DONの落書き部屋

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*Edit   

「Muv-Luv 小説」
第二部

欧州編 14話

   男には力があった
 貴族として相応しい力を得るために、幼少の頃より鍛錬を続けたことで得た力が。

 男には地位があった
 長い歴史を重ねてきた名家としての家督、それを受け継いだことで得た地位が。

 男には守るべきものがあった
 祖国の大地と其処に住まう民、そして自らに付き従い慕ってくれた者達が。

 ―――そして男には大切な人がいた。
 尊敬すべき父と母、愛した伴侶・・・・・・そして己の子。

 多くのものを背負い、それを背負い守れるだけの力を持っていると男は自負していた。
 星の空より降りてきたBETAなどと言う異形の存在も、男にとって見れば恐れるに値するものではなかった。
 むしろ男にとっては待ち望んですらいた【敵】だったのかもしれない。
 第二次大戦以降、敗戦国として東西に分断された祖国の内情は、大国の手のひらで弄ばれ疑心と策謀に満ち溢れたものだった。
 そこに現れた明確な【敵】、それは祖国を再び一つに纏める切欠になりうる存在。
 男は歓喜した、幾らユーラシアを席捲したBETAと言えど、領土を失った国々は利己と私欲に塗れた腑抜け国家ばかり。
 大戦中に二発の原爆を落とされ、その後大国に扇動されたとは言え、戦後目覚しい発展を遂げた祖国がBETAなどと言う存在に敗れるはずが無いと男は信じた。

 その考えを微塵も疑うこと事無く男は戦場に立ち・・・・・・敗れた。

 男は全てを失った。
 BETAに敗北した男は全てを失った。
 力は右目とともに失い、地位と守るべきものは祖国が蹂躙されたと同時に消え失せた。
 守れると信じたものが、結局は守ることが出来ず手から零れ落ちたのだ。
 
 何がいけなかったのだろうか?
 BETAを過信していた己だろうか?
 ソ連、中国、そして多くの国が敗走した前例を鑑みなかった上層部の失態だろうか?
 未だに統一されていない祖国の、国家としての脆弱さが浮き彫りになった結果だろうか?
 自問すれど答えはでない。
 どんなに考えても、現実から目を背けようとも、男の周囲は余りにも変わってしまった。

 力を失った男は祖国からある役割を告げられる。
 他国へ訪問し己の持つ経験と技術を伝える役割。
 貴重なBETA戦闘経験者を他国へ派遣することで、少なからず貸し、もしくは見返りを要求する。それが祖国の考えだったのだろう。
 言葉だけで聞けば聞こえはいいかもしれないが、男にとって見ればそれは屈辱でしかなかった。
 祖国に忠誠を誓った高貴たる己が、まるで道具のように貸し借りされる事実。
 男は恥辱に塗れながらもそれを受け入れることしか出来なかった、なぜなら男にはそれしか己の居場所が残されていなかったからだ。
 屈辱と恥辱に耐え忍ぶことで得た役割・・・・・・だがそれも欧州全てががBETAに蹂躙されるまでの僅かな時間しか演じることは出来なかった。

 何もかも失い、生きる術すら失った男は極寒の地に追いやられ、そこである光景を目にする。

 BETAによって国土を奪われ、逃げ延びた先で尚過酷な生活を強いられる祖国の民を。
 生きる気力も無くし輝きを失った民の瞳を垣間見て、男は忘れかけていた貴族としての矜持を思い出した。
 彼らに今一度希望を持たせたいと男は考えたが・・・・・・最早男には何かを起こすだけの力は残されていなかった。
 退役将校とは言え、負傷した一個人に出来ることなどたかが知れている。
 そんな現実に直面し、自分自身に落胆し、憤りを感じていた男に手を差し伸べたの者達がいた。

 それは男が見た者達、虐げられる現状に耐え切れずに立ち上がった者達。

 男の本質は彼らとは違う。
 自身の現状に耐えられなくなった者と、己の在り方を見つめなおした男では望む未来は異なる。
 だが男はその手を握ることを躊躇わなかった、例えその背後に何が居ようと、例えその手段が間違っていようとしても。
 希望を失った祖国の民に、己が出来ることを成すために男は立ち上がった。
 これが正しいことだとは思ってはいない。
 多くの者が傷つくのも予想できる。
 それでも誰かがやれねばならない、光を失った民に仮初とは言えもう一度光を見せるためにも。

 貴族として生きた自分が出来る、最後の役割を演じるために。
 男は止まらない。

 ―――例え、目の前に現れたかつての教え子に手を掛けることになったとしても、男はもう止まらない。















 欧州編  かれが唾棄した現実 中編


 ナルサルスアーク・難民居住区内配給施設

<オルフィーナ・ルン・グリュックスブルク>

「止まれッ!!」

 制止の声と共に私に向けて幾つもの銃口が向けられる。
 それら銃口に晒されながら両手を挙げて歩みを止めると、人質となった人々が私の姿を見てざわめき始める。
 人質の様子に銃を手にした彼らが訝しげな表情を浮かべ、その内の何人かが私の素性に気づいたのか、明らかに狼狽した表情を浮かべた。

(・・・・・・全部で8人)

 揺れる銃口を気にする事無く人質を包囲する者達を確認。
 桐嶋中尉の言葉では人質になっている人たちの中にも共謀者が隠れているとのことだが、その人数までを把握することは出来なかった。
 人質になっている人数は凡そ30人弱、包囲している者の数が8人・・・・・・いや戦術機に搭乗している彼も含めれば全部で9人。
 テロリスト・・・・・・と呼称したくは無いが、武装した手段が人質をとって居座っている光景を見れば、自然とその呼称が脳裏に浮かぶ。
 武装している集団の人種は様々、北欧系の人種が多いところを見るに、恐らくはグリーンランド北方にあるトゥーレに建設された難民施設出身者かもしれない。
 何人かはマスクで顔を隠しているが目を見れば大体は分かる、そして体つきや立ち振る舞いを見る限り、老人や女性もメンバーにいるようだ。

 それは当然と言えば当然かも知れない。
 BETAに祖国を追われ難民として流れ着いた民の多くは、女子供と老人、そしてBETAと戦う力を失った負傷兵が大部分を占めている。
 難民解放戦線と呼ばれる組織の構成員の多くが、そんな弱者で占められていると聞いたことがある。

 そう言った弱者がテロを起こす・・・・・・のは常識的に考えて無理がある。
 大国、先進各国の情報部に操られているとの話も聞くが真実は分からない。
 扇動されてテロを起こすのかは分からないが、テロと言う暴力を用いてまで自分たちの主張を示すのが彼らの本当の願いなのだろうか・・・・・・当人で無い私にその信条を理解することは出来ない。

 だが彼らの主張を伝えるために、大切な国民が犠牲になる必要など無いと断言できる。

「お前・・・・・・まさか・・・・・・」

 テロリストの一人がそう呟きながらゆっくりとした歩調で近づいてくる。
 人質たちの中から「姫様、逃げてッ!!」と懇願するかのような悲鳴が上がるが、私は近づいてくるテロリストの姿を見据え、此方の間合に入ってくるのを黙って待っていると・・・・・・

「それ以上近寄るな・・・・・・人手不足になるのは少々困る」

 聞き覚えのある声が頭上から響いたと同時、近寄ろうとしていたテロリストがビクッと身体を震わせ足を止めてしまった。
 銃口が此方から外れたのを確認して、配給施設を背に悠然と立っているA-10に視線を向ける。

「訓練された兵士に無闇に一人で近寄るな。外見だけで丸腰だと判断するのは早計だと、対人戦での立ち回りはその身に教えたはずだが・・・・・・余り活かされていないようだな」

「・・・・・・ラスキン・・・・・・先生」

「ふむ、まだ私を【先生】などと呼ぶか・・・・・・存外、私の教えも甘かったようだな」

 小さく呟いた私の声を聞き逃す事無く、A-10の胸部ハッチから迫り出した管制ユニットに腰を掛け、冷たい視線で私を見下ろすかつての師。
 痩せて見せるのは重ねた年月のせいだろうか?以前と比べて幾分覇気が無いようにも見えるが、その立ち振る舞いは私を幾度無く地面に叩き伏せた記憶にある師と重なる。
 その健在な姿を見たせいか・・・・・・場違いと分かりつつも心の何処かで安堵している自分もいた。

 ギュンター・フォン・ラスキン卿。
 男爵の爵位を持つドイツ貴族の元一員、そして私の持つ技術の基礎を作り上げた教官。
 10年ほど前、欧州が落ちるまでの短い期間だったが彼の教えを受けていた。
 欧州撤退の最中に行方不明となったと聞いていたが、文武両方において一切の妥協を許さず、また私に貴族のなんたるかを教授してくださった方ゆえに、死んだなどとは思ってもいなかった。
 ・・・・・・だが、このような形で再会するとは考えもしなかった。

「今すぐ武装を解除して投降してください」

「できんな」

 投げかけた言葉が即答で拒否されてしまう。
 テロに加担する覚悟をもった師がそう易々と投降するとは思わなかったが、考えてみると師がテロリストに手を貸す理由が見つからない。
 周囲のテロリストの態度を見て師がこの集団のトップなのは分かったが、様々な人種を率いて師が事を起こすなど・・・・・・正直考えにくい。
 レイシズムとは正面からは言いにくいが、師がゲルマン民族を他民族よりも優位と見ていると、教えを受けた時より感じていた。
 そんな師が彼らと手を組んでまでテロを起こす理由・・・・・・私には想像すら出来ない。

「何が目的ですか?」

「デンマーク政府には既に通達済みだ、お前にソレを教える必要は無い」

「・・・・・・こんなことをしても誰も喜びません・・・・・・苦しみが増えるだけです」

「かもしれん、だがこの状況を待ち望んでいる人間もいると言うことを、お前は分かっていないようだな」

「?」

 師の言葉の意味が理解できない。
 首を少し傾げた瞬間、師が搭乗しているA-10の頭部がゆっくりと左右に振られていることに気付いた。
 頭部に備え付けられたカメラのズーム音が聞こえ、センサーマストが限界まで伸ばされている・・・・・・最初は周囲を警戒しているのかと思ったが違う。
 周囲の警戒であれば機体各所に設置された各種センサーを稼動させれば事足りる、わざわざ頭部カメラを使って周囲をモニターしていると言うことは・・・・・・

(この光景を・・・・・・何処かに送っている?)

 その答えに行き着くが、その理由と送られている先が分からない。
 師の言う待ち望んでいる人間・・・・・・其処へ送っているとでも言うのだろうか?

「先生、テロは何の解決にもなりません。暴力で成しえたことは暴力で奪われます、自分たちの主張を訴えるのであればもっと違った方法で・・・・・・」

「・・・・・・堕落したな。以前のお前であれば警告無しに此方の喉笛に食らい付く、そんな人間にしたはずだが・・・・・・私を止めるのに明確な答えや理由が必要なら、それが見つかるまで其処でそうしていろ」

 言って踵を返し、再び管制ユニットの中へと姿を消そうとする師。

「ラ、ラスキンさん!!拘束しなくてもいいんですか!?それに相手はデンマーク皇族・・・・・・人質にすれば連中も要求を無下には・・・・・・」

「放っておけ、ソレに連中にとってコレは人質にはなりえんよ」

 覆面を被ったテロリストの言葉にそう答えて彼は管制ユニットの中に消える。
 消える間際、一瞬だけ此方に視線を向けた彼の瞳に・・・・・・何処か冷たさの中に憐憫が篭った色を湛えていたような気がした。








 避難民仮設宿舎内

<三澤 静流>

「くそッ・・・・・・むざむざ姫様が人質になるのを許すなんてッ!」

 オルフィーナを止められなかったアザリーが悔しそうに声を荒げる。
 止められなかった責任は私にもある。彼女が飛び出そうとしている兆候に気付いていたのにも関わらず、私は彼女が駆け出して行くのを黙って見ていることしか出来なかった。
 止めることが出来なかったわけじゃない、なのに止めなかった。

 彼女が成すべきこと、そのために必要な行為なのだと・・・・・・何処かで感じてしまったせいだろうか。

「隊長、そろそろ移動を・・・・・・この場所はもう不味い」

 桐嶋の忠告を聞いて思案していた思考を切り替える。
 姿を見せたにも関わらず、オルフィーナは撃たれもしなければ拘束もされずにA-10の傍で佇んでいる。
 A-10に搭乗していたテロリストと短い会話をした様子から見て、恐らくは知り合いなのだろう・・・・・・だからと言って拘束されない理由は分からない。
 それが気に掛かるが、何時までも此処に隠れているわけにもいかなった。
 余程無能な連中でもなければ、施設に向かったオルフィーナが単独などとは思わないだろう。
 近くに仲間が潜んでいる可能性を考えて、警備を強化するなり、オルフィーナが来た方向と反対側への監視を強めるはずだ。
 また向こうには戦術機がある。各種センサーを備えた戦術機の探知能力を持ってすれば、こんなプレハブまがいの場所ではあっさりと見つかってしまうだろう。

 戦術機と正面から立ち向かっても人間には勝ち目は無い、戦術機とは人の力を何百倍にもしてくれる機械の鎧なのだ。それを知って立ち向かう者はただの自殺志願者か、もしくはヒロイズムに酔った愚か者のどちらかだろう。

 ―――逆に言えば戦術機さえどうにかなればテロリストなど鎮圧できる、結果生じる人質の安否は二の次だが。

「・・・・・・隊長、これからどないするんや?」

 隠れていた宿舎から抜け出し、配給施設から離れた路地裏に身を潜めて一息つくと同時に川井がそう口を開いた。

「・・・・・・ジャック、対戦術機戦の極意は?」

 それに答えずにジャックへ投げかけた言葉に全員が息を飲んだ。

「中に乗ってる衛士を殺る、それが一番手っ取り早いっすね」

 聞かれた本人は、皆の雰囲気に肩を竦めながら軽い口調で答えてくれる。
 そして、その答えは至極全うなものであり、またもっとも困難な手段でもあった。

「み、三澤大尉!!自分たちだけで鎮圧するつもりですか!?・・・・・・幾らなんでも無理です!!」

「ロレンス少尉の言う通りだ!!装備も何も無い私たちに何が出来るって言うんだ!?」

「そう吼えるな二人とも・・・・・・A-10の音響センサーに引っかかるぞ?」

 私に食って掛かってきた二人に忠告してやると、両者ともしまったっと言う表情を作って慌てて口を閉じる。
 その姿に苦笑し、胸ポケットからジッポを取り出して指で遊びながら部下たちの姿を眺める。

「まぁ二人の言いたいことは分かる・・・・・・が、これは私の問題でもあるんでな。何かしら鎮圧のための助力しなければならないわけだ・・・・・・宮仕えは辛いものだな」

「欧州各国の所属なら兎も角、帝国軍所属の三澤大尉を咎める人間はいないと思われますが・・・・・・」

「部下が一人人質になった、しかも一国の姫君がだ。部隊を預かるに当たって上から厳重に釘を刺されてな・・・・・・二人の身に何かあったら、樺太の最前線に放り込んでやるとまで言われたよ」

 苦笑しながら言った言葉に、欧州で部下になった連中は揃って不思議そうに首を傾げる。帝国から連れてきた部下の一人が「北国は良いところですよ~」などと言っているが聞かなかったことにしよう。
 なにより私は冷え性なのだ。グリーンランドと言い、肌寒い土地に追いやられ続けるのは正直堪える。
 誰か暖めてくれる人間でもいればいいが、そんな酔狂な人間などいないだろう。

「それに、これでオルフィーナに何かあれば責任を追求され、其処から外交問題に発展しかねない。そうなった際に、ただ指を咥えて見てましたなどとは言えないからな・・・・・・ここまでやりました、っと口実が私にも欲しいわけだ」

「た、大尉は自分の保身のために行動に移すと?」

「ああ、誰だって自分の進退は気になるところだろう?」

 呆れた様子のハティにそう言った私の背後で、二人の部下が小さく溜息を付いたのを私は見逃さなかった。
 日本から共に来た二人にしてみれば、今の私の発言が全くと言っていいほど説得力が無いことを察知しただろう。進退など私にとって何ら意味を成さない事柄だ、それだけのことを私は過去に犯してしまっている。
 だが、欧州や米軍所属の彼らはそれに気づかない。指揮官クラスであれば耳にしたかもしれない私の話も、彼らまでは届いていないと言うことだろう。

「それに一応の考えはある・・・・・・まぁアザリーの言う通り装備は不足しているがな」

 今から基地に戻って装備を整えるか、それとも街中の至る所にある衛兵の詰め所にある装備を拝借するか・・・・・・そう思案していると。

「・・・・・・おい、グラサンのお仲間たち」

 などと奴と同列に比べられると言う不名誉な名で呼び止められてしまった。
 振り返ると、状況を教えてくれた少年が生意気そうな顔で此方を見ていた。

「坊主、逃げたんじゃなかったのか?」

「誰が逃げるかよ!!・・・・・・もう逃げるのなんて真っ平ごめんだ!!」

 ジャックの言葉に歯を剥いて叫ぶ少年。逃げることに拒否反応を示す様子から見て・・・・・・欧州本土から逃げ出した記憶がそうさせるのかもしれない。
 年齢から予想するに当時はまだ乳飲み子同然だったはずだが、BETAに追いやられただ逃げることしか出来なかった屈辱を覚えているのだろう。

「それで小さな勇者君・・・・・・私たちに何の用かな?」

 同じ苦しみを味わった同胞として敬意を払いながらそう聞くと、少年は少々気を良くしたのか上機嫌で手を振りながら答えた。

「連中をとっちめる武器探してるんだろう?こいよ・・・・・・案内してやるよッ!!」









 ナルサルスアーク基地外周

<ファーナ・ルン・グリュックスブルク>

「・・・それが各省の決定なのですね・・・・・・ええ分かっております、テロリストの要求には一切答えない。それが国際社会の常識ですから」

 平静を装いながらそう答えるが、本当は喚き散らしたい気持ちで溢れていた。
 難民居住区にある配給施設を占拠したテロリストたち、そしてその対処方法を即座に決定したデンマーク政府。
 テロが長引けば他国との関係が悪化する可能性もある、即座に鎮圧の手段を模索した法務省と外務省の担当官の手腕は評価すべきだろう・・・・・・選んだ手段の内容は褒められたものではないが。

(以前にも使われて既に実証済み・・・・・・有効だと分かっていても抵抗はあるわね)

 BETAによって国土を奪われ、自国領であるグリーンランドに政府機能を移転させた祖国。それと同じくデンマーク国民たちも、ここナルサルスアークやヌーク、東のアンマサリクに移住し生活を送っている。

 そしてその他、広大なグリーンランドの土地には他国から避難してきた人たちの居住区画もある。
 BETAによって欧州の国々が崩壊し多くの国の人間が難民となった。
 それを米国やカナダ、アフリカ諸国、未だBETAの本質的脅威に晒されていない国々がそれらを受け入れ、此処グリーンランドもその一角を担う形となった。
 グリーンランドの実質的な支配権を持つのは祖国であるデンマーク政府。その政府機能の一つである法務省が難民たちの管理を行い、外務省が各国との交渉を行う・・・・・・そして多くの自国民をグリーンランドの地に委ねた各国はデンマークの要求を無下には出来ない。
 例え疎開している人々がどんな生活を送っていたとしても、その人々を救う国力の無い各国は黙って此方の指示に従うのが通例になっている。
 UNHCR(国際連合難民高等弁務機関)による建前の保護はあれど、土地を失った国は自国の民もまた失ったのだ。難民施設に押し込まれた各国の避難民は、人間としての尊厳を最低限保障されているだけで、その扱いは家畜にも等しい。
 五月蝿い人権団体の抗議がなければ、彼らを労働力として使い国内の産業の建て直しにも使えるのだが・・・・・・それが結果的に彼らの生活改善に繋がると連中は分かっていないのだろうか?

 そんな理由があるせいか我が物顔でグリーンランドに君臨しているデンマークを快く思っていない国は多い。
 イギリスに続いて国土を残した唯一の国家、その内部でテロ騒ぎが起きていることを知られるのは色々と不味い・・・・・・管理能力を問われ、国連預かりの元グリーンランドを各国で分配されでもしたら今の優位性を失うことになる。
 何より、欧州での発言権を高めようとしている海の向こうの超大国に、国家の舵きりを仕切る機会を与えるわけにはいかない。

 だからテロは迅速に鎮圧する、どのような犠牲を払ってでもだ。

(・・・・・・貴重な労働力だと言うのに、損失分を補充する当てでもあると言うの?)

 各省庁が決定した手段に異論は無い、抵抗を感じたのはそれが人道的な手段から外れていることに心を痛めたからではない。
 デンマークの貴重な資産か失われることに危機感を持ったからだ。
 生き残った国民は貴重な労働力であり資産なのだ、最良の手段ととは言え国民の数が減り、その影響で国内産業に支障を来たすのは面白く無い。
 犠牲が数十人だとしても、同胞を失った国民たちの士気が下がるのは目に見えている。情報操作をしても人の口を完全に塞ぐことは出来ないだろう。

(・・・・・・そのための・・・・・・姉さんか)

「くそ・・・・・・こうも動きが悪いなんて・・・・・・」

 機密回線での通信を切って思考を巡らせていると、管制ユニットの前席からそんな悪態が聞こえてきた。

『機体稼動率58%、満足な挙動は出来ないと忠告したはずだ』

「分かってるよ・・・・・・いちいち口を挟むな」

 ヘッドセットから聞こえてくる機械音声の声、それに答える彼の態度は不機嫌そのもの。
 そんな彼の手によって、一歩、また一歩と搭乗している戦術機が地面を踏みしめて歩き続ける。

 テロリストが占拠した配給施設がある居住区画は、デンマーク陸軍基地外周に存在している。
 距離にして徒歩で10数分、車両でなら数分で辿り着ける距離なのだが、私が今搭乗しているF/A-18の改良機は基地内部のテストサイトをゆっくりと進んでいる。
 戦術機に搭載されている跳躍ユニットを使用すれば数分も掛からないのだが、テロリストは配給施設護衛に就いていたA-10を鹵獲して使用している・・・・・・迂闊に飛翔すれば、砲撃能力に優れたA-10に狙撃される危険性が高い。
 そんなA-10に此方の居場所を察知されないために、機体を極静穏モードにして迂回しながら進んでいるのだが・・・・・・

『社中尉の操縦にも問題があると判断できる、なぜそこまで機体の挙動を保とうとする?』

「・・・・・・後ろで大事な話してるんだ、その邪魔にならないようにするのは当然だろう?・・・・・・まぁそれでも状況が状況だから急いでいるつもりなんだけどな」

 彼の言葉を聞いて疑問だったことに合点がいった。
 強化装備を着ていないことで、歩行によって生じる振動がダイレクトで感じられるはずなのだが、搭乗してここまで来る間に不快と思った振動を感じることが無かった。
 それが彼がこの状況でも私の身を案じ、気を使った操縦を心掛けたせいだと分かったが・・・・・・真奈美が彼を気遣いが過ぎる人間だと言っていた意味が漸く理解できた。

 私や姉さんを特別扱いすることなく、普通に接し他の人と同じように気遣う彼・・・・・・だから姉さんが惹かれたのかもしれない。

(ッ!違う、そんなこと無い・・・・・・姉さんが結ばれる相手はフェノンリーブ少佐、全てにとって有益なのはそれ以外あるはずがないわ)

 頭を振って余計な考えを振り払う。
 今考えるべきはテロの鎮圧方法だ、米軍がこの状況を何時までも静観しているわけがない・・・・・・居住区の治安保護を名目に手を出してこないとも限らない。
 それを許せば国内世論の米軍支持率が上がってしまう、それは国連の介入理由にも繋がりかねないので、それだけは避けなければならない。

「碌な謝罪も賠償もしないくせに・・・・・・此方の失態には平然と口をだしてくる恥知らずな国が」

 内心で呟いたはずが、気が付けば自分の口から漏れてしまった。
 第二次大戦中はアメリカ寄りの中立を貫いたデンマークだが、それ以降はアメリカとの関係が良好とは決して言えない。

 チューレゲート、この言葉の持つ意味を知っている人間ならばデンマークとアメリカとの関係が凡そ察しが付くだろう。
 アメリカは・・・・・・世界で始めて核兵器を使用した国家は、ドイツに二発の原爆を投下し、スペインとここグリーンランド近海に水爆を落とした。
 どちらも事故だったと米軍は主張したが問題は其処では無い。
 1957年にパリで行われたNATO首脳会議においてデンマークは核を国内に保有しないことを決定した。その件を飲むことを条件に、グリーンランドへの米軍基地建設をアメリカに許可したのだが・・・・・・彼らは最初からその条件を飲む気など無かった。
 国民と政府に知らせる事無く、核保有航空機が上空を通過していた事実。
 しかも米軍はグリーンランド氷床下に最大600発もの核ミサイルを貯蔵するプロジェクト・アイスワームなる計画も画策していた。
 この地が欧州、ひいては東欧を含むソ連への牽制に有効だとは理解しているが、BETAが地球に降りてこなければ、それらの計画が実現されていたと思うと・・・・・・アメリカへの疑心感が消えることは無い。

 そんな国に自国の大地を蹂躙されることは・・・・・・BETAに蹂躙されることと大差無い。
 BETAによって大地を食い荒らされるよりもアメリカに支配されているほうが、将来的な救いがあると感じるだろうが、これは矜持の問題なのだ。
 移民国家でしかない成り上がり国家に伝統ある国が跪くのは・・・・・・耐えられない。

(この問題にしてもそう・・・・・・米軍の部隊がやるくらいなら、私たちの手で幕を引く)
 
 覚悟はとうに出来ている。
 いつ出来上がったか覚えてはいないが・・・・・・どんな犠牲を払ってでも、国益に害なす行為は阻止する。
 そう・・・・・・例え実の姉が犠牲になったとしてもだ。

「アシュ公・・・・・・一つ聞きたい」

『なにか?』

 腕を組んで今後の対策のために思考を巡らせていると、二人・・・・・・いや一人と一機の会話が自然と耳に入ってきた。

「お前ってAIなんだろう?」

『え~あいと言う語源は私のデータには登録されていない』

「あ~・・・・・・なんだ・・・・・・自律回路?人工知能?・・・・・・まぁなんでもいいけど、お前の機能はただ能書き垂れるだけか?搭乗者の補助とか出来ないのか?・・・・・・スカンディナヴィア半島で撤退した最中みたいに」

『社中尉の言いたいことは概ね理解できるが、この機体の現状では無理だ』

「・・・・・・使えない奴だな・・・・・・ECMでA-10のレーダをジャミングとか出来ないのか?」

『専用の機器が外されている、無線による敵機へのジャミングは不可能だ』

「そうかい・・・・・・だったら少し黙ってろ、気が散って仕方が無い」

『了解した』

 その言葉を最後にヘッドセットから聞こえてきた機械音声が沈黙する。
 前の席で深い溜息を付く彼の後姿が見えたが、随分と厄介な代物をこの機体は積んでいるようだ。

(帝国の企業は一体何を考えているのかしら?)

「それで・・・・・・状況はどうなってるんだ?」

 彼の言動に首を傾げていると、おしゃべりが終わったからかそれまで後ろに座る私に一切の注意を払わなかった彼が今更ながら声を掛けてきた。

「状況?」

「ああ、連中の要求とか・・・・・・っと、話の邪魔にならないように極静穏モードにしていたんだが・・・・・・切っていいか?」

 振り返って聞いてきた彼の問いに頷くと、すぐさま機体が歩行する振動がシート越しに響いてくる。
 その振動に身を預けながら独り言のように呟いた。

「在り来たりな要求よ、トゥーレやヤコブスハンに移住している避難民の生活環境の改善・・・・・・ほんと、厚かましいにも程があるわ・・・・・・言いたいことがあるなら自分の国の政府に言えばいいものを」

「・・・・・・なるほどね・・・・・・しかしテロを起こしてまで改善を要求するってことは・・・・・・北方の有様はそんなに酷いのか?」

「そうね・・・・・・これから冬を迎えれば数千人単位で凍死者がでるでしょうね」

 グリーンランド北方、北極圏に一番近い場所ゆえに冬季の外気温は極寒と言う言葉が生ぬるい程に下がる。
 常時-20℃の全てが凍りつく世界、突貫で建設した仮設宿舎では・・・・・・耐え切れるものではない。

「ふぅん、なるほどね・・・・・・デンマーク政府も大変だな、此処以外にも保護しなくちゃいけない難民がたくさんいるわけだ」

「何言ってるの?それは間借りしている国の仕事ね、此方としては住む土地の提供と、最低限の物資を送るのみ・・・・・・それ以上の援助を一切する気は無いわ」

 難民保護は慈善事業では無い。自国の民の生活を保つだけでも大変だと言うのに、他所の国の人間まで養う余裕などあるわけが無い。
 
「・・・・・・見殺しにするのか?」

「ええ・・・・・・個人的に彼らのことを気の毒だとは思うわ、でも仕方の無いことなのよ」

「気の毒ね・・・・・・そう言い切れる強さと割り切り、葵に見習わせたいところだよ」

 嘆息したように呟いた彼の言葉が・・・・・・何故か私の胸に刺さった。









 デンマーク陸軍基地内・第一戦術機格納庫

<瀬戸 真奈美>

「葵さん!!動いちゃ駄目です、お願いですから安静にしててください!!」

 必死に声を掛けて彼女を制止しようとするけどその声が聞こえていないのか、包帯を巻いた腕で整備ガントリーに固定された機体を指差す。

「瞳大尉!!四番機の整備はもう終わってるわ!!邪魔なガントリーと整備パレットなんて腕部ブレードで壊して今すぐ出撃してッ!!」

 そんな無茶苦茶なことを叫びながら格納庫内を闊歩する葵さん。
 ってか四番機って私のEF-2000なんですけど・・・・・・
 
「了解なの~」

 言われた瞳大尉も無駄にやる気になって整備パレットの上を走り出している、普段のおっとりした言動からは予想も出来ない身軽さで・・・・・・流石はドルフィンライダーと言うべきだろうか?
 隆さんはウサギっぽいって言ったけど・・・・・・

「ち、ちょっと待ってくれ!!そこのお嬢さん方!!」

 そんな彼女を見て整備班の人たちが慌てた様子で叫んでいる。
 確か隆さんからブリュッケル中尉のお父さんだと紹介を受けた人だ、その古参の整備兵が息を切らせて駆け寄ってきた。

「ハンガーを壊すなんて勘弁してくれ!!アレを修理するのは戦術機を修理するよりも大変なんだ!!」

 必死な顔で訴えるブリュッケル中尉のお父さん。
 そう言いたいのも重々分かる。戦術機を固定し整備を行うガントリーは戦術機に比べて緻密な作りはしていないものの、分厚いフレームを幾重にも張り合わせた構造をしているために、そう易々と修理や交換といった作業が出来ない。
 数10トンもある戦術機を固定できるのだ、その強度を保つためのフレームがどれほど分厚いかは、想像すれば容易に理解できるだろう。

「ですが先ほど一機で現場に向かった機体がいますッ!!しかも廃棄寸前の機体です、どんな手を使っても増援が必要なんです!!」

 葵さんも食い下がる、やっぱり隆さん絡みだと葵さんも抑えがきかない見たい。

「葵、ちょっと落ち着きなさい。私たちだってただ黙って指を咥えてるわけじゃないのよ?」

 そんな葵さんとは打って変わって、酷く冷静な様子の栞さんがそう言いながら近寄ってくる。

 配給施設に向かう途中、難民たちの話を聞いて戻ってきた私だけど、格納庫に入って一番驚いたのは栞さんの様子だった。
 隆さんに何を言われたかは分からないけど、凄い嬉しそうな顔で熊蜂を見送るその姿に一瞬我が目を疑ってしまった・・・・・・担架で運ばれる葵さんにもビックリしたけど、それはそれ。

「さっき哨戒任務に就いている部隊に連絡したわ、ついでに第2演習場で実機訓練を行っていたフェノンリーブ少佐の中隊にも連絡済み・・・・・・直ぐに増援は来るわ」

 栞さんと一緒に来たトゥルーリ少尉の話を聞いて葵さんがホッとしたかのように肩を落とす。
 自分も怪我をしていると言うのに隆さんを心配する余りに暴走してしまった葵さん・・・・・・そんな姿を見ていると、やっぱりこの義姉が彼のことが好きなんだなと実感できる。

(まったく・・・・・・もっと自分に素直になればいいのにさ)

 内心で嘆息しながら慌しい格納庫の様子に視線を向ける。
 A-10が撃った57㎜砲弾のお蔭で格納庫内は酷い有様になっている。
 砲弾は隔壁を貫通、幸い死者は出ていないようだが怪我人は多数、戦術機も何機かが隔壁の破片にやられて機能不全に追いやられている。
 だが、なによりも内部を騒がしている理由はこの原因不明の停電だろう。
 戦術機格納庫は他所よりも精密部品の塊が多いが故に電動式の機材が数多く設置されている。それらが使えない・・・・・・付け加えて戦術機にも何らかのトラブルが生じているらしく、ほぼ全ての機体が管制ユニットに乗り込めないか、主機の起動が出来ない状態に陥っている。
 原因は未だ不明・・・・・・手口やその手腕から見て、かなり高度な専門知識をもった人間の仕業とされている。
 それも複数、とてもではないが一個人の仕業では無いと、MPが先ほど叫んでいた。

「で、でも隆さんとファーナ中尉だけじゃ・・・・・・それにあの熊蜂には武装なんて全然積んでないのに・・・・・・」
 
 力なく呟く葵さん、その姿が私の不安も加速させる。
 隆さんが死ぬはずが無い。スカンディナヴィア半島での戦闘をなんなく生き延びた隆さんが死ぬわけが無い。
 だけど葵さんの不安そうな姿を見ているとその自信も揺らぎそうになる・・・・・・

「なぁに、俺たちも出来る限りのことはするから安心しな、幸い動かせそうなのが一機ある!!」

 そんな私たちの不安を感じ取ったのか、ブリュッケル中尉のお父さんが笑み浮かべながらそう言ってくれた。

「動かせるんですか?」

 オウム返しに質問してみると一機の機体を指差しながら彼は答えてくれた。

「あのドラ猫だよ少尉殿。デンマーク軍じゃ正式採用してない海軍機、しかも大型機ときたもんだ。整備ガントリーに固定するのも一苦労だったせいで、ロックしてある箇所が通常機よりも少ないんだよ」

 少ない、と言うことはそれでもロックしてある箇所があると言うことだ。

「しかし格納庫に電源がきてない以上、ガントリーを稼動させることは・・・・・・」

「なぁに・・・・・・俺たちにはコレがあるさ」

 言って力瘤を見せてくれるブリュッケル中尉のお父さん、その背後には何時の間にか大勢の整備班の人たちが集まっていた。

「人力・・・・・・で、動かす気ですか!?」

「成せば成る、少尉殿の国の言葉だったな?なぁに無理が通れば道理は引っ込むってな、俺たちに任せろ!!」

「そう言うことね、ってなわけで真奈美はちゃっちゃと着替えてきなさい!!ドラ猫には瞳大尉と真奈美に乗って貰うわ」

「はいコレ、瀬戸少尉の強化服よ」

 鼻息を鳴らして高らかに叫ぶ栞さん、そんな権限は栞さんにはないんじゃ・・・・・・っと思っていると、トゥルーリ少尉から押し付けられるように強化装備を手渡されてしまった。

「よし!!じゃぁ皆、力合わせて邪魔なフレーム引っぺがすわよッ!!」

「「「「イエッサー!!」」」」

 高らかに声を上げた栞さんに付き従う整備班の皆さん・・・・・・隆さんが出撃する間際に『橘を頼むッ!!』とか叫んでいたけど、どうやら杞憂だった見たい。

(前のことを思い出してそう言ったんだろうけど・・・・・・なんだかんだ言っても隆さんは栞さんのことを考えてるんだね)

 素直になれない人が多いな~と思いながら、私はF-14Dの管制ユニットへ向かって走り出した。






 難民居所区より東に2k地点

<社 隆>

「・・・・・・予想通りと言うかなんと言うか・・・・・・一人でテロリストの集団に立ち向かったんだな、彼女は」

 人質になった避難民の傍に立っているオルフィーナの姿を見ながら小さく溜息をついてしまう。
 熊蜂の光学センサーが捉えた彼女の様子は、俯いているので表情こそ見えないがしっかりと自分の足で立ってた。怪我をしている様子も無いので、ホッと安堵の溜息が漏れる。

 しかしだ、疑問に思う箇所が幾つかある。
 第一に、一緒にいた他の連中の姿が見えない・・・・・・いくら自堕落な隊長様とは言え、一国の姫君を一人でテロリストに向かわせたとは思えない。自分の保身をそれなりに考えている彼女が、下手すれば国際問題に繋がるような真似をするだろうか?まぁ・・・・・・自分如きでは及びも付かない作戦を練っているのかもしれないが・・・・・・

 第二に、何故オルフィーナは拘束もされずに佇んでいるのだろうか?
 怪我をされているよりは余程いいが、人質になっているのであれば拘束ぐらいされてもいいはずだ。だと言うのに自由な身で放置されている・・・・・・人質を包囲しているテロリストの連中も、オルフィーナのことを意識こそしているようだが近づこうともしていない。
 最悪、テロリストたちの心情に共感して連中の仲間になったのかとも思ったが・・・・・・その可能性は限りなく低いだろう。
 後ろにいるファーナと同じように彼女もまた祖国の国益を重視している・・・・・・そんな彼女が祖国に仇なす行為に共感するわけが無い。

(やれやれ・・・・・・まぁ疑問に思ったところで答えは出ないか)

 仕方無しに内心でそう決めつけ、丘陵の影から出していた機体の腕部を引っ込める。
 データリンクが満足に機能していれば衛星からの画像も入手できるのだが、熊蜂の現状ではソレは無理な話だった。故にA-10のセンサーに引っかからないように、指先に設置された光学センサーを使ってコソコソ覗いている現状・・・・・・我ながらちと情けなくなってくる。

 A-10のセンサーに感知されないように極静粛モードで歩行し、基地を大きく迂回して難民居住区が見下ろせる丘陵地帯まで来たが・・・・・・未だに何ら動きが無いことに疑問を感じてしまう。
 自分がこの場所に着く頃には、さぞや大規模なMPなり対テロ部隊が犇いていると予想していたのだが・・・・・・見た限りではそんな様子が一切見受けられない。
 避難は済んでいるようなので、配給施設の周辺どころか難民居住区の一画が完全に無人地帯になっている様子ではあったが・・・・・・

「それで・・・・・・どうするんだ?」

「どうするって・・・・・・貴方は何も考えずにここまで来たの?」

 後ろに投げかけた質問に呆れた声音が返ってくる。
 まぁ正直に言えばその通りだ。特に考えがあった動いたわけじゃない・・・・・・何となくそうするのが最善と判断して行動してしまった。

(考え無しの独断専行・・・・・・本物の軍人だったらと大問題だな)

 いや、一応は自分もその端くれかと考えて苦笑する。
 現場の状況を何となく想像はしていたものの、いざ目にするとどうしていいか分からなくなる。
 当然だろう、テロリストが人質を取って立て篭もるなど、ニュースか映画でしか見たことがない光景だ。
 油断なく銃を構えるテロリスト、震え脅えている人質たち、そんなリアルな光景が目の前にある。
 フィクションの世界では救出に向かう特殊部隊なり元軍人なコックがいたりするが・・・・・・此処にはそんなヒーロなどいない。
 そして自分は生憎とヒーロなんて器ではない、そんな英雄染みた行為を行えるだけの能力を自分如きが持っているわけが無い。

「だったら最初から来るな・・・・・・か」

「?、社中尉何か言いました?」

 小声で呟いた言葉が聞こえたのか、ファーナが不思議そうな声で聞いてくる。
 それに答えることも出来ずにシートに深く腰を掛けて溜息を付く・・・・・・今の自分に何が出来るのかを考えるために。
 だが状況は着実に進んでいる、考え込んでいる悠長な時間はあまり残されていない。

(・・・・・・テロリストの連中に余裕が無さそうだったからな)

 震えていたのは人質だけではない、銃を持ったテロリストたちも何人かが震える腕で銃を構えていた。
 彼らも余裕が無いのだ、そんな彼らの緊張の糸が切れれば・・・・・・何が起きてもおかしくは無い。

「ヌークから対テロ部隊が向かっているはずだけど・・・・・・到着までもう少し時間がかかりそうね」

「それまで連中が大人しくしてくれていればいいけどな・・・・・・見せしめに一人づつ殺すなんて言い始めたらどうする?」

 張り詰めた緊張を少しでも和らげるために、軽口混じりでファーナにそう問いかけてみる。

「静観するだけね、助けようにもこの機体の状態では近づく前にA-10に撃破されるわ」

「ドライだな・・・・・・まぁ確かにそうなんだけどな」

 返ってきた返答に背筋が寒くなる・・・・・・誰かが撃たれる光景を考えただけでゾッとする。
 戦場で断末魔の絶叫や無残な死体を幾つも見てきたが、人殺しの光景は流石に見ていない・・・・・・これ以上、普通の人間と言う枠から薄利していくのは勘弁して欲しい。

「オルフィーナあたりはきっと止めるんじゃないのか?・・・・・・何よりも国民を大事にするのが信条っぽいし・・・・・・ああ、でもそうなるとオルフィーナが危険になるわけだ・・・・・・それは流石に不味いな」

「同じことよ、姉さんが撃たれても静観するわ・・・・・・・・・・・・向かっている部隊が突入しやすいように基地周辺のデータを基地に送るわ、コントロールパネルを借りるわよ」

 さも当然と言った返答に一瞬思考が止まってしまった。
 慌てて後ろを振り向けば、平然とした顔でパネルのキーを打ち続ける彼女の姿が見える。その表情を見てる先ほどの発言が冗談の類だったとは到底思えない。

「・・・・・・って言うと何か?オルフィーナがテロリストに撃たれてもいいのか?」

「ええ、このような場で姉さんの命を使うのは少々勿体無い気もするけど、これはこれで効率的な死に方ね。国民を守るためにテロリストに撃たれる・・・・・・それを理由に難民施設への締め付けを強化できるわ。送る物資も減少できるでしょうから・・・・・・冬を越せる【デンマーク国民】は多くなるわね」

「・・・・・・・・・・・・」

 話を聞いている内に開いた口が塞がらなくなってしまった。

 さっきは彼女の割り切りの良さを潔いとすら感じていたが、今はとてもでは無いが納得など出来ない。
 千歩譲って、顔も知らない見ず知らずの人間が死ぬことを平然とした顔で受け止めることは頷ける。
 所詮は他人だ、感受性の高い人間や偽善者でもなければ、何処かで誰かが死ぬことに何も感じないのは当然だろう。
 だが、血を分けた姉を犠牲にするのを厭わない、それすらも利用し難民施設の締め付け材料にしてしまうその思考は・・・・・・理解でき無い。
 相手の考えを理解して共感することが己の心情ではあるが・・・・・・大切な人を切り捨てることを厭わない思考は共感どころか理解すらできない。

 家族や兄妹に親愛の情を持つことが当たり前だとは言わない。
 家族を愛が絶対とは言わない、世間では家族を殺したいほど憎んでいる人がいる現実を知っている。
 だが二人は違う、自分は短い間だが二人の様子を見てきた。
 憎み合う?とんでもない、二人は立場ゆえに少々歪ではあったが中睦まじい姉妹に見えた。
 そんな姉妹なのに、妹は顔色一つ変えずに姉の死を仕方が無いの一言で受け入れると言う。
 これが貴族なのか、これが特権階級の思考なのかと、共感できない疑問が胸中に湧き上がる。

 一般人である自分如きには二人の思考が理解できないと思い知らされて目の前が真っ暗になる。

「ま、待ってくれ・・・・・・オルフィーナは・・・・・・オルフィーナはお前の姉、いや皇族だろう?そんな人間がこうもあっさり死ぬのは・・・・・・」

「大局的に物事を見なさい、姉さんや人質になっている人間が死ぬことでその他の国民が助かる、そして姉さんの死は鼓舞に繋がる・・・・・・決して無駄ではないわ」

 震える声で投げかけた言葉も酷く冷静な声音で切り崩される。
 その理屈は分かる。
 1人を殺せば10人が助かる、だからこそ1人を殺す、より多くを守るために。それはよくある為政者のジレンマ・・・・・・いや言い訳だが、命の価値が等しければその式は確かに成り立つ。
 だが自分の言いたいことは其処じゃない、そんな命の価値なんざ今はどうでもいい。

 ―――なんで大切な姉を簡単に切り捨てられる?

 あれほど身を案じた姉だとしても、切り捨てる対象と見ればあっさりと見限る・・・・・・そんなファーナの思考に納得がいかない。
 大切な人であれば、例え10人殺してでもその人を救うのではないだろうか?
 本心はそう思っていたとしても、ファーナの立場がそれを許さないとでも言うのか?だとすれば彼女は内心ではオルフィーナを救いたくて仕方が無いのか?

(だったら・・・・・・少しぐらいは動揺して見せろよッ!!)

 コントロールパネルを打つ彼女の指には一切の震えが無い、網膜に映る情報を見ている瞳にも動揺の欠片すら感じられない。
 考えたく・・・・・・理解などしたくもないが、ファーナは完全にオルフィーナを切り捨てる気でいる。
 そんな彼女の姿を見て、彼女が自分の考えが及びも付かない異質な存在と認識して恐怖を感じた。
 同じ部隊の仲間なのに、一緒に戦場を駆けた戦友なのに、文句を言いながらも不味いレーションを食べた仲なのに・・・・・・自分は彼女を怖いと思ってしまった。

 自分はどうなのだろうか?
 もし麻美が死ぬことで多くが助かるとしたら・・・・・・俺は麻美を見捨てることが出来るのだろうか?

「・・・・・・出来るわけないだろうがッ!!」

 何があっても麻美は俺が守る、例え極悪人と罵られようとも俺は麻美を選ぶ。
 そんな割り切りが出来るはずがない、薄っぺらい覚悟で俺は麻美に結婚を申し込んだわけじゃない。
 こんなクソッタレな世界に飛ばされてしまったが、俺は絶対に元の世界に帰って彼女を幸せにする。

 それだけは・・・・・・この世界に揉まれてどんなに変わってしまったとしても、絶対に変わることのない俺の思いだ。
 
 何時の間にか自分の胸をきつく押さえていた。彼女に渡したはずの婚約指輪、なのにこの世界に存在している指輪、それが吊るされたドックタグを服の上から押さえ込んでいた。

「ど、どうしたの社中尉?何処か調子が悪いの?」

 それまでの冷静な表情を変え、ファーナが酷く狼狽した様子で後部座席から身を乗り出して此方を覗き込んでくる。
 その姿を見て少しだけ安堵した。彼女も同じ人間だ・・・・・・さっきは怖いとすら思ったが、こうして慌てる姿を見せる普通の人間だと分かって安堵した。

「いや、なんでも無い・・・・・・急に大声だして悪かったな」

「それはいいけど・・・・・・大丈夫?」

 彼女も押さえ込んでいるだけだ、きっと姉の身を人一倍案じているに違い無い・・・・・・そう信じたい。

「ああ、久しぶりに熊蜂を操縦するから緊張してただけだよ・・・・・・ほら、俺っていつも後ろにばっかり乗ってたからさ・・・・・・あ」

 心配掛けまいと軽口を叩きながらそう答え何気なく操縦桿に手を触れた直後、ロックが掛かっていなかった操縦桿が手の力で押し出され、機体がそれに合わせて動いてしまった。
 身を潜めていた丘陵へ乗り出すように上半身を叩きつける熊蜂・・・・・・当然の如く砂埃が舞い、激突したことで派手な破砕音が鳴り響く。

『照準用レーダ波を感知、此方の位置を探知されたようだ』

 呆れたような機械音声の後、機体がロックされていることを知らせるアラームがヘッドセットから鳴り響く。
 自分の失態を後悔している暇も無い、上半身が露出したことで頭部のメインカメラで状況確認。
 網膜に映るA-10が、その頭部と手にしたMK-57の銃口を此方へ向けている。
 多少の距離があったはずだが感知されてしまったようだ、流石は戦術機と言うべきか・・・・・・ちなみ後ろからなにやら悪態が聞こえるが・・・・・・聞かなかったことにしよう。

『其処の戦術機姿を見せろ、警告は一度だけだ』

 丁重に警告までされてしまった。
 問答無用で撃たれなかったことに安堵しつつ、機体をゆっくりと遮蔽物の陰から出す。と、同時に下半身を支えるアクチュエーターの減衰値を最低限にまで落とす。
 もし砲撃されたとしても、機体を沈み込ませることで管制ユニットへの直撃を避けられるかもしれない。

(まぁ・・・・・・子供騙しだけどな)

 姑息な自分の行動に内心で苦笑してしまう。
 対戦術機戦での基本原則の一つに下半身への砲撃と言う項目がある。
 推進剤がタップリと詰まった脚部、そこに砲弾が直撃すれば可燃性の液体に引火して爆発。よしんば生き残ったとしても、脚を失った二足歩行兵器はただの木偶でしかない。
 ならばこそ砲撃は下半身を狙うのがセオリー、幾ら機体を沈み込ませようとも着弾のポイントが分からない限りは避けようが無い。

『F/A-18・・・・・・一機か?』

 データリンクが封鎖されているせいで相手はスピーカーを使って此方に呼びかけを行っている。
 音響センサーの感度を調整しながら、光学カメラをズームさせて配給施設周辺の状況を確認していると・・・・・・

『・・・・・・ッ!?』

 此方の機影に気付いたオルフィーナが珍しく驚いた表情を見せていた。

『囮・・・・・・ではなさそうだな、たった一機で制圧にきたか?』

(そりゃそうだ、何も考えちゃいないからな)

 深読みしてくれている相手に内心で感謝した瞬間。

『ラスキン先生、彼は関係ありません』

 などと言いながらオルフィーナがA-10の足元に近寄って行くのが見えた。

「やっぱり・・・・・・ラスキン卿がいるのね」

 後ろから苦々しく呟く声も聞こえたが、二人はA-10に搭乗している人物を知っているのだろうか?

(にしても・・・・・・先生?どう言う事だよ・・・・・・テロリストじゃないのか?)

『あの機体に搭乗しているのは日本から来た衛士です、応援要請に応えて派遣されてきた彼らに我々の問題は関係ありません』

 疑問に思うが誰も答えてはくれない、思案している内に目の前の光景は次々と進んで行く。

『日本?お前たちは未だにあの連中と共闘していると言うのか・・・・・・大戦を最後まで戦い抜かずに降伏した極東の腰抜けたちに何の力がある?』

『それは偏見です、彼らは非常に優秀な兵士です。祖国を離れ、何ら自分の利にならぬこの地において目覚しい戦いを繰広げてくれました』

『だとしてもだ、本質は腑抜けに変わらん・・・・・・あの二発の原爆が落ちなければドイツ帝国は繁栄を極め、BETAなどと言う化け物に遅れを取らなかったものを・・・・・・』

『それは既に過去の話です、今を生きている私たちには関係の無い話です。ラスキン先生、投降してください・・・・・・やはりこれ以上こんなことを続けるのは無意味ですッ!!』

 オルフィーナが感情を剥き出しにして話している・・・・・・そのことに軽い驚きを感じてしまう。

『無意味では無いと話したはずだがな、この光景を望んでいるものがいる・・・・・・そのために私はこうして此処に立っているのだ』

『誰が望んでいるんですかッ!?此処にいるのは震える人たちだけです、そんな光景を見ることを望む人間の手助けをすることがラスキン先生の成すべきことなんですか!?』

『そうだ、そして彼らの震えは其処にいる連中の非では無い』

「ひと時の希望を見せるためにテロか・・・・・・何がラスキン卿を狂わせたのかしら」

「?」

 ボヤキとも呟きともとれる声が後ろから聞こえてきたような気がするが、意識を配給所に向ければA-10に乗るテロリストの言葉にオルフィーナが言葉を失っていた。
 会話中になんとか行動に移せないかと考えるが、A-10は此方へのロックを解除していない・・・・・・ヘッドセットにはアラームが絶えず鳴り響いており、正直あまり気分の良いものでも無い。

『それが・・・・・・難民たちの総意だとでも言うつもりですか!?』

『総意・・・・・・ではないだろうな、だが彼らの要求が通ればこれは総意になるだろう』

『不可能です、むしろ逆効果になることぐらいラスキン先生なら理解できるはずです!!』

『それを決めるのはお前では無い、ヌークに居座っている高官たちだ・・・・・・まぁ元より期待はしていないがな』

 会話の意図がイマイチ掴み兼ねないが、そのテロリストの発言で人質を包囲している連中に異変が起きた。
 動揺しているのだろう、手にした銃を小刻みに震わせて皆A-10を見上げている。

『私は国民に希望を見せねばならん、それが今の己の出来る唯一のことだ』

『希望を見せたとしても・・・・・・それは偽りの希望です!!』

『そうだな・・・・・・だがそれでも彼らの心が少しでも癒えるのであれば、私は満足だ』

『それはただの押し付けです・・・・・・ラスキン先生』

 うな垂れるオルフィーナ、ラスキン・・・・・・とか呼ばれているA-10の搭乗しているテロリストは最早彼女に構う気が無いのか言葉を続けようとはしない。

『ま、待ってくれラスキンさんッ!!話が違う!!』

『私たちはここで死ぬつもりで来たんじゃない!!あそこには家族が待ってるんです!!』

 変わりに人質を包囲していたテロリストたちが口々に叫び始めた。

「なんだってんだ・・・・・・?」

「最初からラスキン卿は・・・・・・いえあのA-10に乗っているテロリストはこのテロが成功するなんて思ってなかったのよ」

 呟いた言葉への答えが背後から聞こえてくる。

「どういうことだ、難民のためを思ってテロしてるんじゃないのか?」

「劣悪な環境で暮らす難民たち・・・・・・彼らからしてみれば、ここナルサルスアークは天国に見えたでしょうね」

「そう・・・なのか?」

「住む場所と満足な食事、それが提供されるだけで難民にとって見れば十分天国よ・・・・・・そんな場所でのうのうと生きているデンマーク国民たち、さぞかし妬ましかったでしょうね」

 言ってファーナが小さく溜息を付いた・・・・・・彼女が彼らへ同情しているのか、それとも呆れているのか、自分には分からない。

「ひと時の気休めのために難民たちへこの光景を見せる、ただそれだけの理由でテロを起こす・・・・・・愚かとしか言いようが無いわ」

「しかし・・・・・・さっきの話でこう言った事件は難民施設を締め付ける材料になるんだろう?連中もソレぐらい分かってるんじゃないのか?」

「淡い期待を持つのよ・・・・・・テロを起こせば政府が動く、第二、第三のテロを起こさないためにも支援が手厚くなる・・・・・・誰が吹き込んだんでしょうね」

「馬鹿だろう・・・自分で自分たちの首を絞めてるって言うのか?」

「結果だけを見ればそうね、でもあのA-10が送った映像を見ている難民施設の住人は今頃歓喜しているのでしょうね・・・・・・自分たちの生活がこれで変わると希望を持ってね」

「・・・・・・ったく」

 話を聞いていて気分が悪くなった。頭を振ってなんとか気分を落ち着かせようとするが・・・・・・出来ない。
 何がテロだ、さざかし立派な主義主張があるのかと思いきや、蓋を開けてみれば偽善の押し付けでしかない。
 明確なメリットが皆無のリスクだらけのテロ行為、もう少し頭を捻って出直してこいと叫びたくなる。

(自分の理想に酔いしれるのもいいけどやるなら他所でやれよ、基地で停電が起きてなかったらとっくに制圧されてるぞッ!!)

 っと内心で叫び違和感を感じる。
 見切り発車同然でテロ行為を行う連中が、そんな用意周到な計画を立てられるだろうか?

『そこのF/A-18、武装を解除して乗降しろ。馬鹿なことを考えるな、この距離であれば跳躍ユニットが火を噴くより早く、此方の砲弾が機体を襲うぞ』

「・・・・・・警告を頂いておいて失礼ですが、この機体には武装の類が搭載されておりませんよ・・・・・・ラスキン卿」

 機体の状態をわざわざ教えるファーナ、その声を聞いて此方に驚愕した表情を向けるオルフィーナ。
 恐らく、この機体には自分と瞳ちゃんが乗っていると思い込んでいたのだろう。まさか自分の妹が乗っているとは予想出来なかったに違い無い。

『だとしてもだ。跳躍ユニットを用いた自爆行為をされ、身を挺した英雄になられては困る』

『人質に犠牲がでるような危険な真似を彼らはしません・・・・・・もう十分ではないのですか?難民施設の生活環境が劣悪だと言うのであれば、それを改善させるように私から働きかけますッ!!』

「・・・・・・姉さん・・・・・・余計なことを」

 呻くような苦々しい声が聞こえてくるが、自分は網膜に映る光景から目が離せない。

『口だけの約束なら幾らでも出来る。それにもしそうなったとしても彼らの受けた傷は癒せん・・・・・・』

『デンマークの民が死ねばその傷は癒えるんですかッ!?』

『そうだな・・・・・・デンマークの民に同じ痛みを与えることが、彼らの傷を癒す手助けになる』

『ならば私を殺してくださいッ!!三位の籍を持つ私です、彼らがデンマークの民を妬むのならば、皇族である私の死が彼らの癒しになるでしょうッ!!』

 売り言葉に買い言葉、少々状況が不味い方向に向かいつつある。
 砲撃されるのを覚悟で特攻するしかないと考えた直後・・・・・・

「・・・・・・いい社中尉?姉さんが狙われたら、その隙に機体を後退させて。現場の状況は送ったからこの場に留まる理由はもう無いわ」

 その言葉を聞いた瞬間自分の耳を疑ってしまった。
 いや疑わざる得なかった、今、自分の後ろにいる女は姉を見捨てて逃げろと言ったのだ。

『自分を犠牲にすることを躊躇わないか・・・・・・民の模範として生き、民のために命を捧げる、そう教えたのは他でもない私か』 

『もとより私の命は民のためにあります、それは此処にいるデンマーク国民だけのものではありません。私の命は全ての民のために在ります、私の命で彼らの心に一時の平穏が訪れるなら・・・・・・私の命の使う場所は此処です』

「これでこの地に住むデンマーク国民の生活は保たれるわ。姉さんの死は、対テロ部隊の突入の切欠にもなるから、このテロ騒ぎはもう終わりね」

 聞きたくもないのに三者の物言いが耳から入ってくる。
 聞かないように意識しても脳がかってにそれを読み上げて、意識を無理やり目の前の光景に引きつけようとする。

 貴族、皇族として民を守る。
 貴族、皇族として民のために死ぬ。
 貴族、皇族として民のために大切な何かを切り捨てる。

 三人が三人とも、自分の持つ立場とその背景、そして自分自身が信じ守るべきもののために言葉を放つ。

 民のために立った男。

 民のために死ぬ女。

 民のために姉を切り捨てる女。

 民、民、民・・・・・・


 眩暈を感じる頭を振るが、思考はグルグルと回り考えが定まらない。
 定まらない、定まらないはずなのに、口が勝手に言葉を紡いだ。








「馬鹿じゃないのか・・・・・・お前ら?」












*Edit ▽TB[0]▽CO[0]   

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