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*Edit   

「Muv-Luv 小説」
第二部

番外編 かれらの過去 ←ここまでアルカディア様に投稿済でした。

   番外編  かれらの記憶


<橘 栞>

 たちばなしおり

 それが私の名前。
 唯一、私と言う個人を特定できる名称。
 私の両親はどんな意味を籠めて、私にこの名前を付けたのだろうか?
 もしそれを聞く機会があるのであれば、私は両親に問いただしてみたいことがある。


 なんで捨てた子供に自分達のエゴを押し付けたのかと。


 私は生まれて直ぐに、軍が管理している施設に預けられた。
 預けた・・・・・・と言うのは少々語弊がある。捨てた、いや売ったと言うのが正しいだろう。
 それを心無い大人から教えられたとき、私はその事実にショックを受けることは無かった。
 なぜなら施設には私と同じ境遇の子供達が大勢いたからだ。私のように親のいない子供たちで形成された集団、その中で生きることが私にとっての常識だった。

 聞くところによると、私を捨てた親のように子供を育てることが出来ない親が世間にはたくさんいるらしい。

 BETA、そう呼ばれる敵と長い間戦争をしているからだそうだ。
 日本はBETAの脅威に直接晒されているわけではないが、世界が緩やかに衰退の一途を辿っている以上、日本国内の経済状態が安定しているとは言いがたい。
 不安定な情勢は多くの失業者を生み、子供を養うほどの経済能力の無い親は生まれた子供を施設へ連れてくる。
 だったら最初から産むなと言いたいが、当人達にとっても色々な理由があるのだろう・・・・・・心の広い私はそれを深く追求しようとは思わない。

 需要と供給と言う言葉がある通り、施設を管理している帝国軍は子供を必要としていた。
 BETAとの戦争は余り人間に優勢とは言えないようで、戦場では多くの大人たちが日々死んでいるそうだ。
 軍の偉い人たちは、BETA戦争が長引けば次第に人的戦力が枯渇して行くと予想したらしい。
 日本は狭い島国だ。資源も何も無い国が、長い期間戦争をするだけの力を蓄えることは容易では無い。
 二度も行われた世界大戦で、日本もその辺りの事情をいい加減勉強したのか、早期から戦力を集めることに躍起になっていた。
 だから私のような子供は重宝されたそうだ。幼い頃から軍人としての教育を施し、軍が望む形に育てることが出来る赤子は多く必要とされたらしい。
 表向きに知られることは無かったが、軍が赤子を高値で買い取っていた期間がある。そのせいで、私のような子供を軍に売り払うビジネスまでもが存在していたと聞く。
 人権団体や世論はそんな人身売買まがいの行為を許しはしないだろうが、そこは政府が得意とする情報操作が駆使されて、子供を売った当人以外が知る機会はあまり無かったそうだ。子供を売った親も、その罪悪感から口を開くことが余り無かったらしい。

 私達は家族がいなければ守るものも無い。
 軍がそんな私達を必要としたのは、私達を後腐れの無い使い捨ての兵士として扱う魂胆があったからだろう。実際、大陸に派遣された初期の兵隊は私のような連中が多かったそうだ。

 用済みの子供を買い取って再利用する軍。
 今にして思えば胸糞が悪くなる話だが、平和に生きる人たちの生活を守るためには、私達のような汚れ役の人間が必要不可欠だったのだろう。
 まぁ当時の私にそれを理解するだけの頭は無かった。親が私を売ってその金で生活したとしても、正直どうでもいい話だった。

 だが望むのであれば、産んでなど欲しくなかった。
 勝手に産み落として捨てるくらいなら、最初から産んでなど欲しくは無かった。
 つまるところ私にとって親と言う存在は、自分をこのクソッタレな世界に産み落とした迷惑な存在だと言う話だ。
 まぁ・・・・・・親に限らず、総じて大人達ってのは私にとって見れば同じような存在だ。
 どうせ誰も助けてはくれない、どんなに苦しんだって大人たちは自分達を決して救ってはくれない。

 そう、ある日のことだ。
 蒸し暑い夏の季節だったと思うがよく覚えていない。余りにも見慣れた光景だから一々覚えてなどいなかったが・・・・・・確かにあった話だ。

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」

 小さな男の子が苦しそうな様子でベッドの上で横になっている。
 熱でもあるのか、男の子の額には濡れたタオルがのせられていた。

「薬は・・・・・・」

「もうありません、お医者さんも滞っている代金を払わないともう来ないと・・・・・・」

 壁に背を預けて男の子を眺めていると、施設を管理している老夫婦の会話が聞こえてきた。
 孤児の管理なんて誰もやりたがらない仕事をやっている気の良い大人だが、結局はそれしか仕事が無かったのだろう。必要最低限な世話をしてくれるだけで、本質的に私達を救ってくれるわけでは無い。
 施設での生活は食べるものや着るものが碌に無かったので、決して楽とは言えなかった。
 似たような施設は何処にでもあったので、その全てに政府が満足の行く支援を施すのは不可能だったのだろう。結果、施設の内情は年を重ねるごとに悲惨な様相を見せ、こうして薬さえあれば完治できそうな子供が死の間際に立たされている。

「何も出来ない私達を許しておくれ・・・・・・」

「頑張るんだ、きっと朝になれば元気になる・・・・・・元気になるはずだから」

 自分達の無力さに絶望してか、死に逝く子供の無念を思ってか、さめざめと嗚咽を漏らす老夫婦の姿を、私は冷めた目線で眺めていた。
 今までも多くの子供が死んだ、何を今更嘆く必要があるのか?
 偽善めいた心をさらけ出す老夫婦の姿を見ていると、やはり大人たちは私達の力になってくれないと核心することが出来た。


 ―――結局、その男の子は助からなかった。


 けど直ぐに次の子供はやってくる。だから死んだ子供のことを何時までも覚えてる人なんて、何処にもいなかった。


「きりきり走れ愚図どもがッ!!」

 教官の怒声がグランドに響き渡る。

 炎天下の中、まだ少年少女と言って過言では無い子供達に熾烈な訓練を課す大人たち。
 無慈悲に奮われる暴力と、心を抉る暴言の数々、皆それに脅えて必死にグランドを走り続ける。
 脱水症状で動けなくなるまで、大人たちは私達に走ることを止めさせようとはしない。施設から選出された子供を使い物にする、それが彼らの仕事だからだ。
 それを知っているから、浴びせられる怒声や戦争を肯定する美辞麗句が、彼らの本心などとは思っていない。
 厳しい訓練が何れは自分達の肥やしになると言われても、そんな建前を素直に受け止める気持ちなんて私には無かった。

「残り五週ッ!!血反吐を吐いても足を止めるなッ!!・・・・・・なんだ橘ッ!?何か不満があるのかッ!!」

「はい、教官殿ッ!!不満どころか光栄でありますッ!!」

「そうかマゾヒストな貴様には足りなかったわけだな?いいだろう、貴様だけ其処の背嚢を背負って走れ。訓練兵思いの優しい教官の下につけてお前も幸せだな?」

「はい、教官殿ッ!!私は幸せものであります!!」

 教官が指差した背嚢、中には医薬品や各種弾薬・・・・・・と同じ重さの砂や鉛が詰まった代物を背負い、ニヤニヤと笑みを浮かべる教官の姿を冷めた目線で一瞥し、私は再び走り続けた。

 この生活が辛いと思ったことは何度もある。だけどこの生活以外の環境を知らない私にとってみれば、これが当たり前の日常なのだ。
 施設から選出された連中の中で、何人かは素質が認められて特別な訓練校に行ったらしいが、特質すべき才能や能力を持っていなかった私は通常の陸軍幼年学校に押し込まれた。
 だが幸いというべきか、入学して直ぐに行われた別種の適性検査において、私はある兵器を操る適正があったらしく特別な訓練を受けることを言い渡された。

 衛士。戦術単位で見れば、対BETA戦において人類が生み出した最高戦力である戦術機を駆る者。

 その栄誉ある候補生として私は選ばれたのだが、結果訓練は通常よりも熾烈なものになった。
 本当に迷惑な話だ、私は生きる術がここにしかないから居るというのに、どうしてこんなにも苦労をしなければならないのだろうか?

 衛士とはBETAを倒し人類を守る存在。
 だから何だと言いたい、私はそんなモノになるためにこうして生きてきたのだろうか?
 私の人生は、生まれた理由は・・・・・・BETAと戦うことだけなのだろうか?

 それが生まれてからずっと私が抱き続けてきた疑問。
 だがその疑問に答えてくれる人なんて誰もいなかった。だから私は何も考えずに、目の前にあるレールの上をひたすら走り続けた・・・・・・答えをくれる人が現れるその時が来るまで。



 1999年8月1日
 千葉県・帝国陸軍木更津基地

「人類の剣と盾・・・・・・ね」

 薄暗い格納庫で、私は自分にあてがわれた機体を見上げながらポツリと呟く。
 陽炎・・・・・・そう呼ばれる機体は、その呟きに何も答えてはくれなかった。
 機械なんだから当然と言えば当然の話だ。時折自分の乗機に愛着を持って話しかけている奴を見るが、消耗品でしかない戦術機に話しかけるなど正気とは思えない。
 周囲に視線を巡らせれば、薄暗い格納庫に私の乗機以外にも多数の戦術機が格納されているのが分かる。

 数日後に控えた大規模な軍事作戦、その決行に向けて北関東の各基地には日本中の戦力がかき集められていた。

 明星作戦、そう呼称された作戦に自分も参加する。
 帝国軍、大東亜連合、国連軍、米軍、四軍合同で行われる大規模作戦に参加するのは初めてだが、既に実戦は何度も経験している。その延長線上と考えれば今更気負う必要など何処にも無い。
 一昔前であれば、大陸に派遣された連中ぐらいしか実戦の経験は無かったのだろうが、今の日本においてBETAと戦う機会は幾らでもある。

 一年前、西日本を席捲したBETAは佐渡ヶ島と横浜にハイヴを建設した。
 ハイヴの拡張、そしてBETAの進攻を防ぐために、間引き作戦と呼ばれる軍事行動を、帝国軍はこの一年間を通して絶えず行ってきた。
 そんな作戦で私は初陣を果たした。その時に一緒に出撃した同期は半分死んだが、幸か不幸か私は生き残ってしまった。
 死の八分、出撃前にそんな脅しを先任から受けたが、実際に戦場に立った瞬間にはそんな言葉などあっさりと脳裏から掻き消えていた。
 死にたくない、殺されたくない、自分に生への執着がこんなにもあったのかと思うほど、私は自分が生きるために必死でトリガーを引き続けた。
 半狂乱になって、催眠暗示までされて、汗や涎や、果ては漏らしてまで私は生き延びた。

「・・・・・・我ながら無様よね、ほんと」

 初陣を思い出すだけで口元が歪む。
 無様な姿を晒して、見っともなく生き延びて、それでもどうして自分は此処にるのだろうか?
 ただ普通に生きてきただけなのに、どうしてこんな衛士なんて立場になってしまったのだろうか?
 人類を守る剣であり盾、衛士とは多くの軍人から羨望の眼差しで見られる栄誉ある職務。
 皮肉な話だ・・・・・・私なんかよりももっと相応しい人間が大勢いると言うのに、何かを守りたい気持ちも無い私が衛士として戦場で戦う。

「あんたも・・・・・・私みたいのに操られてさぞ不服でしょうね」

 物言わぬ乗機に皮肉交じりの言葉を投げかけて、私は自分の馬鹿らしさに苦笑してしまう。
 人型を模した造型を持つ機械、この代物を作った連中は何を考えて戦術機を人型にしたのだろうか?
 BETAへの対抗手段の一環として、幾つもの計画から模索されて産み出された結果だと座学で習ったが・・・・・・もしかしたら、BETAに立ち向かうのは人の形を成した物でなければならないと、設計した連中が無意識のうちに考えた末なのかもしれない。
 生物として人間よりも強靭な作りをしたBETA、矮小な人間が人としての尊厳を守りながら戦える人型の鋳型。戦車や戦闘ヘリではなく、自分達と同じ形を持った戦術機が戦場を駆け回る姿を見て、多くの将兵が鼓舞されるのかもしれない。
 そんな機械仕掛けの巨人に声を掛ける私・・・・・・平静だと思っていたが、少しは動揺しているのかもしれない。

 今度こそ死ぬかもしれない。
 死ぬのは怖いけど、死ねことで・・・・・・もしかしたら私は救われるのかもしれない。
 このクソッタレな世界から解放される、BETAと戦う運命から逃れられる。

「・・・・・・はッ」

 下らないセンチメンタルな気分に陥った自分自身に笑い、その場を立ち去ろうと格納庫の入り口に足を向けると・・・・・・誰かが格納庫に入って来たのに気付いた。

 逆光で顔が良く見えないが、少なくとも背格好から男だと見て取れる。
 それ以上は特に興味も湧かなかったので無言で通り過ぎようとしたが・・・・・・

「すまない、ちょっといいかな?」

 声を掛けられれば立ち止まるしかない、私は足を止めて男へ再度注意を向けた。
 襟章を見るにどうやら中尉様らしい。相変わらず逆光で顔は見えないが、体つきから見て私とそう歳が離れているわけでもないだろう。

「はッ、何か御用でしょうか中尉殿ッ!」

 しかし相手は上官だ、敬礼しながら一応の敬意を払って男に返答する。

「ああ、悪いが主計科が何処か教えてくれないかな?」

「はぁ・・・・・・主計科でありますか?」

 考えもしなかった答えに思わず首を捻ってしまう。
 主計、需品、衛生等の兵科が入った施設なら中央発令所の隣の建物。どんな基地でも似たような作りをしているはずなのだが・・・・・・

「今日この基地に赴任してきたばかりでね、まだ施設の配置に疎いんだ」

 疑問を抱いた私の内心に気づいたのか、男は苦笑交じりの声でそう呟いた。

「分かりました・・・・・・宜しければ御案内しましょうか?」

「いや、そこまでは及ばないよ。場所と・・・・・・方角さえ教えてくれれば大丈夫だ」

「はぁ・・・・・・」

 生返事を返しながら彼の希望に従い、中央発令所までのルートを口頭で説明するが・・・・・・いまいち理解しているようには見えなかった。

「やはり、そこまで案内しますが・・・・・・」

 それでなくてもこの基地は複雑な作りをしている。
 本州を分断する形で二つのハイヴが作られた結果、重要な補給拠点でもある関東圏の基地の殆どが建設ラッシュの真っ只中にいた。
 増築に次ぐ増築、先月には無かった建物が建設され、基地の地図は修正が追いついていない。私はこの基地に来て二週間立っているが、彼のように基地の内部に疎い人間が迷ってしまうのは仕方が無い話だろう。

「いや、大丈夫だと・・・思う。この基地が複雑だから悪いんだ、うん」

 自信無さそうにポリポリと後頭部を指で掻きながら答えてくる彼。上官にあるまじきその姿が、何故か私の笑いを誘った。

「ん?・・・・・・何かおかしかったか?」

 表情には出さないように心掛けたのだが、どうやら見透かされてしまったらしい。
 叱責を受けるかと思いきや、彼は肩を竦めて首を横に振る。

「ま、まぁ、方向音痴だとよく言われるから否定できないけどな・・・・・・コホン、それはいいとして君も衛士なのか?」

 気を取り直すためにか、それとも誤魔化してか、一度咳払いをしてから彼はそう問い掛けてきた。

「はい、第117戦術機甲大隊所属です」

「なるほど・・・・・・では作戦で共闘するかもしれないな。その時は宜しく頼む」

「はッ」

 社交辞令にも似た会話はそれで終わりかと思いきや、彼は格納庫に並ぶ陽炎を見て再び口を開く。

「とは言え・・・・・・やはり不安なのか?」

「不安?・・・・・・作戦がですか?」

「ああ、この規模の作戦は類を見ないからな・・・・・・緊張するのも無理は無い」

 その彼の声に軽い同情が籠められているのに私は気づいた。

「・・・・・・失礼ですが、私は特に緊張してはいません」

 そう答えながら、私は何を言っているんだろうと自問してしまう。

「そうなのか?先ほど、随分と神妙な顔で機体を見上げていたから、てっきりそう思ったんだが・・・・・・」

「いえ、戦うことに疑問はりません、BETAを倒すことこそが自分の仕事ですから」

 だと言うのに、口は勝手に開き続ける。

「仕事ね・・・・・・なるほど、では先ほどは仕事に向けて意思を固めていたと?」

「それも違います。私は・・・・・・自分が戦う理由を見つけられないのです・・・・・・なんのために戦うのか・・・・・・こんな私が戦術機に乗って戦っていいのか・・・・・・分からないんです」

 これは誰かに言っていい言葉では無い。
 上官へこんな敵前逃亡を臭わせる言葉を吐けば、即刻MPに突き出されてもおかしくは無いと言うのに・・・・・・何故か私は躊躇う事無くそう言ってしまった。

「ふむ・・・・・・戦う理由か・・・・・・少尉、君は死にたいか?」

 だと言うのに、素性の知れない中尉殿はそんな質問を投げかけてくる。

「いえ、死ぬのは・・・・・・怖いです」

「そりゃそうだな、じゃぁそれでいいんじゃないのか?君が戦う理由は?」

「は?」

 あっさりと、明日の天気は晴れかな?っと能天気な質問に答えるかのように。彼は軽い口調で私にそう告げてきた。
 一瞬、自分の聞き間違えかと思ったが、彼はそのままの口調で言葉を続ける。

「守るべきものだとか、戦うための崇高な覚悟だとか、そんな理由はBETAと戦うために必要無いだろう?・・・・・・誰だって死にたくないから戦ってるんだからさ」

「し、しかし・・・・・・BETAと戦うということは人類全てを守る戦いです、個人の生存本能だけで戦うような軽いものでは・・・・・・」

「軽くなんてないさ、死にたくないって気持ちは十分重いと俺は思うよ・・・・・・よくいるよな?守りたい人がいるから戦うとか、自分が信じるものために戦うとか・・・・・・そう言う自分の命を投げ打つ覚悟のある奴にさ、たまに聞きたくなる時があるんだよ・・・・・・じゃあお前が死んだ後はどうするんだって?」

 そこで彼は一度、肩を竦めて大きな溜息を付く。

「守りたいもの、本人が死んでから誰が守るんだ?いや、そもそも守ろうと決めた相手はそれを心の底から望んだのかな?・・・・・・信じるものだって、そんな曖昧なもんに命を懸けて生き延びてみろよ・・・・・・数十年後にはその時の自分を思い出して鬱になるぞきっと」

 いきなりぼやき始めた彼の姿を、私は呆然と見ていることしか出来なかった。

「ま、戦う覚悟なんて人それぞれだけどな・・・・・・君が死にたくないって思うなら、その気持ちで戦えばいい・・・・・・それに、実際その気持ち以外は余計なものだ」

「余計・・・・・・ですか?」

 辛うじて口に出来たのはそんな言葉だった。
 部隊の仲間も、死んだ連中も、皆自分が戦う覚悟を胸に戦っていた。
 その気持ちが私には眩しく見えた、私には無い覚悟を持つ皆が羨ましく思えた・・・・・・だと言うのにも、彼はそんな気持ちが全て余計な代物だという。

「ああ、皆、覚悟を持つために自分にとって都合の良い理由を肉付けしているだけだ。根っこは自分が死にたくないって気持ちだけのくせにな」

「そうだとしても、戦う理由を持つ人は・・・・・・幸せだと思います」

 少なくとも自分よりは、そう付け加えたかった言葉を飲み込んで彼に返答すると、彼は「幸せね・・・・・・」と呟いてボリボリと頭を指で掻き始めた。

「何も持ってないことも幸せだな・・・・・・下手に色々持ちすぎると、余計なことばかり考えて生きるのが辛くなるぞ?」

「・・・・・・例え生きることが辛くなっても・・・・・・今の人生に何ら生きがいを見出せない私はそれを望みます。無いよりはあったほうがいい・・・・・・そう思いますが?」

「生きがいね・・・・・・だったら今から見つければいい・・・・・・一度しか無い人生だ。それにどうせ何時かは死ぬ・・・・・・それまで自分の好きなように生きてみればいいんじゃないのか?」

「・・・・・・は?」

 恐らく、その時の私は酷く間抜けな顔をしていたと思う。
 だが彼の言った言葉は、私が今までに聞いたことの無い言葉だった。
 私が生まれてから今まで掛けられた言葉は、発言する本人が己を擁護するために綺麗事で塗り固められた言葉ばかり・・・・・・だが彼は私に好きにしてみろと言った、自分を擁護するのでは無く私自身を肯定する言葉を呟いた。
 例えそれが他人事だから言えた言葉だとしても、軍人が口に出していい言葉などでは無い。

「しがらみが無いなら好きに生きればいいさ・・・・・・失礼だが俺は君が羨ましいと思う・・・・・・と言うのは失礼か、持たざるものに持ちし者が憧れるのは」

「羨ましい?・・・私が?」

 苦笑混じりの声で彼がそう呟き、私が口を開いた瞬間、

「中尉、こんなところで何をしている?」

 突然、そんな声が格納庫に響き渡った。
 大きな声ではない、だが静かな怒りを含んだ声を耳にした瞬間、彼が身体を震わせたのが気配でわかった。
 声がしたほうに視線を向ければ、格納庫の入り口に1人の女性が立っていた。

「何処で道草を食っているのかと思いきや・・・・・・お前は自分の立場を理解していないようだな?」

 蛍光灯に照らされた赤茶けた髪を揺らし、肩を怒らせながら女性が近寄ってくる。
 男と同じように逆光で顔がよく見えないが、シルエットを見て彼女のスタイルが自分よりも遙に整っていることに気付いた。

(・・・・・・完全に負けた)

 あまりそう言ったことを気にする私ではないが、その整いすぎたプロポーションに思わず敗北を感じてしまった。
 出るトコとはきっちり自己主張し、出なくて言い場所は控えめな態度を心掛ける。本当に日本人の体系かと問いただしたくなる彼女は、脅える彼の襟首を無造作に掴み上げた。

「た、大尉殿、申し訳ありません、不慣れな基地なので道に迷いまして・・・・・・」

「何が大尉殿だ、こんな時だけ私を階級で呼ぶな・・・・・・お前のためにわざわざアレを運んできたと言うのに、私や連中の好意を何とも思ってないようだな?」

「い、いや、嬉しいんですけどね……あんな燃費の悪い機体を持ってこられても…」

「つべこべ言うな、お前に拒否する権限なんてないんだよ……すまなかったな少尉、こいつの言った戯言は忘れてくれ」

 私へそう一声だけ掛けて、彼女は彼を連れて格納庫から早足で出て行ってしまった。
 彼女が振り向いた瞬間、一瞬だけその横顔が見えた。
 切れ長の瞳、厳しい表情を貼り付けた顔・・・・・・立ち居振る舞いから見て武家の縁者では無いかと推察したが、あの派手な斯衛の制服を着ていないので確認する術は無かった。
 
「・・・・・・なんだったの、今の」

 静かになった格納庫に取り残され、私は間抜けな顔でそうポツリと呟いてしまった。

 その後、私は明星作戦を生き延びて百里基地へと配属されることになる。
 好きに生きろ・・・・・・その言葉通り、私はそれから自分のやりたいように生きることを決めた。
 最初は戸惑ったが、慣れればそれはそれで楽しい生き方だった。
 人生を楽しむ・・・・・・まだ楽しみ方は分からないが、とりあえず自分の言いたい事は全部口に出そう。そう決めて私は、自分の人生を楽しむ第一歩を百里から始めたのだ。
 あの彼に感謝するつもりは無いが、切欠を与えてくれたことに間違いは無い、もし再び合うことがあれば・・・・・・謝礼の言葉の一つぐらいは言ってもいいだろう。











1998年8月16日
滋賀県名神高速道路・草津JCT付近

<川井 洋平>

「がぁぁぁっぁぁぁああああああッ!!」

 最早声にすらなっていない咆哮を上げながら、目の前にいた要撃級の固体を切り捨てる。
 返す刀で足元に蠢く戦車級を数体斬り殺し、次の獲物を探すために視線を周囲に巡らせるが・・・・・・探すまでも無かった。
 何処を見回しても醜悪な化け物たちが蠢いている。
 
『ゼファー07より、ゼファー02へッ!!1人で突っ込まないでください!!一度下がって・・・・・・』

「下がったら食い込まれるッ!!それに一体何処に下がるって言うんやッ!!」

 ヘッドセットから聞こえてきた僚機の言葉を遮ってそう叫び返す。
 その僅かな間に突撃級の固体が此方へ向けて猛烈な勢いで突進してきた。
 樹木やコンクリートを踏み砕き、100㎞近い速度で向かってくる突撃級をギリギリまで引き付け、跳躍ユニットを真横に吹かして回避する。突進をやり過ごすと同時にその場で急旋回し、突撃級の背後に回りこんで後ろ足を切り払う。
 バランスを崩して戦車級の群に頭から突っ込むその姿を一瞥し、次々と此方へ接近してくる要撃級、突撃級の姿を睨みつける。
 周りはBETAだらけ、乱戦の中で足を止めるわけにはいかない。反射に近い反応速度で機体の動きを止めないように次々にコマンドを入力するが・・・・・・

「ちぃッ!!機体の調子が悪いわッ!!」

 要撃級を袈裟懸けに切り落とした長刀が、その勢いを殺せずに地面を削る。手首を始めとする腕部の制御が上手く出来ない、そのことを自覚して思わず悪態をついてしまった。
 それは別に腕部に限った話では無い、網膜の端に小さく映る機体ステータスは殆どが黄色・・・・・・もしくは赤く染まっている。二ヶ月近くも満足な補給を受けずに酷使しているのだから無理も無い話だろう。
 だがそれでも未だ動き、BETA相手に大立ち回りしてくれる不知火の堅牢さには頭が下がる。
 一部では拡張性が無いから欠陥機と揶揄する輩もいるが、碌な整備も受けられない戦場で、未だ動いてくれていることに何の不満を持つ必要がある?

「くそッ!!」

 振り下ろした長刀が要撃級の腕部に当たって弾かれる。
 その衝撃で刃があらぬ方向に捻じ曲がってしまった。最早この長刀は使い物にならない、斬ることを前提に作られた74式近接戦闘長刀は打突武器として転用することが出来ない。
 刃が歪んだ長刀を、うぞうぞと近寄ってくる戦車級に投げつける。重みに耐えられずに潰れるその姿を脇目に見ながら、一端距離を取るべく跳躍ユニットを逆噴射制動させようとするが、突然異音を上げて跳躍ユニットが沈黙する。

「こないな時にッ!!」

 即座に主脚走行で距離を取ろうとするが、地面を踏みしめる脚部が元は高速道路だったコンクリートの瓦礫の上を滑り大きく姿勢を崩してしまう。
 体勢を崩した機体を立て直すために、機体側がオートで姿勢制御を行う。OSの特性上、戦術機は一端制御が入ると別のコマンドを受け付けない
 乱戦時は動きを止めないために、操作をマニュアル制御にすることで機体硬直を防ぐのが当たり前なのだが、斬撃に集中するために他の機能を全てオートにしていたのが仇になった、

(しまったッ!!・・・・・・やられるッ!?)

 新兵のような初歩的なミスをしたことに後悔した瞬間、眼前に迫る要撃級が腕部の衝角を振り上げるのが見えた。機体の硬直が解除されるよりも、要撃級の一撃を受けるほうがコンマ数秒早いことが勘で理解できる。

 終わる、こんなところであっさりと終わる・・・・・・そう覚悟した直後、要撃級の衝角が根元から千切れ飛んで行った。
 続いて体中に砲弾を浴びて崩れ落ちるその姿に一瞬目を奪われるが、即座に機体をバックステップさせてその場から後退させる。

『だから言ったじゃないですか!!1人で突っ込むなって!!』

 BETAから離れた瞬間、ヘッドセットから鼓膜を破らんばかりの怒声が聞こえてきた。
 自機の後方から放たれる支援射撃、その撃ち手である不知火から聞こえてくる彼女の声に思わず肩を竦めてしまう。

『ゼファー07、川井中尉にそんなこと言うだけ無駄だよ・・・・・・猪突猛進が中尉の心情だらかな、俺たちは黙ってそれに付いて行くだけだ』

『ちょっとゼファー06!!あんたがそんなんだから川井中尉が一人で突っ込んじゃうのよッ!!防衛線で大立ち回りする馬鹿が何処にいるってのよッ!!』

(相変わらず・・・・・・騒がしいやっちゃやな~)

 上官を馬鹿呼ばわりするのは正直どうかと思うが、九州での防衛線からこれまで同じ戦場を潜り抜けてきた二人の部下の姿に苦笑するしかない。
 元は大隊だった部隊が壊滅し、生き残りをかき集めても中隊規模の機数になってしまった所属部隊。多くの先任が死に、生き残った貴重な部下達・・・・・・その部下達の懇願を受けて中隊長なんて役を務めているが、二人の言う通り、自分はただ前に突き進むことしか出来ない猪侍だ。
 相変わらず目の前には有象無象のBETAが溢れ、機体は限界、身体も限界。だと言うのにも、言い争う二人はそんな絶望感を感じさせずに戦っている。
 それを見ているとまだまだ戦える、そんな錯覚を感じてしまう。まぁ、その姿に奮い立たせられるのは自分だけでは無かったようだ。同じ戦場で戦っている生き残りの連中も、二人の会話を聞いて苦笑しながら必死に自分達の役目を果たしている。
 だが、あくまでもそれは搭乗している衛士の話。機体の推進剤や主機燃料は心許無い・・・・・・補給への引き時を考えるべきかと思案していると・・・・・・

『・・・・・・ゼファー11よりゼファー02へ、琵琶湖に展開した艦艇より入電、当該地区が艦砲砲撃の対象地区になりました・・・・・・展開している部隊は30㎞後方、永源寺ダムに設置された仮設ハンガーにて補給を受けられたしとのことです』

「どういうことや?光線級の排除が済んだんかいな?」

 僚機からの報告に首を傾げる。
 京都の東に位置する丹波高地に光線級がいる以上、艦砲による有効な砲撃は行えないはずだ。
 
『はい、殿の近衛部隊が山頂付近にいた光線級を排除したとのことです』

「はッ、自分達の尻は自分達で拭いたとでも言う気かいな?」

 話を聞いて思わずそう吐き捨ててしまう。

 京都の放棄は日本政府が五日前に決定していた。
 決定した直後から残存帝国軍は琵琶湖運河ライン以東への撤退が開始されていたが、皇帝、ならび五摂家はこれに応じようとせずに、京都と運命を共にする意思を示した。
 それを聞いた瞬間、連中がどれだけ自分勝手なのか再認識できた。
 散って逝った帝国軍の将兵の命の重さを連中は何もわかっちゃいない、くだらない矜持や罪悪感を抱き自分達が死ぬことでその責務を果たすなど・・・・・・誰が認めるものか。
 結局連中は政府の説得によって京都からの撤退を了承し、現在は帝都に向けて東海道をひた走っている頃だろう。
 自分達もさっさと琵琶湖運河まで下がりたいのだが、殿を務めている近衛大隊の撤退を確認するまで下がるに下がれないのだ。
 
 最後まで京都に残った武士たち・・・・・・軍上層部は、彼らを防衛線の英雄として後で祭り上げる気なのだろう。その貴重な連中を守るために、彼らの退避ルートを死守しろと命じられた自分達、貧乏くじもいいところだ。

『川井中尉、それぐらいにしておいてください・・・・・・今度は本当に降格になるかもしれませんよ?』

「下らんこと言うなや、そんなん怖くてBETAとやりあえるかいッ!!」

 溜息交じりの声にそう答え、背部兵装担架に搭載された突撃砲の残弾を確認。

「まぁええわ。了解した、全機後退、退避ルート上以外のBETAは無視して構わん!!」



 30分後
 永源寺ダム麓、帝国陸軍仮設補給基地。

「損傷の程度を確認しろッ!!応急修理が出来る機体から補給するんだッ!!」

「73番から145番までのチェック項目は無視していい、どうせ交換できる部品なんて無いんだ!!」

「馬鹿野郎ッ!!ここは火気厳禁だ、あそこのタンクローリーが見えないのかッ!?」

「管制ユニットの強制開放が出来ない!!そこの機体、コイツのハッチを引っぺがしてくれッ!!」

 幾つもの照明に照らされた戦術機の群に、大勢の整備員が張り付いて必死になって整備を行っている。
 永源寺ダムの麓に集まった87式自走整備支援担架と支援輸送車両で作られた仮設補給基地。
 艦艇からの砲撃で足止めをされているとはいえ、数十キロ先にはBETAたちが蠢く戦場だと言うのにも・・・・・・彼らは碌な武装も無しで整備をしている。
 皆分かっているのだろう。京都が落ちた今、琵琶運河に展開した防衛線を突破されれば、帝都まで侵攻されて日本は終わる。

(ってもな・・・・・・何処も彼処もボロボロや)

 栄養パックを咥えながら立ち並ぶ戦術機たちを見て、内心で小さく嘆息してしまう。

 ここまでBETAに食い込まれるなど一月前は考えもしなかった。

 一ヶ月・・・・・・そう、ほんの一ヶ月しかあれから経っていないのだ。
 七月の半ばにBETAの対馬島上陸を許し、そこから始まった侵攻阻止作戦。
 そして運悪く、BETAの上陸に合わせて九州を襲った季節型の台風。それによって海上の艦船からの支援が望めず、たった一週間で九州が落ち、続いて中国、四国・・・・・・今は関西が風前の灯だ。
 帝国軍の戦力も全国からかき集められるだけ集結させているとの話だが、北方の守備を薄くするわけにもいかないので、まわされてくるのは関東甲信越に展開していた予備部隊ばかり。BETAの物量の前に絶対的な戦力が足りない。
 在日米軍は安保条約を破棄して撤退、碌な連携が取れなかった連中と言えど戦力が減少したのは正直痛い。
 先に起きた光州作戦の痛手が回復する前に、BETAの侵攻が起きてしまった以上、大東亜連合や、国連軍の戦力も当てにはならない。

「手詰まりやなぁ・・・・・・」

 まだ生きている、そして負けたと確定したわけではないのだが、思わず口から出た言葉は現状をもっとも言い表している言葉だった。
 咥えていた栄養パックを廃材の山に投げ捨て、乗機のチェックを行っている整備員に機体の状態を聞こう思い始めると、

「川井中尉!!またこんなところにいて、今は少しでも休んでないと駄目ですってッ!!」

 聞きなれた怒声を耳にして振り返ると、一組の男女が何時の間にか自分の背後にいた。
 腰に手を当ててふんぞり返った女と肩を竦めた男、対照的な二人の姿を視界に納めて小さく溜息を付いてしまう。

「その言葉そっくりお前に返すわ・・・・・・よくそんな叫ぶ体力残ってるもんやな、ほんま感心するで」

「私だって疲れてます!!でもこうして叫ばないと川井中尉が話を聞いてくれないじゃないですか!!」

 尚も叫ぶ彼女の言葉に辟易してしまう。
 元気があるのはいいことだが、四六時中それに振り回されるのは・・・・・・正直辛いものがある。

「大貴、自分の嫁の手綱ぐらいはしっかり握っといてくれへんか?周りに噛み付くようじゃ保健所に通報されるで?」

「んなッ!?私は野良犬や野良猫と同じですかッ!!」

「すいません川井中尉。ほら愛華、ちゃんと川井中尉に申し訳ありませんって謝れよ?」

「誰が謝るもんですか!!私は間違ったことなんて言ってない!!」

(嫁って言われたことは否定せんのやな・・・・・・籍はまだ入れてへんくせに)

 言い争う二人の姿に内心で小さくツッコミを入れるが、当の本人達がそれに気付くことは無かった。

 男の名前は内村大貴(うちむらたいき)、階級は少尉で任官二年目の少尉。中肉中背、これと言って特徴のある男でもないのだが、強いて特徴らしいところと言えば・・・・・・

「はいはい分かったから・・・・・・少しは落ち着け、茶でも飲むか?合成せんべいも残ってるぞ?・・・・・・ちょっと湿気ってるかもしれないけど」

「あ~~~なんであんたってそう爺臭いわけッ!?そんなんだから新任の連中に肩揉まれたり、お菓子で餌付けされたりするのよッ!!」

 と彼女の言う通り、少々爺臭い感覚の持ち主である。
 のほほんっと縁側でも茶でも啜ってるのが似合いそうな20そこそこの男、考えようによってはこれ以上シュールな光景もないだろう。

「まぁまぁ婆さんや、年食っても変わらないんだから良いと思ってくださいな」

「誰が婆さんだッ!!知らない人が聞いたら誤解するから止めてっていつも言ってるでしょッ!!」

 そんな男の態度に地団駄を踏む女の名前は風見愛華(かざみあいか)、男と同じ任官二年目の少尉だ。
 小柄な身体に女らしからぬさっぱりした髪型。一見すれば少年と見間違われそうな外見から、元気一杯のオーラがみなぎっている。

 とまぁ対照的な二人だが、生まれたときからの腐れ縁らしい・・・・・・ようは幼馴染ってやつだ。
 生まれた家も近所、通った学校も同じ、任官したのも同じ年、搭乗している機体も同じ・・・・・・こうして騒がしいのも昔からなのだろう。しかしそれだけ一緒にいれば、それが当たり前になり、やがて惹かれあうのも当然なのかもしれない。
 二人から結婚の日取りを聞いたのは春の終わりごろだったと記憶している。部隊の連中と盛大に冷やかしてやった・・・・・・本当であれば来月には式の予定だったのだが、この状況では式を挙げられるの当分先の話になるだろう。

「はいはい・・・・・・それで川井中尉の機体はどうなんですか?」

 ガルルっと唸る風見を軽くあしらって大貴がそう質問してくる。
 その問いに答えるように自分の機体を顎で指すと、丁度機体のチェックを行っていた整備員の1人が近づいて来るところだった。

「どんな調子や?」

 気軽に聞いた言葉に表情を曇らせる整備員。

「電磁伸縮炭素帯・・・・・・アクチュエータの損傷が深刻です、中尉の言っていた機体の反応が鈍いのはそのせいです。跳躍ユニットも内部のタービンブレードが欠けています、恐らく突撃級か要撃級の装甲殻の破片が侵入したせいかと・・・・・・どちらも此処での交換作業は不可能です」

「・・・さよか」

 そう短く答え、乗機だった不知火を見上げる。
 九州から此処まで逃げ回りながら戦い続け、その間碌に整備もされなかった機体。
 自分の命を守り、戦う力を与えてくれた相棒・・・・正直、よく此処まで持ってくれたと賛辞を送りたかった。

「で?・・・・・・他に使える機体はあるんかいな?」

 だが今は哀愁に浸っている場合では無い、多少の愛着があれど戦術機は所詮機械・・・・・・使い潰すことが前提なのだ。
 自分はまだ戦える。だが戦術機が無ければ、歩兵以下の働きしか出来ない自分に戦場に立つ資格は無い。

「は、はい・・・・・・先ほど撃震が一機空きましたので、着座調整さえ済ませれば出れます」

 空いた・・・・・・と言うことは搭乗していた衛士は死んだのだろう。

「使えるんかいな?」

「管制ユニットの交換だけで済みます、他は・・・・・・無事でしたので」
 
 言いよどむ整備員の姿に嘆息してしまう、恐らく要撃級の衝角か、光線級のレーザーが上手い具合に管制ユニットを直撃したのだろう。陽炎や不知火であればフレームが歪んで終わりだったかもしれないが、第一世代ゆえに堅牢な作りをしている撃震ならまだ使える。

「分かった・・・・・・早速準備を・・・・・・」

「待ってください、搭乗するなら自分の不知火を使ってください・・・・・・撃震には自分が乗ります」

 自分の言葉を遮って大貴が割って入ってくる。
 見れば何時に無く真剣な目で此方を見ている・・・・・・その剣幕に傍らに立つ風見も押され気味の様子だった。

「なんやねん・・・・・・急に?」

「隊を指揮する人間は優秀な機体に乗るべきです、幸い自分の不知火のコンディションはイエロー・・・・・・まだ乗れます」

「さよか、折角のご好意やけど断る・・・・・・撃震への換装作業、宜しく頼むわ」

 彼の言葉に取り合うつもりは一切無かったので、不知火の調子を教えてくれた整備員にそう告げる。

「・・・・・・ここで死ぬつもりですか・・・・・・川井中尉」

 走り去って行く整備員の後姿を眺めていると、静かな口調で呟く声が耳に入ってきた。

「馬鹿言うなや、今更二機の機体の着座調整をしている時間はなさそうだからそう言ったんや・・・・・・安心せんかい、わいはまだ死ぬ気は毛頭ないで?お前は人のことよりも・・・・・・嫁さんのことしっかり守ってやるんやな」

「ふん、こんな爺に守られるほど私は落ちぶれちゃいませんよ・・・・・・こいつの老後の世話を考えると今から頭が痛いんですから」

「おいおい、今はそう言う話をしてる場合じゃ・・・・・・」

 鼻を鳴らして話し始めた風見を大貴が止めに入る、そんな二人を見ていると・・・・・・自然と笑みが漏れる。

「まぁ二人とも不知火を置いて逃げるなら話は別や・・・・・・機体が無ければ衛士は用無し、仙台でも北海道でも・・・・・・安全なところで幸せに生きや」

 自分でも甘いことを言っている自覚はある。
 だがこのご時世、将来を添い遂げると誓い合えた人間は貴重だ。それに知っている誰かが、何処か安全なところで幸せに暮らしてくれるのあれば・・・・・・戦いに意義が持てる。
 現状で信頼できる部下を二人も失うのは痛いが、二人が生き延びられるなら・・・・・・それも悪く無い。

「は?何言ってるんですか中尉?跳躍ユニットの推進剤でも水と間違えて飲みました?」

「いや、俺が思うに腹が減っておかしくなってると推測できる」

 と、人が感慨に耽っているのを完全にスルーした発言を口ずさむ二人。
 おかしい、今ちょっといいこと言ったはずなのに・・・・・・こうまで馬鹿にされるとは思っていなかった。

「ひ、人の好意をなんだと思っとるんや・・・」

「はいはい、そんな柄じゃないこと言わないでくださいよ。それに逃げる気があるならとっくに逃げてますから・・・ね大貴?」

「その通りだ、その切欠を奪った中尉に今更心優しい言葉を掛けられても・・・・・・気持ち悪いだけだな」

「・・・・・・切欠?」

 思っても見なかった言葉に首を傾げていると、二人は揃って微笑を浮かべて話し始めた。

「そうですよ、初陣から今まで・・・・・・私たちは中尉の背中を見て戦ってきたんです」

「脅えてた俺達に勇気をくれたのは川井中尉です。そして・・・・・・他の先任と違い、近衛や帝都に行くことも無く私達と一緒に戦ってくれた・・・・・・中尉が俺たちの前で戦ってくれたから、俺たちは生きてこれたんです」

「・・・・・・だから最後までお供します、それが私達の恩返しです」

「・・・・・・は、好きにしろや」

 よくもまぁ恥ずかしげも無くそんな台詞が言えるものだと、二人の笑顔を見ながら小さく溜息を付いてしまう。

「とはいえ、今は一人で何処までも突っ込んでいっちゃう中尉を止めるのが私らの仕事ですけどね」

「そうそう、他の連中じゃ中尉を止められないからな~」

「馬鹿言うなや、お前らに面倒を見てもらうつもりは・・・」

 三人で苦笑しながらそう話し始めた直後・・・・・・けたたましい警報が周囲に鳴り響いた。

「なんやッ!?」

 各支援車両に設置された赤色ランプが回転し、警報が鳴り響くことで周囲が騒然とし始める。
 警報が鳴り響いたと同時に網膜投影が自動機動し、コード991の表示が網膜に映し出されていた。

「なにがコード991や、BETAなんぞ直ぐ其処にいるのに・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・琵琶湖を前にBETAの侵攻が分かれた?・・・・・・川井中尉、BETA群が二手に分かれました。参謀本部が予想した通りに中仙道を通る集団と、琵琶湖北部、日本海沿いに北陸道へ進路を変更した集団です」

 大貴の言葉に従いデータをチェックする。
 琵琶湖を前にBETAを示す赤い光点の群が二分して行く。琵琶湖から駿河湾までの運河にも戦力は用意されているが、不味いのは琵琶湖や太平洋側に展開している艦隊の砲撃が分散してしまうことだ。
 それに幾ら戦艦がいたとしても、ここ一ヶ月の激戦で帝国海軍が保有している砲弾もそう多くは残されていない・・・・・・予定では明日には東南アジアから砲弾やミサイルを満載した輸送艦が到着するはずだが、それまで間に合うかどうか・・・・・・

(無理やな、このままじゃ抜かれる・・・・・・近衛を待って退避するか、それとも先に自分たちだけでも・・・・・・)

 もう直ぐここまで退避してくる予定の近衛軍のことが脳裏に過ぎるが、目の前で右往左往している多くの整備員達の姿を見て頭を振る。
 兵士とは言え彼らは生身だ・・・・・・戦術機なんて鎧を身に纏った自分達とはわけが違う。
 それに幾ら戦術機が無事でも整備する彼らがいなければ、優秀な兵器である戦術機もただのガラクタと相違無い。

「各機、緊急機動ッ!!ここの連中が琵琶湖運河を渡るまで足止めする!!」

 用意された撃震に向かって走りながら叫ぶ・・・・・・ここで何かが終わる、そんな予感めいたものを感じながら。

 不知火から撃震に乗り換え、補給中だった戦術機をかき集めて麓に下りてみれば・・・・・・そこには大海の如ぎBETAの海が広がっていた。
 元は街だった平野部を埋め尽くす数千、数万のBETAの群・・・・・・圧倒的な物量、それこそがBETAの真の脅威。
 それを目の当たりにし、多勢に無勢と言う言葉が脳裏を過ぎる。琵琶湖からの支援砲激や鈴鹿山脈を越えて放たれるロケット弾やミサイルの雨も、溢れかえるBETAの前には焼け石に水では無いかと思いたくなる。

『・・・・・・もう・・・・・・駄目だ』

 絶望と悲壮感が入り混じった誰かの呟きが聞こえる。
 心が折れる、圧倒的な暴力の前に自分達が出来ることなど残されていない・・・・・・誰もがそう思い、戦う気力を失いそうになる。

「まだや・・・・・・まだ諦めるなッ!!」

 震える手に力を籠めて操縦桿を握り締める。
 恐怖に震えているわけじゃない、一瞬でも絶望してしまった自分の不甲斐無さに震えているのだ。
 多くの仲間を殺したBETAに恐怖した自分を、憎しみだけを向ければいい相手に恐れ絶望してしまった自分自身に・・・・・・そんなものを感じている暇があったら、死んだ連中のために一匹でも多くのBETAを殺すべきだッ!!

「ッ!!」

 息を飲み込み、スロットルペダルを踏み込む。
 撃震の跳躍ユニットが火を噴き堅牢な機体を一気に押し出す。
 目の前にいるのは全て敵、味方なんて1人もいやしない・・・・・・誤射なんて考えずに、ただ目の前のBETAを殺し尽くせばいい!!
 二刀の長刀を掲げ、脇の下から副腕を操作して突撃砲を前面に向けて制射する。
 放たれる36㎜砲弾、砕け散る戦車級の群。
 そんな仲間の死などお構い無しとばかりに、死骸を踏み越えて向かってくるBETAども。

「うぉぉぉぉぉッ!!」

 要撃級の腕部を掻い潜り、長刀を一閃。
 深々と刃が要撃級の身体に突き刺さり、どす黒い体液が傷口から噴出す。刃をそのまま滑らせ、要撃級を両断しながら周囲に群がってきた戦車級に120㎜散弾を放ち、周囲にBETAがいるせいで速度が出せない突撃級を蹴りつける。
 脚部に異常負荷が掛かったことを報せる警告が響くが、構わずに跳躍ユニットを吹かして突撃級を横手から押し上げる。突撃級はそのまま亀のように転がって無防備な腹を見せ、その腹に長刀を突き立てながらオープンチャンネルで叫ぶ、

「時間を稼げッ!!無理に戦わなくていい・・・・・・懐に入って引っかき回すんやッ!!」

 突撃級の死体を背にし、横手から回り込んでくる要撃級に砲弾を浴びせる。
 だが・・・・・・36㎜をその身に何発も受けながら要撃級が迫ってくる。蹄の音を響かせて接近してきた要撃級は衝角を振り上げ此方を叩き伏せようとするが、機体をバックステップさせて回避し手にした長刀を振るって叩き伏せる。
 切り裂かれた要撃級の向こうに、また別の要撃級の固体が見える。
 今度は三匹。その姿を知覚しながら、たった今切り捨てた固体に体当たりを食らわせて、迫り来る要撃級へぶつける。
 二匹が死骸に衝突してたたらを踏む、残った一匹が尚も接近しようと近寄ってくるが36㎜で牽制し、防御のために衝角を上げた隙間を狙って120㎜をぶち込む。
 右半身に大穴を開け、脚部が千切れ飛ぶ固体から視線を外し、体勢を立て直した2体の要撃級へ向けて噴射滑走。すれ違い様に二匹の要撃級の感覚器官を斬り飛ばす。
 勢いを殺さずに着地、脚部への負担を考えずに地面を削りながら制動・・・・・・地面に群がる小型種をひき殺しながら制動を掛ける。

 そのまま動きを止めずに斬撃、砲撃を繰り返し、小型種を踏み潰し、多くのBETAを物言わぬ骸に変えるが・・・・・・目の前には未だに赤い絨毯が広がっている。地面を埋め尽くすほどの戦車級の群、たった一人でコレを殲滅できるわけが無い・・・・・・わけが無いと分かっているのに自分は止まれない。
 周囲に視線を彷徨わせる、BETAの密集度の高い場所へ砲口を向けてトリガーを引いていると、

『ゼファー02!!だから1人で突っ込むのは止めてください・・・・・・心臓に悪いんですからッ!!』

『少なくとも援護が出来る範囲にいてくれると助かりますよッ!!』

 大貴と風見の乗る不知火が自機の両側に付く。
 戦術マップを確認すれば、生き残りの連中が必死に抵抗しているのが確認できる。赤い面と化した戦術マップの中を動き回る青い光点達・・・・・・その光は、まるで蛍のような儚き光だった。

(何分や・・・・・・何分持たせればいいッ!?)

 戦術マップを広域に設定すると、ダム付近の光点が此方から遠ざかって行くのが確認できる。
 その速度から見て、少なくとも20分・・・・・・いや10分は粘る必要があると判断した瞬間、ダムとは逆方向に味方を示す光点が表示される。
 赤い海に杭を打ち込むかの如く、猛烈な勢いで此方に接近してくる青い光点の群。

 IFFが示す所属は・・・・・・帝国近衛軍。

「近衛?・・・・・・最後まで京都に残ってた殿かいなッ!?」

 光学カメラでその姿を確認し、それが確信に変わる。

 極彩色なBETAの群の中から時折垣間見える、鮮やかな色に塗られた戦術機達。
 黒、白・・・・・・そして赤、蒼に塗られた瑞鶴。間違い無い、自分達がこの場所に残らされた原因である、近衛の殿部隊だ。

『此方、近衛軍第16大隊所属、月詠真耶大尉だ、貴官らの所属は何処だ?』

 赤い瑞鶴からの通信に眉を顰めてしまう、この状況で所属もクソも無いと叫びたいが・・・・・・相手は五摂家が率いている部隊、権力にひれ伏すつもりはないが・・・・・・部下の手前、流石に不用意な発言は出来ない。

「あ~・・・・・・京都基地、第221戦術機甲大隊所属の川井中尉と、その他生き残りの寄せ集め部隊や」

 投げやりとも取れる回答に、網膜に映る女・・・・・・月詠とか言ったか?その女の表情が険しくなる。
 その顔を見ながら、相変わらず近衛の連中は融通がきかんと内心で溜息を付き、突撃級の突進を避けて群がる戦車級へ36㎜砲弾をお見舞いする。
 だが大隊と言うことは少なくとも30機の戦力増強だ、自分達と合わせれば都合40機近い機数になる・・・・・・これならばダムから逃げる連中の時間稼ぎぐらいは出来るかもしれない。

『・・・了解した、琵琶湖運河まで後退する指示が出ているはずだ、何故撤退しない?』

「・・・・・・蛮勇溢れる侍さんたちを待ってただけや。とは言っても、今は永源寺ダムに展開していた補給部隊が撤退するまでの時間稼ぎやけどな」

『蛮勇だと?・・・貴様、我らを愚弄しているのか?』

 赤い近衛が皮肉交じりの言葉にきっちり噛み付いてきた。
 少しは軽く受け流して欲しいものだと、内心で呆れていると。

『よい、月詠よ。彼の言葉もまた事実だ。それにまだ逃げ残っている者がいるのであれば、彼らのために時間を稼ぐのは我らの役目ぞ』

『御意』

 蒼の瑞鶴の言葉にあっさりと頷く彼女の姿に嘆息してしまう。
 五摂家の人間は流石に話が分かるのかもしれないが、その格式ばった会話のやり取りには辟易してしまう。

 近衛の合流によって戦力は増強されたものの・・・・・・やはりそれでもそう長くは持ちそうに無かった。
 斯衛の瑞鶴も碌に整備や補給を受けていない機体ばかり、幾ら精鋭と呼ばれる連中とは言え、機体が限界では衛士がその腕を振るうことは出来ない。
 幸いと言うべきか、光線級の存在が確認されていないのが救いだが、それでもBETAの物量を相手に支援も望めない状態で戦い続けるのは困難だ。

『くそッ!!弾切れだッ!!誰か短刀か長刀を・・・・・・しまッ!?』

『バリオス03!!待ってろ、今助けてやる!!』

『行くな!!どうせ間に合わない!!他人の命よりも自分が生き残ることを優先しろ!!』

『抜かれた!!ザンザス06、そっちに突撃級が3体抜けた!!』

『くそッ!!こっちだって手一杯だってのに・・・・・・ザンザス09、迎撃しろ!!進路を変えるだけもいい!!』

 錯綜する通信内容を聞いて奥歯を噛み締める・・・・・・もう少し、もう少し耐えれば、この場所から撤退できる。
 だからそれまで耐えてくれと願い、要撃級へ120㎜を撃ち込んでいると、

『此方シュピーゲル01・・・・・・八日市に展開している部隊へ、聞こえますか?』

 戦場には不釣合いなほど静かな声がヘッドセットから聞こえてくる。

『此方ホーンド02、何用だ?』

『・・・・・・その声、月詠大尉?』

『その通りだが貴様は・・・・・・ッ!?何をしている、こんなところでッ!!』

『その話は後です。大尉が居るということはやんごとなきお方も一緒と言うことですね・・・・・・いいですか?良く聞いてください、ダムに展開していた補給部隊の撤収は済みました』

「済んだ?予定より早くないかッ!?」

 思わず会話に割って入ってしまったが、撤退が済んだと答えた相手は「はい」と答えて続けてくる。

『光線族種の照射範囲外から順次、大型ヘリで人員を輸送しました』

 あっさりと帰ってきた返答だが、正直自分の耳を疑ってしまった。
 大規模なBETAを前に、航空戦力の投入など聞いたことが無い。成功したから良かったようなものの、その作戦を指示した人間の正気を疑いたくなる。

『これより其方の撤退を支援します・・・・・・今から3分後に鈴鹿山脈に連なるダムを爆破、人為的に大規模な濁流を発生させます』

 データリンクで周囲の地形図が送られてくる。
 ダムが決壊したことで起きる濁流に飲み込まれる地区が赤く表示されていた。

『戦域に光線属種の存在が確認できたとしても、濁流に飲み込まれた光線級がレーザーを撃つことは困難です。各機、BETAが濁流に飲まれている隙に琵琶湖運河まで長距離噴射跳躍で辿り着いてください』

「無茶な話やな・・・・・・ほんま」

 作戦、と言えるかどうか怪しい内容を聞いて呆れてしまう。
 誰が考えたか知らないが、思い切ったことをする・・・・・・だが悪くは無い。

 連絡が入った数分間、機動防御を主とした戦闘を繰り広げていると、機体のセンサーがBETAの侵攻による振動とは別種の振動波を感知する。
 来た、と感じたさらに数分後、後方から津波の如き濁流が押し寄せてくるのを機体の光学センサーが捉えた。

『全機飛翔ッ!!だが幾らレーザーの脅威が低減しているとは言え、高度を上げすぎるなッ!!』

 赤い瑞鶴の指示に従い、戦域に展開していた全機がNOEで飛び上がる。
 その直後、凄まじい勢いを伴った濁流が地面を這うことしか出来ないBETAに襲い掛かった。
 戦車級を始めとする小型種が波に飲まれ、流れてきた流木や土砂が要撃級や突撃級の足を止める。
 一気にその場から離れつつ、BETA群の後方にまで濁流が流れて行ったのを確認して、これで時間が稼げた、琵琶湖運河に展開する部隊の足並みが揃う時間を確保できたはずだと確信した瞬間・・・・・・

『うわぁぁぁッ!!』

 聞き慣れた声がヘッドセットから聞こえてくる。
 慌てて視界を周囲に巡らせると、濁流の中でもがく不知火が確認できた。

 運が無かった、そう・・・・・・運が無かった。

 流れてきた流木が水面下の何かに引っかかり、先端が水面に顔を上げた瞬間、丁度その上にいた風見の不知火の脚部に直撃した。機体はそのまま姿勢を崩して落下し…濁流に飲まれた。

『き、機体が・・・・・・立て直せないッ!!』

 ノイズ雑じりの彼女の声が聞こえる。
 押し寄せる濁流の前には不知火などちっぽけな存在だ。爆発的な推力を生み出す跳躍ユニットも、空気口から大量の水が浸入すれば当然内部で燃焼が出来ない。
 溺れる人のように川の中でもがく不知火。勢いのある水流に足をすくわれて、地面に立つことも出来ないのだろう。

『愛華ッ!!待ってろ、今すぐ引き上げてやるッ!!』

 大貴がそう叫びながら流れ行く風見の不知火を追いかけるが・・・・・・彼女の機体は濁流の中にあって未だ聳え立つ物体に引っかかって動きを止めた。

『た、助かっ・・・・・・ひぃッ!?』

 自分が引っかかった相手を確認したのだろう、風見が小さく悲鳴を上げた。
 全高60m、10足の細長い装甲脚によって支えられた要塞級は濁流の中にあっても尚、その巨体を聳え立たせていた。
 戦術機の数倍はある巨体だが、地面に接している箇所は細長い10足の装甲脚のみ。水との設置面が少ないせいか、濁流に飲まれても微動だにしていない。

『くそッ!!こんな奴に!!』

 要塞級の脚部でもがく不知火、その機体へ向けて要塞級は腹の触手の先端を向ける。

『大貴ッ!!はよ助けるんやッ!!』

 要塞級を仕留めるべく自身も突撃砲を向けて制射するが、舞い上がる水飛沫によって照準用レーダーが阻害されて有効弾を与えられない。

『あいかっぁぁぁぁぁぁ!!』

 大貴の乗る不知火が砲弾を放ちながら長刀を振り上げて要塞級へと猛進して行く。
 NOE中の砲撃ゆえにぶれる砲弾、それでも何発かの120㎜が要塞級の頭部へ穴を穿ち、要塞級は振るおうとしていた衝角の目標を、足元にいる風見から大貴へと切り替えた。

『ッ!?大貴、避けてぇぇぇぇぇッ!!』

 風見の悲鳴交じりの声と同時に放たれる衝角。
 鍵詰め状の先端は強酸性の溶解液を放出する、貫かれれば戦術機と言えど数秒で溶かされてしまう致命傷の一撃。

『うぁぁぁぁぁぁぁっぁあああッ!!』

 それを大貴はギリギリのタイミングまで引き付け、機体を捻って避わした。
 しかし、避けきれなかった不知火の左腕部が衝角との激突によって吹き飛ぶも、大貴の不知火は衝角で機体を削りながらも突き進む。
 
『死ねぇぇぇぇッ!!』

 残った右腕部が保持した長刀が要塞級の頭部を貫き、不知火は勢いを殺しきれずに要塞級へ激突して止まった。

『ぐ、あ、愛華・・・・・・無事か?』

 衝突の衝撃でひしゃげた機体に鞭打って、要塞級の脚部にしがみ付いている彼女へ手を伸ばす大貴。
 頭部を失い絶命した要塞級はゆっくりと崩れ落ちて濁流に飲まれて行く。

『う、うん・・・・・・無茶しないでよ!!死んだらどうするのよッ!!』

 強気な発言だが、彼女の声音は今にも泣き出しそうに震えていた。

『大丈夫だよ、川井中尉を見て育った俺たちがそんな簡単に死ぬかよ?ほら、さっさとこの場所から逃げ・・・・・・』

 彼女を励ますためか、軽い口調で大貴がそう答えた直後。

 ―――彼の乗る不知火が、白い爆発を起こして吹き飛んで行く。 

 その光景を一瞬知覚出来なかった、だが胸部に穴を穿たれて崩れ落ちた不知火を確認して理解する。

(要塞級の腹に光線級がおったんかいなッ!!)

 言葉にならない叫び声を内心で上げ、胸中に焦燥が渦巻く。
 データリンクで確認するまでも無かった、大貴の乗っていた不知火は管制ユニットがあった場所に幾つモノ穴が穿たれている。
 それでも一抹の望みを賭けて、データリンクで彼のバイタルデータを確認するが・・・・・・シグナルロスト・・・・・・彼は蒸発してしまった。

『い、いやぁぁぁっぁぁぁぁぁああああああああッ!!』

 悲痛な叫び声が聞こえる。それが普段は男勝りで勝気な声を上げていた彼女の声だと気づくよりも早く、二度目の爆発音が聞こえる。

「風見!!逃げろぉぉッ!!」

 自分でそう叫んでおきながら、それが最早無理だと言うことを頭の何処かで理解していた。
 二射目のレーザーは水面から顔を見せていた彼女の不知火の頭部、背部兵装担架を融解せしめていた。
 跳躍ユニットは水の下、腕部に保持していた武装も既に流された彼女に、目の前にいる光線級を倒す術が残されていない。

「くそがぁぁぁ!!やらせへん、やらせへんぞぉぉぉぉッ!!」

 これ以上仲間を失わせてなるものか。
 九州からここまで、数多くの仲間の死を見てきた。
 死なせない、二度と彼らを死なせない、そう思い此処まで来たというのに、またもや目の前で誰かが死のうとしている。

『大貴・・・・・・大貴・・・・・・たいきぃ・・・・・・くそ、くそ、くそ、くそッ!!』

 呟くような彼女の声が、次第に憎しみに彩られた呪詛めいたものに変わる。
 同時に彼女の機体が、要塞級の脚部を掴み上げて水面から浮上する。腰部に備え付けられた跳躍ユニットが水面に持ち上がり、タービンの回る甲高い音を響かせ始める。

 あった・・・・・・彼女がBETAを殺す最後の手段が。

「止めろ風見!!お前まで死ぬ気かいなッ!!」

『大貴の・・・・・・大貴の敵っ!!』

 制止の声は最早彼女には届かなかった。
 跳躍ユニットを暴走させての自爆攻撃。彼女がそれをしようとしているのに気付いたが、それを止める手段を自分は持ち合わせていない。
 水を吸った跳躍ユニットが爆発する可能性がどれほどあるのか・・・・・・だがそんな可能性をかなぐり捨てて、彼女は死んだ男の敵を討とうとしている。
  
 跳躍ユニットのロケットモータを起動させ、水柱を作りながら彼女の下に向かうが・・・・・・遠い、ほんの数百メートルの距離なのに、彼女までの距離が凄まじく遠く感じる。

 不知火の跳躍ユニットが周囲の大気を吸い込みながら振動を始める。
 爆発する・・・・・・そう思ったが、要塞級の腹にいた光線級のインターバルが先に終わりを迎えた。

『大貴・・・・・・ごめんね・・・・・私もすぐ・・・』

 最後まで言葉を語ることも出来ずに、彼女の乗る不知火が幾条ものレーザーを受けて吹き飛ぶ。
 跳躍ユニットは・・・・・・爆発しなかった。

「この・・・・・・ボケがぁぁぁっぁぁぁああっ!!!!!!」

 それは死んだ彼女に向けてか、それとも二人を殺した光線級に向けてか・・・・・・あるいは助けられなかった自分自身にか。
 声にならない暴言を叫びながら、要塞級の腹へ撃震の脚部へ捻じ込む。
 跳躍ユニットに勢いをつけたその一撃で腹の中にいた光線級を全てすり潰したが・・・・・・達成感も爽快感も何も感じない。

「死ぬときまで一緒やなんて・・・・・・どこまで仲いいんや、お前らは」

 水流が減り、折り重なるように倒れた二機の不知火を目の当たりにし、そう呟くことしか出来なかった。

「・・・・・・式は向こうで挙げるんやな。何・・・・・・わいも直ぐ行くさかい、きっちり冷やかしてやるから覚悟しとけ」

 物言わぬ二機にそう別れを告げて、濁流に飲まれても尚生き延びたBETAを睨みつける。
 怒りで震える腕を押さえつけ、己の歯を噛み砕かんばかりに噛み締めて、クソッタレな化け物たちを見据える。

「殺してやる・・・・・・お前ら全殺しやぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 声帯を痛めんばかりの咆哮を上げて、俺は生き残ったBETAたちに襲い掛かった。

 もう逃げることなんて考えられなかった。自分の命は此処で消えるものだと覚悟していた。
 そうでなければ死んだ仲間に顔向けできない、最後の最後までBETAと戦わないと・・・・・・向こうに行った際に彼らになんて詫びていいか分からない。
 自分はきっと畳の上じゃ死ねないだろう・・・・・・自分が死ぬ場所は、このクソッタレな戦場だけだ。

 そう考え一人BETAに向かったのだが・・・・・結局、近衛に救出されて死ぬことが出来なかった。

 死を決めた戦場からを生き延びてしまった俺は、それから何度も機体を乗り換えてBETAの前に立ちはだかった。その中には近衛の瑞鶴もあった。そのせいで近衛の連中から目を付けられる結果になったのだが・・・・・・まぁそれはどうでもいい

 最後の最後まで、俺は死んだ連中のためにBETAを殺す。
 BETAを殺し尽くせば、連中に顔向けできるかもしれない。


 その時は・・・・・・出来る事なら、笑って彼らと酒を酌み交わしたい。








1999年8月6日
神奈川県横浜市

<桐嶋 久志>

 東の空から太陽が昇る。

 淡い光が漆黒だった夜空を切り裂き、暗闇に包まれた周囲の光景を白日の下に曝け出して行く。
 どす黒い体液を撒き散らして其処彼処で絶命している異形の生物、原型を留めていないほど破壊された戦術機、元は人だった肉塊、大地は放たれた砲弾でぽっかりと大穴を覗かせ、土砂と粉塵が舞う戦場では今も尚命のやり取りが繰り返されている。

『CPより各機へ、監視衛星から入電、13番ゲートよりBETAの流出を確認。個体数は約3000、侵入部隊侵攻ルート上に展開する恐れアリ、至急迎撃に移られたし』

『リコーリーダー了解、支援は受けられるんですかッ!?』

『・・・・・・相模湾に展開している帝国海軍に支援を申請します、5分持ちこたえてください』

『5分ッ!?レーザー級がたくさんいるんです、少なくともAL弾を早急に・・・・・・』

「了解した、これより戦域を移動する。ルートは?」

『W-22-16からW-20-15へ、レーザー照射警告に気を配ってくだい』

「気遣いに感謝する・・・・・・リコー03よりリコー04へ、聞いたな?隊を指定ルートまで移動させる、各機へ指示を出せ」

『わ、分かりました・・・・・・』

 臨時中隊長を務めている彼女の返答を聞いて秘匿回線を切る。

 口を出したのは問題だったかもしれない、だがそれは彼女自身が望んだことだ。「自分には中隊長なんて務まりません」っと気弱に訴えてきた彼女の姿を思い出して苦笑してしまう。
 本人にその気が無くとも自分が務めるよりは遙にマシだろう、臆病な彼女ならば無駄に誰かを死なせることは無いに違い無い。

 明星作戦、そう呼称された横浜ハイヴ攻略作戦が開始されてから既に10数時間が経過していた。
 元は大隊規模だった部隊は中隊規模にまで縮小し、指揮官を始めとする先任たちは軒並み戦死してしまっている。
 だがそれでも生き残っている自分達の部隊は幸運な部類だろう、壊滅、全滅した部隊は数え切れないほど上がっていた。

 予想を遙に上回るBETAの数に敗走に次ぐ敗走を重ねる帝国軍。
 北海道からわざわざ遠征してきてみれば、侵攻作戦と言う名の負け戦・・・・・・ハイヴにこれ以上の成長を許さないためにも、作戦の決行を決めた上層部の決断には感嘆するが、逆に引きどころを知らない連中の無能さに辟易する。

(いや・・・・・・引けば、日本は其処までか)

 北方の守備に就いていた自分達の部隊まで狩り出されたのだ、ここでハイヴを攻略できなければ・・・・・・帝国軍に残された戦力で二度目の侵攻に耐えられるとは思えない。

『クソッ、斯衛は何をしてるんだッ!?』

『もたもたして・・・・・・精鋭なら精鋭らしく、颯爽と現れなさいよッ!!』

 彼女が部隊の生き残り達に話したのだろう、オープンチャンネルから年若い後任たちの不満が幾つも聞こえてくる。
 無理も無い話だ、先任は自分と彼女を残して戦死し、気弱な彼女の指示に連中が素直に従うとは思えない。

『・・・・・・き、桐嶋中尉』

 網膜にバストアップで映し出された彼女が、不安そうな顔で俺に声を掛けているのに気付いた。
 その表情を見ていると・・・・・・ほんの数時間前の会話を思い出してしまう。





 二時間前
 帝都・帝国陸軍立川駐屯地

「軌道降下した連中は何やってるんだよ・・・・・・突入してから何時間たったと思ってるんだ、予定なら反応炉までとっくに辿り着いているはずなのに」

「ハイヴが・・・・・・深いんだよ。出てくるBETAの数だって参謀本部が予想した数をとっくにオーバーしてるって話しだし・・・・・・」

「私たち・・・・・・あのハイヴを攻略できるのかな」

「ふん・・・・・・攻略云々よりも、生きて帰れるかもわからないけどな」

 乗機が特急で補給整備がされている合間に、若い連中の力無い呟きが聞こえてくる。

 一年前の本土侵攻で多くのベテランを失った帝国軍は、北方の守備に就いていた連中の多くを関東圏へ異動させていた。
 戦闘経験が豊富なものを必要としていたのは分かる、だがその間に任官した連中は碌な経験も無いままに今回の作戦に参加する形となってしまった。
 戦闘から10数時間が経過し先任連中が次々と死んでいく中、未だに生き残っていることに感心するが・・・・・・それもそろそろ限界なのかもしれない。

「・・・・・・防衛戦なら兎も角、進攻作戦だから・・・・・・休んでる暇なんてないからな」

 支援輸送車に背を預けながら、数十キロ先で行われているハイヴ攻略作戦の様相を脳裏に描く。
 
 人類がBETAと戦争を始めて30年、その間に連中の巣といえるハイヴに突入、攻略までを視野に入れた作戦は数少ない。
 今回ほどの作戦となると、ミンスクとボパールを対象に行われた大規模作戦のみ。
 そしてそのどちらも失敗に終わっている・・・・・・今回の作戦に参加する戦力は、帝国軍のみならず、大東亜、国連、米軍の四軍で形成された大戦力だが、絶対に攻略できるという保証は一切無い。
 現に、虎の子といえる軌道降下部隊が突入してから既に数時間経っている、当初の計画ではとっくにハイヴを攻略している頃なのだが・・・・・・

(足並みが悪すぎる、他の連中が何を考えているかは知らないが・・・・・・BETAを前に、くだらない政略を繰広げる余裕が俺たちにあると思っているのかね)

 戦場に幾つも存在する進入禁止区域、各軍の機密だかなんだか知らないが、そんな制約があるせいで各隊との連携が阻害されることが数多くあった。
 当初は戦力に組み込まれていなかった米軍、規模で言えば世界一の戦力が増えたことに喜ぶべきなのだが・・・・・・一年前の日米安保条約の破棄が未だに禍根として残っているので、現場の将兵にとって見れば微妙な話だった。

「・・・・・・桐嶋中尉、此方でしたか」

 少々考え過ぎていたらしい、呼ばれるまで彼女の存在に全く気付かなかった。
 地面に落としていた視線を上げれば、一人の女性が此方を見下ろして立っていた。
 自分と同じように強化装備を装着しているので、一見して衛士と分かる彼女なのだが、その仕草や態度だけで見れば衛士だと思う人間は少ないだろう。

(もう少し自分に自信を持てばいいものを・・・・・・)

 不安そうな顔で自分を見下ろしている彼女の瞳を見ながら、ふとそんな考えが脳裏を過ぎる。

 轟玲奈(とどろきれいな)中尉。
 明星作戦決行のために北方の地から自分共々上京してきた衛士の1人。
 年齢は・・・・・・確か21、2ぐらいと聞いた覚えがある。
 柔らかそうなふっくらとした体系にウェーブの掛かった栗色の長い髪、大きく見開いた垂れ目の瞳は自信無さそうに揺れている。
 衛士などよりも・・・・・・何処かの役場で事務でもやっているほうが似合う、そんな女性だ。

「何かな・・・・・・轟中尉?」

 彼女を見上げながらそう問いただすと、彼女は困った顔を此方に見せてきた。

「その名前で今は呼ばないでください・・・・・・」

 消え入りそうな声で答える彼女の姿に苦笑してしまう。
 彼女が仰々しい自分の名前にコンプレックスを持っているのは知っているが、この状況でそれを気にするだけの余裕があるのはいいことだろう。

「悪かったよ、それで何の話だ?」

「はい、先ほど近衛軍の第二連隊がハイヴに突入することが決定しました」

「なるほどな・・・・・・俺たちはそれの露払いでも任せられたのか?」

「その通りですが・・・・・・驚かないんですか?」

 此方の態度に疑問を持った彼女に「なにを?」と聞き返してしまう。
 驚くも何も、状況を推察すればだいたいの察しが易に付くと思うんだが・・・・・・

「近衛が突入すると言うことは、内部に侵入した軌道降下部隊の作戦が失敗したと言うことですよね?・・・・・・帝都防衛に就いていた第二連隊を投入するなんて・・・・・・本当にこの作戦は成功するんですか?」

「さぁな・・・・・・作戦の成否なんて、末端の俺たちが考えることじゃない」

 そう答えながら立ち上がって自機を見上げる。
 陽炎、そう呼ばれる乗機は、各所に補給のためのケーブルが繋がれた状態で鎮座している。

「どうして・・・・・・桐嶋中尉はそんなに強いんですか?」

「ん?・・・そう見えるか?」

 彼女は小さく「はい」と答えて自分と同じように陽炎へ視線を向ける。

「強いです・・・どんな時も達観してて冷静で・・・・・・中隊長も本当なら桐嶋中尉が務めたほうが絶対いいです」

「止めてくれ、誰かの命を背負うなんて俺の柄じゃない。俺が率いたら、とっくに大隊は壊滅していたはずだ」

 小さく嘆息して彼女の言葉を否定するが、彼女は首を横に振って話を続ける。

「そんなことありません・・・・・・桐嶋中尉のほうが経験も豊富だし、何時だって冷静沈着ですから・・・・・・部隊の皆も中尉が指揮を執ったほうが安心します」

「安心ね・・・・・・」

 オウム返しにそう呟いて、自分自身のことがいまいち理解していない彼女にどう告げるべきか逡巡してしまう。
 確かに指揮を執る人間が四六時中動揺しているようでは話にならない。だが人間には個性と言うものがある、今の彼女の立場がその個性をある意味最も生かしているのだが・・・・・・

「・・・・・・ってもさぁ、轟中尉。あれどうにかなんないわけ?」

「支援砲激のたびにビビッてるんじゃ・・・・・・正直指揮官として失格よね」

「そうだよね~きっと今頃、桐嶋中尉に泣きついているんじゃないの?」

「桐嶋中尉も大変よね。轟中尉のこと、配属してからずっと面倒見てるんでしょう?・・・・・・まぁあの人ぐらいじゃないと、轟中尉なんてあっさり見放されちゃうでしょうけどね」

 っと、間が悪いことに、部下の連中が彼女のことを会話している声が耳に届く。
 勿論それは彼女にも聞こえていたようで・・・・・・先程よりも更に肩を落とし自信無さ気にうな垂れてしまった。

「やはり・・・・・・桐嶋中尉のほうが・・・」

 震える声でそう告げた彼女の態度に苦笑するしかない。

「いいんだよ、お前はそれでいいんだ」

「え・・・どうしてですか?」

「ふむ・・・・・・反面教師って言葉を知ってるか?」

 その問いに首を傾げながら頷く彼女・・・・・・その言葉だけではまだ理解できていないようだ。

「若い連中な、正直言ってお前のことを頼り無いと思ってるはずだ」

「・・・・・・はい」

「中尉のくせに貫禄も無いし、いつも怯えてるし、口調も態度も自信無さそうに震えているし・・・・・・まぁ当然と言えば当然だな」

 例を挙げるたびに彼女の肩が落ちていく。
 少々言い過ぎたかなと思い、本題に入ろうと口を開きかけると、

「でもさぁ轟中尉の脅えた顔って、なんかこう・・・・・・くるよね?」

「うぇ、なに・・・・・・あんたSだったの?」

「ち、ちがうって!!そう言うのじゃないって!!ほ、保護欲みたいなものよ!!」

「あ~それなら私も分かる・・・・・・全力で守ってあげたくなるよね~轟中尉って」

「そうそう、それそれ。皆だって同じでしょう?あの人のことが心配で、そっちばっか見るようになって・・・・・・視野が広がったから生き残ってるようなもんじゃない」

「ふふふ、私らみたいのに背中守って貰ってる中尉って、轟中尉ぐらいじゃないの?」

「だよね~ま、部隊の貴重なマスコットだし・・・・・・これからも生きてて貰わないとね」

「は、当たり前じゃない・・・・・・エレメントは桐嶋中尉に譲るけど、絶対にあの人のこと死なせないわよ」

「はいはい、今更そんなこと言わなくてもわかってるから・・・・・・皆もそうでしょ?」

 そんな若い連中の無邪気な笑い声が響き渡る。

「・・・・・・とまぁ、そう言う訳だ。皆お前を守ろうと必死なんだよ」

 自分の言いたかったことを全部連中に言われてしまい、どうにも罰が悪くなってポリポリと額を指で掻く。

「私は・・・・・・皆に守られていたんですか?」

「いや、一概にそうは言えない・・・・・・お前のお蔭で連中も成長し、自分を守れているわけだからな・・・・・・まぁ複雑だろけど納得するんだな、お前は自分が思っているほど・・・・・・無能な指揮官ってわけじゃない」

 そう言い終わると同時に、機体の補給が終わったことを報せるアラームがヘッドセットから鳴り響く。

「時間だ・・・・・・さて、斯衛のエスコートでもしに行くか」

 俯く彼女にそう告げて、自機へ搭乗しようと踵を返すが、

「桐嶋中尉も・・・・・・そうなんですか?」

 消え入るような声を耳にして足を止める。
 振り返ると、何やら真剣な顔で彼女が此方を見上げていた。

「そう・・・・・・とは?」

「桐嶋中尉も・・・・・・私を守ってくれてたんですか?」

 聞き返した質問に返ってきたのは、今更と言いたくなるような内容の言葉だった。

「当たり前だろう?お前が任官して今まで・・・・・・誰がエレメントだったと思ってるんだ?今までも、そしてこれからもお前の背中は俺が守ってやるよ・・・・・・」

 溜息雑じりに答えてやると、彼女が顔を伏せたまま頷く。
 その姿に軽い既視感を覚える・・・・・・そう、彼女と最初に会った時と同じなのだ。
 もう四年も前になるが、彼女が始めて部隊に配属になった時の姿と、今の彼女の姿が脳裏で一致する。
 俯いて、自信無さそうに自己紹介をしていた彼女・・・・・・考えると、その時から全然変わってないことに笑ってしまう。
 脅える彼女の尻を叩いて戦場に連れ出し、人付き合いが上手く出来ない彼女に酒の飲み方を教え、くだらない悩みを抱えその愚痴を夜が明けるまで付き合ってやった、他にも色々と世話を焼いてやったのにも関わらず・・・・・・彼女は昔から何一つ変わっちゃいない。

「・・・・・・ま、お前はそのままでいいのかもな・・・・・・変わらないことが、お前の個性なんだろうな・・・」

「え・・・?」

 不思議そうに声を上げた彼女へ背を向け、俺は自機へ向かって歩き始めていた。
 彼女がどんな表情をしていたか・・・・・・俺にそれが分かるはずも無かった。






 甲22号目標
 横浜ハイヴより北東20㎞地点

「斯衛のエスコートが俺たちの任務だ・・・・・・仕事はキッチリこなす、そうだろう?」

 脳裏に浮かんだ情景を振り払いながら網膜に映る彼女へそう返答する。

『・・・はい、リコー03より各機へ、これより近衛部隊の侵入ルート上にいるBETAを殲滅します』

『『『『了解ッ!!』』』』

 先ほどまで愚痴を漏らしていた連中が、彼女の指示に力強い返答を返す。
 その様子を見て笑みが漏れそうになるが、それを堪えて瓦礫と化したビルや建物の間から湧き出るBETAを一瞥する。

「各機へ、無闇にBETAを相手するなよ・・・・・・俺たちの任務は露払いだ。ビルの外壁を駆使して高度を取って近衛の侵入ルートに向かうぞ」

『リコー08了解・・・・・・ほんと、桐嶋中尉って冷静ですよね』

 自機に続いて中隊の機体が飛翔すると、部下の1人がそんな軽口を叩いてきた。

「そうか?・・・・・・内心は恐怖で脅えているんだがな」

『リコー10、信用できません』

『リコー05、もしかしなくても、むっつりですか?』

『こ、こら!!上官になんて口の聞き方をするんですか!!』

 慌てて轟が部下の会話を止めに入るが、今更その程度の軽口で目くじらを立てるような俺じゃ無い。

『まぁまぁ轟中尉、そんな桐嶋中尉だから中尉とお似合いなんじゃないですか』

『ちょ、ちょっと!!私と桐嶋中尉はそんな仲じゃ・・・・・・』

『隠さなくてもいいですって、見てれば分かりますって・・・・・・それで、何時ですか?』

『い、何時って・・・・・・なにが?』

『結婚?・・・・・・あ、出産のほうが先ですか?』

『なッ!?な、なんでそうなるんですかッ!?』

『だって~轟中尉・・・・・・最近太りましたよ?とくに下半身が・・・・・・』

『ッ!?ち、違います!!そんなんじゃありません!!皆の気のせいですッ!!』

(・・・・・・まるで女学生のノリだな)

 幾つもの黄色い声を聞いて内心で嘆息してしまう。
 まぁ昨今の男不足で入隊してくる連中は殆どが女子だ、女だらけの部隊になれば喧しくなるのも当然なのかもしれない。

 半壊したビルを迂回し、そろそろ近衛の侵入ルートに入ったことを確認して、連中に無駄話を止めるように口を開きかけようとした瞬間、

『CPよりリコー隊各機へッ!!進行中の近衛部隊がBETAの地中進行によって奇襲を受けましたッ!!至急、援護に回ってください!!』

(ちぃ、つかえん奴らだッ!!)

 CPからの報告に内心で吐き捨てる。
 ハイヴ突入部隊はほぼ無傷で突入させる必要があると言うのに、戦闘機動で無駄に推進剤を消費すれば奴らの作戦成功の可能性が落ちる。

『何よ!!私達を待たせた挙句、余計なお客まで相手にしろなんて・・・・・』

『これだから鼻の高い近衛は嫌いなのよ!!庶民は全員家来とか前時代的な考え持ってるんじゃないの!!』

『無駄口を叩くなッ!!各機へ!!これより近衛部隊の支援に向かいます!!いざとなれば・・・・・・私たちもハイヴまで突入します!!』

 部下の言葉を遮り、今まで見たこが無いくらいに毅然とした様子で指示を出す彼女。その姿に一瞬飲まれてしまいそうになる。それは他の連中も同じようで、数刻の間全員が呆けていると・・・・・・

『ッ!?CP よりリコー隊各機へッ!!現戦域に国連軍から選出された突入部隊が向かっていますッ!!・・・・・・HQより入電ッ!!戦域に現存する全部隊は国連軍の支援にあたられたし!!繰り返す、国連軍の突入部隊の支援を行われたしッ!!国連軍のコールサインはエインヘリャル、レイピア、ヴァルキリー!!』

『増援?・・・・・・一体何処から?』

 呟くような彼女の声に自分の意識が引っ張られる。
 網膜に映る戦術マップを確認すると、確かにこの戦域に突入しつつある部隊が確認できる。

「国連軍?なんで今更・・・・・・なにッ!?」

 疑問に思い国連軍の部隊を視認し・・・・・・思わず声を上げてしまった。
 向かってくるのは一個大隊の戦術機。IFFにはCPからの連絡どおり国連軍所属の部隊の表示、そして網膜に映るそれら機体の姿は・・・・・・

『此方、極東国連軍、A-01連隊第2戦術機甲大隊所属の部隊だッ!!これよりハイヴへ突入するッ!!支援を請う!!』

 自らの所属を名乗りながら戦場に躍り出るUNブルーに塗装された戦術機群、その全てが不知火ッ!!

(不知火装備の国連軍?・・・・・・聞いたことが無いぞッ!?)

『り、リコー07よりリコー03へ、あの国連の部隊は・・・・・・』

「今は疑問を持つな、目の前の敵に集中しろ」

 自分と同じ疑念を持った部下にそう告げながらも、地面から沸きあがったBETAを駆逐しながら突破して行く不知火たちの姿に疑問が積もる。

 不知火は日本が生み出した第三世代機、各国に先駆けて配備された新鋭機を何故国連軍が運用しているのか?
 多国籍軍である国連軍に不知火をまわすなど・・・・・・技術漏洩の危険性を提供した連中は考えなかったのだろうか?いや、それ以前に国連に配備する機体があるなら、自分たちの隊に何故まわさない!!と当然の疑問が胸中に渦巻くが、それに答えてくれる相手は此処にはいなかった。

『うわぁぁぁぁっぁぁぁぁッ!!』

 そんな自分の思案を中断させるかのように、咆哮を上げながらBETAへ吶喊していく一機の不知火、その姿に何故か目が釘付けになってしまった。
 オープンチャンネルから聞こえる声は、若い・・・・・・声の調子から見て任官して間もない男だろう。

『死なせない・・・・・・死なせるもんかぁぁっぁぁッ!!』

『レイピア12よりレイピア11へッ!!孝之、前に出すぎだ!!』

 吶喊する機体のエレメントなのか、後から続く機体が必死になって追従して行く。

『俺たちの街で、これ以上死なせたくないんだっぁぁぁぁぁ!!』

(故郷・・・・・・か、)

 ヘッドセットから聞こえてきた男の言葉に内心で頷いてしまう。
 故郷、と言うことはあの衛士は横浜に住んでいたことがあるのだろう。故郷を取り戻すために、帝国軍ではなく国連軍に入隊した理由は知らないが・・・・・・そのありきたりな覚悟に自然と口元が歪む。

「リコー03よりリコー04へ、国連軍を援護する・・・・・・旧式の瑞鶴よりは不知火のほうが戦力になるはずだ」

 余計な疑念を持つのは止めだ、ハイヴ攻略は不知火の部隊に賭けたほうが確立は上がる・・・・・・そう判断した直後。

『WE-02ポイントにいる全機へッ!!直ちにこの戦域から撤退しろッ!!』

 またもや一機の不知火が、オープンチャンネルでそう叫びながら戦域に侵入してきた。

『此方リコー03、どう言うことだ?撤退命令はまだ受けていないぞ?』

 不鮮明な指示を出した機体に視線を送りながら返答する。

 後から来た不知火は帝国軍の基本塗装である漆黒に塗られた機体だったが、細部が先ほど現れた国連軍所属の機体と違う。IFFには不知火壱型丙との表示がされていた。
 不知火の改良機の話は聞いたことがあるが、試作機もどきがなんでこんな場所に?と疑問を持つが、続けてその壱型丙が発した発言に全員が驚愕する。

『米軍がG弾の使用を強行したッ!!直ぐにHQからも通信が入るはずだッ!!』

「なッ!?G弾!?」

『シュピーゲル01!!上ですッ!!』

 思わず叫んだ直後、もう一機現れた壱型丙の言葉に吊られて視線を上げる。
 同時にそれまで砲弾を迎撃していたレーザーが、一斉にその閃光をハイヴ直上に向けた。
 幾つもの閃光がハイヴから立ち上り、太陽の光が薄く差し込んだ空に幾条もの光の柱を作り出す。

(・・・・・・あれか!?)

 光学カメラの倍率を最大にまで設定すると、遥か上空から何かが落下してくるのが辛うじて視認できた。
 そう視認できた・・・・・・ミサイル、航空機、戦術機を問わず、飛翔物体を等しく打ち落とす光線級のレーザーを浴びているはずのそれを見ることが出来た。

「レーザーが・・・・・・曲がる?」

 自分の目を疑ってしまったが、確かに降下している突入カプセルはレーザーの閃光を歪めている。
 よく見れば・・・・・・突入カプセルの周囲に張られた薄い膜のようなものがレーザーの光を湾曲させていた。

 ありえない、その光景を呆然と見上げていると、

『桐嶋中尉!!避けてくださいッ!!』

「ッ!?」

 轟の言葉に我に返り、視線を前に向ければ一体の突撃級が目前まで迫っていた。。
 我ながら呆け過ぎていた、そう自分自身を罵倒しながら跳躍ユニットに逆噴射させて突撃級から距離を取ろうとするが・・・・・・間に合わないッ!!

「ぐぁぁぁぁッ!!」

 激突、凄まじい衝撃で身体が揺さぶられる。
 逆噴射中だったので衝突時の衝撃を少しは軽減できたはずだが、それでも衝突のショックで頭がクラクラする。
 直ぐにでも機体を立て直さないと危険だと分かりつつも、身体が言うことを利いてくれない。

『うわぁぁぁぁぁっぁぁあッ!!』
 
 聞きなれた声が遠くに聞こえる。
 叫ぶなんてらしくないことを、と内心で彼女に苦笑を送っていると、目の前にいた突撃級の装甲殻に幾つもの弾痕が穿たれる。
 その姿を呆然と見た一瞬後、横手から一機の陽炎が現れ突撃級に体当たりを食らわして吹き飛ばす。

『だ、大丈夫ですか?桐嶋中尉・・・・・・』

「くッ・・・・・・この馬鹿が、自分のほうが酷い状態だろうが」

 ふら付く頭を振って機体を立ち直らせる。
 自機の状態も酷いものだが、彼女の機体も損傷が激しかった。モース高度15とされる突撃級の装甲殻に突っ込んだのだ、戦術機の脆い装甲が耐えられるわけが無い。

『私は・・・・・・大丈夫です、リコー04より各機へ、この戦域から撤退します・・・・・・BETAは相手にしなくていいです、自分が生き残ることを考えてください』

 小さな声で指示を出す彼女のバイタルデータを確認。
 外傷はないようだ、衝突のショックで脳震盪でも起こしているだけだろう。
 そのことを確認して内心で安堵の吐息を漏らす。だがG弾が降下してきている以上、一刻も早くここから逃げる必要があった。

『全機早く後退しろ!!爆発による被害予想が出来ない以上、少しでも距離を稼ぐんだッ!!』

 飛び立つ中隊各機に激を飛ばす壱型丙。
 その言葉に従い機体の跳躍ユニットを起動させていると、壱型丙二機の会話が耳に入ってくる。
 
『中尉、突出した国連軍の機体が二機、BETAに囲まれて退避できないようです』

『・・・・・・了解した、これより救出に向かう。君は転進して退避部隊の援護を・・・・・・』

『その命令は承服しかねます、中尉を1人で生かせるなと再三言われてますので・・・・・・地獄の其処まで御一緒致します』

『はぁ・・・分かったよ。だからそう睨まないでくれ・・・・・・付いてくるのはいいが推進剤の残りには気を配るように』

『はッ!!了解しました!!』

 そんなやり取りをしながらハイヴへ向けて飛び立つ二機。
 ハイヴの頭上に投下された二発のG弾は既に視認できる位置まで降下してきている。

(・・・・・・自由落下にしては速度が遅い?噂に聞く重力制御か?)

 噂に尾ひれの付いた眉唾の話かと思ったが、落下してくるG弾の降下速度から見て、噂話は事実なのだと確信できた。
 向かってくるBETAを全て無視し中隊各機が全力で退避行動に移る。
 後任たちが退避していく姿を確認後、自分も機体を後退させようとバックステップを取ると・・・・・・

『リコー04何をしているッ!?爆発まで時間が無い、BETAなど相手せずに退避しろッ!!』

 損傷した機体に鞭打って、未だにBETAに向けて砲撃を続けている彼女にそう声を掛けるも、

『行ってください、私は中隊長として全員が退避するまで此処で食い止めます』

 返ってきた静かな声に疑問を覚える。
 誰よりも脅えていた彼女が何故こうも冷静でいられる?

 彼女の乗る陽炎は4門の突撃砲をBETAへ向けひたすら射撃を行っている・・・・・・そんな彼女の機体を後方モニターで確認し・・・・・・愕然としてしまう。

 腰部に取り付けられた跳躍ユニットが半壊している。一枚は根元から外れ、もう一枚は内部構造をむき出しに、機体が動くたびに内部燃料を周囲に撒き散らしている。
 何時だ?・・・・・・考えるまでも無い、先ほど自分の機体を救うために突撃級に体当たりを食らわした時に決まっている!!

「轟ッ!!管制ユニットを強制排出しろ!!直ぐに拾ってやる!!」

 逆噴射制動をかけて機体を反転、直ぐに彼女の元へ向かおうとするが・・・・・・

『間に合いません・・・・・・』

 帰ってきた彼女の声を聞いて上空を仰ぐ。
 二発のG弾の周囲に張られている膜が、先ほどよりも膨らんでいるのが分かる。爆縮の前兆なのか分からないが、少なくとも良い兆候だとはとても思えない。
 G弾の効果範囲がどれほどかは分からないが、少なく見積もって核と同規模クラスだと想定すれば・・・・・・この場所も無事に済むとは思えない。

「馬鹿が・・・・・・なんで直ぐに言わなかったッ!?」

 ―――今までも何度も見てきた。

『言ったら・・・・・・また皆、私のことを守ろうって必死になりますよね?』

 ―――今回も、同じように見るだけだ。

「そんなのは連中の勝手だろうッ!!」

 ―――仲間が、誰かが死ぬのを、ただ見るだけだ。

『勝手なんかじゃありませんよ、誰かが私のせいで死んだら・・・・・・悲しいじゃないですか?』

 ―――俺よりも先に死んでいく連中を・・・・・・見るだけだ。

「お前が死ねば、皆悲しむんだぞッ!!」

 なのにどうして俺は・・・・・・こんなに必死になって叫んでいるんだろう?
 もう彼女は助からないと分かっているのに、彼女を助けることが出来ないと分かっているのに・・・・・・どうして俺は叫んでいるのだろう?

『それは・・・・・・ちょっと嫌ですね』

 小さく、ほんの小さく彼女が困ったように笑顔を見せた。
 同時に乗機が自分の制御を無視して動き始める。

「なッ!?」

 操縦桿を動かすが機体が此方からの操作を受け付けない。
 それが中隊長権限を使い、彼女が上位コマンドで機体を操作しているからだと気付いた時には、既に彼女の乗る機体が視認できる距離を越えていた。

『でも私・・・・・・皆を守れましたよね』

 姿は見えなくとも、ノイズ雑じりの声がヘッドセットから聞こえてくる。

「ああ・・・・・・守ったよ」

 此方の声が聞こえているか分からないが、なんとか声を絞り出してそう答える。

『・・・・・・よかった』

 満足げな返答が返ってくる、通信がまだ生きていることに気付いたが・・・・・・今更なんて彼女に声を掛けていいか分からなかった。

 死に逝くものになんて声を掛ければいい?
 靖国で待っててくれ?冗談、俺たちはそんな言葉を吐くような人種ではない。
 遺言はあるか?誰かに伝えて欲しいことがあるか?ありがとう?よく頑張ったな?直ぐに俺もそっちに行くから待っていろ?

「くそッ!!」
 
 何もかも薄っぺらい言葉にしか聞こえない、今までは似たような言葉を死に逝く連中に掛けたのに・・・・・・彼女には何故かそれを告げることが出来ない。

 何故、何時ものように達観した風な振りを装うことが出来ない?
 何故、気軽な口調で彼女に別れを告げられない?
 何故・・・・・・今までの連中と同じようにできない?

 彼女へ何も言葉を掛けられない自分に絶望し、コンソールを叩き付けようと拳を振り上げた瞬間、

『貴方のことも・・・・・・守れましたか?』

「ッ!?」

 ノイズが酷くなる。
 だがはっきりと彼女の声が、彼女の質問が、確かに俺の耳に届いた。

「ああ、最後の最後で・・・・・・お前の世話になったな」

 そう答えながら、漸く俺は何故彼女に別れを告げられないかに気付いたが・・・・・・もう何もかも遅かった。

『ふふ・・・・・・お世話しちゃいました・・・・・・だから絶対に生き延びてください、私の分まで・・・・・・生きて』

 それが・・・・・・彼女が呟いた最後の言葉だった。

「ッ!?」

 耳障りな異音がヘッドセットから鳴り響き、網膜に映る映像にノイズが走る。
 後方モニターに視線を移せば、モニュメントを中心に濃い紫色の光球が広がって行くのが確認できた。
 重力を無視したかのように構造物が持ち上がり、不可思議な力で全てを押し潰し・・・・・・光球は爆発的に広がり何もかも飲み込んで行く。
 彼女の乗る陽炎が立っていたであろう場所も、あっと言う間に光球に飲み込まれてしまった。

「・・・・・・くッ!!」

 突然機体の制御が自分の手に戻り、地面に接触しそうになる機体を必死に制御して、俺はただ逃げた・・・・・・何時死んでもいいと考えていたはずなのに、全力で逃げた。

 爆発が収まり、ハイヴ周辺の進入禁止警報が解除されて直ぐに、泣きじゃくる部隊の連中と一緒に彼女が最後までいた場所に向かったが・・・・・・其処には何もなかった。
 元は何かだったのかもしれない、高重力に圧縮された礫が転がるだけで・・・・・・それ以外何も無かった。
 この粒の一つが彼女なのかもしれない。そう思いながらも・・・・・・それを見分けることが俺は出来なかった。

 嗚咽を漏らす部下を前に俺はただ立ち尽くし、空虚な心を映し出すような平野を見て自覚する。

 俺は・・・・・・やはり何も無い男なのだと。
 
 皆死んで行く、いい奴も悪い奴も俺を残して死んで行く。
 死ぬのは俺のような奴だけで十分だと言うのに、俺だけが何時も生き残る。

 もしかしたら、あの気弱く何時も俯いていた彼女が、向こうで俺を見守ってくれているから・・・・・・俺は死ねないのかもしれない。
 我ながらくだらない考えだと思うが、もしそうだとしたら・・・・・・何時か会いに行こう。
 彼女が俺に呆れ果て、俺が死ぬことができたら……会いに行こう。そしてあの困った顔をなんとか笑顔にさせて見よう。
 あまり見ることが出来なかった彼女の笑顔を・・・・・・たっぷりと眺めさせて貰うために。














 2001年8月1日
 ベーリング海峡上空・高度30000ft
 
<瀬戸 真奈美>

「「「ん~~~~~~」」」

(・・・・・・どんな夢見てるんだろ?)

 苦しげな顔で寝ている三人を眺めながら、私は内心で首を傾げてしまう。
 栞さんと川井さん、珍しいことに桐嶋さんがまでもが、額に汗を掻きながら身を捩って寝ている。
 起こしたほうがいいかな?とそんなお節介にも似た考えが脳裏を過ぎるが、このとても快適とは言えない輸送機の中で寝ているのだ、無理に起こすのもなんだか悪い気がする。
 どうしようかな~っと三人の寝顔を見ながら悩んでいると、搭乗している輸送機が、乱気流にでも捕まったのか大きな振動を身体に感じる。
 
「「「はッ!?」」」
 
 その振動で目を覚ましたのか、ビクっと身体を震わせて三人が同時に目を見開いた。その光景にちょっとだけ驚きながら三人の姿を眺めていると、三人とも額の汗を服の袖で拭いながら辺りをキョロキョロと見回し始める。

「・・・・・・大丈夫ですか?なんだかうなされてましたけど?」

「ん・・・・・なんだか物凄く嫌な夢を見たわ」

「わいもや」

「奇遇だな、俺もだ」

「???」

 恐る恐る声を掛けてみると、よく意味の分からないことを呟いて渋い顔で頷く三人。
 その様子にきょとんとしていると、川井さんが寝ている隆さん(さっきの衝撃でも起きなかった)の足元に屈みこんで飴が入っている袋を取り出した。

「あ、私も欲しい、一つ頂戴」

 栞さんに釣られるように皆で隆さんが貰ったお土産を手にし・・・・・・躊躇する。

「ハズレ・・・・・・じゃあらへんよな?」

 飴を掲げて中身を透かして見ようとする川井さんだけど、その答えは誰にも分からない。

(・・・・・・ハズレだったらやだなぁ)

 私も手にした赤色の塊を見ながら内心で呟いてしまう。

 ドーバー基地を出立した後の話だ。甘ったるいぞと苦笑しながら隆さんが言うのを信じて、お土産だと言う飴を口の中に放り込んでみれば・・・・・・甘いどころか猛烈に苦かった。
 子供の頃にこっそり食べた渋柿の比じゃない、吐き気を覚えるほど苦味のある味に眩暈すら覚えた。
 苦しげに身悶えする私を見て、大げさだなぁっと言って飴を口に放り込んだ隆さん。その能天気な姿に殺意を覚えたが、飴を口にした直後に「辛ぃぃぃぃッ!!」と叫びながら機内を走り回ったのを見て、苦しむ気持ちが随分と楽になれたからよしとしよう。
 ちなみに同じくハズレを引いたのは桐嶋さんと三澤隊長。
 桐嶋さんは「不味いな」と呟きながらも、平然とした顔でいたのが本当に信じられなかった。
 三澤隊長は・・・・・・何時の間にか姿を消していた。後から額に冷や汗を掻きながらドリンクボトル片手に現れた姿を見るに、一人で苦しんでいたっぽい。
 川井さんと栞さん、そして葵さんはハズレを引かなかった。
 こういう時って凄く思う、葵さんが羨ましいと。

 そう言えば・・・・・・川井さんが凄く残念そうな顔をしていたのが印象に残ったけど・・・・・・なんでだろう?
 
(まったく・・・・・・悪戯にもほどがあるっての)

 この飴を渡した本人を私は絶対に忘れない。
 だって私のことを、ぺ、ペチャパイって暴言を吐いた子供だ。次に会ったらお仕置きしてやると心に決めていたのに・・・・・・その機会が無かったことがとっても悔しい。

「・・・・・・むぐ」

 意を決して飴を口に放り込む。
 ・・・・・・・・・・・・ん、甘い、どうやら普通の飴だったようだ。
 皆も平然としている、どうやら今回は誰もハズレを引かなかったらしい・・・・・・桐嶋さんはどっちか分からないけど。

(これでロシアンルーレットやろうぜ!!とか隆さんが叫んで舐めた時は、これでもかとハズレばっかりだったのにさ・・・・・・運ってなんだか分からないね)

 1人で気持ちよさそうに寝ている隆さんを睨みながら内心で嘆息していると・・・・・・

「どうしたの皆?顔色悪いわよ?」

 輸送機の通信機で何処かと連絡を取り合っていた葵さんが、そう言いながら戻ってきた。
 その問いに曖昧な笑みを返す三人、葵さんはそれに首を傾げながら私の隣に座る。

「まぁいいけど・・・・・・後2時間くらいで到着するそうだから、皆準備してね」

「ふぅ・・・・・・やっと開放されるのか」

 ヤレヤレと桐嶋さんが肩を竦めながら呟く。
 私も彼と同じ気持ちだった。ドーバーを飛び立ってから既に4日過ぎている、天候不良で着陸も出来ずに飛び回り、アラスカで荷を積み込むのに思いのほか時間を費やし、そんなこんなで長い間輸送機に缶詰だったのだ・・・・・・そろそろ地面に足を付けて身体を伸ばしたい、お尻がとっても痛い。

「思いのほか時間掛かったわよね~・・・・・・噂の試験部隊はとっくに試験終えて帰ったんじゃないの?」

「第一陣の部隊は試験を終えて帰ったみたいだけど、第二陣・・・・・・日本が絡んでる試験小隊の到着は二日後の予定、私たちの仕事はまだ残ってるわよ」

「うへぇ・・・・・・」

 腕組みして答える葵さんの言葉に、栞さんは舌を出して抗議の意を示す。
 そんな子供染みた態度を見せる栞さんに苦笑してしまう・・・・・・先日の塞ぎ込みが嘘のような元気な姿、うん、やっぱり栞さんは明るくないと駄目だね。

「XFJ計画・・・・・・でしたか、葵さん?」

「そ、日米共同で計画された不知火の改良機開発計画」

 記憶を掘り起こして聞いた質問に、葵さんは頷きながら答えてくれるけど、その答えを聞いて川井さんが露骨に顔を顰めるのに気付いた。

「けっ、なんで日本の機体を作るのにアメリカなんぞと一緒に作業せにゃならんのや・・・・・・連中が戦術機に求める運用思想は、日本とは真逆やないけ」

「確かにその通りね、でも海外の技術を取り入れるのには一番効率的な手法だと思うけど?」

 そう葵さんは答えるけど、私は川井さんの言う言葉に同意したくなる。
 EF-2000を開発した欧州企業なら兎も角、砲撃至上主義を掲げる米国と共同で開発する意図が私には見えない。米国産の機体の近接性能が悪いとは言わないが・・・・・・日本の反米感情を考えれば誰もがそう思うだろう。

「ま、企業さんの考えは理解できるけどな、現場がアメリカなんぞが関わった機体を気に入るとは思えんで?BETAを前にそんなこだわりを持つのは馬鹿らしいと思うだろうけど、機体を使う日本の衛士は根っこではそんな気持ちを感じるはずや・・・・・・城崎かてそれは分かってるやろ?」

「それはまぁ・・・確かに。米軍がやった手法を肯定する気は一切ないけど・・・・・・その考えで突き詰めると、戦術機に乗れなくなるわよ?・・・・・・元は米国産なんですし」

「そやな、そこは割り切らんといけんわ・・・・・・まぁわいが言いたいのは折角日本が独自に作った不知火を、米国の連中に好き勝手に弄繰り回されることに耐えられんちゅうことや・・・・・・確か、試験衛士は米国人なんやろ?」

「そうね・・・・・・ユウヤ・ブリッジス少尉・・・・・・だったかしら?一応日系二世よ」

「二世さんね。それでも自由の国で暮らしていたことに違いはあらへん・・・・・・ま、ジャックみたいに話しの分かる奴なら言うことないんやけどな」

(複雑だなぁ・・・・・・)

 二人のやり取りを見てそんな考えが脳裏を過ぎる。
 方や企業、方や現場の衛士、どちらの理屈も理解できる。
 だが計画によって生み出される代物は所詮機械だ。消耗品でしか無い戦術機なのだから・・・・・・割り切って使うしかない。
 
「それよりも・・・・・・私たちの使う機体はちゃんと用意してあるんでしょうね?着いたら機体が無くて、Migに乗れとか言われても私は困るわよ」

 半目になって問いかける栞さんの疑問も尤もなものだった。

 欧州で参加した数々の作戦のせいで、部隊が使用していた機体は殆ど使い物にならなくなっている。
 隆さんと瞳大尉が搭乗していたスクラップ同然の熊蜂は日本送り。その後に二人が搭乗したF-14Dは欧州国連軍の備品なので、スカパ・フロー基地に返還。
 五機あった不知火は二機が部品取りのために解体し、残った三機も良好なコンディションとは言えない。
 オルフィーナ中尉たちの好意で使わせて貰ったEF-2000も、元は向こうの機体なので欧州に置いてきた。

(はず・・・・・・だよね?)

 チラリと内心で冷や汗を掻きながら葵さんの横顔を盗み見る。
 オルフィーナ中尉やフェノンリーブ少佐が、何なら日本に持っていけば言いと軽口交じりに言ったのを本気にしてないと思うが・・・・・・研究用と葵さんが言っていたグリペンが搭載された輸送艦に、EF-2000やF-14Dが載っていたような気がしてならない。

「それは大丈夫・・・・・・機体を搭載した船ならもう到着したって聞いてるから・・・・・・私達が乗る機体はちゃんと確保できてるわよ」

 そんな私の内心を他所に、自信満々な口調で栞さんに答える葵さん。
 時々、この義姉のガメツサと言うか、図々しさに恐ろしさを覚えるのだが・・・・・・まぁ企業の人間ってのはそうでないとやっていけないのかもしれない。

(隆さんを見てると、何となく納得できるし)

 図々しさでは天下一品、まぁその性格が災いしてあんな騒ぎを引き起こしたのだろうけど・・・・・・

「じゃ、着陸する準備を・・・・・・って隆さんは随分と幸せそうに寝てるわね?」

「ええ、多分現実逃避の極地に到達したんだと思います」

 すぴ~っと気持ち良さそうに寝ている隆さんを冷ややかに見ながらそう答える。

 ドーバーを出発した時は・・・・・・まぁあの騒動でやたらと動揺していたけど、時間が経つに連れて隆さんが壊れて行くのが目に見えて分かった。
 きっと現実から全力で逃げている過程だったのだろう、椅子の上で体育座りして「お仕置きやだ、お仕置きやだ」とか虚ろな顔でブツブツ呟かれているのに比べれば、見てて遥かに安心できる。

「霞~・・・・・・兄ちゃんお土産持って帰るからな~・・・・・・良い子で待ってろよ~」

 などと妄想の呟きまでもが聞こえてくる。

「お土産って・・・・・・隆さん何か用意してたかしら?」

「さぁ?俺は見てないが・・・・・・もしかしたらソレじゃないのか?」

 桐嶋さんが無造作に飴の入った袋を指差すが、全員で首を横に振る。

「ありえないです、こんなの舐めさせたら霞ちゃんがビックリして倒れちゃいます」

 もし隆さんが、あの可愛らしい兎ちゃんにこんな劇物を与えようものなら・・・・・・生かしちゃ置けない。

「そ、そうか・・・・・・じゃぁ妄想だな、隆お得意の」

 瞳に力を籠めて答えただけなのに、何故か狼狽した様子を見せる桐嶋さん・・・・・・へんなの

「やれやれ・・・・・・現地の気温は10度前後だそうだ、グリーンランドに比べればマシだが・・・・・・相変わらず寒いことに変わりはないな」

 そう溜息を付きながら三澤隊長が客室に入ってくる。

「そうですよね~、寒いところばっか飛ばされるし・・・・・・何か憑いてるのかしら私達?」

 栞さんが三澤隊長の言葉に同意した直後、全員の視線がある一点に集中する。

「ふふふ・・・・・・大丈夫だぞ霞~お兄ちゃんは何処にもいかないからな~・・・・・・ん?海賊が攻めてきた?なに言ってるんだ霞~そんな前時代的なもんがいてたまるか~・・・・・・いてたまるか~・・・・・・いないで欲しいな~」

 皆の視線が集中しているのにも関わらずスヤスヤと寝続けるグラサン・・・・・・多少うなされているような気がしないでも無いけど、まぁいいか。

「・・・・・・さて、さきほど機長から聞いたが、基地までのルート上に乱気流が発生している恐れがあるそうだ・・・・・・到着まで椅子に座ってベルトを着用しているようにと、お達しがあったぞ」

「は~い、了解です」

 隆さんの姿に呆れた様子の隊長の言葉に従い、大人しく椅子に座ってベルトを締めていると、

「むふふ~」

 含み笑いをしながら、寝ている隆さんにへばり付く栞さん。
 幸せそうな顔で腕を絡ませるけど、逆に隆さんはより苦しげな顔になっていく。

「・・・・・・何してるんですか、栞さん?」

 聞くだけ無駄なのだが一応そう質問してみると、栞さんは隆さんにくっ付いて猫みたいに丸くなりながら答えてきた。

「後二時間あるんでしょ?寝なおすだけ、だから邪魔しないでね~」

「なッ!?ちょ、ちょっと離れなさいよ!!其処は元は私の席でしょう!!」

「五月蝿いわね~葵はそっちの席で我慢しなさいよ~」

「何言ってるのよ!!ロシアンルーレットの結果で私の席は此処って決めたでしょう!?早くどきなさい!!」

「え~~やなの~~私、この席がいいの~」

「・・・・・・止めて、貴女が瞳大尉の真似すると・・・・・・なんだか無性に腹が立つわ」

 などと・・・・・・隆さんを挟んで騒ぎ始めた二人の姿に笑ってしまう。
 欧州に行く前に良く見た光景だ、あの頃から何も変わらない・・・・・・うん、変わらないってのはいいことだね。

(・・・・・・ずっと皆で一緒にいられるといいな)

 それが叶うことの無い夢だってのは自覚している。
 だけど、窓の外に見えるソ連の大地を見ながら、私は噛み締めるように心の中で呟いた。













 同日、日本
 横浜基地・A-01専用会議室

<香月 夕呼>

「っと言うわけで、今最終試験を行っている連中が合格すれば補充要員が着任するはずよ」

 その言葉で締めくくり、手駒であるA-01部隊の今後の簡単な説明を終える。
 話を聞いていた二人の部下は小さく頷き、満足そうな笑みを浮かべている。

「分かりました、漸く中隊規模としての体制が整うわけですね・・・・・・任務の幅が広がります」

 満足そうに呟く伊隅だが、元は連隊規模だったA‐01が今や中隊程度まで縮小してしまったのだ。
 無論それは戦術機部隊だけの話であり、歩兵や砲兵等を含めれば所属人数は増えるが、戦術機部隊の損耗率は抜きん出て酷い・・・・・・計画にかこつけて酷使しすぎた代償と言うべきだろう。

「でも伊隅大尉、ヒヨッコ達が使い物になるまで、きっと時間が掛かりますよ~」

 今から新任いびりの内容でも考えているのか、速瀬がニヤニヤと笑いながら伊隅へ話しかける。

「速瀬、それは神宮司軍曹を侮辱した言葉だが・・・・・・自覚して言っているなら大したものだ」

「むぐッ!?」

 軽率な態度を見せた速瀬に釘を刺す伊隅、その姿に思わず苦笑してしまう。
 A-01の人員の殆どが、まりもの教えを受けた連中ばかり。かなり厳しく躾けられたはずなのだが・・・・・・人徳と言うべきか、まりもへの敬意を損なう真似をする人間は1人としていなかった。

(私じゃこうはいかないわね・・・・・・隆なら・・・・・・出来そうだけど)

 脳裏にサングラスを掛けた彼の姿が過ぎる・・・・・・人に教育をすることが出来るかどうかはわからないが、あの男のことだから無難にこなしそうな気がしないでもない。

「伊隅大尉、お待たせしました」

 と、どうでもいいことに思考を割いていると、会議室のドアが開きピアティフや涼宮たちが入室してくる。
 私へ向けて一度敬礼し、両手に持った書類を伊隅と速瀬に渡す二人だったが・・・・・・どうにも様子がおかしい。

「遙、何かあったの?」

 挙動不審な二人の様子に気づいたのか、速瀬がそう涼宮に声を掛けると、彼女は自分の背後をチラチラみながら曖昧な笑みを速瀬に返す。
 速瀬が不思議そうに涼宮の背後に目を向けて・・・・・・硬直した。

「か、霞・・・・・・どうしたの?」

「なんでしょうか、速瀬中尉?」

 無機質な声音で速瀬に問い返す霞、相変わらず無表情極まりない顔だが・・・・・・今日はその瞳に一切の光が宿っていない。しかも身に纏うオーラが・・・・・・なんと言うか、私でも冷や汗を感じてしまうほど黒かった。

「う、ううん、なんでもない」

「そうですか、では私はこれで失礼します」

 ドサッと資料を近くのテーブルに載せ、霞はそう言い残して部屋から去って行く。
 霞が部屋から消えたと同時に、その場にいた全員が大きく溜息をついた・・・・・・心なしか部屋が暖かくなった気がする。

「ふぅ・・・・・・思ったよりも効果があったようね」

 冷や汗を拭いながらそう呟くと、残された4人が私へ何か言いたげな視線を向けてくる。

「何よ・・・・・・あたしのせいじゃないわよ?今はソ連に行った変態でシスコンでロリコンで・・・・・・ついでにジゴロなグラサン男のせいよ?」

「「・・・・・・ジゴロ?」」

「グラサンっと言うことは社中尉ですか?」

「ピアティフ中尉・・・・・・その単語だけで彼を連想しますか」

 言葉を揃えた二人の背後で、伊隅がピアティフの言葉に肩を落としていたがそれはまぁいい。

「そうよ、隆ったら欧州でデンマークの皇女様にプロポーズされたらしいのよ、やるわよね~一国の皇女様を落とすなんて中々出来ることじゃないわよ」

「え?・・・・・・ど、どう言う事ですか香月博士ッ!!」

「そ、そうです、隆が、あの変態がお姫様に言い寄られるなんて!!世界の法則が乱れたんですか!?」

「お、落ち着け二人とも!!私も信じられないが、兎に角今は落ち着くんだ!!」

「それが・・・・・・霞さんの様子がおかしい原因でしょうか?」

 必死に二人を止める伊隅を他所に、確信を突いてくるピアティフ。

「そッ、お姉さんが出来るかもね~って教えたら最初はウキウキしてたんだけどね。それがホラ・・・・・・隆が普段から公言してる婚約者じゃないと分かった途端、急に不機嫌になって・・・・・・乙女心は私には理解不能ね」

「は、はぁ、そうですか」

 口ごもるピアティフの姿に苦笑しながら私は席を立つ。

「じゃ、新任達の詳しい情報はそれに書いてあるから・・・・・・後はあんた達に任せるわ」

「は、了解しましたッ!!」

「ま、待ってください!!まだ全然納得できません!!隆さんは結婚したんですか!?」

「なんなのよあのグラサンはッ!!橘と言い、女ったらしにも程があるわ!!少しぐらいその甲斐性が孝之にあれば・・・・・・私も遙も苦しまなかったのにッ!!」

「だから落ち着け二人とも!!その気持ちは私もよく分かる!!・・・・・・正樹にもそのぐらいの甲斐性があれば、私達も楽に・・・・・・違う!!私が言いたいことはそうじゃない!!」

 尚も騒がしい言葉を背に私は会議室を後にした。

(それにしても・・・・・・いい変化なのかしらね・・・・・・アレは)

 地下へと続くエレベータへ乗り込みながら、霞の変化に付いて思案を巡らせる。

 嫉妬・・・・・・とは違うかもしれないが、少なくとも隆に言い寄ったお姫様に、霞が敵対心のようなものを抱いたことは間違い無い。感情らしい感情を見せなかった霞が、今はそんな人間らしい感情を垣間見せている。
 計画の遂行には不要なものかもしれないが・・・・・・1人の少女が人間らしくなりつつあるのは、素直に喜ぶべきことだろう。
 しようともしなかったが、私にはきっと出来なかったことだ・・・・・・それをやってのけた彼、相変わらず微妙な使い所を見せる男だ。

(とは言え・・・・・・私も甘くなったものね・・・・・・考えたくないけど歳かしら?)

 地下19階のフロアを歩きながら、ふとそう考えて苦笑してしまう。
 幾人もの被検体を見てきた私が作られた生命に愛着を持つ・・・・・・今更慈愛の心を持ったところで、自分が犯してきた罪が消えるわけでもないと言うのに。

「ま、霞のためにもさっさと帰ってきなさいよね」

 今頃はソ連にいるであろう彼の姿を思い浮かべながら小さく呟く。
 それに、あの様子を見るに他の連中も隆を心配している様子だ。
 相変わらず人に好かれる男だと内心で嘆息し、自分の部屋の扉を開けて・・・・・・閉めた。

「・・・・・・・・・・・・」

 疲れているのだろう、目元を指でマッサージしていると能天気な声が中から響いてくる。

「どうぞ、鍵は掛かっておりませんよ?」

「当たり前でしょう、私の部屋よ此処は・・・・・・で?アンタは何をしているわけ?」

 再度ドアを開けて、室内に佇んでいる男に半目で訴える。
 男はおや?っとすっとぼけた言葉を吐きながら暗い室内で淡く光るキャンドルを私へ見せる。

「暗かったもので、明かりをと思いまして・・・・・・部下からの土産なのですが如何ですか?蝋燭の光と言うのも風情があると思いませんか?」

「だからって真っ暗な部屋で蝋燭点けて笑ってるなんて・・・・・・一瞬、どこかの浮遊霊かと思ったわよ」

 ドアを開けた瞬間、真っ暗な部屋に中年男の顔が浮かび上がっているのだ・・・・・・夏の怪談話じゃあるまいし、趣味が悪いにも程がある。

「幽霊とはまた、科学を信仰する香月博士らしからぬ言葉ですな?そもそも私達の住むマテリアルサイドは彼らがいるというアストラルサイドへの干渉は」

「御託はいいわ、一体何しに来たわけ?私を驚かせに来たのかしら?」

 部屋の明かりを点けて怪しい中年男・・・・・・考えると隆も歳をとればこんな怪しさを見に付けるのだろうか?
 ・・・・・・まぁそれはさておき、人の部屋に勝手に侵入するのが趣味かと質問してみたくなる男、情報省からわざわざやってきた鎧衣課長様を睨みつける。

「まさかそんな、部下から良い土産を貰いましたので、是非とも香月博士にも見て貰いたかったのですよ。デンマーク産の琥珀を使ったキャンドルです。流石は芸術の分野に飛んだ欧州ですな、キャンドル一つの造型にも風情が感じられますな」

「つまらないウンチクはいらないわ・・・・・・用が無いならとっとと出て行きなさい」

 鎧衣の言葉を無視しながら私は自分の椅子に座って、シッシっと手を振る。
 彼はそんな私の態度に肩を竦めて、キャンドルに灯った火を吹き消す。

「いえいえ、土産の件は香月博士にとっても有意義なものに違いありません・・・・・・先にお伝えした強奪宣言は博士も随分とお気に召した御様子でしたが?」

「ああ、隆の件はうけたわね・・・・・・ってそのキャンドル持って帰りなさいよ?」

 自然な態度でテーブルにキャンドルを置こうとした鎧衣に指摘すると、彼は残念そうにキャンドルを持った手を下ろした。

「貴重な土産なのですがね・・・・・・まぁそれと同じく、香月博士にとって耳寄りなネタが二つありまして・・・・・・その御報告にお伺いしたまでです」

「へぇ・・・・・・何かしら?」

 耳寄りなネタの内容が良かったためしは余り無いが・・・・・・世界中を飛び回っている諜報員が仕入れた情報だ、使い道は幾らでもある。

「・・・・・・後藤修、存命しておりました」

 指を一本上げて呟いた彼の言葉に眉を顰める。

「・・・・・・博士が?どう言うことかしら・・・・・・彼はこの基地の建設に関わった直後、東京湾に死体として打ち揚げられたはずだけど?」

「その通り、恐らくはかの国の手による妨害工作かと思いましたが、少々事情が違ったようで・・・・・・欧州のとある難民キャンプに居たところを、私の部下が保護しました」

「難民キャンプ?・・・・・・まさか、隆が首を突っ込んだテロ騒ぎと関係してるわけ?」

「それはまだなんとも・・・・・・後藤博士は難民キャンプでの生活で体調を崩しておいででしたので、今は仙台の病院にて治療中です・・・・・・詳しい話を聞くのはもう少々時間が必要かと」

「・・・・・・世界に誇るBETA研究の権威が生きていたとはね…何処の手引きがあったのやら」

 誰にとも無く呟いたその問いに、鎧衣は肩を竦めるだけで何も答えなかった。
 彼の言葉を鵜呑みにするつもりは無いが・・・・・・まぁいい、今更後藤博士が居たところで研究が進むわけでもない。

「部下の話を聞くに、なんでも隆君と懇意にしていたとか・・・・・・日本人と言うことで気があったのでしょうかね?」

「そう・・・・・・隆に会ったわけね、後藤博士が」

「おや?何か不都合でしたか?・・・・・・隆君と後藤博士が接触することに?」

 鎧衣の問いに「別に」っとだけ答えて、彼が持つキャンドルに視線を移す。

「あの変態が何処で何をしようと知ったこっちゃないわ、デンマークのお姫様に好かれるなんて目立つ真似して・・・・・・今頃欧州の貴族界は怪しいグラサン男のことで持ちきりじゃないの?」

「ええ、彼の手腕を是非とも御教授願いたいものですな・・・・・・身分違いのロマンス、なんともロマン溢れる話で・・・・・・そうそう身分違いと言えば、彼のことを思い出しすな?考えると彼も同じ隆と言う名前だったような・・・・・・世の中狭いものですな」

 微笑を浮かべ、私から視線を外す事無くそう呟く鎧衣。

「そ、私には興味の無い話しね」

 その視線を受け流すかのように私は肩を竦めて答える。

「おや?つれない御返事で・・・・・・帝国貴族界のテロリストとまで言われた彼のことが気にならないと?」

「・・・・・・何が言いたいのかしら?」

「いえいえ、ちょっとした好奇心ですよ。似たような二人を知っていると興味が湧きますので・・・・・・隆・・・・・・そうそう金谷隆でしたかな?」

「もう死んだ男の話よね・・・・・・それがどうしたのかしら?」

「その通り、惜しい人材を亡くしたと一部では嘆き悲しんだ人が多いとか・・・・・・確か香月博士は彼にお会いしたことが・・・・・・」

「ええ、二度あるわ・・・・・・一度目は植物状態、二度目は死体。と言っても人の形なんてしてなかったけどね」

「G-1003・・・・・・G弾の被検体ですか」

「そうね帝国が手にした貴重な実験材料・・・・・・それで、なんで私にそんな話を振ってきたのかしら?」

 これ以上、彼と不毛な化かし合いに付き合う気は無い。
 敵意を剥き出しにしてそう問いかけると、彼は帽子を深く被り直して言葉を続けた。

「いえいえ、ただの世間話ですよ・・・・・・ただのね」

「含みのある言い方ね?鎧衣、あんた何か勘違いしてないかしら?私があんたに頼んだのは帝国や米国との橋渡しよ、諜報まで任せたつもりはないけど?」

「おお、これは怖い怖い、肝に銘じておきます。ただ先ほどお話した内容が・・・・・・耳寄りなネタの二つ目に関係しておりますので」

「関係・・・・・・?」

「G弾の被害者ですよ・・・・・・鳴海孝之、そして平慎二・・・・・・博士の手駒がまだ二つ盤に残っております」

「鳴海・・・・・・平」

 聞いたことがある、確か速瀬や涼宮と同期の男だ。
 一年前の明星作戦においてG弾の爆発に巻き込まれ、今は死亡判定になっているはずの二人だが・・・・・・

「生きている?どう言うことかしら?」

「彼らは権力の傘の下に匿われております。普通には見つけることが出来ないでしょう・・・・・・私も偶然見かけただけですので」

「チッ・・・・・・帝国が匿ってる、そう言いたいのね?」

 もし二人が生きているのであれば、研究対象として帝国が匿うのは理解できる。
 G弾の爆心地から生き延びた貴重な被検体。もしオルタ5が決行されることになれば、G弾がもたらす人体への影響を詳しく理解しその治療方法等を保有している国は、国際社会において絶大な発言力を持つことが出来るだろう。

(計画に協力すると言っても・・・・・・帝国も一枚板じゃないってことね)

 ギリッと爪を噛みながら、協力すると約束した政府高官の姿を思い浮かべる。

「二人は今何処に?」

「ソ連・・・・・・ですかな?恐らくは」

「ソ連?どうしてそんなところに・・・・・・」

「日米合同計画の一端を担う組織に所属し、アラスカや東南アジア、そしてソ連と飛び回っているようですな」

 アラスカ・・・・・・と言うことはXFJ計画だろう。
 話には聞いている、不知火の改良型の開発をしているとかなんとか・・・・・・次はG元素を用いた兵器の試験をソ連で行うと、担当官から連絡があったばかりだ。
 
「・・・・・・第参開発局、其処にいるのね?」

「それ以上はなんとも・・・・・・怖い番犬に睨まれてしまいましたから」

 おどけた様子で答える鎧衣だが、既に答えは貰ったようなものだ。
 明星作戦以降、G弾による被害者、いや検体を調べていたのは、自身の姉である香月モトコが所長を務めている筑波生物工学研究所だ。
 そこに資金提供をしている最大の支援組織が・・・・・・帝国の暗部に連なる部署だと、最近になって知ることが出来た。
 生体医療技術、そしてオルタ5を見据えたG弾運用化における人体の臨床データ、それらを駆使した世界への影響力は・・・・・・並大抵では無い。

 二人の部下が生きていると聞いても・・・・・・正攻法で二人を取り戻すことは不可能に近いだろう。

(かといって・・・・・・無理して取り戻すほどでも無いのよね、速瀬や涼宮には悪いけど)

 部下の交友関係ぐらいは把握している。鳴海とか言う男に二人が熱を上げていたのも知っている。
 だが帝国との関係に傷を付けるのは面白く無い、たった二人の男のために危ない橋を渡る必要は無いのだが・・・・・・

(は・・・・・・私を出し抜こうなんて・・・・・・幾ら姉さん達でも、容赦しないわよ)

 嘲笑混じの笑みを浮かべて、私は見たこともない第参開発局の連中へ静かに敵意を向けた。





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