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DONの落書き部屋

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「Muv-Luv 小説」
第二部

欧州編 13話

  「コンプレッサーの圧力が足りなくてアームが外せない!!コレじゃこの格納庫にある機体は一機も動かせないぞ!!」

「隣の第二格納庫もだ!!くそッ!電源が来てないんだよ!!」

「どうにかして動かすんだ!!相手は戦術機なんだろう!?MPの機械化歩兵じゃ相手にもならないぞ!!」

 格納庫の其処彼処から聞こえる悲鳴混じりの怒声。
 その様相はコード991が発令された直後に酷似している。だが、BETAの出現を知らせるサイレンは鳴っておらず、其処彼処にある警告灯も沈黙したままだ。
 戦術機が立ち並んでいる格納庫に響くのは、整備班の人間が叫ぶ声と彼らが振るう工具の金属音のみ。
 
「それで・・・・・・状況はどうなってるの?」

「ハッ、先ほど入ってきた情報では、配給施設前から対象は動いていないとのことです」

 聞きなれた声で呆然としていた意識が我に返る。
 情けない・・・・・・以前はもっと機敏に動けたはずなのに、今の自分はまるで新兵以下だ。

「被害報告は?」

「戦術機の機動を阻止しようとした衛兵が三人・・・・・・」

 背後を振り向けば、ファーナがMPらしき通信兵の少尉と話をしていた。

「・・・・・・米軍は?」

「今は向こうも状況を掴めていないかと、しかし時間が立てば介入してくるのは目に見えています」

 呻くような通信兵の返事を聞いてファーナが小さく舌打ちをしたのが分かった。
 珍しい・・・・・・普段の彼女であれば決して見せないその姿に再び唖然としてしまう。

「・・・・・・分かりました、配給施設に至る道は全て封鎖、データリンクも傍受されている可能性があるので使用を厳禁、鹵獲された機への対処のためにも戦術機の機動準備を急がせて、ヌークの軍本部に連絡して対テロ部隊の要請を、あ、それと歩兵分隊には施設に近寄らないように厳命しなさい、戦術機のセンサーは携帯火器の熱源も感知できるわ・・・・・・下手したら捕捉する前に殺されるわよ」

 矢継ぎ早に指示を飛ばすファーナ、その権限は既に彼女が持つ中尉としての立場を逸脱している。

「それで・・・・・・犯行声明が出ているなら首謀者の目星は付いているわね?」

「ハッ・・・・・・首謀者は恐らくこの男かと・・・・・・ドイツ軍の退役将校です。少数人での犯行とは思えませんので他に手引きした人間が・・・・・・中尉?」

「・・・・・・い、いえ、なんでもないわ」

 少尉に渡された書類に目を通した直後、ファーナの表情が硬直したのを私は見逃さなかった。
 彼女は心当たりでもあるのだろか・・・・・・そのテロリストと。

(ったく・・・・・・どうしろってのよ)

 状況が未だ飲み込めないことに毒づくことしか出来ない。
 だが、例え状況が把握出来たところで、自分に出来ることなどあるはずが無い。
 以前は百里の基地だったのである程度は動けたが、よそ様の基地に間借りしている今の自分に出来ることは・・・・・・状況を静観し事が終わるのを黙って待つことだけだ。


 ―――そう、自分たちに出来ることは無い。そのはずなのに・・・・・・


『踏み潰されたくなかったら道開けろぉぉぉぉッ!!!』


 私の考えなど知ったことでは無いとばかりに、頭上からそんな声が聞こえてきた。その声と、その内容に軽い既視感を覚え、何故だか目の前が真っ暗になる。
 軽い眩暈を覚えて手近にある手すりに寄りかかっていると、主機ユニットか奏でる重低音と地響きのような足音が格納庫に響き渡る。

 その声の主の姿に騒然となる格納庫内・・・・・・おかしい、ほんの数時間前まではいつも通りの日常だったと言うのに・・・・・・どうしてこうなってしまったのだろうか?

「・・・・・・」

 担架に乗せられ運ばれていく彼女を見送りながら更に自問する・・・・・・
 そう、数時間前まではこんなことが起きるなんて誰も想像すらしていなかった。


















欧州編  かれが唾棄した現実 前編



<社 隆>

「震動波確認!!・・・・・・くそッ!!センサーの感度が悪すぎる!!」

 思わず乗機の能力に悪態を付いてしまうが、決してこの機体が無能と言うわけではない。
 単純に機体特性の違いだ。熊蜂は電子戦の出来る砲撃機、反して今搭乗しているF-14Dは機動性の高い爆撃機。故におのずと出来ることに差は出てくる。
 その差を埋め平均化することこそ衛士としての腕の見せ所なのだろうが・・・・・・

『アーチャー01!!何処だ!?』

「三時の方向距離500!!地表まで残り15秒!!」

『ッ!?セイバーズ!!後退しろ!!BETAに飲み込まれるぞ!!』

 退避指示が出るが既に遅い、前面に突出していた第三小隊の連中が地中から湧き出たBETAによって退路を寸断される。

『これやから平野部は嫌なんやッ!!全機、下がるのは無しや!!前に出て目玉小僧を潰すでッ!!』

 小隊長である洋平の悪態が聞こえてくるが、刻々と変化する戦況の把握を務めている自分にソレを意識している暇は無い。
 支援砲激再開までの残り時間、噴出したBETA数、光線級の位置、分断されつつある中隊の状況・・・・・・それらを上下左右、不規則に襲い掛かるGの中で確認しなくてはいけないのだ。
 満足に息をすることも出来ない、正直言ってかなり辛い、今更だが泣き言を言いたくなってくる。

(挟撃を受けさせないために最適な地点は・・・・・・くそッ、処理が遅い!!)

 内心で呻き声を上げながら網膜投影に映る兵装ウィンドウを視線選択。
 両手に保持した突撃砲は前席に座る瞳が使用しているため、自分が出来る攻撃手段はミサイル兵装のみ。
 目標選択、ミサイル選択、飛行ルート算出、光線級の照射範囲確認・・・・・・以前であれば、数秒で出来る手馴れた発射シーケンスなのだが・・・・・・ 

「ったく!!霞の補助プログラムが無いとこうもやり憎いなんてッ!!」

 内心で叫ぶ筈が思わず声に出してしまった。
 前に霞に作って貰ったお手軽ミサイル制御システム、それがF-14Dに組み込まれていないのが痛い。だが、元々はこれが普通なのだ。今までは愛する義妹に甘えていた・・・・・・そのツケが廻ってきたと思うしか無い。

『ッ!?くぁぁぁッ!!』

 ヘッドセットから苦悶の叫び声が聞こえてくる。
 戦術マップで声の主を確認しようとした瞬間、地中から噴出す土砂に巻き込まれた不知火の姿が目に映る。

 IFFで表示されるコールサインはセイバー03・・・・・・橘の機体だ。

 姿勢が崩れた彼女の機体に地中から現れた要撃級の固体が迫る。その光景を見て、前に座る瞳に進路の修正を打診しようとするが・・・・・・

『アーチャー01、役目を果たせッ!!』

「ッ!?アーチャー01、フォックス1ッ!!」

 僚機であるアザリーの叫びに正気を取り戻し、分断された第三小隊との間に存在するBETA群へ向けてロックし、トリガーを押し込む。
 両肩にある専用のハードポイントに固定されたコンテナのハッチが開き、中に詰まっていたAIM-54・フェニックスが2発、轟音を上げて飛び立つ。
 既にBETAとの接敵時に4発使用していたので、コンテナに残った残弾全部を吐き出す。光線属種の射程範囲外からの攻撃をも可能とする長距離ミサイル、それをこんな至近距離で使うのは本来の使い方ではない・・・・・・機動戦においてデットウェイトにもなりかねないミサイルを此処まで搭載したままだったのは、たんに自分の計画性の無さ故である。

 BETAとの接敵時に全弾発射していれば、戦場を闊歩する光線級を全て排除できていたかもしれないのに・・・・・・自分がケチったせいでこんな結果を招いてしまった。

(くそ・・・・・・判断ミスなんて言葉じゃ許されないぞッ!!)

 内心で自分を責める言葉を吐いている間に、射出したミサイルは最高速に達する前に起爆。内部に詰まった子爆弾がBETAの頭上に降り注ぎ名に恥じぬ面制圧能力を見せてくれる。


 だが橘を示していた青い光点は網膜に映る戦術マップから姿を消していた。


 ―――これで三機喰われた。


 最初は久志の乗る不知火。病み上がりだから無理をするなと忠告しておいたにも関わらず、BETAとの混戦の中で一番最初の犠牲者になった。
 二番目は真奈美のEF-2000。まだ機体に慣れていなかったとでも言うのか、要撃級の一撃を受け止めようと腕部のブレードを構え、逆に腕を千切り取られ姿勢を崩したところを横手から突撃級に突っ込まれて圧壊した。

 そして今度は橘・・・・・・残った第三小隊は洋平とアルフの二人だけ。

 フェニックスのお蔭で二人の退路は出来た・・・・・・だが二人は光線級目掛けてBETAに突き進み続けている。

 二機のEF-2000がBETAの波に飲まれながらも地を駆ける。
 通り過ぎた後には血飛沫を上げて崩れ落ちるBETA、進は銀色の装甲をBETAの体液で赤黒く変色させた暴風。

『斬るよりも叩き潰すほうが楽やなッ!!』

 最初は使い憎いと嘆いていたくせに、ハルバートを振るって目前の要撃級を叩き潰す洋平のEF-2000。

『・・・・・・ッ!!』

 聞こえるのは息を飲む声、それは裂帛の気合の残滓。無言でBETAの中を掻き分けるアルフのEF-2000、その姿から普段のおしゃべりな彼女はとても想像できない。

 二機が互いに位置を入れ替えながらBETAの壁を少しずつ切り崩す、奥に座するは忌まわしき光線級。
 中隊の各機は手持ちの火器を二機へ群がるBETAへ向けている。 その間、自分は中身を吐き出しデットウェイトになった両肩のコンテナをパージ、次に来る己の出番のための準備に取り掛かる。

 そして・・・・・・光線級の瞳が閃くよりも早く、二機の放った36㎜砲弾がBETA壁の隙間から光線級を射抜いた。

『進路クリア!!飛べ!!アーチャー01!!』

 光線級の排除を確認した瞬間、洋平の叫び声がヘッドセットから響き渡る。
 その一瞬後、F-14Dの跳躍ユニットが瞳の手によって出力をMAXまで跳ね上げられる。跳躍ユニットから轟音を上げ、青白い炎を残し、爆発的な加速を得てF-14Dが離陸する。

「ぐ、ぐぅぅぅッ!!」

 視界が急加速によるGで霞む。シートに押し付けられる頭、支える首に痛みが走り思わず苦悶の声を上げてしまうが、視線は網膜に映るBETAの姿を捉えたまま。
 光線級の脅威が消えた空、高度を上げたF-14Dが地を這うBETAの頭上に差し掛かる・・・・・・瞬間ッ!!

「アーチャー01、フォックス1ッ!!」

 叫び、手元の発射トリガーを押し込む。
 数瞬後、F-14Dが飛翔したルートをなぞるように地表で爆炎が巻き上がる。
 F-14Dの脚部に増設されたコンテナ、そのコンテナの内部に搭載されたMark77と呼ばれる焼夷弾が次々と投下され、地表を蠢くBETAにその猛火を振るう。
 
 BETA、生物にはあるまじき強靭な生命力を持つ存在ではあるが・・・・・・所詮は生命体に過ぎない。

 強固な甲殻や衝角を持っていても、その実態は筋組織と体液が詰まった肉袋。
 連中に痛覚があるかどうかは分からないが、高熱で熱せられれば内部の体液は沸騰し、筋組織は焼け爛れて炭と化す。
 光線級の存在により、空爆が限定的な戦場でしか出来なくなったとしても、その効果は絶大の一言で足りる。
 小型種は発生した衝撃波に翻弄されて粉々に吹き飛び、中、大型種は火達磨になりながら地面を駆け周囲に被害を拡大させてくれる。

 そして火に焼かれ動きが鈍ったところに・・・・・・

『アーチャー02、フォックス1ッ!!』

『アーチャー03、フォックス2ッ!!』

『アーチャー04、フォックス2ッ!!』

 F-14Dに続いて飛翔した後続の僚機が、地を這うBETAに向けて砲撃を開始し始める。

 アザリーの乗るEF-2000がMK-57を用いて大型種を潰して周り、ジャックとハティのF-15Eが突撃砲で中、小型種を駆逐して周る。
 弱ったBETAを更に上空から狙い打つ。安全かつ効率的な戦法だが、このやり方は非常に限定的な場面でしか行えない。
 光線級の排除は勿論のこと、攻撃方法に【火】と言う味方にとっても危険な手段で用いるため、周囲の地形や味方の布陣を確認する等の手順が必要になる。 
 今回は戦術機のみで行われる戦闘だから使った手だが、同じ事を戦車部隊や歩兵がいる戦場で行えば・・・・・・味方に撃たれても文句は言えない。

(・・・・・・良い感じに焼けたとしても・・・・・・とてもじゃないが美味そうには見えないな)

 直接的な脅威が去ったことで心に余裕が生まれたせいか、焼け焦げるBETAの姿を見ながらそう安堵した瞬間・・・・・・

「ッ!?」

 突如ヘッドセットから鳴り響くアラーム、その音程は・・・・・・レーザーの初期照射を知らせる代物。
 爆弾の投下を即座に中止、直後、機体が乱数回避モードに移行、回避行動によって発生するGにまたもや翻弄される。

「む~~~~ッ!!」

 機体の姿勢制御を行っている瞳の呻き声が聞こえてくる。
 彼女の技量を持ってしてもこの状況は非常に不味い。地面に降下しようにも、大地は業火に焼かれた煉獄の大地、そこは精密機械の塊である戦術機にとってみれば致命的な空間。
 此方に照射を行っている光線級の位置を、データリンクで受け取った僚機が把握して撃破してくれれば御の字なのだが・・・・・・物事はそんなに上手く行かない。
 付け加えれば、火達磨になりながらも鈍く動き続けるBETAたちの存在・・・・・・退路は無い。

(・・・・・ぐッ!!)

 瞳でもやはり回避出来なかったのか、レーザーの直撃を受けて大きく揺れる乗機。
 シートから離れて行きそうになる身体を必死に支えながら網膜に映る乗機の状態を確認し・・・・・・肩を落とす。

(この機体・・・・・・俺には使いこなせないのかもな)

 赤く点滅する機体ステータスと、迫り来る赤い地面を見据えながら、内心でそう呟くことしか出来なかった。















 ―――冒頭の3時間前、第一格納庫。

「・・・・・・はぁ」

 主機が落とされ、光源が無くなった管制ユニットの中で小さく溜息を付く。
 激しいGに耐えていたせいか体が重い。少しでも休もうとシートに深く腰掛けていると、プシュッとハッチが開く音が響き薄暗い管制ユニット内に格納庫内の灯りが差し込んでくる。

「う~・・・・・・ごめんね、隆さん」

 その灯りに照らされ前席に座っている瞳の姿が浮かび上がる。シートから身を乗り出して此方に振り返り、申し訳無さそうに目を伏せた彼女の姿が。
 
「へ?・・・・・・あ、ああ、いや・・・・・・瞳ちゃんのせいじゃないよ」

 彼女の謝罪に焦るしかない。
 当然だ、JIVESを使用した実機訓練で不甲斐無い結果だった原因は彼女では無い。自分が己の役割を果たし、彼女をフォロー出来ていたのならばもっと上手くやれたはずだ。

(・・・・・・付け焼刃の技術じゃ・・・・・・足を引っ張るのも当然か)

 這いずるように管制ユニットから出ながら内心で嘆息する。
 深く考えるまでも無く、自分が衛士として半人前なのはとっく理解していた。

 この世界の人間は幼少の頃から戦うための訓練を受けている。
 義務教育の時からソレは始まり、徴兵年齢に近くなればなるほどその内容は濃くなる。身体的、精神的、技術的な面での下作りを経て軍学校の門を叩く・・・・・・どの時期に衛士適正を行うかはわからないが、戦術機に乗るための下積みに時間を掛けているのは間違い無い。

 なのに自分はどうか?

 横浜で受けた詰め込み教育の内容はおざなりと言っていいレベルの軍事的基礎学習。百里に来てから時間を見つけては教本を読み独学を重ね、インパルスの松土少佐に頼んで戦術機の操縦技能を磨き続けた。
 だが、所詮はその程度だ。その程度の積み重ねで衛士としての職務が全うできるわけが無い。

 ・・・・・・だと言うのに、自分はまだ生きている。

 平和な世界からこの世界に迷い込み、戦場なんて映画でしか見たことの無い状況を経験しながらも、こうしてまだ生きている。
 北海道にて初陣、新潟での間引き作戦参加、欧州に派遣されスカンディナヴィア半島での進攻作戦・・・・・・出撃回数だけならベテランの域に入ると誰かが言っていたような気がするが、もう何回出撃しかたなんて覚えちゃいない。
 今もこうして生きていられるのは単に運が良かっただけだろう。今後、この運が続くとは限らない・・・・・・最悪の事態を引き起こす前に衛士としての職を辞退すべきかと本気で悩みそうになる。

(なんてな・・・・・・乗りたくて乗れない奴も多いんだ。そんな我侭が通るわけがないか)

 自嘲気味に内心で嘆息し、戦術機に乗りたいと語った少年を思い出す。新潟で出会った歩兵の少年、今もまだ生きているかは分からないが、あの少年は戦術機に乗りたいと願っていた。
 だと言うのに、乗れる権利を持つ自分がソレを拒否するのは、あの少年に対する裏切り行為だ。それにこのご時勢、どんなに能力が低くても戦力はあって困ることは無いだろう。

 足を引っ張るのは言語道断、だから同じ事を繰り返さないように今後も努力を続けるしかない。

「どうした隆?・・・・・・辛気臭い顔して?」

 隣の整備パレットに乗機を固定したアザリーが不思議そうな顔で此方に声を掛けてくる。

「・・・・・・そう見えるか?」

「ん?ああ、まぁ短い付き合いだけどソレぐらいはな」

「短いけど、その内容は濃いっすからねぇ」

 笑いながら答えたアザリーに続けるジャック、その背後にはハティの姿まである。

「しかし、お二人の機体が精彩を欠いていたのは確かです・・・・・・何かあったんですか?」

 などと、ハティまでもが怪訝な顔で言ってくるので思わず苦笑してしまった。
 流石は部隊連携に余念が無い米軍出身組と言うべきか、あんな姿を見せれば疑問を持つのも当然だと思いながら、彼女になんと答えたらいいか迷っていると。

「わたしが悪いの・・・・・・隆さんの足手纏いなの」

 しょぼくれた様子で管制ユニットから出てきた瞳が自分の代わりに答えてくれる。
 だが、いつも笑顔を振りまいている彼女にしては珍しいその姿を見て、小隊の仲間は尚一層俺に疑わしげな視線を向けてくる。

「足手纏いねぇ・・・・・・瞳が?」

「瞳姉さん笑ってくださいな、そんな顔は似合いませんぜ」

「ええ、瞳大尉の技量が未熟だと言うのであれば、私の知る全ての衛士が新兵以下になってしまう」

「・・・・・・皆して瞳ちゃんを擁護しながら、何故俺をそんな目で見る?」

 抗議の声を上げてみるが、皆の視線は変わらない。
 言われるまでもないけど、改めて皆からそう思われているのを感じると・・・・・・ちょっと辛い。
 
「猫ちゃん上手く動かせないの・・・・・・」

「ん~大型機っすからねぇ、F/A-18に比べて一回り以上大きいし・・・・・・慣れるまでは仕方が無いんじゃないっすか?」

 苦笑しながらジャックは整備パレットに固定されたF-14Dを指差す。

 彼の言う通り、熊蜂に比べれば一回りは大きな外観。
 世の中に物理学が存在する以上、重量が増えれば増えるほど加速時や旋回時に掛かる負担は大きくなり、結果、機体に機敏な動作は望めなくなる。
 元々は超軽量級と言われる雪風を駆る彼女だ、重量級の機体が扱い憎いのも当然なのかもしれない。

「瞳も人間だったわけだ、私は逆に安心したけどな」

 アザリーが元気付けるかのように彼女の肩をポンポンと叩き、「お前も何か言え」と訴えるかのように此方をジロリと睨んでくる。

「ん、ああ・・・・・・コイツって『雄猫』だか『ドラ猫』だか言われてるらしいけど・・・・・・俺に言わせれば『デブ猫』だな。ニャジラだ、ニャジラ」

「にゃじら?」

「そうそう・・・・・・ゴジ・・・・・・って知ってるわけないか、怪獣だよ怪獣・・・・・・猫の怪物、しかも太ったね」

 不思議そうな顔で自分を見上げる瞳に分かりやすく説明しているつもりだが、この世界の人間に怪獣などと言う空想の存在が理解出来るわけが無い。

「猫の・・・・・・怪物ね」

「ん?・・・・・・どうしたアザリー、何だか分かるのか?」

「ま、まぁ・・・・・・似たようなモノを知って「みゃ~ん」・・・・・・るような気がするけど、きっと気のせいだ。私は何も見てない」

 言いかけた途中で、横手から聞こえてきた言葉にダラダラと冷や汗を流し始めた彼女。その姿を訝しげに見ながら声を掛けてきた人物に視線を移す。

「何が『みゃ~ん』だよ・・・・・・猫にでもなったのか?」

「ふふん、私は猫みたいに気まぐれだからね、ちゃんと繋いでおかないと何処かに行っちゃうわよ?」

「そうか、俺は家猫に興味は無いから好きにしていいぞ、外行って縄張りでも広げてくるんだな」

 タンタンっとタラップの階段を軽快に降りて来る橘にそう声を掛けて肩を竦める。
 確かに、最初は彼女を猫見たいな女性と思ったが最近は犬にしか見えない・・・・・・犬派か猫派か、古来より対立する好みなので判断に迷うとこだ。


 ―――ちなみに自分は猫派だったりする。


「どちらかと言えば、栞はワンちゃんっぽいわよ?」

「前は本当に猫みたいな人だったんですけどね・・・・・・」

「何よ、アルフも真奈美も・・・・・・好きに言ってくれちゃって」

 遅れてやってきたアルフや真奈美に喰いつく橘、そんないつも通りの馬鹿騒ぎをし始めた皆の姿を見て自然と笑みが漏れる。

 そうだ・・・・・・俺はこいつらの足を引っ張らないようにする。それ以外は必要ない・・・・・・今はただ、それだけを考えるとしよう。






<オルフィーナ・ルン・グリュックスブルク>

「・・・・・・」

「どうしたの・・・・・・姉さん?」

 背後からそう声を掛けられ、賑やかな彼らの姿から視線を外して背後に振り返る。

「姉さん・・・・・・分かっていると思うけど」

 そう言って私に話し掛けるファーナの様子が何処かおかしい・・・・・・私が行う行動を言い咎める様子では無く、何かを警戒・・・・・・いや不安に思っているのが彼女の纏う雰囲気から感じ取れる。

 その理由には心当たりがある。

「・・・・・・大丈夫」

 そう答えながらファーナに心配を掛けてしまった自分を恥じる。
 最近の自分は何処かおかしい。具体的に何がと聞かれると即答は出来ないが、自分自身の言動に何処か違和感を感じる。

 何時からだろうか?

 記憶にあるのは・・・・・・そうだ、隆が私に自分の妹の話を聞かせた時からだ。
 あの時から何かがおかしい・・・・・・それに彼を見ていると、何かを思い出せそうで思い出せない、そんなもどかしさも感じる。
 だからか、ここ最近は色々と考えることが多くて気持ちの整理がつかなかった。ただそれでも自分では平静を装っているつもりだったが・・・・・・ファーナには全てお見通しだったのかもしれない。

「心配しないで、自分の役目は分かってる」

 尚も不安そうだったファーナの瞳を真っ向から見据えてそう答えると、ファーナは小さく溜息を付いて頷いてくれた。

「・・・・・・午後からまた施設に?」

 質問に頷くと、彼女は少し後ろめたそうに言葉を濁す。

「そう・・・・・・私は午後から城崎中尉と話があるから行けないわ。ごめんなさい姉さん」

「大丈夫、ファーナはファーナの役目を果たして」

 ファーナが謝る必要は無い。仮設居住区に身を寄せる国民たちへの激励は私の役目だ。
 むしろ、そのことを手伝え無いことに負い目を感じているファーナの様子に疑問を覚える。

「じゃぁ・・・・・・また後で」

 そういい残し立ち去るファーナ、その背を見ながら彼女も自分と同じように何かを悩んでいるのかもしれない・・・・・・そんな考えが頭を過ぎった。







 ―――冒頭の2時間前、基地内通路。

<瀬戸、真奈美>

「ねぇねぇ隆、今日は何食べるの?」

「ん・・・・・・そうだな・・・・・・しかしここのPXってさ、場所が場所だけあって魚しかないんだよな?」

「まぁ、漁業が盛んだから当然だな。なんだ隆?お前魚が駄目なのか?」

「そうだよアザちゃん、隆さんはお魚さんが駄目なの~」

「そう、苦手なんだよあの生臭さが・・・・・・でもな~前に肉を頼んだら鯨が出てきたんだよな・・・・・・捕鯨規制は・・・・・・あるわけないか、このご時勢に」

「旦那、その気持ち分かります!!俺も肉が喰いたいっす!!血が滴る分厚いステーキ!!山盛りのポテト!!・・・・・・ああ、ステイツの料理が懐かしい」

「この馬鹿ッ!!場所を考えろッ!」

(はぁ・・・・・・情けないなぁ)

 ガヤガヤと騒がしい皆の背を見ながら内心でポツリと呟いてしまう。

 世界中を見て廻っても最新鋭機として誉れ高いEF-2000、そんな高性能機を任せられたというのに先ほどの体たらく・・・・・・思い出すだけで自分が情けなくなる。
 機体が悪いわけでは無い、推力、反応、出力、その何れにおいてもEF-2000は今まで搭乗していた不知火に勝っている。
 だと言うのに、訓練で満足な結果を残せていないのは・・・・・・単に自分の力量不足としか言いようが無い。

「だけどな隆、合成食料じゃないんだぞ?今時珍しい天然素材なんだぞ?ソレを食える権利があるのに、お前はソレを拒否するのか?」

「そうだよ~隆さん好き嫌いしちゃメなの~」

「・・・・・・アレルギーなんだ・・・・・・いや、嘘、冗談、そんな可哀想なもの見るような目をしないでくれ」

(瞳大尉が乗ればいいのに・・・・・・)

 前を歩く彼女の背中を見ながら至極全うな考えが頭を過ぎる。勿論、隣を歩くグラサンは論外。
 彼女のような優秀な衛士は優秀な機体に乗るべきだ。少なくとも自分のような半人前の衛士がEF-2000なんて高性能機に乗るべきではない。
 だと言うのに・・・・・・皆、口を揃えて私にEF-2000に乗れと言う。

「俺には無理だ、第三世代機なんて敷居が高すぎる」

「私も隆と同じ、不知火ですら持て余し気味だしね」

「私は猫ちゃんがいいの~、フウちゃんはとんがり帽子が痛そうで嫌なの~」

「瞳大尉と同じく、俺もアレの外見がどうにも好きになれない」

「・・・・・・だそうだ真奈美。何事も経験だ、若いうちに色々乗っておいたほうがいいぞ?」

 なんて口々に言って私から不知火を取り上げ、皆で私にEF-2000に乗るよう強要してきた。
 本当に酷い、日本には分相応って言葉があるのを皆は忘れてしまったのだろうか?

(でも、瞳大尉がEF-2000に乗るとなると、誰かが隆さんと一緒にF-14Dに乗ることになるんだよね・・・・・・誰が乗るんだろう、もしかして私?それはやだなぁ・・・・・・色々と大変そうで)

 主に栞さんとか、栞さんとか、栞さんとか・・・・・・ああ、その辺りも考えてこの配置になったんだろうか?そう考えるとむしろ幸せかも。

「あら?皆さん御揃いでお食事?」

「あ、こんにちはミツコさん。ええ、訓練も終わったのでこれからPXに行こうかと・・・・・・」

 急に背後から声を掛けられて思考が中断する。この問題はもう考え無いことにしよう、うん、それがきっと正しい。
 ミツコさんに振り向いて一人でそう納得していると、呼び止めた彼女が何処か逡巡した表情を私に見せていた。

「どうかしたんですかミツコさん?・・・・・・ああ、よかったら一緒に食事でも・・・・・・」

「ええ、同席させて頂くわ・・・・・・そう言えば、今日も外の配給施設に手伝いにいくのかしら?」

「へ?・・・・・・ええ、多分」

 どうして彼女がそんな質問をしてくるのだろうと疑問に感じながら、前を歩く隆さんに視線を送る。
 手伝いに行こうッ!!っと言い出すのは基本的に隆さんだ、午後の空いた時間に何時ものように手伝いに行くかは彼の行動次第で決まる。

「ああ、いつものね・・・・・・今日はちょっと遅れるかも、悪いな真奈美」

 遅れる、っと言うことは彼は行く気があると言うことだ。

「はぁ・・・・・・分かりました、先に行って待ってますね」

 溜息を付きながら頷くしかない、どうせ彼が行かなくてもオルフィーナ中尉は間違い無く行くはずだ。
 部隊の仲間として苦労は皆で分かち合わなければならない。それに私も難民キャンプにいた身分だ、彼らの苦労が少しは理解できる。
 困った誰かの助けになりたい・・・・・・この考えは偽善だろうか?

「ああ、それと葵にも用事があるから、午後は時間作ってくれよ」

「え?・・・・・・な、なによ・・・・・・改まって」

 急に話を振られて葵さんがビックリしている、その横で栞さんが無表情で佇んでいるけど・・・・・・何時ものことだよね。

「・・・・・・何を考えているが知らないが、熊蜂に関してだ。前はアレのお蔭で助かったから礼を言ったけど・・・・・・問題ありすぎるぞアレ」

「??・・・・・・なんのこと言ってるの、隆さん?」

 隆さんの言っていることの意味が理解できないのか、葵さんが首を傾げる隣で栞さんの瞳からだんだん光が消えていく・・・・・・きっと隆さんが話を振らないからだね、うん。

「と、とまぁ、そう言うわけで午後から避難所にある配給施設には皆で行くと思いますよミツコさん」

 とりあえずもう其方は見ないようにしてミツコさんに笑顔で答える・・・・・・引きつってないよね、私の顔。

「そう・・・・・・出来れば行かないほうがいいけど・・・・・・行くなら気を付けてね、瀬戸少尉」

「??はぁ・・・・・・分かりました」

 珍しく要領の得ない言葉を呟くミツコさん、そんな彼女の態度に私は生返事を返すことしかできなかった。








 ―――冒頭の1時間前、ナルサルスアーク市街地幹線道路。

<三澤 静流>

「ふむ・・・・・・」

 ガタガタと揺れる輸送車の中、手にした書類に目を通しながら小さく溜息を付いてしまう。
 胸ポケットから煙草を一本取り出し指で弄びながら思案する・・・・・・今に始まったことではないが、正直、今回ばかりは頭が痛い。

(予備機にしたF-16にそれぞれ乗せるか・・・・・・しかし隆の今の技量を考えると不安が残るな)

 午前中に行った実機訓練、その詳細なデータを見ながら考えを巡らせる。
 実機訓練の名目は中隊の連携錬度を確認するためだったのだが、色々と面白いことが分かった。

 自分が率いる第一小隊。姫君が二人いるので前衛に出る機会は少ないが、真奈美がEF-2000に搭乗したことでいざと言うときの突破力を得ることが出来た。まだ機体に慣れていない様子の真奈美だったが、それも時間の問題だろう。
 本人は何か迷っているようだったが、不知火をあっさりものにしたように、EF-2000もそれほど時間を掛けずにものしてしまうに違い無い。
 
 そんな真奈美と同くEF-2000に搭乗することになった川井。お蔭で奴が率いる第三小隊はその突破力が飛躍的に向上している。本人は乗り難いとぼやいているが、川井とEF-2000の相性はいいようだ・・・・・・乗りなれた機体に信頼を寄せるのは軍人として扱く全うなことだが戦術機など所詮は道具だ。優秀な衛士であれば戦術機なんて道具は使いこなしてもらわねば困る。

(・・・・・・この二人は乗り換えに成功したと言うべきだろうな)

 問題は残る一組・・・・・・いや一機か。
 第二小隊、その小隊長たる瞳とその相方が乗る機体が・・・・・・問題だ。

 F-14D、確かボムキャットだったか・・・・・・高性能ミサイルの代名詞でもあるフェニックス、それを装備できる機体は確かに魅力的ではあるが、ただの一機がもたらす支援能力にはおのずと限界がある。
 先ほどはJIVESを使用しての訓練だったのでフェニックスや各種兵装の使用を許可したが・・・・・・実戦であれらが使用できるかどうかはなんとも言えない。
 確かに高性能だが、一発あたりがとんでもなく高価なミサイルであるフェニックス。本家本元の米軍ですら使用には制限があると言う貴重なミサイルを、国連の末端部隊に所属しているたった一機の機体のために回してくれるのだろうか?
 両足のコンテナに格納されたMark77にしても同じことが言える。使用制限がある代物など使いにくくて仕方が無い・・・・・・それ以前に、あのF-14Dは余りにも弾薬消費量が激しすぎる、長時間継続して戦闘行為を行うには余りにも不向きだ。

(・・・・・・厄介な機体を回してくれたものだ)

 土台無理な話なのだ、海軍機であるF-14Dに陸軍機との連携を組ませること自体が。
 空母搭載モデルの運用思想は与えられる任務の性質上支援機としての色合いが強い。
 熊蜂はまだ良かった、アレは海軍機と言ってもその実情は電子戦機だ。部隊に必要な情報や索敵、支援を万能にこなしてくれたいた。
 F-14Dは特性が違いすぎる・・・・・・複座の点が同じなだけで他は全て別物だ。
 それでなくともうちの中隊は使用する機体が統一されていない、帝国軍、米軍機、欧州機、それらを纏めて部隊として連携させるのは容易ではない。

 一度、小隊の構成を変えてみるのもいいかもしれない・・・・・・EF-2000の機体数が多くなったことだし、EF-2000だけの小隊と帝国軍だけの小隊と分けてみるのもいいだろう

 ・・・・・・しかしこう色々と考えると、F/A-18と言う機体は隆にとって打って付けだったのかもしれない。

「その辺りも考えて、夕呼は隆にアレを与えたのかもな」

 嘆息交じりにそう呟くと、隣に座っている部下が此方に顔を向けてくる。

「三澤大尉・・・・・・お疲れでしたら、詰め所で休んでいらしゃっても良かったんですが」

 無表情、付け加えて抑揚の無い声で私に具申するオルフィーナの質問に苦笑してしまう。

「なに、疲れているわけじゃない・・・・・・少々、考えごとをしていただけだ」

 その返答に納得したのかどうかは分からないが、再び表情の無い顔を前に向ける姫君。

 彼女のそんな横顔を見ていると、彼女と似たような立場にいる一人の少女の姿が脳裏に過ぎる。
 確か真奈美と同じ年、だと言うのにも重責を背負わされた帝国の象徴・・・・・・やはり人の上に立つ人間と言うものは何処か似通るのかもしれない。
 本人がそう望んだわけではなく、その周囲が望むが故に・・・・・・だろうが。

(難儀なことだな・・・・・・まぁ人のことは言えんか)

 かつて自分がその筆頭であったことを思い出しながら、再び手元の書類に目を落とすと・・・・・・

「・・・・・・なんだ?」

 輸送車のハンドルを握るジャックが訝しげな声を上げる。
 何事かと思い視線を前に向けると・・・・・・配給施設がある方向から、避難民たちが必死の形相で走ってくる姿が見えた。

「施設で何かあったのか?」

 助手席に座るハティの呟きに答えるかのように、ジャックは輸送車のスピードをゆっくりと落としていく。

「どうしたんですか~?何かあったんですか~?」

 窓を開けて真奈美が通り過ぎる人に声を掛けるが、皆それに答えることなく走り過ぎて行ってしまう。
 状況が飲み込めずどうしたものかと皆が思案していると・・・・・・

「おいッ!!あんたらグラサン野郎といつも一緒にいる連中だよなッ!?」

 10歳ぐらいの少年がそう叫びながら輸送車近づいてくる。

「あ・・・・・・あの子」

「知り合いか?真奈美?」

「いえ、知り合いってほどでも・・・・・・」

 何故か不機嫌な様子の真奈美の態度に疑問を感じるが、少年はバンバンと輸送車のドアを叩きながら併走し始める。

「施設に行っちゃ駄目だ!!止まれよッ!!」

「なんだってんだ・・・・・・坊主?」

 ジャックがブレーキを踏んだのだろう、車両がその場に止まり少年が車の窓に身を乗り出して尚も叫ぶ。

「姫様が乗ってるんだろう!?早く基地に引き返せよ!!」

「・・・・・・私がいると駄目なの?」

「なんなんや~?なんかあったんかいな~?」

 要領を得ない少年の言葉にオルフィーナを含めた全員が首を傾げていると、後続の輸送車を運転していた川井が車から降りて近寄ってくる。

「・・・・・・配給所で何かあったのか?」

 酷く焦った様子の少年に私がそう声を掛けた直後。

 ―――耳を劈くような砲撃音がグリーンランドの空に轟いた。







 ―――冒頭より30分前、第一格納庫。

<城崎 葵>

「なんでお前まで此処に残ったんだ?」

「だって、最近隆とあんまり一緒にいられないから・・・・・・駄目?・・・・・・いたッ!!」

 柄にも無く上目遣いで彼に媚を売った栞だけど失敗だったみたい、おでこにデコピンされて蹲ってる。

「言ってろ、こっちとらお前のお蔭でエライ迷惑してるんだから・・・・・・いや、正確には静流さんのせいか」

 しみじみと呟く彼の言葉に同意する。
 最近の栞の暴走には自分も巻き込まれた口だ。話があると部屋に来た彼女を招き入れた直後、突然何かを嗅がされて意識を失い、目が覚めれば彼のベットで寝ている始末・・・・・・しかも下着姿で。

 本当に恥ずかしかったんだから・・・・・・見せると分かってたらもっと良いもの着てたのに・・・・・・

「本当、皆さんいつも楽しそうで羨ましいわ」

 後ろを歩くファーナ中尉がポツリと呟いた言葉が私の耳に入る、明らかに呆れた様子だが最早彼女にとっても見慣れた光景だろう。

「ふぅ・・・・・・ファーナ中尉、帝国軍の将兵が全てあの人と同じとは思わないでくださいね?」

「ええ、それは勿論承知しております。以前我が国にいらした帝国軍の方は、若いながらもとても優秀だったと聞き及んでおりますので」

「そうですか・・・・・しかし申し訳ありません、ファーナ中尉までこんな場所に付き合せてしまって・・・・・・」

 チラリと、前を歩く隆さんを一睨みしてから彼女に謝罪する。

「いえ、構いませんわミス城崎、むしろ頼んだのは此方ですのよ?・・・・・・貴女のご実家である光菱には我が国も色々と援助をして頂いておりますので、むしろ感謝すべきは此方のほうですわ・・・・・・EF-2000の二機程度お安いものです」

 ニッコリと笑みを浮かべて答えてくれる彼女が言った通り、補充された二機のEF-2000は彼女の協力があってこそ得られた機体だ。
 欧州連合を成す各国の部隊にも未だ配備が行き届いていない最新鋭機、ソレが二機も国連の末端部隊に回ってきた理由・・・・・・何らかの圧力があったことぐらい誰でも察しが付くだろう。

(・・・・・・日本の武家とはえらい違いね)

 チラリと、ファーナ中尉の顔を盗み見ながら内心で呟く。

 日本に武家が存在するように、欧州には貴族が存在する。
 特権階級の頂点を形成する両者には類似点が多い。血筋と家柄を重んじ、自分たちの存在に確固たる矜持を持つところなど・・・・・・一般人には理解できない価値観を持っている。

 そんな両者の違いと言えば、歩んできた歴史の積み重ねがもたらす周囲への影響力だろう。
 二千年以上の歴史がある皇帝家であれば話は別だが、日本の武家は総じて欧州の貴族に比べて日が浅い。
 度重なる戦国時代、開国、世界大戦、それらの渦中に巻き込まれてきた武家は、衰退と繁栄を繰り返しながらも今尚日本の剣足るべく己を磨き続けている。
 帝国軍とは独立した近衛軍を設立し、己が持つ権力を振るって議会に圧力を掛ける彼ら武家たち・・・・・・それが田舎侍の筆頭と他国から卑下される理由にもなっている。

 騎士団を形成し、民を守り領土内の繁栄を続けてきた欧州の貴族は、度重なる戦乱と革命の憂き目を経験し、その在り方を常々変化させてきた、
 産業革命以降、近代化を推し進める著名な企業の設立に貢献した貴族たちは、総じて企業への発言権が強い。
 それが古き良き武士としての生き方に重点を置く武家との決定的な違いなのだろう。
 
 公衆の面前でも、未だに己の権力を振りかざすかのごとく専用色の衣装を纏う武家、反して欧州の貴族はスーツを着込み一見すれば何処かの企業の人間にしか見えない。
 そんな欧州の貴族の中でも、王族が持つ発言権は並大抵では無い。流石に英国にいる女王陛下程ではないが二人の姫君が持つ発言力はそこらの貴族が持つ権力よりも遙に大きい。
 同じ皇族である皇帝陛下や政威大将軍殿下とは扱い方が余りにも違う・・・・・・これが敗戦国と勝利国の違いなのかもしれない。

 なんにせよ、自分の立ち位置を把握し上手く立ち回れる権力者ほど厄介なものは無い。自分の家柄にふんぞり返って威張り腐っている連中のほうがどれだけ可愛いことか。
 頭の回る権力者には此方も相応の覚悟を持って対応しなければならない、果たして彼女がEF-2000を提供した見返りに望むのか?それを考えるだけで頭が痛くなってくる・・・・・・

(隆さんと知り合ってからこんなのばっかりね・・・・・・良いことなのか悪いことなのか、判断に悩むわ、ほんと)

 心の中で溜息を付いてしまうが、自分の持つパイプが増えていることは確かに感じる。
 『世の中なんざコネあってナンボだ』などと隆さんが前に叫んでいたけど・・・・・・否定できないのがちょっと悔しい。

「でだ・・・・・話ってのはコイツのことだ」

 内心で恨み言を向けていた彼が立ち止まって指を刺すのは・・・・・・日本から持ち込んだ彼の元乗機。
 他の機体と同じように整備パレットに固定された熊蜂。他との違いは整備らしい整備が行われていないので、整備員が誰も機体に取り付いていないことくらい・・・・・・はて?既に乗らなくなった機体に彼は一体なんの用があると言うのだろうか?

「・・・・・・?・・・・・・ごめんなさい隆さん、私、貴方の言いたいことが分からないんだけど・・・・・・」

 理解できずに彼にそう聞くと、彼は一度大きく溜息を付いてから熊蜂を見上げる。

「まぁ、こんな機械を作れる技術があるんだ・・・・・・AI如きで喚く俺が間違っているのかもしれないけどさ」

(・・・・・・え~あい?)

 相変わらず彼の言ってる意味が理解できずに首を傾げると、彼はそんな私の態度に痺れを切らしたのか、熊蜂に向かって突然叫び始めた。

「おいアシュ公!!いつもの皮肉はどうしたんだ!?珍しく黙ってるんじゃない!!」

『・・・・・・皮肉とは失礼だな社中尉、私は有りのままを伝えているだけだが?』

「「「ッ!?」」」

 返ってきた返答に全員がギョッとした表情を作る。
 私を含めた三人が彼に返答した人物の姿を探すが・・・・・・誰もいない、其処には熊蜂がただ鎮座しているだけだ。

「だ、誰か乗ってるの?」

 栞がそう呟くが違う、開放された管制ユニッのト内部には誰も乗っていない。
 何処かの端末を操作して、誰かが熊蜂のスピーカーを使って話しているのではないかとも考えたが、そんなことをして得をする人間などいる筈が無い。
 そう言った悪ふざけをしそうな本人は傍らでイライラとした様子で熊蜂の頭部を睨んでいる、その姿はとても演技には見えない。 

『それにアシュ公、などと言う略称は止めて欲しいな。私にはアシュラーダと言う名前がある』

「長いんだよ・・・・・・アッシュとかアシュ公で十分だ」

「や、社中尉、これはどう言うことかしら?」

「ん?ファーナ、詳しいことは葵に聞いてくれ」

 私を半目で見ながら隆さんがファーナ中尉にそう促すけど、私だって知らない・・・・・・まさかAsura-daにこんな機能があるなんて今まで知らなかった。
 必死にその意思を示すために首を横に振っていると、彼は怪訝な表情で私と熊蜂を見比べ始めた。

「・・・・・・なんだ?他の人間に知られたら不味いことだったのか?・・・・・・ってもコイツ、口だけは達者だからとっくに色んな人にばれてるんじゃないのか?」

『口が達者などと社中尉には言われたくない、私は寡黙であるように日々努めている』

「減らず口ばかり言ってるくせによく言うよ・・・・・・だけど今の話が本当なら、普段は無口なのかお前は?」

『そうだ、それ以前に私に話しかけようとする変わり者・・・変態は社中尉ぐらいしかいないな』

「ぬぐッ・・・・・・否定できないのが辛いな、オイ」

 それが当たり前のことのように会話を続ける二人・・・・・・いや一人と一機。

「た、隆さん・・・・・・何時から熊蜂と話してるの?」

 恐る恐る両者を見比べながら聞いてみると、彼は平然とした口調で答えてくれた。

「えっと・・・・・・何時だ・・・・・・この基地に来てからだから・・・・・・」

『社中尉が米軍基地でF-15を墜落させた直後だ』

「そうそう、俺もアレはショックだったから思わず熊蜂の中で愚痴を漏らしてたら突然コイツが答えてくれたんだよな。あの時は俺もどうかしてたからな~」

『「お前が一番だ、他の奴に乗っても自信が無い、俺をまた乗せてくれ」などと、まるで恋人に囁くかのように呟いていたな、聞いている私も気味が悪くなって思わず答えてしまった』

「う、うっさいぞアシュ公!!余計なことは言うな!!」

『直後、社中尉は随分と脅えた様子だった』

「淡々と語るな!!・・・・・・くそ、何が恋人に囁くようにだよ、明らかに男の人格組み込んだお前にそう言われるとキモイぞ!!」

『それは心外だな、私の基礎人格は女性だ』

「嘘付くな!!」

『ああ、よく分かったな』

 目の前で繰り返されるやり取りを見ていると、立ち眩みと言うか眩暈を覚える。
 状況は未だ飲み込めないが、Asura-daの言葉通りならば彼がAsura-daに声を掛けたから話し始めたらしい。
 機械が意思を持つ・・・・・・所詮はプログラムされた模倣の人格だろうが、Asura-daを此方に渡した第参開発局の面々はこんな機能があるとは一言も説明をしなかった。
 ただのお遊びで組み込んだのか、それとも何かしらの意味があるのかは分からないが・・・・・・相変わらずあの男に遊ばれているかと思うと腹が立つ。

(それにしても、戦術機に話しかけるなんて・・・・・・隆さんらしいと言うべきかしら)

 Asura-daと言い合いを繰広げている彼の背を見ながら呆れてしまう。
 それにしても会話が可能な演算装置とは・・・・・・正直使い道に困る。それだけのスペックを持っているなら他の機能にその処理能力を割り振ればいいものを・・・・・・

「ったく、どうせお前なんて日本に送り返される運命の屑鉄なんだからな!!なんなら今すぐスクラップにしてやろうか!?」

「た、隆・・・・・・そんな戦術機あいてにムキにならなくても・・・・・・」

『ああ、橘嬢の言う通りだ。むしろ社中尉こそ大人しく日本に帰ったらいいのでは?今の貴方では隊の足手纏いもいいところだろう』

「んなっ!?・・・・・・い、痛いところを突いてきやがる」

「ね、ねぇ隆、なんでそんなに普通なの?機械が話してるのよ?・・・・・・もっとこう・・・・・・驚かないの?」

「そ、そうね橘少尉の言う通りだわ・・・・・・余りにも自然に話すから唖然としてしまったけど・・・・・・よく機械と平然と話せるわね?」

「ん?そうか?・・・・・・AIが話すなんて当たり前だろう?・・・・・・漫画じゃ似たような代物は何度も使われてるし・・・・・・っていやいや、なんでも無い、気にしないでくれ」

「「?」」

『お二人とも、社中尉の言葉を真に受けないほうが宜しいかと、所詮、彼は妄想癖が酷い変態だ』

「おい!!さらっと酷いこと言うなアシュ公!!」

 でも、隆さんと言い合っている姿を見ていると、搭乗者のコミュニケーションツールとしては使えるのかもしれない。
 戦場で感じるストレスを会話によって解消とか・・・・・・うん、無駄ね、自分の考えが馬鹿らしくなってきた。

(まぁ、いいわ・・・・・・有効かどうかはさておき、実害があるわけじゃないからこのまま放っておけば・・・・・・)

 それでも後で調べる必要がある、そう考えながら熊蜂を見上げた瞬間・・・・・・
 突然、格納庫の天井に設置された照明の明かりが消える。

「?・・・・・・なんだ・・・・・・停電??」

 天井を見上げながら隆さんがそう呟くが、基地の電源は二重、三重に確保されているので停電など普通はありえない。
 しかし現に電源は落ちている・・・・・・その事実に首を傾げていると、機体の整備に就いていた整備員たちも不思議そうな顔をしながらざわめき始めた・・・・・・直後。



 格納庫の隔壁が前触れも無く吹き飛んだ。









 ―――冒頭より10分前・配給施設周辺、仮設宿舎内。

<オルフィーナ>

「戦術機ジャックか・・・・・・笑えん話だな」

「確か護衛用の機体は遠隔操作で自律機動してたんとちゃうんか?なんで操縦できるんや?」

「手引きした人間がいる・・・・・・そう考えたほうが妥当だな」

 桐島中尉の苦笑を含んだ話を聞きながら、そっと窓から周囲の様子を伺おうとするが・・・・・・

「駄目ですオルフィーナ様!」

 肩を捕まれて、ブリュッケル中尉に制止されてしまう。
 様子を見るのを諦め、身を潜めている手狭な部屋に視線を戻すと。

「さて・・・・・・現場も確認できた、これで満足か?」

 部屋の壁にもたれ掛かり、私を見ながらそう呟く三澤大尉。
 彼女の言いたいことは分かる、今自分たちが行っている行為は明らかに自らの本分を逸脱している。

 自分たちが今いるこの場所は避難民のために立てられた仮説宿舎、生活感が溢れる手狭な部屋に私を含めた5人の衛士が息を潜めて隠れている。

 本来であれば・・・・・・部屋の窓から見える配給施設で、今日もこの町で暮らすデンマーク国民へ食料を渡すはずだった。だと言うのに、こそこそと部屋に隠れて外の様子を伺っている私たち。

 事の発端は、輸送車を止め少年から話を聞こうとした直後に響いた砲撃音。
 それがMK-57の発射音だと、戦場で幾度と無く聞いた経験で理解することができた。
 少年の話では配給所の警戒に就いていた戦術機が、何者かの手によって突然動き出したとのことだ。
 普段はただ其処に立っていただけの巨人が動き出したことで、配給の列を作っていた人々は慌て逃げ出そうとしたが、戦術機を奪った人間の仲間と思しき連中が現れ、数十人が人質として捕まってしまったらしい。

 その説明を聞いた直後、すぐさま現場に向かおうとした私を部隊の全員が制止した。
 彼らが制止する理由は分かる、コレは自分たち衛士の職務では無い、そして私を危険な現場に行かせるわけには行かないのだろう。
 だとしても、私は国民を見捨てることなどできない。せめて現場の様子だけでも確認すべきだと進言し粘ると、呆れた様子で三澤大尉はその許可を出してくれた。
 もしものことを考え、荒事には不向きな真奈美と瞳大尉をトゥルーリ少尉の警護の下で基地に帰らせ、残った皆で身を隠しながら配給施設傍の仮設宿舎まで辿り着いた。
 配給施設を占拠し、戦術機をジャックした集団はそれ程大人数と言うわけでは無い様だ。ここまで辿り着く間に何らかの妨害があるかと思いきや、周辺警戒にまわすほど人手は無いらしく、あっさりと視認できる場所まで侵入することができた。

 だが・・・・・・ここまでだ、此処から先には進むことが出来ない。ろくな装備も持たない自分たちが、武装している集団を鎮圧するこは不可能だ。

「その顔では・・・・・・承服できないといった感じだな」

 私の顔を眺めていた三澤大尉はそう言って苦笑する。

「しかしだ・・・・・・私たちの装備でアレを無力化することは不可能だ、それは分かるな?」

 頷く、携帯している拳銃程度で戦術機の相手が出来るわけが無い。乗ってきた輸送車に護衛用の小銃が積んではあるが、やはり戦術機相手には何の気休めにもならない。

「人数は少ない見たいっすね、っても何処から支援を受けているのやら・・・・・・武装は本格的ですぜ」

 裏口の警戒をしていたグーデリアン少尉が唸るような声で呟くのが聞こえる。
 グーデリアン少尉とロレンス少尉の二人は米軍出身だけあり対人訓練のノウハウが豊富だった、此処まで辿り着いたのも二人の先導があってこそだ。

「やはりここは基地に戻るべきでは?テロであれば何らかの要求がされていることでしょうし・・・・・・連中の鎮圧はMPや即応部隊に任せるのが得策かと思われます」

 油断無く拳銃を構えながらそう進言するロレンス少尉、確かに彼女の言う通りに行動するのが最善なのだが・・・・・・

「ハティの言う通りなんだが、未だに基地から鎮圧のための部隊が来ない・・・・・・幾らなんでも対応が遅すぎる、さて?どうしてだと思う?」

「・・・・・・基地に何かあったと考えるべきやな、砲弾は基地に向かって撃たれた見たいやし」

「もしくは犯人が何らかの要求をしている・・・・・・とかだな、例えば基地から機体を出した瞬間、避難民なり基地に向けて砲撃するとか」

「・・・・・・くそ、両肩のガトリングは飾りでも手持ちのMK-57は実弾が装填済みだからな、さっきの制射で消費した弾数を差し引いても弾装が空になるまで撃たれたら・・・・・・当たり一面瓦礫の山になるぞ」

「・・・・・・」

 皆が思い思いの意見を言い終わると、隠れている宿舎の中を沈黙が支配する。
 全ては推論だが、その全てが現実味のあるものばかり・・・・・・真実を知ろうにも、乏しい情報で状況を把握することは不可能だ。

「・・・・・・」

 窓からそっと配給所を確認するが状況に変化は無い。
 配給所の前に仁王立ちするA-10、数人の武装兵に包囲されて身を寄せ合う避難民たち・・・・・・っと、その光景に変化が起きた。戦術機の胸部ハッチが開き、搭乗している人物がその姿を見せる。

「ッ!?」

「アレが親玉やろか?」

「見た目からしてそうだけど・・・・・・私と同じゲルマン系か・・・・・・複雑な気分だな」

 私の動揺に気づいた人はいないようだった。皆、A-10から顔を見せた人物の姿に釘付けになっている。

「・・・・・・隊長、避難民の中・・・・・・頭に白いスカーフを巻いた女と、奥にいる茶色いジャケットの男、態度がおかしい。恐らく避難民の中に紛れている共謀者かと」

「・・・・・・セオリー通りか、どうやら難民解放戦線の一派と言ったところだな・・・・・・気持ちは分かるが、面倒な話だ」

 目ざとく共謀者を見つけた桐島中尉の言葉に眉間に皺を寄せながら頷く三澤大尉。
  A-10から出てきた男は仲間に向かって何かを指示している様子だったが、何を話しているかまでは分からない。だが、くすんだオリーブ色の野戦服に身を包み、頭には眼帯と戦術機の操縦に必要最低限なものであるヘッドセットを身に着けたその姿は・・・・・・自分の記憶にある彼の姿と一致する。

 幾度と無く私を打ち倒し、幾度と無く私を罵倒し・・・・・・私を鍛え上げた人物と。

「・・・・・・こう言っちゃ失礼なんでしょうけど、大方北にある難民居住区の現状を憂いて決起した・・・・・・ってとこっすかね」

「此処は難民施設の中でも特に恵まれた環境だからか、米国でも此処ほど恵まれた場所は少ないし・・・・・・彼らがやっかむのも当然なのかもしれないな」

「・・・・・・そやな、日本かて酷いもんや、棒切れ持って立ち上がる元気すら奪われるぐらいにな」

「私がいたアフリカの施設もな・・・・・・ほんと、複雑な気分だよ・・・・・・何のために戦うのか分からなくなるくらいにな」

「・・・・・・余計なことは考えないほうが言い、俺たちは衛士だ、それ以上でもそれ以下でも無い」

「桐島、それがお前の割り切りか?・・・・・・ま、私も似たようなものだがな」

 言葉の端々から、皆思うところがあるのだと推察できるが、今は下手な感傷に浸っている場合では無い。

「私が・・・・・・彼らを説得します」

「許可できん」

 搾り出した提案を取り付く間もなく三澤大尉に即答で却下される。
 だが、元から彼女の許可を貰おうなどとは思っていない。私は彼らに忠告したいだけだ・・・・・・今から私がすることに手を出すなど、部隊の皆を危険に晒すわけにはいかない。

 彼ら衛士の本分はBETAを駆逐すること。交渉の真似事など衛士の仕事では無い。
 だが、自分は衛士である前にデンマーク王族の一員なのだ。故に国民を守る義務がある。

 それに・・・・・・あの男は私の知り合いだ、彼が道を踏み外した原因が私にあるのであれば、この事件の責任の一端は間違いなく私にもある。

「・・・・・・皆は此処に隠れていて」

「ん?姫様今何か仰いま・・・・・・オルフィーナ様!?」

 ブリュッケル中尉の制止を振り切り・・・・・・私は宿舎を飛び出し、配給施設に向かって走り出した。










 ―――そして再び、場面は冒頭へ戻る。

<社 隆>

『ウィルスと物理的な妨害だな』

「悠長に分析するなよ、幾ら死人が出なかったからって怪我した奴は多いんだぞ?」

 顎にヘッドセットを装着しなが、ら空気の読めない発言をする相手にそう忠告をするが、ソレが届いている感触は一切無い。
 なぜなら相手は機械だ、幾らAIだとしても人間の思考全てを理解できるはずがない・・・・・・理解できているとしても、それは蓄積されたデータによる模倣の感情だ。

「でだ・・・・・・お前は出れるんだな?」

 管制ユニットに乗り込み手元のパネルで機体の状態をチェックしながら質問すると、澱みの無い口調でアシュ公が答えてくる。

『無論だ、現在格納庫内に駐機している機体は全機整備のために厳重にロックされている。だがこの機体は簡易的なロックが成されているだけだ、出撃においてさしたる障害にはなりえない』

「そりゃそうか・・・・・・なんせ輸送される寸前だったからな」

 偉そうに説明するアシュ公に皮肉を返しながら、シートの裏に備え付けられたハーネスを引っ張り出して身体を固定する。流石に強化装備を着ている暇は無かった・・・・・・こんな代物で戦闘機動をおこなった際に発生するGに耐えられるかどうか・・・・・・少々不安が残るが仕方が無い。

(ったく次から次へと厄介ごとばかり・・・・・・俺の行く道は呪われてるのか)

 先ほどの光景を思い浮かべながら内心で噛み締めるように呟く。

 停電した直後、基地を襲った砲弾の雨。
 数発が隔壁を突き破り、駐機していた戦術機や整備担架を破壊した。幸いだったのは燃料庫を始めとする可燃性物資に直撃しなかったことだろう、もしそれらに砲弾が当たっていたら・・・・・・今頃基地の半分は吹き飛んでいたかもしれない。
 突然の砲撃に騒然とした格納庫内だったが、すぐさま医療班を始めとする救急部隊が来たことで落ち着きを取り戻した。そこはやはり軍隊の基地を言うべきだろうか・・・・・・だが、駐機してある戦術機を初めとした武装の類が動かせない状態がまたもや混乱を引き起こした。
 整備員が総出で復旧作業を行っているが、状況はあまり芳しく無い。
 ファーナがMPと話しているのを立ち聞きして分かったことは・・・・・・どうやら配給所にテロリストが現れ、護衛に就いていたA-10を奪って暴れているらしい。

 過酷な環境を強いられている難民たちの生活がなんとかと・・・・・・施設を占拠した連中がそう喚いているらしいが、ようはテロだ。
 どんな主義主張を掲げようが、連中が暴力を振るっていることに違いは無い。

「・・・・・・」

 ヘッドセットが機体とリンクし、戦術機のカメラが捉える周囲の映像が網膜に映し出される。
 砲弾の直撃で吹き飛んだ隔壁、破片で押しつぶされた牽引車両、機体を固定しているアームが外れ横倒しになった戦術機、動かない機材に罵声を浴びせる整備兵、怪我人を治療する衛生兵・・・・・・担架に乗せられる葵の姿。

「・・・・・・ッ」

 葵の姿を視界に収めた直後、意識せずに奥歯を噛み締めてしまう。
 その脇には狼狽した様子の橘と周囲の人間に指示を飛ばすファーナの姿が見える。

 幸い・・・・・・葵の傷はかすり傷程度だ。気を失っているのは、整備クレーンが落下してきた衝撃で気絶しただけ。

 だが怪我をした、他にもたくさんの人間が被害を被った。


『しかし、問題が無いわけでは無い』

「なんだよ、言ってみろ?」

 主機を機動しながらそう促す。格納庫内の戦術機が直ぐに機動できないことが判明するや否や、自分は動けると言ってきたのは他ならぬコイツだ。

『この機体の状態だ。各部の不具合は元より武装の類が一切外されている、また満足な整備を受けていないせいで稼働率は通常の60%まで落ちている。跳躍ユニット内に僅かに残った推進剤では通常飛行ですら一分と持たない。センサー類も武装と同じく外されているので、ECMの使用は愚か、戦域でのデータリンク接続にすら不具合が出る可能性がある』

「なるほど・・・・・・まぁ分かりきった回答だな」

 主機の回転数が上がり、シート越しに微振動が伝わってくる。

『具申する、この機体で向かったところで無意味だ。むしろテロリストを刺激して最悪の事態を招く原因になりかねない。ヌークの部隊を待つか、この基地の機体を使用したほうが確実だ』

「その間にもう一度砲撃されたら・・・・・・終わりだな」

 苦笑しながらそう答え操縦桿をゆっくりと押し込む。

「・・・・・・囮ぐらいにはなれるだろう?っても問答無用で撃たれたときは全力で逃げるぞ・・・・・・ついでに取引とかややこしいことに巻き込まれそうになっても逃げるぞ」

 機体に接続されていたメンテナンス用のケーブルが千切れ飛ぶ・・・・・・その音と機体の駆動音に気付いたのか、多くの整備員が此方を見上げている姿が視界に映る。

『社中尉、一つ聞きたい』

「・・・・・・なんだよ、改まって?」

 格納庫の出口までのルートを確認するが、通路に人が多くで足場が無い。

『なぜそこまでする?この基地に被害が出ても、避難民に死者が出ても、日本から来た社中尉には関係の無い話では?』

「確かに、その通りだな」

 考えるまで無く即答し、自分でも一体何がしたいのだろうと自問してしまう。
 元から何かを考えて行動しているわけじゃない、こうしているのは勝手に身体が動いた結果だ。

 自分は偽善者の類じゃない、その自覚はある。
 アシュ公の言う通り、顔も知らない相手がどうなろうと知って事ではない。その程度の割り切りは、あの戦場で学んだ・・・・・・だと言うのに、こうして行動に移そうとしている自分がいる。

「・・・・・・俺は何がしたかったんだろうな」

 そう呟き自嘲気味な笑みを浮かべる。
 何がしたかったのか・・・・・・そう、この世界の金谷隆は一体何がしたかったのか?何を考えてテロリストになったのか?
 それが知りたいだけなのかもしれない、テロの現場を見ればそれが少しは分かるのかもしれない、頭の何処かがそう判断したから・・・・・・俺はこうして行動に移しているのかもしれない。

「さてと・・・・・・踏み潰されたくなかったら道開けろぉぉぉぉッ!!!」

 前にも同じ事を言ったと思い出しながらそう叫び機体を一歩前進させると、足元で呆然と此方を見上げている橘の姿が見えた。

「・・・・・・アシュ公、一つ教えてやるよ」

『・・・・・・』

 沈黙を返す戦術機に搭載されたプログラム、よく出来た機械だと内心で感心しながら続ける。

「俺は気になったことはこの目で見ないと気がすまない性格でな・・・・・・簡単に言えば野次馬根性ってやつだ」

『随分と難儀な性分だな』

「ああ、だから俺は厄介ごとに自分から突っ込んで行くのかもな」

 嘆息しながら自分の性格に呆れる、だが、これが俺だ・・・・・・今更変えることなんて出来やしない。

「橘ッ!!」

 胸部ハッチを開いてそう叫び、身体を震わせる彼女の姿を肉眼で確認する。
 その姿を見ていると以前見た彼女の姿を思い出す・・・・・・彼女の普段の言動が、本当は脆い自分自身を取り繕うために必要な行為だと言うことは分かっている。
 だから彼女を甘やかしてはならない、彼女が望む言動を自分が取れば・・・・・・彼女は自分に縋り、きっと弱くなってしまう。

 それが分かっているくせに・・・・・・一体自分は何をやっているんだろう?
 
 震える彼女を放って置くことが出来ない。状況が依然と酷似しているだけで、以前と同じことが起きるは到底思えないが・・・・・・不安の芽は摘んで起きたかった。
 だからハッチを開き、橘を向かい入れるために機体の手を伸ばしたが・・・・・・

「社中尉!!私を連れて行きなさい!!」

 開いた手に飛び乗ったのは橘では無くファーナだった。
 そのまま彼女は腕伝いに駆け上がり、管制ユニットの中にヒラリと飛び込んでくる。その余りにも身軽な彼女の姿に呆然としてしまう・・・・・・気づけば橘も自分と同じように口を開いて唖然としていた。

「姉さん達が向かったって連絡があったの!!考えたくは無いけど、姉さんのことだから一人でテロリストと立ち回る可能性があるわ!!」

「ッ、ええぃ・・・・・・ッ!?真奈美、橘を頼んだぞ!!」

 どうやら現場の状況がひっ迫しつつあるようだ、彼女を心配する余裕を俺には与えてくれそうにない。
 タイミングよく格納庫に走りこんできた真奈美を見つけてそう叫び、管制ユニットのハッチを閉じる。

 葵を見て愕然とする真奈美だったが、後から来た瞳とアルフに促され橘を連れて格納庫から出て行く。その姿を安堵しながら見送り、機体を出口の方向に向けるべく操縦桿を握り締める。

「この管制ユニット、予備のヘッドセットは積んでないの!?」

『フロイライン、御所望の品は右手コントロールパネルの裏手にあります』

 複座に乗った経験が無かったのか奥のガンナーシートで騒ぐファーナ。
 その相手をするアシュ公の要領の上手さに呆れながら、一歩一歩機体を前進させる。


 自分のこの行動を早計だとは思いたくない、何かしら意味のある行動だと思いたい。


(懲罰なんざ覚悟の上だ・・・・・・自分で動いた結果はキチンと受け止めないとな)


 内心で自分にそう言い聞かせ、俺は日の光に照らされた愛機を再び空に舞い上がらせた。





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