
 二人の考えが理解できない、隆や少佐に用があるなら声を掛ければいいものを・・・・・・なにか迷うことでもあるのだろうか?

 二人のことが少々気にはなったが、真奈美を何時までも待たせるのも悪いと思い、私は足早にその場を立ち去るしかなかった。


「・・・・・・っと、真奈美、待たせて悪かったな」


 自分の機体に乗り込み、真奈美の機体に接続して言葉を掛けると返答は直ぐに返ってきた。


『いえ、大丈夫です。着座調整が終わったところですから』


 データリンクが繋がったのか網膜投影に真奈美の顔が映る。
 彼女のバイタルを確認・・・・・・少々緊張気味だが問題ないだろう。


「了解した・・・・・・訓練中のコールサインはどうする?」


 正直なんでもいいのだが、管制室にも伝える必要があるので決めておかなければ不味い。


『コールサインですか?・・・・・・アーチャーでもセイバーでも、ブリュッケル中尉のお好きなほうで・・・・・・』


 やや困惑気味の表情を見せる真奈美、確かにそれでもいいのだが少々味気無い気がしないでもない。


「そうか・・・・・・じゃぁ・・・・・・キティで」


『キティ?・・・・・・もしかしてキャットですか?』


「そ、日本語で言えば猫だな・・・・・・みゃ~ん、だ」


『み、みゃ~ん・・・・・・ですか』


「ああ、なんだ真奈美、もしかして猫が嫌いか?」


『いえ、そう言うわけでは・・・・・・子供の頃は近所にいましたし』


 何やら額に汗を掻きながら答えてくる真奈美。自分としても特に意味があって提案したわけではない・・・・・・まぁF-14 Dを見たせいだろうと、自分自身を納得させる。


「なら問題無いな、私は管制室に報告を入れる・・・・・・先に出ていいぞ、キティ02」


『り、了解です、キティ01・・・・・・』


 格納庫内にサイレンが響き渡り、真奈美の乗るEF-2000が外に運ばれていく。
 そんな機体を見ながら管制室に報告を済ませ、自分も機体を動かそうと操縦桿を握り締めたのだが・・・・・・何となく引っかかるものがあって機体のセンサーを熊蜂へ向ける。

 音響センサーを作動させていないので声を拾うことはできないが、何時ものようにバカ騒ぎをしている彼らの姿が網膜に映る。

 F-14 Dに頬ずりしている瞳、その姿にやや困った様子の隆・・・・・・そんな彼を見つめるオルフィーナ様。
 フェノンリーブ少佐はそんなオルフィーナ様やファーナ様の姿を何処か眩しそうに見ている・・・・・・いや、ファーナ様の様子が何処かおかしい・・・・・・何か恥ずかしがっているような・・・・・・私の気のせいか?


『ふむ・・・・・・オルフィーナ姫も奴に気があるのか・・・・・・大変だな、我が娘よ』


「ッ!?」


 突然、親父の声だけがヘッドセットから聞こえてくる。


『うむ、確かに社中尉は変わり者だが逸材に違い無い・・・・・・あの飲みっぷり、見事としか言いようが無かった』


「な、なんの話だよ・・・・・・親父」


 何処の端末でこの機体に接続しているかは知らないが、淡々と話す親父の言葉に背筋が寒くなる。


『俺は認めるぞべアー、あの男ならブリュッケル家に相応しい!!日本人ってところが尚更だ!!例え姫君が相手でも負けるんじゃないぞ我が娘よ!!』


「ば、バカ言うんじゃないよ馬鹿親父!!なんでそんな話になるんだ!!」


 近くにいるであろう親父の姿を必死に探す・・・・・・見つけたらEF-2000で踏み潰してやろうと思いながら。
 いや、それ以前にエキサイトしつつある親父は不味い・・・・・・何が不味いかと言うと、余計な事を隆にお熱なあの女に聞かれたら・・・・・・危険過ぎる!!


『だが聞くところによるとライバルが多いらしいな・・・・・・しかも婚約している相手がいるとか・・・・・・大変だぞ娘よ!!奪い取る愛もだが、ライバルが自分よりも格上となると余計にな・・・・・・思えば俺も母さんを射止めるのにどれほど苦労したことか、身分違いのだからこそ燃え上がった恋だった』


 しみじみと語る親父・・・・・・良く奴のことを知っていると半ば感心してしまう。
 一体、誰に聞いたのやら・・・・・・いや、昨日酒場で奴自信が口を開いたからに違い無い。うん、そうに違い無い。

 背部カメラを使って機体の真後ろにいた親父の姿を見つけた。うん、親父だけ・・・・・・親父の隣に立っている彼女の姿なんて私には見えない、見えないったら見えないぞぉぉぉぉ!!


「き、キティ01より管制官へ、これよりフライトプランに従い発進する・・・・・・繰り返す、キティ01より・・・・・・」


 必死に前だけを見て慌しく操縦桿を動かす・・・・・・ハイライトが消えた瞳の橘なんて私は見てない!!
 

『・・・・・・みゃ~ん』


 なのに・・・・・・化け猫の声が響く。


『そうそう、この親切な日本の嬢ちゃんが言うにはお前も随分と変わったそうだな?べアーじゃなくて、今はアザリーってのが愛称か?いや~男勝りだったお前がこうも変わるとは・・・・・・それも全部彼のお蔭だそうじゃないか?』


『・・・・・・みゃ~ん』


『しかも彼もお前のことを随分と理解してるようだったしな・・・・・・昨日の夜に飲んだ際にな、色々とお前のことを聞いたわけだ・・・・・・まぁ俺も一応父親だしな、お前が心配だったんだよ・・・・・・そしたら良くやってると、お前のことをべた褒めしていたぞ社中尉は!!』


「へ、へぇ・・・・・・隆が私のことを・・・・・・」


『・・・・・・みゃ~ん』


「ッ!?お、親父、分かった、分かったから!!話は後で聞く!!とりあえず今は発進させてくれ!!」


『まぁまぁ待て娘よ、ほんとあの男は見所がある・・・・・・飲んだ際も始めて飲む相手だと全く感じさせないほど自然な盛り上がりを見せてくれた・・・・・・酒の席ができる男ってのは仕事もできるもんだ!!くぅぅぅぅ俺は嬉しいぞ!!これで死んだ母さんに顔向けできる・・・・・・娘が良い相手を見つけてきたとな!!』


『・・・・・・みゃ~ん』


『本当はお前みたいな娘でも、ドコゾの馬の骨にやる気など毛頭なかったんだが・・・・・・社中尉ならいい!!俺が許す!!どんな手を使ってでも彼を落とせ!!』


『も、もう許してくれぇっぇぇぇぇ!!私が悪かったぁらぁぁぁぁぁぁ!!』


 エキサイトする親父の声と、地獄への手招きをする化け猫の声・・・・・・この後の訓練で危うく隆と同じように【墜落】しそうになったのは・・・・・・当然のことだったかもしれない。

















『・・・・・・みゃ~ん』






























 ここからは作者の妄想が爆発しました。

 いえ、時期的にかなり遅いんですが、物語には必ず付き物の行事をやっていないことに気付いたので勢いで書いちゃいました・・・・・・会話分多め、状況描写少なめでお送りします、ご容赦ください(汗










 題して・・・・・・温泉大作戦!!








 ナルサルスアークに到着してから少し経ったある日のこと


<瀬戸 真奈美>


「温泉だ!!」


「・・・・・・」×13


 定例の部隊ミーティング終了後、例によって例の如く・・・・・・グラサンが突然発狂した。


「な、なんだ?隆、お前いったいどうしたんだ?」


 私を含め半目で見る人が多い中、ブリュッケル中尉だけが驚いた様子で彼の言葉に反応している。


「何言ってるんだ!!温泉だよ!!ONSEN!!そろそろ温泉の季節だと俺は思うんだ!!」


「え?・・・・・・お、温泉?え、ええ?」


 状況が飲み込めていないのか、困惑した表情を浮かべているブリュッケル中尉。


「・・・・・・また発作かしら?」


「そう言えば最近大人しかったからね~溜まってたんじゃん?」


「え~こないだのお食事会で発散したんじゃないの~?」


「足りんかったんやろうな~それとも他に何かあったんやろか?」


「さてな・・・・・・ミツコさんも呼ぶべきか?シャッターチャンスには苦労しなさそうだな」


「ふむ、温泉か・・・・・・いいな」


「あら、でしたら私が良い場所を紹介しますよ?」


「旦那!!温泉ってぇと露天風呂ってやつなのか!?ワビサビってのが味わえるのか!?」


 そんな彼女の態度を尻目に、隆さんの奇行にある程度の耐性が出来ている人は特に気にする様子も無く眺めていたりする。


「ち、ちょっと待ってください!?温泉って・・・・・・突然すぎませんか?」


「そ、そうね、突然言われても困るわよね姉さん?」


「・・・・・・温泉、入りたい」


 どうやら焦っているのはブリュッケル中尉の他、ハティとファーナ中尉ぐらいのようだ。

 凄いよ隆さん、部隊の八割がもう隆さんの行動に動じなくなってるよ・・・・・・これって喜ぶべきことなのかなか?あ、あははははは、私はどうでもいいけどさ~


「うむ!!皆、乗り気があって大いに結構!!どっちにしろいつかはやらなくてはいけない必須イベントだからな!!よし、温泉に行く用意をしろ!!」


「・・・・・・必須・・・・・・イベント?」


「真奈美、細かいことは気にするな!!俺はスケジュールの調整をするから・・・・・・葵、備品の手配は任せた!!フェノンリーブ少佐にはファーナから報告してくれ!!副官であるリンドヴァル大尉には・・・・・・オルフィーナから言っておいてくれ!!なんなら瞳ちゃんも連れて行け、君ら二人ならあのマフィアも頷くはずだ!!アルフは行く場所をピックアップしてくれ!!ハティは輸送機の手配を!!ジャック!!お前には頼みがある・・・・・・ちょっと後で面かせ!!


「あ、相変わらず人使いが上手い・・・・・・いや荒いやっちゃな」


「褒め言葉と受け取っておこう、洋平は久志と一緒に喰いモンを用意してくれ・・・・・・無論、酒もな」


「隆、私は何をすればいいんだ?」


「静流さんはどっしりと構えておいてくださいよ、お膳立ては全部うちらがやりますから♪」


「そうか・・・・・・すまないな」


「な、なぁ・・・・・・真奈美」


「なんですかブリュッケル中尉?」


「・・・・・・なんなんだコレは?」


「・・・・・・いつもの発作です、真面目に相手をすると疲れるだけですよ」


「そ、そうか・・・・・・なぁ隆が三澤大尉に何も任せないのって・・・・・・」


「それはアレです、もし何かあった時に全部隊長に責任を押し付ける気なんですよ。まぁそんなことは起きないでしょうし、もし起きても逆に跳ね返されるのがオチでしょうね・・・・・あはははは」


「・・・・・・取り合えず納得するが・・・・・・アレはどうするんだ?」


「アレ?・・・・・・ああ、声掛けたり近づいちゃ駄目ですよ?・・・・・・刺されますからね?」







「う、うふふふふふ、また私だけ何も頼まれなかった・・・・・・うん、きっと隆なりに私に気を使ってくれただけ、うん、そうよね・・・・・・そうに違いないわ・・・・・うふふふふふふ」















 場所は変わってアイスランド南西部。


「ここアイスランドは大西洋中央海嶺とホットスポットの真上にある島です。名前だけで聞くととても寒い場所に思われがちですが、実際は島の周囲を流れる暖流と火山によって湧き上がる温泉のせいで、日本の北海道や東北よりも暖かい場所です。アイスランドと言う名前の由来は単に冬に見つかったからだそうです、逆に此処よりも北に位置し、先日まで私たちが居たグリーンランドは夏に見つかったからそんな名前が付けられました。島の殆どが玄武岩で作られた岩石による平野が広がっており、昔NASAがこの場所で月面着陸の訓練をしたそうです・・・・・・人が住むには少々適さない場所かもしれませんが、火山による地熱発電によってエネルギー効率の高さは欧州でも随一のエコロジーな島で、その効率の高さと欧州本土から近いと言う理由でアイルランドと同じく欧州の戦線を維持するために大規模な軍事工場が建設されました。地震の可能性が高いので建設された場所は限られますが、この島が欧州の生命線の一つと言っても過言ではありません。今から私たちが向かう温泉郷は、そういった工場が建て憎い地域ですのでアイスランドのそのままの風景が広がる場所です。温泉も海水が主成分だけあってミネラルが豊富なこともあり、とても身体に優しい温泉となっております・・・・・・欧州戦線で戦う兵士にとって、ここアイスランドでゆっくりと傷を癒すことが一番の楽しみなのかもしれません」


 ガタガタと揺れる兵員輸送車の中だったが、なんとか一通りの説明を終える。


「・・・・・・これでいいですか隆さん」


「いよ!!バスガイドさん流石物知り!!」


「なんでもは知ってません、知ってることだけです」


 兵員輸送車のハンドルを握る隆さんの言葉に、半目で言い返すことしか出来ない自分がとても悲しい。


「謙遜するな真奈美、さてはて皆さ~ん目的地まではもう少々掛かりますのでもう暫くは周りの景色を見て楽しんでくださいね~」


「周りの景色か・・・・・・岩ばかりでいい被写体が無いんだが・・・・・・」


「そやな、その前は工場ばっかりやったからな・・・・・・とっくに飽きてしもうたわ」


「まったく、温泉なんて日本に帰れば幾らでも入れるじゃない。宿場の傍に別荘の一つや二つぐらいはまだ残ってるのに・・・・・・」


「ふんふふん~♪」


「ジャック・・・・・・お前は何を中尉に頼まれたんだ?・・・・・・何?後のお楽しみ?・・・・・・嫌な予感しかしないんだが・・・・・・」


「ありがとうございます三澤大尉、私のような部外者まで誘って頂いて・・・・・・」


「いえ、貴女の妹さんにはお世話になっていますから・・・・・・これも当然の恩返しですよ」


「お尻・・・・・・痛い」


「ね、姉さん大丈夫?ちょっと社中尉!!もっと道を選んで走りなさいよ!!」


「む~酔ったの~・・・・・・温泉の匂いは苦手なの~」


「だ、大丈夫か瞳?少し横になっていたらどうだ・・・・・・ってそうじゃない!!ほんとうにこんな場所まで来るなんて信じられない!!なんなんだこの手回しの良さは!?何かの陰謀に私は巻き込まれていたりするのか!?」


 どうやらまだブリュッケル中尉は現実を認めたくないみたい・・・・・・早く認めれば楽になれるのに。



「・・・・・・ガイドもさせてくれなかった・・・・・・これじゃ私ってただの荷物と変わらないかも・・・・・・ううん、違う、きっと違うはず・・・・・・私は隆の・・・・・・」



 輸送車の一番後部座席でブツブツ呟いている栞さんがいるけど見ちゃいけない、目を合わせちゃいけない、だから皆気にしないようにしている。
 あの瞳大尉やオルフィーナ中尉もそうしている・・・・・・うん、皆空気が読める人でよかった。





「はいはい、皆さん付きましたよ~降りてくださいね~」


 今回宿泊する宿の前に到着し、隆さんに促されて皆と一緒に輸送車から降りる。
 皆お尻が痛いとかブツブツ文句を言っていたけど、目の前に建てられた宿泊所を見て思わず立ち止まっちゃった。


「・・・・・・なんで日本家屋なんだ?」


 あ、珍しい・・・・・・桐嶋さんが驚いてる。
 まぁ皆言わないだけで驚いているっぽい。楽しんでいるのは幹事?の隆さんとジャックだけかも・・・・・・


「まぁ仕方ないだろう、行った事ないからな・・・・・・海外の温泉なんか」


「・・・・・・誰がですか?」


「真奈美、だから細かいことは気にするな!さぁ皆!!とっとと受付を済ませるぞ!!」


 と隆さんが叫ぶと同時だった、館の傍にある何も無い大地から勢いよく水が吹き上がる。


「おお・・・・・・真奈美、これが間欠泉か?」


 下手すれば戦術機の腰ぐらいまで高く上がった水柱を見て、川井さんが感心したかのように呟いた直後・・・・・・


「はい、アイスランドはこの間欠泉が名物の一つですので・・・・・・最も高く吹き上がることで有名なストロックル間欠泉は高さ70mまで吹き上がることがあったそうです」


「そりゃ凄いわな・・・・・・となると、この間欠泉はまだ小さい部類なんやなぁ」


 ボコボコと泡が割れる音が響く大きな水溜りを眺める川井さん・・・・・・


「間欠泉を舐めるなっ!!このエセ関西人がぁぁぁぁっぁあぁ!!」


 っと、その背中にドロップキックを放つ隆さん・・・・・・凄い、今まで一番身軽な姿を見たかもしれない。


「な、なにすんのや!!落ちたら死んでしまうやないか!!」


「この程度の温度・・・・・・耐えろ!!むしろおいしいだろうが!!」


「な、なにがおいしいんや?」


「リアクション的にだ!!・・・・・・いいか、あのリアクション芸人はこの間欠泉でしゃぶしゃぶしたくらいだ、それぐらいの根性お前も見せてみろぉぉぉぉぉぉ!!」


 ちなみに間欠泉の温度は100度に程近い場所もある・・・・・・火傷するから良い子は真似しちゃ駄目だよ?


「悪い子はむしろ頑張って!!昔で言えば根性焼きと同じだから・・・・・・多分」


「ま、マナちゃん?急に何言ってるの?」


「何時にも増して飛ばしてるな・・・・・・・・・・・・今回は・・・・・・」


「何かやなことあったのかな~?」


「・・・・・・ストレス?」


「姉さん、あの人の何処にストレスを溜めていると?」


「相変わらず楽しい人ねぇ・・・・・・お蔭で私の日本人に対する、堅物ってイメージはあっさり崩れたけどね」


「・・・・・・トゥルーリ少尉、彼は間違い無く特殊よ?・・・・・・夕呼のせい・・・・・・なのかしら?」


「ほらほら!!皆早く行きましょうぜ!!旦那なんか何時の間にか入っちゃいましたぜ!!」


「じ、ジャック!!待て!!た、確か日本家屋は入る時に靴を・・・・・・ん?何処で脱げばいいんだ?」


「へ?え、ええ?このノリで温泉に行くのか?・・・・・・私、もうかなり疲れたんだけど・・・・・・にしても熱くないか?このへん・・・・・・なぁ、真奈美?」


「そ、そぉですねぇブリュッケル中尉!!だから早く入りましょ!!とっとと入りましょう!!振り返っちゃ駄目ですよぉぉぉ!!」


 言って背後の気配に気付いていないブリュッケル中尉の背中を押す・・・・・・だって後ろには・・・・・・




「熱い・・・・・・熱く燃え上がる・・・・・・うん・・・・・・私と隆もきっと・・・・・・うふふふふ」




 なんて呟く栞さんがいるんだもん・・・・・隆さん・・・・・・どうする気なんだろう?






<社 隆>


「んじゃ、女性陣は向こうで・・・・・・食事は1900から用意されるから、それまでに風呂でも入ってゆっくりしてくれ」


「は~い」×複数
「了解」×複数


「日本で言えば湯治場になるのか・・・・・・ここは?」


 館の廊下を歩きながら感心したように呟く久志。


「そうなのかもな、まぁお前の傷に効くかは分からないがゆっくりしてくれ」


「元はと言えばお前が原因やからな~久志の傷は・・・・・・」


「い、いやアレは俺よりも葵せい・・・・・・なのかな?」


「旦那!!この部屋じゃないっすか?」


「ん?・・・・・・おお、そうだそうだ、ジャックよく見つけたな」


 用意された部屋は・・・・・・外見と同じく畳が引いてあるような日本風な和室だった。


「・・・・・・ん、結構いい部屋だな・・・・・・」


 それを気にすることも無く久志は座椅子に座り込み、テーブルの上に置いてあるお茶請けを漁り始める。


「むぅ・・・・・・窓から見える景色はイマイチやな、火山が見えるのは風流とはいい難いやろ」


 窓を開け放ち、外の風景を眺めながら洋平がブツブツと文句を言っている。


「お!!これが浴衣ってやつですかい!?・・・・・・このシーツは?・・・・・・おお!これが布団なのか!!床の上に直接寝る!!ジャパニーズワビサビ!!」


 ドタバタと部屋の襖やらクローゼットを開け放って騒ぐジャック。


「ヤレヤレ・・・・・・テンプレだなお前たち、ホテルや旅館に入ると決まってとる行動ばかりしやがって・・・・・・入るなり落ち着いて茶を飲む奴、入るなり窓に近づいて風景見る奴、入るなり部屋の備品をチェックする奴」


 三人の姿を見ながら肩を竦めてそう言い放つと、予想通りに茶を飲み始めた久志が質問してくる。


「隆、お前はどうなんだ?」


「ふ、俺か?・・・・・・俺はな・・・・・・」


 キョロキョロと部屋を見回して入ってきた扉を指差す。


「何かあった時のために、まずは非常口の確認をする!!」


「・・・・・・相変わらずチキンやな」


「五月蝿い!!身を守る術と言え!!常に危機に備える意識を持っていれば非常時でも冷静な判断が・・・・・・」


「ねぇ隆さんは何処に寝るの~?」


「ん?あ、ああ、瞳ちゃん布団はきっと仲居さんが用意してくれるからそのままでいいよ・・・・・・でだな、生死を分ける瞬間には冷静な判断が・・・・・・」


「隆の性格考えると、きっと端っことかの布団を選びそう・・・・・・うん・・・・・・私、ここ」


「おいおい橘、俺はそんなみみっちい男じゃないぞ、折角の畳なんだから寝るときはこう大の字に・・・・・・・・・・・・・・・・・・ってなんで二人が此処にいるんだぁぁぁッ!?」


「・・・・・・何処が冷静なんや?」


「最初から二人ともいたじゃないっすか」


「そ、そうか・・・・・・幻だと思っていたんだが現実だったのか。いや、そうじゃない!!二人とも女部屋に行く!!此処は野郎の部屋だから!!」


「ふえ?だって向こうは10人もいるよ?・・・・・・狭いと思ってこっちにきたの~」


「んなこと無いから!!向こうは大部屋とったから!!姫君二人には少々失礼かとは思ったけど、皆布団並べて寝れるから!!・・・・・・な、なんだ橘、その目は・・・・・・や、止めろ!!俺をそんな目で見るな!!違う、違うぞ!!お前を蔑ろにしてるわけじゃないんだ!!ほ、ほら夜は宴会するからさ、そん時にお前にはきっと世話になると思うからこうして・・・・・・」


「ああぁ!!やっぱり二人ともこっちにいた!!」


 暗い瞳で上目遣いな橘に必死に弁明していると、ドアが突然開け放たれて真奈美が部屋に入ってくる。


「探しましたよ・・・・・・瞳大尉、向こうに行きますよ!!し、栞さんも出来れば大人しく向こうに・・・・・・」


「ええ、行くわよ真奈美。ほら瞳!!お風呂にでも入って夜に備えるわよ!!」


「へ、ええ?し、栞さん?なんであんな素直に・・・・・・」


「やなの~」とイヤイヤする瞳ちゃんの首根っこを捕まえて、橘はスタスタと部屋を出て行ってしまう。そんな二人を連れ戻しにきた真奈美は、突然変わった状況が掴めずに右往左往するが・・・・・・


「・・・・・・どうしたんですか隆さん?そんなに冷や汗掻いて・・・・・・」


「いや、自分の迂闊さを呪っただけだ・・・・・・向こうは任せたぞ」


 果たして明日の朝日が何色に見えるのか・・・・・・そんな不安を胸にそう答えるしかなかった。
















「とまぁ、それはさておきだ!!」


「・・・・・・何がさておきなんや?」


 真奈美も出て行った部屋で仕切り直しとばかりに叫んだ言葉に、相変わらず空気が読めない洋平のツッコミが入るが気にしない。


「温泉ときたら【アレ】しかない、【アレ】して【アレ】しなければむしろ温泉に失礼だ!!」


「旦那・・・・・・【アレ】を【アレ】と喩えるのは少々気が引けませんか?」


「大丈夫、散って逝った先人たちに敬意を評して【アレ】と言うのだ・・・・・・気にしなくていい」


「Ou、ビバ【アレ】」


「・・・・・・隆、盛り上がっているトコ悪いが、【アレ】は犯罪だぞ?」


「流石は久志だ、脳みその回転が悪い関西人と違うな」


「な、なんやて!?わいのおつむがそんなに低回転やと思うとるんか!?わいかてスーチャーぐらいは積んでるつもりやで!!」


「お互いの同意が無ければ【アレ】で一生を棒に振る 「無視かいな!?」 ことになるが・・・・・・お前にその覚悟があるのか?」


「ふ・・・・・・愚問だな久志、しかしお前らしくないな?今更保身か?」


「何をバカなことを・・・・・・悪いがこのチャンス俺もモノにさせて貰うぞ。強化装備などとは比べ物にならないくらい高値で取引されるからな・・・・・・【アレ】は」


「しかし旦那、俺っちも【アレ】には賛成ですが・・・・・・対象が危険じゃないですか?他の皆は兎も角・・・・・・姫君がいますぜ?・・・・・・下手すれば国際問題・・・・・・」


「ジャック、だからこそお前に用意して貰ったんだ・・・・・・それにだ、何かあたっとしても俺に任せろ」


「おお!!旦那、その心は!?」


「ふ・・・・・・俺は主人公だ!!少々のことがあっても全てその場の冗談になる!!・・・・・・一言「あ、ごめん間違えたちゃった」と言えば全て丸く収まる!!」


「お、おおおおおおお旦那!!そのレアスキル!!是非とも俺にも分けてください!!」


「ふ、どうやって分けたらいいのかさっぱり検討も付かないが、分けてやるぞジャック」


「旦那!!俺は一生旦那に付いて行きます!!七三分けで!!俺っち三でいいっす!!」


「ソレは俺の主義に反する・・・・・・五分五分で」


「おおぉぉぉ、俺っち旦那に会えた事を神に感謝するっす!!」


「うむ・・・・・・では行くぞ野郎ドモ!!出陣じゃぁぁぁっぁぁぁ!!」


「「サーイエッサー!!」」









「・・・・・・・・・・・・わいは普通に入りたいんやけど」












 そして30分後・・・・・・露天風呂にて



「うわぁぁぁ!!凄い広い温泉なの~!!」←G

「瞳、はしゃぐのもいいがこけるなよ?」←E1

「へぇ、思ったよりもいい場所ね・・・・・・少しは彼に感謝するべきかしら?」←D

「さぁ!!しっかり身体磨くわよぉぉ!!」←C1

「し、栞・・・・・・何そんなにやる気になってるの?」←C2

「栞、磨くなら私が手伝ってあげるわよ?ふふふふ」←E2

「ちょ、ちょっとアルフ!!へんなトコ触らないでよ!!」←C1

「ふぅ・・・・・・いい湯だな、この思いつきは隆にしては中々だ」←E1

「三澤大尉、普段は結い上げているから分かりませんでしたが綺麗な黒髪ですのね・・・・・・」←D

「そうか?ファーナの髪も十分綺麗だよ・・・・・・しかし、そうしていると髪の色以外は姉と瓜二つだな?」←E1

「そ、そうでしょうか?私は姉さんのように引き締まっておりませんので・・・・・・余り見ないでください、きゃっ」←D

「ん~~ファーナちゃんとっても柔らかいの~」←G

「ひ、瞳大尉!!はなれてください・・・・・・ひゃん!!」←D

「・・・・・・はぁ皆浮かれちゃって・・・・・・でもいいわね、久しぶりにこうして足を伸ばせるのも・・・・・・・・・・・・隆さんに振り回されるのは大変だけど、こう言うのならいいかもね」←C2

「な、なに!!一人で我関せずの空気作ってるのよ葵!!ちょっと私を助けて・・・・・・あ、あああぁ」←C1

「あら?・・・・・・城崎中尉も欲求不満なの?いいわよ~二人とも私が磨いてあげるわ・・・・・・楽しみ」←E2

「え、えええ?待って私はそう言うポジションにはいない・・・・・・な、慣れてないから・・・・・・なんで栞までやる気なの!?こっちにこないでぇぇぇ!!」←C2
















「と言うパライソが広がっているに違い無い!!」


 1800、ポイントα、目標地点まで残り10m・・・・・・ただし視界を阻む壁あり。


「マニアックっすね~旦那」


「まぁ落ち着け隆、最早目標は直ぐそこだ・・・・・・耳を澄ませば声が聞こえてくるぞ」


「なんと!?・・・・・・・どれ・・・・・・」











『ふむ・・・・・・瞳、前よりも大きくなったんじゃないか?』←E1

『え?そうかなぁ・・・・・・でも肩こりは酷くなったかもなの~』←G

『!!・・・・・・う、浮いてる』←D

『葵って肌白いのよね~しかもスベスベ』←C1

『あら、触りがいがあるわね』←E2

『や、駄目・・・・・・二人とも・・・・・・』←C2











「・・・・・・ひそひそ(うむ、温泉万歳)」

「・・・・・・ひそひそ(いよいよ突入ですか?)」

「・・・・・・ひそひそ(まぁ待て二人とも・・・・・・アレを見ろ)」

「・・・・・・赤外線・・・・・・いや振動感知式のニードルガンやろか?」

「・・・・・・ひそひそ(洋平!!少しは声のトーンを落とせ!!)」

「・・・・・・ひそひそ(しかし旦那・・・・・・これじゃ)」

「・・・・・・ひそひそ(分かってる・・・・・・仕方が無い・・・・・・狙撃ポイントに移動する!!)」






 変態御一行・・・・・・移動中・・・・・・















 ちなみ露天風呂での現実。


「はぁはぁ、酷い目にあった・・・・・」←C1

「・・・・・・」←A1

「し、信じられない・・・・・・幾ら上官でも私に手をだすなんて・・・・・・」←D

「・・・・・・」←A2

「うう、汚された・・・・・・私、こんな役割じゃないのに」←C2

「・・・・・・」←A3

「アワアワ~♪」←G

「こら瞳、少しは落ち着け・・・・・・」←E1

「ふふ、瞳大尉は楽しそうですね」←E2


「「「・・・・・・」」」←A1・2・3

「・・・・・・お二人とも・・・・・・格差社会って言葉、知ってますか?」←A1

「初耳だが、何故か意味が理解できる」←A2

「・・・・・・(頷く)」←A3

「私、これじゃいけないと思うんです・・・・・・・・・・・・折角の温泉なのに、こんな隅っこで震えてるなんてもう私には耐えられません!!」←A1

「ま、待て真奈美!!気持ちは分かるが・・・・・・現実を見ろ!!あの中に私たちが行っても・・・・・・無駄死にするだけだぞ!」←A2

「彼我の戦力差は歴然・・・・・・勝ち目、無い」←A3

「う、う・・・・・・うわぁぁぁぁん」←A1

「泣くな真奈美!!私だって・・・・・・私だって辛いんだ!!・・・・・・う、うぅぅぅ」←A2

「大丈夫・・・・・・真奈美はまだこれから成長する・・・・・・だから諦めちゃだめ・・・・・・ぐすッ(瞳にうっすらと光が)」←A3


 肩を寄せ合って震える三人・・・・・・そんなチッパイ三人組みとはしゃぐ女性陣の姿を見比べて、一人狼狽している人物もいたりする。


「・・・・・・わ、私はどっちに行けばいいんだ?」←B






















 1820、ポイントγ・狙撃地点まで残り100m。


「・・・・・・なんの狙撃や?」

「細かいぞ関西人!!ジャック!!頼んでおいたブツの用意は!?」

「へい旦那!!此方に用意してありますぜ!!」

 ドカッと!!大きなボストンバックを満面の笑みで地面に置くジャック。

「なんやコレは?スコップにナイフ・・・・・・望遠鏡?・・・・・・赤外線スコープ?地雷探知機?・・・・・・ナイトビジョンまで・・・・・・工兵にでもなる気かいな」

「甘く見るな!!何処にどんなドラップが仕掛けてあるかわからんだろうが!!『備えあれば嬉しいな♪』だ!!」

「しかし隆・・・・・・この格好はどうかと思うが」

「これは様式美だ!!戦闘服だ!!やらねば盛り上がりに欠ける!!・・・・・・冷えたら風呂に入れ!!」

「桐島の兄さん・・・・・・タオル一枚でカメラは一番怪しいっす」

「ふ・・・・・・グラサンとタオルの隆ほどじゃないさ」

「・・・・・・なしてタオルいっちょでスニーキングミッションせにゃならんのや・・・・・・わいはもう付き合いきれへん」

「待て洋平!!何処に行く気だ!!」

「わいは普通に風呂に入るんや、こないなアホらしいことはお前らだけでやってくれや」

「待つんだ!!ここまで来てそんな捨て台詞を吐いて戦線を離れるのは・・・・・・死亡フラグだぞ!!」

「・・・・・・なんのこっ『ドカァァァァンッ』」

 言いかけた洋平の姿が一瞬で掻き消える・・・・・・爆音と白煙を残しながら。

「・・・・・・バカが、だから言ったのに」

「地雷か・・・・・・惜しい男を亡くしたな」

「川井の兄貴・・・・・・俺っちは兄貴のことを忘れません・・・・・・」

「うむ、冥福を祈るとしよう・・・・・・だが待ちに待った時がきたのだ!!洋平の犠牲・・・・・・いや多くの先人たちの犠牲が無駄でなかった証のために・・・・・・男としての尊厳を守るために・・・・・・温泉よ、私を迎え入れろぉぉぉぉぉ!!・・・・・・全軍突撃!!」

「「サーイエッサー!!」」














「ん?なんか今音がしなかったか・・・・・・?」←E1

「きっと誰かがトラップに引っかかったのかもね・・・・・・ああ、姉さんごめんなさい、さっきは別に姉さんを蔑ろにしたわけじゃないのよ」←D

「・・・・・・いい、私はファーナじゃないから」←A3

「トラップって・・・・・・何?覗く馬鹿がいるの?」←C1

「いえ、単に姫様たちがいらっしゃるから警護を強化しただけ・・・・・・この温泉で何を覗くの?」←E2

「そうねぇ・・・・・・ああマナちゃん、戻ってきて・・・・・・そんな遠い目で夕日を見なくていいのよ」←C2

「いいんです葵さん・・・・・・私はどうせ隆さんの言う通りチンチクリンですから・・・・・・ふふふ」←A1

「そ、それにしても社中尉たちは遅いですね・・・・・・何しているんでしょうか?」←B

「温泉楽しいのに勿体無いの~」←G

「く、くそ・・・・・・あんなの脂肪の固まりだ、羨ましくなんてないぞ・・・・・・羨ましいもんかぁぁぁ」←A2












 ポイントβ、目標地点まで残り50m

「・・・・・・何故、匍匐前進なんだ?乳首が擦れて痛いんだが・・・・・・」

「久志!!皆が色々がっかりするような言葉を吐くな!!・・・・・・ジャック!!どうだ!?」

「・・・・・・前方三メートル、埋設型のクレイモアが三つありますぜ」

「ちぃ、またか・・・・・・迂回するぞ。後僅かだと言うのに、なんなんだこの厳重っぷりは?さっき空をミラージュⅢが哨戒してたぞ?」

「・・・・・・超えるべき壁は険しいな・・・・・・だが隆・・・・・・登山家の名言である「そこに山があるから登る」との言葉があるように・・・・・・」

「わかってる・・・・・・俺たちは其処に温泉があるから【アレ】するだけだ!!」

「ふ・・・・・・流石、俺が認めたお前だけのことはあるな」

「止めろよ久志、この状況でソレを言うのは色々と危険だぞ?」

「・・・・・・いや、もうそろそろ次の脱落者が必要なはずだ・・・・・・お前の言うお約束的な意味で」

「く、確かにな、俺もそろそろそんな雰囲気がムンムン立ち込めていると思っていたところだ・・・・・・」

「・・・・・・今度は俺っちですかね、旦那?」

「泣き言を言うなジャック!!まだ希望はある・・・・・・黄金卿への片道切符は誰にでもあるんだ!!」

「へへ、そうでしたね旦那・・・・・・俺っちもまだ諦めませんぜ!!」

「ふ、馬鹿な二人だ・・・・・・だがそれだからこそ、見ていて面白い・・・・・・ぬッ!?」

「久志!!」

「桐島の兄さん!!シット!!地雷にばかり気を取られて落とし穴に気付かないなんて!!」

「ふ・・・・・・どうやら俺はここまでのようだな・・・・・・」

「馬鹿言うな!!俺の手に捕まれ!!諦めるな!!諦めたらそこで試合終了だぞ!!」

「隆・・・・・・すまん・・・・・・先にアヴァロンで待っているぞ」

「ひ、ひさしぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」


 だが答えは無い。
 残されたのはただの静寂のみ。
 目の前で友が奈落に落ちた、その事実は目の前にぽっかりと開いた穴が雄弁に語っている。

 悲しい・・・・・・だが何時までも悲しんではいられない。
 散って逝った友のために、自分は前に進まねばならない!!
 そうしなければ、先に逝ったあいつ等に笑われてしまう!!


「行くぞジャック!!二人の犠牲を無駄にしないためにも、俺たちは【アレ】するんだ!!」


 叫び、己の後方にいたジャックに振り返る。

 が・・・・・・


「・・・・・・な、なんだと?」


 そこには誰もいなかった。久志が飲まれた穴と同じように、ぽっかりと開いた穴だけが其処に残っていた。



 ―――落ちていた。


 振り返った時、すでにジャックは落ちていた・・・・・・
 俺に動揺を与えまいと、恐らくは湧き上がる悲鳴を押し殺し、無言で落ちていた。
 あの陽気なジャックが残した目立たぬ克己。

 怖かったに違い無い、心細かったに違い無い、なのに彼は無言で落ちて・・・・・・逝った。


「・・・・・・く、くぅぅ」


 何かが俺の中に湧き上がる。
 それが何かは分からない・・・・・・だがこの霞む視界の中で、自分が何をしなければならないか今ハッきりとわかった。

 進む、そう前に進むしかない。
 もし辿り着けなくても、自分は前に進むしかない。

 倒れるときは・・・・・・前に向かって倒れよう!!


「ううううぉぉぉぉぉぉ!!」


 咆哮を上げ、俺は走り出した。

 がむしゃらに・・・・・・ただ前を見て俺は走り出して・・・・・・水に飲まれた。















「・・・・・・ん?今誰かの叫び声が聞こえなかったか?」←E1

「私、聞こえなかったよ~・・・・・・ブクブク」←G

「ちょっと葵、あんたのトリートメント貸して!!」←C1

「こ、こら栞!!少しは大事に使ってよ!!それ高いんだから!!」←C2

「ほらほら、そんなに胸が気になるなら私が大きくしてあげるから♪」←E2

「ま、待ちなさいトゥルーリ少尉!!そんな卑猥な手つきで姉さんに触らないで!!やるなら私を・・・・・・ひゃんッ!」←D

「・・・・・・揉めば大きくなるの?」←A3

「ぞ、俗説ですが、一応そう言う話があります」←B

「・・・・・・そうなのか・・・・・・アルフの言い方では、自分でやっても意味がないんだろうな、きっと」←A2

「大きければいいってものじゃないわよ~何事もバランスが大事よね」←E3

「ミツコさん・・・・・・来るの遅かったですね?」←A1

「まぁね~・・・・・・面白いもの見てたから♪」←E3

「面白い・・・・・・もの?」←A1


 と、同時・・・・・・露天風呂近くにあった間欠泉から水柱が立ち上る。


「わぁ~夕日で虹が出来てるよ~」←G

「・・・・・・綺麗なものだな」←E1

「・・・・・・・・・・・・アレ?何か飛んできますよ?」←A1


「ううううわわわわっわぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁッ!!」←グラサン


 ザッブンンンンンンンンンンンッ!!


「きゃぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁッ」×複数



 着水、盛大に水しぶきを上げて跳ねる変態。
 突然のテロに湧き上がる悲鳴。混乱が露天風呂を支配し水飛沫によって出来た霧が拍車を駆ける。


「な、なに!!砲撃!?周囲の警戒はどうなってるの!!」←D

「真っ白で何も見えないの~」←G

「クッ!!全員無事が!?」←A2

「・・・・・・私の気のせいかなぁ・・・・・・なんだか隆さんが飛んできたように見えたんだけど」←A1

「・・・・・・(頷く)」←A3

「落ちついてください!!負傷者はいませんか!?」←B

「くぅぅぅぅ!!トリートメントが目に入ったぁぁぁ!!」←C1

「ああ、もう何やってるのよ・・・・・・ホラお湯で目を洗って」←C2

「・・・・・・ふむ、眼鏡は何処だ・・・・・・っと」←E1

「・・・・・・(気絶中)」←E2

「・・・・・・負傷者なら此処にいるわよ~」←E3

「・・・・・・むぅ・・・・・・柔らかい・・・・・・ここは天国か?」←グラサン

「な、何やってるのよ!!隆!!あんたが埋もれる胸は私でしょう!!」←C1

「・・・・・・えっと、突っ込むトコそこですか?・・・・・・なんで隆さんは飛んできたんだろう」←A1

「・・・・・・間欠泉で飛ばされた?」←A3

「どんな馬鹿だよ・・・・・・タオル一枚で外にいたのか、この変態は?」←A2

「む、むぅ・・・・・・おお、皆・・・・・・元気か?」←グラサン

「凄いわね、このサングラス壊れてないわ」←E3

「そ、それこそ感心するところですか?」←B

「ほら隆さんしっかり・・・・・・大丈夫?」←C2

「・・・・・・ぬぅ・・・・・・何が起きたんだ・・・・・・ってかなんで皆・・・・・・裸なんだ?」←グラサン

「当たり前だろう、温泉だからな」←E1

「そうですね・・・・・・・・・・・・・・・・・・ちょっと待て、なんで皆平気な顔してるんだ?」←グラサン

「??確かにビックリしたけど・・・・・・隆が飛んできたことには」←C1

「い、いやそうじゃない・・・・・・なんで俺が風呂場にいるのに・・・・・・やはりあれか!!主人公補正か!?ラッキースケベか!?」←グラサン

「・・・・・・何言ってるか今いちわからないが・・・・・・とっとと風呂に入って頭を冷やせ・・・・・・ん?逆に暖かくなって悪化するのか?」←A2

「すげぇ・・・・・・すげぇぞ主人公補正・・・・・・女湯に入っても問題無しとは・・・・・・なんたるレアスキル!!」←グラサン

「へ?女湯?・・・・・・隆さん、ここって【混浴】よ」←C2

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」←グラサン

「この温泉は【混浴】なんだよ・・・・・・社中尉」←E3

「・・・・・・(頷き)」×多数










「・・・・・・・・・・・・・・・・・・うそだぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!」


















<瀬戸 真奈美>


「う~ん・・・・・・う~ん・・・・・・」


 隆さんの唸り声が聞こえる。

 先ほど、露天風呂で突然絶叫を上げて気絶してしまった隆さん。
 とりあえず彼の部屋に運び込んだのだが・・・・・・そこには何故か包帯でグルグル巻きにされた三つのミイラがいた。

 きっと深く聞いてはいけないのだと直感し、仕方が無いので私たちの部屋に隆さんを運びこんだのだが・・・・・・未だに目を覚まさない。



「有り得ん・・・・・・有り得んぞ・・・・・・今時【混浴】なぞ天然記念物級だ」

「・・・・・・まだ目を覚まさないのか・・・・・・コイツは?」


 隆さんの顔を覗き込みながら、ブリュッケル中尉が呆れ顔で呟く。


「うん・・・・・・まぁちゃんと息してるから大丈夫なんじゃない?」

「・・・・・・栞、もしかしたら貴女が抱きついているから、隆さんうなされてるんじゃないの?」

「違うわよ!!冷えないようにこうして身体を張って犠牲になってるんじゃない!!」


 そのわりには、隆さんを抱き枕にして寝ている栞さんの顔は、此処最近で見た中でもダントツの笑顔だ。
 ま・・・・・・いいですけどね、私はなんでも。


「・・・・・・どうしたの真奈美?不機嫌そうね・・・・・・」

「うん、真奈美、機嫌悪そう」

「そ、そんなことありませんよ!!・・・・・・それよりも、こんな場所で雑魚寝だなんて・・・・・・本当にすみません」


 本当に心苦しくなってくる、一国の姫君が布団に寝て、しかも皆で川の字で寝ているのを見ると。


「あら?なんで謝るのかしら?」

「だ、だって、こんな・・・・・・庶民が泊まる旅館なんて・・・・・・」

「ふふ、真奈美・・・・・・私も姉さんも軍属よ?確かに真奈美が思っているようなお姫様らしい生活もしていたわ。でもソレは子供のときだけ・・・・・・こんな情勢で何時までもそんな贅沢が出来ると思う?」

「い、いえ・・・・・・それは・・・・・・」

「士官学校でも今と同じように雑魚寝だったわよ?あの時も騒がしいのがいたしね・・・・・・こうして姉さんと一緒に寝れるなんて、私は凄く嬉しいのよ?」

「そう・・・・・・真奈美、私も嬉しい・・・・・・皆と温泉に入って、一緒に寝れて・・・・・・本当に楽しい」

「そうね姉さん・・・・・・布団で寝るとは思ってもいなかったけど、これも風情なのよね・・・・・・ふふ」


 笑みを見せる二人・・・・・・その笑みを見て、私は自分が恥ずかしくなった。

 コレまで一緒にいて、二人が生まれも出自も関係なく立場こそあれ普段は一人の軍人として振舞っているのに・・・・・・何故か私は二人を特別に見てしまう。
 
 考えたくないけど・・・・・・武家の方々の生活を私が知っているからかもしれない。
 庶民とは確かな線引きされた環境で過ごす日本の貴族たち。将軍を頂点とし独自の組織体系をその血筋に連なるものだけで成り立たせる彼らと・・・・・・二人の姫君を同じように見てしまうからかもしれない。

 同じ、特権階級の生まれだと言うだけで。
 
 国も、生き方も、何もかも違うのに・・・・・・あの人たちと二人を一緒に見てしまう。

 これは無礼な考え方だ、欧州の貴族の実態を私は知らないが・・・・・・二人の姫君は私の知っている武家の人間とは明らかに違う。

 自分の出自に誇りを持って生きているのは言動から見て取れる。
 だがその思考は柔軟性に優れ、私たちと何ら変わりの無いものを一緒に見てくれている・・・・・・普通の人間だ。

 そう考えると近衛の歪さがよく理解できる・・・・・・最前線国家でありながら、未だ民衆と明確な線引きをしている彼らの思考が・・・・・・とても歪に見える。


「ん・・・・・・でもちょっと寒いわね、姉さん?」

「うん、寒い・・・・・・」

「え?じゃ、じゃあ上に掛ける布団を用意しま・・・・・・へッ?ええッ?」

 
 モゾモゾと私の布団に二人が入ってくる。


「よしっと・・・・・・これで大丈夫ね、姉さん」

「うん、あったかい・・・・・・」


 などと私を抱き枕にして満足げに呟く二人の姫様の顔を見ていると・・・・・・抵抗する気なんてコレッぽっちも起きなかった。


「ん~むにゃむにゃ・・・・・・」

「・・・・・・さて、皆そろそろ消灯時間だ、瞳を見習って良い子で寝るんだぞ?」

「は~い」×複数

「・・・・・・ってなんで隊長までこっちくるんですか!!隆の世話は私だけで十分です!!」

「そう言うな、生憎と私は冷え性なんでな・・・・・・隆なら丁度いい湯たんぽ代わりになる」

「・・・・・・私も冷え性なんだけどな・・・・・・マナちゃん取られちゃったし」

「んふふ、栞、私がいるじゃない・・・・・・」

「ひ、引っ付かないでよアルフ!!それに葵までどうしたの急に?・・・・・・あ!!瞳まで!!あっちで寝てたのに・・・・・・どんだけ寝相悪いの!?」

「隆さんあったかいの~」

「・・・・・・確信犯だな」

「アザリー・・・・・・そう言うあんたも何してるの?」

「ん?あ、ああ、いや・・・・・・布団が足りないかな~っと思って・・・・・・み、皆で一緒に寝れば節約できるだろう?」

「節約する必要なんで無いと思うんですけど・・・・・・・・・・・・帝国と条約を解消した理由・・・・・・色々言われてるけど本当は日本人のノリに付いていけなかっただけ・・・・・・なわけないよね、うん」
















「・・・・・・・・・・・・うう・・・・・・原子核は・・・・・・本当の原子核なら・・・・・・女湯に突入しても大丈夫なのか?」








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